ベーシックだけど、ほかとはちょっと違う。
そんなアパレルブランド、Le pivot (ル・ピボット)。
つくり手の小林さん、そして相棒の金井さんに、
今季登場するデニムコートについて、
伊藤まさこさんがお話を聞きました。
小林さんが「パリの街角に似合うように」
と作ったこのコート、
同じ形の3色展開‥‥に見えて、
実はそれぞれ生地の作りが違うんです。
デニムだけどカジュアル過ぎず、
街にも着ていけるのは、
いろんな仕掛けや工夫が詰まっているからなのでした。
伊藤さん、そして小林さんによる
金井さんのコーディネートとともに、お読みください。
小林一美さんのプロフィール
小林一美
Le pivot デザイナー。
企画・物作りに関することすべて、
発信することやイメージに関連することを担当。
バイヤー経験後、アパレル会社で企画・生産・
プロジェクトの立上げなどを手がけ、
20年勤務した後に独立、金井さんとともに
Le pivotを立ち上げ、現在に至る。
好きなものは美味しいもの、花、映画、
ミュージカル、時代小説、そして万年筆。
金井美幸さんのプロフィール
金井美幸
Le pivot 営業・プレス・店頭販売担当。
服飾学校卒業後、アパレル勤務、
小林さんと同時期に独立し、
Le pivotの立ち上げに参加、現在に至る。
好きなことは食べること、
ミュージカル、バレエなどの観劇。
01うれしい後ろ姿
- 伊藤
- さっそくですが、
今回のデニムコートについて、
作ろうと思われたきっかけを伺わせてください。
- 小林
- はい。
今年は秋冬物のテーマを、
「モノクローム」にしたんですね。
そこからまずこの「アイボリー」の生地を見つけて、
一目惚れしたんです。
経(たて)糸がアイボリー色なんだけど、
緯(よこ)糸に黒が使われているので、
生地自体に光と影の陰影があって、
テーマにぴったりだなって。
- 伊藤
- じゃあ、コートを作ろうという前に、
最初に生地を見て
「これだ!」と思われたんですね。
- 小林
- そうなんです。
すごく気に入って、ぜひ使いたいと思って。
何をつくろうか考えたときに、
デニム生地なので、
はじめはGジャンをつくろうかなとも思ったんですけど、
秋冬だから、丈が長いものが欲しいなと思って
コートを作ることにしたんです。
- 伊藤
- デニム生地のコートって、
あまりないような気がします。
- 小林
- そうですよね。
「アイボリー」で製作をスタートしてみて、
他の色もあったらいいなと思って
「インディゴ」と「スミクロ」を加えました。
この2つは、どちらも表に多くでる経糸が
インディゴ色なんですけれど、
「スミクロ」は緯糸が黒なんです。
緯糸が黒だと、洗っても中古感が出ません。
- 伊藤
- なるほど。
デニム特有の、ダメージ感が出てこないんですね。
- 小林
- そうなんです。
「インディゴ」の方も経年変化はあまりないんですが、
緯糸が白なので、最初からデニムらしい印象があります。
- 伊藤
- よく見ると糸の色がわかりますね。
- 小林
- 織り方も変えています。
一般的なデニム生地って、
「アイボリー」にも採用している綾織
(経糸2~3本に1本の緯糸をくぐらせる織り方で、
織り目が斜めに現れる)
なんですけど、
「スミクロ」と「インディゴ」はオックスフォード織
(経糸と緯糸を2本ずつ交差させる織り方で、
シャツなどによく使われる)のものを使っています。
- 伊藤
- へえ。
「アイボリー」は綾織で、
他の2つは織り方をあえて変えているんですか。
- 小林
- ええ。
特に「スミクロ」は黒糸で綾織だと
印象が強すぎてしまうので、
オックスフォード織に変えることで
経糸のインディゴ色が出やすくなって、
全体的な印象が和らぐんです。
- 伊藤
- ほんとうだ。
織り方でずいぶん印象が変わるんですね。
- 小林
- そうなんです。
オックス織って、個人的には洗ううちに
普段着感が出てきちゃうなと感じるんですけど、
「スミクロ」は緯糸が黒なので、
洗っても白抜け(色が落ちて白っぽくなること)
していかないんですよ。
Gジャンならそれでも味が出ていいんですけど、
コートなので、色落ちしないほうがいいかなって。
- 伊藤
- うんうん、大人が着るものですものね。
- 小林
- そう、大人に着ていただきたいですから。
ディテール部分でも、
前開きの中央線(コートが前で開く部分)を、
ちょっと斜めにカッティングしているんです。
生地自体が分厚いので、
ガバっとした平らな布、という硬い感じではなく、
着た時に動きが出るように作っています。
- 伊藤
- わかります。
とっても歩きやすかったですし、
座りやすかったりもしますよね。
- 金井
- ええ。
ベント(ジャケットやコートの背面の裾に入れる
切り込み)も深めに取ってあるので、
前も後ろもうまく開いてくれて、
動きやすいと思います。
- 伊藤
- なるほど。
それと、袖のカフスがちょっと太めですよね。
- 小林
- そうなんです。
ボタンを留めた状態でももちろん着られるんですけど、
最近は暖冬ですから、
まだ暖かい時期なら腕まくりをして、
シャツっぽく着ることもできますよ。
- 伊藤
- へえー!
それはいいですね。
- 小林
- それから、
肩のところはアクションプリーツを入れているんです。
- 伊藤
- ほほー。
これ、アクションプリーツって言うんですね。
- 小林
- 生地がしっかりしているので、
着た時に硬さを感じないように、
このプリーツによって
肩周りの動作(アクション)をしやすくしています。
- 伊藤
- だから細身に見えるのに、
着てみると窮屈に感じないんですね。
- 小林
- ふふふ。
実はもうひとつ仕掛けがあるんですよ。
実際の肩線(肩と袖のつなぎ目)って、
この外側のラインですよね。
でも、後ろから見ると、
肩線はこっち(内側のステッチ)に見えるでしょう?
これによって、肩幅がコンパクトに見えるんです。
- 伊藤
- ほんとうだ。
この2cmぐらいの差で、
見え方がかなり違いますね!
- 小林
- そうなんです。
この仕掛け、自分でも結構気に入っています。
- 金井
- 後ろ姿って、
自分では見えないし、忘れがちだけど、
きれいに見えていたらうれしいですよね。
- 伊藤
- うれしいですよ。
後ろ姿、大事ですもの。
- 小林
- それから、
袖も2枚袖(袖の外側と内側の2つのパーツを
縫い合わせた袖)にして、
カーブをつけて作っています。
- 伊藤
- うんうん、
ぱっと見たときに、
すごく立体的なコートだなと思いました。
1枚にいろいろなことが起こってるんですね。
- 小林
- ふふ、そうなんです。
いろいろ詰めてみました。
(つづきます)
2024-10-21-MON