料理研究家のウー・ウェンさんが
「weeksdays」の「わたしのおはし 黒檀」を
使ってくださっているという話を聞き、
伊藤まさこさんといっしょに
ウーさんのお宅をたずねました。
ウーさんの出身である中国も、日本も、
ともに「おはしの文化圏」。
その微妙なちがいの話や、
料理のスタイリングのことなど、
おはしを中心に、いろんな話題がとびかいました。
4回にわけて、お届けします。

ウー・ウェンさんのプロフィール

北京生まれ。1990年に来日。
母親から受け継いだ小麦粉料理が評判となり、
料理研究家の道へ。
雑誌、新聞、テレビなど幅広く活躍中。
中国に伝わる家庭の味、
シンプルでからだにやさしい家庭料理を、
日本の素材で手軽に作れるようにと
工夫を凝らして紹介している。
1997年から、東京でクッキングサロンを開始。
小麦粉料理、中国家庭料理を中心に指導を行なっている。
家庭では、二人の子どもの母親でもある。

『料理の意味とその手立て』(タブレ)
『本当に大事なことはほんの少し~料理も人生も、
すべてシンプルに考える生活術』(大和書房)

『体と向き合う家ごはん』(扶桑社)
など、多数の著作をもつ。
『ウー・ウェンの 100gで作る北京小麦粉料理』、
『ウー・ウェンの 炒めもの』
『ウー・ウェンの 煮もの あえもの』
『ウー・ウェンの 蒸しもの お粥』
(いずれも高橋書店)では、
伊藤まさこさんがスタイリングを手がけている。

●website
●Instagram

03
引き算

伊藤
おはしって、すごいですよね。
この、ちいさな2本の道具がないと、
わたしたちのごはんが成り立たない。
ウー
そうですよ。
食べることは生きる基本で、食べないと死んじゃう。
とても大事なことだから、美味しく、美しく食べたい。
だからこその、おはしの役割なんですよ。
伊藤
口にあたるものですから、
やっぱりいいものを使いたいですよね。
日本ではごはんちゃわんと湯飲みとおはしは
「自分のもの」という家庭も多いですが、
ウーさんのお宅ではどうでしょう。
ウー
子どもたちが小さい頃にはありました。
今はもう共用にしていますね。
伊藤
「マイはし」システムじゃないんですね。
うちもそうなんですよ。
でも実家に行くと、いまだに
「はい、これ、あなたのおはしね」と。
中国では、いかがですか。
ウー
中国に「マイはし」はあんまりないです。
西洋のナイフやフォークも、みんな共用ですね。
でも「わたしのおはし」は、
もちろん自分だけのものにしてもいいけれど、
共用にしても、いいと思うんです。
伊藤
はい、どちらの使い方もあると思います。
ウーさんは「わたしのおはし」をお使いになる前は?
ウー
家族では、日本のおはしをずっと使ってきましたよ。
それこそ京都のもので、
竹のものだったり、漆のものだったり。
お友だちが来たときは、中国の黒檀のおはしを
使ってもらうことにしていたんですけれど、
お客さまにとって中国のおはしって、
とくに女性の方にはちょっと重かったり長かったり。
だから、ずっと探していたんです、いいおはしを。
ところが、あったとしても、ちょっと太かったりして。
伊藤
そうなんですね。
ウー
その点、この黒檀のおはしって、
細くても、重みがあるじゃない? 
伊藤
密度が高いんですよね。
細いけれど、ちょうどいい重みなんです。
ウー
手がなじんでくるんですよ。
自分が触りたくなる質感がある。
伊藤
そして、ぐるっと回って「見た目がきれい」なことも
大事だなって感じるんですよね。
そういえば今日も、引き出しの中を整理していて、
「わたしのおはし」が並んでいる姿を見て
「やっぱりきれいだな」と思いました。
ウー
佇まいとしてさりげないんですよ。
でもさりげないものが、
たぶん飽きがこないと思うの。
一瞬、主張するようなものって、
飽きも早くきちゃったりとかする。
伊藤
それ、料理も一緒ですね。
一口目のインパクトが美味しいものって‥‥。
ウー
続かないですよね。
伊藤
ウーさんの料理は、頂いているあいだじゅう、
ずっと美味しいんです。
ウー
ありがとうございます。
伊藤
わたし、キッチンに料理本を置くの、初めてでした。
ウーさんの『100gで作る北京小麦粉料理』
『炒めもの』『煮もの あえもの』
『蒸しもの お粥』

4冊のスタイリングでお手伝いをしましたが、
ウーさんの料理って、きれいなんですよね。
テーブルに置いた姿も美しいんだけれど、
下拵えで料理がバットにのっているところまで、
とても美しいんです。
ウー
特別な材料ではないんですよ。
いつもあるような食材です。
伊藤
それを丁寧に下拵えするから、きれいなんです。
最近、何においても、
丁寧にするに越したことないなと思います。
ウー
ほんとですよ。
丁寧にすることで、自分も満たされるんですよね。
伊藤
丁寧にできなくて、雑な料理をつくっちゃったら、
こんなに忙しくしてる自分はダメだ、
自分の生活を見直さないと! って思うんです。
ずいぶん前に京都の刃物屋さんの
『有次』の社長さんと対談したときに、
包丁の手入れが行き届いている人は、
背筋もピンとしてるっておっしゃっていました。
ウーさんもそうですよね。
料理だけじゃなくお宅もほんとうにきれいにしてらして。
床拭きも毎日なさっている
おっしゃっていましたね。
ウー
そんなお話、しましたね。
伊藤
おはし選びからはじまって、器選びも料理も、
結局、全部、なんですよね。
さりげないものを使うとか、
飽きのこないものを使うとか、
丁寧に扱う、とか。
わたしも耳が痛いです。
ウー
とんでもない! 
まさこさんはそうやって
私のことを褒めてくださるんですけれども、
その言葉を掛ける2ぐらいにして
返したほうがいいかなと思いますよ。
私の本のスタイリングだって、
もしまさこさんがやってくれなくなったら
どうしようと思っちゃう。
伊藤
ありがとうございます。
撮影のときはいろいろと準備して伺うんですが、
セッティングしていざ料理ができあがると、
「あれ? これ、要らなかったな」って、
ずいぶんアイテムを引き算していました。
ウー
結局、最後、そうするのね。
伊藤
だって、結局、料理があればいいんです。
それが主役ですから。
だからスタイリングの仕事って、
ほんとに難しいって思うんですよ。
どれだけ引き算ができるか。
──
昭和の家庭誌や婦人誌の料理のページって、
むしろ「足し算」でしたよね。
クロスを敷き、カトラリーをたくさん並べ、
それこそお花を置いて、ワインの瓶があったりして、
テーブルをぎっしりに飾る、みたいな。
伊藤
昔の料理写真って、そうですよね。
前菜、主菜、デザートまで一緒に撮影したり。
──
その歴史があったところから、
時代も世代も変わって、
今、引き算になっているわけですね。
ウー
今じゃないのよ、まさこさんはずっとそうなのよ。
私たち、そんなに変わらない時期に
デビューしたと思うんですけれど、
当時から雑誌でまさこさんのスタイリングを見て、
「この人のスタイリングがいい!」と思ってましたから。
伊藤
たしかにわたし、あんまり変わってないです。
ウーさんも変わってないと思う。
ウー
うん、変わってない。
伊藤
わたしたちに共通しているのは、
料理が主役であるということですね。
だからいろんなものを写さなくてもいいんです。
かつての料理の撮影って、いろいろなルールがあり、
「器やカトラリーは
料理ごとに替えてください」ということもあって‥‥。
でも、わたしもウーさんもそうですよね、
「そうじゃなくてもいいでしょ?」って。
ウー
ねっ!
(つづきます)
2024-05-15-WED