100冊の古書[3]
今回、上田のVALUE BOOKSといっしょに
伊藤まさこさんが選んだ古書、およそ100冊。
伊藤さんみずから解説します。
37『呑めば、都 ─ 居酒屋の東京』マイク・モラスキー
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生まれと育ちはアメリカ、
でも味覚と肝臓はすっかり日本人という著者が
日本の居酒屋の魅力を語ります。
といっても、
外から来た人の俯瞰した目‥‥ではなく、
もはや日本人以上に日本人の語り口。
そりゃそうだ! というタイトルにも、
思わず引き込まれました。
38『時をかけるヤッコさん』高橋靖子
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1108-e1563106626940.jpg)
スタイリストの草分け的存在の高橋靖子さん。
デヴィッド・ボウイや矢沢永吉、忌野清志郎など、
「とんでもないエナジーを持った」
スーパースターから、最近では、
オカモトズやももいろクローバーZをスタイリング。
いつも時代の先っぽにいる、
お転婆ヤッコさんのエッセイです。
39『幸せについて』谷川俊太郎
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1126-e1563106618145.jpg)
夏だったら、洗いざらしのベッドリネンに
体をすべらせた時。
冬だったら、ぬくぬくの毛布にくるまっている時。
おいしいものを食べている時。
好きな人が笑っている時。
「幸せ」について考えたら、
こんなことを思ったけれど、
でもじつは、幸せについてなんて考えない、
ふつうの毎日を送れていることこそが、
幸せなのかもしれないね。
40『池波正太郎のそうざい料理帖』池波正太郎/矢吹申彦
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1086-e1563106609743.jpg)
今日のごはん、何にしようかな?
自分の台所を持ってからは、
自分で好きなものを作れるのがうれしい。
けれど、それがめんどくさいこともある。
そんな時のために、そうだこんな風に、
食べたものを記しておけばいいんだ。
折詰の鯛の塩焼き
調理は塩と酒のみ
加えるのは豆腐のみ
薬味は刻み葱のみ
たとえば「鯛の塩焼き鍋」は、こんな風。
イラストとともに、
書かれたのはシンプルきわまりないメモ書き。
それがいかにもおいしそう。
41『Q健康って?』よしもとばなな
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1087-e1563106600614.jpg)
だれでも、健康でいたいって思っていると思うのです。
ことに年齢を重ねれば重ねるほど。
この本は、
健康のために「こうするとこうなる」というメソッドが
細かく載っているわけではありません。
それでも会話の中に、
あらゆる「そうなのか!」ということが
散りばめられていて、
読み終えたあと、なんだか自分の中に
新しい風が吹き込んできた、
そんな気分になるのです。
「病気も含めて、
その人らしいエピソードに満ちた人生になる。」
「体が生きたいように生きる
『身がまま』になることがベスト。」
そうなのか、そうなのかって。
42『愛する言葉』岡本太郎/岡本敏子
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1117-e1563106591909.jpg)
岡本太郎さんは青い字で。
岡本敏子さんは赤い字で。
それぞれの言葉は、純粋でまっすぐで、
目が離せなくなってくる。
「相手がすべてを捨てて、
こっちに全身でぶつかってくると、
それはやはり全身でこたえる。」(太郎さん)
「愛する」ってパワーがいるのだなぁ。
私にはできそうにないけど、
できそうにないからこそ惹かれるものがあるのです。
43『人生の道しるべ』宮本輝/吉本ばなな
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1111-e1563106579423.jpg)
宮本輝さんと吉本ばななさんの対談集。
タイトル通り、
人生の道しるべについて、
おふたりが語っているのだけれど、
その中で赤毛のアンの話が出てきます。
赤毛のアン!
すっかり記憶の向こうに置いて行ってしまった本なだけに、
なぜだか猛烈に読み返したくなったのでした。
全部、読み終えたらまたこの本が読みたくなるでしょう。
きっと新しい発見があるにちがいないから。
44『<とんぼの本>向田邦子 暮しの愉しみ』
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新潮社のとんぼの本が、何周年だったか
何冊目だったかの節目の年に、
とんぼの本について何か書いてください、と言われて
迷わずえらんだのがこの本でした。
器、料理、服、買いもの、旅。
食いしん坊に贈る100冊の本、なんてのもあり。
向田さんを知る手がかりが、
この本にはぎゅっと詰まっているのです。
気風がよく、でもどことなく女らしい。
時にはおっちょこちょい。
私の憧れが形になったような人、
それが向田さんなのです。
45『かるい生活』群ようこ
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年齢を重ねると、だんだんと、
「あれ? こんなはずじゃなかったのになぁ」と
嘆くことが多くなってくるもの。
新陳代謝のおとろえとか、
顔や体のたるみとか。
体だけでなく、
いろいろなことやものが、すこーしずつ重くなってくる。
そう、生きてきた分の重みがずしりと‥‥。
ベランダのゴミ、服、家族のしがらみ、
体の水分‥‥。
いろいろなものを軽くしたら、
気持ちも軽くなってきた、
そんな群さんのエッセイです。
46『森正洋の言葉。デザインの言葉。』森正洋を語り・伝える会/ナガオカケンメイ
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1103-e1563106551126.jpg)
森正洋さんがデザインした、
G型しょうゆさし、という醤油差しを知っていますか?
「知らない」そう思ったあなたでも、
きっとどこかで目にしているはず。
テーブルにひっそり馴染むその姿は、
とても「ふつう」。
でもその「ふつう」の中に、
さまざまな意匠が凝らされているのです。
「『あなたはそういうけれども、
やっぱりこれはいいんじゃないか』
『私の生活にはこれがいい』と、
自分なりのものの見方を身につけなければいけませんね。」
日本を代表するプロダクトデザイナーの言葉は、
もの作りをする人の心(そうでなくても)に、
きっとずしりと響くことでしょう。
47『イギリスだより ─ カレル・チャペック旅行記コレクション』カレル・チャペック
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1080-e1563106542382.jpg)
20代の頃、グリーンフィンガーに憧れて読んだ本が
カレル・チャペックの『園芸家12カ月』でした。
それから、この本は入れ替わりの多い我が家の本棚で、
ずっと変わることなく置いてある。
本棚にあるだけで、
なんだかほのぼのうれしいのです。
この本は、
フォークストン、ロンドン、ケンブリッジ、
オクスフォードなど、
イギリスのあちこちを訪れたチャペックの旅行記。
読み進めるうちに、自分がなぜだか
ご機嫌になっているのが、
チャペックの文の不思議なところ。
マダム・タッソーの蝋人形館の話に思わずクスリ。
48『秘密のおこない』蜂飼耳
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蜂飼耳さんの本を読むのは、はじめてです。
だから「はじめまして」という気持ちで本を開いたら、
ぱらりと紙が出てきました。
あれ? と思ってよく見ると、
それはサインをする時に
向かい合わせのページに
インクが染み込まないようにするための紙。
そう、これはサイン本なのでした。
どういういきさつで、
今ここにあるのか?
本のいきさつをあれこれ推測できるのも
古書の楽しみのひとつです。
49『あの人に会いに』穂村弘
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この本で、穂村さんは
「よくわからないけれど、あきらかにすごい人」に
会いに行き、話をします。
谷川俊太郎、荒木経惟、吉田戦車、
横尾忠則、宇野亜喜良‥‥。
「溢れそうな思いを胸に秘めて、
なるべく平静を装って。」
対談では「なるべく平静を装った」
穂村さんを感じますが、
「逢ってから、思うこと」という対談後記では、
じつはその時、
ひそかに緊張や興奮、高揚していたことが読み取れて、
なかなか興味深いのです。
50『高峰秀子 旅の流儀』高峰秀子
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「寝心地のよいベッドと清潔なシーツと、タオル。
洗面所にお湯が出て、
エアコンが完全ならば、他のものは一切いらない。」
ホテルに「由緒」とか「最古」とか。
そんな肩書きは必要ない、という高峰さん。
日常を凝縮したもの、それが旅。
したがって旅の流儀は、
その人の流儀になるのではと思うのです。
51『完本 山靴の音』芳野満彦
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山はおだやかでやさしく、
包んでくれるような大きさがあるかと思うと、
時おりとんでもなく意地悪でのっぴきならない。
山の近くに住んでいる時、
よくこんなことを思ったものです。
それと同時に、
私たち人間は自然の一部。
よく考えれば当たり前のことに
気づかせてくれたのも山なのでした。
のんきな山歩きをしている私の、
何倍、何百倍も山に近い
アルピニストの著者が感じる山とは?
ひそかに思いを寄せていた彼女から借りた
ピッケルの話が、
切ない。
52『すてきなあなたに よりぬき集』暮しの手帖編集部
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かつて「暮らしの手帖」で
連載をしていたことがあります。
その時に、楽しみにしていたのがこの
「すてきなあなたに」のページでした。
この連載が始まったのは、1969年。
当時の編集長の大橋鎮子さんは、
「なにもない普通の暮らしのなかで出会った、
いろいろなことや、
お目にかかった何人もの方々のお話しの中から、
私が大切に思い、すてきだなぁと思い、
生きていてよかったと思ったこと、
私ひとりが知っていてはもったいない、
読者の皆様にもお知らせしたい。」
そう語っています。
「普通の暮らし」の中から生まれた、小さな話。
どの家にも、どんな人の心の中にも、きっとある。
あるけれど、それに気づくかどうか、
それが肝心。
気づける人になれたらいいね。
53『パリ仕込みお料理ノート』石井好子
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時おり、
無性にサンドウィッチが食べたくなることがあります。
食パンを買いに走り、
バターをぺたぺたと塗って、
野菜やらハムやら、
焼いた卵やらをはさんでがぶりとやる時の、
幸福ったら!
「冷蔵庫に首を突っ込んで、
二枚の食パンにはさみきれないほど野菜や肉を積み重ね、
大口を開けて食べる。
ときには風呂場まで持ち込んで食べる。」
石井好子さんのエッセイに出てくる、
アメリカのブロンディーという漫画の亭主
ダグウッドのくだりが、
まるで、サンドウィッチを食べる時の私のようでおかしい。
大口を開けて食べる時、いつもこの一文を思い出すのです。
54『北大路魯山人』小松正衛
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昔よく行っていた蕎麦屋の箸おきが、
なにやらよいかんじだったので、
いいですねぇと撫でながら褒めると、
なんとそれは北大路魯山人の作ったものでした。
その人の打つ蕎麦は
他ではけして味わえない味だったのですが、
なぜそうなのかといえば、
それは味だけでなく、箸おきをはじめとしたしつらえが、
そう思わせたのではないかと、今にして思うのです。
本の前半は、カラーとモノクロの写真で、
魯山人の作品を紹介。
その後、生い立ちが綴られます。
作品からは知りえなかった魯山人の素顔は‥‥?
(伊藤まさこ)