キューブスツール、
あのひとの使いかた
3・矢野直子さん
福岡の木工家具メーカーである「杉工場」と
「weeksdays」がいっしょにつくったあたらしい家具、
キューブスツール。
スツールですから椅子の仲間、なのですけれど、
ましかくで、立方体の一面だけをすぽんと抜いたような、
ふしぎなかたちをしたこの木製家具は、
いろんな使い方ができるんです。
伊藤さんが「あのひとに使ってみてほしい!」
というかたのところへ出かけ、
どんなふうに使ってみたいかを取材したようすを、
再掲載するシリーズ、
今回は、矢野直子さん、賢さん夫妻の
「山の家」をたずねました。
(取材・文=伊藤まさこ)
矢野直子さんのプロフィール
やの・なおこ
積水ハウス R&D本部 デザイン設計部長。
東京都生まれ。
多摩美術大学卒業後、1993年、株式会社良品計画入社。
2003年、プロダクトデザイナーである夫・賢さんの赴任で
スウェーデンへ移る。
その間、業務委託でMUJI Europa Holdingsに従事。
2008年帰国、株式会社三越伊勢丹研究所
(旧伊勢丹研究所)入社、
2013年から再び良品計画へ入社、
生活雑貨部企画デザイン室長を経て、
2020年、積水ハウスへ入社。
都心から車で2時間余り。
山の中腹に建つ集合住宅の一室が、
矢野さんの山の家です。
大きすぎず、小さすぎず。
ご夫婦二人(と愛犬ベージュ)が休みの日を過ごすのに、
ちょうどいい広さ。
光の入り具合や、
天井の高さもほどよくて
なんともいえずいい感じ。
「居心地がいい」って、
こういう部屋のことをいうんだろうな。
「ぜったい気にいるから見に行こう! って
誘われたのがきっかけなんです」
友人のなかば強引な誘いに躊躇しつつ訪れると、
待っていたのは部屋にひかれた温泉だったそう。
「びっくりしたんです。
蛇口をひねれば温泉が出るの? って」
と矢野さん。
築およそ60年のこの建物を設計したのは吉村順三。
集合住宅を建築することは少なかったという
吉村氏の現存する貴重な建物だったということも、
購入の背中を押す理由のひとつになったそう。
木製の建具やドアの取手はそのままに、
ラワン合板の天井や壁紙など、
長い年月を経て劣化した部分は、
できるかぎりオリジナルに近い形に戻したそう。
55平米の中に、
使い勝手のよさそうなキッチンとリビングダイニング、
畳の部屋、そしてお風呂がとてもうまく収まっている。
集合住宅だけれど、
なぜだか一軒家にいるような、
そんな気分になるのはどうしてだろ。
ルームツアーで興奮した私ですが、
忘れてはいけない。
今日はキューブスツールの取材に来たのです。
矢野さんなら、
このスツールをどんな風に使ってくれるのでしょうか。
「そうね‥‥」と少し考えて、
置いたのはスワンチェアの横。
「小さな本棚にもなるし、
上に読みかけの本やお茶を置くこともできますね」
壁や畳に並行に置くのではなく
この「ちょっとずらす」というのが、
きっちりしすぎてなくていいのですねぇ‥‥。
服で言うと、シャツの襟を抜いて
着崩すかんじなのかしら。
ソファの横に置いて、中にブランケット、
上には山で摘んできたアセビを。
「このつなぎ目のピッチ、ちょうどいいですね」
そうなんです。
当初、この倍くらいあったのですが、
全体のバランスを見て、3センチ間隔にしたのです。
こういう細かいところに気づいてくださるの、
作った身としてはすごくうれしい。
スツールに生成り色のシートクッションを合わせたのは、
夫の賢さん。
ぴったり!
「畳の部屋の段差に腰掛けると、
パソコンの作業もできますね」
私たちが取材中(というか、おしゃべり中)にも、
あっちに置いたり、こっちに置いたり。
いろんな角度から見て使い方を探ってくださった
賢さんなのでした。
「家具はずっと使えるものをえらぶ」という矢野さん。
スワンチェアは20年ほど前に3年間住んだ
スウェーデンでオーダーしたもの。
ダイニングで使っているセブンチェアとテーブルは、
結婚のお祝いに矢野さんのおじいさまとおばあさまが
買ってくれたものだそう。
「だからもう28年使っているの。
スウェーデンに越すときも持っていったんですよ」
ニーチェアのオットマンは、
なんと矢野さんが子どもの頃から使っているものとか。
「キューブスツールも、きっと使い込むうちに、
この木のように味わいが出てくるでしょうね」
家のこと、
家具のこと。
それから、暮らしのこと。
話は尽きず、ここに書ききれなかったことも
たくさんでしたが、
またの機会にゆっくりと。
ベージュもつきあってくれて、ありがとう!