ぼくの宝石
いろんなかたに「おふろ」について書いていただく1週間。
きょうは、高知県の山あいに暮らす、
「ほぼ日」でもおなじみのお茶やさん、
tretreの竹内太郎さんです。
ああ、こんな暮らし、うらやましいなぁ。
たけうち・たろう
1975年3月13日高知県生まれ。
高校生まで高知で過ごし大学から京都へ。
大学卒業後は京都で老舗麺料理店に勤め、
主に外販部門を担当し39歳で退職。
同時に高知県・仁淀川町に引っ越し
tretreを立ち上げて、摘み草茶や木を用いた
アメニティを地元の皆とつくっている。
■tretreのウェブサイト
パチッ、パチパチッ。
木のはぜる音とともに、鉄製の湯船の底から
じんわりとぬくもりが上がってくる。
もうもうと立ちのぼる湯気にまじり、
ふんわり鼻先をかすめるのは煙のにおい。
そう、我が家のお風呂は薪風呂である。
ぼくは高知県・仁淀川上流の山あいにある、
築120年超のちょっと古めの家に暮らしている。
お風呂は薪火で焚くむかしながらの五右衛門風呂。
趣味や道楽で別設えしたものではなく、
ふだんづかいの唯一のお風呂が薪風呂なのだ。
山の暮らしのここちよさをヒントに
モノづくりをしたいと思い、
それなら自分が山に暮らさなきゃ、ということで、
住み慣れた京都の街から約5年前に夫婦で引っ越した。
ぼくは高知県生まれなのでUターン。
奥さんは生まれも育ちも京都なのでIターンとなる。
うちの集落は、
南国土佐といっても標高の高い山あいにあって、
冬本番になるとマイナス10度まで気温が下がったりもする。
そんな寒い一日のおわりに
薪で焚いたお風呂につかって芯までぬくもると、
寒さにちぢこまったからだもこころもカンペキにほぐれる。
なぜか電気やガスで沸かしたお湯とは、
ぬくもりかたがひと味ちがうのです。
しかも湯冷めしにくいのが薪風呂のいいところ。
どうも、湯船につかりはじめた湯温より、
出るころの湯温のほうが高くなっていると
しっかりからだがあたたまって湯冷めしにくいみたい。
流行する風邪の警報もどこ吹く風で、
こちらに引っ越してから風邪知らずで過ごしている。
そして薪風呂には入浴以外にもたのしみがある。
うちの場合、薪をくべる焚き口は、
台所からお勝手を出てすぐの場所にあり、
ちょくちょく火のあんばいを見るのに都合よくできている。
となると、食材を焼きたくなるのがヒトの性(さが)。
じゃがいもやたまねぎ、さつま芋などを
皮つきのままアルミホイルにくるんで窯に入れておくと、
だいたい2人ぶんの入浴時間で焼きあがる。
アチアチのアルミホイルをサササッとめくって
天日塩をひとふり。
ふうふうほうばる丸焼きの、
トロンとあまいおいしさと言ったら、もう。
田舎ばかり礼賛するつもりは露ほどもないけれど、
田舎のほうが敷地が広くて暮らしに自由がきくのは確か。
たとえば火を焚いてお風呂に入ったり、
庭に七輪をだして鮎や猪肉、干物を焼いたり。
家は暮らしの宝石箱でなければならない、
とはル・コルビュジエのことば。
じゃあぼくにとっての宝石とはなんだろう?
自家用の茶畑や菜園、それに果樹園、
陽当たりのいい南向きの縁側、
屋根ごしの天の川などを挙げたいが、
やはり薪風呂もそのひとつ。
ちょっと古めの家なので、いずれ手を加えて
よりよい宝石箱にしていきたい気持ちはある。
たとえば台所のリフォームや薪ストーブの導入など。
でもぼくたちにとっての暮らしの宝石は、
いまでもじゅうぶんに輝いている。
こういう、きもちのいい暮らしのなかから、
ぼくらなりのモノづくりを探っていくことができれば
なによりしあわせだと思う。