fog linen workオーナーの関根由美子さんのお宅を、
伊藤まさこさんが訪ねました。
シンプルで気取らない、すっきりした空間は、
まさしく関根さんそのもの。
家のこと、とりわけバスルームのこと、
関根さんのルーツのこと、
そして、ふたりのものえらび、ものづくりについて、
たくさんおしゃべりをしましたよ。
3回にわけて、連載します。

関根由美子さんのプロフィール

関根由美子 せきね・ゆみこ

ふだん使いをテーマに、リトアニア産の麻素材で。
シンプルなデザインのキッチンリネンやベッドリネン、
ウエアなど、日々の暮らしに寄り添う布製品と
雑貨を展開する、下北沢「fog linen work」オーナー。
すべてのアイテムがオリジナルで、
関根さんはそのデザインと企画を行なっている。
下北沢のショップではオリジナルリネン製品のほかに
インドで作っているワイヤーバスケットや雑貨類、
世界各国のアクセサリーやインテリア雑貨を販売。
「ほぼ日」では「やさしいタオル」
「ほぼ日手帳」などでコラボレーションをしています。

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その2
リトアニアへ。

伊藤
大伯母さまは、リトアニアで、
リネンの仕事をなさっていたわけじゃないですよね?
関根
そうじゃないんです。ふつうの主婦だったんです。
たまたまリトアニアから留学生がホームステイしていて。
その間に、リトアニアがロシアから独立したので、
情勢が危ないから家族も呼びたいと、
大伯母の家にご家族が引っ越していらして、
2年ぐらいいたんです。
そしてやっぱり国に帰りたいっていうときに、
むこうに帰っても仕事がない、となって、
大伯母が手伝って、
みんなで出資して和食の店を始めよう、って。
伊藤
えっ?!
大伯母様は、じゃあ、
そのご縁でリトアニアに?
関根
そうなんです。
といっても大伯母は基本的には日本に住んで、
ちょくちょく行っていたという感じですね。
伊藤
すごい‥‥。でも、そうでした、
先ほど話してくださった関根さんのご両親も
よく外国のお客様を招いていたというし、、
おばあ様は、たしか‥‥。
関根
そうです、そうです。
「みちのくあかね会」(*)。
伊藤
創立メンバーでいらしたんですよね。
盛岡の、戦争で夫を亡くした女性にも仕事を、って。

(*昭和33年に、羊毛を手染め、手紡ぎ、
手織りした織物をつくる「盛岡婦人共同作業所」が発足。
昭和37年に「株式会社みちのくあかね会」となる。
現在も、工程・運営のすべてを女性が行なっている。)
関根
はい。祖母は医者でしたから、
祖母自体が織ったりは全然してないんですけれども、
会社の立ち上げを手伝いました。
思えば、祖母も大伯母も両親も、
すごくオープンな感じで、
祖母の家にもいつも留学生がいましたね。
わたしも小さいときからそんな環境で。
伊藤
そうなんですか!
それで納得がいきました。
いま、外国のお客様をどうぞどうぞ、
長くいてくださいってお招きしたり、
リネンを探そうとリトアニアに行かれたのも、
関根さんにとっては、きっと、
躊躇するようなことではなかったんですね。
関根
もう、そのときは、本当に生活のためっていうか。
ここで何か稼ぐ手段を見つけないと
暮らしていけないって思っただけなんです。
「何か買い付けをしたい」と思って‥‥。
伊藤
リトアニアでは、すぐにリネン製品の
手配ができたんですか?
関根
ところが、探したかったものを
売っているお店がまったくなくて!
リトアニアはロシアから独立してまだ間もなかったので、
そもそもお店なるものがそれほどなく、
あっても普通のスーパーマーケットで、品薄でした。
お土産物屋さんに行っても、琥珀のアクセサリーと
結婚式用のドレスみたいなものがあるだけ。
普通の布巾とかエプロンとか、
みんながふだん使っている麻の布って、どうしてるの?
どこで手に入れるの? と聞いたらば、
「つくってもらえばいいじゃない」って言うんです。
大伯母の和食の店でも
座布団カバーや暖簾が麻だったんですが、
そういうのは近所のおばあさんに縫ってもらったと。
伊藤
近所のおばあさん!
関根
そういう人に頼んだら? って。
でも、日本で仕事にするには枚数が要る。
きっと何十枚もは縫ってもらえないし、
おばあさんも、その人たちも輸出の手続きはできない。
毎回、毎回、人を通すのも、
いずれ大変になるなと思ったので、
これはひとりでなんとかしなくちゃって、
電話帳で工場らしきところを調べて‥‥。
伊藤
電話帳!
関根
リナス(LINAS=リネンのこと)って書いてるところに
電話をしたんです。
といっても、3軒ぐらいしかなかったんですよ。
だから、全部に電話してみて、
日本に商品を買いたいみたいなことを英語で言ったらば、
1軒目は言葉すら通じず、すぐガチャンと切られて、
でも2軒の人は話を聞いてくれました。
行ってみたかったんですが、場所が首都から遠かったので、
資料を送ってくださいと言ったらば、
小さい封筒で、リネンの1センチ角ぐらいの端切れが
3つぐらい入ったものが郵便で届きました。
「この生地があるから、何がほしいのかを言ってください」
そうやっていまの工場とおつきあいがはじまったんですが、
わたしは自分で商品を企画しようなんて、
そのとき、まったく思っていなかったんです。
伊藤
あるものを買おう、と思っていたんですね。
関根
そう思っていました。
それまではアメリカで、できあがった製品を買って、
日本に持ち帰って売っていたわけなので、
リトアニアでも
製品になったものを買おうと思っていたんです。
だから「こういう商品をつくってください」という
指示書を書く仕事が、全然わからなかった。
伊藤
どうなさったんですか?
関根
昔働いていた家具の会社の人で、
そういう仕事をしていた人に、
どういうふうに指示書を書いたら
海外の人に通じるのか、教えてもらいました。
それでなんとか仕様書をまとめて、
キッチンクロスを30枚と、
エプロンも30枚ずつ、3型ぐらいお願いしたらば、
3週間ぐらいでサンプルが郵便で届いたんです。
伊藤
ああ、ドキドキ。でも早かったですね。
ちゃんと、できていましたか?
関根
はい! 「思った通りのが来た!」って。
リトアニアのひとたち、
きちんとしてるんですよ、すごく。
伊藤
「weeksdays」でもサンプルをお願いして、
あがってくるのがすごく早かったので驚きました。
関根
ありがたいです、本当に。
伊藤
それを、どこで売られたんですか?
まだfogのお店をつくられる前ですよね。
関根
そのときは、バスケットを卸しているお店があったので、
その方に声をかけました。
すぐになくなったので、
次の月は200枚ずつとかっていうふうにまた注文すると、
またそれが届いて、みたいな。
そうしてだんだん広がっていって。
伊藤
それが、いまに至る?
関根
はい、そうなんです。
伊藤
そして最初のお店をつくられたんですね。
たしか下北沢の周辺で、
本当にこじんまりしたお店でしたね。
わたしが『まいにちつかうもの』っていう本を出したときに
紹介させてもらったのを覚えています。
そのときの記事、自分で書いたのを見ても、
関根さんのつくられる麻の製品について
わたしの思っていることは、いまも変わりません。
「まとめて買ってます」
「どんどん使って毎日洗うと気持ちいいですよ」って。
当時、こういうものが日本にはなくて、
海外へ行くたびに買っていたんですが、
どうしてもいろんな柄のものになってしまうんですね。
かわいい柄のリネンは、
旅先で1枚、2枚買うと盛り上がるものの、
家にふえていくと、統一感がなくなっていくんです。
そしたら、関根さんがつくられているfogを知って、
「もう、全部換えてしまおう!」みたいな(笑)。
関根
全部(笑)!
伊藤
そうなんです。
たとえば野田琺瑯もそういう感じで、
食材を冷蔵庫にしまうのに
いろんなプラスチック容器を使っていたんだけれど、
白い琺瑯がとても気に入って、全部換えたんです。
fogのリネンに出会ったときもそう思いました。
しかもとても安価でよかったんです。
関根
キッチンクロス、最初の頃は
いまより安価でしたものね。
伊藤
リネンはずっとリトアニアですか?
関根
はい、リネンは全部リトアニアです。
伊藤
最初の工場のまま、
つくる量が増えていったんですか?
関根
最初からずっと同じ工場です。
わたしが最初訪ねて行ったときは、
もう家庭科教室みたいな感じで、
1部屋のなかに裁断するところがあって、
縫う人が4人ぐらいいただけの、
ちっちゃな工場だったのが、
なんと、いま、ビルになったんですよ。
伊藤
すごい!
リトアニアの経済にも貢献しているんですね。
関根
いや、いや、わたしたちは規模が小さいので、
そうとは言えないと思うんですけれど、
工場は着々と大きくなっているんですよ。
伊藤
いまも、年に何度も行かれるんですか?
関根
年にだいたい2回です。
基本的には電話とメールでのやり取りで、
1日に何回もしてるので、
国内の工場と同じような感覚なんですよ。
「ここ、どうするんだっけ?」
「こうしてください」みたいなことが
すぐに伝えられる。
伊藤
それでも、やっぱり年に2回は、実際に足を運ぶ?
関根
そうなんですよね。
会わないことには片づかないことが、
いろいろあって。
伊藤
たしかに、ものをつくっていると、
つくり手や工場のかたに会うことが
いかに大切かわかります。
全然違いますよね、仕上がりも、進むスピードも。
関根
そうですよね。
わたしが行くときは、工場の人にしてみたら、
関根が朝から晩まで難題を言いに来たぞ、
みたいな感じかもしれないけれど(笑)。
伊藤
ずっとお付き合いがあっても、
いまだに「えっ?」と思うことはあるんでしょうか。
関根
「えっ!」ていうことはないんですけど、
なかなか解決しない問題はあります。
たとえば端切れ。
布を使って製品をつくると、
端切れがどうしても出てしまいます。
いま、端切れだけで家1軒分ぐらいの倉庫があるんです。
手を変え品を変え、端切れセットを売ったりするんですが、
なにせ、どんどん出て来るので、なくならなくて。
使いみちのアイデアをインスタで募ったりしてるんですが、
抜本的な解決策は見つかりません。
伊藤
裂き織りにも短いですしね‥‥。
(つづきます)
2019-04-23-TUE