fog linen workオーナーの関根由美子さんのお宅を、
伊藤まさこさんが訪ねました。
シンプルで気取らない、すっきりした空間は、
まさしく関根さんそのもの。
家のこと、とりわけバスルームのこと、
関根さんのルーツのこと、
そして、ふたりのものえらび、ものづくりについて、
たくさんおしゃべりをしましたよ。
3回にわけて、連載します。

関根由美子さんのプロフィール

関根由美子 せきね・ゆみこ

ふだん使いをテーマに、リトアニア産の麻素材で。
シンプルなデザインのキッチンリネンやベッドリネン、
ウエアなど、日々の暮らしに寄り添う布製品と
雑貨を展開する、下北沢「fog linen work」オーナー。
すべてのアイテムがオリジナルで、
関根さんはそのデザインと企画を行なっている。
下北沢のショップではオリジナルリネン製品のほかに
インドで作っているワイヤーバスケットや雑貨類、
世界各国のアクセサリーやインテリア雑貨を販売。
「ほぼ日」では「やさしいタオル」
「ほぼ日手帳」などでコラボレーションをしています。

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その1
古本屋から雑貨屋へ。

伊藤
関根さん、おじゃまします。
うわぁ、ものが少ない!
すごい、どうしてだろう?
関根
いらっしゃいませ。
ほんと、どうしてだろう?(笑)
伊藤
しかも扉のある食器棚じゃなくて、
オープンな棚に収納をしているんですね。
関根
この棚、わたし、自分でつけたんですよ。
伊藤
ご自身で? すごい。
関根
でもね、いつかドンって
取れてるんじゃないかなと、すごく心配。
水平が出ていないし、
浮いているところもあるし。
どうしてオープンな棚にしたかというと、
うちは、泊まりに来る人が多いんですね。
外国の人とか、長期滞在の人とかもいて。
だから勝手にいろいろできるように、
オープンにしているんです。
伊藤
1階はゲストルームだと
おっしゃっていましたものね。
キッチンのある2階も自由にどうぞ、
ということなんですね。
関根
はい。1階にはお客様用寝室がひとつ、
それからシャワーとトイレが、
3階のわたしたち用とは別に設けてあるんです。
伊藤
いいですね。
関根
わりと稼働率がよく、
いろんな人が泊まりに来るんですよ。
伊藤
あんまりお構いはしないんですか?
関根
お構い、全然しないんです。
盛岡にいた頃、両親も、
よく外国のお客様を招いていました。
あるとき、フランスの田舎町と
わたしの住んでいたところとで、
人の交換をしよう、っていうことになって、
それをうちの母と、母のお友だちグループが
めんどうをみていたんです。
どうやって実現したのかはわからないんですけど、
フランスにいた誰かの伝手で、
モンド・マルサンっていう、
ボルドーの近くのちっちゃい町から、
1回に12人ずつぐらいお呼びして、
盛岡のお家に1カ月ホームステイをするんですよ。
そうするとこんどは盛岡の人たちが
モンド・マルサンに行って、ホームステイをして。
若い人だけじゃなくて、60代ぐらいの人もいれば、
主婦のかたがいらっしゃったり。
伊藤
おもしろいですね。
しかも、その時代に珍しいですよね。
関根
不思議ですよね。しかも盛岡で。
だからわたしもぜんぜんへいきなんです。
伊藤
それにしても、ものが少ないですし、
おふたり暮らしと聞きましたが、
「だれか」の気配がない。
どうしてなんだろう?
関根
わたしが、引っ越しが多かったからかもしれません。
家の引っ越し、会社の引っ越し、
20回近く経験しているので、
また引っ越すかもって思っていると、
ものを、あまり増やさないようにしようと考える。
伊藤
わたしも引っ越しは多いほうですが、
そのたびにものを減らす努力はしていても、
いつもクローゼットは一杯になってしまうんです。
関根
それでも伊藤さんのお宅を誌面で拝見すると、
収納をきれいになさっているから、
とってもシンプルできれいですよね。
伊藤
ありがとうございます。
バスルームも拝見していいですか?
関根
どうぞ、どうぞ。
でも、ほんとうにふつうですよ。
ユニットバスですし。
伊藤
ううん、かわいい。
とってもシンプルで、いいですね。
ふつうのユニットバスでも、
こんなに“関根さんらしく”できるんだ。
同じ柄のバスタオルが2つ掛かっているのも、
とてもかわいい。
さすがにリネンが多いですね。
関根
こうして自分で使えるので、
麻の仕事をしていて本当によかったなと思います。
このテーブルクロスもそうですね。
伊藤
家具は古いものが多いですか?
関根
古い‥‥といっても、
ダイニングテーブルに使っているのは、
ずいぶん前の、MUJIの作業台なんですよ。
この椅子だって、大学を卒業して最初に働いた家具屋さんの
B品セールで1脚500円で買ったものです。
その後、「いつかいい家具を買おう」って
引っ越しのたびに思いながら、
結局、ずっと使っているんです。
伊藤
もともと家具の会社にいらっしゃったんですね。
関根さんのこと、知っているようで知らないかも。
どんなふうにいまのお仕事に就かれたのか、
教えていただけますか。
関根
学校を卒業して就職したのが家具の会社で、
5人ぐらいの小さい会社で、
すごくお世話になりました。
そこには2年間しかいなかったんですが。
フィリピンで家具をつくっていたので
出張に行かせてもらったり、
ヨーロッパの展示会も連れて行ってもらったり、
店をオープンするっていうので、立ち上げを手伝ったり、
そういうことをキュッとやりました。
辞めてから、赤坂に「ハックルベリー」っていう
小さい洋書屋さんがあったんですけれども、
そこでお手伝いをするようになりました。
ちょっと変わった本屋さんで、
電通と博報堂の人を中心に、6人のオーナーがいました。
みんなそれぞれお金を出して、夢を買おうっていうので、
ニューヨークのリッツォーリ書店から
本をセレクトして送ってもらったりと、
小さいけれども素敵な本屋さんだったんです。
入ったきっかけは、馬詰佳香さんという、
いま鎌倉でLONG TRACK FOODSを
やってらっしゃるかたが店長さんで、
誘っていただいたんです。
ところがだんだん都内に洋書屋さんが増えてきて、
お客さんが来なくなり、本が売れなくなり、
どうしようっていう話をしていたときに、
わたしが「ニューヨークに行って古本を買いたいです」
っていうふうにオーナーのひとりに言ったんですね。
そうしたら
「自分のお金でするんだったらいいよ」って言われて。
「お休みをあげるから、買うのと旅費は自分で、
そして買ってきた本は店先に置いて売ればいいよ」って。
その「ニューヨークに古本を買いに行く」というのが
自分で仕事をするスタートになりました。
伊藤
それは、どうだったんですか?
関根
その頃は、そういうことをやっている方がいなかったので、
古本を持って帰って来ると飛ぶように売れました。
もう25年ぐらい前のことです。
そうこうしてるうちに、
ニューヨークの古本屋さんでほしい本も買い尽くし、
サンフランシスコに行ったり、
ポートランドに行ったり、
アメリカ中のあちこちに行って、
さらにはヨーロッパまで行き、
毎月どこかに行って買って帰って来るという生活を
1年半ぐらい続けました。
伊藤
関根さんが仕入れたのは、
どんな本だったんでしょう。
関根
主に売っていたのは、
イラストがある料理の本です。
よく、料理研究家の方が買ってくださいました。
あっという間に売れるんですが、
仕入れはほんとうにたいへんで。
郵便局まで持って行って日本に送る分と、
持ち帰る分もあったので、
スーツケースは壊れるし、リュックは破けるし、
もう、このままだと身体をこわすかも!
と思うくらいでした。
そうこうしてるうちに、サンフランシスコで、
バスケットを売っている会社の人に会ったんです。
とてもステキだったうえ、日本に卸していないと知り、
じゃあ、わたしが日本に持って帰って売ってみたい、
というところから、雑貨業のほうに入りました。
伊藤
それがいまの原点ですね。
関根
はい。本は本で楽しかったんですけど、
古本は、売れたからといって、
また同じものが手に入るわけではない。
しかも自分で選びに行かないといけない。
売るときも1冊1冊違うので、
現物を見てもらうのに、
お店に持って行ったり、
うちに来て選んでいただかないといけない。
当時はワンルームマンションに住んでいたので、
ベッドの上に座って商談ということもありました。
伊藤
それがおいくつのときですか?
関根
26~7のときです。
それでだんだんと雑貨の輸入が広がってきて、
そうこうしてるうちに
『雑貨カタログ』とかという本で紹介してもらい、
卸先が増えていきました。
そうして、なにか布ものも欲しいな、
と思うようになったんです。
大伯母がリトアニアで和食のお店を始めたので、
じゃあ、リトアニアのリネンを探しに、
行ってみよう! って。
伊藤
それで、リトアニアに!
(つづきます)
2019-04-22-MON