COLUMN

温泉という名のバスルーム

須長理世

この1週間は、いろいろなかたに書いていただいた
「おふろ」についてのエッセイを掲載します。
さいしょは、ながく北欧で暮らし、
現在は長野でショップを経営する、
須長理世さんです!

すなが・みちよ

1979年東京生まれ。NATUR店主
2002年、日本で日本画を学んだ後、
スウェーデン王立美術大学KONSTFACK大学に留学。
2003年、ヨーテボリ市HDK大学工芸学部
テキスタイルアート学科に入学。
2003年、tarente2003入賞。
2006年、同校大学院を卒業、
企業とのマテリアル開発、
ヨーテボリオペラでの衣装表面加工に携わる。
2009年、ポーラ美術振興財団在外研修員として
Gortenburg Operaにて3 XBOLERO,MOZARTS REQUIEM,
SWEENY TODDの衣装表面加工に携わる。
2009年に帰国。
須長檀とともに星野リゾートが運営する
複合施設ハルニレテラスにて
北欧、主にスウェーデンに特化した
雑貨、家具、工芸、デザインのセレクトショップ
NATURを開店。

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わたしのバスルーム‥‥というと
私は我が家のお風呂ではなく
温泉をおもい浮かべてしまいます。

わたしの温泉好きの歴史は、
スウェーデンから軽井沢へ移り住んだ10年前に遡ります。
帰国後、縁もゆかりもない軽井沢に暮らし始めた当初は、
裸でお湯を共有することに
少なからず抵抗を感じていた私でしたが、
秘湯という言葉の響きにめっぽう弱い旦那が、
ひなびた温泉地ばかりへ私を連れ回し、
そのうちすっかり温泉好きになってしまいました。

長野県に暮らしてから、
自宅のお風呂へそれほど快適性を求めなくなったのは、
温泉に恵まれた土地に暮らしているからだと思います。
温泉地に暮らす方の中には
ご自宅のお風呂にはほとんど入らないという方も
いらっしゃるようです。
ですから、自宅を建てた際には
風呂場のサイズは最小限に。
石鹸置きや鏡、蛇口など余計なオプションは全て排除。
結果的に余計なものがなければ汚れが溜まりづらく
掃除が簡単になりました。

お客様が泊まりにいらしてもタオルを持たせ
温泉をご案内するのが我が家の暗黙のルール。
暮らしてからわかったことでしたが
長野県は日本でも有数な温泉地でして、
軽井沢町内では4箇所の日帰り入浴ができる
温泉が沸いています。
車を30分も走らせれば個性豊かな様々な温泉を
1年中楽しむことができます。
特に午前中に入る温泉は格別です。
仕事前に温泉に入って、
かすかに硫黄の香りをただよわせながら仕事をするのは、
昼間からビールを飲む罪悪感と優越感に
少しだけ似ています。

温泉好きな我が家の車には
思い立てば温泉へすぐに行けるように
温泉セットが常備されています。
お風呂セットを入れるのは
長野県戸隠で作られるりんご収穫用の
根曲がり竹の籠を職人さんに頼んで
一回り小さく作って頂いたもの。
竹の籠は水にも強く、軽くて丈夫で、
中身が一目で確認できて、
ロッカーに入れることができますので
とても重宝しています。
その籠にフェイスタオルと手ぬぐいだけを入れた
シンプルなお風呂セットです。

自宅から最も近い温泉は
車で10分程度のところにあります。
幼稚園に息子を迎えに行ったその足で
そのまま温泉に向かうと湯船で
幼稚園のママと子供とばったりということもしばしば。
帰るときには子供たちを
パジャマへ着替えさせてしまいます。
温泉は育児にもとっても優しいのです。
温泉を大きなお風呂と呼ぶ長男にとって、
温泉は自宅のお風呂の延長線にあるのでしょう。

休日には少し足を伸ばすこともあります。
山の頂上にある展望露天風呂は
野性味溢れた開放的な温泉で
子供たちも大好きです。
こちらは、お空のお風呂と呼び、
秋になれば湯船いっぱいにりんごを浮かべた
長野らしいかぐわしい林檎湯が始まり、
こちらは林檎のお風呂と我が家では呼んでおります。
鉄分を多く含んだお味噌汁に浸かっている気分が楽しめる
個性的な温泉は、海外からのゲストが来るとサプライズに。
疲労回復には泡をまとった湯に浸かり、
とろみのあるいかにも肌に良さそうな湯は
毎日浸かりたいお湯です。

その日の気分に合わせ自分達が望む
温泉という名のバスルームを持てるのは
温泉地暮らしならではの贅沢だなと思います。

2019-04-12-FRI