イタリア・トスカーナの革製品ブランド
「CI-VA」(チーバ)。
上質な革をつかった
デザインしすぎないデザインは、
着ているもののじゃまにならず、
でも「あのひと、いいものを持っているなあ」
と思われるような、
きちんと丁寧に人の手でつくられた痕跡があります。
そんな「CI-VA」を
日本でかかわって30数年になるという田中さんに、
お話を聞きました。
「CI-VA」って、机ひとつの家内工業からスタートした、
もともとは狩猟用の道具をつくる工場だったんですって!

田中昇さんのプロフィール

田中昇 たなか・のぼる

1957年生まれ、株式会社金万東京営業部
チーバ・トリッペン生産管理課勤務。
78年、アパレルメーカーにメンズウェア
(重衣料)のパタンナーとして入社、
株式会社ストックマンを経て、85年、金万に。
Harriss Men’s、
Hemispheres Men’sの国内生産を担当。
途中からCI-VAの企画、生産管理を兼務、
2006年よりCI-VA企画、生産管理として専任になり、
現在に至る。
「今後もCI-VAのブランディングに関わりながら、
手工業にこだわるCI-VAの物作りを伝えて
次世代の担当者を育てて行きます。
また、CI-VAの物つくりの拠点である
トスカーナ州の人、食、住など
私が現地で得たたくさんの経験や体験を
金万のスタッフ、お客様に伝えて行けたら、
と思っております」(談)

その1
トスカーナの小さな村から。

伊藤
きょうは、「CI-VA」を
長く手がけていらっしゃる田中さんに
いろいろなことを教えていただきたいと
思って伺いました。
質実剛健な印象のある、
イタリア・トスカーナのファクトリーブランド、
ということくらいしか、
わたしは、知らずにいたんです。
田中
トスカーナのフチェッキオ(Fucecchio)
という自治体のなかの
トッレ(Torre)という小さな村にある、
自宅からスタートしたファクトリーブランドです。
現社長のお父さんが創始者で、
パオロ・チオーニさんというんですが、
ハンティンググッズのメーカーに
勤めていらっしゃったんです。
そしてご自身でもハンティングをなさるということで、
独立して、ハンティングのためのウェアや装具、
バッグや小物をつくるための工場として、
「CI-VA」を立ち上げたんですね。
「CI-VA」の「CI」(チ)は
チオーニさんのチ、なんですよ。
伊藤
「VA」(バ)は?
田中
創立時の共同経営者の名前のイニシアルだそうです。
それが1978年のことですから、
今年が41年目になりますね。
最初は、家の居間の横に裁断するための机を1個置いて、
ひとつずつつくっていたそうですよ。
伊藤
革バッグを、家で。
もともと、そういうメーカーに
お勤めだったということですが、
そのあたりはそういった産業の多い
土地柄なんですか?
田中
そうですね。革製品は、地場産業といえます。
同じトスカーナの隣町、サンタクローチェには、
革のなめし工場がたくさんあります。
「CI-VA」は、そのうちの22社が加盟する
“イタリア植物タンニン鞣し革協会”の
ギャランティを得られる、
トスカーナ産植物タンニンなめし革を
使用しているんです。
「CI-VA」製品についている
ギャランティカードに描かれている
手のひらのマークは、その証なんですよ。
伊藤
小さな村とおっしゃいましたが、
きっと、自然のゆたかなところなんでしょうね。
田中
そうですね、とってもいいところです。
僕はとても好きです。
田舎で、非常に「スロー」なんです。
食事もそうですし、生活の仕方も。
そして中小企業は家族経営が多いので、
ぼくらがイメージするよりもはるかに
集中して働いています。
昼休みは2時間半取るけれど、
働く時間は思いっ切り働くんです。
伊藤
時間の使い方が、
きっと私たちとは違うんでしょうね。
田中
そうですね、実際、かなり時間のかかるつくり方を、
日本の工場さんより、していると思います。
伊藤
根(こん)を詰めるためには、休みが必要ですね。
田中
一日のなかでもそうですし、夏休みや冬休みもたっぷりと、
きちんとリフレッシュすることが必要ですよね。
彼らは昔からそういう生活をしているようです。
同じ国でも、いわゆる都会のビジネスマンのかたがたとは、
仕事の仕方が違うと思います。
伊藤
そんな「ハンティングのグッズをつくっている工場」と、
日本のアパレル商社である金万とのおつき合いは
どうやってはじまったんですか?
田中
弊社の以前の取締役が、
フィレンツェのピッティ・ウォモ(毎年2回行われる
世界最大級のメンズファッションの見本市)に行き、
中央市場に出ていた屋台で、
とてもいい感じの革のバッグを見つけたんです。
それが「CI-VA」のヌメ革のリュックでした。
非常に価格が安く、クオリティがいいけれど、
全く知らないブランドだし、
小さく「CI-VA」のマークが入ってはいるものの、
それはフィレンツェの紋章でもあるので、
最初、ブランドとは思わなかったそうなんです。
地場産業ですから、
そもそもレザーは出展数が多いですしね。
あらためて商工会議所で調べてみたら、
「CI-VA」がハンティンググッズの
ファクトリーブランドであることを知った。
伊藤
どうしてその屋台に出ていたんでしょう?
田中
たまたま、その屋台のオーナーと
創業者のパオロさんがお友だちで、
屋台で展示したいと頼まれ、
断り続けたのにしょうがなく
3つだけつくった鞄があったんだそうです。
それをうちの取締役が見つけたのが最初の縁です。
伊藤
そこからはじまったんですね。もう30数年?
田中
そうですね、僕が関わってからでも、
30年以上になりますね。
いまは二代目の社長であるマッテオさんと組んで、
製品をつくっています。
いま「CI-VA」は、
輸出に関しては100%うちだけです。
伊藤
ということは、イタリアで、
ここのバッグを持たれてる方は‥‥?
田中
イタリアでは、ハンティンググッズとして、
完全に彼らのオリジナルとして売っているものがあります。
けれども日本で展開しているような
ファッション性の高いものについては、
イタリアでは販売をしていません。
ハンティングに使うものは、実用性が第一ですし、
色にしても森の中で目立ってはいけないから、
自由な色展開ができないんですよ。
伊藤
ハンティンググッズ、
いまでも、つくられてるんですね。
田中
つくってます。ただ、
ハンティングをする人が減ったし、
彼らが毎年出展していた
大きいハンティングの見本市もなくなっちゃった。
だから発表の場がなくて、
いまは、継続している得意先のオーダーを受け、
つくっているような状況なんです。
伊藤
地場産業だという革製品は、
そういったハンティングの文化から育ったんでしょうか。
それとも‥‥。
田中
「CI-VA」はハンティングがルーツですが、
一般的な革産業ということでいうと、
もともとフィレンツェ県って、
牛肉を多く生産する地域なんです。
その副産物として、当然、革ができますよね。
社長の子どもの学校の送り迎えについて行ったとき、
そこで会う父兄の人たちは、ほとんどみんな革産業に従事していました。
伊藤
福井県鯖江市が、めがね産業に
特化しているみたいな感じですね。
田中
そうですね。革自体をやってる方もいれば、
革に彫り物などの加工をする仕事、
そのための刃物をつくる仕事と、
いろんな意味で皆さんが革に関わっています。
毎年トレンドのカラーを出すためのデザイン会社、
設備の会社、使う金具をつくる工場さん、
売るメーカーさん‥‥。
伊藤
その土地でつくられたものが、イタリア全土に、
もしかしたら世界中に?
田中
はい、世界で売られていますね。
いまは中国のかたが多く買い付けに来ていますよ。
けれども、もとが肉牛ですから、
大量のオーダーが入ると、革が足りなくなり、
原料の相場が上がっちゃうんです。
いまは比較的落ち着いてますけれど、
イタリアの革で全て、つくれるかっていったら、
全然、賄えないんです。
だからいま、「CI-VA」もそうですけど、
フランス産の革が多くなりました。
伊藤
「CI-VA」は、OEM(自社製品ではなく、
発注先のブランドの名前でつくること)も?
田中
ヨーロッパでは、ありますね。
各国の有名なハンティングメーカーとのコラボも。
そんなふうに黒子でやっている仕事もあります。
伊藤
でも「CI-VA」が「CI-VA」としてつくる、
女性が持ってもかわいい、素敵だと思えるバッグは‥‥。
田中
そう、うちだけなんです。
(つづきます)
2019-05-19-SUN