100冊の古書[5]
今回、上田のVALUE BOOKSといっしょに
伊藤まさこさんが選んだ古書、およそ100冊。
伊藤さんみずから解説します。
71『光の粒子』かくたみほ
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1054-e1563106224999.jpg)
音の粒を感じる人がいるかと思うと、
光の粒を感じる人がいて、
そのどちらにも、そう敏感ではない私は
素直に「いいなぁ」と思うのでした。
どの風景にも、
いろんな光の表情があって、
それはいつも同じじゃない。
そんなところが光に魅かれる理由なのかもね。
72『日本民藝館へいこう』坂田和實/山口信博/尾久彰三
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_2302-e1563106139425.jpg)
展示替えするたび、
駒場の民芸館を訪れます。
その前か後に、読むのがこの本。
骨董の世界で名を馳せる坂田和實さん、
グラフィックデザイナーの山口信博さん、
民藝館の学芸顧問である尾久彰三さんの3人が、
民藝館の魅力について語るのですが、
それがほんとうに「好きで好きで」という印象を受けます。
とかく固苦しく語られることの多い「民藝」を
とても身近なものにしてくれているのです。
73『日々の野菜帖』高橋良枝
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_2300-e1563106132533.jpg)
幸運なことに、高橋さんの料理を食べたことのある私は、
ここに載っている料理が、どれだけしみじみおいしくて、
どれだけ愛がこもっているかを知っています。
73歳にしてインスタグラムをはじめ、
日々の料理を紹介したものに加筆し、
本にまとめた一冊。
料理撮影用に作られた料理ではない、
飾らない(でも美しい)料理がならびます。
74『京暮し』大村しげ
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_2282-e1563106124161.jpg)
じゃがいものおひたしの作り方は?
しそのごはんの作り方は?
しげさんは、ぞうきんをどんな風に使っていたっけ?
時々、この本を開いてはたしかめて、
納得します。
ああ、そうそう。こんな風だったって。
「へえ? へえ? それどないして炊きますのん」
これは、すみれご飯を初めて知った時のしげさんの言葉。
いくつになっても、好奇心旺盛なしげさん。
そのすみれご飯を
「まるでマリー・ローランサンの絵のようなかんじ」
と少女のように言います。
こんなおばあちゃんになりたいな、
読むたびにそんなことを思うのです。
75『雪は天からの手紙 ― 中谷宇吉郎エッセイ集』中谷宇吉郎/池内了
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天然雪の研究から、
やがては世界に先駆けて人工雪の実験に成功したという、
物理学者の中谷宇吉郎。
雪の結晶ってどうやってできるんだろう?
子どもの頃に不思議に思ったことを、
思いだけにとどめずに、
研究した人がいたんだ!
はじめてその存在を知った時は、
なんだか宝物を見つけたような気持ちになりました。
このエッセイ集を持って、
いつか加賀の雪の博物館を訪れてみてはどうでしょう。
そこには「雪博士」中谷宇吉郎の世界が待っていますよ。
76『山のパンセ』串田孫一
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そこに山があるから登るのかもしれないけれど、
頂上を目指すだけじゃもったいない。
その道中にも、
すてきな何かがたくさん待ち受けてくれているもの。
そのことに気づかせてくれたのが、
串田孫一さんのエッセイです。
串田さんが編集に関わった『アルプ』や、
著書『山のABC』などは、宝物。
山登りをしない私の、
「空想山登り」のおともになっています。
77『旅は俗悪がいい』宮脇檀
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建築家という仕事柄、
毎年、百数十日は海外に渡るという宮脇檀さん。
好奇心旺盛で、
観察眼がするどいけれど、
どこか洗練された雰囲気が本全体に漂うのは、
きっとお人柄。
旅に出る時、荷物にぽい、と紛れ込ませたい一冊です。
78『暮らしのかご』片柳草生
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1056-e1563106216771.jpg)
かごは好きですか?
私も御多分に洩れず、好きです。
もう「大好き」と言っていいくらい。
キッチンで、
テーブルの上で、
出かける時も。
ああ、この本を書いた人は、
本当にかごを愛しているんだなということが、
本を通してひしひし伝わってきます。
巻末には、かごを売る店や工芸館の紹介も。
ぜひとも訪れてみたいのは、
暮らしの中で生み出され、
使われてきた民具を展示する
武蔵野美術大学の民族資料館。
なんと竹細工は3000点にもおよぶそうですよ。
79『白洲正子と歩く京都』白洲正子/牧山桂子
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1042-e1563106205489.jpg)
大和や近江をはじめ、
生涯数多くの土地を旅したという、
白洲正子。
それでもやはり
「京都は特別な場所。生まれ故郷のようだ。」
と吐露しているのだとか。
白洲正子の京都は、
私の知らない景色も多い。
同じものを見ても、
感じ方の違いで、
まったく別の景色になる。
さてこの本を手に取ったあなたには、
京都という場所がどんな風に見えるでしょうか。
80『こんにちは』谷川俊太郎/川島小鳥
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1082-e1563106189940.jpg)
前半の、
ちょっとリラックスしていたり、
仕事机に向かっていたり、
街中に佇んでいたりする
ポートレートを見て、
ああ谷川さんって美しいな、
そう思いました。
撮ったのは川島小鳥さん。
近からず、遠からずの関係が(きっと)
見ていてなんだかいいのです。
写真あり、対談あり、いろいろな人への質問あり、
もちろん詩もあり。
どういう本かと質問されれば、
なかなか「こういう本です」とは答えにくい。
つかみどころがないところが、
逆にちょっと気になるんです。
81『わたしの献立日記』沢村貞子
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_2288-e1563106090366.jpg)
「おいしいもので、お腹がふくれれば、
結構、しあわせな気分になり、
まわりの誰彼にやさしい言葉のひとつも
かけたくなるから──しおらしい。」
折に触れて、読み返す本がありますが、
これもそんな一冊。
「献立に大切なのは、とり合わせではないかしら?
今日は魚が食べたい、とか肉にしよう──などと
主役は決まっても、
それを生かすのは、まわりの脇役である。」
舞台、テレビで名脇役として活躍した、
女優、沢村貞子の献立日記。
82『ある小さなスズメの記録 人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯』クレア・キップス/梨木香歩(訳)
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1230-e1563106071937.jpg)
拾い子のイエスズメと暮らした、
キップス夫人の記録です。
小さなスズメが、
夫人にとってかけがえのない大きな存在になっていく。
彼(キップス夫人はスズメをそう呼ぶ)は、
早朝に素晴らしい歌を歌い、
タイムズ紙の一面のページで、
想像上の砂浴をする。
言葉は通じないけれど、
言葉で交わすより、もっと深く通じ合う「ふたり」。
キップス夫人のまなざしがやさしい。
83『ノーザンライツ』星野道夫
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_1046-e1563106181803.jpg)
「生まれ変わったら、男になりたい? それとも女?」
時おり、こんな質問をされることがあって、
うーむと考え、
「次も女かなぁ‥‥」などと
曖昧な返事をする(だってよく分からないから)。
「男に生まれたい!」
そう猛烈に思うのは、
星野さんの写真を見たり文を読んだりする時。
自然と、そこで暮らす人々の声に耳を傾けて
旅ができたらどんなにいいだろう。
星野さんのように。
84『心の中に持っている問題 詩人の父から子どもたちへの45篇の詩』長田弘
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この本は、
20年ほどの間に、
「詩人の父から子ども達へ送った45編の詩」
が載っています。
装丁は平野甲賀さん。
ああいい佇まいだな、そう思って手に取ると
平野さんの、ということが多いのですが、
これもまた。
ブルーのこの本、うちにも一冊欲しいなぁ。
85『日曜日の住居学』宮脇檀
![](/n/weeksdays/wp-content/uploads/2019/07/MG_2296-e1563106043916.jpg)
「要は生活なのであって、
住居などというものはその生活の容器として
存在しているにすぎない。」
‥‥ではじまる、
建築家、宮脇檀さんの「日曜日の住居学」。
「住まいの形ではなく、住まい方が第一、
生活をどう営むかが第一で、
住居はそれをフォローする役目しか持たない」
住まい方は生き方。
もしも家を建てる予定があるならば、
まずはこの本を読んでみるといいかもしれません。
「容器」を作る専門家の言葉は、
たくさんのなるほどが潜んでいるから。
宮脇さんは「住まう」の専門家でもあるのです。
(伊藤まさこ)