福岡のうきは市にアトリエと住まいを構える
木工作家の山口和宏さん。
長いこと、山口さんのカッティングボードを使ってきた
伊藤まさこさんが、「weeksdays」のために
アレンジをお願いして、
山桜のカッティングボードと、
メープルの木べらをつくってもらいました。
おりしも東京にいらした山口さんを
伊藤さんのアトリエにお招きして、
この仕事に就いた経緯、木のこと、仕事のこと、
そして料理のことなど、おしゃべり。
そのようす、3回にわけておとどけします。
(写真は、まだ暑い頃、伊藤さんといっしょに
山口さんの工房と自宅におじゃましたときのものも、
いっしょに紹介しますね。)
その2家に木があるだけで。
- 伊藤
- 山口さんの作品を、
私が初めて買ったのは、これなんです。
- 山口
- ありがとうございます。
かなり前のものですね。
- 伊藤
- どこで買ったのか、全然覚えてないんですよ。
時には器みたいになったり、
時にはカッティングボードとして使っています。
シミもあって、全然手入れしていないのが
バレバレなんですけど、いい感じなんです。
- 山口
- これ、フランスの田舎の古いカッティングボードを見て、
つくりたくなったんですよ。
刃物の跡がたくさん残り、中はへこんでたり、
角が丸くなったりとかしているようなものでした。
自分が作ったものも
そういうふうになってくれたらいいなぁと思って、
つくり始めたんです。
だからぼくも結構いい加減に使っているんですよ。
- 伊藤
- じつは、きょうは、‥‥ジャジャーン!
- 伊藤
- イタリア食材屋さんで、お皿を持って行くと、
盛りつけてくれるところがあるんです。
だからいつも山口さんのカッティングボードと
籠を持っていき、こうして盛りつけてもらうんです。
あと、鍋敷きみたいにも使っていますよ。
- 山口
- 鍋敷きの場合、覚悟して使わないと。
焼けたり、ちょっと黒っぽくなったりしますよ。
- 伊藤
- でもね、私、バンバン使っているんですけど、
跡がつくのも味だと思っていて。
嫌がる方も、やっぱりいらっしゃいますか。
- 山口
- 時々。最近は少なくなってきました。
(伊藤さんの使っているカッティングボードを持って)
あ、重くなってる!
作ったときより重いです。
たぶん、油とか、いろんなおいしいものを
吸っているんですね。
成長してる。
- ──
- 重くなるんですね。
乾燥していくのかと思ったら。
- 伊藤
- 本当、なんか、ツヤツヤ、シットリみたいな。
- 山口
- すごくいい味が出てます。
これがいいんですよね。
- 伊藤
- そして真ん中が減ってますね、やっぱり。
山口さんのカッティングボードは、
一見すると正方形の板みたいな感じなんですけど、
きちんと面取りされているんです。
だから手に取った感じが柔らかで。
私がカッティングボードっていうものを意識したのは
20歳の最初の頃で、ハワイのノースショアっていう、
サーファーのメッカにホームステイしたときのことです。
ホストファミリーの太ったおじさんが
サーフィンカメラマンで、
日がな1日、海が見える高台で、
甘いものを食べながら波を見ているんです。
「あ、いい波が来た」って言うと、
車に乗って撮りに行くんですね。
その弟さんがベジタリアンで、
家でご飯をつくるとき、私がまな板を使って肉を切ったら、
「あ、だめだめ」と言うんですよ。
「これは兄さんが使う肉切りで、ぼくのは別にして」って。
わたしの実家では、わりと大きいまな板はなんでも用で、
あとは果物を切る用があったかな、
そのくらいの使い分けかただったから、
ちょっとびっくりしました。
でもその後、スタイリストの修業をしている時代に、
「まな板も着替えていいじゃない?」
と思うようになったんです。
- 山口
- ええ、ええ。
- 伊藤
- 器だけ揃えるんじゃなくて、
こういうときにはこのボードみたいな。
私、まな板っていうよりも、
なんていうのかな、「木の器」の感覚なんです。
それでだんだん増えていって、
スウェーデンのものづくり学校に行ったときに買った
生徒さんが作って購買で売っていたものや、
パリで買ったもの、横浜中華街で見つけたもの、
いろいろあるんです。
ひとつずつ違うし、ガタガタしていたりするんですけど、
どれも、かわいいなぁと思って。
- 山口
- いいですね、かわいいですね。
- 伊藤
- まな板っていうと、長方形っていうイメージがある。
でも正方形だっていい。
山口さんのつくるオリジナルのカッティングボードは
穴があいた柄(え)があるんですけれど、
その柄を取ってもらって、正方形にしてもらったんです。
「ただの正方形がいい」って言ったら、
山口さん、ちょっと困った顔をされて(笑)。
- 山口
- すごくシンプルなだけに、
むずかしいなぁと思ったんです、
真四角の道具を自分がつくるとしたら、
どういうふうにすればみんなに喜んでもらえるのかなって。
本当に、作業の工程としては、シンプルなんです。
木取りをして、かんなをかけて磨き、
最後に面を取る。
磨くのも何工程かあるんですが、
それにしてもシンプルです。
- 伊藤
- 以前別の木工家の方に、
「こういうのはないんですか」って聞いたら、
「それじゃまるで仕事をしてないんじゃないかと
思われるかもしれない」って。
- 山口
- わかります。
ところが、作ってみたら、すごく楽しかった。
おもしろがってつくりましたよ。
木目が1枚1枚おもしろくて。
山桜の原木を買って、板の状態にして、
時間をかけて天然乾燥しておくんですが、
そのストックの乾燥材をほぼ全部使ってしまうくらい、
たくさんつくりました。
- 伊藤
- どのくらいかけて乾燥させるんですか?
- 山口
- 厚みが3センチくらいで1年って言われています。
もちろん木の種類によるんですけど、
厚くなるほど時間がかかります。
それぞれ木目とか色が違うし、
硬さも違う、同じ山桜なのに。
具体的にカッティングボードをつくるときは、
木取りをしてから、
両面をカンナで削る機械にかけますが、
仕上がりの厚みより少し厚めに仕上げるんです。
その状態で、今回、1ヶ月ちょっと置いたんですけど、
木の反りなどを出します。
無垢の木だから、作った後も、どうしても、
置かれた環境で、多少反ったりもすることがあるんですね。
反ったり、割れたり、ねじれたりするのは、
ぼくらにとってはすごく不都合なんですけど、
木にとっては当たり前なことです。
製材をするって、たぶん、服を着た状態から、
脱いだ状態になるわけですよね。
自分の置かれた今の環境にパッと出てしまうから、
きっと変化するんだと思うんです。
ですから、できるだけそういうことがないように、
長く置いて、木の癖を出してから
あらためて仕上げるようにしています。
- 伊藤
- さらに言うと、このカッティングボードの「完成」って
使うかたがたの手元で、かもしれませんね。
カッティングボードとしても、
木の器としても。
食材や料理をのせて完成する。
これだけでは見ないから、
なおさら、シンプルなものがいいんだと思います。
- 山口
- ぼくも、そのほうが出番が多いと思います。
- 伊藤
- 山口さんは、ご自身のカッティングボードを
どういうふうに使われますか?
- 山口
- まず、パン皿ですね。
チーズ、ハム、パンとワインがあれば、
とてもしあわせです。
スペインの田舎で巡礼の旅するお父さんの映画で、
夕方、宿にたどり着いたときに、
ほかの宿泊客といっしょに、
外にある古い木のテーブルで、
ワインを飲んだり、パンを食べたりしていたんですよ。
それが忘れられなくて。
そういうところに登場してくるような
木のボードがつくれたら
楽しいだろうなぁと思っていました。
もう20年近く前の話ですけれど。
- 伊藤
- たしかに外国って、外で食べることが多いですよね。
すごく、いいなぁ。
『君の名前でぼくを呼んで』っていう映画にも
そんなシーンがありました。
具体的にはカッティングボードをつくりはじめる
きっかけはあったんですか?
- 山口
- そういったボードを作ってみたいと思っていたときに、
「四月の魚」でいろんな木の古い道具を見たんですよ。
それを片っ端から買って、
どういった木が使われているんだろうか、研究して。
そうやって参考にしたんです。
カッティングボードには合わない匂いの木もありますし。
- 伊藤
- 匂いの強い木があるんですね。
- 山口
- 乾燥してる状態では、そんなに匂いは立たないんですけど、
熱湯をかけると、匂いが強まったりします。
- 伊藤
- 食卓に木のものが入ると、なんか和むというか‥‥、
なんていうのかなぁ、いろんな素材があるのがいいって、
服と一緒だなぁと思ったんです。
同じ黒い服でも、全部同じ素材じゃなくて、
フワフワのセーターとか、
ちょっと光っているエナメルの靴とか、
いろいろあっていい。
テーブルの上も、陶磁器やガラスだけじゃなく、
木があると、やっぱり、いいんですよね。
(つづきます)
2019-03-26-TUE