三重県多気郡多気町に、
VISON(ヴィソン)というリゾート施設があります。
その中の「泛白(uhaku)」というギャラリーで、
イベントのために伊藤まさこさんがつくった、
バロックパールのピアスとキャッチが、
weeksdaysに登場します。
作り手は、そのイベントを通じて伊藤さんが知り合った、
三重県伊勢市のヤシマ真珠さん。
初代にあたる高祖父から数えて
5代目になるという山本行太さんに、
ブランドのあゆみと、“真珠というもの”について
オンラインでインタビューしました。
知れば知るほど、
ちいさなひと粒が輝いて見えてくるようなお話です。
山本行太さんのプロフィール
山本行太
「ヤシマ真珠」デザイナー、ディレクター
三重・伊勢生まれ。
百貨店にて宝飾品の販売員、
ファッションジャーナリストのアシスタントを経て、
2017年伊勢にUターン、家業の仕事に就く。
1949年に高祖父が興した
「弥志磨真珠養殖場」から始まった「ヤシマ真珠」は、
1971年の創設以来パールジュエリーを代々製作し、
販売を行ってきた。
そんななか、2017年、
日本のモノづくりとのコラボブランド、
CROSPEARLを始動。
真珠の魅力を、アクセサリー、工芸、
フレグランス、ビールと、様々な形で表現している。
02奇跡のようなもの

- 伊藤
- 2つのパールがくっついた
「ふたご」の形が生まれるのは、
どういう仕組みなんですか。
- 山本
- これ、偶然なんです。
生産効率を上げるための方法として、
1つの貝に真珠の核を2つ入れて、
2粒、同時に養殖するやり方があるんですが、
それがたまたま貝の中でくっついてしまったのが、
「ふたご」の形です。
- 伊藤
- つくろうと思ってできるものじゃないんですね。
その核を入れる職人さんが
いらっしゃるということですね。

- 山本
- はい。
核入れの時に、
ふわっと開いた状態の貝の体内にメスを入れ、
淡水二枚貝の貝殻を加工した丸い核と、
真珠の素になる細胞を添えます。
その細胞が核をつつみこみ出来るのが真珠です。
- 伊藤
- なるほど。
まん丸になったり、
バロックになったりするのは、
どういう違いがあるんでしょう。
- 山本
- メスを入れて空間をつくるのですが、
入れた核が移動すると空間が出来るんです。
その空間の形状や、メスの後が塞がらないと
その跡に沿って真珠のカタチが
形成されるんですよ。
- 伊藤
- そういうことなんですね。
でもやっぱり、真珠屋さんとしては、
まん丸に出来上がるのが理想なんでしょうか。

- 山本
- そうですね。
うちの従伯父の場合は、
生産効率を落としてでも丁寧に育てるような
養殖の仕方をしているので、
いびつな形は出にくいんですけれども、
それでもやっぱりバロックはできます。
- 伊藤
- そうですよね、
生きものですものね。
- 山本
- ええ。
昔は真珠全体の生産量も多かったので、
バロックパールはあまり使われていなかったんです。
今はその面白さをデザインとして
気に入ってくださったりしています。
またよほどカタチやテリの悪い、
業界用語で「裾玉」と呼ばれるものは真珠層を削って、
もう一度再生核として使ったりもします。
- 伊藤
- 再利用できるんですね。
- 山本
- はい。
貝自体も、貝柱は食べることができますし、
食べられない部分は肥料化をして畑に撒いたり、
海にまんべんなく撒けば、
海がいい状態になると漁業関係者に聞きました。

- 伊藤
- 天然のものだから、
自然にもかえりやすいんですね。
- 山本
- 土や海にかえしても、環境を汚しません。
ですから、パールも含めて、
貝に無駄な部分はひとつもないんです。 - 伊藤
- 真珠って、すごい。

- 伊藤
- 今回はキャッチもつくっていただきました。
いろんなピアスを持ってらっしゃる方も、
キャッチをこのパールに変えるだけで印象が変わって、
新鮮につけられるかなと思って。
- 山本
- パールのキャッチ、いいですよね。
これはまん丸なので、
前にもってきてもかわいいと思いますよ。
- 伊藤
- あ、ほんとうだ!
ピアスとしてもつけられますね。

- 伊藤
- ピアスのほうは
6種類の大きさでつくっていただいたんですが、
パールの大きさというのは、
何によって違ってくるんでしょう。
- 山本
- 核の大きさの違いです。
7ミリをつくりたかったら6ミリの核、
5ミリのパールをつくりたかったら4ミリの核を入れます。
表面積が狭い小さい方は比較的つくりやすいんですが、
大きくつくるのって、難しいんですよ。
- 伊藤
- なるほど。
どのくらいの時間をかけて育つんですか。
- 山本
- 通常、約10カ月くらいです。
春先、2~3月に核を入れはじめて、
12月~1月が採取シーズンです。
核を入れる作業を丁寧にしないと、
最悪の場合には貝が核を吐き出してしまって、
真珠が出ないこともあるんです。
- 伊藤
- えっ。
吐き出すこともあるんですね。
- 山本
- はい。
10カ月の間は、貝の中は見えないので、
1週間ごとに掃除をしたり、
外から様子を見ながら世話をします。
- 伊藤
- お掃除も!
核を入れて海に帰せば、
あとは待つだけというわけではないんですね。

- 山本
- そうなんです。
基本的に穏やかで栄養豊かな漁場がいいのですが、
波や海水温など海の目まぐるしい変化を正しく読み、
その時々の貝の健康状態を理解して、
最善の作業をしなきゃいけないんです。
- 伊藤
- わぁ、なかなか大変ですね。
以前お伺いしたときにお目にかかった従伯父さまが、
「パールづくりは漁業と一緒」
とおっしゃっていましたね。

- 山本
- まさにそうなんです。
貝自体が生きものですし、
台風や赤潮(海水中のプランクトンの異常増殖)のような
自然環境にも左右されます。
なので、真珠の養殖という仕事は
自然の大変さと楽しさがありますね。
- 伊藤
- こんなふうに伺うと、
ここにあるひと粒が、
もう、奇跡のようなものに思えてきます。
- 山本
- そうなんです。
僕たちも貝がつくってくれた真珠を大切に引き受けて、
丁寧にお客さまにお渡しするようにしたいと
いつも思っています。
- 伊藤
- 生きものなんだなと思うと、
とくべつに輝いて見えますね。
大切にしなくちゃ。
どうもありがとうございました。
- 山本
- ありがとうございます。
また伊勢にも遊びにいらしてくださいね。

(おわります)
2025-02-11-TUE