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それがあるだけで。

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伊藤
高知を訪ねると、会いたい人がおおぜいいて、
短い日程では、なかなかそれもかなわなくて‥‥。
今回は、映画監督の安藤モモ子さんに会いました。
モモ子さんとお話ししたことは、いずれ
「weeksdays」のコンテンツとして
紹介しようと思っています。
川上
わぁ、とても楽しみです。
伊藤
そしてもうひとりが、アーティストの松林誠さん。
川上
松林さん! 私も、ずっと、ファンなんですよ。
伊藤
そうですよね!
私も松林さんの作品が大好きで、
部屋にも飾っているんです。
まだ先のことになると思いますが、
「weeksdays」でご一緒できないかなと、
相談をしてきたところなんですよ。


川上
もう、ぜひ! とても楽しみ。
伊藤
そして、今日やっと、ゆっくりお話する時間が持てて、
すごく嬉しく思っています、川上さん。
川上
あら!(笑) ありがとうございます。
伊藤
川上さんが立ち上げたこのセブンデイズホテルには、
松林さんのアートが至るところに飾られていますね。
ロビーや踊り場はもちろん。全室に?


川上
そうなんです。
伊藤
松林さんのアートがあることで、
空間がより、とくべつなものになっている気がします。
ビジネスホテルなのに、なんだか、あたたかい。
また泊まりに来よう! と思えるんです。
それで、ぜひ、川上さんに、
お話をうかがいたいなって。
こんなふうに、アートのある空間って、
いいですよね。
川上
ありがとうございます。
私、ずいぶん前から、
松林さんを絶賛しているんです。
ホテルをつくるとき、最初は、
いわゆるポスターを飾ろうかなと考えたんですよ。
けれども印刷物って意外と価格が高い。
額に入れるとさらに値段が張るわけです。
もちろんポスターにはポスターのよさもあるんですけど、
やっぱり「本物の」版画がいいなあと思いました。
版画っていうのは、作家や、
作家の認めた摺師が手で完成させるわけで、
その力はもうまったくポスターと違います。
伊藤
そうですよね。
川上
周りを見ると、インテリアに興味のある若い人たちも、
「本物を飾る」ということについて、
あんがいピンと来ていないように思います。
今、そういう本、実例も、たくさん出てるのにね。
それに、意外と、日常では、本当にプロの、
その人ならではの作風をもった、
しかも普遍性を兼ね備えた人の作品を目にしていない。
流行りとか、今こんなのが人気よねとか、
そういうんじゃなくて、
もうずっと力がある作品というものに。
伊藤
だったら、セブンデイズホテルで
見せてあげたいと?
川上
そう。いっぽうでね、「オリジナル」と言いながら、
私には魅力だと感じられないものが、
けっこうな値段で売られていたりもします。
本当、松林さんのあの力、
ああいうものがどうしてもっと一般に
伝わらないんだろう? ということを思っていて。
伊藤
きっかけが、ないのかな。
川上
そう! なかなかきっかけがない。
そういうのを手に入れるきっかけは、
たとえば個展にこちらから行かないと。
でも、個展に行くという、その日常が、ないんです。
伊藤
大きい美術展だったら、
北斎とか、若冲とか、
フェルメールとか、ゴッホとか、
長い行列ができるのがニュースになったりしますね。
でもそれはもう「向こうの世界のもの」で、
自分の家に持ってこようなんて思わない。
川上
ほんとに、そうね。
伊藤
でも私、思うんですけど、
たとえばこの椅子はウェグナーだとか、
私たちもいろんな建築家や
家具デザイナーを知るようになって、
家の中がオシャレに、ずいぶん豊かになった。
バジェットを抑えても、
おしゃれな家具が手に入る時代にもなりましたし。
川上
ええ、そうですね。
伊藤
だから、「あともうちょっと」だと思うんです。
川上
そうなんです。そこです。
もう本当にそうだと思います。
伊藤
部屋の中が整いました、
やっぱり自分のお気に入りのものを
一つ一つ揃えるのが気持ちいい、
早く家に帰りたい、みたいな感覚を
持つようになったのだから、
もうひとつ、
「それがあるだけで空気を変えてくれる」
みたいな存在があったら、って。
それがアートじゃないかなって。
川上
気づいてる人はたくさんいると思うんですけど、
目に触れるチャンスがないんですよね。
投資だからアートを買う、
という人はいるでしょうけれど。
もちろん、それを否定するわけではないけれど、
そういう場所からは遠いところにあるような
松林さんのようなアーティストがいることに、
気付いてほしいなって思うんです。
伊藤
いわゆるアートの市場とは別のところで
活躍なさっている。
川上
松林さんの作品は、私、20年以上前に感激して、
その感動はいまも続いていますし、
当時の作品が、いまも、色あせない。
力がある。
すごいことだと思うんですよ。
そして、「買える値段」であることも。
伊藤
本物がそばにあるって
すごいことですよね。
川上
小さい子どもたちにとってもね。
生まれたときから触れてるものが、
そういう作品であることの素晴らしさ。
──
今おふたりの話を聞いていて、
長い闘病の末、亡くなった友人のことを思い出しました。
彼はアートが好きで、近現代の写真や版画、
ドローイングなんかを買い集めていました。
もともと好きだったんですが、
病気がわかってから、さらに、まめに買っていた。
自宅で療養する時間が長くなって、
寝ることが多くなっても、奥さんに、
「こういうのがあるんだよ。買っていいかな」って。
そして、亡くなってからわかったのは、
コレクションといえるぐらい、
けっこうな数の作品があって、
すばらしいものばかりだったんです。
みなぎるような力があって。
もしかしたら彼が闘病生活で必要としてたものって、
そのアートの力だったのかもしれないと、
今、理解できました。
たぶん、ポスターじゃ、ダメだったんですね。
川上
きっと、本物じゃないと、いけなかったんですね。

心の余白がうみだすもの。

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伊藤
服づくりはもちろん、
コレクションブックをつくるとか、
そういうアートディレクションも、全部サヤカさんが?
サヤカ
そうです。
実は、昨シーズンまで、判断が遅かったっていうか、
迷いもあったりとかして、忙しい思いをしていたんです。
でも今シーズンは暇になって、びっくりして(笑)。
伊藤
えっ、どういうこと?
サヤカ
こんなことは今までなかったので、
なんでだろう? と思ったら、
信頼できる、頼る人ができたんですね。
セールス、PR、パタンナー、縫製してくれる人、
そこがうまく回ったって初めて思えたのが今シーズン。
それから、自分の中で、ジャッジの基準とか速さとか、
それが整理できたように思います。
そうしたら、少し暇ができた。
‥‥っていうとあれなんですけど、
時間に余裕ができたんですよ。
伊藤
それはとっても大事なことですよ。
サヤカ
そうですね。それまで必死で来たんですけど、
「あぁ、よかった」と思って。
伊藤
自転車の立ちこぎをしていたのが、
やっと、自分のペースで。
サヤカ
情景を見ながら
走れるようになったみたいな感じです。
伊藤
でも、そうしたらそうしたで、
つくるものに、
だんだんと変化が出てくるんじゃないですか。
サヤカ
そうなんです。今まで立ちこぎだったので、
糸が張り詰めた感じでつくっていたんですよね。
それはそれで、生まれるものもあるんですけど、
今、ちょっとゆるめたものがつくりたいなぁって
思うようになって。
年齢的なこともあるのかな。今、35なんですけど。
伊藤
えぇっ? まだそんなに若いの?!
サヤカ
若いのかは、わからないですよ(笑)。
伊藤
私のほうがうんと年上なのに、
すごく成熟していて、
言葉も、たたずまいも、
堂々としてるから、驚いちゃった。
サヤカ
ありがとうございます。
20代で、なんとなく光が見えたくらいの時に
ブランドを立ち上げたので、
きっと、まだ、まとまっていなかったんでしょうね。
でも、今回のコラボレーションの中で
すごく考えることがあって、
本当にありがたかったんです。
今までは「人と違うものをつくろう」
「人と違う個性を出したい」っていう
アプローチだったんですけれど、
それが、ちょっとシフトしていった。
ちょうど、張り詰めていた糸がゆるんで、
余裕ができてきた時でしたから、
より自分の好きなものの
輪郭が見えてきたっていうか、
自分が本質的に好きなものをつくりたいと
思っていた時だったんです。
伊藤
そんなタイミングで、
私たちがお声掛けをしたんですね。
サヤカ
そのことを、直感的に感じていたけれど、
まだ言葉にはできていなかった時だったので、
まさこさんと話していく中で、
自分が感じていたことが、
具体的なテーマとして出てきたというか。
コラボレーションなので、
一方的にどちらかがいうものではなくて。
自分だけで決めることもしたくなかった。
お互いに好きなもので共通点を見つけて、
自分1人ではできないことがやりたいなぁと思ったし、
全然違うアプローチでやりたいと思ったし。
それで、素材を見ていただきながら、
「これ、私は好きだけど、
まさこさんは好きなのかな」
とか、そういうところを
探らせてもらったという感じなんです。
話をしていく中で、
「シンプルなものをつくりたいんですよね」って、
私、言ったと思うんですね。
すると、すぐにまさこさんも、
「私もシンプルなものが好き!」って。
「ほぼ日」の皆さんも「いいですね!」って
言ってくれて。
伊藤
まず、シャツについて、そう話しましたね。
シンプルなもの。
サヤカ
自分のコレクションをつくる時って、
コレクションのまとまりというか、
60の作品で1つの大きな絵を描く、
みたいな感覚でつくっているので、
雰囲気に合わないものは入れなかったりするんですね。
だから、好きなものでも、シンプルなものって、
出さないことがある。
でも、こういったプロジェクトで、
小さい単位でつくるときは、
考え方を変えたいなっていうのもあって。
だからコレクションでは
今までできていなかった、
もっと普通にシンプルな服が欲しいなって思って。
伊藤
そうそう、その時に、
日本のバイヤーさんには、
他と違うもの、
そのお店ならではの特別なものを
求められているっていう話をしましたね。
でも「weeksdays」は、
「やりたいことをやってください」みたいな感じで、
サヤカ
そんなふうにすごく気持ちのいい球を投げてくださって。
結局、自分が好きなものしかつくれないわけですし。
それで気持ちがスッとして、
「じゃあ、行ってきます!」みたいな(笑)。
伊藤
(笑)その次に日本で会った時、
サヤカさんが絵を描いてきてくださった。
サヤカ
そうですね。
シャツは、4つのパターンを
提案させてもらったんですけど、
まさこさんは、すぐに、
一番シンプルなものを、
「これ!」って、選んでくださって(笑)。
伊藤
私は、いつもそうなんだけれど、
もうあっという間に打合せが終わる。
「これがいい!」って。
サヤカ
気持ちよかったです。
本当に好きなものを、
っておっしゃっているだけあって、
判断のブレないところが、
自分もすごく勉強になったんですよ。
スケジュールにしても、「weeksdays」は
全然違うつくり方をしていますよね。
本当に好きなものをつくるために、
「できた時が売るときです」って。
伊藤
そう。みんながいいと思ったものが、
形になった時が売る時、って思ってます。
でも、それを言うと、
アパレルの人はすごくびっくりして。
サヤカ
びっくりしますよ(笑)。
こうじゃなきゃいけない、
ということがない。
ものづくりにおける、優先順位がちがうんですよね。
それよりも、かけなきゃいけない時間をかけて、
できた時がデリバリー(販売)。
それも気持ちよかったです。
伊藤
今年どうしてもこれを着たい、じゃなくて、
来年も着るし、長く好きでいたい。
そういう服をつくりたいからですよ。
サヤカさんの服って、
仁平さんが着ているのを見ると、
「これ、初期のものですよ」という服を今着ても、
全然古くなっていない。
流行とは関係がないし、
テイストを残しながらも、同じではなく、
ちょっとずつ変わっていくわけですよね。
サヤカ
はい。ずっと同じでいたいわけではなく、
変わっていきたいとは思っていて、
少しずつアップデートしている、という
気持ちでいるんです。
普遍性‥‥っていうと、
ちょっと自分の中では言葉が違って、
自分が変わった時にアジャストできるような、
器の広さをもつというか、
余白を残してつくりたい、
みたいなところがあって。
シンプルなものをつくる時でも。
伊藤
ああ、サヤカさん、
ポートレートも素敵だと思ったけれど、
言葉もいい。もう全部いい。
すごい。
サヤカ
本当ですか(笑)。嬉しいな。
でも、言葉はむずかしくて、
そもそも、言葉で表現するより、
潜在意識で感じていることを
形で表現するっていう立場なので、
言葉で表現することには
すごくチャレンジを感じています。
自分の表現と心っていうのは
つながっていると思っているんですけど、
表現から言葉への置き換えっていうのが、
すごくチャレンジに感じていて。
でも言葉も表現のひとつだし、
自分に合った言葉を
ちょっとずつでも選べるようになっていくと
いいなとは思っています。
まだ勉強中ですね。むずかしい、言葉は。
一緒にコラボレーションをさせてもらって、
つくるものがクリアになったら、
少し言葉もクリアになったなって思うんですけど。
伊藤
全然大丈夫ですよ。
たまに言葉が過ぎる人もいてね、
そこは難しいですよね。
サヤカ
そうなんですよ。自分のコレクションについて、
プレスリリースに言葉を書くわけですが、
「過ぎる」ことがあるんです。
それが嫌になって。
飾りすぎているのは、本当に気持ちが悪くって。
伊藤
急にドラマチックにもしたくないしね。
私は、サヤカさんは、
いまのままでもじゅうぶんだと思うけれど、
スタッフに恵まれているとおっしゃったから、
サヤカさんが言ったことをそのまま、
それ以上でもそれ以下でもなく
まとめてくれる人に出会えると思いますよ。
サヤカ
そうですね。
いっぽうで「自分で書きたい」という気持ちもあって。
写真家の友達と、言葉は難しいという話をしていたら、
「アーティストって、みんな言葉を持ってるよ」って。
たしかにそうだなと思ったんです。
それがまだ自分は
見つかっていないだけなのかもしれません。
伊藤
今回、ずいぶんたくさん会話を重ねて、
シャツと、シャツドレスができあがりましたね。
よかった。
サヤカ
会話の中から生まれてきましたね。
私は、シンプルなシャツが欲しいと思っていたけれど、
自分のコレクションの中ではつくれなかったんです。
たまたま、まさこさんと会う少し前に、
すごく信頼してる男性のパタンナーさんが、
「シャツを作りませんか」って言ってくれていたんです。
「すっごくいいシャツ作る工場があるんですよ」と。
で、そのシャツを見せていただいたんです。
それで「すごくきれいだから、ここで作りたい」
っていう話をしていました。
それで、タイミングと条件が合って、
今回シャツとシャツドレスをつくらせてもらいました。
女性もので、ディテールに力を入れたシャツが
あんまりないなって思っていて。
とくにシンプルなシャツは。
伊藤
うんうんうん。
サヤカ
女性のファッションって、
いわゆる「ファッション性」を求めるような流れが
たぶん全体的にあるんですよね。
ディテールよりも、ざっくりした、
大枠の見た目みたいなところが、
たぶん世の中のチェックポイントなのかなって。
それだけに、本当におもしろいですよ、
ディテールのデザインって。
ステッチの幅がこのくらいがいいとか。
伊藤
襟はこうだとか、
その芯はこっちがいいとか、話しましたね。
サンプルも何度もつくってくださって。
サヤカ
やっぱり一回作ってみてわかるところもあるので。
今回の素材は、コットンの産地である
浜松で、いちからつくったんです。
今、短サイクルでつくるものが増えているので、
その短サイクルに対応するために、
生地屋さんがストックを積んで、
それをアパレルが買うことが多いんですね。
そうすることで、生地の生産期間が短縮できるし、
追加対応もできる。
けれども世の中に出回るものは
似たり寄ったりになるわけですよね。
今回、本当に好きなものっていうことで
時間を頂いたので、いちからつくることができました。
ポプリンっていう、
高密度に織られている素材なんですけど、
そのままだと女性にはすこし硬い。
そこを、タンブラー加工といって、
生地をやわらかくする加工をかけているので、
着た時から、少し柔らかさがあるような、
女性らしさがあるような素材ができました。
そして縫製は、シャツ専門の工場です。
本当にシャツだけつくっているので、
ひと針ひと針がしっかりしている。
すごく詳しいことを言うと、
針目が3センチ間に10から15針とかで
縫われているものが一般には多いんですけど、
20から21針、入っているんですね。
かなり細かいんです。
この細かい針をきれいに縫うっていうことは、
やっぱり熟練してる人じゃないとできなくて。
伊藤
つれる(糸目で生地にしわがよる)問題も
出てきちゃうんですよね。
サヤカ
そうなんです。細かいと、つれやすいし、
単純に時間がかかる。
でも、この人だったら、
すごくいいものを作ってくれるって感じたので、
ぜひにとお願いしています。
襟の芯も、フラシ芯といって、
接着しないで加工をしています。
接着芯だと、生地にピタッと付くけれど、
洗濯すると、生地の収縮率ゆえに、
水泡みたいに、ポコポコしちゃうんですよね。
でも、フラシ芯っていうのは、
長い間で見た時に、表情の変化が少なく、
きれいに保てるんですよ。
ただ、縫うのがむずかしくて、時間がかかる。
だから女性ものでは、ないことはないんですけど、
一般的には接着芯を使うことが多い。
今回は、半フラシ芯っていうのを使っていて、
一回洗濯したら、剥がれるので、
しわや、ぽこぽこした感じにならないんです。
伊藤
なんてこまやかな気遣い。
サヤカ
そうですね。うんと細かいことですね。
伊藤
女性もののシャツでは、
あまり聞かない言葉ですものね。
メンズって、形にはそんなに
バリエーションがないけれど、
そういうところに、すごく気遣いがある。
サヤカ
そうですよね。
メンズの洋服って、それがおもしろいな。
でも、女性もののおもしろさも捨てがたくて。
伊藤
秋には、さらにふたつ、
「weeksdays」のためのアイテムを
用意してくださっているんですよね。
それも楽しみです。
今日は、ほんとうにありがとうございました。
サヤカ
こちらこそ。またニューヨークに、
遊びにいらしてくださいね。

ベッドに並べての展示会。

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伊藤
思い切ってつくってみた、ファーストコレクション。
人に見せるのに勇気が要ったということですが、
じっさいに見てもらって、どうでしたか?
サヤカ
ちょうど年始パーティーの季節で、
わが家でもお客様を招くことが多かったなか、
ニューヨーク在住の編集者でライターの
仁平綾さんが来てくれたんですよ。
まず彼女に、
「こんなものをつくったんだけども、どうしようかな」
と、フワッとした感じでお見せしたら、
「(これを世の中に)出しなよ!」
みたいに、強く言ってくれて。
伊藤
へぇ、そうなんだ!
サヤカ
「出しなよ。私、全部買うよ!」って。
伊藤
なんて力のある言葉でしょう。
サヤカ
それで「やってみようかな」と思えたんです。
自分の中では、つくったのはいいけれど、
どのタイミングで出すのかっていう踏ん切りは、
まだ100パーセント、ついていなかったので。
伊藤
夫が「やりなよ」と言ってくれた。
でも夫が着るわけじゃないし、そんなときに、
仁平さんが「全部買うよ、着たい」
って言ってくれた。それは大きいですよね。
サヤカ
そうですね、実際のものを見て、
言ってくださったわけですから。
伊藤
仁平さんもほんとうにピンと来たんでしょう、
あの人、絶対、嘘は言わない人だから。
今だって、ほとんどのワードローブが、
サヤカ デイヴィスなんですもの。
仁平さんとは長いおつきあいだったんですか?
サヤカ
いえ、その日、初めて会いました。
共通の友人がいたので、お招きしたんです。
たくさんの友人を招いてのパーティーで、
ニューヨークにいると、そういうことが多くて。
信頼してる友達の友達は信頼できるっていうか、
最初から打ち解けられるようなところがありました。
それでベッドに服を並べて、お見せしたんです。
伊藤
すごい、ベッドの上で展示会!
その時、周りの人の反応は?
サヤカ
周りの人も、反応はしてくれたけど、
仁平さんほどではなかったです。
伊藤
「全部買う」に勝る言葉はないですよ。
サヤカ
それでファーストコレクションを、
小さいギャラリーを借りて開きました。
洋服は6点だけなので、壁に並べて、
アートみたいな感じで展示をして。
お客さんもそんなに呼べなかったんですが、
5店舗くらい「いいね」って言ってくれた所があって。
でも、その5店舗の内3店舗は
私が直接、営業に行ったんですけれど。
伊藤
持ち込みで?
サヤカ
はい。トランクに、つくった服を詰めて、
自分も着て、ニューヨークを行脚しました。
今はもうないお店ですが、
ジョイナリーっていうお店に
ガラガラとトランクを持って行った時は、
お店の人に話しかけられなくて、
グルグルと店内を回って、様子を伺って。
伊藤
えっ、アポなし、ということ?
サヤカ
そうなんです。アポなしで突撃。
というのも、好きなお店だったから、
知ってはいるけれど、
バイヤーさんの連絡先を知らなかったんです。
そうしたら、そのうち店員さんが気がついて、
「その洋服どこの?」って。
「私がつくったんですよ。実は、これ、
私のファーストコレクションなんです。
今日、持ってきてみました」って。
伊藤
すごーい!
サヤカ
そうしたら、「そうなんだ。すごく興味がある」
って言ってくれました。
「でも、ちょっと今、見られる時間がないから、
また日を改めて来てもらえる?」
って言ってもらって。
そこは個人でやっているような
ブティックだったんですけど、
感動したのは、仁平さんみたいな感じで、
ブランド名なんて誰も知らないのに、
いいと思ったものはいいと、
自分の立場で評価してくれたことです。
伊藤
飛び込んできた、無名の、東洋人の女の子に。
ほかのお店はどうでしたか。
サヤカ
何シーズンも手紙を書いて、
足で運んで持って行って、
e-mailもして、っていうことを続け、
やっと買い付けをしてもらえたお店もあります。
「ファーストシーズンだけじゃわからないから、
何シーズンか見てみたい」って、
様子を見ていてくれたんですね。
それでも「君の手紙はずっと読んでたよ」
って言ってくれたりしたんですよ。
伊藤
へぇ! 機が熟して、
声がかかったブティックもあるんですね。
サヤカ
そうですね。すごくうれしかったです。
e-mailはたくさん来るだろうし、
ちょっと目立たないだろうな、
ちゃんと伝わることがしたいなと思って書いた手紙を、
見てくれてたんだなって。
自分の好きなお店の、素敵だなと思う
バイヤーさんは、対応が素晴らしかった。
電話ひとつ、すごく丁寧で、
優しいなぁと思いました。
そういうふうにして、ちょっとずつ
広がっていったんです。
伊藤
日本では、どうやって?
ニューヨークでじわじわ広がったのを、
日本のバイヤーさんが見たんですか。
サヤカ
最初の3年くらいは、ニューヨークで
個人的に展示会を開いていたんですけど、
手が回らなくなって、
パートナーが欲しいなぁと思っていた頃、
当時NYのマルチレーベルショールーム(代理店)で
セールスとして働いていた、日本人の友人が、
ブランドを気に入ってくれて、
「日本でも売らせてほしい」と。
「この人だったら、一緒に広げてくれるな」と思って、
扱ってもらうことになったんです。
複数のブランドを同時に扱って、
一斉に展示会を開く、
そういうタイプの広いショールームです。
そこでやるようになって、
自分でリーチできなかったお客さん、
そのショールーム自身が持ってるお客さんにも
見ていただけるチャンスが増えました。
それが2015SS(春夏)のことでした。
伊藤
最初のコレクションには
ジュエリーがあったということですが、
いまもつくっているんですか?
サヤカ
実は、ジュエリーは、
今、お休みしてるんですけど、
趣味で続けています。
閃きで、やろうかなと思って始めたことが、
自分の表現方法に合っていた。
ジュエリーをつくることで
バランスを取っていたようなところもあります。
またやりたいな、とは思っています。
伊藤
要所要所で「閃く」んですね、サヤカさん。
サヤカ
そうですね。ピンと来る(笑)。
伊藤
岐路に立った時、「こっち!」って判断する時、
そういうカンに従っている?
サヤカ
そうですね、動物的カンで(笑)。
表現者としては、そこの直観を
強くしてたほうがいいと思っていて、
意識的にそういうふうに
決定しているところもあるんです。
伊藤
いろいろ調べて、
「こういう形をつくったら売れるだろう」とか、
そういうことは全然考えない?
サヤカ
そういうことは、本当にもう、
まったく、考えません。
そんなことをしたら、気持ちが悪くなりますね。
そういうつくり方は自分には合わないです。
意味を感じないです。
伊藤
本当に好きなものをつくる。
サヤカ
そうですね、本当に。
たくさんの人が関わって、
お客様も増えてきたりすると、
それぞれの視点や目標があるから、
いろんな意見を頂くんですよね。
結局自分が決めることなので、
それに左右されなくてもいいんですけど、
声が大きくなってくることで、
集中できない時期があったんです。
だから、意識的に、
ちゃんと集中していきたいなぁと思っていて。
伊藤
私が「weeksdays」で
サヤカさんといっしょに服をつくりたい、
と言いだしてから、
時間をかけてたくさん話して、
考えていきましたよね。
日本で「やりましょう」となって、
ニューヨークでサヤカさんから、
「どんなものが好きですか」と、
たくさんインタビューを受けて。
サヤカ
そうでしたね。
伊藤
その時、私からは、
サヤカさんに私がつくりたいものを
つくってもらうんじゃなくて、
サヤカさんがつくりたいものを
提案してほしいと言いました。
私は紹介をする立場ですが、
自分が着たいと思わないと、
みんなに「着て」って言えない。
だからサヤカさんのつくるものなら大丈夫、
と、そこは安心していたんです。
サヤカ
ニューヨークでは生地を見ていただきましたね。
伊藤
そうそう。
「これ好き!」とか
「やっぱり?」みたいな。
意見を無理に通すのではなく、
「でしょう?」みたいな感じでしたね。
あの時、ブルックリンで
早めのお昼の時間に待ち合わせをして、
パンケーキを食べて、ちょっと歩いて、
古道具屋を見て、食材店で買い物をして、
サヤカさんのスタジオに行って‥‥。
あれは、すごく意味のある時間でした。
サヤカ
うれしいです。
伊藤
この場所で、この服はできてるんだ、って、
肌で感じました。
サヤカさんのアトリエは、
ブルックリンの運河沿いにありましたね。
サヤカ
あのあたりはGOWANUS(ゴワナス)というんです。
お食事した所がキャロルガーデンという、
もともと、イタリアンコミュニティで、
かなり発展しているおしゃれな所なんですが、
ゴワナスは、まだ発展しきれていない、
けれどもアーティストの
コミュニティみたいな場所になっています。
毎年10月に、ARTS GOWANUSという
非営利団体が主宰する
Gowanus Open Studiosっていう企画があって、
ふだん事務所にしているようなアトリエも
その期間中はオープンスタジオにして、
みんなが作品を買ったり、見たりできるっていう
イベントもあるくらい、
アートのコミュニティができているんです。
私も、そういう空気を感じて、
ゴワナスにアトリエを構えました。
伊藤
その時もピンと来た?
サヤカ
その時もピンと来ましたね!
伊藤
古い建物のなかを区分けして、
アトリエが並んでいましたね。
サヤカ
ビル内にも友達が多くって、
ドキュメンタリーの映画監督とか、
グラフィックデザイナー、家具のデザイナー、
ジュエリーデザイナー‥‥。
伊藤
そこだけで、いろいろなことができちゃう。
サヤカ
実際にそういうコラボレーションを
したことがあるんですけど、
すごくおもしろいですよ。
伊藤
サヤカさんのアトリエも、
ルームシェアをしていましたね。
サヤカ
伊藤さんにいらしていただいたときから、
仲間が増えて、
今は、私と、ニットデザイナーのコンサルタント、
インテリアデザイナーの3人で使っています。
伊藤
サヤカさんの仕事は、1から全部、ひとりで?
サヤカ
そうですね。ただ、パターンを引くことや、
サンプル製作などは、外部の人にお願いしています。

ニューヨークだからできたこと。

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伊藤
私がはじめてサヤカさんの服に出会ったのは、
2013年の秋のニューヨークでした。
友達で、編集・ライターの仁平綾さんに、
展示会に連れて行ってもらったんです。
サヤカ
2014SS(春夏)のコレクションを
ごらんいただいたんですよね。
伊藤
彼女の着ていたワンピースがとても素敵で、
「それ、どこの?」って訊いたら、
サヤカ デイヴィスというブランドで、
日本人女性がやっているんだよって。
仁平さんは、服の好みがシンプルで、
ワードローブが多いほうではないと思うんですが、
家のクローゼットのほとんどが
サヤカさんの服だったんですよ。
それで、「ちょうど展示会をやってるよ、行こうよ」
と誘ってもらったんです。
彼女はサヤカさんの服が
ほんとうによく似合っていて、
いっしょに街を歩くと、
「その服いいわね!」って言われたり、
スーパーマーケットのレジの人から、
「まあ、あなたがここでいちばんオシャレよ!」
なんて褒められたりしていて。
サヤカ
わぁ、嬉しいです。
伊藤
ニューヨークの人って、知らない人でも、
「これ、どこで買ったの?」とか、
「いいね」とか、普通に言ってくださる。
サヤカ
素直ですよね。
人のことを認めるのも、すごく。
伊藤
でもね、私も、日本なのに、
聞かれたんですよ、駅のホームで!
サヤカ
へぇ! 日本でもそんなことが。
伊藤
サヤカさんは、ニューヨークを拠点にし、
現地で展示会を開き、日本でも開き、
というスタイルでお仕事をなさっていますが、
さかのぼると、いつからなんですか。
サヤカさんの歴史、少し教えていただけたら。
サヤカ
ブランドを立ち上げたのは、
2013年の秋冬シーズンなんです。
12年に仕込みをして、
13年の2月にリリースしました。
経歴を言うと、
文化服装学院でファッションの勉強をし、
ニットデザイナーとして
日本の企業で働いていたんです。
けれどもずっと海外に行きたいと思っていて。
英語を勉強したいと考えていたんです。
伊藤
それで、ニューヨークへ?
サヤカ
はい。ニューヨークって、
行ったこともなかったんですけど、
「ニューヨーク、行こうか!」って(笑)。
伊藤
ピンと来たんですね。
サヤカ
はい。直観で動いたほうがいい、って
いつも思っているので、
語学留学をしようと決めました。
日本で5年勤め、ひと段落だったのもあって、
思い切って渡米しました。
最初は、語学留学を1年終えたら帰ろうと
考えていたんですけれど、
その1年の間に、ニューヨークで
ファッションに携わることが
できたらいいなって思い始めたんです。
それで、ユナイテッドバンブー
(United Bamboo)という憧れていたブランドで
インターンをさせてもらいました。
するとビザもサポートしてもらえることになって、
すごく働き方が自分に合っていたんでしょうね、
4年働きました。
渡米したのが2009年でしたから、
2012年までですね。
伊藤
働き方が合っているっていうのは、
具体的にはどういうことだったんですか。
サヤカ
ニューヨークに行って、自分の表現が
自由になったなぁと思ったんです。
外のことをシャットダウンして、
集中のできる環境だなって。
もちろん、ニューヨークにもいろんなブランドがあり、
マスに向けたブランドもあるし、
もうちょっと絞った世界観のブランドもあるので、
どこに関わるかにもよるんですけれど。
伊藤
さっき、「何かを考える時、もしかして、
英語になってるの? それとも日本語?」
みたいな質問をしたら、
「バシッと言いたい時は、英語のほうが」って。
サヤカ
そうですね、表現がしやすいです。
たぶん、そっちのほうが合ってるんでしょうね。
多様性を尊重するニューヨークは、
アメリカのなかでも特別なんだと思うんですけれど。
伊藤
ニューヨークって、ひとつの国みたいですよね、まるで。
サヤカ
そう、国だと思ってるんです(笑)。
ニューヨークっていう国は、いろんな人種がいるし、
多様性をアクセプトするところがある。
人と比べないし、自分はこれでいいし、
みたいなところもあって、
人のことを本当に気にしないし、
自分もこれです、みたいなストレートさがあって、
お互いを認める。
それがすごく好きなんです。
伊藤
肌の色も全然違いますものね。
サヤカ
そうなんです。肌の色も違うし、体型も違うし、
比べる対象がない、みたいな。
それが結構心地いいんです。
どうでもいい格好をして外に出ても、
誰も、何も気にしない(笑)。
伊藤
矢野顕子さんと話したんですが、
地下鉄に乗ると、
タンクトップにビーチサンダルの人もいれば、
革ジャンを着てる人もいて。
日本だと「こんなに寒いのに?」とか
「こんなに暑いのに」みたいになるのに、
自由というか、認めあっているんだなって。
もちろん、日本で大切にしていること、
たとえば四季に合わせて、この着物はこう着るとか、
帯留などの小物はちょっと季節を先取りして、
みたいなところも、素敵なんですけれど。
サヤカ
もちろん、その価値観も、すごく素敵ですよね。
伊藤
そうなんです。その一方で、
「冬なのにビーサンの人がいる!」、
そんなニューヨークって、
旅行者の私も楽だなって感じました。
なんだか、急に気分が自由になるんだもの(笑)。
サヤカ
そうなんですね(笑)。
伊藤
あと、みんなご機嫌っていうか、お店の人も、
「こんにちは」「いらっしゃいませ」じゃなくて、
「ハーイ、元気?」みたいな、
そういう日常感もいいですよね。
仁平さんに「なんでこんなみんな機嫌がいいの?」
って訊いたら、
「それが大人の証だと思っていると思う」って。
サヤカ
あぁ!
伊藤
気分のいい自分でいることが、大人の証であると。
サヤカ
なるほど、そういう考え方もありますよね。
そういうふうに考えたことがなかったな。
伊藤
マニュアル通りの対応だと、
小っちゃい子に対しても、
おじいちゃんに対しても、
同じ受け答えをすることになりますよね。
でも、その時、その人の気持ちで、
「こんにちは!」とか、
「ありがとう」って、言い方も変化すると思うんです。
ニューヨークではそういう挨拶が聞こえる。
それが、すごくいいなぁって思うんです。
サヤカ
たしかに、ストレートですね。
でも、機嫌の悪い日もあるんですよ、店員さん。
伊藤
そうそう。並んでいて、うんとしかめっ面で
「ネクスト!」って言われるとね、
本当に、怖い(笑)。
サヤカ
でも、それもちょっと人間らしいところかな。
コーティングされたコミュニケーションの、
表面のコーティングだけしか見えないより、
もしかしたら、気持ちがいいかなぁ。
伊藤
そうそう。それでいいんじゃないかな。
そんな環境で、
サヤカさんのデザインは、自由になった?
サヤカ
はい。日本で働いていた会社が
マス向けのブランドだったということもありますが、
ニューヨークでコレクションブランドに入ったら、
デザインというものは、自己表現か、
アートのような感じだったんです。
私は、それに興味がある! と思って。
伊藤
そうしてニューヨークで、
ブランドをひとりで立ち上げた。
‥‥って、どうすればいいのか、
全然わからないですけれど、
最初は何をなさったんですか。
だって、「何者でもない私」ですよね、
ニューヨークでは。
サヤカ
はい。きっかけは、会社の内情が変わって、
「洋服をやめましょう」となったんです。
「バッグや小物をやりましょう」って。
そういう状況に陥るまで、
洋服のデザインをすることが、
自分にとっていかに不可欠か、
気づかなかった。
バッグだからいいとは、
その時思えなかったんですよね。
で、「あ、なんかヤバい。違うな」と思って、
他のことがあまり考えられなくなって。
伊藤
洋服をつくる環境への転職は考えませんでしたか。
サヤカ
転職も、一応、考えたことは考えました。
けれども、そこも、ピン! と来て(笑)、
「ブランドを立ち上げるなら今かな」と。
もちろん、周りからの支援もあったんです。
たとえば夫は何年も前から
「自分で始めなよ」って言ってくれていた。
でも「うーん、ちょっと違う、まだまだ」
って私は言っていた。それがその時は、
「今、やろう!」と思って、
ファーストコレクションをつくったんです。
伊藤
それはどのくらいの規模で?
サヤカ
本当に小さいコレクションで、
洋服7着と、ジュエリー9点でした。
しかも、つくったものの、
「どうしよう? 人に見せていいのかな?」
と思っていたんですね、
「もうちょっとつくり直したいところもあるし」って。
時期的には、ニューヨークの
秋冬のコレクションは2月なんですけど、
出来上がったのがその直前の1月でした。


●サヤカさん着用アイテム
 ワンピース、アクセサリー:すべてSAYAKA DAVIS

[お問い合わせ先]
 Showroom SESSION TEL:03-5464-9968

●伊藤さん着用アイテム
 ワンピース(インディゴ):weeksdaysにて9月発売予定

SAYAKA DAVISのシャツとシャツドレス

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あの大きな街で。

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SAYAKA DAVISのさやかさんと、
はじめてお会いしたのは、
今から6年ほど前のこと。
ニューヨーク旅行のさなか、
春夏の展示会におじゃましたのがきっかけでした。

その時、私の心に残ったのが、
さやかさんご本人。

華奢なのに芯が太い。
自分を見失うと飲み込まれそうになる、
あの大きな街で、
行きたい方向にまっすぐ目を向け、
すっくと立っている、
そんな印象を受けたのです。

weeksdaysをはじめた時、
いつかさやかさんと一緒に、
ものづくりができたら、
そう思っていました。
それから、
東京やニューヨークのアトリエで、
幾度となく打ち合わせをし、
私たちの頭に浮かんだのは、
大人が着る「ふつう」の服。

やがてできあがったのは、
シャツとシャツワンピースがそれぞれ2枚ずつ。
さやかさんですから、
「ふつう」でありながら、
ふつうではない、
工夫が散りばめられた服ができました。

8/4からのインタビューも、
どうぞお楽しみに。

あたらしい老後の形。

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大久保
最近、ほんとにちょっとまじめに思ってることがあって、
新しい家族の形、見つけたんですよ(笑)。
伊藤
新しい家族の形?
大久保
おぎやはぎの小木さんと仲がよくて、
たまにおうちに呼んでくれて、
ホームパーティーをするんです。
私、奥さんとも、すごく仲がいいんですよ。
小木さんは私と同級生なんですけど、
娘がひとりいて、たぶん独立しますよね。
そして私はたぶん、このまま結婚をしない。
だから、私、あそこの家に
小木夫妻と一緒に住んであげようかなって。
伊藤
え?!
大久保
これ、新しい形だと思うんです。
夫婦も倦怠期じゃないけど、
2人でいるのがしんどくもなる時期も
きっとあるじゃないですか。
伊藤
だから「住んであげようかな」。
大久保
そう。べつに養女にしてくれとかではなく、
そういう新しい形が今後
できていくんじゃないかって思ってて。
今、目星としては小木家か、
バナナマンの設楽家もいいなと(笑)。
私、わきまえる子なんで、
一部屋貸してもらえれば、
今日は一緒にご飯食べた方がいいなとか、
今日はやめとこうかなとか、
判断するし、迷惑はかけない。
こんな形が出てくるような気がするんです。
伊藤
なんかいい気がしてきました。
大久保
向こうにとってもメリットがあるんです。
二人夫婦より私が入ることで会話が弾むとかね。
伊藤
老後の夫婦関係も改善すると。
それ、小木さんにお伝えして‥‥。
大久保
まだ言ってないです(笑)。
怖がられると思って。
でも、お金はもちろん自分の分は自分で
持っていきますんで、
迷惑はそんなにかけないと思うんですよね。
伊藤
そうですよねえ‥‥そうですね。
大久保
Win-Winの関係になれるかな!
──
テレビで女芸人のみなさんが、
将来私たち独身のままで年をとったら
一緒のマンションに住もうねって。
大久保
はいはい、言いますね。
──
それとは違うんですか?
大久保
やっぱり女同士っていうか、友達って、
仲悪くなることもあるだろうし、
ガッと入り込んじゃったら、嫌だなと思うときが
絶対来るような気がするんですよ。
緊張感あるでしょ、小木夫妻と私なら(笑)。
ここは入っちゃダメだ、ここまで入っていい、
みたいな日々。
いいとこどりな関係にしたいんですよね。
もちろん得体も知れてるし。
この人が家のものを盗むとか思わない。
信頼はあるんで。
向こうも、かわいそうなね老女をね、
面倒みてるっていう優越感も持てるかもしれない。
たまに夫婦でね、「大久保さんかわいそうだから、
おいてやれよ」みたいな、ちょっとこそこそっと(笑)。
伊藤
小木さん、どう思われるんでしょうね。
大久保
そのへんは信頼してるんですよね、彼の感覚をね。
べつに常識にとらわれないタイプなんで、
信用をしてるんです、私は。
伊藤
すごいな。そんなこと考えてもみたことなかったです。
でも、いいかもしれない。
これから友達夫婦を見る目が変わりそうです。
大久保
そうですよ、どこにお世話になるかわかんないって
目で見てください。
伊藤
この人の奥さんはちょっとうるさそうだしな、とか。
大久保
そうそう、そこ。
奥さんとまず気が合うっていうのが大事ですからね。
伊藤
そうですね。
ああ、ほんとうにたくさんお話できました。
よかったです、今日、ほんとに。
大久保
ほんとに? よかった?
伊藤
ありがとうございます。
大久保
とんでもないです。
伊藤
せっかくなので、みんなからも、
なにか質問があればと思ってます。
誰か、ありますか?
男性
お願いします。
さっきのパーソナルトレーニングの話じゃないんですが、
僕も、すぐ妄想をするんです。
あの女の子、僕のこと
ちょっと好きなんじゃないかなとか。
大久保
それは幸せよね(笑)。
男性
スタバで紙コップに似顔絵を描いてくれたら、
ちょっと気があるとかすぐ思っちゃうんです。
そういうのとか、大久保さんも、あったりしますか?
大久保
妄想は、ゼロからはしませんよ。
でも今みたいにスタバでカップもらったら
似顔絵が描いてある、
そんなきっかけがあったら全然いけます。
楽しいですもんね。
今も、妄想してます。
今日はもうこれで別れるんですけど、
意外とあなたと私の最寄り駅は一緒で、
改札口でアッてなって、
さらに、行きつけの店行ったらいて、
またアレッてなったりして。
だから、もし偶然会ったら、
お互い頑張って声かけるってことでいいですか(笑)。
男性
はい!
大久保
一歩、踏み出さないとね。
伊藤
(笑)もう一人ぐらい。
女性
はい。私、お願いします。
大久保
あら、うれしい。
女性
先日「さんま御殿」で
梅沢富美男さんとケンカみたいに
絡まれてるシーンで、
今日のお姿とは全然違う、
芸人としてのスイッチが入っている状態を
見させてもらいました。
さっきのお話の中で、
急に落ち込んでいくときがあると、
そういう面も持たれているのに、
どうやってバラエティのスイッチを入れるのか、
それを教えてほしいです。
大久保
そうなんですよね、
気持ち的には今日無理だなっていうとき、ありますよ。
今日はもうテレビに絶対出たくないし、
今日の私のこんな嫌な気持ちのまま、
テンションを上げて、無駄に笑って、
トークのアンテナを張って、
なんか言われたらすぐ返さなきゃいけないなんて、
その何もかもが嫌だ! というときって、あるんです。
今日、もしかしたら
一世一代の失敗をするかもしれないとも思うし。
だけど、不思議なもので、
スタジオに入ってマイクをつけて座ると、
ちょっとオンになるんですね。
長くやってるのもあるから、意外と体が切り替わる。
そして、そういう時は、人に頼ります。
当たり前ですけど、みんなプロなんで、
その人たちが笑いをつくったら、
のっかっちゃおうと思います。
この状況にいるんだから、
「あっ、楽しい。よし、楽しもう。私もいける!」
みたいに、一瞬にして雰囲気にのまれる。
それでなんとかやってきてますね。
ありがたいのは
一流のプロの人たちの現場に
お邪魔させていただくことが多いから、
そこのテンポ、熱、エネルギーをちょっともらって、
「よーし、じゃあ!」ってのっかる感じでやると、
もう、だいたい収録の2時間が終わってる。
そんな感じですかねえ。
うん、周りに甘えてます。
じゃあ、親が死んだときもバラエティができるのか、
それはさすがにわからないですけど。
伊藤
たしか夫婦の経済についてのトークでしたよね。
自分で稼いだ金を自分で使って何が悪いと
開きなおる梅沢さんに、
立ち上がって喰ってかかる大久保さん、
さらに、ブス呼ばわりして罵倒する梅沢さん。
私も見ましたよ。
大久保
私は言葉のプロレスをやってるし、
梅沢さんありがとうっていう気持ちで、
もっとこい、もっとこいと思ってやってるんですけど、
世の中的には、
いまだにああいうことを笑いにして‥‥、
って嘆く人もいます。
何年前のテレビなんだっていう意見もあるし、
セクハラはダメ、
ブス呼ばわりはするのもされるのもダメだと。
それもTVショーだと思って
捉えてくれればいいんですけどね。
「大久保さんはそんな言うほどブスじゃない」って、
もう全然フォローでもなんでもないから!(笑)
伊藤
ほんとにね。
──
ずいぶん長い時間、話していただいて、
ありがとうございます。
今日、このあと、レコーダーはオフにしますけど、
伊藤さんがおつまみを作るので、
ビールサーバーもあるし、
ちょっと飲んでいきませんか。
大久保
あら、おもてなし。
いいんですか?
ありがとうございます。
伊藤
ほんとうにありがとうございました。
大久保
優しい方たち!
こちらこそありがとうございました。
じゃ、失礼しまーす。

わたしの顔が変わってく。

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大久保
私、好感度めちゃめちゃ欲しいんです。
世の中って好感度の高い人が好きじゃないですか。
ハツラツ、元気、明るい、
みんな大好き、幸せ、みたいな人。
身近で言うと私の大親友、いとうあさこちゃんって
すごく好感度が高いんですよ。
番組で悪口とかあんまり言わないし、
言うように見えていても、実は自分を落として、
下に入って、ちょっとひがみのように言う。
人のことを悪く言わないんですよね。
伊藤
確かにそうですね。
大久保
疑ったくらいですよ。
そんなわけないと思って。
伊藤
いとうあさこさんってテレビの画面で
外れた後ろにいるときでも、
すごく幸せそうに笑ってるんですよね。
大久保
そう、笑ってるんです。
伊藤
そうだ、それだ。
大久保
私もまあまあ笑ってますよ、頑張って。
伊藤
違うん‥‥じゃ‥‥。
大久保
ウソ笑いですけどね(笑)!
好感度、べつに100点満点でなくていいんですよ。
最近、世の中の流れでしょうけど、
セクハラっぽいことをすると、
男の人のセクハラは叩かれるのに、
なぜ大久保さんはセクハラって
叩かれないんでしょうかとか、
あのおばさんのやるセクハラは
見ててすごい不愉快になりますって、
そんな声もあるんですよ。
好感度とまるで反対で、
すっごい落ち込むんですけど、
こういうのがないと、なんていうんですかね、
私が出てる意味はないなと、
またポジティブに考えて、
止められるまでどぎついセクハラをしてやろうかと
思ったこともあります(笑)。
でも、ほんとうに嫌われるって、
よっぽどのエネルギー持った人じゃないですか。
テレビ見てて、こいつ嫌いだなって
思わせるぐらいに、なんか出してる人って、
なかなか凄いですけどね。
伊藤さん、テレビに出ている人で、
嫌いな人、いますか?
伊藤
芸能人ではないけれど、
「この人はテレビに出ていいの?」
ってびっくりすることはあります。
大久保
わかります。私も最初「笑えないブス」って
言われたんですよ。
なんか生々しいブス?
伊藤
なんですか、それ!
大久保
触れちゃいけない、みたいな、危うい感じですよね。
それはね、当時、私がまだ定まってないというか、
本人もあんまりブスって思ってないから、
いじる方も、「あれっ、この子にブスって言ったら、
ちゃんと返してもくれないし、ちょっと‥‥」
みたいな不安定さがあったんですよ。
でも、これがテレビに出続けていくうちに
キャラクター化され、
ほんとにちょっとずつ目が離れていきましたし(笑)、
大陸移動で、少しずつ顔の下半身が前に出てきて、
笑えるブスとして完成していくんですよ。
伊藤
すごいですね、キリンが上の草を食べるために
首がのびていったみたいな。
大久保
ちゃんとみんながツッコミやすいように
だんだんできあがっていくもんなんですよ、テレビって。
自分の役割を把握したときにね。
でも、ほんとに私、朝、寝起きの顔を
みなさんに見せたいです。
すーごい、もう、ほんっと妖怪ですよ。
私、戒めのために、朝起きて、
髪ボサボサで化粧もしない状態で、
あえて手鏡を上向きに置いて、
のぞき込むんですよ。
そうするとね、顔が重力に負けて、落ちるの。
伊藤
なんでそんな!
大久保
ほんと妖怪の、油すましみたい。
「うわっ、怖い」と思って。
伊藤
なんですか、その行為は。ええっ?
大久保
戒めですよ。
自分の一番ひどい状況をこうやって見て。
だけど、それをメイクして、
テレビに出るために照準を合わせていくわけです。
だから、朝の妖怪からの、テレビに出るまでは、
だいぶ伸びしろというか(笑)、
すごい成長率なんです。
ほんとにすごいから。
伊藤
意識で、いかようにも変えられる。
大久保
そう、意識だと思う。脳がスイッチを入れる。
伊藤
すごいですね、その工夫。
大久保
やってみてください、怖いから。
すっぴんよ。眉毛も描いちゃダメですよ。
伊藤
ちょっと見れないです。
大久保
一回見てください。
でね、伊藤さんが苦手というその方は、
まだちょっと自分がどういう感じかまだわからない
不安定さがあるんですよ。
そのうち落ち着きます。顔が。
伊藤
でも、その人、メインでしゃべっていると
ウーンと思うんだけど、
端で映ったとき、楽しそうに笑ってるんです。
それを見てから、結構好きかもとか思い始めて。
大久保
どういう心理? 笑うんだ、この人? ってこと?
伊藤
ちょっとかわいいっていうか。
大久保
すごいとこ見ますね。
やっぱりそうやって人が自然に
笑ってる姿を見れる方がいいんですかね。
伊藤
画面の隅にちっちゃな枠で‥‥。
大久保
ワイプね。
伊藤
そうそうそう。そのときに、
女優さんとかってスキがないでしょう。
大久保
はいはいはい。
わかってますからね、
小さく抜かれてるって。
伊藤
そう。うっかりした顔で映らない。
でも、その時にこそスキを見せて欲しい。
大久保
なるほどね。人間臭いというか、
完璧じゃない人の方に、魅力を感じるんですね。
伊藤
その人はわざと嫌われるようなことを
言ったりするんですが、
顔、そのうち、だんだん整ってくるのかしら。
大久保
整うというよりも、
もっとデフォルメされてくるんですよ。
そのキャラクターに合わせて。
伊藤
そうなんだ。なんでですかねえ。
テレビってすごいですねえ。
大久保
私、テレビのバラエティ番組が多いから、
ウソでも笑うじゃないですか。
もちろんほんとに面白いから笑ってるときも
いっぱいあるんですけど、
そうすると笑い顔になるというか。
それがなかったらもっと顔の肉が
下に落ちてるんじゃないかって思うんですよ。
ウソでも笑う時間が1日2時間とかあるから、
それが意外といい感じに。
伊藤
その緊張感ってすごいですね
大久保
緊張すると、いろんなものが出て
きれいになるらしいですよ。
人は緊張した方がいいって。
伊藤
よくデビューしたばっかりの女優さんとかアイドルが
1年ぐらい経つと
なんでそんなきれいになったの? って。
大久保
確かに。
伊藤
それって見られてるから?
大久保
あと、自信じゃないですか?
私はもうきれいになったっていう。
伊藤
じゃ、女優さんとかは
きれいな方向に顔が大陸移動(笑)。
大久保
うん、そうですね、
配置がちょっとずつ、
ベスポジに行くんじゃないですか。
意識ですよね、見られてるっていう意識って
やっぱり大きい気しますけどね。
伊藤
普通の人に活かす場合はどうしたらいいんですか。
大久保
「笑っとけ」っていうのはありますよ。
って、精神論を言いましたけど、
笑ってるうちになんか楽しくなるって本当です。
磯野貴理子さんがため息をつきそうになったとき、
はぁ‥‥↓、っていうのを上げるんですって。
ハアーッ↑、て(笑)。
下に落ちちゃダメだ、アアーッ↑、って上げると、
それでもう気持ちが切り替わると。
それを聞いて、なるほどと思って。
でも若干変な人って思われる、あれは。
リスキー、リスキー。
でも、そうか、人ってそういうものなのかなと。
伊藤
(笑)
大久保
急に不安になることはありません?
私は、この先結婚もせずに、
仕事もたぶんなくなっていき、
趣味もなく、パコ美はもしかしたら先に死んで、とか、
みんな、たぶん今私の悪口を言ってるはずだとか、
私が昨日あんな言い方したから、
たぶんあの人は私のことバカだなと
思ってるんだろうなとか、ずーっと根に持って、
家で誰とも口をきかず、
「落ちる」ときがあるんですけど、
ないですか? そういうこと。
伊藤
どうかな、うち娘がいるから、大丈夫かも。
夫はいないんですけど。
大久保
いえーい(笑)。やいやいやーい!
いいじゃないですか、娘さん。
老後の面倒をみてくれるというか。
伊藤
そうですね。面倒みてくれなくてもいいけど、
ちょっと心強いかも。
そういう人がいるっていうだけでもね。

▲編集担当、武井さん(男子)に作ってもらったたらこパスタが今日のしめ。
たらこもバターも、ネギも海苔もたっぷり入った、
がっつり、大満足の味です。

好きなタイプって言われても。

未分類

──
伊藤さん、そうは言っても、
男子にはけっこう冷たいんですよ。
伊藤
やめてよー(笑)。
大久保
ええーっ。
そうなの?!
──
ふだんは、超がつく対等なんですけど、
男子が男子ノリで騒いでるとき、
すごく冷たくなることがあります。
コーヒー淹れるのに、
この機械がとか、ネルドリップがとか、
この豆が、この産地がって言ってたら、怒られました。
「うるさい」って。
伊藤
「そんな面倒くさいこと四の五の言ってないで、
さっさとおいしいコーヒー淹れてよ!」と。
大久保
許容範囲狭い!
でもたしかに、男子って、
たまに中学生みたいにキャッキャッキャッキャ、
ずっと騒いでることがありますよね。
伊藤
おじさんも、沸点を超えるというか、
あるときから、キャッキャしだしませんか?
大久保
しだす! はしゃぎますよね。
伊藤
でも、なんか憎めないんですよ、おじさんって。
大久保
そうかなあ。私、イラっとすることありますよ。
昨日も焼き肉をやるって、
40すぎたおじさんたちが腹すかして来て、
肉をすごくたくさん食べるから、
すごく腹が立ったんですよ。
こんな大人がこんなに食べる? って。
5人、6人いたら、考えるじゃないですか、
肉の量を見ながら、取り分をね。
でもそういうのを考えなくて、
まだ半分焼けてないのも食べようとするから、
「私、こういう人嫌い!」って
一瞬ほんとに思ったぐらい。
なんでしょうね、あのはしゃいでる感じ。
伊藤
それは、大久保さんが、
はしゃがせるんじゃないかなあ。
大久保
私が?
この人、はしゃいでも許してくれるって思って?
伊藤
そう。それでちょっと厳しいことを言われて、
もうなおさらはしゃいで盛り上がる。
そういうタイプですよ、大久保さん。
ちょっと甘くって。
大久保
ほんとですか。
私、ほんとに心が狭いのに。
もちろん、好きな男の人に対しては
許容範囲が異常にガッと広がりますけれど。
伊藤
どういうタイプが好きですか?
大久保
わからない、これはもはや(笑)!
伊藤
えーっ。
大久保
わかりません。
伊藤
そうですか。
大久保
昔は──昔といっても35ぐらいまでは、
陰があってミステリアスで、
過去に何かあったんじゃないかって思う、
そんな人に惹かれがちだったんです。
無口で、なんならムショ帰りなんじゃないかと
思わせるぐらい、陰がある人が。
飲み会とかでもあの人しゃべんないな、
なんか気になるな、なんて、
ちょっとずつ惹かれていって。
でも、結果、付き合うみたいになったとき、
蓋を開けると、単純にほんとにボキャブラリーのない
人だったりするんですよ。
社交的じゃないというか、
コミュニケーションのツールを持ってないみたいな。
伊藤
そうなんだ。
大久保
ガッカリですよ。
だから、やっぱり今は天真爛漫で社交性もあって、
人と会話もある程度、楽しませる力のある人が
いいなとかも思いますけど。
でも、そういう人ってモテるじゃないですか、結局。
伊藤
ああ、なるほどねえ。
大久保
ちょっと今、お手上げの状況ですね。
だから‥‥まあ、そうですね、歯がきれいな人!
歯がそろっててきれいな人がいいです。
歯っていうのは、
今までの生い立ちとか生活環境が見えますから。
伊藤
そうですよね。つい見ちゃいますね。
歯がきれいなだけで、ちょっといいですよね。
大久保
そうですよね、やっぱりね。
伊藤
芸能界の方って歯がすっごいきれいですね。
大久保
そうですね、歯ガタガタな人、あんまり見ないですね。
伊藤
歯のきれいな人か。
好きな男性のタイプの話、大好き。
大久保
えーっ、若いですね!
伊藤
面白くないですか?
大久保
一応社交辞令で、会話をもたすために、
どういうタイプ好きですかって聞くけど、
正直そんなに興味はないですよ。
伊藤
それを聞くとね、その人のことわかるっていうか。
「へえ、意外!」って新しい発見があるんです。
大久保
ああ、そっか。
なんかね、好きなタイプの男の子は?
っていう話題は、しゃべってて、
だんだんむなしくなるんですよ。
だってリアルに言うと年収が1千万近くて、
顔は坂口憲二さんみたいにちょっとワイルドな感じで、
健康的で、って、ツラツラと出てくるんですけど、
しゃべってるうちに
気持ち的にはどんどん下がっていく。
伊藤
確かに、聞くのはいいけど言うのは苦手かも。
大久保
そうでしょ?
伊藤
すいませんでした。
大久保
いいです(笑)。
やっぱりね、大人の男のひとはいいですよ。
糸井さんいいですもん。
いくつになっても、なんかちょっと教えられるとか、
「ああ、そうなんだ、私知らないです、
どういうことですか」って聞きたい。
そういうポジションにつきたい。
永遠の妹的な。国民の妹。
なれるかもしれない。
伊藤
私の知り合いで70近い女性がいて。
すごくカッコいいんですね、お蕎麦を自分で打って。
大久保
女性で。
伊藤
お店をやっていて、
白洲次郎さんとか名だたる方が昔来てたんですって。
その方がおっしゃるには、
いつも20とか30年上の人が周りにいて、
その人たちを見てきたんだけど、
自分がだんだんおばあちゃんに近くなって、
みんな死んじゃったの、って。
大久保
そっか。ずっと見てたんですね。
伊藤
黒柳徹子さんも年上がお好きって、
なにかで読んだ気が‥‥。
大久保
ん? いまだにかな‥‥。
伊藤
いまだにみたいで、困っちゃう、
みたいな感じのことを書かれてて。
でも、年上の人は、
先にいなくなっちゃうって。
大久保
そっか、いい子いい子されたい願望も、
女の子として扱われたいっていうのも、
すっと、あるんですね。
年上が死んじゃうというのは、
もうしょうがないですよ。
じゃあ聞きますけど、
伊藤さんはどういう男性が好きなんですか?
伊藤
私は、スマートな人が好きです。
大久保
スマート。
目を配らせといて、
先回りしてなんかしてくれる、
みたいなことですか?
伊藤
そう、物腰がやわらかで、
いろんなことに気付いて、
ササッとなにかしてくれたり。
でもその一方で、豪快な人も好きなんです。
大久保
スマートと豪快さを兼ね備えた、
いいあんばいのね‥‥います(笑)?
伊藤
いないですよねえ。
大久保
芸能人でいうと誰なんですか。
伊藤
顔で言うと、杉本哲太さん。
大久保
たしかに男らしい骨格してますよね、
杉本哲太さん。いいと思いますよ。
伊藤
あと、小林薫さん。
大久保
いいっ! ステキ。
伊藤
お会いしたことあります?
大久保
小林薫さんが出てる舞台を見に行ったんですけど、
そのあと飲み会に出たら、小林薫さんもいらして。
すっごい気さくで、
めちゃめちゃカッコよかった。
すごくダンディですよ。
伊藤
糸井さんがそれこそ、
仲がいいんですって。
大久保
じゃ、近づけるじゃないですか!
鼻の下伸ばしてね。
伊藤
いや、いいです、それは!
大久保
舘ひろしさん、カッコいいですよ。
ダンディー。
伊藤
実際に会う機会があると、
役者さんって、すっごくカッコいいですよね。
大久保
そう、たいがいカッコいいんですよ。
伊藤
そりゃそうだ。
大久保
「芸能人すごい!」って思いますよ。
はじめて見たときの、明石家さんまさんとか、
やっぱりすごいんですよ。オーラというか。
伊藤
へえー!
大久保
テレビで見ていて知ってるのに、
目の前で実物が動いていると、
なんかもうキラキラなんです。
今は仕事を何回かご一緒させてもらって
多少慣れてきましたけど、
パワーがすごすぎて、最初は怖かった。
でもあんまり怖い怖いってやってると、
トーク番組で何もできなくなるので、
もう怖いと思わないようにしようと思って。
この人好き、この人と同じ時間にいれるだけでも最高、
って思うようにしているんです。
もう尻尾振る感じで挑んだ方がやりやすいと思って、
そうしているんですよ。
伊藤
さすがに若い頃は緊張したりとか?
大久保
しました。そりゃしますよ。
今も「さんま御殿」とかたまに呼ばれて行くと、
めちゃめちゃ緊張しますよ。
伊藤
あそこに座ってらっしゃる方って、
1人で10人分ぐらいみたいな感じの面白さがあって、
そんな人が何人もいるわけじゃないですか。
すごいもの見てるなって、いつも思います。
大久保
いろんなキャラクターの人が
それぞれの責任を持って、
一つのものをつくってるってことが。
伊藤
そして大久保さんは、
いつも大久保さんですよね。
大久保
そうみたいですね、私ね。
伊藤
それもすごいなあと思って見てます。

▲ビールのおともといえば、これ!
前日、新潟で買ってきた柿の種は、
大粒で食べごたえあり。
夏の集まりの手土産にもぴったりです。

女子でいいじゃない。

未分類

伊藤
さっきの部屋着の話題ですけど、
キャミソールにトランクスは、
さすがに宅配便の方には見せられない。
だからピンポンって鳴ると
超速攻でデニムをはいたりして、
それでも「おばさんが、こんなかわい子ぶって」
みたいに思われたらどうしようとか思ったりして。
大久保
自意識過剰、多々ありますよね。
伊藤
これからどうやって生きていけばいいんだろう!
大久保さん、パーソナルトレーニングに
行き始めたきっかけは、
代謝が落ちてきたからですか?
大久保
ヘルニアからの座骨神経痛で、
寝てても、起きても歩いてもしびれるんです。
整形外科に行ったら、
「安静にしてればよくなります」
って言われたけど、
安静にしてても根本的には治らないと思って。
あとは、ちょっと鍛えたいっていうのもあって、ですね。
伊藤
身体、変わりました?
大久保
全然(笑)! だって、
10日に1回ぐらいしか行ってないですよ。
マッサージ挟みながら、
ちょっと筋トレしてるだけだから。
伊藤
私も1週間に1回ぐらい。
大久保
絶対変わらないでしょ。
伊藤
変わらないですよね。
あと‥‥これは、今日は言うの
やめようかと思ったんですけど‥‥。
大久保
言っちゃいましょう。
伊藤
実は2日おきに、
シックスパッドのもっとすごいみたいなのを
身体にかけてくれるエステに行ってるんですよ。
大久保
すごっ! 向上心すごいじゃないですか。
伊藤
そうなの。
大久保
いったい、どうしたんですか。
伊藤
どうしたんだろう。
ひと花咲かせたいとか思ってるんですかね。
大久保
でも私も、通販で買った
ブルブルブルっていうやつを引っぱりだして、
週に2、3回でいいですよって書いてあるところを、
5、6回やってる(笑)。
伊藤
(笑)それでもね、全然変わらないですよね、もう。
大久保
全然変わんない。どうなってるんですかね。
伊藤
大久保さんはお仕事がら
女優さんとかタレントさんで、
年齢を重ねても美しい人と
会ってるわけじゃないですか。
大久保
周りにね、います、います。
伊藤
どういうことなのかなって、
ほんと思うんですよね。
大久保
やっぱり生まれてからの
意識が違うんじゃないですか?
伊藤
ああ、じゃあ、今頃、
生まれて半世紀も経って、
慌ててもダメなのか。
大久保
どうなりたいですか? 
なんかあるんですか、目標。
伊藤
「汚くなりたくない」。
大久保
それはね。最低限、そうね。
伊藤
大久保さんが大事にしているのが
人に不快感を与えないファッション、
っていうのと同じで、
私も少なくとも汚くは見られたくないな、
っていう気持ちですね。
大久保
大丈夫でしょ。これで爪とか
すごい汚かったりしたら、危ないけど。
爪、私、めちゃくちゃ隠してますから。
短く切ってね。
伊藤
かわいいですね。
その方が、私、好きです。
大久保
ほんと?
伊藤
うん。グッとくると思う。男子。
爪にあまりにも神経を集中させてるよりも。
大久保
そういえば、意外とみんなマニキュアやネイル、
してないですね、「ほぼ日」の人たち。
伊藤
そういえばそうだ。
ちゃんと清潔感があるっていう方が絶対かわいいです。
大久保
そうですね。
このごろ思うのは、
「ちょっと気を抜けば、
ゴミ屋敷になんて、すぐ、なる」
ってことです。
伊藤
え? ゴミ屋敷になる?
大久保
ちょっとの気の緩みで絶対すぐ
自宅がゴミ屋敷になると思ってて。
今はいいですよ。ゴミの日も覚えてるし、
ゴミ袋にゴミを入れてこうやって押す力もあるし、
縛る手首の力もあるけど、
体って弱くなるじゃないですか。
ある一時手首がすごく痛かった時期があって、
ゴミをまとめるのを、
「ちょっと今回はやめとこう」
という日があったんですよ。
でも、次のゴミの日まで2、3日ある。
ゴミが増えてくる。
で、思ったんです。
あっ、こういうことの繰り返しで、
ゴミ屋敷なんてすぐなるんだと思って。
伊藤
そのうちゴミの日を忘れたりとか!
大久保
そう、そうです。
伊藤
だんだんもう面倒くさく、
もうどうにでもなれ、みたいな。
大久保
だから、気をつけた方がいいな、
ちゃんとしとけば大丈夫だなと思って。
伊藤
そういうことを考えちゃうのは、
やっぱり、50だからかな、もうすぐ。
大久保
そうじゃないですか。
伊藤
あれっ、糸井さんがいなくなってる。
大久保
顔だけ出してくれたんですね。
でも、どうなんですか? 
糸井さんのこと、あんまり知らないですけど、
すごくフレンドリーな感じがしますよね。
ステキですよね。
伊藤
はい。すごくステキです。
大久保
ああいうステキなおじ様、
センスもあってオシャレで、
会話も面白くて、そういう人が周りにいると、
たまに会った男の人がつまんないなとか、
思いません?
伊藤
思います!
大久保
ああ、よかった。
思いますよね。
伊藤
きっと、美しい女優さんには、
そういうステキなおじ様が周りに‥‥。
大久保
いっぱいいるんですよ。
伊藤
そう。
大久保
当たり前ですけど、私は、
お笑い芸人さんと仕事をするから、
面白い人って周りにいっぱいいるんです。
イケメンも多くてね、
日々、ジャニーズの子とか、
かっこいい俳優さんも見る機会があるから、
人とたぶん違うレベルのイケメンを見てます。
だから、気づいたら人を見下してて(笑)!
ほんとすぐ自分を棚に上げるのが得意で。
伊藤
でも、鍛えてるときには、
自意識過剰な乙女心が出てくる。
大久保
自分がわからないですよね。
そういうふうな理想みたいな人や、
いろんなものを見すぎて、
こういう人がいいんだって思いながらも、
叶うわけがないとわかってるのに。
そんな人が私に何か言ってくるわけがないのに。
伊藤
そんなのわかんないじゃないですか。
大久保
わかりますよ、もう(笑)! 伊藤さん。
今から急激にモテることはないです。
ここまでの経験でわかります。
伊藤
あると思いますよ。絶対モテると思う。
大久保
いやーっ、すっごい無責任!
こういう人いるんですよ(笑)。
すーごい無責任。いるわー。
ちゃんと、一回、私になってみてくださいよ。
伊藤
だって、面白いし、
一緒にいて楽しいし、お酒飲むし。
大久保
それが面白くないんですよ、ふたりきりになると(笑)。
そう、ほんと、普通の女子。
でね、見下しているときって、
絶対それが顔に出てるんですよ。
伊藤
笑いながら、口角が下がってるんですよね。
大久保
そうそうそう、怖いやつですよ。
伊藤
気をつけないと!
大久保
気をつけていきましょう。
人に優しくね。
自分なんてもう、
ほんとに年をとったゴリラと
ほぼ一緒だって思って生きていかないと(笑)。
伊藤
すごく気持ちが軽くなりました。
大久保
ほんとですか(笑)? どこで???
伊藤
ゴリラで。
大久保
ゴリラで!
伊藤
「女子」って言葉、
この年齢でどうなんですかって
言われたんだけれど。
大久保
グルッと回ってOKです。
そりゃ、ほんとは女で、子どもを指して
「女子」ですけどね、
でも私たち、女子ですよ。
伊藤
女子ですよね。
大久保
バスツアーに来る60代のおばさんたちって、
すごい女子じゃないですか。
お揃いのポシェットつけて、
中にアメ入れて、キャッキャして。
女子高生みたいなノリになるでしょ。
私もそうなるのが、
楽しみでしょうがないんですよ。
伊藤
へえ!
大久保
地元の同級生とバスツアー行って、死ぬほど食べて、
お土産もらって笑って。
そのときがたぶんくるんだろうなって。
伊藤
一周するんですね。
大久保
うん。だから、女子なんですよ。
伊藤
女子ですね。しかも、
ゴリラって思うようにする(笑)。
大久保
伊藤さんはゴリラ派じゃないとは思うけど。
かわいらしい顔してますもん。
でも世の中はやっぱりゴリラが
結構な主要派閥になってるんです(笑)。
伊藤
ほかに何派があるんですか?
イヌ?
大久保
イヌとか言っちゃうと
ちょっとかわいいもんかもしれないでしょ。
私だってあくまで自分を卑下して
ゴリラって言ってるんで、
そこでイヌとか言っちゃうとね。
伊藤
たしかに!!(笑)。

▲食べやすいようにはしっこを切り、
器にちょこんと盛ります。
器に絵を描くような感覚で、美しく盛りつけて。

トレーニングと下心。

未分類

伊藤
大久保さんは、お洋服を選ぶとき、
他人に嫌な思いさせないファッションということを
一番大事にしていると、
『POPEYE』の連載で書かれていましたね。
大久保
ほんとに『POPEYE』、
読んでくださっていたんですね。
伊藤
あれを本にしてほしいぐらい。
大久保
うれしいー。結構やってたのに、
あんまり言われなかったから(笑)。
伊藤
テレビやラジオで聞く流れてしまう言葉と違って、
文章で一つのことを語るのを読んで、
大久保さんの印象が変わったっていうか。
そんなに長文ではなかったけれど、
あっ、こういうことを思ってるんだというのが伝わってきました。
大久保
600~700文字だったかな、
文字数が限られているので、
ひとつのことを表すのにどの単語がいいか、
改めて国語辞典で調べて、
これにとって代わる単語はあるか、
そんなことをやっていました。
伊藤
辞典! 検索じゃないんですね。
大久保
ごめんなさい、検索です(笑)。
さすがにもう今は検索。
でも結構神経質にやってました。
こんなふうにした方が、リズムがいいかな、とか。
伊藤
1文字も無駄がないような気がしました。
大久保
そうなんですよ!
よかった、うれしい、褒めてくれて。
バーッと書いたあとに、
添削っていうんですか、削ったりなんかして、
翌日起きて、もう1回見て、
ここ、こうしたらいいんじゃないかと。
それを時間をおいて、何回かやって。
『POPEYE』って絶対センスがいい人が
読んでるって私の中では思っているので。
伊藤
オシャレボーイが苦手っておっしゃってた。
大久保
オシャレすぎる人はね。
なんかもう理解不能な格好されると(笑)、
見下されてるんじゃないかと思うんですよ。
伊藤
そんなことあるわけないじゃないですか。
山口智子さん系なんだから。
大久保
すごいいじり方する(笑)。やだ。意地悪!
伊藤
違う。違う。ほんとに。
大久保
伊藤さんってば、
無意識のうちにそうやってちょっと人をいじって、
そうやって笑って、もう(笑)。
50年近く生きてるんで、
自分がどのぐらいのもんかわかってますから
大丈夫です。
伊藤
大久保さんの文章、もっと読みたいです。
大久保
それこそ誰も読んでないんですけど、
とある有料サイトに
週1で日記みたいなのを書いてるんですよ。
これこそもう7、8年やってるのに
誰からも言われたことがない。
だけど、それがいいんですよ。
誰にも読まれてないっていう安心感から、
短い時間で書くんですけど、
書いたことで多少まとまるじゃないですか、出来事が。
エピソードをフリートークで使うときに、
文章として1回頭の中でまとめてると、
しゃべりやすくなるんですよ。
誰も読んでない1週間に1回の日記が、
トークの役に立つんです。
伊藤
文を寝かせるってさっきおっしゃってたけど、
私も原稿を書いたら、やっぱり一晩寝かせるんです。
翌朝見る夜中のラブレターが
恥ずかしいみたいなことがあって。
「なに盛り上がっちゃって!」って。
大久保
私はこういう出来事がありましたっていうのが多いから、
そんな感情をぶつけるようなことは書いていないかな。
伊藤
最近は何書かれたんですか?
大久保
最近は、記憶がね、
えーっと、‥‥ちょっと待ってくださいよ。
伊藤
最近、あれがあれで、それで、とか、
全部代名詞になっちゃうってあります?
大久保
そう、‥‥ちょっと静かにして(笑)。
そうだ、先週は、私、
パーソナルトレーニング始めたんですよ。
すごくないですか、この年でパーソナル。
伊藤
私も実は!
大久保
えっ?!
伊藤
先月ぐらいから始めたんです。
みんなに、ざわつかれますね、
この年でやり始めたから。
大久保
どういうことをやっているんですか。聞きたい!
伊藤
マンションの一室で。
大久保
おんなじ!
あれ、ちょっと、ドキドキしません?
伊藤
え? どういうこと?
トレーナーが男の人だからですか?
大久保
そう、男の人だから。
伊藤
全然ドキドキしたことなかった‥‥。
大久保
ええっ? だって、マンションの一室で、
密室で、まあまあ薄着な筋肉質な男と、
結構な距離ですよ!
伊藤
言われてみたら、ほんとですね。
大久保
結構な近さですよ。
伊藤
ほんとですねえ。でも、先生ですよ。
大久保
いや! 伊藤さん、
それちょっと気取ってません?
だって、私、まず入っていって、
「じゃあ、着替えますか」
ってときに、マンションの一室だから
べつに更衣室があるわけじゃなくて、
「そこの洗面所使ってください」って
言われるんだけれど。
伊藤
えっ、まさに同じような
シチュエーションのところです。
大久保
まさか一緒のとこ行ってるのかな(笑)。
で、洗面所に入るじゃないですか。
そこでカギをかけるかどうか、まず迷うんですよ。
伊藤
どうして?!
大久保
カギをかける瞬間に
カシャッて音が聞こえるわけじゃないですか。
そうすると、「意識してんの、あのババア」
って思われたら最悪だと思って(笑)。
伊藤
(笑)先生はカッコいいんですか?
大久保
いい感じです。ちょうどいいです。
34、5歳で、さわやかで、
ハワイと日本を行き来してるっていう。
伊藤
ちょうどいい。
大久保
ちょうどいいですよ。
伊藤
もちろん身体がしっかりしてるし。
大久保
筋肉いっぱいあって。
でね、あえてカギはかけず。
伊藤
そんなにドキドキするんですね。
大久保
ドキドキしますよ!
私の場合、座骨神経痛が最近ひどくて、
その先生は理学療法士の資格を持ってるから、
「ああ、ちょっと痛いです」って言うと、
「じゃ、マッサージしましょう」って。
横にちっちゃいマッサージ部屋があるんです。
伊藤
同じです。
大久保
ええっ(笑)?
でね、そのマッサージ室に通されるんです。
マッサージって、よりスキンシップじゃないですか。
だから、あんまり痛いって言うと、
私、なんかマッサージを
すごくやりたい人だと思われてもアレだから、
多少痛くても我慢しているんです。
もう悪循環で、トレーニングに行っているのに、
体、悪くするんじゃないかっていうくらい。
伊藤
その先生があんまりカッコよくない人だったら
いいのかもしれない。
でもそうするとモチベーションが落ちちゃいますね。
微妙ですね。
大久保
微妙ですよ。
考えすぎちゃって。
伊藤
ちょっと前、ピラティスに通ってたんですけど、
まるで斎藤工さんみたいな先生で。
大久保
ええ、そんな人が、いるんだ!
伊藤
私の前にパーソナルトレーニングを受けていた方が、
60ぐらいの女性だったんですけれど、
すごくはしゃいでたんですよ。
もしかしたら私もああいう顔してるのかな? と思って。
だから「全然関係ありません。私はピラティスの生徒、
たまたまあなたが先生だっただけ」っていう顔をして。
大久保
なるほど。
伊藤
でも、全然集中できなかった。
大久保
どういう顔をしたらいいか、
正解かがわからなくなりますよね。
変に愛想よくするのもアレですし。
だからといって仏頂面でやるのもおかしいでしょ。
伊藤
そうなの。気が気じゃないんですよね。
大久保
60分のレッスンなんですけど、
終わって、水出してくれて、飲むじゃないですか。
帰り際がわかんなくて。
あんまりすぐに「じゃあ、失礼します」って言ったら、
こいつやることやったらすぐ帰る女なんだなって(笑)
思われたら嫌じゃないですか。
だからといって、おしゃべりに夢中になっちゃって、
この人いつ帰るんだろうと思われても嫌だから、
ますます帰り際がわからなくて。
伊藤
そういうことに対する立ち位置が、
あやふやになる年代ですよね、私たち。
年甲斐もなくはしゃぎすぎるのもね。
大久保
そう。難しいですよね。
「もうおばさんだから」
みたいなスタンスをとろうと思いながらも、
根っこにちょっと変な下心があるから。
伊藤
まだちょっとかわいいだろうとかって思ったりする。
大久保
ほんとに。仕事で、20歳とか、25歳とか、
もう当たり前のようにそういう男の子と接するんです。
「もうお母さんみたいな年齢だから」
って言いながらも、スキあらば
全然付き合いますけど?(笑)
って思ってる自分の怖さ。
伊藤
そして、それをすごく押し隠してる。
大久保
そうなんですよ!
ああ、もうちょっと年を取ったら、
ラクになるのかな。
伊藤
ラクになりたい! 早く。

▲ちびきゅうりは豆鼓のペーストや味噌をつけながら。
水なすは手で裂いて、塩をふって。
どちらも簡単な夏のおつまみですが、
氷を張った器などに入れると、
その場が「おおー!」と盛り上がります。

おんなのトランクス。

未分類

大久保
そういえば、モデルをやってる友達が
誕生日にスリップをくれたんですよ。
ちょっとベージュな感じの。
てろんてろんの生地だから、シルクなのかな。
ところが着方がわからない。
どうすればいいんですか。
伊藤
ワンピースの下に着るといいですよ。
大久保
ああー!
伊藤
それか、寝るときに1枚で。
大久保
無防備すぎません?
冬は?
伊藤
冬はその上にカシミヤのガウンを着ます。
大久保
スリップの上にカシミヤのガウンを?
伊藤
うん!
大久保
大丈夫? 
だいぶ痴女みたいな感じですよ(笑)!
伊藤
痴女って言葉、久しぶり(笑)。
また汗かいてきた。
大久保
ほてっちゃってね。
伊藤
体温がねえ、もう。
大久保
調整がね。そうですよ、わかりますよ。
でも、私、その格好じゃ、地震が怖いなあ。
私はこの何年で大地震が来ると思っていて。
だから防災グッズが入ったリュックは
いつも玄関に置いてあるし、
その時にどうするか、
シミュレーションもしているんですよ。
パコ美も抱かなきゃいけない、
リュックも背負わなきゃいけない。
そのときに、スリップ1枚だったら!
避難所にそれで行ってごらんなさいよ。
伊藤
そうですよねえ。
でも、それを恐れて、
いつでも逃げられるようなスタイルでいたら、
逆に地震が起こるんじゃないかと、
ジンクス的に思っていて、
頑なにスリップを着ているんです。
大久保
そんな力はないから大丈夫(笑)。
伊藤さんひとりのスリップで、
首都圏直下型地震は防げない。
伊藤
ほんとですよね!
大久保
そうよ、ほんとに!
伊藤
それでね、スリップはちょっとあれだから、
何か変わるものを・・・と思いついたのが、
キャミソールとショートパンツだったんです。
キャミソールがかわいらしい印象だから、
ショートパンツはわりと男っぽいのがバランスがいいような気がして、
思いついたのが男物のトランクス!
大久保
わんぱくな感じですね(笑)。
伊藤
トランクスって、ギンガムチェックやストライプがあって、
かわいいじゃんって。
今、私「weeksdays」で企画をしているので、
そういう女子がはくトランクス、作りたいなぁってみんなに言ったら、
ざわざわして。
女子用のトランクス? 
伊藤さん、またわけのわかんないこと言ってるって。
大久保
トランクス作りたいって言ったんだ。
伊藤
そう。それで、でもまあ、作ったんですよ。
大久保
作ったんですね。
伊藤
(サンプルを見せて)かわいくないですか?
ルームパンツ、って、糸井さんが名前をつけてくださって。
大久保
かわいいっていうのは‥‥そもそもね、
「かわいい」って何ですか?
伊藤
それを女子がはいてると、かわいいなって。
大久保
ああ、なるほど。でもね、人を選びません、それ?
例えば、菜々緒さんとか、
ああいう足がスラッとした子が
こういうのサラッとはいてれば、いいけど。
伊藤
そんな人、いないじゃないですか、
大久保
中年体型のおばさんがこれを
はいてもいいんですか?
伊藤
いいんですよ!
もうそれはね、自分がはいてる姿を見ても、
撮影したモデルの子に映し替えてるんです。
大久保
すごい超能力(笑)!
それは幸せだわ。
それで、あ、いけるって思えるって!
伊藤
うん。
大久保
でも、そうですよね、
そういうふうにして生きてた方がいいですよね、
絶対ね。
私、部屋ではいてる湯葉パンツは、
伊藤さんがつくったそのルームパンツくらいのサイズで、
デザインもそんな感じですよ。
シンガポールかインドネシアかどこか忘れましたけど、
そこで買ってきたパンツ。ゾウの柄が入った(笑)。
もともとてろんてろんの薄い生地だったから、
洗濯何回もしたら、もうほんとに、より、良くなって。
伊藤
馴染んでるんですね。
大久保
馴染んで、そう。
伊藤
ライナスの毛布みたいな?
大久保
ライナス?
──
スヌーピーのキャラクターで、
ずーっと大事な毛布をひきずってる男の子です。
大久保
ああ、なるほど、なるほど。違います。
そういう精神的なことじゃなくてね(笑)、
ただ肌に馴染むってやつですね。
まとわりつく感じがいい。
伊藤
なるほどね。
さっきおっしゃった、
「かわいいって何?」、
たしかに、それって何なんだろう。
大久保
うーん。
イヌとかネコとか見たら、
無条件でかわいいとは言いますよね。
でも、どうだろう、モノには‥‥、
私、かわいいとか、そういう感受性が
弱いのかもしれないです。
女の人って、なんでもほんとによく
「かわいい」って言いますよね。
伊藤
1日50回ぐらい言ってます。
大久保
1日50回も(笑)!
伊藤
気持ち悪いですね、
考えてみたら、こんな年になって。
大久保
感受性っていうか、それはやっぱり
アンテナが張ってるからじゃないですか?
伊藤
でもね、なんでも「かわいい」で
すませてるふしがあります、そういえば。
大久保
「ヤバい」と同じような感じで。
伊藤
そう、そうかも。そうかもしれない。
大久保
じゃ、もしかしたら、
ほんとは「かわいい」とは違う言葉が
あるのかもしれないですね。
伊藤
気をつけます。
‥‥いやだ、あそこで糸井さんが見てる。
やだあ、より汗が。
大久保
社長が見てる! いやだー。
出てってほしい(笑)。
伊藤
糸井さんとは?
大久保
ちょっと前に糸井さんが出られた
保護犬をテーマにした
NHKのワンちゃんの番組に、
私、お邪魔させてもらって。
そのぐらいです。
伊藤
ああ、困った、
糸井さん、気にしないでください、私のことは。
大久保さんを見ててください。
大久保
やめてください、私が今度汗だくになりますから。
伊藤
ああ、汗! 拭くものが欲しい。
大久保さんは、何にも変わらないですね。
大久保
そうでしょ。
伊藤
場慣れが、違うんですね。
大久保
緊張することはありますよ、
知らずにすごくわき汗をかいてたりとか。
でも、もうあんまり緊張してもしょうがないな、
っていうときは、急にスイッチがバカになるというか、
もうどうでもいいやって(笑)、冷静になるんです。
ところで伊藤さんは、
料理に応じて器を選んだりとか、
ちょっとした物を大切にして、
それで幸せを感じるっていう、
たぶん私とはかけ離れた生活ですよね。
きっと充実した暮らしなんだろうな。
伊藤
大久保さんだって、お友達呼んで
ごはん食べるでしょう、同じですよ。
大久保
でも私、パン祭りでもらった白いお皿を使ってますよ。
この器、いつのだろうと思ったら、
1998年の長野オリンピックの
フクロウのマスコットが書いてありましたよ。
実家で使ってたのを持たされたんだと思いますけど。
伊藤
それはそれでかっこいいじゃないですか。
大久保
そうかなあ。
私は、ポジティブ、ネガティブ、
ポジティブ、ネガティブみたいに、
自分の性格が何層にもなってて、
でも基本的にはたぶんすごいポジティブなんですよ。
だから、ちょっとほろ酔いになって、
1回トイレに立って鏡を見ると、
あら、山口智子さんとさほど変わらないじゃない? 
って、急に、自信があふれてくることがあります。
山口智子さんのラインにいますよね、私。
伊藤
5パターンぐらいに女性を分けたら、
絶対、山口智子さん系だと思います。
うん。
大久保
でも、その下にゴリラ、いません(笑)?
伊藤
いやあ。そんなこと言わないで(笑)!

▲水気をふきとった手羽先に小麦粉をまぶし、
からりと揚げ、塩とチリパウダーをまぶします。
レモンをギュギュッとしぼってどうぞ!

湯葉のようなショートパンツ。

未分類

大久保
伊藤さん、もしかしたら同年代ですか?
伊藤
そうなんです。70年の2月です。
大久保
わたしは71年の5月だから、
学年が2個違う。
伊藤
わたしが高3のときに、大久保さんは‥‥。
大久保
高1ね。
伊藤
そういうことをおじさんがよく言うけど、
もういいよねって、ちょっと思いませんか。
大久保
いや、逆にね、年をとればとるほど、
そこ、ハッキリしたくもなりません(笑)?
伊藤
そう? そっか。
大久保
1個、2個違うんだよってことを
ちゃんとクリアにしたいなって、
まだ、思ってるかも。
今日は、呼んでくださって
ありがとうございます。
伊藤
大久保さんのこと、
「ほぼ日」のみんなも大好きですよ。
多いっていうか、全員?
大久保
ウソよ。
それは信用できないな(笑)。
伊藤
本当。嫌いな人がいない。
大久保
まあ、「嫌いじゃない」はね。
たしかに、そこまで嫌われる要素って、
ないかもしれないですね。
でも、大好きっていうのは、
ちょっと信用できないな。
伊藤
いや、私は、大好きですよ。
大久保
いやいや!
伊藤
私がどうして大久保さんに
いらしてほしいと思ったかというと、
「秘め事めくり」を読んでいたんです。
『POPEYE(ポパイ)』に連載されていた。
大久保
うれしー! 書いてました。
伊藤
あれがもう大好きで。
『POPEYE』が届くと、
一番最初にあのページを読んでいたんです。
大久保
いや、うれしい‥‥。
伊藤
そこには、テレビで見るのと違う大久保さんがいて。
大久保
あれはもう大事に大事に書いてたんです。
伊藤
もうほんとに面白くて!
嫌だ、なんだかすごく汗をかいてきちゃった。
すみません、どうしたんだろ、私。
大久保
大丈夫です? お年頃だからね。
伊藤
どうですか、最近、体調(笑)。
大久保
ここ1、2年のガタのきかたがすっごいですよ。
しかも今日、二日酔いなんです。
でも、さっき撮影をするのに
ビールを2口ぐらい飲んだら、
復活してきました。
やっぱり迎え酒が二日酔いにはいいのかも。
伊藤
お酒、やめられないですよね。
大久保
そうなんですよ。
もう依存がすごくて(笑)。どうしましょ。
伊藤
ご自宅で飲まれてたって。
大久保
そうなんです。昨日は休みだったんです。
パコ美ちゃんっていう愛犬がいるんですけど、
ロケでバタバタしたりすると、
実家に預けるものだから、昨日はひとりで。
そうすると、私、趣味とかもないから、
ああ、やることがない、どうしよう、
不安だ、怖い、みたいになって。
それで午前中に友達に連絡して、
「家に肉があるからおいで」って。
伊藤
お料理されるんですね。
大久保
いや、ホットプレートで肉焼いて、ぐらいですよ。
伊藤
そういうときって何を着てらっしゃるんですか?
「女子の部屋着」に興味があるんです。
大久保
休日にブラジャーとか
あんまりしたくないじゃないですか。
だから、ゆるゆるな、チューブトップに、
ジャンバースカート。
そんな楽チンな格好ですね。
伊藤
それ、男の方がいるといないとで違いますか?
大久保
昨日は、男子もいたんですよ。
知り合いの不動産屋さんの男子が。
だから、違いましたね。
そこがまだなんか下心っちゅうか、
なんかエロさが、いつまでたってもとれない(笑)。
その男子、全然好みでもないんですよ?
10年来の友達で、不動産屋さんだから、
家を探すときだけあてにしたりして、
なーんにもピンとこないんですけど、
なんかどこかで、男子だって意識してて。
伊藤
やっぱりそうですよね。
大久保
その男の子が、知り合いの男友達を連れてきていて。
だから、ちょっといつもより
酒のペースも上がっちゃったんですよ。
女友達と飲むより、速い。
しかもね、いつも飲む麦焼酎のソーダ割り、
自らちょっと濃くしてるんです。
怖い、自分が、もう。
伊藤
なんでですかねえ。
完全に一人でいるときはどんな感じですか。
大久保
私の部屋着? 全然、参考にならないですよ。
仕事がらTシャツをめちゃめちゃもらうんですよ。
スタッフTシャツっていうんですか。
例えば「めちゃイケ」の時とか、
27時間テレビとかをやった時なんかに、
Tシャツが支給されるんですね。
そんなのが何年分もあったり、
あと、私が関わってる
「恵比寿マスカッツ」っていう
女の子のアイドルグループがあって、
そのライブTシャツが毎年あったりで。
伊藤
Tシャツがいっぱい。
大久保
そう。そのTシャツを、着回してます。
伊藤
下は? ビッグTシャツから
見えるか見えないかみたいな‥‥。
大久保
ああ、女の子が、ちょっとかわいい、みたいなやつ?
‥‥じゃないですよ。
あんまりしめつけたくないんで、
もうゆるゆるの、ほんとに、
湯葉みたいになった(笑)、
ショートパンツをはいてます。夏は。
伊藤
湯葉ショートパンツ。
大久保
湯葉ショートパンツ。
ちょっと油断したら、
ほんとにもうどこからなにか
はみ出すんじゃないかぐらいの、
人が見たらのぞけるんじゃないかっていうぐらい、
ゆるゆるのパンツをはいてます。
伊藤
じゃ、なんていうんだろ、
部屋でいるときにオシャレしようとか、
そういう‥‥。
大久保
まったくないですね。
誕生日に、いとうあさこさんから、
ジェラート・ピケ‥‥ジェラピケっていうの?
伊藤
かわいいのだ!
大久保
いただいたんですけど、
そういうのを着ると、
なんだか落ち着かないというか。
伊藤
どんなのだったんですか?
大久保
白いモコモコに、
ピンクのぼんぼりと青いぼんぼりと
黄色いぼんぼりとピンクのぼんぼりと、
また、青いぼんぼりと‥‥。
伊藤
あさこさんもそれを着てらっしゃる?
大久保
あさこさん、着た上で、じゃないですかね。
そんなのは、持ってますけど、
なんかずーっとタンスの奥に眠っちゃってます。
伊藤
私はスリップが好きで、
眠るときもスリップが多かったんです。
大久保
スリップ! 今着る人いるんですね。
伊藤
えっ(笑)? いるよね、いるよね。
大久保
スリップってあれでしょ、
昔お母さんとか着てた。
伊藤
はい。
大久保
えっ、それ1枚ですか? それとおパンツ?
伊藤
パンツはかないで。
大久保
ノーパン?
伊藤
そう(笑)。
あるとき実家に行って、それで寝てたら、
胸の辺りまで上がってきちゃっていたのを、
うちの母親が見て、
「ちょっと、ほんとにやめてもらっていい?」
って(笑)。
大久保
実家で?
そりゃ嫌でしょう、娘のそんな姿。
伊藤
ほんとに嫌だったみたい。
大久保
嫌ですよ!
伊藤
私も見られて嫌だったんですけど(笑)。
でも、かわいくないですか、スリップって。
てろんとしてて。
大久保
私、今、伊藤さんが
ここまでスリップ上がってる姿が見えます(笑)。
伊藤
そうなっちゃうとね、かわいくないんですよ。
大久保
想像したらおぞましいです。
伊藤
ほんとそうだけど、
それは私は見えていないじゃないですか。
眠っていたから。
大久保
まあ、確かにね。
いくつのときですか、それ。
伊藤
3年ぐらい前(笑)。
40何歳ぐらいのとき。
大久保
40すぎの娘のそれはきついですよ、ほんとに。
伊藤
嫌ですよねえ。

▲ビールといえば枝豆!
ちょっと塩を強めにふって、
ざるにのせれば夏気分いっぱいです。

saquiを、この人に。[3] 服飾ディレクターの岡本敬子さんに 着てもらいました。

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今回、敬子さんがえらんだのは黒。
「白はもう少し日焼けしてからの方が
似合いそうだなって思って」
なるほど、肌の色とか髪の色とか、
そういうものもすべて合わせて、
ひとつのスタイルなのですねぇ。

「この黒は肌馴染みがすごくよくって。
久しぶりに体に沿うラインの服を着たけれど、
新鮮で気持ちよかった」

背筋をシャンと伸ばして着こなしたい、
という敬子さん。
その姿は堂々としていてかっこいい。

このオールインワンのチャームポイントのひとつが、
アンティークのガラスのボタン。
私が着る場合は、ボタンを目立たせようと
ピアスなどは極力控えめに・・・と思っていたのですが、
どうです?
このジャラジャラ具合!

「私も最初はボタンがあるからどうかしら?
と思ったんだけど、
あえてたくさんつけてみた」
Vネックがすっきり見せてくれるから、
アクセサリーたくさんでもしっくりくるんですって。
なるほど、なるほど。

数えたことがないくらい(!!)、
たくさん持っているというアクセサリー。
アシンメトリーにつけるのがお好きとか。
敬子さんならではの
ルールみたいなものはあるのでしょうか?

「もう、欲望のままよ(笑)」

アンティークのパーツをつなぎ合わせたネックレスには、
Zuni族のペンダントヘッドをつけて。
「丸でまとめた」という
右手の指輪は3つ重ねて。
「右は丸いっこいもの、左はしゅっとしたラインのものを」

「欲望のまま」とおっしゃいつつも、
アクセサリーづかいにはやはり敬子さんならではの、
計算があるようです。

靴はtrippenの黒を。
足先からのぞくペディキュアが
歩く時に見え隠れして、いいかんじ。

さて敬子さん、
このオールインワンにアクセサリー以外の
小物を足すとしたらどんなものを
合わせますか?

「メキシコのファイバーマーケットバッグ、
民芸的なものがいいかな。
あと、今日はかぶらなかったけれど、
帽子もいいよね。
ストロー素材のちょっとつばの広いものとか」

saquiのオールインワンに、
メキシコのバッグや、ストローの帽子をコーディネート!
まさに「好きなものを自由に着る」
敬子スタイル。
お会いするといつも、
おしゃれの幅を広げてくれる敬子さん。
私もまずはアクセサリーを
アシンメトリーにつけることから
はじめようかな。

(伊藤まさこ)

saquiを、この人に。[2] モデルの香菜子さんに 着てもらいました。

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「美大時代に、毎日のように着ていた」
というオールインワン。
それは「オールインワン」というより
「つなぎ」と呼んだ方がいい、
ヒッコリーストライプなどの作業着っぽいものだったそう。

「だからか、着るのに抵抗がなくて」と香菜子さん。
3年くらい前から、第2次ブームがやってきて、
ワンドローブにどんどん
オールインワンが加わってきているそう。
去年の夏はオールインワンばっかり着ていたそうです。

なるほど、バシッと似合ってる。
「着慣れている」という印象です。さすが。

「それ一枚で、決まるのがいいしね」

たしかに!

今回着ていただいたのは、生成り色。
陶器でできたブレスレットや
貝のピアスを同系色でまとめ、
靴とバッグは黒。

「かごも合わせてみたのですが、
洗練されたイメージだったので、
とことん大人っぽく着てみようと思いました」

「あと、ぺディキュアの色を派手にしたり、
大ぶりなアクセサリーをしたり、
ほかで遊べるのもオールインワンのいいところ」

今回、黒も着ていただきましたが、
また違った印象に。

「ウェストのところがもたつかないから、
きれいに着られますね。
このシルエットの美しさ、さすがsaqui。
2色、欲しくなってきちゃった」

すらりとした香菜子さんに、
それはそれはお似合いなのでした。

(伊藤まさこ)

saquiを、この人に。[1] 写真家の馬場わかなさんに 着てもらいました。

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「ふだん仕事の時は、
動きやすい、だぼっとしたチュニックに、
レギンスが多いんです。色は藍や白とか」
とわかなさん。

ああ、なるほど!
オールインワンを着た、その姿が新鮮なのは、
いつもと違うシルエットだからなのかな。

「素材がぴしっとしているから、
お出かけの時とかいいですね。
あらたまった感じがします」

そうそう。
ラフ、というよりきちんとした印象を受ける、
大人っぽい素材なのです。

「ふだんは靴下を重ねばきしているので、
わりとごつめの靴が多いのですが、
このオールインワンは、
しゅっとしたイメージだったので、
それだとちょっとバランスが悪いなと思って、
この黒い靴にしてみました」

ネックレスと指輪は、石のついたものを。
ピアスもお揃い‥‥?
かと思いきや、とてもシンプルなゴールドのもの。

「その方がすっきりするかな、と思って」

アクセサリーのえらびかたや、靴の形など、
幾度となく、わかなさんの口から
「バランス」という言葉が出ましたが、
なるほど、たしかにバランスばっちり。
ベリーショートもすごくいい。
自分を俯瞰してみるって、
すごく大事なのだなぁと思いました。

ちょっと肌寒い時は、
ストールを巻いて。
襟元が隠れるとまたちがった雰囲気になって新鮮です。

「saquiの服は、シワになりづらい素材の
(weeksdaysでも売っていました)
ワンピースとパンツを持っています。
ちょっとあらたまった場所でも着られて大助かり」

今まで、トイレ問題が気になって
二の足を踏んでいたというオールインワン。
こんなに似合っているのだから、
ぜひ着て欲しいな。

(伊藤まさこ)

自由を着る。saquiのオールインワン。

未分類

自由を着る。

未分類

saquiの服を着る人は、
自分に似合う、
自分のための服を、
自由に着こなす、
そんな印象を受けます。
人からどう見られるか気にしたり、
流行りに左右されたりはしません。

背筋はきりり。
でも表情や動作はやわらかい。
大人の女の人にこそ似合う服なのだと思うのです。

「今、オールインワンをデザインしているんです」
と聞いたのがまだ寒さの残る春先のこと。
saquiのオールインワン!
それは見てみたい。

幾日か経ってアトリエを訪れると、
それはすてきな一着ができあがっていました。

それからデザイナーの岸山さんとあれこれと相談し、
weeksdaysのために、
上質な生成りと黒のリネンコットンを使った
オールインワンを作っていただきました。

すっくと自分の足で立つ、
すてきな人に着て欲しい。
明日のLOOKBOOKをどうぞおたのしみに。

100冊の古書[6]

未分類

86『ふたりの山小屋だより』岸田衿子/岸田今日子

娘がまだ小さな頃、
よく車を運転して軽井沢に行きました。
人でにぎわう街中を抜け、
山をぐんぐん登っていくと、
そこにあらわれるのは、浅間山。
北軽井沢と呼ばれる、そのあたり
(群馬県になります)にたどりつくと、
なんだか鼻がスン、と通ったような気になったものでした。
きれい、とか、
自然がたくさんある、とか、
そういうことだけではなく、
土地がもたらす効果というか。
とにかく気分がよくなるのです。

その土地のことを知ったのは、
詩人で童話作家の岸田衿子さんと、
女優の岸田今日子さん、
おふたりの山小屋だよりがきっかけでした。

「私と妹はたいていチェックか無地の洋服で、
花模様なんてめったに着せてもらえない。
母は少しもこわい人ではないが、
『まわりが花だらけなんだもの‥‥』が口ぐせだった。」

山の夏は花や甘酸っぱい木の実や草の根でうずまって
いたんですって!

87『食卓一期一会』長田弘

「人生を、急がずに、たっぷり味わいたい。」

  言葉のダシのとりかた
  絶望のスパゲッティ
  パエリャ讃
  食べもののなかには

テーブルの上にある、
詩人、長田弘さんの66の詩。

「人生とは──誰と食卓を共にするかということだ。」

88『貧乏だけど贅沢』沢木耕太郎

噂によると、沢木さんはとてももてる人らしい。

阿川弘之さん、
井上陽水さん、
高倉健さん、
群ようこさん‥‥。

対談相手の顔がほころんでいるのが
文章から読み取れる。
そうか、もてるのは女の人だけにあらず。
男の人の心もつかんじゃう。

読んでる人の心もつかむ、
対談集です。

89『木』白洲正子

いつだったか、
車を運転していると、どこからか
えもいえないかぐわしい匂いがただよってきたので、
思わず停めてあたりを見回したことがありました。

「ああ、これは朴の花だね」
一緒にいた人の指の先に目をやると、
そこには立派な一本の木がありました。

それから、5月になると、
その一本の木を思い出すのです。

檜、松、栃、楠、朴‥‥。

「木」そのものを愛し、
木から作られる木工を日常で使った白洲さんの、
「木」。

90『もしも僕らの言葉がウィスキーであったなら』村上春樹

「ウィスキーの匂いのする、
小さな旅の本を作ることにした。」

読んでいると、
おだやかな照明の下、
氷が琥珀色の液体にゆっくりと
溶け出す様子が思い浮かんでくる。
一気に読むのはもったいないから、
ちびちびと、
すこぉしずつ、味わいたい。

「──そこにはアイルランドの夏の光があふれ、
食堂には熱いコーヒーと、温かなアイリッシュ・
ブレックファストが用意されていた。
そして僕は旅の新しい1日へと、足を踏み入れていった。」

じつはウィスキーだけでなく、
熱いコーヒーも、黒ビールも飲みたくなる本なんです。

91『私の食べ歩き』獅子文六

頼りない味。
雅味。
珍しいだけの味。
濃尾の味。
甚だデリケートな味。
つならぬ味。
生き甲斐を感ぜしめる味。

「生来、私は胃が丈夫なうえに、
欲望崇拝家であるから──」

日本、中国、フランス‥‥。
美味を求めるエピキュリアン、
獅子文六さんのさまざまな味との出会い。

92『檀流クッキング』檀一雄

小さな頃、お母さんが
突然いなくなってしまったことから、
やむなく始まった料理人生。

けれども、
「アンカケ風に片栗粉で
トロミをつけることを覚えた時の
嬉しさといったらなかった。」
「ジャムをつくる事を覚えたのも、
愉快な思い出の一つである。」と
その当時を語る文からは、
つらさやさみしさは感じられない。
それどころか、
なにやらたのしそうではありませんか。

おふくろの味ではなく、
自分の味が自分の還る味。

サバ、イワシの煮付け、
小魚の姿寿司、
からしレンコン、
アンコウ鍋!?

「買い出しが大好き」という檀さん。
素材を見つけ出し、
料理に向かう。
その料理はまさに「俺流」なのです。

93『季節のかたみ』幸田文

63歳から、75歳までに書かれた随筆が54編。

暮らしや毎日食べるもの、
気の持ちよう、
いろいろなものが削ぎ落とされ、
研ぎ澄まされていく。

「どんなに気の合う人でも、
自分ひとりより以上に、気の合うことはない、
というそうですが、
確かにそういう節もあります。
軽快です。強がりでなく、
ほんとにひとりはいい‥‥」

さて私は、この年齢にさしかかった時、
どんなことを思うのでしょうか?

94『贅沢貧乏』森茉莉

ずいぶん前、
パリのアパルトマンの屋根裏に住む、
バレリーナの卵の食事風景を
(映画だったか、テレビのドキュメンタリーだったか、
そこのところははっきりしないのだけれど)
観たことがあります。

それはけして「ごちそう」とはいえない、
つましい料理でしたが、
気に入りの皿に盛り、
ナイフとフォークを器用に操り、
背筋を伸ばして食べるその姿が、
とても気高くて美しいのでした。

この本を読むと、
いつもその光景が思い浮かぶのです。

贅沢に見えても、
貧しい人はいるし、
貧乏だからって、みじめなわけじゃない。

どう生きるかは、
つまりその人の心も持ちようってこと。

95『酒肴酒』吉田健一

粋なタイトルだなぁって思う。
酒、肴、酒、だもん。
この三文字に興味を持って
手に取ってみれば、
そこにはぎっしり420ページ、
(しかもとても小さな文字で)
吉田健一の世界が詰まっています。

420ページ制覇したら、
中の「文学に出てくる食べもの」
の本を読んでみてはどうでしょう?

こんな風にして読書の道幅が広がるのが、
本のおもしろいところです。

96『人は成熟するにつれて若くなる』ヘルマン・ヘッセ/フォルカー・ミヒェルス(編)

ここのところ、「老いる」ということに興味があります。
老いのその先には、「死」があって、
それを不安に思う人も多いと思うのだけれど、
私のまわりにいる、
人生の大先輩たち(おそらく私より死に近い)は、
不安を通り抜けて、
どこか達観したような表情をしているし、
どこかたのしげでもある。

「老いた人々にとってすばらしいものは
暖炉とブルゴーニュの赤ワインと
そして最後におだやかな死だ──。
しかし、もっとあとで、今日ではなく!」

そういったのは、ドイツ生まれの詩人、ヘルマン・ヘッセ。

この「老年」をテーマにした本は、
43歳のヘッセが記録した観察からはじまります。
年をとるってどんなことなんだろう。
ずっと先のことかもしれないけれど、
あっという間に訪れそうなこのテーマを、
この本を機会に考えてみよう、
そう思うのでした。

97『おいしいおはなし 台所のエッセイ集』高峰秀子編

「料理という作業はそんなにむずかしいことではなく、
ちょっとした工夫、ちょっとした心使い、
つまり相手に対する愛情の有無が、
味のよしあしを決めるのだ。」

という高峰さんによって編まれた、
アンソロジー。

安野光雅、池部良、宇野千代、
それから夫の松山善三‥‥。

「食べものに情熱をかたむける人は、
仕事に対しても猛然と情熱を燃やす人だ、と信じている。」
という高峰さん。
おいしい話は尽きることがなさそう。

98『散歩の時、何か食べたくなって』池波正太郎

散歩をするから、おいしいものに出会えるのか、
おいしいものに巡り会いたいから、
散歩をするのか?
どちらかと聞かれたら、
「どちらも」。

食べ歩きのエッセイは世の中にたくさんあれど、
やはり「散歩」と聞いて思い浮かぶのは、
池波正太郎さんの、この本。

中で「横浜あちらこちら」という
エッセイが出てくるのですが、
浜っ子としては、
地元を褒めてもらえたようで、鼻高々になる。
あなたの見知った街が、
載っているかもしれませんよ。

99『貧乏サヴァラン』森茉莉

森茉莉さんのエッセイを読んでいると、
上等な「バタ」をたくさん使った、
焼き菓子を少しずつ味わっているような気分になる。

「だいたい贅沢というのは
高価なものを持っていることではなくて、
贅沢な精神を持っていることである。」

P34からはじまる「ほんものの贅沢」では、
偽物の贅沢に触れていて興味深い。

さて、ほんものの「贅沢」とは、
どんなものと書かれているでしょうか。

100『遊覧日記』武田百合子

「夫が他界し、娘は成人し、独り者に戻った私は、
会社づとめをしないつれづれに、
ゴムそこの靴を履き、行きたい場所へ出かけて行く。」

青山、浅草、上野、世田谷‥‥。
気の向くままに歩いて、
気の向くまま文を書く。

「私、思うのだが
(素人の私が言うのは、はばかり多いことだが)
剥製は口の中がもっとも難しいのではないかしらん。
粘膜や歯ぐきや舌の色つやとか形が、
なかなか難しいのではないかしらん。」

これは、浅草の蚤の市で見つけた
ライオンの剥製を見た時の一文。

心のつぶやきがそのまま文となってあらわれていて、
おもしろい。

(伊藤まさこ)

100冊の古書[5]

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71『光の粒子』かくたみほ

音の粒を感じる人がいるかと思うと、
光の粒を感じる人がいて、
そのどちらにも、そう敏感ではない私は
素直に「いいなぁ」と思うのでした。

どの風景にも、
いろんな光の表情があって、
それはいつも同じじゃない。
そんなところが光に魅かれる理由なのかもね。

72『日本民藝館へいこう』坂田和實/山口信博/尾久彰三

展示替えするたび、
駒場の民芸館を訪れます。
その前か後に、読むのがこの本。

骨董の世界で名を馳せる坂田和實さん、
グラフィックデザイナーの山口信博さん、
民藝館の学芸顧問である尾久彰三さんの3人が、
民藝館の魅力について語るのですが、
それがほんとうに「好きで好きで」という印象を受けます。
とかく固苦しく語られることの多い「民藝」を
とても身近なものにしてくれているのです。

73『日々の野菜帖』高橋良枝

幸運なことに、高橋さんの料理を食べたことのある私は、
ここに載っている料理が、どれだけしみじみおいしくて、
どれだけ愛がこもっているかを知っています。

73歳にしてインスタグラムをはじめ、
日々の料理を紹介したものに加筆し、
本にまとめた一冊。
料理撮影用に作られた料理ではない、
飾らない(でも美しい)料理がならびます。

74『京暮し』大村しげ

じゃがいものおひたしの作り方は?
しそのごはんの作り方は?
しげさんは、ぞうきんをどんな風に使っていたっけ?

時々、この本を開いてはたしかめて、
納得します。
ああ、そうそう。こんな風だったって。

「へえ? へえ? それどないして炊きますのん」
これは、すみれご飯を初めて知った時のしげさんの言葉。
いくつになっても、好奇心旺盛なしげさん。
そのすみれご飯を
「まるでマリー・ローランサンの絵のようなかんじ」
と少女のように言います。
こんなおばあちゃんになりたいな、
読むたびにそんなことを思うのです。

75『雪は天からの手紙 ― 中谷宇吉郎エッセイ集』中谷宇吉郎/池内了

天然雪の研究から、
やがては世界に先駆けて人工雪の実験に成功したという、
物理学者の中谷宇吉郎。
雪の結晶ってどうやってできるんだろう?
子どもの頃に不思議に思ったことを、
思いだけにとどめずに、
研究した人がいたんだ!
はじめてその存在を知った時は、
なんだか宝物を見つけたような気持ちになりました。

このエッセイ集を持って、
いつか加賀の雪の博物館を訪れてみてはどうでしょう。
そこには「雪博士」中谷宇吉郎の世界が待っていますよ。

76『山のパンセ』串田孫一

そこに山があるから登るのかもしれないけれど、
頂上を目指すだけじゃもったいない。
その道中にも、
すてきな何かがたくさん待ち受けてくれているもの。
そのことに気づかせてくれたのが、
串田孫一さんのエッセイです。

串田さんが編集に関わった『アルプ』や、
著書『山のABC』などは、宝物。
山登りをしない私の、
「空想山登り」のおともになっています。

77『旅は俗悪がいい』宮脇檀

建築家という仕事柄、
毎年、百数十日は海外に渡るという宮脇檀さん。

好奇心旺盛で、
観察眼がするどいけれど、
どこか洗練された雰囲気が本全体に漂うのは、
きっとお人柄。

旅に出る時、荷物にぽい、と紛れ込ませたい一冊です。

78『暮らしのかご』片柳草生

かごは好きですか?
私も御多分に洩れず、好きです。
もう「大好き」と言っていいくらい。

キッチンで、
テーブルの上で、
出かける時も。
ああ、この本を書いた人は、
本当にかごを愛しているんだなということが、
本を通してひしひし伝わってきます。

巻末には、かごを売る店や工芸館の紹介も。
ぜひとも訪れてみたいのは、
暮らしの中で生み出され、
使われてきた民具を展示する
武蔵野美術大学の民族資料館。
なんと竹細工は3000点にもおよぶそうですよ。

79『白洲正子と歩く京都』白洲正子/牧山桂子

大和や近江をはじめ、
生涯数多くの土地を旅したという、
白洲正子。
それでもやはり
「京都は特別な場所。生まれ故郷のようだ。」
と吐露しているのだとか。

白洲正子の京都は、
私の知らない景色も多い。
同じものを見ても、
感じ方の違いで、
まったく別の景色になる。

さてこの本を手に取ったあなたには、
京都という場所がどんな風に見えるでしょうか。

80『こんにちは』谷川俊太郎/川島小鳥

前半の、
ちょっとリラックスしていたり、
仕事机に向かっていたり、
街中に佇んでいたりする
ポートレートを見て、
ああ谷川さんって美しいな、
そう思いました。
撮ったのは川島小鳥さん。
近からず、遠からずの関係が(きっと)
見ていてなんだかいいのです。

写真あり、対談あり、いろいろな人への質問あり、
もちろん詩もあり。
どういう本かと質問されれば、
なかなか「こういう本です」とは答えにくい。
つかみどころがないところが、
逆にちょっと気になるんです。

81『わたしの献立日記』沢村貞子

「おいしいもので、お腹がふくれれば、
結構、しあわせな気分になり、
まわりの誰彼にやさしい言葉のひとつも
かけたくなるから──しおらしい。」

折に触れて、読み返す本がありますが、
これもそんな一冊。

「献立に大切なのは、とり合わせではないかしら?
今日は魚が食べたい、とか肉にしよう──などと
主役は決まっても、
それを生かすのは、まわりの脇役である。」

舞台、テレビで名脇役として活躍した、
女優、沢村貞子の献立日記。

82『ある小さなスズメの記録 人を慰め、愛し、叱った、誇り高きクラレンスの生涯』クレア・キップス/梨木香歩(訳)

拾い子のイエスズメと暮らした、
キップス夫人の記録です。

小さなスズメが、
夫人にとってかけがえのない大きな存在になっていく。
彼(キップス夫人はスズメをそう呼ぶ)は、
早朝に素晴らしい歌を歌い、
タイムズ紙の一面のページで、
想像上の砂浴をする。
言葉は通じないけれど、
言葉で交わすより、もっと深く通じ合う「ふたり」。

キップス夫人のまなざしがやさしい。

83『ノーザンライツ』星野道夫

「生まれ変わったら、男になりたい? それとも女?」
時おり、こんな質問をされることがあって、
うーむと考え、
「次も女かなぁ‥‥」などと
曖昧な返事をする(だってよく分からないから)。

「男に生まれたい!」
そう猛烈に思うのは、
星野さんの写真を見たり文を読んだりする時。
自然と、そこで暮らす人々の声に耳を傾けて
旅ができたらどんなにいいだろう。
星野さんのように。

84『心の中に持っている問題 詩人の父から子どもたちへの45篇の詩』長田弘

この本は、
20年ほどの間に、
「詩人の父から子ども達へ送った45編の詩」
が載っています。

装丁は平野甲賀さん。
ああいい佇まいだな、そう思って手に取ると
平野さんの、ということが多いのですが、
これもまた。
ブルーのこの本、うちにも一冊欲しいなぁ。

85『日曜日の住居学』宮脇檀

「要は生活なのであって、
住居などというものはその生活の容器として
存在しているにすぎない。」
‥‥ではじまる、
建築家、宮脇檀さんの「日曜日の住居学」。

「住まいの形ではなく、住まい方が第一、
生活をどう営むかが第一で、
住居はそれをフォローする役目しか持たない」

住まい方は生き方。

もしも家を建てる予定があるならば、
まずはこの本を読んでみるといいかもしれません。
「容器」を作る専門家の言葉は、
たくさんのなるほどが潜んでいるから。
宮脇さんは「住まう」の専門家でもあるのです。

(伊藤まさこ)

100冊の古書[4]

未分類

55『アンソロジー カレーライス!! 大盛り』杉田淳子

カレーが食べたいと一度思うと、
いてもたってもいられなくなる。
なにか代わりのもので、
そう思ってもそれは土台無理な話し。
もう心も口の中もカレー一筋になっているのです。
どうしてカレーはこんなにも
人の心を惹きつけるのでしょうか?

「カレーライスとよぶよりは、ライスカレーとよびたい。」
そう書いたのは池波正太郎。
「『まずうぃカレーが食べたい』と思うことがある。」
と書いたのは、中島らも。
赤瀬川原平、ねじめ正一、伊丹十三‥‥、
様々な人のカレーの思い出を収めたアンソロジー。

56『ほどほど快適生活百科』群ようこ

こんな時どうすればいいんだっけ?
時々ふと、疑問に思うことがあるものです。

健康のこと、貯金のこと、
人間関係のこと。
もう大人なのだから、
自分で考えなければいけないとは思いつつも、
みんなはどうしているんだろ? と
疑問が頭をもたげる。
そんな時、この本を開くと
そうか、こういう考えもあるのだなと、
ちょっと目の前が拓けた気分になるのです。

「ほどほど」っていう、
ゆるっとしたタイトルが肩肘張っていない
本の中身を語っています。

57『どうして書くの? ─ 穂村弘対談集』穂村弘

「書くものに性差を感じる瞬間。」
「書くのは対象を客観視しているということ。」
「普通の人間のまま書く。」

書くって、
書くって???

穂村さんが、「書く」を職業にする作家と
「書く」について話す対談集。

いろいろな人がさまざまなツールで文を書く今、
「書く」を仕事にしている人たちの
貴重な言葉が載っています。

58『ごはんのことばかり100話とちょっと』よしもとばなな

「本は読みません」という人はいたとしても、
「私、食べません」という人はいない。
だって死んじゃうものね。

本をたくさん読み、
かつ食いしん坊な人が書く文章は
ただそれだけでおいしそう。

ちっとも気取っていなくて、
気取った店も出てこなくて。

家で食べるごはんってやっぱりいいなぁ、
家族や気のおけない友だちと食べるごはんっていいなぁ。

59『彼女のこんだて帖』角田光代

「彼女」とは、恋人と別れたばかりで羊を食べる協子。
「彼女」とは、漬物名人の母を持つ智香子。
「彼女」とは‥‥。

14回のごはんと最後のごはん、
こんだてを中心にした小さな話がぜんぶで15。
「彼女」は一度の登場でおわりかと思いきや
そうではなくて‥‥。

いろんな「彼女」のこんだて。
メニューではなく、
こんだてというところに身近さを感じます。

60『音の晩餐』林望

「ここに、私の発明にかかる
決定的かつ安全なる眠気覚しの妙法を伝授しよう。」

なになに? と読み進めると、
なんとそれは
「車の眠気覚しにはせんべいを食うのである」
と大真面目。
その時の音が「ばりっ」なのです。

鳥皮の煮こごりは、ぐつぐつ、
焼きりんごは、ほくほく、
イカの輪切りフライは、ほっほっ。

おいしい音は無限にあるものだなぁ。

61『食味歳時記』獅子文六

春には春の、夏には夏の、
秋には秋の、冬には冬の。
その季節にしか味わえない味があるものです。
春夏秋冬に限らず、その間あいだにも、
美味はひそんでいるものだから、
うかうかとしてはいられない。

5月のパリ、
自分の部屋で茹でたアスペルジュ(アスパラガス)。
夜寒の始まる頃の純白のフロフキ大根
(と、それにかかるとろりとした黒い味噌)、
秋の恵みというより「一年中の口福」という、
レモンを絞った初牡蠣。

この本に何度となく出てくる「ウマい」。
うかうかしていると、それを逃すことになるから、
一年中、気が抜けやしない。

62『二十億光年の孤独』谷川俊太郎

知っていましたか?
谷川さんが少年の頃、模型飛行機を作ったり、
ラジオを組み立てるのと同じやり方で
詩を作っていたということを。

知っていましたか?
「自分の前にある世界の一部を見て、
ことばという部品をつなげていくと、
世界のひな形みたいなものが
できることがおもしろかった。」
と思っていたことを。

私は知りませんでした。
この本を読むまで。

63『バーボン・ストリート』沢木耕太郎

呑み友だちとお酒を酌み交わしているうちに、
出てきた話の芽をもとにしたエッセイ、
しかもそこで呑まれているお酒はバーボンだったから、
タイトルはバーボン・ストリートと
つけられたのかというと、
そうではないらしい。

では、なぜ?
‥‥とあとがきを読み進めると、
タイトルの意味に、ああなるほどと納得。
まさか、ボリス・ヴィアンの『北京の秋』から
きていたなんて!
(『北京の秋』というタイトルがつけられた理由にも
驚きがひそんでいます)。

64『台所のおと』幸田文

今はあまり感じなくなったけれど、
私が子どもの頃は、
夕方、家に帰る途中、
近所の家の台所から、
プーンと晩ごはんの
いいにおいがただよってきたものです。

その匂いのもとに近寄ると、
必ず「音」がしました。

トントントン、野菜を切る小気味いい音。
パチパチと、魚を焼く音。
ごはんですよ、と子どもたちを呼ぶお母さんの声。

この本の背表紙を見るたび、
なぜだかその時の、
ちょっとほわん、となる感覚を思い出すのです。

65『新版 吉兆味ばなし』湯木貞一/花森安治

「この道、一筋などと誰でも心安くいいますが、
この湯木さんくらい、それがぴったりする人を知りません。
まるで金太郎あめのように、どこを切っても、
味のことしか、料理のことしか出てこないのです。」

そう言ったのは、
暮しの手帖の花森安治。

延べ300時間以上にわたって、
聞き書きし、
湯木さんによってあれこれと手を入れできた
「味の話」。

毎日のごはん作りのヒントが詰まった本です。

66『かわいい夫』山崎ナオコーラ/みつはしちかこ

タイトルだけで、愛に溢れてるとは思いませんか。

さらにページを開くと、
まず現れるのがこんな一文。

「顔がかわいいのではなく、存在がかわいい。
ざしきわらしのようだ。
だから本を書くことにした。」

いつも近くにいる人のことを、
こんな風に書いてもらって、
「夫」いいなぁ。
幸せだなぁ。

一生懸命、花で何かを編むチッチと、
クールな表情で蝶々を見つめるサリーが表紙。
見つめ合っているのではなく、
ただふたりがそこにいて、
幸せそうなのがいい。

67『パスタマシーンの幽霊』川上弘美

2006年から、雑誌「クウネル」に掲載されていた
川上弘美さんの小説。
1号ごとに読み終わる、
そのページが大好きでした。
だから、それが1冊にまとまった時は、
うれしい気持ちになったものでした。
雑誌で読むのと、本で読むのとでは、
またちがう味わい方ができるなぁって。

おだやかなんだけれど、
時おりくすっとしちゃう、
私の身近なところでおこりそうな、
22の小さな話。
川上ワールド、堪能できます。

68『みずうみ』いしいしんじ

日常のざわざわやあれこれを忘れて、

文字の世界に浸りたい時、
いしいしんじさんの本を開きます。

「麦ふみクーツェ」「ぶらんこ乗り」
「プラネタリウムのふたご」‥‥。

読んでいるうちに、
「たゆたう」という、いつも感じない感覚に
なるのが、なんだかここちいいのです。

69『「ん」まであるく』谷川俊太郎

谷川さんの本は、
今までに何冊も買ってはいるのだけれど、
友人が遊びにやって来て、
本棚からそれを手に取り、
ぱらぱらめくって、
興味深げにしているのを見ると、
なぜだかプレゼントしてしまいたくなるから、
何冊もずらり、と並ぶことがなかなかないのです。

でも、
これは唯一ずっと本棚に置いてあって、
時々、読んでる。

「『ん』という音が好きだ。
力がこもっているくせに軽みがある。
『ん』という字も好きだ。
大地に足を踏ん張っていて、しかも天へと流れている。」

谷川さんは、
「ん」という文字みたいな人なのかな、
とこの一文を読むたび思うのでした。

70『強く生きる言葉』岡本太郎

いろいろなことが曖昧で、
なにかと人の意見に左右されがちな今、
「俺はこうなんだ」と、
強く、はっきり言ってくれる人の存在は
心強いし、ありがたい。

「こんな服を着ておしゃれをしたから、
どんなふうに自分が変わったかなんて
外見的なことばかりで鏡を見ないで、
自分と対決するために鏡を見る。
これが、本当の鏡の見方だ。」

はい。

(伊藤まさこ)

 人をつなぐ糸。

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伊藤
「weeksdays」で毎日更新していて思うのは、
ウェブは文字量の制限がないということ。
どれだけ書いてもいいし、短くてもいい自由があり、
ここを直したいって思ったら、更新の前日でも直せる。
もちろん書籍や雑誌で校正が入って、
事前に何回も校正紙をチェックする、
という仕事も好きなんですけど、
どっちもやれてるのが、すごくおもしろいんです。
河野
「weeksdays」は雑誌で言えば
テーマを変えながら、ずっと
スペシャルな連載を続けてるようなもので、
ありとあらゆるものが出て来るわけだし、
切り口っていうか、伊藤まさこらしさ、
っていうのがちゃんと感じられるっていうところも
すごいと思って見ていますよ。
僕なんか、考えたことのなかったもの、
結構多いですもん。
身の回りのもの、
これについては考えたこともないな、
っていうもののほうが、多いですよ。
伊藤
たしかに、いつも
「これはどうしてこの形なのかな?」
と思ったり、
「もっとこうすればいいのにな」
と考えたりしています。
テーブルの脚の形について、
カップの口あたり、
寝た時に目にはいる天井の質感、
身につけるものの着心地‥‥
いろいろ。
河野
たとえば壁について考え始めたら、
その間は結構壁について集中して考える?
伊藤
ずっと壁のことを考えて、
目にはいる壁の写真を撮ったり、
質感について考えたり。
そのおかげで、電車を
乗り過ごしたりするんですけどね。
河野
おもしろいなあ。
いま、雑誌の記事を読んでいると、
伊藤さんがなさっているようには、
記事が、編集者のからだを
1回通っていないところがありますね。
伊藤
「からだを通っていない」!
その感じ、わかります。
たとえばわたし、
何回も家を改装してるんですけど、
考えて実行してお金を使って失敗して、
はじめてわかることってたくさんあるんです。
河野
本はいいものを読まないと、
悪いものの判断がつかなくなるっていう一方で、
こんな本を買っちゃったっていう
「失敗」もないと、先に進まないんですよね。
伊藤
ほんとうにそのとおりです。
河野
さっきまさこさんと
雑誌を扱う古書店に行きましたね。
そこで昔の雑誌を見ていて
匂いが違うなと思ったのは、
あのころは、時代の空気を吸いながら、
編集者がその空気の代弁者として企画を出し、
読者に代わって、本当にお勧めだというもの、ことを
伝えていましたね。
ちょっと“押し出してる”感はあったけれど、
いまは、どっちかというと、商業寄り。
生産者の論理を汲んでっていうところで、
使い手の側からは、
ちょっと遠のいてるような気がします。
伊藤
いつからか、広告を取ることが‥‥。
河野
そうそうそう、そっちに力を入れてると思う。
雑誌っていうのはまさに「雑」、
その「雑」は悪いことじゃなくてね。
まさこさんがやってらっしゃるようなことは、
雑貨、雑品を扱っているわけだけれど、
生活っていうところに足を置いている。
「雑」(いりまじること)っていうところに、
ちゃんと自分の足で立ってる感じがするんです。
片や、雑誌は、カタログに近いところがあって。
伊藤
あたらしいモノをいかに多く載せるか。
河野
そっちからお金をいただいて、
そこの雑誌社のブランドイメージに乗せて、
いかに読者につなげるかを考えている。
カタログをカタログとしてつくったら、
いかにもそれは、読者とのつながりが生まれないんだけど、
出版社っていう粉にまぶしてカタログ“誌”を出せば、
どっちもいいじゃないのって、
そういうビジネスとして成立しているんですね。
伊藤
神保町に来て、いろんな古い本や雑誌を見ていると、
あらためてそういう発見がありますね。
今回、本の感想を書くのに古書をめくっていたら、
「黄色の‥‥」っていう一文があったときに、
本の間からポロッと偶然、
黄色の紙が落ちてきたんですよ。
そういうことも、古書のたのしいところです。
河野
僕が近年笑っちゃった出来事としては、
韓国から東大に留学していた留学生が、
帰国にあたって神保町で古本を買い込んだらしいんですよ。
そして韓国で国際学会があるというので、
僕の友人が韓国に行って、彼に会ったら、
「読んでいた本から、これが出てきました」って、
一枚の紙切れを渡されたんだそうです。
それは、僕の、大学の履修届だったんです。
伊藤
えーっ! まったく関係のないかたからですか?
河野
そうなんです。
その友だちが僕を知っていたから、
もらって帰って来て、僕に送ってくれたの。
すごいでしょう。
伊藤
すごいですね。その履修届には、
覚えがあったんですか?
河野
僕、その履修届にある授業は、
受けた思い出がないんですが、
おそらく、提出だけはしたんでしょうね。
そしてその本は、
僕が大学時代にお世話になった教授の蔵書で、
亡くなったとき、遺族が処分したものらしいんです。
なぜか「出したけれど出なかった授業の履修届」が
先生の本に挟まれたまま、市場に出たんですね。
それが、めぐりめぐって、海を渡ってやってきた。
すごいでしょう、こういうの。
ヤシの実以上に流れて着いたっていう感じ。
伊藤
すごいですね!
本の海を渡って、ほんとうの海も渡って、
学生時代の履修届が戻ってくるって。
本は、そんなふうに人をつなぐんですよね。
そういえばわたし、学生時代に夜遊びをしていて、
仲良くなった女の子がいたんです。
彼女は昼間働いて、
夜間のクラスに行っていたんですが、
わたしと、教室もテーブルもおなじだと知り、
いつしか彼女に渡したい本を
そのテーブルに置いておいて、
彼女はそれを受け取り、読み、
またおなじ場所に返して、と、
まるで文通のようなやりとりを
するようになったんですよ。
本を介して。
河野
おもしろいね。
さっき『洋酒天国』の豆本を
伊藤さんが買われたでしょう?
あれね、僕、全巻(36巻)持っているんです。
うちでは本の上に本を重ねて並べていて、
ちょうど昨晩、それが地震の影響で崩れちゃった。
そこにあの豆本のセットがあったので、
久し振りに取り出して眺めていたんですよ。
そうしたら、今日は最初に豆本ではなく、
親本の『洋酒天国』を見つけましたね。
そして店先に出たら伊藤さんが豆本を見つけた。
ちょっと不思議な縁ですよね。
本は、そういう思いがけない糸を
つないでいくんだね。
伊藤
今回、古書を売るという話をしたら、
「古書が1冊売れたら、
自分のつくった本が1冊売れなくなるんだよ」
とおっしゃった出版社のかたがいて。
なるほど、
経済の論理で言えばそうなのかもしれないけれど、
私が読まなくなった本を友人知人にあげるように、
知らない人でもまわりまわって、
読み継がれる、ってなんだかいいと思うんです。
河野
それを言い始めるとね、
図書館も敵になっちゃうよね。
伊藤
そうなんですよね。
ああ、いくらでもお話ししていられそうですが、
最後に、ひとつお聞きしていいですか?
その、東大のミック・ジャガーはその後‥‥。
河野
ミック・ジャガーはね、
高校の先生になりました。
きっといい教師だったと思いますよ。
伊藤
きっと、生徒から、好かれたでしょうね。
すごく年上の人は?
河野
わりに早く亡くなっちゃったんですよ。
伊藤
そうでしたか‥‥。
きょう河野さんのお話を聞いて、
学校っていいなって感じました。
河野
そういう気持ちはありますか、
これからでも、どこか入りたいと。
「ほぼ日の学校」に入ってみようとか?
伊藤
でも、いま、毎日が学校みたいなものなんです。
先生がうんと近くにいる学校です(笑)。
河野さん、ぜひまた、ご一緒させてください。
ありがとうございました!
河野
こちらこそありがとう。
またぜひ。
学校にも遊びに来てくださいね。

撮影協力:
神田伯剌西爾
magnif

100冊の古書[3]

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37『呑めば、都 ─ 居酒屋の東京』マイク・モラスキー

生まれと育ちはアメリカ、
でも味覚と肝臓はすっかり日本人という著者が
日本の居酒屋の魅力を語ります。

といっても、
外から来た人の俯瞰した目‥‥ではなく、
もはや日本人以上に日本人の語り口。

そりゃそうだ! というタイトルにも、
思わず引き込まれました。

38『時をかけるヤッコさん』高橋靖子

スタイリストの草分け的存在の高橋靖子さん。

デヴィッド・ボウイや矢沢永吉、忌野清志郎など、
「とんでもないエナジーを持った」
スーパースターから、最近では、
オカモトズやももいろクローバーZをスタイリング。

いつも時代の先っぽにいる、
お転婆ヤッコさんのエッセイです。

39『幸せについて』谷川俊太郎

夏だったら、洗いざらしのベッドリネンに
体をすべらせた時。

冬だったら、ぬくぬくの毛布にくるまっている時。

おいしいものを食べている時。

好きな人が笑っている時。

「幸せ」について考えたら、
こんなことを思ったけれど、
でもじつは、幸せについてなんて考えない、
ふつうの毎日を送れていることこそが、
幸せなのかもしれないね。

40『池波正太郎のそうざい料理帖』池波正太郎/矢吹申彦

今日のごはん、何にしようかな?
自分の台所を持ってからは、
自分で好きなものを作れるのがうれしい。
けれど、それがめんどくさいこともある。
そんな時のために、そうだこんな風に、
食べたものを記しておけばいいんだ。

折詰の鯛の塩焼き
調理は塩と酒のみ
加えるのは豆腐のみ
薬味は刻み葱のみ
たとえば「鯛の塩焼き鍋」は、こんな風。
イラストとともに、
書かれたのはシンプルきわまりないメモ書き。
それがいかにもおいしそう。

41『Q健康って?』よしもとばなな

だれでも、健康でいたいって思っていると思うのです。
ことに年齢を重ねれば重ねるほど。

この本は、
健康のために「こうするとこうなる」というメソッドが
細かく載っているわけではありません。
それでも会話の中に、
あらゆる「そうなのか!」ということが
散りばめられていて、
読み終えたあと、なんだか自分の中に
新しい風が吹き込んできた、
そんな気分になるのです。

「病気も含めて、
その人らしいエピソードに満ちた人生になる。」

「体が生きたいように生きる
『身がまま』になることがベスト。」

そうなのか、そうなのかって。

42『愛する言葉』岡本太郎/岡本敏子

岡本太郎さんは青い字で。
岡本敏子さんは赤い字で。

それぞれの言葉は、純粋でまっすぐで、
目が離せなくなってくる。

「相手がすべてを捨てて、
こっちに全身でぶつかってくると、
それはやはり全身でこたえる。」(太郎さん)

「愛する」ってパワーがいるのだなぁ。
私にはできそうにないけど、
できそうにないからこそ惹かれるものがあるのです。

43『人生の道しるべ』宮本輝/吉本ばなな

宮本輝さんと吉本ばななさんの対談集。

タイトル通り、
人生の道しるべについて、
おふたりが語っているのだけれど、
その中で赤毛のアンの話が出てきます。
赤毛のアン!
すっかり記憶の向こうに置いて行ってしまった本なだけに、
なぜだか猛烈に読み返したくなったのでした。

全部、読み終えたらまたこの本が読みたくなるでしょう。
きっと新しい発見があるにちがいないから。

44『<とんぼの本>向田邦子 暮しの愉しみ』

新潮社のとんぼの本が、何周年だったか
何冊目だったかの節目の年に、
とんぼの本について何か書いてください、と言われて
迷わずえらんだのがこの本でした。

器、料理、服、買いもの、旅。
食いしん坊に贈る100冊の本、なんてのもあり。

向田さんを知る手がかりが、
この本にはぎゅっと詰まっているのです。

気風がよく、でもどことなく女らしい。
時にはおっちょこちょい。
私の憧れが形になったような人、
それが向田さんなのです。

45『かるい生活』群ようこ

年齢を重ねると、だんだんと、
「あれ? こんなはずじゃなかったのになぁ」と
嘆くことが多くなってくるもの。
新陳代謝のおとろえとか、
顔や体のたるみとか。
体だけでなく、
いろいろなことやものが、すこーしずつ重くなってくる。
そう、生きてきた分の重みがずしりと‥‥。

ベランダのゴミ、服、家族のしがらみ、
体の水分‥‥。

いろいろなものを軽くしたら、
気持ちも軽くなってきた、
そんな群さんのエッセイです。

46『森正洋の言葉。デザインの言葉。』森正洋を語り・伝える会/ナガオカケンメイ

森正洋さんがデザインした、
G型しょうゆさし、という醤油差しを知っていますか?
「知らない」そう思ったあなたでも、
きっとどこかで目にしているはず。
テーブルにひっそり馴染むその姿は、
とても「ふつう」。
でもその「ふつう」の中に、
さまざまな意匠が凝らされているのです。

「『あなたはそういうけれども、
やっぱりこれはいいんじゃないか』
『私の生活にはこれがいい』と、
自分なりのものの見方を身につけなければいけませんね。」

日本を代表するプロダクトデザイナーの言葉は、
もの作りをする人の心(そうでなくても)に、
きっとずしりと響くことでしょう。

47『イギリスだより ─ カレル・チャペック旅行記コレクション』カレル・チャペック

20代の頃、グリーンフィンガーに憧れて読んだ本が
カレル・チャペックの『園芸家12カ月』でした。
それから、この本は入れ替わりの多い我が家の本棚で、
ずっと変わることなく置いてある。
本棚にあるだけで、
なんだかほのぼのうれしいのです。

この本は、
フォークストン、ロンドン、ケンブリッジ、
オクスフォードなど、
イギリスのあちこちを訪れたチャペックの旅行記。
読み進めるうちに、自分がなぜだか
ご機嫌になっているのが、
チャペックの文の不思議なところ。
マダム・タッソーの蝋人形館の話に思わずクスリ。

48『秘密のおこない』蜂飼耳

蜂飼耳さんの本を読むのは、はじめてです。
だから「はじめまして」という気持ちで本を開いたら、
ぱらりと紙が出てきました。
あれ? と思ってよく見ると、
それはサインをする時に
向かい合わせのページに
インクが染み込まないようにするための紙。
そう、これはサイン本なのでした。

どういういきさつで、
今ここにあるのか?
本のいきさつをあれこれ推測できるのも
古書の楽しみのひとつです。

49『あの人に会いに』穂村弘

この本で、穂村さんは
「よくわからないけれど、あきらかにすごい人」に
会いに行き、話をします。
谷川俊太郎、荒木経惟、吉田戦車、
横尾忠則、宇野亜喜良‥‥。

「溢れそうな思いを胸に秘めて、
なるべく平静を装って。」

対談では「なるべく平静を装った」
穂村さんを感じますが、
「逢ってから、思うこと」という対談後記では、
じつはその時、
ひそかに緊張や興奮、高揚していたことが読み取れて、
なかなか興味深いのです。

50『高峰秀子 旅の流儀』高峰秀子

「寝心地のよいベッドと清潔なシーツと、タオル。
洗面所にお湯が出て、
エアコンが完全ならば、他のものは一切いらない。」
ホテルに「由緒」とか「最古」とか。
そんな肩書きは必要ない、という高峰さん。

日常を凝縮したもの、それが旅。
したがって旅の流儀は、
その人の流儀になるのではと思うのです。

51『完本 山靴の音』芳野満彦

山はおだやかでやさしく、
包んでくれるような大きさがあるかと思うと、
時おりとんでもなく意地悪でのっぴきならない。
山の近くに住んでいる時、
よくこんなことを思ったものです。

それと同時に、
私たち人間は自然の一部。
よく考えれば当たり前のことに
気づかせてくれたのも山なのでした。

のんきな山歩きをしている私の、
何倍、何百倍も山に近い
アルピニストの著者が感じる山とは?
ひそかに思いを寄せていた彼女から借りた
ピッケルの話が、
切ない。

52『すてきなあなたに よりぬき集』暮しの手帖編集部

かつて「暮らしの手帖」で
連載をしていたことがあります。
その時に、楽しみにしていたのがこの
「すてきなあなたに」のページでした。

この連載が始まったのは、1969年。
当時の編集長の大橋鎮子さんは、
「なにもない普通の暮らしのなかで出会った、
いろいろなことや、
お目にかかった何人もの方々のお話しの中から、
私が大切に思い、すてきだなぁと思い、
生きていてよかったと思ったこと、
私ひとりが知っていてはもったいない、
読者の皆様にもお知らせしたい。」
そう語っています。

「普通の暮らし」の中から生まれた、小さな話。
どの家にも、どんな人の心の中にも、きっとある。
あるけれど、それに気づくかどうか、
それが肝心。
気づける人になれたらいいね。

53『パリ仕込みお料理ノート』石井好子

時おり、
無性にサンドウィッチが食べたくなることがあります。
食パンを買いに走り、
バターをぺたぺたと塗って、
野菜やらハムやら、
焼いた卵やらをはさんでがぶりとやる時の、
幸福ったら!

「冷蔵庫に首を突っ込んで、
二枚の食パンにはさみきれないほど野菜や肉を積み重ね、
大口を開けて食べる。
ときには風呂場まで持ち込んで食べる。」
石井好子さんのエッセイに出てくる、
アメリカのブロンディーという漫画の亭主
ダグウッドのくだりが、
まるで、サンドウィッチを食べる時の私のようでおかしい。

大口を開けて食べる時、いつもこの一文を思い出すのです。

54『北大路魯山人』小松正衛

昔よく行っていた蕎麦屋の箸おきが、
なにやらよいかんじだったので、
いいですねぇと撫でながら褒めると、
なんとそれは北大路魯山人の作ったものでした。
その人の打つ蕎麦は
他ではけして味わえない味だったのですが、
なぜそうなのかといえば、
それは味だけでなく、箸おきをはじめとしたしつらえが、
そう思わせたのではないかと、今にして思うのです。

本の前半は、カラーとモノクロの写真で、
魯山人の作品を紹介。
その後、生い立ちが綴られます。
作品からは知りえなかった魯山人の素顔は‥‥?

(伊藤まさこ)

再入荷のおしらせ

未分類

完売しておりましたアイテムの、再入荷のおしらせです。
7月25日(木)午前11時より、以下の商品について、
「weeksdays」にて追加販売をおこないます。

saqui 丸衿プルオーバー

▶商品詳細ページへ

ブラック、ネイビーが入荷します。

「首や手首の出るバランスが絶妙なプルオーバー。

おしりがかくれるか、かくれないかの丈も

またいいかんじなのです。
同素材のパンツと合わせてセットアップにしても。

写真のように前身頃の裾を少しだけパンツに入れると

表情が豊かになります。」
(伊藤まさこさん)

saqui テーパードリボンパンツ

▶商品詳細ページへ

ブラック、ネイビーが入荷します。

「ウェストがゴムなので、
はいていて楽なのですが、
きちんとして見える計算されたパターン。
とにかくシルエットがきれいなのです。
コーディネートによって、
カジュアルにも、ちょっとおめかし風にもなるので、
1枚持っているととても重宝します。」

(伊藤まさこさん)

小ひきだし

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2月、6月と入荷するたびに人気の小ひきだし。
今回も抽選販売で限られた数にはなりますが、
再入荷いたします。
ぜひこの機会にご応募ください。

「この小ひきだしを使い始めてしばらく経ちますが、
リビングに置いて、
いろいろなものを入れてはいいなぁ、
使いやすいなぁと思う毎日です。
そして、美しいなぁとも思う。
置いてある姿も、
また、ひきだしの中の様子までも。

小さなひきだしですが、
これがあるのとないのとでは大ちがい。
身の回りのこまごましたものが、
気持ちいいほどすっきり片づきます。

いつも、あれない、これない、どこいっちゃった?
なんて探しものをしているとしたら、
時間が少しもったいないと思う。
ものの置き場所をきちんと決めて、
こまごましたものをひきだしにおさめたら、
ものだけでなく、
気持ちの整理整頓にもなるはず。

入れるものは、あなたの自由。
使い方も自由です。
小さいけれど、大きな役割をしてくれる、
このひきだしはきっと暮らしの役に立つはず。」

(伊藤まさこさん)

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