金属を熱して打ちきたえる
「鍛造」(たんぞう)という技術で、
いろいろな器具をつくる「鍛冶」(かじ)。
ふるくは刃物や武具の製造技法として知られていますが、
その技術で、鉄を使った現代的なインテリアの小物をつくる
女性ふたり組のユニットが「Atelier五號」です。
東京の中心部から2時間ほどの場所にある
ふたりのアトリエを、伊藤まさこさんと訪ねました。
ふたりは、なぜ、鉄の世界に?
どんなふうにつくっているの?
興味いっぱいのインタビューを、
写真とともに、どうぞ。
Atelier 五號さんのプロフィール
Atelier 五號
鍛冶である片岡香穂[かたおか・かほ]と
神宮寺未希[じんぐうじ・みき]によるユニット。
2018年設立、現在は埼玉県加須市にある、
さまざまな作家が共同で作業をする
「加須スタジオ」内に工房をもつ。
「鍛造という技法を使い、
鉄を赤めて叩くことでしか出せない質感や
鉄のやわらかさをいかしたものづくりをしています」
もっと身近に鉄を生活に取り入れてほしいという思いから、
小物や建築金物を中心に制作。
鉄を使ったインテリア、装飾金物、小物など、
オーダー制作をおこなっている。
02石炭がやわらかさを出す
- 伊藤
- 今は、どんなふうにお仕事を?
- 片岡
- 基本は受注生産です。
知り合いづてで、っていう感じです。 - 伊藤
- 軽井沢の須長さんたちとは、
どんなご縁だったんですか。 - 神宮寺
- 軽井沢で工務店をなさっている大工さんに
紹介してもらったんです。
「ここで展示会をやりなよ」みたいな感じで、
須長さんのお店を教えていただきました。 - 片岡
- その大工さんは、
表札とか、金物が必要になると、
私たちに依頼をしてくださるんですよ。 - 伊藤
- そうなんですね。
ふたりが考える以外で、
「こんなものをほしい」っていう依頼で、
驚くことはありますか。 - 神宮寺
- うーん? なんだろう?
- 片岡
- 基本が受注生産なので、
お客さんと何回かやりとりをして、
デザインを最終決定するので、
すごく驚くことはあまりないかもしれません。 - 伊藤
- じゃあ、なんでも、つくれるということ?
鍛冶場の中も全部つくったとおっしゃっていたので、
とても驚いたんです。
- 神宮寺
- 排気・排熱の三角形の部分は自作です。
といっても溶鉄で板をくっつけるだけなんですよ。 - 伊藤
- 「くっつけるだけ」って!(笑)
- 片岡
- 中二階はこれからつくる予定です。
- 伊藤
- すごいです。
ここに越してきてからは、何年に? - 神宮寺
- 今、ちょうど1年ちょっとです。
- 片岡
- 前の工房に3、4年いまして、
ここに越してきて1年と少しですね。 - 伊藤
- やっぱり、ふたりで。
ふたりじゃないと、
できないこともあるんですよね、きっと。 - 神宮寺
- ありますね。
- 片岡
- ひとりでできることでも、
ふたりのほうが早くできるんです。 - 伊藤
- 鍛冶作業の「相打ち」でしたっけ、
熱いうちにふたりで交互に打つ作業は、
ふたりのほうが早いですよね。
その迫力に驚きました。
もちろん表情も真剣で。
- 片岡
- ははは。怖いですよね。
- 伊藤
- ちょっと間違うと大けがしちゃうでしょう?
大変な仕事だなと思いました。しかも素手だし。 - 神宮寺
- でも、ケガって、そんなにしないんですよ。
- 伊藤
- そうなんですか!
- 片岡
- もし目に入ったりしたら怖いですけど、
ふだんは‥‥ちょっと、やけどとか、
そのぐらいですから。 - 神宮寺
- 手を切り落としちゃうとかはないので!
- 片岡
- 木工のように、回転のこぎりのような
大きな機械を使う仕事のような怖さはないんですよ。 - 伊藤
- ええぇぇ‥‥!
- 神宮寺
- 使う道具も、手で持てるものがほとんどですし。
- 伊藤
- そうなんですね。意外だったのは、
石炭に水を使うこと。びっくりしました。
- 神宮寺
- 水を使ったほうが、
燃え方がいい感じになるんですよ。 - 伊藤
- 水を入れてから混ぜていましたよね?
あの加減で火の燃え方が? - 神宮寺
- はい。新しい石炭を、一回、蒸すんです。
- 伊藤
- あ、蒸すんだ?!
- 片岡
- そのままだとどんどん燃えていっちゃうんですが‥‥。
- 神宮寺
- 周りで燃えている石炭に水をかけて、
中心に置いた新しい石炭を蒸していくと、
だんだん余分なものがなくなって、
煙があまり出ずに、高熱になるんです。 - 伊藤
- そこは経験しないとわからないことなんでしょうね。
水の混ぜ方やら、燃えているどの場所にくべる、
みたいなことは。 - 神宮寺
- なんとなく感覚で共有していますね。
お互い、やり方も違うと思うんですけど。 - 伊藤
- 違うんですか、やり方。
- 片岡
- 感覚的なことですね。
自分がやりやすいやり方を
それぞれ、持っているということですね。 - 伊藤
- 火をつけて、バーナーを使うのかと思ったら、
空気を送るだけっていうことにも驚いて。
すごくシンプルなつくり方なんだなと思いました。 - 片岡
- たしかに石炭を使っている人って、
今、なかなか、いないかもしれません。 - 神宮寺
- あまり聞かないよね。
- 伊藤
- 普通はどういうものを?
- 神宮寺
- 普通、ガス炉とか、
コークスですね。 - 片岡
- コークスは骸炭(がいたん)とも言って、
石炭を一回乾留(蒸し焼き)して
炭素だけを燃料として残したものなんです。
純度の高いものなので、
コークスを使うとゴミがあんまり出ないんですよ。 - 伊藤
- うんうんうん。
でもおふたりは、石炭を使う? - 神宮寺
- 石炭が鉄をいちばんあっためられる感じがして、
芯まであっためられる感じというのかな。 - 伊藤
- じゃあ、鍛冶屋さんによっていろいろなんですね。
- 片岡
- やり方がそれぞれですね。
わたしたちが習ってたのが石炭だったんです。 - 伊藤
- 慣れていた素材。
- 片岡
- 慣れていたし、
やっぱりいろいろやってみたけど‥‥。 - 神宮寺
- 石炭でやるのが一番楽しいね、と。
- 片岡
- 鉄が柔らかくなるんですよ。いちばん。
- 伊藤
- 不思議! 熱源でそんなに違うんですね。
- 片岡
- 石炭であたためた鉄は、粘土みたいになりますよ。
- 伊藤
- さっき見て驚きました。
こんなに柔らかくなるものなんだって。
- 神宮寺
- ガス炉であっためると、
けっこう硬い感じになっちゃうんです。 - 片岡
- 表面はよくあったまるんですけど、
芯まで行くのに時間がかかるんですよ。
周りが先に溶けちゃって、芯が残る。
石炭は、あっためるのに時間がかかるんですけど、
ゆっくり、じっくり、
芯までちゃんと全部があったまるんです。 - 伊藤
- ちょっと違うかもしれないけど、
薪ストーブの部屋にいると、
体が芯まであったまる、
そういう感じなのかな? - 片岡
- 鉄にとっても、そんな感じなんだと思います(笑)。
- 伊藤
- ちょっとわかった気がします。
おふたりには、これから、
つくってみたいものはありますか? - 神宮寺
- いっぱいあります!
- 伊藤
- いっぱいある? ふふふ。
- 片岡
- なんでもつくりたいです!
専門家の人のアドバイスをいただければ’
薪ストーブにも挑戦してみたいですし。
熱の循環や排気の構造について
勉強不足なものですから、
すぐにつくることはできないんですけれど。 - 神宮寺
- おっきいものも、つくってみたいです。
それこそ、門扉とか。 - 片岡
- 今扱っているより、もっと太いもののとか。
- 伊藤
- わたしの知り合いに、
リノベーションで猫のための柵を
つくったかたがいるんですが、
「そうか、つくれるんだ!」と思って。
そうですよね、なんでもできますよね。 - 神宮寺
- はい、なんでもできるんです。
ふたりとも猫を飼っているので、
ネコグッズはとっても興味があります。 - 片岡
- まさにそういう柵とか、
キャットタワーみたいなものとか。 - 神宮寺
- そう、カッコいいキャットタワーを
つくってみたいな。
なんでも、という意味では、
家具とかもけっこうつくっていますよ。
テーブルとか、椅子とか。 - 片岡
- テーブルは脚を鉄でつくり、
天板を木で別注するとか、
椅子も革を張ったらかわいいだろうなとか、
妄想はふくらみます。 - 伊藤
- そっか、鉄と異素材の組み合わせもできますよね。
- 片岡
- 今度、9月に「lagom(ラーゴム)」で
また展示会をやらせてもらうんですけど、
今度はワークショップを開きたいなと思っているんです。 - 伊藤
- ワークショップ、たのしそうですね。
- 片岡
- 小っちゃい炉を持って行き、火を炊いて、
小っちゃいお皿かS字フックのようなものを
お客さんといっしょにつくれたらって思ってます。
(つづきます)
2023-07-24-MON