L’UNE デザイナーの前沢さんに、
伊藤まさこさんがインタビュー。
今回、展開するシャツとスカートについて、
素材とそのつくりについて、
たっぷり、お話を伺いました。
「つくり込んでいるようで、
つくり込んでいないというか、
つくり込んでいないようで、
つくり込んでいるというか──」
と話す前沢さん。
ほんとうに細部の細部まで、
徹底的に考え、試作を重ねているようです。

前沢祐子さんのプロフィール

前沢祐子 まえざわ・ゆうこ

服飾デザイナー。
26歳の時に単身パリに渡り、
フランス語やオートクチュールについて学ぶ。
2000年フランスから帰国、
デザインオフィスを立ち上げ、
フリーのデザイナーとして
数々の国内有名ブランドと企画契約をする。
2015年、
「Ageless・Genderless・Timeless」をテーマに
L’UNE(リュンヌ)を立ち上げる。
既製服のほか、
アトリエでのオーダーメイドも好評。

■L’UNEのwebsite
■Instagram
■weeksdays「新しいこと、ゆずれないこと」

01
最高の素材を、デザインで遊ぶ

伊藤
前沢さん、こんにちは。
また、L’UNEのアイテムを
お届けすることができて、とても嬉しいです。
今日は、今回のシャツとスカートについて、
お聞かせいただけたらと思っています。
どうぞよろしくお願いします。
前沢
ありがとうございます。
なんでも、どうぞ。
伊藤
まずシャツですが、
つくられた経緯は、
どのようなことだったんでしょう。
前沢
まず、この素材がすごく好きだということですね。
すごく細い120番手の綿糸を、
双糸といって、2本が1本になるように
撚ったものなんです。
この生地ならではの光沢感、
ツヤ感があるんですね。
素材の持つ美しさにはいろいろありますが、
私は“ツヤっぽさ”がすごく好きです。
L’UNEで、以前、この生地を使い、
タキシードシャツをつくったことがあるんですが、
今回はもう少し、デザインされたシャツをと思いました。
とにかくきれいでベーシックな素材なので、
あえて、デザインをしてみようと。
伊藤
タキシードシャツというのは、
いわゆる、タキシードに合わせる
メンズシャツの形ですか?
前沢
そうです、メンズのタキシードシャツです。
衿の先が三角に折れていて、
胸元にU字型の布を重ねて
縫いつけてあるドレスシャツですね。
そのパターンで、
幾度か素材を変えてつくっていました。
でもレディスなので着丈は長くして、
細身のパンツと合わせるスタイリングでした。
伊藤
わぁ、素敵だったでしょうね。
前沢
ありがとうございます。
それで、今回のシャツですけれど、
シーズンとしてジャケットに力を入れることを、
まず、決めていたんですね。
伊藤
はい。
前沢
そこでジャケットに合わせるシャツを考えました。
そのとき「デザインシャツがいいかも?!」と、
思い立って、
伝統的な衿元でボウ(リボン)使いを
アクセントにして、
すっきりしながらもボリュームがあるという、
相反するふたつの個性をもった
シャツにしようと考えたんです。
“ザ・シンプル”と言えるくらいシンプルだけれど、
細部を見ていくといろんな仕掛けがある、
そういうものにしたかった。
そこで前身ごろをパネル切り替えですっきりさせて、
袖口はふわっとボリュームをつけました。
後ろ身ごろも、ヨークやタックじゃなくて、
ギャザーにしてみたら、
前と横と後ろの表情がそれぞれ
異なって見えてきたんです。
伊藤
ほんとだ。ギャザーがたくさん。
前沢
このボウも、タキシードシャツの時は
すごく細かったんですね。
でも今回は、太いリボンに。
伊藤
ボウは、どういうふうに結ぶのがいいですか?
たとえば蝶々結びにするとか。
前沢
決まりはないんですよ。
着るひとによって
様々に変わることを想定しています。
だからクラシカルに
大きく結んでいただくのもいいですし‥‥。
伊藤
ひとつで結んでも?
前沢
はい。いわゆるネクタイ結びにしても
かわいいんですよ。
そのときはきっちりでも、
ゆったりでも、おもしろいと思います。
ネクタイ結びで
スキニーデニムに合わせてもかわいいしです。
伊藤
すごく素敵ですね。
前沢
固結びにしてもよし、
結ばずにたらして、
王子様みたいにしてもいい。
伊藤
いろいろなたのしみ方がありますね!
前沢
そうなんです。そして、
これだけいろんなデザインを入れているので、
逆に、前のボタンは付けたくなかったんですよ。
伊藤
なるほど。
前沢
留めて着ても、
チラッと見えるぐらいがいいかなと思って。
そんなふうに、細部に、思いを少しずつ
詰めていったというシャツです。
伊藤
できあがるまでに、
「ここはこうしよう」とか、
「ああしよう」が、
いろいろとおありだったでしょうね。
前沢
ありました、ありました。
袖と後ろ身ごろにボリュームを持たせ、
前はすっきりさせるため、
肩にギャザーを入れたくなかったんですよ。
かわいくなりすぎてしまうから。
伊藤
なるほど。かわいさが過剰になってしまうと、
前沢さんの意図するところでは
なくなってしまうんですね。
前沢
はい、「それは違う」と思って。
解決していきました。
袖幅を細くしちゃうと、
着づらくなるんですよね。
そこで、ある程度の袖幅を確保するため、
ほんのちょっと、タックを入れたんです。
パタンナーさんとの話し合いで解決していきました。
伊藤
ほんとだ! タック。
前沢
そうするとツルンともしないし、
袖幅も2cmか3cm、増えるんです。
‥‥伊藤さん、私、
こんなこだわり話をしていてもいいんですか(笑)。
伊藤
はい、ぜひ。楽しいです。
前沢
よかった。パネル切り替えは、前身ごろだけじゃなく、
後ろもそうしてすっきりさせているんです。
けれどもタイトではないんですよ。
伊藤
脇が1枚で、前と後ろ身ごろになっている。
前沢
そうです。これは“三面”と呼ばれる
ジャケットのつくり方です。
シャツって、パネル切り替えがなければ、
通常は脇にカーブがあったり、
スリットがあったりするんですけれど、
このシャツは後ろのパネル切り替えが外側にあり、
裾のカーブもすこし後ろ側。
出して着ても“ちょっと”かわいい、
という印象にしました。
後ろはボリューミーだけれども、
前はすっきり見えるようにという
パターンワークがここにも生きているんです。
伊藤
このシャツは、
どんなジャケットに合わせようと思われたんですか。
前沢
プレーンなブレザータイプのものに合わせても、
雰囲気が出て素敵だなって思います。
ボーイッシュなテイストですね。
伊藤
ブレザーを着るときは、
ボウはどうしたら?
前沢
ブレザーを強調したい時は、
ボウはしなくてもいいんですよ。
衿を立てただけでも雰囲気が出ますから。
そうそう、このシャツ、
こういうカチッとしたタイプにしては、
肩幅をちょっと大きめの設定にしています。
伊藤
そうなんですか。
“ちょっと大きめ”にした理由は?
前沢
全体のバランスですね。
大きめと言っても、カジュアルシャツみたいな、
オーバーサイズな印象の“大きい”ではなく、
ちゃんと肩にのってのバランスを見ながら、
微調整をしての“大きい”です。
カジュアルなシャツって、
もっとフワーってなるんですけど、
肩傾斜をきつめにして、
肩のラインに添う感じにしています。
伊藤
へええ。
前沢
‥‥って、ほんとうに、細かいことばっかり! 
言い出したらキリがないんです(笑)。
伊藤さん、大丈夫ですか。
伊藤
大丈夫ですよ。わかります。
衿も特徴的ですよね。
前沢
衿はですね、台衿がないんです。
開衿ではないのだけれども、自由自在に垂れて、
ちょっと立てたりもできるようにしています。
つくり込んでいるようで、つくり込んでいないというか、
つくり込んでいないようで、つくり込んでいるというか。
伊藤
なるほど、首にもしなやかに寄り添いそうです。
前沢
そうなんです。
抜いて着た時にも、華やかさが出ます。
名前はシャツですけれども、
印象はふわっとした感じですよね。
ボウも自由で、基本は締め。
でも外したり、
内側に(首に直接)巻いても、
女性らしさが出ますよ。
伊藤
1枚持っていれば、いろんな着方ができますね。
前沢
きっとたのしんでいただけると思います。
もちろん単体でも、
ジャケット、コートを重ねても、
ニットに“ボウだけ”合わせても。
中にハイゲージのニットを着て、
シャツの前を開けて。
伊藤
わぁ、きっと、かわいいですね。
第一ボタンだけじゃなく
第二ボタンまで開けても、
また違いますよね。
前沢
そうなんです。2個開けると、いい感じなんですよ。
パリのサンジェルマン・デ・プレのカフェで
本を読んでいらっしゃるマダムのような、
そんなイメージになりますね。
ベーシックでいい素材を、デザインで遊ぶ。
そういうシャツですね。
(つづきます)
2023-10-10-TUE