良い加減。─ saqui
「いい加減っていうのは、
いい塩梅ってことで、
けっして適当ってことではないのよ。
服を作るときはこの感覚がとても重要なの」
私が服作りを勉強していた時に、
先生がこんなことをおっしゃいました。
同じ「縫う」にしても、
糸を引っ張りすぎるとつれてしまって
変なシワができてしまうし、
ゆるすぎるとぴしっとした仕上がりにならない。
だから加減を感じながら手を動かしなさい、
ということ。
先生のこの言葉は、
当時10代だった私の心にとても響き、
その後の服作りに大いに役立ちました。
岸山さんと初めて仕事をしたのは、
10年以上前のことで、
私がデザインした子ども服の本の
編集を担当してくれました。
その時に感じたのは、
「いい加減」を知った人だなぁということ。
襟ぐりや袖ぐりスカートの丈など、
「ここはこうしたらどうでしょう?」
と彼女がパターンに
ほんの少し修正を入れるだけでぐっとよくなる。
撮影用の服をふたりで手分けして縫った時も、
できあがりがきれいなのはもちろん、
とても「良い加減」なのでした。
その後、編集の仕事を辞めてパリに行き、
服作りの勉強をしながら、
美しいものをたくさん観て肌で感じて、
きっとつらい経験もたくさんして‥‥。
日本に帰ってきてブランドを立ち上げると聞いた時、
そんな彼女ならいい服を作るだろうな、
なんの疑いもなくそう思いました。
そして私(だけでなく、まわりの人は
みんな思っていたと思う)の想像通り、
最初のコレクションは、
今すぐにでも着たい!
まっすぐにそう思える服が並んだのです。
素材にこだわり、
「女の人が美しく見えるように」
とパターンにこだわる。
ひとつの服には、
いろんな想いがつまっているはずなのに、
印象はとても軽やか。
肩肘張らない上質な服という感じです。
そんな加減のよさが、
今の私の気持ちにぴったりなのです。
伊藤まさこ