東京・千駄ヶ谷でオリジナルの家具店や
カフェをつくったことで知られる中原慎一郎さんが、
代官山にあたらしいお店をつくりました。
日本に上陸して30年の英国のライフスタイルショップ
「THE CONRAN SHOP」
(ザ・コンランショップ)で初となる
「自主編集型ショップ」です。
アジアの生活雑貨や家具を買い付けて、
あたらしいお店をまるごとつくる、というこのスタイルは、
50年の歴史のなかでも初めて。
「お店上手」な中原さんの仕事のひみつが知りたくて、
5年目を迎えた「weeksdays」をひきいる
伊藤まさこさんが出かけました。
中原さん、生活のお店をつくるって、
いったいどういうことなんでしょう?

撮影 有賀 傑 
撮影協力 ザ・コンランショップ 代官山店

中原慎一郎さんのプロフィール

中原慎一郎 なかはら・しんいちろう

1971年鹿児島県生まれ。
株式会社コンランショップ・ジャパン代表取締役社長。2000年、ランドスケーププロダクツを設立。
東京渋谷区にてオリジナル家具等を扱「Playmountain」、
カフェ「Tas Yard」などを展開。
家具を中心としたインテリアデザイン、
企業とコラボレーションしたプロダクトデザインも行なう。
デザインを通して良い風景を作ることをテーマに活動。

●中原慎一郎さんのInstagram

●ザ・コンランショップのwebsite

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ニッポンに、アジアのお店を

伊藤
中原さん、そもそものお話を伺ってもいいですか。
なぜ代官山にショップを開くことになったんでしょう?
中原
僕がコンランショップの代表に就任した2022年4月、
お世話になっていたヒルサイドテラスの代表である
朝倉健吾さんのところに挨拶に来たんですよ。
僕、ここで、ヒルサイドマーケットっていうイベントの
ディレクターをやっているご縁もあって。
伊藤
そうなんですね。
このショップが入っているのは、
いまおっしゃった「ヒルサイドテラス」という、
かなり大きな、住宅、店舗、オフィスの複合施設。
代官山ではほんとうに古くから(*)
愛されてきた場所ですよね。

(*)ヒルサイドテラスは第一期の竣工が1969年。
設計は、槇文彦 槇総合計画事務所。
1992年までの数期に分けて、段階的に建設されました。
中原
そうなんです。そうしたら朝倉さん、
僕がコンランショップの代表になったことを
とても喜んでくださって、
「ここに『ヒルサイドマーケット』のような店が
常設であったらいいって思っていたんだよ」と。
さらに、
「中原さん、タイミングよく、物件が空くんだ」。
伊藤
えっ!
中原
ここにはウェディング関連のお店があったんですが、
コロナ禍で結婚式の需要が減ったこともあって、
店を閉めることになっていたんです。
さらに和食屋さんだった地下も空く予定だと。
それで案内してもらったんですが、
そのときはまだ就任したばっかりだから、
「すぐには決められない」と、
いったん、お断りするかたちになったんです。
でもそのとき朝倉さんは「慌てる必要はないよ」と
おっしゃってくださっていました。
僕もコンランショップで路面店をひとつつくりたいな、
東京で一番ふさわしい場所はどこだろう? と
考えてはいたんです。
‥‥やっぱり代官山は質が落ちないですよね。
伊藤
旧山手通り沿い、わたしも、大好きです。
中原
そう、品を保てている場所だし、
モダン建築としても重要な建物だから、
我々がやるならここがいいんじゃないかなと
思うようになりました。
そうして、朝倉さんへ、
あらためてもう一度わたしたちから打診をして、
決断したんです。
伊藤
なるほど。
中原
オープンまで、半年以上かな、準備していたんですよ。
伊藤
ロンドンやパリなど、外国にあるコンランショップって、
古い建物に路面店として入っていたりしますよね。
日本では商業施設の中というイメージだったから、
ここに出店するのは、とてもいいなあと思いました。
中原
建物の形も複雑でおもしろいなと思って。
うんと天井が高くて吹き抜けになっている感じとか。
伊藤
憧れです。
これ、普通のお家じゃできないですもの。
中原
上階にいると、目線がきれいに路面を歩く人と合う、
ちょっと不思議な作りだなと思います。
ヒルサイドテラスって、
ヒルサイドパントリー(食材店)
KUCHIBUE(坂田阿希子さんの洋食店)くらいしか
来なかったんですが‥‥。
伊藤
たまに展覧会に来ますよ。
中原
僕もそうなんです。お隣の蔦屋書店(*)ほど
気軽に入れる場所ではないという印象がありますよね。
だから自分たちがそういう場所になれればなあと思います。
そしてコンランショップもちょうど節目で、
日本の一号店が出来て来年が30周年なんです。

(*)代官山の蔦屋書店は、生活提案型商業施設
「代官山T-SITE」の中核となる大型書店。
伊藤
もう30年!
中原
そうですよね。ロゴも変わったんです。
伊藤
そうなんですね。
いろいろと、よいタイミングだったんですね。
けれどもここ代官山のお店は、
わたしたちの知るコンランショップの商品構成とは、
またすこし違いますよね。
中原
はい。基本は、アジアのもの中心になっているんです。
伊藤
それはどうして、そういうふうに?
中原
もともとコンランショップは英国の会社ですから、
英国の本社の主導で、
彼らがマーチャンダイジングしたものを
僕らが買い付けて売るというスタイルだったんです。
だからアジアのものは、ほぼ、なかったんですよ。
それはそういうビジネスとして
成立していたわけですけれど、
こんなにいいものがいっぱいあるアジアで
30年もやってきたのに、
自分たちでセレクトしてないのはもったいないなと思って、
自主編集型のお店を1つだけ作りたいということで、
本国に許可を取るっていうか、プレゼンテーションして、
この店を開いたんです。
伊藤
それを言ったとき、本社のみなさんは
どんな反応だったんですか。
中原
すごく喜んでくれました。
伊藤
だって、そもそも中原さんに
日本の社長を任せたんですもの。
中原
逆に言うと「もっとアジアの情報が欲しい」とも。
伊藤
そうですよ、いいものがいっぱいありますから。
中原さん、アジアによく行かれているな、
なぜだろう? と思っていたんですよ。
それは、この店をつくる準備だったんですね。
中原
去年の年末前くらいですね。
ただ、コロナもあって、多くの国は
回れなかったんですけど。
伊藤
たしか台湾に行かれていましたね。ほかにも?
中原
台湾、タイ、韓国に行きました。
中国は知り合いにお願いしたんですが、
それ以外は僕が行きました。
自分たちの足で見つけたいというとき、
誰にアテンドしてもらうか、
すごく大事なことなんです。
僕らの要求に対して
いろんな所に連れてってもらえるよう、
ちゃんと人選をしました。
伊藤
ふつうの旅でもそうですね、
誰に連れて行ってもらうかで変わります。
食べる所とかだって、自分の趣味に合わないと。
中原
はい、結局「人」だなと思います。
伊藤
そうです、全部「人」。
現地を案内くださるかたは、
中原さんがもともとお付き合いがあった中から
探されたんですか? 
中原
いや、今回のために。
探していく中で出会ったんですよ。
伊藤
アジアって、いろんないいものがありますよね。
中原
そうなんですけれど、
今までのコンランショップからすると、色が絞られますね。
アジアでモノを選ぶと、同じような色になります。
伊藤
色のバリエーションが限られるということ?
中原
そうなんです。
アジアには、原色のものがそんなにない。
赤やインディゴ系はあるんですけど、
やっぱりクラフト色の強いものがアジアは多いです。
だから選ぶと、わりと茶系とかベージュとかグレーとか、
自然な、淡い色が多いですよね。
逆に言えば、アジアにこそ似合う色が
あるんだろうなあと思います。
伊藤
なるほど。
ヨーロッパやアメリカとはまた全然違う感覚ですね。
中原
そうですね。
アメリカ内で見るときれいな赤や青のお皿を
日本に持って帰ってくると、
あんまりしっくりこないことがありますね。
伊藤
わかります!
中原
微妙な色合いのもののほうが、日本の風土に合います。
いわゆる青磁とか。
伊藤
なぜでしょうね、空気とか光とか‥‥?
中原
そうですね。湿度もあるし、
見えない空気の色みたいなのが足されるから
印象が変わるんですよね、きっと。
日本って、滋味深いなかに
いろんな色のバリエーションがあるんです。
同じ白でも、いろんな白がある、というような。
青みがかった磁器の白と、
黄色っぽさのある陶器の白があるように。
伊藤
ほんとうにそうですね。
(つづきます)
2023-08-11-FRI