「杉工場」でつくりました。その2
伝統をたいせつにしながら、
今のものをつくる。
weeksdaysはじめての家具である「小ひきだし」。
その製造を担当してくださった「杉工場」を訪ねました。
創業以来あまりやってこなかった特注家具。
それをはじめることにしたのは、こんな3人だったんです。
杉良子さん、明乃さん親子に、
若き職人の永井さんがくわわってはじまった
杉工場の「特注」部門。
知人が頼んでくれた特注の椅子からはじまった
そのプロジェクトは、やがて、
いろいろな家具の相談を受けるようになりました。
良子さんは言います。
「既存の机のサイズを変えてほしいとか、
そういう意味での特注の依頼はそれまでもあったんですが、
ゼロから考える家具づくりはしていませんでした。
それが永井が来てからできることになり、
とくに宣伝をしたわけでもないのに、
1年間、途切れずに注文をいただいて。
そんななかに、伊藤まさこさんからの依頼があったんです」
伊藤さんが持っていた
古い和家具の「小ひきだし」。
前後(表裏)がないデザインで、
どちらからも引き出すことができ、
段をそのまま抜き出せば、
トレイとしても使えるタイプです。
アクセサリー、郵便物、文具、工具‥‥
使い方はひとそれぞれの、
むかしはどの家にもひとつはあったような、
ちいさな家具。
東京のお店で偶然みつけた古いものを
使っている伊藤さんですが、
それをベースに、「weeksdays」らしい
小ひきだしがつくりたいというのが
「特注」のリクエストでした。
「そういう依頼をいただいたのは、
じつは、はじめてのことだったんです」
と良子さん。
「この小ひきだしの印象を決めるのは、
やっぱり『顔』。とくにひきだしの取っ手のかたちですね。
これが変わることで、表情が変わってくるので、
そこを大事にしたいと思いました。
けれどもそれは私達が決めることではなくて、
まさこさんがお好きな顔にしたい。
それで最初のサンプルは、
何パターンかをあえて作りました」
取っ手の丸みの角度、
天板と側板の組み方、
それぞれの部材の薄さ、
トレイの前板と端板の組み方、
底板の仕様、
台輪の飾りの部分の、角の削り方‥‥
ほんのちょっとしたことが、
おどろくほど全体の印象を左右します。
サンプルを前に、伊藤さんの判断は明確。
いっしょに杉工場にうかがった夏、
見本を前に「これがいいです」と、すぐに決まりました。
原型となった骨董の小引き出しは、
天板と側板が「石畳組み接ぎ」という技法で、
和家具の意匠にもなるデザインのひとつでしたが、
そこはあえてスッキリと目立たないようにしました。
さらに、ひとつずつのトレイを支える
内側の桟(さん)は、
接着剤と金具を使って留めるのですが、
その金具を、実用本位のタッカーだけではなく、
うつくしいが柔らかいため
加工のたいへんな真鍮の釘も使用しています。
部材は基本的に無垢材のはぎ合わせ。
トレイの底板は反りやくるいの出ない合板ですが、
抜き出したときのうつくしさを考えて、
表面に突板(薄く割いた木)を貼っています。
この小ひきだし、
ほんとうに細部まで心を砕いたつくりになっているんです。
さらに、天板や側板の厚みは、
じょうぶにしたければ厚くするところを、
腰掛けるほどの強度は必要がないわけですから、
「過ぎることのない」ように調整。
贅沢はしすぎず、けれどもうつくしく。
自己満足におちいることがないデザインは、
ベースに杉工場の長い歴史があり、
良子さんと明乃さんの感覚、
そして永井さんのセンスと技術、
さらには杉工場の熟練の職人のみなさんの
「手と目」があってのことなのでした。
「こういうものって、違和感がひとつでもあると、
目が拒否するというか‥‥。
そこをちゃんとクリアしてると、
スーッと自然に入ってくるし、
いやな気持ちがしないんです。
そこに、わたしたちのものづくりの、
口にできない共通項があるんですよ」
さあ、この小ひきだしをどう使いましょうか。
明日からの連載では、伊藤まさこさんに、
そのアドバイスをいただくことにしましょう。
(ちなみに、杉家では、
この小ひきだしのサンプルをもう使っているそう。
4人家族それぞれに来る郵便物を、
1人1段、まいにち仕分けて入れる
「家庭内郵便ボックス」になっているんですって!)