100冊の古書[1]
今回、上田のVALUE BOOKSといっしょに
伊藤まさこさんが選んだ古書、およそ100冊。
伊藤さんみずから解説します。
1『コーヒーと恋愛』獅子文六
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1181.jpg)
主人公のモエ子が入れるコーヒーは、
一度飲んだら飛び上がる味。
「こんなおいしいコーヒーは東京中歩いたって
飲めるものではない」
と無類のコーヒー好きの勉君は言います。
モエ子と勉君はコーヒーがきっかけとなって
いい仲になりますが‥‥。
さてこの先は読んだ人だけのおたのしみ。
物語の舞台は昭和30年代。
「獅子文六」という著者名を伏せ、
文中に今時のツール(携帯電話とか)を足したら、
令和の恋物語と思う人もいるんじゃないかな。
なんて感じさせる、
軽やかで生き生きしたラブストーリー。
2『ラオスにいったい何があるというんですか?』村上春樹
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1172.jpg)
季節外れのギリシャ、
夏の盛りの(でも寒い)フィンランド、
「ほとんど何も知らない」ラオス‥‥。
旅する数だけ、
今まで見えなかったものが見えてくる。
旅する数だけ知らない景色に出会える。
その先に何があるのかは、
旅した人でなければ分からない。
だから人は旅に出るのかもね。
3『贅沢貧乏のお洒落帖』森茉莉
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1214.jpg)
森茉莉さんの文章を読んでいるといつも、
永遠に手がとどかない、
とどかないからこその憧れのようなものを感じます。
「贅沢はお金では買えない。
幼い時からの食物、体を洗ってきた石鹸の類、
わずかの間着ては捨ててきた下着の数、
嗅いで育った煙草がどんな煙草か、見た絵本の種類。
(中略)
それらの条件で贅沢ができる人か、
しようと思ってもできない人か定る。」
はい、そうですと頭を垂れるばかりです。
4『夢について』吉本ばなな
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1224.jpg)
夢についてのエッセイをまとめたこの本を読んで、
そういえば最近まったく
夢を見ていないことに気がつきました。
夢はいつだって唐突で辻褄が合わなくて、
とんちんかんなことばかり起こるけれど、
目が覚めた時の「???」の感じは嫌いじゃない。
今は夢が見られるくらい、
睡眠にゆとりができることが、私の夢。
5『ジーノの家』内田洋子
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1212.jpg)
本のいいところは、開いただけで、
行ったことがない場所に自分を連れて行ってくれたり、
会ったことのない人に会ったような気分に
させてくれるところではないでしょうか?
私はこの本を読んで、
菜の花のパスタを食べたり、
胸の広く開いたブラウスを着た、
ルンバの歌い手に会い(ような気になった)ました。
そして、無性にイタリアに行ってみたくなりました。
6『蚊がいる』穂村弘
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1098-1.jpg)
表紙のインパクトに手を取ったら、
穂村弘さんの随筆集でした。
クレジットを見ると、
装丁は横尾忠則さん。
穂村さんの文が読めるだけでなく、
横尾さんのデザインまでたのしめるなんて!と
勝手に得した気分でにこにこ。
中の紙の質感もいいんです。
7『夜明けのブランデー』池波正太郎
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1161.jpg)
「あれ、これ絵も池波さんが書いているの?」
と表紙を見た娘。
ブルターニュ地方の婦人の民族衣装、
お祝いにいただいた万年筆、
東北地方を旅して集めたこけし‥‥。
どの絵も、いい感じに肩の力が抜けていて、
眺めていてなんだか心地いいのです。
エッセイの名手は、絵の才能にも長けていて、
「天は二物を与えず」という言葉は、
池波さんには当てはまらないのだなぁと、
この本を見るたびしみじみするのでした。
8『ミナを着て旅に出よう』皆川明
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1159.jpg)
ただ「かわいい」だけじゃ、
こうもみんなの心をつかむ服は作れないと思うのです。
この本の中には、
ミナの服ができあがるまでの
皆川さんの心の中の様子が書かれていて、
なるほどなぁと思ったり、
そうだったのかと感心したり。
本が出版されたのは2003年。
もしかしたら今のミナファンは、
知らないことも潜んでいるかもしれませんよ。
9『礼儀作法入門』山口瞳
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人生のセンパイからは
学ぶべきことがたくさんあって、
それが一冊の本にまとまっているのは、
なんともありがたい。
本棚から時々、取り出して読み返したい本です。
「マナーに関しては、
美しく見えることが正しいことなのである。
ミットモナイことは悪である」
ほんと、その通り!
10『文学ときどき酒』丸谷才一
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1155.jpg)
一人称で語られるエッセイとはまた別に、
対談形式の場合は相手がいるものだから、
話しが思わぬ方向に
いったりきたりすることがあるものです。
ましてや丸谷さんの話し相手は、
ただものならない作家や評論家。
おもしろくないわけがないではありませんか。
会話の途中に入ってくる本を、
読んでみたくもなったりして‥‥。
こうして読書の幅が広がっていくのですねぇ。
11『私の小さなたからもの』石井好子
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1152.jpg)
石井さんのエッセイは、
たいてい読んだつもりになっていたけれど、
知らない話しがまだまだたくさん潜んでいました。
「小さなたからもの」は、ものだけにあらず。
胸を打つ手紙、
古くからの友人と過ごす時間、
汽車の旅‥‥。
自分の中の小さなたからものを、
探すきっかけになる本です。
12『猫語の教科書』ポール・ギャリコ
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1182.jpg)
まず、この本のたたずまいがいい。
黄色をベースにした装丁はちょっと洒落ているし、
タイプに向かった知的そうな猫の写真も
興味をそそられるではありませんか。
第1章は人間の家を乗っ取る方法、
第7章は魅惑の表情をつくる、
第15章は別宅を持ってしまったら。
頭がよくてちょっとシニカル、
観察力がするどく、策略家。
猫の視線ってこうなのねぇ、
ちょっとモテる女の人みたい。
13『私の釣魚大全』開高健
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1170.jpg)
その昔、冬の湖の
ワカサギ釣りに誘ってくれた人がいました。
その時私は、
じっとしていられないタチだから
きっと向かないだろうし、
だいいち寒いじゃない!
と断ってしまったのです。
あの時、
「ワカサギ釣りは冬のお花見であること」
の章を読んでいたら、
きっと喜び勇んで出かけたことでしょう。
だってなんだか楽しそう。
なんていったって「お花見」なのですから。
14『新しい分かり方』佐藤雅彦
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1010-1.jpg)
分かっているつもりになっていても、
分からないことは山ほどあるものです。
ものごとは、ひとつの側から見てばかりいると、
おもしろくないし、広がらない。
この本の中には、なるほどねぇと思うことが
散りばめられていて、
読み終えると、なんだかいつもの毎日が
新鮮に思えてくるのです。
佐藤さんの無駄がなく温かい文とともに、
写真やイラストもたくさん載っていて
ページをめくるのが楽しい。
親子でたのしめそうな本でもあります。
15『毎日っていいな』吉本ばなな
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1091.jpg)
必死になって文字を追い、
ページをめくる(終わるまで、寝つけもしない)
推理小説とはちがい、
どこから読んでも、ほのぼのあったかい気持ちになる、
こんなエッセイ集はありがたいものです。
毎日っていいなと思うとともに、
家族っていいな、
友だちっていいなとも思わせてくれる、
そんな本。
16『私の住まい考』有元葉子
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1024-1.jpg)
家の下見に来た時に、そこを借りようと決めたのは
ピアノとバイオリンの音が聞こえてきたから。
いつだって自分に正直で、
自由に生きる有元さんの「住まい」の考え方。
押しつけがましさなんて1ミリもなく、
読むと自分まで風通しがよくなるのです。
17『ゆるい生活』群ようこ
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1022-1.jpg)
体の不調から、漢方の薬局に通いはじめた群さん。
「みんな食べる物に
興味がなさすぎると先生はいつもいう。
何が流行か何が安いのか、
どの店が人気あるのかには興味あるのに、
その食べ物の質までは考えていない。」
先生とのやり取りの中から、
毎日、口にするものに気をつけ、
自分の体の声に耳を傾けて‥‥。
微妙な年頃にさしかかった人も、
またそうでない人にも読んでほしい。
だって自分の体は自分で作るしかないのだから。
18『こうちゃん』須賀敦子/酒井駒子
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1017.jpg)
文と絵が、交互に、時には合わさって。
大事に作られた本ということがよく分かる、
すてきな一冊です。
「なんだ、きいろのぷちぷちはおかしいだろう。
おみなえしだよ。」
21ページ目のこんな一文を読んでいたら、
本の間からきいろの何かが落ちてきました。
前の持ち主を感じさせるのが、
古い本のいいところ。
そのままお届けしますね。
(伊藤まさこ)