三重県多気郡多気町に、
VISON(ヴィソン)というリゾート施設があります。
その中の「泛白(uhaku)」というギャラリーで、
イベントのために伊藤まさこさんがつくった、
バロックパールのピアスとキャッチが、
weeksdaysに登場します。
作り手は、そのイベントを通じて伊藤さんが知り合った、
三重県伊勢市のヤシマ真珠さん。
初代にあたる高祖父から数えて
5代目になるという山本行太さんに、
ブランドのあゆみと、“真珠というもの”について
オンラインでインタビューしました。
知れば知るほど、
ちいさなひと粒が輝いて見えてくるようなお話です。
山本行太さんのプロフィール
山本行太
「ヤシマ真珠」デザイナー、ディレクター
三重・伊勢生まれ。
百貨店にて宝飾品の販売員、
ファッションジャーナリストのアシスタントを経て、
2017年伊勢にUターン、家業の仕事に就く。
1949年に高祖父が興した
「弥志磨真珠養殖場」から始まった「ヤシマ真珠」は、
1971年の創設以来パールジュエリーを代々製作し、
販売を行ってきた。
そんななか、2017年、
日本のモノづくりとのコラボブランド、
CROSPEARLを始動。
真珠の魅力を、アクセサリー、工芸、
フレグランス、ビールと、様々な形で表現している。
01採れたままの形
- 伊藤
- 山本さん、今日はよろしくお願いいたします。
- 山本
- こちらこそよろしくお願いします。

- 伊藤
- 今回、weeksdaysでパールのピアスとキャッチを
扱わせていただくことになりました。
ありがとうございます。
- 山本
- こちらこそありがとうございます。
- 伊藤
- あらためて、ヤシマ真珠さんの歴史から伺えますか。
- 山本
- はい。
ブランドがうまれたきっかけは、
76年前に、高祖父、
つまり僕の祖父のそのまた祖父ですね、が
伊勢の英虞湾(あごわん)で
真珠の養殖をはじめたことでした。
祖父の代になってから、
養殖・卸・小売に分業しようとなり、
小売を担当したのが僕の祖母。
「弥志磨真珠養殖場」という場所の名前からとって、
「ヤシマ真珠」という販売会社をつくりました。
まだ代替わりはしていないんですが、
高祖父から数えて、真珠の仕事は
僕で5代目ということになります。

- 伊藤
- お祖母さまが小売を始められたのは、
何年くらい前のことなんでしょう。
- 山本
- 54年前ですね。
養殖の方は、今は従伯父が担当しています。
70歳近いんですけれども、
現役で働いています。
従伯父もそうですが、後継者不足なんですよ。
この伊勢の真珠養殖って、
全体的に若手が不足している状況なんです。

- 伊藤
- このまま後継者が見つからないと、
どうなるんでしょう‥‥?
- 山本
- 続けていくのは厳しくなるでしょうね。
でも、最近僕と同じ年代で、
「おじいちゃんが真珠の養殖をしてました」という
孫世代の方たちがUターンしてきているんです。
色々な職種の人たちなんですが、
もし今後、そういう方たちが
副業として養殖に携わってくれるといいな、
というのが僕の希望です。
IT系だったり、デザイナーだったり、
それぞれ本業を持ちながら、
副業として真珠の養殖に取り組んでいます。
そういう方たち3~4人でグループをつくって、
養殖を専業にした場合なら2~3人でできるだろう
生産量を確保できたら、というのが、
新しい養殖の形として、今、僕が考えていることです。

- 伊藤
- それはすごくいいですね。
山本さんも、以前は販売員だったと伺いました。
- 山本
- はい。
僕が新卒で就職したのはジュエリーの会社で、
最初の仕事が東京の百貨店の接客でした。
ちょうどリーマンショックの直後で、
就職状況も厳しいときだったので、
こちら(伊勢)へ帰って来たときのため、
真珠の仕事に役に立つ仕事を、と考えて。
- 伊藤
- ジュエリーの会社ということは、
真珠の専門店ではなかったんですね。
- 山本
- ええ。でも、それがよかったんです、
いろいろな種類のジュエリーを扱っていたので、
広い知識が身につきましたし、
接客も勉強させていただきました。
でも、やはり真珠がいちばんおもしろかったです。
- 伊藤
- わぁ! それは、どんなところが?
- 山本
- 真珠って、
百貨店でお客さまにおすすめしやすいんです。
まずお客さまがよくご存知ですから、
たとえばネックレスなら、
丸くてきれいな玉が揃っているものが質がいいと
すぐにわかっていただけます。
鑑別書(真珠の種類、色、輝きなどの検査結果を
記載した書類)を添えることで、
クオリティが高いことを数字でもお伝えできますし。

- 伊藤
- それはわかりやすいですね。
とくに百貨店に買いに来られる方は、
品質、安心感を求められる方が
多そうな気がします。
- 山本
- そうですね。
けれど、こちらに帰って来て思ったことは、
もっといいご紹介の方法があるんじゃないか、
ということでした。
真珠を、決まったデザインで、
数値化されたクオリティをもとにおすすめすると、
「数字がいいから、いいものだ」
という先入観が生まれてしまうことがあるんです。
ほんとうは、お客さま自身がきれいだと感じるものを
選んでいただくほうがいいと思うんですよ。
もちろん品質には自信がありますが、
最初にお客さまが感じたことを大切にしたい、って。

- 伊藤
- 伊勢に戻られて、
おすすめの仕方を変えられたんですね。
- 山本
- はい。ファーストインプレッションで
「あっ、きれい」と感じたものを選んでいただくのが
一番いいと思いました。
真珠についての数値的な情報は、
その次にお伝えしています。
鑑別書をご希望されるお客さまには、
ご購入いただいた後に、
鑑別機関に発行依頼をするようにしています。
- 伊藤
- 第一印象って、すごく大切ですよね。
じっさいのお客さまは、
やっぱり丸くてきれいな形のパールを
お求めになる方が多いですか。
- 山本
- 冠婚葬祭用としては、
きれいな丸いものがやはり人気ですね。
でも最近だと、
普段からつけられるアイテムとして、
バロックパール(不定形の真珠)が注目されてきていて、
「丸くない真珠も素敵」
と感じる方が増えてきたきたように思います。

- 伊藤
- それは、時代の変化でしょうか。
- 山本
- そうですね。
5~6年前からメンズパールが流行りはじめたのが
大きなきっかけだったと思います。
そこでバロックパールが注目されたんですよ。
まん丸だと女性らしい印象になるけれど、
ちょっといびつな形で、
ゴツゴツしたバロックパールなら、と、
男性に受け入れられたんです。
それが女性のお客さまにも浸透し、
今、うちでバロックパールを買われる方の7割は
女性のお客さまなんです。
- 伊藤
- うんうん。
わたしが「泛白(uhaku)」のイベントで
これをつくりたいなと思ったきっかけも、
丸いパールはすでにお持ちの方が多いから、
バロックの方が新鮮じゃないかなと思ったんです。
自由な感じがしますし、
新しくて、かわいいなって。
無理にデザインしようというのではなくて、
自然な形をそのままピアスにしたいなと思ったんです。

- 山本
- まさに「この自然な形が気に入ったから」
と買ってくだったり、
「丸型のパールは
母から受け継いで持っているから、
毎日気軽につけられるものがほしい」
とお求めになる方もおられます。
- 伊藤
- イベントのときも、お客さまがみなさん、
「自分だけの形」みたいな感覚で選ばれていて、
それがすごく楽しそうでした。
- 山本
- バロックパールには、
同じ形がありませんからね。
他の宝石は、採掘してきて、
それをカットしてつくるんですけど、
真珠は貝自体がつくったものがほぼ完成形ですから。

(つづきます)
2025-02-10-MON