福岡のうきは市にアトリエと住まいを構える
木工作家の山口和宏さん。
長いこと、山口さんのカッティングボードを使ってきた
伊藤まさこさんが、「weeksdays」のために
アレンジをお願いして、
山桜のカッティングボードと、
メープルの木べらをつくってもらいました。
おりしも東京にいらした山口さんを
伊藤さんのアトリエにお招きして、
この仕事に就いた経緯、木のこと、仕事のこと、
そして料理のことなど、おしゃべり。
そのようす、3回にわけておとどけします。

(写真は、まだ暑い頃、伊藤さんといっしょに
山口さんの工房と自宅におじゃましたときのものも、
いっしょに紹介しますね。)

山口和宏さんのプロフィール

山口和宏 やまぐち・かずひろ

1956年北九州生まれ。
1986年家具工房独立。注文家具製作をスタート。
1995年うきは市吉井町(現在の場所)に工房をかまえる。
この頃からカッティングボードやうつわを作りはじめ、
各地で展示会をスタート。
2018年jingoroをオープン。
jingoro
山口和宏さん

その2
家に木があるだけで。

伊藤
山口さんの作品を、
私が初めて買ったのは、これなんです。
山口
ありがとうございます。
かなり前のものですね。
伊藤
どこで買ったのか、全然覚えてないんですよ。
時には器みたいになったり、
時にはカッティングボードとして使っています。
シミもあって、全然手入れしていないのが
バレバレなんですけど、いい感じなんです。
山口
これ、フランスの田舎の古いカッティングボードを見て、
つくりたくなったんですよ。
刃物の跡がたくさん残り、中はへこんでたり、
角が丸くなったりとかしているようなものでした。
自分が作ったものも
そういうふうになってくれたらいいなぁと思って、
つくり始めたんです。
だからぼくも結構いい加減に使っているんですよ。

▲山口さんの工房で見せていただいたカッティングボード。

伊藤
じつは、きょうは、‥‥ジャジャーン!
伊藤
イタリア食材屋さんで、お皿を持って行くと、
盛りつけてくれるところがあるんです。
だからいつも山口さんのカッティングボードと
籠を持っていき、こうして盛りつけてもらうんです。
あと、鍋敷きみたいにも使っていますよ。
山口
鍋敷きの場合、覚悟して使わないと。
焼けたり、ちょっと黒っぽくなったりしますよ。
伊藤
でもね、私、バンバン使っているんですけど、
跡がつくのも味だと思っていて。
嫌がる方も、やっぱりいらっしゃいますか。
山口
時々。最近は少なくなってきました。
(伊藤さんの使っているカッティングボードを持って)
あ、重くなってる!
作ったときより重いです。
たぶん、油とか、いろんなおいしいものを
吸っているんですね。
成長してる。

▲伊藤さんのアトリエにて。

──
重くなるんですね。
乾燥していくのかと思ったら。
伊藤
本当、なんか、ツヤツヤ、シットリみたいな。
山口
すごくいい味が出てます。
これがいいんですよね。
伊藤
そして真ん中が減ってますね、やっぱり。
山口さんのカッティングボードは、
一見すると正方形の板みたいな感じなんですけど、
きちんと面取りされているんです。
だから手に取った感じが柔らかで。
私がカッティングボードっていうものを意識したのは
20歳の最初の頃で、ハワイのノースショアっていう、
サーファーのメッカにホームステイしたときのことです。
ホストファミリーの太ったおじさんが
サーフィンカメラマンで、
日がな1日、海が見える高台で、
甘いものを食べながら波を見ているんです。
「あ、いい波が来た」って言うと、
車に乗って撮りに行くんですね。
その弟さんがベジタリアンで、
家でご飯をつくるとき、私がまな板を使って肉を切ったら、
「あ、だめだめ」と言うんですよ。
「これは兄さんが使う肉切りで、ぼくのは別にして」って。
わたしの実家では、わりと大きいまな板はなんでも用で、
あとは果物を切る用があったかな、
そのくらいの使い分けかただったから、
ちょっとびっくりしました。
でもその後、スタイリストの修業をしている時代に、
「まな板も着替えていいじゃない?」
と思うようになったんです。
山口
ええ、ええ。
伊藤
器だけ揃えるんじゃなくて、
こういうときにはこのボードみたいな。
私、まな板っていうよりも、
なんていうのかな、「木の器」の感覚なんです。
それでだんだん増えていって、
スウェーデンのものづくり学校に行ったときに買った
生徒さんが作って購買で売っていたものや、
パリで買ったもの、横浜中華街で見つけたもの、
いろいろあるんです。
ひとつずつ違うし、ガタガタしていたりするんですけど、
どれも、かわいいなぁと思って。
山口
いいですね、かわいいですね。
伊藤
まな板っていうと、長方形っていうイメージがある。
でも正方形だっていい。
山口さんのつくるオリジナルのカッティングボードは
穴があいた柄(え)があるんですけれど、
その柄を取ってもらって、正方形にしてもらったんです。
「ただの正方形がいい」って言ったら、
山口さん、ちょっと困った顔をされて(笑)。
山口
すごくシンプルなだけに、
むずかしいなぁと思ったんです、
真四角の道具を自分がつくるとしたら、
どういうふうにすればみんなに喜んでもらえるのかなって。
本当に、作業の工程としては、シンプルなんです。
木取りをして、かんなをかけて磨き、
最後に面を取る。
磨くのも何工程かあるんですが、
それにしてもシンプルです。
伊藤
以前別の木工家の方に、
「こういうのはないんですか」って聞いたら、
「それじゃまるで仕事をしてないんじゃないかと
思われるかもしれない」って。
山口
わかります。
ところが、作ってみたら、すごく楽しかった。
おもしろがってつくりましたよ。
木目が1枚1枚おもしろくて。
山桜の原木を買って、板の状態にして、
時間をかけて天然乾燥しておくんですが、
そのストックの乾燥材をほぼ全部使ってしまうくらい、
たくさんつくりました。
伊藤
どのくらいかけて乾燥させるんですか?
山口
厚みが3センチくらいで1年って言われています。
もちろん木の種類によるんですけど、
厚くなるほど時間がかかります。
それぞれ木目とか色が違うし、
硬さも違う、同じ山桜なのに。
具体的にカッティングボードをつくるときは、
木取りをしてから、
両面をカンナで削る機械にかけますが、
仕上がりの厚みより少し厚めに仕上げるんです。
その状態で、今回、1ヶ月ちょっと置いたんですけど、
木の反りなどを出します。
無垢の木だから、作った後も、どうしても、
置かれた環境で、多少反ったりもすることがあるんですね。
反ったり、割れたり、ねじれたりするのは、
ぼくらにとってはすごく不都合なんですけど、
木にとっては当たり前なことです。
製材をするって、たぶん、服を着た状態から、
脱いだ状態になるわけですよね。
自分の置かれた今の環境にパッと出てしまうから、
きっと変化するんだと思うんです。
ですから、できるだけそういうことがないように、
長く置いて、木の癖を出してから
あらためて仕上げるようにしています。
伊藤
さらに言うと、このカッティングボードの「完成」って
使うかたがたの手元で、かもしれませんね。
カッティングボードとしても、
木の器としても。
食材や料理をのせて完成する。
これだけでは見ないから、
なおさら、シンプルなものがいいんだと思います。
山口
ぼくも、そのほうが出番が多いと思います。
伊藤
山口さんは、ご自身のカッティングボードを
どういうふうに使われますか?
山口
まず、パン皿ですね。
チーズ、ハム、パンとワインがあれば、
とてもしあわせです。
スペインの田舎で巡礼の旅するお父さんの映画で、
夕方、宿にたどり着いたときに、
ほかの宿泊客といっしょに、
外にある古い木のテーブルで、
ワインを飲んだり、パンを食べたりしていたんですよ。
それが忘れられなくて。
そういうところに登場してくるような
木のボードがつくれたら
楽しいだろうなぁと思っていました。
もう20年近く前の話ですけれど。
伊藤
たしかに外国って、外で食べることが多いですよね。
すごく、いいなぁ。
『君の名前でぼくを呼んで』っていう映画にも
そんなシーンがありました。
具体的にはカッティングボードをつくりはじめる
きっかけはあったんですか?
山口
そういったボードを作ってみたいと思っていたときに、
「四月の魚」でいろんな木の古い道具を見たんですよ。
それを片っ端から買って、
どういった木が使われているんだろうか、研究して。
そうやって参考にしたんです。
カッティングボードには合わない匂いの木もありますし。
伊藤
匂いの強い木があるんですね。
山口
乾燥してる状態では、そんなに匂いは立たないんですけど、
熱湯をかけると、匂いが強まったりします。
伊藤
食卓に木のものが入ると、なんか和むというか‥‥、
なんていうのかなぁ、いろんな素材があるのがいいって、
服と一緒だなぁと思ったんです。
同じ黒い服でも、全部同じ素材じゃなくて、
フワフワのセーターとか、
ちょっと光っているエナメルの靴とか、
いろいろあっていい。
テーブルの上も、陶磁器やガラスだけじゃなく、
木があると、やっぱり、いいんですよね。
(つづきます)
2019-03-26-TUE