「杉工場」でつくりました。その2
伝統をたいせつにしながら、
今のものをつくる。
weeksdaysはじめての家具である「小ひきだし」。
その製造を担当してくださった「杉工場」を訪ねました。
創業以来あまりやってこなかった特注家具。
それをはじめることにしたのは、こんな3人だったんです。
杉良子さん、明乃さん親子に、
若き職人の永井さんがくわわってはじまった
杉工場の「特注」部門。
知人が頼んでくれた特注の椅子からはじまった
そのプロジェクトは、やがて、
いろいろな家具の相談を受けるようになりました。
良子さんは言います。
「既存の机のサイズを変えてほしいとか、
そういう意味での特注の依頼はそれまでもあったんですが、
ゼロから考える家具づくりはしていませんでした。
それが永井が来てからできることになり、
とくに宣伝をしたわけでもないのに、
1年間、途切れずに注文をいただいて。
そんななかに、伊藤まさこさんからの依頼があったんです」
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/02/O72A9087.jpg)
伊藤さんが持っていた
古い和家具の「小ひきだし」。
前後(表裏)がないデザインで、
どちらからも引き出すことができ、
段をそのまま抜き出せば、
トレイとしても使えるタイプです。
アクセサリー、郵便物、文具、工具‥‥
使い方はひとそれぞれの、
むかしはどの家にもひとつはあったような、
ちいさな家具。
東京のお店で偶然みつけた古いものを
使っている伊藤さんですが、
それをベースに、「weeksdays」らしい
小ひきだしがつくりたいというのが
「特注」のリクエストでした。
「そういう依頼をいただいたのは、
じつは、はじめてのことだったんです」
と良子さん。
「この小ひきだしの印象を決めるのは、
やっぱり『顔』。とくにひきだしの取っ手のかたちですね。
これが変わることで、表情が変わってくるので、
そこを大事にしたいと思いました。
けれどもそれは私達が決めることではなくて、
まさこさんがお好きな顔にしたい。
それで最初のサンプルは、
何パターンかをあえて作りました」
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/02/O72A9121.jpg)
取っ手の丸みの角度、
天板と側板の組み方、
それぞれの部材の薄さ、
トレイの前板と端板の組み方、
底板の仕様、
台輪の飾りの部分の、角の削り方‥‥
ほんのちょっとしたことが、
おどろくほど全体の印象を左右します。
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/02/MG_7344-1.jpg)
サンプルを前に、伊藤さんの判断は明確。
いっしょに杉工場にうかがった夏、
見本を前に「これがいいです」と、すぐに決まりました。
原型となった骨董の小引き出しは、
天板と側板が「石畳組み接ぎ」という技法で、
和家具の意匠にもなるデザインのひとつでしたが、
そこはあえてスッキリと目立たないようにしました。
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/02/MG_7373-1.jpg)
さらに、ひとつずつのトレイを支える
内側の桟(さん)は、
接着剤と金具を使って留めるのですが、
その金具を、実用本位のタッカーだけではなく、
うつくしいが柔らかいため
加工のたいへんな真鍮の釘も使用しています。
部材は基本的に無垢材のはぎ合わせ。
トレイの底板は反りやくるいの出ない合板ですが、
抜き出したときのうつくしさを考えて、
表面に突板(薄く割いた木)を貼っています。
この小ひきだし、
ほんとうに細部まで心を砕いたつくりになっているんです。
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/02/MG_7385.jpg)
さらに、天板や側板の厚みは、
じょうぶにしたければ厚くするところを、
腰掛けるほどの強度は必要がないわけですから、
「過ぎることのない」ように調整。
贅沢はしすぎず、けれどもうつくしく。
自己満足におちいることがないデザインは、
ベースに杉工場の長い歴史があり、
良子さんと明乃さんの感覚、
そして永井さんのセンスと技術、
さらには杉工場の熟練の職人のみなさんの
「手と目」があってのことなのでした。
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/02/MG_7285-2.jpg)
「こういうものって、違和感がひとつでもあると、
目が拒否するというか‥‥。
そこをちゃんとクリアしてると、
スーッと自然に入ってくるし、
いやな気持ちがしないんです。
そこに、わたしたちのものづくりの、
口にできない共通項があるんですよ」
さあ、この小ひきだしをどう使いましょうか。
明日からの連載では、伊藤まさこさんに、
そのアドバイスをいただくことにしましょう。
(ちなみに、杉家では、
この小ひきだしのサンプルをもう使っているそう。
4人家族それぞれに来る郵便物を、
1人1段、まいにち仕分けて入れる
「家庭内郵便ボックス」になっているんですって!)