モロッコに大きな地震があったと知ったのは、
2023年9月9日のこと。
現地で8日の夜23時11分、
マグニチュード6.8の地震が発生したというのです。
震源はマラケシュの南東約75kmのアトラス山脈。
マラケシュといえば、
「weeksdays」「ほぼ日」でもおなじみの
ワランワヤンの石田雅美さんが拠点としている町です。
日本のニュースでも、がれきの山となっている
マラケシュの旧市街のようすが報道され、町の人たちが
屋外で夜をあかしているということを知りました。
そしてインスタグラムをのぞいてみると、
石田さんのお店が入っている
歴史的建造物が崩れ落ちてしまったという投稿が。
けれども「私は元気です!」という言葉もあって、
心配するやらほっとするやら‥‥。
その地震から数週間が経った頃、
ちょっと落ち着きました、という
マラケシュの石田さんと、
東京の伊藤まさこさんがオンラインで話し、
今のマラケシュ、そしてモロッコのようすを
いろいろ聞かせていただきました。
だいじょうぶです、石田さん、とっても元気です!
石田雅美
建築を学ぶ学生だったころ、
土壁の家に魅かれてアフリカへ。
そこで世界最大の迷路の街モロッコの
マラケシュに出会い、暮らし始める。
現地の職人たちと共に丁寧な作りにこだわった
モロッコ雑貨を作っている。
ワランワヤン(warang wayan)は
バリ島に住む土屋由里さんと
マラケシュに暮らす石田雅美さんが
2000年に活動を開始した雑貨製作・販売のユニット。
ワランワヤンインドネシア、
ワランワヤンモロッコと、
2つの国・別々の会社をつくって運営をしつつ、
ひとつのブランドとしての活動をつづけている。
インドネシアではかご製品と木の道具、
モロッコではかご製品と革製品を中心に
オリジナルアイテムを制作・販売。
●ワランワヤンモロッコのInstagram
●ワランワヤンマラケシュのInstagram
●weeksdaysのコンテンツ
02100年の鍵
- 伊藤
- 石田さんのマラケシュのお店は、
まだ復旧が先なんでしょうか。
- 石田
- 旧市街全体としては、修復が急ピッチで
進んでいると言えるんですが、
エリアによって全然被害状況が違うんです。
地震の直後は崩れなかったのに、
壁とかに亀裂が入っていて、
最近も崩れて作業員が亡くなったり‥‥。
- 伊藤
- 石田さんのお店は、移転は考えず?
- 石田
- そうなんですよね。
私のお店って、購入した物件なんです。
買ってまだ1年で、借金がある状態なの(笑)。
- 伊藤
- それは大変!
- 石田
- 購入物件といっても、
モロッコってすごく複雑で、
イスラムの法律が使われるんですけど、
こういった史跡みたいな所は
国から「100年の鍵」を買うんですよ。
- 伊藤
- 100年の鍵? いったいそれは??
- 石田
- そういう名目で、占有で使える権利を買う、
みたいな感じでしょうか。
- 伊藤
- なるほど、100年そこを使える。
- 石田
- そう、だけど、なかなか直らなかったら
もうちょっと延びるんじゃないかなと
期待してるんですが。
まあ、生きてる間には
どうにかなると思うんですけど(笑)。
ちなみに私のお店の入る建造物は、
昔は行商の人たちの宿だった建物で、
今は職人さんたちの住まいになっているんですよ。
バブーシュをつくってたり、
バスケットつくったり、
革製品をつくっていたり‥‥。
その建物は、王様が安く貸してくれているんです。
- 伊藤
- 石田さんがその場所を選んだのは、
そういう職人さんと身近だったからですか。
- 石田
- そうです。
今、マラケシュの町はちょっとバブルで、
なんだかギラギラしている。
私はそういう中に自分の店を持ちたくなくて、
できたらちょっと歴史がある中で、
こういう風にものづくりをしてきたっていうことを
空間で見せたかったので、
あえて史跡の中にお店を構えたんです。
こういう物件ってなかなか見つからないんですが、
やっと見つかったら、今回、地震で。
- 伊藤
- 石田さんのお店は今はどういう状況なんですか。
まだインスタグラムの写真のまま?
- 石田
- はい、まだがれきの回収中です。
いろんな所にとにかく亀裂が入ってて危険なので、
これからどれだけの修理が必要か、
これから専門家が入るんですよ。
- 伊藤
- 今は見通しが立ってないってことですね‥‥。
- 石田
- そうですね(笑)。
- 伊藤
- なのに明るくて元気!
- 石田
- 「神様がそう言ってるのかな」と思って、
今はなんか別のことをした方がいいかなって。
- 伊藤
- そうなんですね。
お子さんは学校へ?
- 石田
- はい、学校も、金曜日の夜に地震があって、
土日お休みで、月曜日からは普通にありました。
- 伊藤
- おいくつですか。
- 石田
- 14歳です。中学生。
あんまり恐怖心がない様子です。
日本で3・11も経験してるんですけど。
あの年は3月10日に日本に着いて、
翌日に東京で地震に遭いました。
今回のモロッコの地震は、
3・11の東京ほどの揺れではなかったと思うんだけれど、
「まさかここで?!」っていうのがあったので、
初め、地震だと理解するまでにちょっと時間がかかって。
とくにモロッコ人はみんな地震って分からないから、
大騒ぎになったんですよ。
何日も、理解できない人がいっぱいいて。
戦争が起きたとか、
黒魔術がかけられたとか、
とくにおばちゃんたちはもうギャーギャーと、
すごい大騒ぎになりました。
おさまってからもずーっと、
何も家が壊れてない人も、
怖いって、外で寝ていたんですよ。
- 伊藤
- 倒れてきたらどうしようとか、
そういう不安があったんでしょうね。
- 石田
- 心の傷というか、PTSDみたいな感じで、
怖くて眠れないと‥‥。
そんな中「あなたは地震の国の人だから」って
みんなに言われていたんですけど(笑)、
この私でも、数週間が経ってから、
ちょっとショックが出てきて。
揺れ自体は3・11より弱かったかもしれないけれど、
「まさか、ここで?!」という感覚が強かったので、
脳裏から離れないんですよね。
私がこうなのだから、暗い中で寝ていた山の人たちは
どれだけ怖かったのかなって想像してしまいます。
- 伊藤
- 地震が生まれて初めての方も
いらっしゃったと思うし。
- 石田
- そうなんです。ほぼ全員が初めてで。
怖いですよね。
- 伊藤
- そりゃあ怖いですよね。
壊れなくても、
いくら日本に多いといっても、
地震って怖いですもの。
ましてや地震がなかった国では、
人々の恐怖心もそうだし、
耐震のこととか、建物も不安でしょうし。
- 石田
- もし今起きたら私たちは、
頭巾がある人は被って
テーブルの下に隠れますよね。
- 伊藤
- 火を止めるとか、窓やドアを開けるとか。
- 石田
- そうですよね。
子どものときから避難訓練で教わっている。
でもここの人達はそういう知識や経験がないので、
ワーッてとにかく全員外に出ました。
建物が倒れちゃうのが一番怖いと。
- 伊藤
- それを黒魔術だと‥‥。
- 石田
- しばらく、その話題で盛り上がってました。
今は落ち着いてきています。
「地震とはそういうものなんだ」とわかって。
- 伊藤
- 石田さんのお仕事は、
例えば日本に向けてのものづくりなどは
再開なさっているんですか?
- 石田
- はい、それは進めています。
建物が壊れてお店に入れない状況ですけれど、
別の場所にある工房は
幸運にも、なんの傷もなかったんです。
職人さんたちも、山側じゃなく、
海側に住んでいるので被害がなかったのは、
不幸中の幸いだったと思います。
だから私が一番かわいそうって、
みんなに言われているんですよ(笑)。
- 伊藤
- 買ったばかりのお店‥‥。
- 石田
- 町の人たちに助けていただいてる感じです。
でも、山の人たちの様子を知ると、
私なんかぜんぜん!
普通に朝起きて、こどもが学校に行って、
っていう生活ができているんだから、って。
- 伊藤
- 電気が水道なども大丈夫だったんですよね。
- 石田
- ライフラインはまったく止まらなかったんですよ。
電気も、水道も、電話も、インターネットも。
日本だったら止まるんじゃないかと思うんですが。
- 伊藤
- でもそのことが、みんなの力になったでしょうね。
「よし! 再建するぞ!」
みたいな気運の助けに。
- 石田
- うん。それは大きいですよね。
それと、モロッコの王様が
援助の発表をされたんですよ。
10月から、被災者の方に
毎月2500ディルハム支給しますって。
今、円安なので、4万円ぐらいですが、
こちらでは大きなお金なんですよ。
かつ、お家が全壊した人たちは
日本円で言うと210万円ほど、
半分壊れた人は140万円ほど支給が
決定されて、もうそれがすでに動き出していて。
- 伊藤
- 王様、すごい!
- 石田
- しかも王様のポケットマネーなんですよ。
国の税金とかじゃなくて、
王様が個人的にそれを出しますって声明を出された。
しかもそれがもうすごく早いうちに
ダーンって発表されたので、
みんなの心の安心が大きくて。
- 伊藤
- ほんとうに、王様、すごい!!
‥‥ということは石田さんのお店にも
補助金が出るんですか。
- 石田
- 私のお店は、もともと王様の持ち物なので、
王様が直してくださる‥‥はず‥‥なんです。
今、調査団が来ている段階ですが、
いつまでに直るかは、わからないんです。
ほかの建物は少しずつ修復が始まっているので、
期待しているんですけれど。
- 伊藤
- そっか、王様のものを
100年借りている、ということですものね。
- 石田
- こういうときに思うんですよ、
王制のいいところだなって。
誰にも文句言われずバンッ! って援助できるって、
いいなって思います。