糸をビーズで紡ぎ、編む。
指先の、ほんとうにちいさなところから、手づくりで、
まるで宇宙のような複雑さと美しさをもつ
ジュエリーをつくるFUA accessory(ふうあ)。
その主宰者で、デザイナーでもある
木村久美子さんに話をききました。
木村さん、いったいどうして、
この世界を構築しているんですか?
木村久美子さんのプロフィール
木村久美子
FUA accessory 主宰/ デザイナー
看護師を経て、手編み作家として活動後、
編みの技術で金属のようなジュエリーを作りたいと
鍵編みジュエリーブランド
『FUA accessory』を立ち上げる。
店舗は持たず、福岡を拠点に全国のギャラリー、
百貨店、セレクトショップなどで展開をしている。
03つくりつづける
- 伊藤
- 今回のピアスとブレスレット、
とっても軽いんですよね。
- 木村
- ブレスレットの長さは、
「weeksdays」のみなさんで
試していただいて、決めましたね。
- 伊藤
- どの部分を手前にするかで
つけたときの表情が変わるんです。
- 木村
- はい、ベルトの部分の方向を変えることで
全体のサイズが変わります。
- 伊藤
- 長いほうを折り曲げるか、
短いほうを折り曲げるかで、
一周の長さが変わるので、
タイトな感じにも、
ゆったりした感じにもなる。
- ──
- ちなみにこれ、
ビーズの輪っかに通すときのコツってありますか?
- 木村
- 丸カン(輪っか)が硬いんですよね。
ギュッとつぶして通していただいて大丈夫です。
通して、手を離すと、また開くので、
それで外れにくくなりますよ。
これはFUAが特許をとっている
丸カンのデザインなんです。
- 伊藤
- ボタンホールステッチみたいな感じですね。
- 木村
- そうですね。
金属をできるだけ使わないものにしようと
考えたものです。
あとこちらがピアスになっています。
- ──
- これが最初に伊藤さんが発想した
「グルグル」ってした感じが生かされていますね。
- 伊藤
- 嬉しいです。
淡水パールが中にチラッと見えるんです。
でもほんとにチラッとだけ。
- 木村
- 編んだビーズの隙間から見えるんです。
- 伊藤
- FUAのみなさんの評判はどうでしたか?
- 木村
- みんな「ほしい!」と。
ちょうど今パーツをつくって組み立てるところの作業を
みんなで進めているんですけれど、
糸をつかむのにちょうどいい角度になるよう、
みんなそれぞれに斜めに爪を伸ばしてるんです。
- 木村
- 糸を把持するっていうか、
ギュッて止めないと、
糸がこぼれていって編めないんですね。
なのでビーズもこの爪でたぐり寄せて、
爪を織り機のシャトルのような感じで
編んでいくんです。
ちょっと変な爪なんですけど、
これが大事な仕事の道具になっています。
- 伊藤
- スタッフのみなさん、
もともとそういう細かな手作業を
お仕事としてやってらっしゃった方が?
それともそういう資質のある方が来て勉強していった?
- 木村
- 全く何も知らない方が半分いますが、
習得に3年かかりました。
もうその間は、10個つくったら
やっと1個、採用できるという感じで‥‥。
お互いそれも切ないんですけれど。
その中に素養のある方が数人いらっしゃって、
その方々が先に進んでまだできない人に
教えてくださったり。
初めての編み物がこれ、という人もいて、
そういう人は、これしか編めないんです。
- 伊藤
- 高度な技術を最初から!
でも興味があったってことですよね。
- 木村
- いえ、興味はなかったんです。
というのも、仕事として割り切ってくださる方に
来ていただきたくて。
FUAというブランドに興味のある方はお断りしました。
とにかく仕事として同じことを
ずっと続けていただける方の中から、
人柄とかフィーリングが合うっていうことで
選ばせていただいたんです。
- 伊藤
- 同じことをずっと。なるほど。
- 木村
- はい、苦しいことを淡々とやれる方が。
- 伊藤
- ブランドの運営には、
最初からの方が1人いらっしゃるとか。
- 木村
- はい。その方はグラフィックデザイナーで、
その方がされていたお店に、
私がふらっと立ち寄ったところから
出会いが始まるんですけど。
「アクセサリーは金属しか買わないよ」
って言ったのが、その方なんです、実は。
- 伊藤
- そうなんですね!
ひょっとして、今も、厳しく?
- 木村
- そうなんです。今も
「こんなの買いません」って言います。
厳しいです。
ずいぶん気を遣いながら
言ってくださるようになりましたけど(笑)。
社内には「これじゃぁちょっと誰も買わないかな」とか
「私はつけたくないな」とかいう方が
2人ほどいるんですけれよ。
- 伊藤
- 大事ですね、でもね。
- 木村
- 「仕事がうまく行きすぎていた」というときが、
実は私にあったんですけれど、
そのときは、つくり手としては、
何も生まれなかったんです。
- 伊藤
- うまくいってるときって、
つくったものすべて売れるし、
ブランドの成長をみんな褒めてくれるしみたいな、
そういうことですよね。
- 木村
- そうです、何をつくってもきちんと売れて。
- 伊藤
- そのときにそのまま「よし、もっと同じものつくろう」
じゃなくて、「あれ? 新しいものを、つくっていない!」
って思うんですか。
- 木村
- そうなんです。絶対に、こんな時期はもうすぐに終わるって
常に思っていました。
- 伊藤
- ますます、FUAには
厳しいことを言ってくださる方の存在が大事ですね。
そういう助言というか、ダメ出しは、
木村さんは素直に受け止めるんですか。
- 木村
- はい、もう間違いないと信じているので。
- 伊藤
- 木村さんは、きっと「つくること」が好きなんですよね。
- 木村
- そうですね。
- 伊藤
- 「売る」っていう作業ももちろん大事だけれど‥‥。
- 木村
- 幸い私がこれしかできないんです。
元々看護師なんですけれど。
- 伊藤
- うん、‥‥えっ?!
看護師さんだったんですか。
- 木村
- そうです(笑)。看護師を20年続けていて、
産休をとったとき、編み物を趣味でやっていた。
産休があけて保育園を続けるためには
看護師に戻らないといけないのが嫌だったんです。
それで事業主となろうと。
- 伊藤
- おもしろいです。
- 木村
- けれど編み物以外ほんとに何もできない。
それはちょっと自分でも生きづらいというか(笑)、
けれどもそれをみなさんがカバーしてくれている感じです。
もうこれ以外はできないので、
大きく取り上げられるとちょっと困るという感じで、
今は生きております(笑)。
- 伊藤
- たしかに大量生産ができないですものね。
職人さんを育てるのに1人3年かかって、
機械化は当然できないわけですし。
根気のいる作業ですね。
- 木村
- けれど、朗らかな方ばかりなんですよ。
笑いながら編んでくれ、笑いながら納品してくれる。
すごくほんとにこの子たちが生きるっていうか、
FUAのアクセサリーにはその「機嫌のよさ」が
宿っている感じが、なんとなく、しているんです。
- 伊藤
- 料理もそうですものね。
つくり手の機嫌が、味にそのまま出ます。
みんなから、聞いておきたいことはありますか?
- ──
- ハイ! FUAのアクセサリーは、
使っている人に寄り添って
育っていくというか、
変化していく印象がありますね。
ちょっとやわらかくなっていくというか。
- 木村
- はい、衣類と同じように認識していただけたら。
やっぱり編み物ですから。
- 伊藤
- どんなふうに変わるんですか?
- 木村
- まずは柔らか~くなります。
- 伊藤
- へぇ~。
- 木村
- 編みたてはもうシャキーン! ピッチー!
ってなってるんです。それが使っていくうちに。
- 伊藤
- 肌に馴染んでいくみたいな。
- 木村
- 馴染んできます。
いわば、クタッとなってきますし、
逆に言うと柔らかな風合いが出てきます。
最初に購入いただいたちょっと硬めの状態が
ずっと続くわけではない、っていうことは、
直接販売をするときに、
認識をしていただくようにしています。
あとはどうしても皮脂がついたりとかいうことはあるので、
軽く拭いていただくとか、ケアをしていただくことと、
ほつれてきましたら弊社にお送りいただければ
リペアもしていますので、
そういう意味では、
長くお使いいただけるんじゃないかと思います。
- 伊藤
- 分かりました。
木村さん、今日はお話しできて
とっても嬉しかったです。
ありがとうござました。
- 木村
- こちらこそありがとうございます。
またぜひ福岡にもいらしてくださいね。
- 伊藤
- はい、ぜひ!
(おわります)
2023-07-19-WED