メンズブランドのMOJITOの展示会を訪れた伊藤さんが、
ひと目見て「これ!」とえらんだのが、
今回の「撥水フィッシュテールコート」。
もともとたっぷりしたつくりのこのコート、
小柄な伊藤さんが、
あえてメンズサイズをたっぷり目に着てみたら、
とってもかっこいい。
小柄な人も背の高い人も、
ほっそりした人もふっくらした人も、
ちゃんとその人らしい個性のでる服なのだと知り、
「weeksdays」での紹介をきめました。
このコートをつくった山下裕文さんに、
素材のこと、デザインのこと、着こなしのこと、
たくさん伺いました。

山下裕文さんのプロフィール

山下裕文 やました・ひろふみ

1968年熊本生まれ。服飾専門学校を卒業後、
スタイリストのアシスタントを経て
原宿「PROPELLER」でバイヤー、プレスなどを担当。
米国ブランドの日本初上陸のさい、
ショップのジェネラルマネジャーに。
独立してからは、英国系ブランドやアウトドアメーカーまで
さまざまなアパレルブランドの
コンサルティングを担当したのち、
2010年に、作家・ヘミングウェイの世界観を
ひとつの哲学としてデザインにおとしこんだ
メンズウェアブランド「MOJITO」を立ち上げる。

■weeksdaysのMOJITOのアイテム
■山下さんのインタビュー
■MOJITOウェブサイト
■Instagram

全1回
ミリタリーウェアをベースに、
機能的な、タウンユースのコートを

──
今回このコート、
「weeksdays」ではベージュ、ブラック、
そしてカーキの3色で展開します。
カーキは別注色、
「weeksdays」のために
特別につくっていただきました。
ありがとうございました。
山下
はい、MOJITOで展開するのは
ベージュとブラック、シルバーですが、
「weeksdays」ではシルバーのかわりにカーキ、
いわゆるオリーブ色をつくりましたね。
──
デザインは、山下さんですね。
くわしく教えていただけますか。
山下
M65パーカという、
1965年にできたフード付きのミリタリーパーカが
デザインのベースになっています。
アメリカ地上軍の極寒地野戦用のパーカですね。
うんと寒い場所のアウターなので、
保温性のあるライナーを内側に着る。
それでいろんな部分がものすごく大きくできてるんです。
フィールドジャケットを着て、
ライナーを着てから、最後にこれを着るんですよ。
──
だから大きめなんですね。
山下
はい。ミリタリーウェアって
いろんなブランドやデザイナーがデザインソースにし、
アップデートして
新しいファッションのベースに使うんです。
このコートも、原点であるミリタリーを、
MOJITOとして解釈し直した、ということですね。
それで、M65って、メンズファッション史上、
おそらく3本の指に入るぐらい
よく使われているアイテムです。
モッズコートってわかりますか? 
あれは「M51」と「M65」、
これらはよく似た2つのタイプの
極寒地用のパーカなんですけれど、
それを1960年代、英国のカウンターカルチャーの中、
若者たちが着たことから火が点いたファッションです。
ベスパに乗って、モッズコートを着るのが
彼らの定番でした。
そういえばフードなしのものを
1976年の映画『タクシー・ドライバー』で
ロバート・デ・ニーロが着ていましたね。
あれはモッズファッションではなかったけれど。
──
なるほど、このコートとモッズコートは、
ルーツが同じなんですね。
じゃあこれも「モッズコート」と言える?
山下
いえ、モッズというスタイルは
MOJITOがもつコンセプトの時代背景とは異なるので、
僕はその名称を使わず、
「フィッシュテールコート」と呼んでいます。
フィッシュテールというのは、
「M51」や「M65」の後ろ身ごろの裾が
魚の尾ひれのような形をしているのを指します。
フード付きのトップスですから、
パーカというのが一般的かもしれませんが、
今回、「weeksdays」を通じて
女性のみなさんにも大きめに着てもらうことを考えて、
じっさいに着たときの印象から、
コートと呼ぶことにしました。
──
なるほど、よくわかりました。
今回のコートは、M65をソースにしながら、
MOJITOならではのアップデートが
ほどこされている。
具体的にどんなところに
MOJITOらしさがありますか。
山下
M65は、いちばん上に着るので、
どんな厚着の上からも着られるように、
そして、運動量を確保するために、
大きくできているわけです。
これはそのシルエットを生かしながら、
ミリタリーウェアとしては必要だったけれど、
街着では不要な、いわばオーバースペックな部分を
全部そぎ落としたかたちです。
たとえば本家には袖や裾についてるドローコードとか、
そういったものを全部排除してます。
だから袖口も使いやすいデザインになっています。
ミリタリーウェアだと、
袖がベルトでしぼれるようになっていたり、
ポケットにフラップがついてたりするんですけど、
そういったものも全部排除して、
街着らしく、
ステンカラーコートのディテールを少しミックスさせ、
タウンユースにアップデートしてます。
──
なるほど、ドローコードを減らしたり‥‥。
山下
でも、ウエストをしぼる部分は、
ドローコードって実用的だし、
絞ったシルエットの美しさもあるので、残しました。
ほんとはもう1個、裾についてるんですよ。
けれどもこのコート、袖口や袖幅のつくりは、
ものすごくミリタリーウェアに近いんです。
──
ミリタリーウェアが原型だと、
生地が厚くて重いのでは? と思いきや、
おどろくほど、軽く、薄めなんですよね。
山下
はい。軽さもありますね。
「機能素材」っていう言い方をするんですけど、
このコート、「撥水」の機能を加えた
素材を使っているんです。
ナイロンとポリエステルで合成された高密度の平織りに、
撥水とシーレ加工をしています。
──
撥水というのは水をはじくという意味ですよね。
シーレ加工とは?
山下
生地の気密性を高めるための加工です。
シーレはフランス語でCIRE、
「ワックス」のことです。
でもそのままの意味ではなく、
ワックスをかけた“ような”、
独特の光沢感が出ていることが由来です。
──
たしかに、独特の質感ですね。
山下
焦げ付き防止加工されたフライパンって、
表面に膜があるんですよね。
で、水を弾く、油を弾く。
このコートの加工は、
極端に言うとそれに近い。
生地の上に1つの膜があって、
機能を高めているわけです。
──
気密性が高いと聞くと、
そういう素材って、いわゆるレインコートのように、
着るとちょっと暑いというか、蒸す感じがありますが、
このコートは、蒸す感じがあまりしません。
山下
そうなんです。
けれども外気の強い湿度や
雨粒のような水はブロックします。
この素材の撥水効果はものすごいですよ。
お見せしましょう。
こうして水をこぼしても‥‥。
──
おぉ!! 水滴が、丸い粒になってコロコロと。
すごいですね。全然しみ込まない。
こんなに弾くんですね。
山下
はい。ファッション性を重視しつつ、
雨具としても優秀なコートです。
今回「weeksdays」で展開するのは
メンズのLサイズ、
レディスとしてはたっぷり大きめのワンサイズですから、
マントというかケープというか、
いちばん上だけ留めて、
たとえばバックパックや
ショルダーバッグの上から
すっぽり着ることもできると思います。
最近のゲリラ豪雨的な雨の日にも、
すごく便利にお使いいただけますよ。
──
じゃあ小柄だったり華奢な方には
大きく見えるかというと、
不思議なことに、そうでもないんですよね。
ちゃんとおさまるというか。
山下
そうなんです。いまはレディスでも
オーバーサイズは定番化していますしね。
ただ袖が長すぎたりしたら、
袖口をロールアップしたり、
腹囲の大きさが気になったら、
ウエストでブラウジングしたりと、
いろんな着方ができるので、
「大きすぎるかも」という心配はなさらずに。
──
わかりました。
キャップもそうですけれど、
MOJITOで山下さんがつくられるアイテムは、
素材の機能性が考えられていますね。
山下
はい。
昔のいわゆる名品というものがあって、
それをある程度タウンユースにする時、
もっと軽くとか、水を弾くとか、
そういったことを重要視して
アップデートをしています。
──
このコート、性別を問わずいろんなかたが
着られると思うんですけれど、
そういうことって意識されているんですか。

▲13オンス、ヘビーウェイトの シャンブレースリーピングシャツと、 シャツがチャコール、 そしてパンツと靴は黒。 このコートのブラックは、 一番濃いグレー、とも言える黒なので、 全体をグレー&ブラックでまとめると、 奥行きのあるグラデーションが楽しめます。

山下
そうですね‥‥意識してつくることもありますが、
何品番かは、意図せずに、
圧倒的に女性のお客様に売れた、
という経験もありますよ。
いま僕の着ているシャツに似てるんですけど、
着丈がもっと長くて、
もっと襟の前下がりが広く、全部ボタンが開き、
裾のカットが深いものでした。
──
それはワンピースというか、
スパッツや細めのパンツを穿けば
一枚で着られちゃう、というような感覚で
お求めになられたのかもしれないですね。
山下
そうですね。あれは女性のお客さまに
たいへん好評をいただきました。
──
なるほど。
ところで、このコートの生地の感じだったら、
オールシーズン着られそうですが。
山下
はい。これ、いちおう、
AW(秋冬)のコレクションではあるんですけれど、
季節を問わず、広く、長くお使いいただけると思います。

▲ベージュはちょっとライトな感じで、同系色のグラデーションでコーディネート。サンダルに白いソックスを合わせています。ダブルジップなので、前をどう留めるか、でも、ずいぶん表情が変わるんですって。

──
いいですね! 
ところで山下さんといえばヘミングウェイですけれど、
今回はヘミングに関係していないんですね。
山下
そこ突っ込まれるとウッとなるんですけど、
関係していないんです。
ヘミングウェイは61年に亡くなってるので、
それ以降のデザインソースっていうのは、
僕は、本来、あんまり使わないんですけど。
──
でもヘミングウェイが似合いそうです。
山下
無理くり、もってくと、
ヘミングウェイって「旅する文豪」ですから、
このコート、旅にはコンパクトになるので、
とってもいいんですよ。
──
そう思いました。旅にすごくいいと思います。
クシャクシャ、ってかばんに入れても大丈夫ですか?
山下
全然大丈夫です。
ただ、生地の特性として
チョークマークっていう言い方をするんですけど、
強く折れたシワが、
ちょっと白っ茶けるときがあります。
それは傷ではなくて、
そういう素材の特性です。
それも個性だと思っていただけたら。
まぁ自然に落ちますけれど。
──
ほんとに長く着たらいつかは撥水加工も落ちますよね。
でもクリーニング屋さんで撥水加工を
やり直してもらうというのは‥‥? 
山下
それは、なさらないほうがいいですね。
できるクリーニング屋さんもあるとは思うんですけど‥‥。
手入れの仕方は、製品タグをよくごらんください。
──
お家で洗える。水洗いができますよね。
山下
はい。注意点を守っていただければできます。
要は撥水するので、
洗濯機だと、脱水で回すときに、
内側の水滴が抜けきれなくて溜まって、
つまりは洗剤が残る可能性があるんです。
だから大きいタライや
バスタブに水を入れて洗剤を溶かし、
押し洗いし、よくすすげば、全く問題はありません。
──
そっか、わざわざ洗濯機に
入れる必要はありませんね。
山下
思いっきり泥をかぶったとかケチャップこぼしたとか、
そういったときでも、水で落ちますから。
──
そっか、バスルームにかけて
シャワーで流せばいいんですね。
山下さん、ご自身で着られるとしたら、
どんなコーディネートをなさるんでしょう。
山下
そうですね。もうほんと、
あんまりこのコートを意識するっていうよりも、
普段着てるものの上にバサッと着るほうが
いいかなぁと思います。
たとえばスウェットパンツに、
白いスニーカーにパーカにこれ、とか。
──
うんと気軽に。
でもきっと、この独特の光沢、質感だったら、
カジュアルでもきれい目でも、大丈夫な気がしますね。
山下
その通りです。
いろんな手持ちの服と合わせて着てくださいね。
──
ありがとうございました。
山下
こちらこそありがとうございました。
(おわります)
2023-10-01-SUN