服飾ディレクターの岡本敬子さんと、
“家内製手工業人”の石澤敬子さんは、
伊藤さんが一目おく「小物づかいの達人」。
ふたりの敬子さんに
私物の小物をたくさんお持ちいただき、
たくさんお話をうかがいました。
なんだか元気がもらえちゃう3人の会話を、
4回にわけておとどけします。
岡本敬子
服飾ディレクター。
文化服装学院スタイリスト科卒業後、
スタイリストオフィスを経て、
大手アパレル会社のPR部門で
国内外のブランドのプレスを担当。
2008年に独立し、ファッションブランドの
ものづくりからPR、店舗の計画など、
「おしゃれ」に関する幅広い仕事に携わる。
2011年に立ち上げたブランド「KO」は、
流行は追わないけれどスタイリッシュでいたい、
人と同じものはつまらない、エイジレスでいたい、
というひとたちに向け“旅のMIXスタイル”をテーマに、
ジュエリー、皮小物、アイウェアなどを展開。
オーガニックコットンの
nanadecor(ナナデェコール)では、
KO by nanadecor という、岡本さんのラインをもち、
2017年からは東京・千駄ヶ谷の「Pili」というお店の
ディレクションも担当。
編集者の夫・岡本仁さんとの共著に、ブログを書籍化した
『今日の買い物。』
『続・今日の買い物。』が。
現在は発信のベースをインスタグラムにうつし、
おおぜいのフォロワーの支持を集める。
著書に『好きな服を自由に着る』
『好きな場所へ自由に行きたい』
(ともに光文社)などがある。
石澤敬子
家内製手工業人。文化服装学院技術専攻科卒業。
アパレル会社でパタンナーとして勤務したのち、
ワンピースやウェディングドレスのオーダーを受け始める。
1988年より自身のブランド「moss*」をスタート。
その活動と並行して「minä perhonen」に勤務、
海外などで見つけた生地を使い、
“かわいいおばあちゃん”をテーマにした
ワンピースやエプロン、小物類を制作。
著書に『ノスタルジックなクローゼット』
(文化出版局)がある。
02変化することとしないこと
- 岡本
- ある程度、自分のスタイルが決まったというのに、
そんな中で、突然やってくるんですよね、
ブームが。自分の中で。
- 石澤
- そう、ブームがね。
- 伊藤
- え、何のブームがあったんですか?
- 岡本
- 例えば大きい襟のブラウス。
でも大きい襟のものは持っていないから、
付け襟をつけたり。
- 伊藤
- 突然のブームによって、
スタイルが変わるんですね。
- 岡本
- そう、なぜかわからないんだけれど、
突然なの。
- 伊藤
- 世の中の流行とは関係なく?
- 岡本
- 関係なく。
- 石澤
- そうなんですよね。
私も、芸術家としてのフリーダ・カーロは
前から知っていたけれど、
1年すこし前かな、突然、
「スカーフの上から、
フリーダ・カーロのように
お花をつけたい」と思ったんです。
- 岡本
- そう、突然、来るんですよね。
もちろん何かに感化されることもあるんですよ。
たとえばニューメキシコに旅をして、
ジョージア・オキーフの家に行き、
オキーフのワードローブを見た時に、
「これぐらいシンプルなのがいいよね」なんて言って、
帰ってきて突然シンプルになって、
毎日モノトーンで暮らす、
みたいな感じになったこともあるんです。
でもなんかね、モノトーンもちょっと飽きちゃって。
- 石澤
- 物足りなくなっちゃったんでしょ?
- 岡本
- そうそうそう(笑)。
- 伊藤
- そういう、気になる人の存在って、
大きいですよね。
- 岡本
- その前は、キャサリン・ヘプバーンだったんです。
彼女のスタイルは今も私のベースにあるんですよ。
あの方は赤を部分に取り入れるのがお上手なの。
私も、それにインスパイアされました。
キャサリン・ヘップバーンと
ジョージア・オキーフは、
今も私のなかで大きな存在ですね。
- 伊藤
- 石澤さんは、フリーダ・カーロの前に、
気になる方はいらしたんですか。
- 石澤
- イーディス・ブーヴィエ・ビールという、
ジャクリーン・ケネディ・オナシスの従姉で、
上流階級出身の破天荒な女性がいるんです。
彼女の装いが、まあとにかくなんていうんでしょうね、
たとえばストッキングを頭に被って巻き付けたり。
それがすごくすてきな感じなんです。
そのまんまマネすることはないんですが、
影響を受けたと思います。
- 伊藤
- すごい。頭にストッキングって、
ちょっとポカンとしちゃいました。
- 石澤
- ははは。
- 伊藤
- わたしがあんまりそういうふうにならないのは、
職業がスタイリストだからかもしれません。
- 岡本
- それはあるかも。
- 石澤
- 見過ぎてきたんじゃないかな。
- 岡本
- うん。ある。
- 伊藤
- わたし、服は専門じゃないんですが、
お洋服のスタイリストさんって、
ご自身がロールモデルになって
メディアに出るという方と、
裏方に徹して、ものすごくシンプル、
という方がいますよね。
もちろんそのなかに、
自分のお好きなものがあると思うんだけれど。
それを考えると、わたしは後者かもって。
- ──
- 伊藤さん、以前は花柄だとか、
マリメッコの大きい柄を着ている時期も
ありましたよね。
- 伊藤
- そうですね。ありましたよね。
今は、年齢とも相まって、
迷い期なのかもしれないです。
それで、スタイリングの時に邪魔だからとか、
なんとなく理由をつけて、あっさりした方向に
進んでいるのかもしれません。
ちなみに石澤さん、今日は、
ミナ・ペルホネンの服ですか。
- 石澤
- はい、上がミナなんですよ。
無地のコートをワンピースみたいに着ています。
中は元ミナのスタッフが独立をして
始めたブランドです。
古着を再構築してつくっていて。
そして、軍パンです。
- 伊藤
- え? 軍パン?
- 伊藤
- ほんとだ。古着の?
- 石澤
- 古着です。
伊藤さんは、やっぱりシンプルですね。
- 伊藤
- 今日もパンツ、カットソー、靴、
以上! みたいな。
- 岡本
- 私もシンプルです。
- 石澤
- ‥‥シンプルって意味が(笑)。
- 一同
- (笑)
- 伊藤
- シンプルじゃないですよー。
- 岡本
- いえ、私の中では、かなりシンプルです。
まあ、この襟元が、
ドリーミーな感じですけど。
- 石澤
- 主張があるもの。
- 伊藤
- おふたりともご自身の存在感が強いから。
全部取り去っても、光があるのかも。
そんな気がしてきました。
- 岡本
- これ、ほんとうにだいぶシンプルなのよ。
今日はメガネもシンプルだもの。
- 伊藤
- そうかも? いつもと比べたら‥‥。
その、ふたりの敬子さんそれぞれの、
小物使いのたのしみを知りたいんです。
服の新陳代謝はそんなにないって
おっしゃっていたけれど、
小物も、好きなものはずっとお好きですか?
- 岡本
- うん。小物は、嫌いになるものが
あんまりないかな。
- 伊藤
- 年上の女性で、
「華奢なリングが似合わなくなった」と、
そういうアクセサリーを断捨離した方がいました。
わたしも最近、Satomi Kawakitaで
ボリュームのあるリングを買ったんですけど、
以前はそういうものには目がいかなかったし、
つけなかったんですよ。
- 岡本
- 私は、もともと、華奢なものを
選んでこなかったんですが、
好きなものの根底が変わらないから、
断捨離をしたことがないんですよ。
- 伊藤
- そういえば、石澤さんはリングをしていませんね。
- 石澤
- たまたま、いまはリングをお休みしているんです。
最近、ちょっと指に合わなくなったので。
- 伊藤
- 以前はされてたんですか。
- 石澤
- はい、華奢な感じのものを
重ねてつけるのが好きですよ。
- 伊藤
- なるほど。おもしろい。
わたしは、好きなものと似合うものは
違うと思っているんですけれど、
おふたりは、好きなものを
自分に寄せることができるんですよ。
好きなものが似合うもの、みたいな感じで、
着こなしている感じがします。
- 石澤
- 着こなすというより、
着倒しちゃう感じ。ふふふ。
- 岡本
- なんとかしてやろうという感じよね。
「こっちに来なさい!」みたいな。
- 石澤
- そうそうそう。
- 岡本
- たとえば普通に袖があるものも、
普通に着たらつまんないって言って、
逆さに着てみたり、しますよ。
このボレロも天地逆にして着ることがあります。
カーディガンでもすることがある。
- 伊藤
- ええっ?!
- 石澤
- ちょっと見え方が変わるのよね。
- 岡本
- そう。デザイナーの意図とは
違うことをしたくなっちゃうんです。
- 伊藤
- おもしろいと思う!
- 石澤
- 伊藤さんの似合うものと、好きなものは、
ちょっとずれることもあるっていうこと?
- 伊藤
- もう全然、ずれてますよ。
かわいいな、すてきだなって思っても、
いや、これ、わたしの着るものじゃないなって。
まあ自分のこのスタイルも、
年季が入っているから‥‥。
- 一同
- (笑)
- 伊藤
- おふたりも年季が入ってますよね。
岡本さんのメガネもしかり。
- 岡本
- これはシンプルなんですけどね。
- 石澤
- だ・か・ら~(笑)。
- 岡本
- これもサングラスだったんだけど、
私はサングラスとして
かけるイメ―ジはなかったから、
レンズを変えて、メガネとして使っているんです。
- 伊藤
- ちなみに伊達メガネですよね。
- 岡本
- そう、アクセサリーとして大好きなんです。
アイテムが一つ増えることがうれしい。
将来、年を重ねて、杖を使う時が来たら、
ハリー・ポッターのダンブルドアみたいな杖を
選ぶのかもって、想像しちゃいます。
おばあちゃんになることって、
以前はネガティブなイメージだったんだけれど、
そう考えると怖くないかもって。
- 伊藤
- パリやロンドンにあるような
素敵な杖屋で買ったらいいかも?
- 岡本
- そうそう、専門店で素敵な杖を買って、
若いもんのお尻をペンペンするのよ。
- 石澤
- 似合う、きっとね。
- 岡本
- 老眼鏡もそうですね。
私はまだ老眼が来てないんですよ、
早くつくりたいんだけれど。
- 伊藤
- 石澤さんは老眼鏡は?
- 石澤
- 私は縫物をするので、
夜にステッチをかけるときに、
老眼鏡があったらいいなと思うんですが、
鼻の上に乗っている感じがどうしてもダメで、
ルーペが付いているアクセサリーを使っています。
もうちょっとすてきなものが
ないものかしらって思いつつ。
- 伊藤
- チェーンつきのルーペ、
ふたりとも似合いそうです。
- 岡本
- 舞台を見る持ち手のついたタイプで、
老眼鏡があったらいいなって思います。
それがさっと仕舞えるつくりだと、いいなあ。