COLUMN

おふろにまつわる話

須長檀

いろいろなかたに「おふろ」についてのエッセイを
書いていただく1週間。
きょうは、1回目に登場した
須長理世さんのだんなさまでもある、
須長檀さんです。
むむむ、ご夫婦で同じお風呂について語っても、
思いの丈には、こんなふうなちがいが?!
あわせてぜひお読みくださいね。

すなが・だん

1979年スウェーデン生まれ。デザイナー。
スウェーデン王立KONSTFACK大学院卒業後、
Sunaga Design Office 設立。
Swedenメーカーへデザイン提案を行う。
2008年、Nordic Design Award 受賞。
2009年、SWEDEN ELLE Design Award,
Year of Furniture受賞。
軽井沢にSUNAGA DESIGNと
デザインクラフトショップNATURを設立。
Noism『NINA-物質化する生け贄』や
『solo for 2』の椅子、
unit-Cyan『シアンの家』の美術等、
舞踊作品でのオブジェデザインも担当している。
2017年よりRATTA RATTARRクリエイティブディレクター就任。
2018年 ELLE DECOR INTERNATIONAL
DESIGN AWARD, Japanese social design project受賞。

スウェーデンの西海岸にある
小さなアンティークショップの倉庫の片隅に転がっていた
無骨な陶器製の洗面器は、
スウェーデンでよく見られる古い塩釉のニシン保存壺と同じ
深い土色をしていました。
埃を拭うとHöganäsというスタンプが
少し傾いて押されているのを見つけて
(Höganäsは100年以上の歴史のある
スウェーデンの陶器メーカー)
その洗面器らしからぬ香るような土としての材料の主張が
どこから由来されているのかを知りました。
手についた泥や庭で収穫した野菜の泥を
ゴシゴシと洗い落とすにはうってつけの洗面器で
まさに僕らが探し求めていた洗面器そのものだったのです。
この土管のような無骨な洗面台との出会いから
我が家のお風呂の設計が始まりました。

次に僕らが探し始めたのは洗面器の前に掛ける鏡でした。
しかし、鏡探しは思いのほか難航することになります。
多分、ガーデン用として屋外で使われていたのか、
もしくは工場などで使われていたに違いない
個性的な洗面器と一緒に並べることができる
なかなか相性の良い鏡を
見つけることができなかったのです。

ある日、店舗用の商品の買い付けをしていると
倉庫の壁に飾られていた油絵の具で描かれた
1枚の田園風景画に惹きつけられました。
早速、その絵を購入して自宅に戻りナイフで絵を剥がすと
立派すぎない程よい控えめな彫刻が全面に施された
古い大きなオーク材の額だけが残りました。
その額のサイズに合わせて作った鏡を
はめ込んで仕立て直すと
ぴったりと洗面器に調和してくれたのでした。

洗面器と鏡が揃うとあとは余白を埋めるように、
順調に洗面器の相棒たちが集まり始めました。
すっかり曇ってぼやけてしか映らなくなってしまった
木製フレームのアンティークの鏡と
真鍮板を曲げたアーチ状の小さな鏡。
クラシックな壁付けの黒い棚。
収納の金具は全て仕上げをしていない
真鍮製のものとしました。
タオル掛けは、古い真鍮製の手すりの部品を利用して
新しい真鍮のパイプを組み合わせました。
2年前はまだ、ピカピカでよそよそしかった金具も、
ようやくくすんだ好ましい風合いを纏わせ始め
洗面器に馴染み始めました。

タオルとバスローブは
スウェーデン製のごわごわした麻製です。
日本製のふわふわなバスタオルには
到底かなわない硬い拭き心地ですが、
すぐに乾いて何年たってもへたらない
大工道具のような頼もしいタオルです。
吸水性にも乾燥性にも優れているので
バスタオルは使わずに
フェイスタオルを少し多めに所有しています。

お風呂場作りはまだ終わっていません。
少し窮屈そうにオークの天板にはめ込まれた
洗面器の横には、
ちょうど洗面器もう1台分の空間が残してあります。
いつか、もしもう一つ同じ洗面器を
見つけることがきたらと思って空けてあります。
2台並べて、その周りにタイルを貼ろうか、
真鍮の板を貼っても良いかもしれないと考える時間を
これからも楽しみたいと思います。

2019-04-13-SAT