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t.yamai parisのふたつのシャツ、 あのひとに着てもらいました [3]cimai 大久保真紀子さん・三浦有紀子さん
cimai(シマイ)さんのプロフィール
姉の大久保真紀子さん、妹の三浦有紀子さんが
ユニットとして、イベントなどでパンの販売を開始、
活動の幅を広げ、2008年埼玉県幸手市にパン屋
「cimai」をオープン。
全国のカフェ、雑貨店などでも
定期的にパンの販売をしている。
著書に
『cimaiのイーストと天然酵母のパンレシピ -バターも
卵も使わない しっとり、もちもちのおいしい生地』
がある。
「粉からパンやお菓子ができるのがたのしい」
というcimaiのおふたり。
何度作っても同じ仕上がりにはならない。
それがおもしろいし、
飽きることがないんですって。
お姉さんの真紀子さんはおっとり、
妹の有紀子さんはちゃっきちゃきと、
個性がまったく違うので、
おたがい「できることとできないこと」を、
認め合いつつ仕事を分担しているのだとか。
じっさい、おふたりの掛け合いを見ていると、
とてもいいバランスなのです。
うかがったのは、店舗の2階の、
広々、すっきりした空間。
ここでは先生を招いて、
味噌作りやヨガ教室をしたり、
年末にはしめ縄作りをするとか。
「パンを買うだけでなく、
cimaiに来ることで、
プラス何かを感じ取ってもらえたら」
と有紀子さん。
今は、パン作りと並行して、
オリジナルのエプロンや、
あんこやピーナッツペーストなどのオリジナル開発を。
ゆくゆくはブレッドナイフや、
旅にも持っていけるブレッドボードも作りたい‥‥
と夢が広がるおふたり。
仲良くていいなぁ。
ふたりでよくお出かけもするそう。
「好きな服のテイストが似ているから、
同じような格好にならないように、
出かける前に、
今日何着ていくの? と確認し合うんです」
と真紀子さん。
「黒と白、時々ネイビー。それ以外の服は持っていません」というおふたり。
若い時はいろんなスタイルに挑戦したそうですが、
ここ10年ほどは、
シンプルで上質な服をえらぶようになったとか。
だからグリーンを着るのは、
「ちょっとドキドキ」なのだとか!
足元はブーツで。
靴下は、白が基本なんですって。
「モノトーンの服に、
ちらりとのぞく靴下は白、
というのがいいなと思って」
うんうん、潔くっておふたりらしい。
シンプルがお好きなら、
フリルやギャザーはどうなのかしらとたずねると、
「それは大好き」とのこと。
今日もそれぞれの着こなしを見せてくれました。
袖は少したくし上げて、
手首を見せて。
襟は少しぬき加減に。
シャツと髪の間の、
首の見え方のバランスが絶妙です。
「これから金髪にしようと思っている」と真紀子さん。
髪の色が変わったらまた、
シャツの着こなしも変わって見えるんだろうな。
最近のブームは「パンツにイン」という有紀子さん。
「ウェスト部分のデザインがかわいいパンツがあるから、
それを見せたくて」
なるほど、同じ服でもインにするか、
アウトにするかで見え方は変わってくるもの。
スタイリングっておもしろいな、
と思うのはこんな瞬間です。
スティルモーダの靴や、ベトナムのかごなど、
weeksdaysのものを
愛用してくださっているというおふたり。
(この日も靴を履いてくださっていました!)
今、気になっているのは、
シルクのワンピースにパンツとか。
それは絶対にお似合い。
いつか全身weeksdaysコーディネートを
見せてくださいね。
t.yamai parisのふたつのシャツ、 あのひとに着てもらいました [2]山井自子さん
山井自子さんのプロフィール
やまい・よりこ
文化服装学院卒業。
アクセサリーの企画、プレスを経た後に渡仏。
夫である山井孝氏と、1995年、ブランド
t.yamai paris(ティー ヤマイ パリ)を立ち上げ、
リュクサンブール公園近くにブティックをオープン。
2010年、東京に拠点を移す。
ベーシックを軸に甘さとモダンさをミックスした
大人の日常着を提案。
エレガンス、フェミニン、クラシカルをキーワードに
自分らしい着こなしを大切にした
女性のための服作りを続けている。
●t.yamai paris のウェブサイト
●t.yamai paris のInstagram
お会いするたびに、
ご自分に似合うものをよく知っているなぁ‥‥
と感心する、自子さん。
さりげないけれど、
自子さんのおしゃれって心に残る。
小物使いにも興味津々で、
どこのものですか?などと聞いては、
参考にさせてもらっています。
(こっそり、同じものを買ったりも。)
そして何より、
t.yamai parisの服が
この世で一番、似合う人なのではないか? というのは、
私たちweeksdaysチームの共通の感想。
今回の開襟シャツも、
展示会で自子さんが着ていらしたものがすてきで、
私も欲しい! となり、紹介するに至ったのでした。
「開襟シャツは、最近着てないな、
久しぶりに着たいな、と思って作りました」。
とくにシャツカラーは、
ほとんど着ないんですって。
「着たとしても、
ボタンを開けて首まわりを出して、
すっきり見せるようにしています」。
だからこの、
首に沿うフラットな襟は、
シャツをあまり着ないという自子さんに
しっくりくるのだとか。
ともすると、メンズによりがちなシャツですが、
そこはやはりt.yamai parisの服。
後ろ見頃にギャザーをたっぷり寄せたり、
カフスを細めにして、
着た人を美しく、やわらかく見える工夫がされています。
襟元には、こんなネックレスを。
「ずいぶん前に、セレクトショップで手に入れたもの。
きらきらしたものを身につけると気分が上がります」。
あえて、シンプルなパールではなく、
ちょっと個性的なものを合わせて、
襟元を引き立てます。
ここ最近は、ワードローブは
ほとんど黒ばかりだという自子さん。
「なので真っ黒にならないよう、
墨黒(すみくろ)にして軽さを出しました」
そうか、一口に「黒」と言っても、
いろんな黒がある。
素材感も相まって、このシャツは、
秋に取り入れやすい軽やかな黒なのかも。
こちらは、
オーガニックコットンのフリルブラウス。
フリルがたくさんなのに甘すぎないのは、
色合いだったり、
少しハリのある素材使いだったり。
開襟シャツもそうでしたが、
このちょっとした工夫が、
t.yamai parisっぽいなぁと思う。
「大人が着る、かわいい服」とでも言ったらいいのかな。
フリルブラウスの襟元は、
ゴールドの華奢なネックレスを。
やはり、フリルがあるから、
アクセサリーは控えめに? と尋ねると、
「いえいえ、そんなこともなくって、
さっきみたいなパールも合わせちゃう」んですって。
冬はこの上にダボっとしたカーディガンを羽織ったり、
コートを着たり。
その着こなし、また見せてくださいね。
t.yamai parisのふたつのシャツ、 あのひとに着てもらいました [1]石澤敬子さん
石澤敬子さんのプロフィール
いしざわ・けいこ
家内製手工業人。文化服装学院技術専攻科卒業。
アパレル会社でパタンナーとして勤務したのち、
ワンピースやウェディングドレスのオーダーを受け始める。
1988年より自身のブランド「moss*」をスタート。
その活動と並行して「minä perhonen」に勤務、
海外などで見つけた生地を使い、
“かわいいおばあちゃん”をテーマにした
ワンピースやエプロン、小物類を制作。
著書に『ノスタルジックなクローゼット』
(文化出版局)。
「味わいのある服が好き」
という敬子さん。
一度、気に入った服はとことん着倒すそう。
だから20年もの、30年ものの服もざらだとか。
敬子さんと知り合ったのは、
30年ほど(!)前になりますが、
その頃からイメージが全く変わっていない。
それも驚くくらい。
「好きなものもほとんど変わっていないんです。
よく、歳を重ねると、似合う服が変わるっていうでしょ。
そういうのも感じたことないなぁ‥‥」
着続けたい、という気持ちの方が勝つんですって。
すごいなぁ。
敬子さんのおしゃれって、
潔いほど「好き」という気持ちに忠実。
私から見たら、
とても着こなせそうにない
「好きな」もの同士を組み合わせて、
敬子スタイルに仕上げる。
「近所の商店街で、2度見どころか3度見されることも
しょっちゅうだけれど、いいんです。もう慣れっこだから」
という敬子さんの着こなし、
今日、とても楽しみにしていたのでした。
t.yamai parisのフリルブラウスには、
「ずっと履いているからもうボロボロで」というパンツ、
腰には中国のミャオ族の民族衣装を巻いて。
友人が作った帽子や、
馬の毛で作られたラリエットを合わせます。
それにしても、民族衣装とはびっくり。
アジアやアフリカ、ヨーロッパ‥‥
「国は問わず、気に入ったものを」が
敬子スタイルの基本のよう。
お手本はあるのかなと尋ねると、
「ハンガリーとかチェコとか。
東欧の、ちょっと野暮ったい
おばあちゃんのおしゃれに惹かれるんです」
ですって!
「それでも、自分がだんだんと、
年齢的におばあちゃんに近づいてきているから、
ちょっとアクの強いものを組み合わせたり、
よいものを組み合わせたり」
コーディネートの味つけに気配りをしているのだそう。
グリーンのシャツには、
スカーフを巻いて。
なんと敬子さん、
1年のうち、360日はスカーフを巻いているとか。
そういえば、髪型が思い出せない! というくらい、
頭には何か乗っています。
花のネックレスは、Marni(マルニ)。
そうそう、これ私も店で見て、
かわいいなと思っていたけれど、
派手すぎるかなと躊躇して買えなかったのでした。
好きなものを自由にコーディネートして、
自分のスタイルにする。
見よ、この堂々とした敬子さんの姿を。
「堂々と」って、
服を着た自分を
一番かっこよく見せるコツなのかもしれないなぁ。
見習いたい。
t.yamai parisのふたつのシャツ
これなら
似合う似合わないは、
人ぞれぞれ。
それは時に、
思い込みがじゃまをしたりもして‥‥
見極めるのはなかなか難しいものです。
着てみたいけれど、
やっぱり似合わないかも。
私にとって、そんなアイテムのひとつが
かっちりしたシャツです。
それも台襟付きの。
そんな人は、まわりにも案外いて、
「襟はハサミでジャキジャキ切っちゃう」なんて強者も。
そしてその襟を切ったシャツを着た、
その人がまたかっこいい。
何を着るかではなく、
着る自分がどうかってことなのかなと思う今日この頃です。
今週のweeksdaysは、
襟付きシャツに苦手意識を持っていた私が、
「これなら」。
そう思った開襟シャツと、
胸元にフリルのたくさんよったブラウス。
どちらも大人のかわいらしさが漂う、
t.yamai parisのふたつのシャツを紹介します。
コンテンツは、
3組、4名の方に登場いただきました。
みなさんそれぞれ、
なるほど‥‥と思ったり、
そうすればいいんだ! と感心したり。
学び多き取材でした。
どうぞお楽しみに。
ちいさな灯りのある生活を
- 伊藤
- それでは、今回のランプについて聞かせてください。
これは、絵があって、
それがランプという形になったんですよね。
- 檀
- これはまた、ほかとは別のやり方で、
もともとは、白いランプに直接絵を描いてみよう、
という試みだったんです。
一点物ですね。
なぜかというと、そのときのラッタラッタルは、
すごく絵を描くのが速い人がたくさんいる時期で、
どんどんいい絵を描いてくれたんです。
彼らの絵をすぐに商品に
応用することはできないかって考えた時、
原画表現だったら、彼らが描いたものを
すぐに製品にできる。
ということはすぐにお金として
お渡しできるっていうことです。
だから「原画が直接描ける商品をつくりたい」
と考えました。
それで、シェード(傘)もボディーの
両方に柄をつけることができるランプを考えました。
つくっているのは、照明のシェードだけをつくる
メーカーさんなんですけれど、
ボディーも、シェ―ドと同じつくり方をしてしまえば、
総柄でつくれるよね、っていう考え方です。
絵画を照明にしたらどうなるかっていうことを
イメージしました。
絵が全体に入っていれば、
絵画のように使っていただけますよね。
そしていろんなところに置いてもらえるように、
ちょっと薄くして。
彼らの絵がおもしろいので、
そこから発想を受けたんです。
- 伊藤
- わたしはNATUR Terraceで
いろいろと拝見していたら、このランプを発見し、
「これは絶対におもしろい!」と。
- 檀
- ありがとうございます。
そうして、今回は、それをプロダクトにする
(たくさんつくる)試みですから、
プリントをしてつくりました。
それも「初の試み」なんです。
ずっと1点ものだったので。
- 伊藤
- そうだったんですね!
どの柄にするかを決めるのに、
すごくたくさんあった原画を見せていただいて、
「これいいね、これもいいね」って。
- 檀
- たぶん、数百枚見ていただきましたね(笑)。
- ──
- そしてこの4つの柄に決まったんですね。
伊藤さんが選んだポイントはどういうことでしたか?
- 伊藤
- まず自分の部屋に置きたい、っていう気持ちです。
これがあるだけで、
額絵を置いたような作品感があることですね。
でもお客様の好みもあるから、
なじみやすい柄と、細かい柄と。
- ──
- 総柄の2パターンは、どちらも大きい柄です。
そして、ボディが単色のタイプも2つあって、
そちらのシェードは細かい柄です。
そのボディは、伊藤さんの希望で寒色系に。
- 伊藤
- そのほうが、ちょっと引き締まるかなと、
檀さんにご提案をいただいたなかから、
色を選ばせていただきました。
- 檀
- 伊藤さんに選んでいただいた柄、
偶然、ふたつが同じ作者のものなんですよ。
黄土色のベースに黒い紙を貼った切り絵でつくった
「レンガ」という作品と、
にじみを使った水彩の「石」は、
同じ人なんです。
- 伊藤
- そうなんですね!
- 檀
- 全然違うので、わからないですよね。
DAIKIさんといいます。
さきほどみなさんがアトリエで見て、
いいねっておっしゃってくださった、
絵の中にアルファベットが入っている
絵を描いたのが彼ですよ。
- 伊藤
- はい、すごく印象的でした。
- 檀
- 表現の幅が、ほんとに広い人なんです。
激しいものもあれば静かなものもあって。
多才な人です。
手法は、彼の頭に浮かんでいる映像を
表現するのにどれがいちばんいいだろう、
というところで、選んでいるんですよね。
これは切り絵が一番適してるから、というふうに。
彼が初めてここに来た時、印象的だったのは、
映像をワーっと感じちゃう、という話でした。
いままでは、それがただ出てくるだけだったんだけれど、
ここに来て、それを表現する術を得たと。
うらやましいですよね、
パターンがどんどん出てくるんですから。
お風呂とか入っていると、ワーって浮かぶんだそうです。
- 伊藤
- じゃあ、いままで1人で深海にいたのが、
ちょっと、浅瀬に来られたみたいな。
- 檀
- そうですね。
音楽を聴いて、絵を描いていますよ。
Noism(ノイズム)という
ダンスカンパニーの衣装を、
僕、彼と一緒にやらせてもらっているんです。
彼が、マーラーの曲を聴いて絵にしたものを
ファブリックにして。
- 伊藤
- 檀さんは、彼のその才能を、
どうやって引き出したんですか。
- 檀
- 抽象表現というものがあるよ、
ということだけですよ。
彼はここに来るまでは、ピアノを弾くか、
アニメのイラストみたいなものを
描いていたようです。
それがここで抽象表現を学んで。
イメージを直接、絵にすることが
できるようになったんじゃないかな。
- ──
- 子どもの頃って、学校や遊びから帰ってくると、
「今日、どうだった?」って聞かれたじゃないですか。
ミュージシャンの矢野顕子さんは、
「こうだった!」と、ピアノを即興で弾いていた、
といいますよ。
- 檀
- すごいですね。すごい!
彼も、そんな感じなのかもしれないですね。
だからそのイメージをどう具現化してあげるか、
僕らはその手助けをしているんです。
- 伊藤
- そして、総柄のもうひとつが、
グレーがベースの、水玉というか‥‥。
- 檀
- 「つーさん」という作者の
「黒いてん」という作品です。
スパッタリングっていう手法で
黒い点を描いています。
つーさんは、ほんとうに寡黙で、
すごくシャイな男性なんですけど、
作品数がたぶん一番多くて。
描くスピードが速いんですよ。
僕にとって彼は、こういうプロダクトを作ろう、
と思えるきっかけになった人です。
極端に言うと、何を描いてもいいものが描ける。
ただそれを説明することは苦手です。
言語コミュニケーションがほとんどないけれども、
絵画でコミュニケーションをする方だという気がします。
説明をしてもらおうとたずねても、
「線、点、きれいな色」ぐらいの言葉で終わっちゃう。
でも、それがすっごく魅力的で。
- ──
- 説明に、こうありますね。
「描いてみた。
クレヨン二度塗りしなかったら、
いいと思った。」
- 伊藤
- 彼の描いたものを、プロダクト化するときに、
「繰り返しのパターン」にする必要がありますよね。
- 檀
- そこを私たちが手伝います。
- 伊藤
- そこがすばらしいですよね。
- 檀
- ありがたいです。
そして、こちらの作家は「いーさん」。
「ラインパターン」という作品です。
- 伊藤
- この方は女性ですね。
お会いしましたね。
- 檀
- そうです、そうです。
- 伊藤
- その時も、こういう感じのものを描かれていて。
- 檀
- 彼女、ペン画が多いですね。
植物の柄だったりとか。
- 伊藤
- 画風が決まっているタイプ?
- 檀
- そうです、そうです。
すごく緻密な柄ですよね。
彼女はどちらかというと、
他の人と一緒に作業するのが苦手で、
1人で絵と向き合うことが得意です。
みなさん、個性があって、おもしろいですよね。
- 伊藤
- でもやっぱり大事なのは
「助けてあげよう」みたいな気持ちじゃなくて、
イコールで結ばれているっていうことですよね。
すごくいい関係だなと思いました。
- 檀
- 彼らってすごいって思ってます、僕らは。
ほんとに感動してる。
- 伊藤
- 「いいものは、いい」んですよね。
- 檀
- 柳宗悦さん(民藝運動の主唱者)も、
そうおっしゃってます。
- 伊藤
- そっか、そうですよね。
わたしも、ものを選ぶ時、
いいものがほしい、だけであって。
作者が有名だからとか、
そういうことをあまり意識しないんです。
ところで檀さんは、
毎日、こちらに来られているんですか。
- 檀
- 最近は、少し減ってきているんですけどね。
- 大塚
- 本業をやっていただきながら、
ちょっとここに入ってもらっている、
という感じですよね。
- 檀
- 今はどちらかというと、
「こういう企画があります」っていうときに
積極的に関わらせていただいている、
というかたちですね。
ワークショップをしましょう、とか。
- 伊藤
- ここができたことで、変わりましたか?
チャレンジドジャパンのみなさんも。
- 大塚
- もちろん影響を受けています。
全国24ヶ所でそれぞれ活動しているスタッフの名刺を、
ここ軽井沢から生まれたデザインでつくったり‥‥。
一般就労しか頭になかった私たちにとっては、
こういう活躍の仕方があることを知ったのが、
まず、すごく大きなことでした。
もっと知ってもらいたい、と思うんです。
- 伊藤
- 全国に才能が埋まっているかもしれないですし!
- 大塚
- そうですね。現在は、ここ軽井沢だけですが、
これをいかにして拡げていくか、
それがこれからの課題です。
才能というか、そういう得意・不得意のなかで
力を発揮していただける障がいのある方もそうですし、
プラス、やっぱり檀さんみたいな、
支援とサポートができる方が力を合わせないと、
なかなかこれはできないので。
- 伊藤
- そうでしょうね。檀さんの穏やかさも、
すごくプラスになっている気がしますね。
怒ったことなんてないんじゃないかしら。
- 檀
- いやいや、僕だって、
怒ることはありますよ(笑)!
- 伊藤
- ほんとうに? そうかなぁ(笑)。
ところで、すこし
「灯り」の話をしてもいいですか。
- 檀
- はい、もちろんです。
- 伊藤
- 北欧のお家って、日本と違い、
天井に直付けのトップライトが
ないんじゃないかって思うんです。
- 檀
- はい。そうですね。ありません。
- 伊藤
- 基本が、床やテーブル、家具に置く間接照明。
それで、思ったんですが、都会に住む人よりも、
軽井沢にお住まいの方は、
こういったライトを
ほしがる方が多いように思うんです。
- 檀
- たしかに多いですね。
灯りについて、
しっかりと好みや意見を持っている人が多い、
という印象です。
それこそ「ろうそく」がすごく人気なんですよ。
軽井沢って、夜、
外が真っ暗になるじゃないですか。
- 伊藤
- ほんと、真っ暗ですよね!
私、この前、軽井沢で、
夕刻の暗い森を歩きましたよ。
ホテルから旧軽井沢のレストランに行く時に、
15分くらいだから歩こうと思って出かけたら、
7時くらいだったんですけど、もう暗くて。
森の木ごしに空を見ると、
まだちょっと薄っすら明るいはずなのに、
歩いている道は、東京では考えられない暗さで。
- 檀
- 軽井沢はその真っ暗のなかに家があるわけですが、
蛍光灯の光だと、外の闇との対比が強すぎちゃうんです。
静かな光がちょうどいい。
こういう間接照明の光とか、
ろうそくの光っていうのが、
やっぱりすごく大事なんだと思います。
しかも、軽井沢の人って、
窓にカーテンをつけないんですよ、
窓のすぐ外を通る人がいないので、
もう開けっ放しっていうか‥‥。
- 伊藤
- 環境、ですね。
- 檀
- あと軽井沢って、よく眠れるんですって。
睡眠が深くなるらしいです。
なんでかわからないけれど。
- 伊藤
- へぇぇ!
- 檀
- 夜眠れずに何回も起きちゃう人が、
こっちに来ると朝までぐっすり眠れるといいます。
もしかしたら、そこには
「光」も関係しているんじゃないかなぁ。
- 伊藤
- 絶対、そうですよ。
- 檀
- 夜になるにつれて灯りを落としていくといいですよね。
ピカピカした蛍光灯をいきなりオフにするのではなく、
だんだん、ランプやろうそくにして、
外が真っ暗になってから、すべてを暗くして寝る。
身体の受け止める情報も、
都会と違うんじゃないかなあ。
- ──
- 「ほぼ日」にも、眠ることが好きで、
その時間を大事にしたいというものがいますよ。
その人は、昼間は蛍光灯の下で仕事をしているけれど、
家に帰ったら、ある時間からは携帯をオフにして、
天井の照明は切って、間接照明にし、徐々に暗くして、
眠りに入るまでの時間を楽しみにするんですって。
- 檀
- それって大事なことですよね。
- 伊藤
- 突然眠りなさいって言われても、
明るいところにいると、
難しいですよね。
- 檀
- それに、ここは、雑音が全くないじゃないですか。
電車の音も、車の音も聞こえない。
でもそういう音は、都会ではいっぱい聞こえている。
- ──
- 東京って住宅街にいても、
夜中に歩いている人のしゃべり声、
バイクや車の音、ときにはスケボーのがらがら音が
聞こえたりします。
あと街灯が必ずついているので、
カーテンくらいだと、
部屋に薄明かりがさし込んできます。
- 伊藤
- その点、軽井沢は、外の景色が目にうるさくない。
- 檀
- そうですね!
- 伊藤
- ああ、東京の明るさに慣れている自分‥‥。
- 檀
- 住む環境によって、灯りの捉え方が変わってくるし、
同時に色の捉え方も変わってくると思うんです。
僕が育った北欧の、冬の暗さときたら!
昼間のはずなのに暗い時期もあります。
そういったなかでのやっぱ光の捉え方、
色の捉え方って、違うはずなんです。
冬至で真横から光が入ってくるときの、
光の質の違いであるとか。
- 伊藤
- 北欧に暮らすと、
そういうことに敏感になるんでしょうか。
- 檀
- そうかもしれません。
逆に夏は、朝の2時くらいから明るくなって、
ずっとまぶしい! みたいな(笑)。
- 伊藤
- ええ?! そうなんですね。
- ──
- この照明器具も、購入された方は、ぜひ、
「これだけ」の灯りで
夜を過ごしてみてほしいですね。
- 伊藤
- ほんとうに素敵な製品をつくってくださって、
ありがとうございました。
- 檀
- こちらこそ、ありがとうございました。
- 大塚
- ご一緒させていただけて、嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします。
表現の深い海に潜る
- 伊藤
- 絵画の裏に、自分の字で、
タイトルと説明が書いてありましたね。
あれは、どんなふうに?
描いた時の気持ちを書こう、
みたいなことでしょうか。
- 檀
- そうですね。あれは、
ちょっと福祉的な考え方で始まったことなんです。
ここでやっていることが、
どう社会復帰に役に立つのかと。
それでデザインの場合に必要な
コミュニケーション能力を育てているんですよ。
いままで人と誰ともしゃべれなくて、
ずっと籠ってた人が、今は僕らと話ができる。
そうしたら、次に、もし企業の方から、
「こういうことを描いてください」
というリクエストが来たとき、
それをかみ砕いていけば、
自分でできるようになる。
それがコミュニケーションの
一番基本的なところなので、
それを育てていきたいねっていう話をしたなかで、
彼らに「どんな絵か説明してください」って、
いきなり言っても、ハードルがすっごく高いんです。
自分の言葉で言うのって。
でも、少しでいいから、
タイトルと文字を書いてみようよ、って言うと、
できるんですね。
そういうことを日々やることによって、
彼らが将来、コミュニケーションをするための
トレーニングになるんじゃないかって。
彼らが社会に出ていった時に、
あれが役に立ったな、と思ってくれたらいいなと。
だから、あれは、どうやって彼らを
社会に戻していくかを考えたなかの、
ひとつのアイデアだったんですよ。
- 伊藤
- なるほど。
絵を描く、ということについて、
もう少しお聞きしてもいいですか。
絵は、画材もテーマも色も自由に?
それともある程度、こういうやり方があるよとか、
指導をなさっているんでしょうか。
たとえば貼り絵については、
最初からテーマを決めていたと
おっしゃっていましたよね。
- 檀
- そうですね、あれは「冒険」がテーマです。
もちろん両方あるんですよ。
自由な創作の場合と、テーマがある創作の場合。
でも自由だけだと、やっぱり、みなさん、
何を描いていいかわからなくなってしまう。
うちのプロダクトは絵が先にあると
先ほど言いましたけれど、
たとえばカレーの時は、
「カレー用のパッケージをつくるんだよ」っていう
具体的なテーマが先にあったので、
みんなでカレーを食べて、
そういう表現をしてみよう! と。
そしてあの貼り絵は、
ハンカチをつくった時のものですが、
「じゃあ、冒険っていうテーマで描いてみようね、今回は」
と、いちおう、決めたんです。
- 伊藤
- ハンカチのデザインをしましょう、ではなく、
冒険をテーマに書いてもらったら、
それがきっとハンカチというプロダクトに
落とし込めるだろう、というのが、
檀さんのプロデュースなんですね。
カレーも、パッケージデザインをしましょう、
ではなく、
「カレーを食べた感覚を絵にしてみよう」。
- 檀
- そのとおりです。
でもどう表現していくかっていうのは、
基本的には個人の自由に任せています。
そのときに、ひとつの空間を
いろんな人で共有して同じ場所で描くことが、
すごく大事だと思っているんです。
言葉で伝えなくても、
周りの人がああやって描いているので、
自然と自分も描き始める、というようなことが
空間としてできている。
それは僕らがあまり手を出さなくても、
できるようになった気がしていますね。
ただ、どうしても描けないような方は
少しだけ「こういうものを使ったらいいんじゃない?」と、
結果がすぐ出るようなもの、
たとえばスタンプみたいな方法を教えます。
「スライムを使ってポンポン押してみたら?」とか。
- 伊藤
- わぁ、おもしろいですね!
- 檀
- 何か月もかけて1枚の絵を仕上げる人もいれば、
スタンプであっという間に完成させてしまう人もいる、
どっちもいいと思うんですよ。
そして、何か月も、という人には、
逆に僕らはあまり触れないほうがいい。
- 伊藤
- その方の頭の中にある世界が、
少しずつ紙の上に描かれていくんでしょうね。
- 檀
- そうなんです。
そういう人は意思が強いですね。
それから、ここで絵を描く時に、
最初から掲げているのが、
22人で1つの絵を描くというころろみです。
画家のパウル・クレーがそうだったんですが、
2人の人間が彼の中にいたんだそうです。
自由な子どもみたいな無垢な自分と、
その気持ちを再現する人間がいると。
そういう2つの人間を行き来できるのが、
天才画家のゆえんだと思うんです。
で、それを、
ここに置き換えるとどうなるかっていうと‥‥。
- 伊藤
- ええ。
- 檀
- 深層心理の深い所までもぐれるのは、彼らなんです。
村上春樹さんの世界で言う「井戸に潜る」作業です。
- 伊藤
- !!!
- 檀
- 彼らはそういうことがたぶん日常的にできてしまう。
ただ、そこから出られなくなっちゃうことが、
普通の生活を遠ざけてしまうんだと思うんです。
逆に、僕らはすごく浅いところで生きている。
ただ、デザインとかアートをやっている人は、
ちょっとだけ深く潜れるんです。
で、その「ちょっと深く潜れる人間」と
「ぐんぐん深くまで潜れる」人間が一緒に泳ぐと、
表面から深いところまでを行き来できるようになる。
僕らが浅瀬から中瀬まで泳いで、
彼らがもっと深いところを泳ぐ。
その共同作業が僕らのデザインで、
だからラッタラッタルでの仕事って、
「一緒に泳いでいる」感覚なんですね。
深く潜るっていうのは、
普通の人間じゃなかなかできない。
ほんとにいろんなものを削っていかなきゃできない。
でも、2人なら負担なくできるんです。
それがデザインの力のひとつでもあるんです。
- 伊藤
- なるほど!
- 檀
- さっき「グソクムシ」を何か月も描き続けている
彼がいたでしょう? 彼のようなタイプに、
僕らができることは、イメージとしては、
深いところを泳いでいる彼を、
上から、迷子にならないように見守っているだけです。
けれども一緒になって、
手を取って潜っていってあげるべき人もいる。
どこまで潜るか、どうやって見守るか、
泳ぎ方をそれぞれ変えているっていうのが、
僕らのイメージなんです。
- 伊藤
- とってもわかりやすい例えです!
- 檀
- ありがとうございます。でもこれ、じつは、
医学博士の稲葉俊郎先生(*)の言葉です。
僕らの考え方を、そういう比喩でおっしゃって。(*)いなば・としろう。東京大学医学部付属病院循環器内科助教を経て、2022年より軽井沢町国民健康保険軽井沢病院院長をつとめる。
- 伊藤
- すっごく、わかりやすいです!
稲葉先生というのは、先ほど見せてくださった、
軽井沢町の「お薬手帳」をつくられた方ですよね?
- 檀
- そうです! この「お薬手帳」は、
軽井沢町といっしょに、いろんなやり方を模索中で、
そのなかに、表紙の表と裏に、
別々の人が絵を描くとどうなるか、
という実験があって。
- 伊藤
- お薬手帳だったら、デザインも自由ですものね。
- 檀
- さらに、ただのお薬手帳として使うんじゃなくて、
たとえばこの手帳にお手紙を書いて、
コロナで会えない人に送り、
渡された人の心の薬になるとか、
そんなふうに定義を広げているんです。
自分の好きな小説の一節を書いて、
図書館で本を借りた人に渡してもらうとか。
そういうベーシックなコンセプトをつくられたのが
稲葉先生だったんですよ。
- 伊藤
- あっ‥‥、さきほどおっしゃていた、
スライムで描いたというのは、これですか?
- 檀
- そうです、そうです。
これは「命」っていうテーマで描いてほしいと
決めたんですけれど、
いちどに何百枚もつくるものなので、
1個ずつ時間をかけて描けない。
それでスタンプという手法にしたんですが、
それも、あまりこっちで形を決めちゃうと、
描く人もつまらないでしょう?
じゃあ、それぞれの考えた「命」を
どうやって描いてもらおうか、そのアイデアが
形の決まらない「スライムのスタンプ」だったんです。
「わっ、こんなものが描けた!」
- 伊藤
- たとえば、子どもの絵も、うまく描こうとか、
そういう感じがないところがいいじゃないですか。
自分が描きたいから描くわけで。
さきほどアトリエを見学をさせていただいて、
そのことを思ったんです。
認められたいから、とか、
いい点がほしいから、じゃない「描く動機」。
もちろん褒められたり認められたりしたら
とっても嬉しいと思うんですけれど。
- 檀
- そうですね。
- ──
- 絵にしてもデザインにしても、
才能っていうものが、
教育の中で開いていくものだって、
私たち、思い込みすぎているのかもしれませんね。
はじめからみんなが持っているはずのものだったのに、
逆に、だんだんなくなっていくのかもしれない。
そんななかで、ラッタラッタルがなさっているのは、
「もともと持っているもの」を生かす、
みたいなことなのかなって思いました。
つまり、才能や技術と呼べるようなものを
あきらかに持っている人だけを選んでいる、
というわけではないように思えたんです。
- 伊藤
- 見ていると、細かいものを集中して描く人もいれば、
おおらかにザッ、ザッみたいな感じで描く人もいて、
それはいろいろな個性があるっていうことなんでしょうね。
檀さんの接し方を見ていたら、
それぞれのいいところをすごく褒めていらっしゃいました。
- 檀
- はい、これは、誰もができることですから。
- 大塚
- だから、入るにあたっての選抜も、
全く、していないですよ。
- 伊藤
- ひょっとして、
今まで絵を描いたことがない、
っていう人もいましたか?
- 檀
- そうですね、むしろ、
絵を描いたのは学校の図工だけ、
という人が多いですよ。
- 大塚
- 正式な美術の教育を受けている人っていうのは、
ほとんどいません。
- 伊藤
- でも確かに、鉛筆で落書きをした、
ということも含めたら、
「絵を描いたことがない」っていう人はいませんものね。
でもそこから檀さんたちはある意味、
彼らが描いた絵をプロダクト化して、
経済的に回していくということを考える。
そこはある意味、檀さんが、作品について、
厳しく見ていらっしゃるということでしょうか。
- 檀
- うーん、というよりも、ものづくりをする時は、
まず商品があって、それに対してどんな絵を
落とし込んでいくっていうのが
普通のやり方ですよね。
でもここは「絵ありき」なんです。
こういう絵を描く方がいる、
それは子ども向けのアイテムに合うね、とか、
今度は、じゃあ、文房具をつくってみようとか、
そもそもの発想が逆転しているんです。
それがラッタラッタルの
ちょっとおもしろいところなのかもしれなくて、
みんなに、絵を描いてはもらうんですけど、
こういうものを描きなさいっていうことは、
僕は言っていないんです。
コントロールしようとも思っていない。
だからある意味、期待を裏切られることを、
僕は大きな喜びとしてとらえています。
先に僕らがこういうものをつくりたいって言うと、
うまくいきません。
むしろ自由にやって、
その中で一緒に発見をして、
一緒に喜んで、
「わっ、こんなものが描けた!
じゃあ、こういうものをつくろうね!」
っていうような考え方でやっているのが、
いわゆる一般的なデザイン事務所とは
違うところなのかなって思います。
- 伊藤
- 自分の描いた絵が製品になったのを見たら、
みなさん、喜んでくださるでしょうね。
- 檀
- それはもちろん!
大阪のカレーのメーカーさんだったんですけれど、
パッケージデザインに採用されて、
社長さんがわざわざ表彰に来てくださったんですよ。
- 伊藤
- それはうれしいですね!
- 檀
- はい、僕らもとても嬉しかったです。
あと、言えるのは、僕らと彼らは、
同じ立場だということなんです。
僕らにとって彼らは必要な人たちで、
彼らがいないと何もできない。
そして彼らにとっても僕らが必要です。
そんなイコールな関係でいるっていうことが、
すごく大事だと思っています。
そのなかで生まれてくる信頼感だったり、
満足感だったり、自分が求められている、
必要とされているっていう気持ちが、
生きる力になっていったりする。
そういう福祉のあり方がいいと思うし、
目指したいところでもありますよね。
- 大塚
- それぞれに役割がある、
っていうふうに考えています。
- 伊藤
- そうですね。
そのベースがあったうえで、
いい作品ができあがっていくわけですね。
さきほど拝見したように、
「ここ、すごい素晴らしいね」っていう
さりげない声掛けがすごく大きなうれしさにつながって、
「よし!」みたいに、みんなの表情が変わる。
そして、一部分でも、自分が納得するものができたら、
「見てください!」って、まっすぐに伝えてくださる。
- 檀
- そうなんですよ。
- 伊藤
- ところで、絵を描かれているみなさんは、ここで
「働いている」人たちでもあるわけですよね。
- 大塚
- そうですね。日々作業することでのお給料と、
企業にデザインが採用されたり、
須長さんのところで商品化された時に、
販売価格の何%というふうに
ロイヤリティーを決めていて、
それをボーナス的に、夏と冬にまとめて
お支払いするような形にしています。
- 伊藤
- 対価をもらうって、すごくいいことですよね。
- 檀
- そうですね。それはお金だけじゃなくて、
仕事という感覚がすごく重要だと思うんです。
誰かのためになっているとか、
自分が役に立ってるっていうことは、
ただ描いているだけだと、
なかなか実感できないんですよ。
でも商品になったりすれば、
それが大きな自信になる。
生きる力になっていくと思います。
- 伊藤
- 織りをすることと絵を描くこと、
人によって得手不得手があるものですか?
伸ばす部分、伸びる部分というか。
- 檀
- それはやっぱりみなさん違います。
1人で作業する方が得意な人もいれば、
誰かが隣にいたほうがいい人もいる。
絵を描いていても、
同じマルをずーっと描くのが好きな方は、
織りが上手だったりもして、
自由にやりたい方は
それがちょっと苦手だったり。
- 伊藤
- なるほど。
「織るのは苦手なんです」という人も、
きっと、いますよね。
- 檀
- そういう方には無理強いをせずにいますが、
できれば両方を経験したほうが、
みなさんのためにもなるので、
それとなく、勧めてみたりしています。
- 大塚
- 織るだけじゃなくて、
布を裂(さ)く作業だったりとか、
そういった別の仕事で加わることもできますし。
- 檀
- 成長の「段階」も感じられると思うんですね。
最初これしかできなかったけれど、
だんだん自分がうまくなってきて、
今は、これができるようになった。
じゃあ、最終的に、これがやりたい! みたいに、
クラフトには目に見えるステップがあるんです。
それは絵を描くことやデザインに、ないんですよ。
いい、悪いの基準がないので、なかなか感じにくい。
すごくつかんだ時は大きな喜びになるんですけどね。
クラフトには、そういう目に見える指針があるというのも、
大事なことかなと思います。
4つのランプ、わたしの使い方 伊藤まさこ
ものをえらぶ時、
「用途にばかりに気を取られないようにしよう」
と思っています
(「注意事項」と言ってもいいかもしれない)。
照明でいうと、
つい「つけている状態」ばかりに目がいきがちですが、
それ以外の、
たとえば日中「つけていない時」も、
感じのいいものをえらびたい。
今回のラッタラッタルの照明のベースは
布にプリントされた「絵」。
だから、
ぽん、とチェストの上に置いただけでも様になる。
ここでは、陶器や石、箱など、
いろんな質感を合わせて、
シェードの布の質感を引き立たせてみました。
こちらはリビングの窓辺。
水玉模様のランプシェードが、
ブルーの腰板と白い壁の
いいつなぎ役になってくれています。
ここはダイニングの棚。
食卓の上には大きめの(我が家で唯一の)、
天井から下げるタイプのシェードがあるのですが、
そのシェードの白と
ランプシェードの色合いを合わせてみました。
「かわいい!」とか「すてき」という直感って
大事なことだと思うけれども、
家の中では調和も大切。
色や柄が多すぎて、
見た目に疲れてしまっては元も子もありませんものね。
あまり要素を増やさず、
「少し控えめ」くらいが落ち着きます。
軽くて薄いライトは、移動も楽。
夕暮れ時は、ダイニングから
デイベッド脇のスツールの上へ。
これから日が落ちるまでの間は、
この光とキャンドルの光で過ごします。
Wi-Fiのルーターや充電器を入れている
木のボックスの上に。
ふだん、ここには何も置いていないのですが、
時に殺風景と感じることもある。
花は水をこぼしたらと心配だし、
フレームもどうも落ち着かないし‥‥
ああでもない、こうでもないの結果、
一番落ち着いたのがこのライト。
素材が布なので、空間にやわらかさが出る。
カーテンとの相性もいいんです。
玄関に。
ちょっと明るすぎるなと感じていた
玄関のトップライトの光をやめ、
「石」を置いたら、
おだやかな雰囲気。
光が「お帰りなさい」と
迎えてくれているみたいではありませんか?
場所を取らないため、
小さなスペースに置けるところもいいんです。
置くだけでまわりの表情が変わる、「レンガ」。
大胆な柄は、部屋の模様替えにうってつけです。
リビングのコーナーに、
これがあるだけでなんだかうれしい。
今回、4つのランプを
家のあちこちに置きましたが、
その度にすごく新鮮な気分に。
テキスタイルの持つ力ってすごいなぁ。
この柄を描いてくださった皆さんに、
あらためて「ありがとう」を伝えたくなりました。
ラッタラッタルができるまで
- 伊藤
- 檀さん、大塚さん、
このたびはありがとうございます。
さきほど、ラッタラッタルのアトリエにお邪魔して、
みなさんが絵を描かれているところを拝見しました。
ほんとうに素敵な場所ですよね。
テーブルや椅子はアルテック、
道具を収めているのは、ヴィトラのラック‥‥と、
デザイン的に「いいもの」に囲まれていて、
居心地がいいし、
窓の外に目をやれば、
軽井沢の緑の風景が拡がっている。
ここは、障がいのある方の就業支援をする
「チャレンジドジャパン」という会社が
母体になっているんだそうですね。
- 大塚
- はい。チャレンジドジャパンは
宮城県の仙台市に本社がある会社です。
施設は、北は盛岡、南は名古屋まで24箇所にあり、
障がいのある方に通っていただいて、
一般就労、つまり企業への就職を目指す支援をしています。
企業に勤めたあとも、本人と企業の間に入って
サポートしていく定着支援をしているんですよ。
- 伊藤
- ひとつの施設は、
どのくらいの規模なんですか。
- 大塚
- 各センターの定員が20名ぐらいなんですが、
毎年10名~20名ぐらいの方が就職して、
新たに10名~20名ぐらいの方が入ってきます。
そういう循環をする事業になっています。
- 伊藤
- ここ軽井沢では、
デザインとアートを主軸に、
みなさんが生計を立てていくことができるような
支援をなさっていますが、
ほかの施設も、手仕事が多いんですか?
- 大塚
- いえ、実は、事務系の仕事が多いんですよ。
ここ軽井沢だけが、事業全体の中で、
非常に特殊なことをやっているんです。
- 伊藤
- 軽井沢だけ特別というのは。
- 大塚
- もともと弊社の設立に関わっていたものが、
軽井沢に来た時に、
檀さんと出会ったことから、始まったんです。
- 檀
- 僕が軽井沢で
NATUR TERRACE(ナチュールテラス)という
お店をやっているんですが、
その方は、もともと、お客さんだったんですよ。
- 伊藤
- そうなんですね!
じゃあ、お店で、その方と出会って、
チャレンジドジャパンと檀さんがつながって、
ここ軽井沢に
「RATTA RATTARR(ラッタラッタル)」が生まれた?
- 大塚
- そういうことなんです。
スタートは2015年、
開設は2016年のことでしたね。
- 伊藤
- ちょっとさかのぼりますが、
ここで読者のみなさんに
檀さんがどういう方なのかを伝えたいです。
檀さんはスウェーデン生まれで、
お父さまも家具デザイナーなんだそうですね。
そして檀さんも、家具のデザインを
スウェーデンで学ばれた。
- 檀
- そうですね、よく御存じですね、
まさこさん(笑)。
- 伊藤
- 奥さまの理世(みちよ)さんは
テキスタイルデザイナーで、
ふたりはスウェーデンで出会われたとか。
- 檀
- その通りです。
- 伊藤
- ふたりは今、軽井沢を拠点に創作活動を
していらっしゃるんですよね。
- 檀
- はい。僕は、2009年に日本に戻り、
軽井沢に移り住んで、
ハルニレテラスにお店を開きました。
- 伊藤
- 檀さん、スウェーデンから帰って、
日本に拠点を置こうという時に、
どうして軽井沢を選ばれたんですか?
生まれ育った北欧に似ているとか。
- 檀
- 軽井沢には、じつは縁がなかったんですよ。
スウェーデンでは、ヨーテボリという
小さな町に住んでいました。
スウェーデン第2の都市、というわりに、
すごく田舎で、
そのへんにハリネズミが歩いてたりとか、
そんなところでした。
日本では、もともと妻が東京だったんですけれど、
あらためて東京に住むのかな、と考えると、
「でももう僕たち、田舎の人になっちゃったから、
大都会は難しいね」っていう話になって。
それで自然豊かで文化があるところを探したら、
軽井沢がぴったりだったんです。
- 伊藤
- 東京からも近くなりましたしね。
新幹線で1時間半ですから、
ゆっくり読書する間もなく、
コーヒーも飲み切らないぐらいで着いちゃいます。
わたしは、軽井沢で檀さんのお店を見つけて、
すっかりファンになって十数年が経ちます。
雑貨のNATURE Terraceと、
家具のNATUR Homeがあって、
ビンテージの北欧家具を
買わせてもらったりしました。
- 檀
- ありがとうございます。
- 伊藤
- 「RATTA RATTARR」という名前は‥‥。
- 檀
- プロジェクトを始めるにあたってつけた、
新しい名前です。
「ART」を4つ書いて、ばらばらにして、
組み立て直して。
ここには「新しいARTをつくりたい」っていうのと、
いろんな人が関わって、
新しい価値観をつくりたいという気持ちをこめました。
- 伊藤
- スタートのときのこと、
すこしお聞かせくださいますか。
- 檀
- 相談を受けたんですよ、
障がい者の方たちが、
ものをつくったりしているけれども、
できあがったものは、
きちんとした商品として流通するというよりは、
基本的にはバザーであって、
お金を出して買うのは親しい人がほとんどであると。
彼らがつくったものが、
それで終わってしまっている。
その現状を、デザインの力で変えられないか、
ということでしたね。
それで、まずは、
北欧のデザインやクラフトの力に学ぼうと、
現地を見に行きましょうとなりました。
ここの立ち上げメンバーとなった5~6名で
北欧へ視察に行ったんです。
- 大塚
- そうですね。一緒に行きました。
- 檀
- それで、いろんな工芸やデザインを学びました。
たとえばスウェーデンに、
Formverkstan(フォルムベルクスタン)という、
障がいのある方が通ってものづくりをする
場所があるんですけれど、
そこで働いている方に指導をしているのは、
100%、芸術家や作家なんです。
そこの商品が、僕はとても好きで、
お店でも販売をしていたんですよ。
それで、チャンレンジドジャパンのみなさんをお連れして、
「こういうことがおもしろいから、やりましょう」と。
- 伊藤
- ドイツにもありますね。イリスという、
(iris hantverk イリス・ハントバーク)
目の不自由な方がつくっているブラシがありますよね。
- 檀
- あぁ、はい! すてきですよね。
あれはやっぱり、デザインをよくすることで、
クオリティを上げていったことが素晴らしい。
僕らも、そんな形ではじめたのがきっかけです。
- 伊藤
- 檀さんとの出会いで
チャレンジドジャパンにも
化学変化が起きたんですね。
- 大塚
- そうです。それまでは、
事務トレーニングをする
都市型の施設だけ、だったんです。
でも一般就労というか、会社に入るだけじゃない
生き方の模索というんでしょうか、
そういうこともできたらと。
- 伊藤
- そうですよね。
じゃあ、大塚さんとしても、
初めての事業だったんですね。
- 大塚
- そうなんです。私はデザインとか、
そういったものに無関係なところから入りましたから。
そんな支援のかたちがあることすら、
初めて知ったんです。
- 伊藤
- じゃあ、北欧の施設をいろいろ視察なさって、
やっぱり、みなさんびっくりされて?
- 大塚
- そうですね。ただ単に企業に入るっていうことだけが
「正」(せい)じゃないんだなって、
やっぱり思いました。
その人の個性の生かし方があるんだ、って。
- 伊藤
- 北欧の視察から戻って、
「よし、そういう場所を設けよう」
ということになってからは、
どういう感じで進んでいったんですか。
- 檀
- そこからは、けっこう早かったですよ。
まずこの土地を見つけていただきました。
- 伊藤
- この環境の素晴らしさ!
- 檀
- そうです。場所はすごく大事ですよね。
僕らは、小さな別荘として使われていた、
もともとの建物を改修して、デザインのアトリエと
クラフト(織りもの)のアトリエを立ち上げました。
自由な創作をするデザインと、
順序良く手順どおりやらないとつくれないクラフトは、
両方とも大事なクリエイションなんです。
来た方は、午前中にデザイン、
午後はクラフトというように、
両方のクリエイションをするようにしています。
そういうふうに考えてはじめたんですけど、
実際、やってみてよかったのが、
ずっと描いていると、みんな飽きちゃうんですよ。
だから、新しいものをやる。
デザインは考えて進めますが、
クラフトで手を動かしていると、無になれる。
結果的に、両方あってよかったなって思います。
RATTA RATTARRのスタンドライト
秋の夜に
日がのぼると自然と目が覚め、
暮れるにつれ眠くなる。
前から早寝早起きは自覚していたけれど、
ここ最近、それが増しているような気がするなぁ。
自分が「自然」に近づいているような感じ。
友人たちからは、
「よく眠るから元気なんだね!」なんて、
言われるけれど、
ほんとうにそうだと自分でも思う。
ただ、
「よく眠る」ために気をつけていることがいくつかあって、
その中でも一番大切にしているのが、
眠る時の光の加減。
間接照明やキャンドルを、
ひとつ、またひとつと消していき、
部屋を夜に馴染ませていく。
オンとオフをはっきりさせるのではなく、
少しずつ、がいいみたい。
今週のweeksdaysは、
ラッタラッタルのランプシェード。
4つのテキスタイルの絵を描いてくれたのは、
軽井沢のアーティストたち。
コンテンツはアトリエを訪ね、
ラッタラッタルのふだんの取り組みや、
このアトリエができたわけをうかがいました。
友人でもあるデザイナーの須長檀さん、
チャレンジドジャパンの大塚裕介さん、
アトリエの方々。
いろんな人の思いが形になった灯り。
秋の夜に欲しくなるのは、こんなライトです。
注文生産なので、お届けするのは3月。
少しお時間をいただきますが、
待つ甲斐ある、すてきなライト。
あなたの部屋にどうですか?
布に宿る無限の夢
- 伊藤
- 宮田さんは糸、布、
そして古いものがお好きということですが、
以前、たしかバスクの古い布を使って、
展示会を飾っていらっしゃいましたね。
- 宮田
- はい。バスクリネンですね。
糸と布って、もう単純に面白いですよね。
経糸(たていと)と緯糸(よこいと)が
一枚の布になっていくという‥‥、
生地の段階には無限の夢があります。
何にでもなるし、まだこの段階だったら、
サイズもお値段も気にしなくていい。
その姿って、いちばん自由度があって。
- 伊藤
- いろんな国のものがお好きなんですよね。
着想が、民族衣装にヒントを得ている、
というところもそうだと思うんですけれど、
ほんとうに布が好きなんだなと思って。
そういえば、布を選んでもらって、
それをそのまま販売しましょうか、
という提案もしたこともありましたね。
宮田さんがそんなに布が好きなら、
世界中から布を集めて販売するのも、
いいかもしれないなって思ったんです。
今回は洋服を扱わせていただきますが、
いつか、宮田さんの原点である
「布」を一緒に販売してみたいですね。
- 宮田
- それは、ぜひやってみたいことなんです!
- 伊藤
- わたしのベッドルームでは、
インドのランニングステッチの白い布を
ベッドカバーとして掛けているんですが、
そんな大きさの布って便利なんですよ。
布1枚あれば、間仕切りにもなるし、
- 宮田
- そうなんですよ!
- 伊藤
- うん、面白そう。
パッチワークでもいいし。
- 宮田
- 韓国のポジャギもきれいですよね。
いろいろと、探してみますね。
- 中田
- いいですね。布はほんとにいいですね。
「quitan」はオリジナルの素材が多いんですよ。
たとえばこれなんか、彼女が直接、
ブータンの職人とやり取りして作ってもらっています。
幸せの国ブータンから取り入れられてる、
うちのオリジナルの素材なんです。
こないだ来られたんですよ、
ブータンから、御一行が。
- 宮田
- てんやわんやでしたね(笑)。
- 中田
- すごかったよね!
- 伊藤
- (笑)どこの国が好きとか、どの年代がいいとか、
宮田さんの中でもあると思うんですが、
つきつめていくと、どこが、というよりも、
「好きなものが好き」ってことになるんでしょうね。
- 宮田
- そうなんです(笑)!
- 伊藤
- 今は、どんなことを考えていらっしゃるんだろう?
- 宮田
- 人間が考えることって、同時多発的で、
おんなじようなことなんだなあ、ってことですね。
世界のあちこちに、同時に、いろんなものが生まれ、
散らばっているのを、
日本はそれを集めて並べるのが特性だなあと。
それが次のシーズンのテーマなんです。
- 伊藤
- え、「日本がそれを並べている」?
- 宮田
- 並べて、比べて、取り入れる、
それが日本人の特性だと、
これは『月の裏側』って著作のなかで、
フランスの社会人類学者・民族学者である
クロード・レヴィ=ストロースが言っている
言葉なんです。
「ほんとだ!」って思いました。
日本がいちばん端っこにある西洋が中心の世界地図を、
90度傾けると、日本がいちばん底に来る。
大陸は大きな器の形をしていて、
上からボールを落としていったら、
必ず日本に落ちていくっていう図があるんです。
それもすごく腑に落ちて。
- 伊藤
- 面白い!
- 宮田
- すごい面白くて、夢があって。
それまで、何で同時多発的に
同じようなお祭りをしたり、
同じような形の服をつくったり、
布をつくったりするんだろう、
何で糸を組み合わせれば布になるっていう話に
至ったんだろうって、ずーっと思っていたんです。
宇宙人が教えに来たのかな? とか(笑)。
- 伊藤
- そう、言葉の違いとか、
民族の違いとか関係なく、
皆が知恵を絞って、
そこにあるものから、
ものをつくるんだなぁと思いますよね。
- 宮田
- そうなんです、そうなんです!
それが人間っていう生物の面白いところですよね。
布って、それが如実に分かりやすい。
平織りがあって、綾織りがあって、
でもそれだけじゃ味気ないねって、
杉綾にしたりとか。
ちょっと、織り柄をつくったりとか。
- 伊藤
- ただ織ればいい、強ければいい、
っていうのにプラスして、
どんどんきれいな方向に向かったりする。
それがほんとうにすごいですよね。
- 宮田
- そうなんですよ。
目で楽しもうとしたりするところが、いいところ。
本来であれば、別に柄もいらないし、色もいらない。
- 伊藤
- うんうん。何で染めようと思ったんだろう? って。
- 宮田
- 何で絞りにしようと思ったんだろう?
- 伊藤
- ねー! たしかに。
- 宮田
- 藍がそこにあって、
それが虫除けになることが分かって、
青い色になることがわかったのだってそうだし、
川があるから染めようとなったところで、
「絞り」柄をつくっておしゃれにしようとは、
そうそう、思わないですよね。
そもそも藍を染料にするのって‥‥。
- 伊藤
- ドロドロしてね、大変なんですよ。
原料の藍の葉を
「蒅(すくも)=藍の染料」にするのも。
しかもあれ月齢で、
陰暦でコントロールするんですよね。
昔の人は藍の葉を使って水を浄化させて、
煮沸させて飲み水にしていたとも言いますし。
なぜそれを知ったの? どういうこと? って(笑)。
- 宮田
- そう、何で知ってるの? って思いますね(笑)。
- 伊藤
- ほんとう!
ちょっと話がそれちゃいましたけれど、
宮田さんのつくる「quitan」は、
宮田さんと同じ年ぐらいの若い人も似合うんだけど、
すっごい雰囲気のある大人も似合うんですよね。
この「quitan」をweeksdaysで知ってもらって、
もっと見たい、試着してみたいっていう人は、
どうしたらいいんでしょう。
- 中田
- ザ ライブラリー(THE LIBRARY)っていう、
うちがやっているセレクトショップ形態のお店と、
九州のダイスアンドダイス(Dice&Dice)で
見られますよ。
あとは我々の卸し先をご紹介させていただく感じですね。
- ――
- じゃぁウェブサイトから
メールでお問い合わせ下さいと。
- 中田
- はい。あとは時々、
ポップアップイベントをしています。
宮田もそこに立っていたりします。
- 伊藤
- 宮田さん、どんどん人に会ったらいいと思うな。
- 中田
- 「quitan」が面白いのは、
洋服屋さんだけじゃなくて、
インテリアや雑貨屋さんが
服を買い付けてくださることが多いことなんですよ。
- 伊藤
- そっか、多分、服だけっていうよりも、
器とか、そういう全部を含めて、
この服がある、という印象だからですね。
- 中田
- その通りです。
アングローバルで初めてなんですよ。
YLÈVEやSEVEN BY SEVENは、
皆さんご存知のセレクトショップや、
地方の洋服屋さんに
買っていただくことが多いんですけれど、
宮田の「quitan」はそこだけじゃなく、
雑貨屋さんや、インテリア屋さんからも
声がかかるんです。
- 伊藤
- つながっていますからね、服は、生活と。
- 宮田
- そうなんですよ!
どっちかていうと生活服にしたいんです。
- 伊藤
- これからの新しい売り方だって気がします。
- ――
- アングローバルでは
マーガレット・ハウエル(MARGARET HAWELL)が、
一緒にそれをなさっていますよね。
- 中田
- はい、おっしゃる通りです。
マーガレットの「HOUSEHOLD GOOD」ですね。
こういう分野に興味を持ってくださっているかたがたって、
このコロナ禍で、ものすごい活力を持ってらっしゃる。
やっぱりお家のインテリアを整えたくなるのかなと。
- 伊藤
- わかります。両極端ですよね。
すごく気分が落ち込んだ人と、
逆に、家の中で元気になっていった人。
- 宮田
- 私はどっちかというと篭って元気になったほうで、
古楽器とかはじめちゃって大変でした(笑)。
- 伊藤
- へぇ! 古楽器?
- 宮田
- リュート(弦楽器)を始めたんです。
「扉が開いた」って、そりゃ言われるわと(笑)。
- 伊藤
- それがウェスタンの扉ってとこがいいですよね。
- 中田
- 思い出しました、さっきの2、3か月篭もって、
事業計画を考えていたときも、
久しぶりに会った彼女の一言目が
「カンボジアに学校をつくりたい」でした(笑)。
- 伊藤
- それは糸や布の関係で?
- 宮田
- いえ、シンプルにそのままなんです。
私はやりたいことやらせてもらえている。
けれども、きっと夢があって、
こうしたいって思ったけど、
知らないが故にできないとか、
何か制約がある人がいっぱいいるって思ったとき、
そうじゃなくなるためには
どうしたらいいんだろうと考えた最終漂流地点が、
「先生のための学校をつくればいい」って。
世の中にはこんなに素敵なチャンスがあるんだよ、
と広めてくれる人を育てたい、
世界中に「先生の先生」が散らばったらいい、
それが最初の魂胆だったんです。
- 伊藤
- なるほどー!
洋服と関係がなかったんですね。
- 宮田
- 全く関係がないですね(笑)。
- 中田
- もう一言目がそういう感じでしたね。
でも、わかるんですよ。
教育って大事だなと思いますし、
カンボジアに学校をつくる費用だって、
我々ががんばれば、なんとかなるかもしれません。
要するに、お金持ちになるために、
このブランドを始めるわけではない。
けれども事業ですから、
ちゃんと黒字にはしなきゃいけない。
そんななかで、我々が成し遂げたい、
5年か10年先の夢を
彼女が言ってくれたのが、ものすごく刺激的で。
「世界中がもっとサラダボウルみたいに、
個が生きているふうになったらいい、
ミックスジュースにならずに、
サラダボウルのような世界になればいいのに」
とも言うんです。
そんな表現をぶつけてきた人は、
僕にとって彼女が初めてでした。
すごく勉強になるんです。
もちろんアパレルとしては僕が先輩ですから、
ブランド事業としては導いていますが、
僕は「quitan」に携わっていることを、
結構ラッキーだなと思ってます。
得してると思います。
ものっすごい勉強になるんです。
- 伊藤
- そういう意味では、わたし、
いつか、老人ホームをつくりたいな。
自分が入りたいホームがあったらいいなって。
そのことを、そろそろ、人生の先輩方に
相談してみようかなと思っているくらいなんです。
- 宮田
- 分かります! 私もそのことをずっと考えてます。
- 中田
- これから、上場している会社がやるべきことって、
ほんとはそういうことかもしれませんね。
- 宮田
- 服づくりについても、
どうしても小さい生産サイクルで、
半年で季節が変わっていくということが
すこししんどいなって思うんです。
もちろん洋服の世界は、
その文化の中で生み出してきたものなので、
全く否定はしませんし、
私もその中で生かされているんですけれど、
その一方で、大きなサイクルの中でも
栄養素をもらって、活動をなさっている仕事の方もいる。
たとえば最近古楽の方たちにご縁があって
お話しをしたんですね。
「カテリーナ古楽合奏団」のみなさんや、
クラヴィコード奏者の内田輝さんですけれども、
みなさんの仕事に対するスケールの長さを知り、
すごく羨ましくなりました。
なんて言うんでしょう、
私は、点と点を続けていくのではなく、
線を描いていくべきだなぁって。
私の道具は、今、服しかありませんが、
「着て下さい」というところで
人とつながっていきたいなと思うんです。
- 伊藤
- ブランドとしては、春夏と秋冬で年に2回、
それぞれのコンセプトを立てて発表するのが
「ふつう」になっていると思うんですけれど、
「quitan」の場合は、すこしちがうんですよね。
年2回のコレクションにむけて、
世界のファッション好きを
ビックリさせるような、あらたな準備をする、
みたいなこととは違うと。
- 中田
- ふつうのアパレルやハイブランドは、
シーズンごとに異なるテーマを提案し、
そのたびにあたらしい服作りをしますが、
僕らは「文化の交流」っていうことを
壮大なテーマとして掲げた上でやっていこうと。
それで、1年に1回、継続品番とともに、
新作ができましたっていう紹介をしているんです。
それが春夏の展示会ですね。
じつは秋冬に開く2回目の展示会もあるんですが、
それは、季節的なフォローをする感じです。
継ぎ足し、買い足しのブランドでありたいという、
混合的なスタイルです。
展示会で「quitanらしいね」って言っていただけるのが、
ビジネス側からすると、いちばんの褒め言葉です。
もちろん「今の気分を伝えること」も、
これから、宮田が、どこかでするかもしれませんが。
- 宮田
- 今は、もうすごく長ーい研究の
発表会が展示会、という感覚です。
展示会のたびに、
マイルストーンを置いている感じというか。
最後の姿はまだ見えてない、
ずっと旅をしてる感じなんです(笑)。
- 伊藤
- なるほど、とても面白いですね。
──最後に、「そもそも」な話なんですけれど、
「quitan」の由来について教えてくださいますか。
- 宮田
- 『家守綺譚(いえもりきたん)』という
小説家の梨木香歩さんの作品があるんですが、
その綺譚から取ったんです。
「綺譚」って言葉がすごくきれいだなと思って。
- ――
- 「綺譚」は、ふしぎな物語、という意味ですよね。
- 宮田
- そうなんですよ。
美しい文章で書かれた物語。世にも不思議な話。
すごく奇妙だけれど、あったかくて瑞々しくって、
自然なイメージです。
私は、世界中の民族服や文化から
着想を得た洋服が多く、
それぞれの個性の点と点を結んで
線にしていきたいというイメージをもっているので、
それら全部を集めて「綺譚な話」として
紡いでいければいいなぁ、と。
- 伊藤
- なるほど、なんだか腑に落ちました。
宮田さん、中田さん、このたびはありがとうございました。
- 中田
- 末長くよろしくお願いします。
- 宮田
- こちらこそありがとうございました。
- 伊藤
- 今後ともよろしくお願いします。
このパンツは「quitan」のデビュー作
- 伊藤
- 「quitan」を立ち上げた宮田さんが、
いちばん最初につくったものは?
- 宮田
- 今回、伊藤さんが選んでくださった、
このパンツなんです。
- 伊藤
- ええっ?! そうなんですね!
- 宮田
- だから、すごく、嬉しくて。
- 伊藤
- うんうん!
拡げて見ると、ちょっと民芸調でもないけれど、
今までのweeksdaysにはない感じですよね。
じつはこの撮影で、ヘアメイクの方が、
「伊藤さん、これ穿くんですか?」って驚いたんです。
今までのわたしのイメージにない形だったみたいで。
ところが、穿いてみると、
すごくきれいに見えるんですよ。
ウエストがうんと大きくて、
それをきゅっと折って留める、
ちょっとタイパンツに近いかたちですよね。
- 中田
- 剣道の袴っぽい感じもしますね。
男が着てもいいですよ。
僕も着てますし。
- 伊藤
- でも、上の部分を隠してしまうと‥‥。
- 宮田
- まるで違うものになる。
- 伊藤
- そう、すごくすっきりしたフォルムになります。
そっか、じゃあ、宮田さんが最初につくったものを、
偶然、数年後に、わたしが選んだんですね。
- 宮田
- そうなんです。
- 中田
- 僕も、すごく嬉しかったんです。
これを伊藤さんが選んでくださったということが。
- ――
- 私たち、ファーストコレクションから
拝見しているんですよね。
それで覚えているんですが、当時、
いつもジャッジの速い伊藤さんが、
「quitan」は珍しく、迷ったんです。
なぜかというとweeksdaysは、
伊藤さん自身が着たいもの、使いたいものを探して
みなさんに紹介していくというのがコンセプト。
でも「quitan」については、
伊藤さんより世代が下だったり、
こういうオーガニックの
シワ感を生かしたものが好きな人が
似合う服じゃないかな、ということがあったんです。
「でも、quitanの世界を紹介したいよね」
というところで、しばらく迷っていました。
weeksdaysでは珍しいです、
そういう保留案件って。
- 伊藤
- 気になったんですよね。
それで思い切って着てみたら、
あれ? 全然大丈夫だった! っていう。
- ――
- そこに至るまでに、いろんな相談をしましたね。
「quitan」を紹介するために、
weeksdaysの別ラインをつくろうかとか。
- 伊藤
- そう!
- 宮田
- わぁ、嬉しいです!
そこまで考えてくださっていたんですね。
- 伊藤
- そう、いろんな試行錯誤があったんです。
どのくらいだろう‥‥。
- 宮田
- ちょうど2年ですね。
- 伊藤
- 実際、着て、わかったんですよ、
これは着た人が欲しくなる服なんだって。
じっさい、試着した方の購入率が高いとか?
- 宮田
- そうなんです。「quitan」の特徴で、
いろんなところで
展示販売をさせてもらっているんですね。
お客さんに会える場なので、
私も、すごく好きで続けているんですけれど、
そのときにギャラリーさんから言われるのが、
「quitanは、試着した人の多くが、購入を考える」。
逆に言うと、着ないとなかなかわかってもらえないと。
ひと手間かかってごめんなさいっていう気持ちです。
- 伊藤
- もちろんぱっと見たところも素敵ですよ。
でもさらに着心地で「あ、これなら!」って思えるんです。
わたしたちはオンラインのショップなので、
それをこの対談でなんとか伝えたいですね。
最初につくったときは、形からできたんですか。
それとも素材と形が一緒に?
- 宮田
- 形が先にできました。
私のベースは、古いものから始まってるんです。
ほんとにオーセンティックな、
いわゆるヴィンテージのデニムとか、
ミリタリーウェアとか、
そちらで働いた時間がすごい長かったから、ですね。
このパンツも、広げちゃうと、
いわゆる日本の野良着というか、
作業着のような形になるんですけれど、
着たときのシルエットを
USMC(米マリンコープ)、
海兵隊の40年代のチノパンにしたいと思って。
だから股上も思ってるより浅かったり、
そのバランスですごく、
いろんな方がお似合いになるんじゃないかなと。
- 伊藤
- そうなんですよ!
- 宮田
- その人の着方になればいい、
その人のこなしになればいい。
皆さんをおんなじスタイルに
落とし込みたいわけではないので。
- 伊藤
- 性別も体型もとわず、
いろんな人が着られますよね。
そして、素材も、これは、
ただのデニムではない?
- 中田
- エコテックスデニム(OEKO TEX® Denim)ですね。
いいものなんです。デニムとしてもいいですし、
バックストーリーとしてもいい。
- 宮田
- すごく好きなんです。
軽くて、動きやすく、柔らかい。
40年代のUSネイビーの、ちょっとライトな
デッキパンツのような生地でつくりたくって。
- 伊藤
- たしかに!
- 宮田
- オンスでいうと「9.75」ですね。
普通のいわゆる「501」と比べたら、全然薄くて、
「3/1の四つ綾」というんですが、
綾目が細かいんですよ。
そして、デニムって、穿き続けると味が出ますよね。
そのとき、いわゆる「たて落ち」するのも
かっこいいんですけど、
そうではなくって、私がやるなら、
全体的に褪せてくような風合いがいいなあと。
- 伊藤
- それで、糸を先に染めて?
- 宮田
- 先染めです。
そして緯糸(よこいと)にグレーを打ってるので、
裏がちょっと濃いんです。
長く着用いただくうちにすごく上品に落ちていく姿が
出てきたらいいなと思って。
それゆえに、表面もちょっと深い、
大人が穿ける色に上がりました。
- 伊藤
- あ! ほんとですね!
ここに書かれている
「エコテックスデニム」というのは、
どういうものなんですか。
- 中田
- 全ての製造工程に対して環境配慮がなされている、
っていう承認制度ですね。
「エコテックスデニム」は
それをクリアしているデニムということです。
- 宮田
- デニムって、追求したら、
際限なく、どこまでもつくれてしまう、
極めてスタンダードなものなので、
ひとつ制約をつけたかったんですね。
それが私がものづくりをする責務じゃないですけど、
常に何か制約があること、
それがつくる量なのか、工程なのか、
なんでもいいんですけれど、
何かひとつ制約を設けることを
大事にしようと考えているんです。
その第1号がエコテックスでした。
その考え方を見つけたのも、
デニムをつくるなかで、だったんですけれど。
- 伊藤
- なるほど。
ヴィンテージデニムが好きな人って、
いい色落ちにするために、
どういう手入れをするとか、
ある人はガンガン洗い、
ある人はまったく洗わない、
いろんな人がいますよね。
- 宮田
- そうですね。その人の色にしていただければ
いちばんいいんですけど、
私が育てられたデニムのメーカーは、
デニムの洗濯は、おしゃれ着洗いの洗剤で、
裏っ返してゆるい水流でやさしく洗いましょう、
というところでした。
- 伊藤
- ガンガンは洗わない?
- 中田
- そうですね、
僕は超デニムマニアですけれど、
色落ちのことでいうと、
裏返してゆったりとした水流で
水洗いをするのがいちばんいいと思っています。
洗剤は使いません。水洗いさえしておけば大丈夫です。
もし洗剤をお使いになるなら、
デニム用の「No.1 SPECIAL DENIM CARE WASH」
などの専用洗剤をお選びいただくのがいちばんいいです。
でもイージーケアでいけば、
僕はもう裏っ返して水洗い。洗剤は入れません。
ある程度の食べこぼしや、
通常人間がかく汗のレベルであれば、
もうそれで十分です。
- ――
- 「ほぼ日」では、洗濯ブラザーズっていう、
洗濯に特化したチームが開発した
「デニムウォッシュ」を紹介しています。
- 中田
- プロの人たちのつくる洗剤は素晴らしいので、
もう全然問題ないですよ。
そして、エコテックスの話ですが、
認証を取るためにはいろんな条件があるんです。
デニムをつくる過程って、布のなかで
いちばん水を使うっていわれてるんですよ。
- 伊藤
- つくるのに水がいる!
- 中田
- はい。使う量がもう半端ない。
ですからデニム自体が環境に対してよくない、
と言う人もいます。
エコテックス認証では、デニムをつくるときに
使っていい水の量が決まっているんですね。
最少の水量しか使わない。
- 伊藤
- 日本が布製品や染め、デニムの作り手として
有名になっていった背景には、
日本の水の豊富さがあったのかもしれませんね。
- 中田
- そうですね。布が有名な土地には水がありますね。
シーアイランドコットンのカリブ海諸国も、
京都の染めも、そこに川があって、
めぐまれた天候という風土があって、
その産業が成り立っている。
加賀友禅もそうですし、布製品に限らず、
九谷焼だって、そこにその文化が根付いたのは、
全部、自然と環境と季節のおかげですよね。
デニムだって、きっとそういうことなんですよ。
再入荷のおしらせ
完売しておりましたアイテムの、再入荷のおしらせです。
9月22日(木)午前11時より、以下の商品について、
「weeksdays」にて追加販売をおこないます。
シルクのワイドパンツ
シルクをたっぷり使った贅沢なワイドパンツは、
歩くたびに、風をはらむのですが、
その気持ちよさったら!
今まで穿いたパンツで一番着心地がいいかも?
と思うほど。
夏は一枚で。
秋冬はインナーを下に穿いて、
一年を通して活躍すること間違いなし。
写真のコーディネートのように、
ノースリーブのカットソーや、
シルクのニットを合わせると全体的に柔らかな印象に。
また、Gジャンなど、あえてハードなものと合わせると、
シルクのやさしい質感がより映えます。
色は、コーディネートしやすい
ブラックとネイビーの2色です。
(伊藤まさこさん)
フォトコーナー(ブラック)
デッドストックのフォトコーナーは、
美篶堂の上島明子さんが、
weeksdaysのためにと、
特別に紹介くださったもの。
「アコーディオンアルバムにぴったりだと思って」
という言葉に納得。
小さなものですが、
趣があって、「大切なもの」をさらに、
特別なものにしてくれるのです。
貼り方のコツは、
薄く水を塗ったら3秒くらい数えてから貼ること。
四隅をそっと押さえてまた5秒待つと、
ズレることなく、きれいに貼れますよ。
今年のアコーディオンアルバムは、
表紙がきれいなブルー。
中の台紙は、貼るものを引き立たせる黒。
フォトコーナーも黒をご紹介。
使い方コンテンツ、こちらもどうぞご覧ください。
(伊藤まさこさん)
面白いと思って心動かされたことが「全て」
- 伊藤
- 宮田さん、このたびはありがとうございます。
weeksdaysでは
「はじめまして」になりますから、
まず「quitan」(キタン)という
ブランドの成り立ちからお聞かせいただけますか。
- 宮田
- ブランド立ち上げのために、私を、
中田さんがアングローバルに呼んでくださったのが、
2019年の10月。
コロナ禍がはじまる直前のことでした。
- 伊藤
- 最初のきっかけをつくったのが、
中田さんだったんですね。
- 中田
- はい。19年の夏が終わった秋のはじまりぐらい、
まだ中国でもコロナが見つかっていない頃、
知り合いを通じて宮田と出会ったんですよ。
いわゆるアパレルの「横つながり」で紹介されて。
彼女の経歴をきくと、
海外に精通している日本の屈指のデニムブランドで
営業をやっていたり、
「ナイジェル・ケーボン(Nigel Cabourn)」の
プレスを経験していたり。
その、営業やプレスという肩書きから、
彼女にはデザイナーというイメージを
持っていなかったんですけど、
話すと、もうものづくりの話ばっかりするんです。
- 伊藤
- 布が、すごく、お好きなんですよね。
世界中の、いろいろな布が。
- 宮田
- はい。
- 中田
- 「なんでそんなに詳しいの?」って訊いたら、
「いつか、自分でブランドをつくってみたいんです」
と言う。
「ものづくりは、
自分の最終形ではないかもしれないけれど、
たどり着きたいところではあるんです」
って。
ちょうど僕がアングローバルの新規事業開発の仕事を
兼任していたものですから、
「じゃあ、やってみる?」と。
- 伊藤
- その頃は、宮田さん、
まったく、ものをつくっていなかったんですか。
- 宮田
- はい、実質、つくっていたとは言えないです。
アングローバルに来る前は、
2人しかいないちっちゃいブランドにいたんですね。
私たち2人で全部をやる中に、
セールスも、生産管理的な部分も、
デザインも入っていましたけれど、
「自分のブランド」という感じではありませんでした。
- 伊藤
- つまり、アパレルのことを、
一通り勉強していた状態だった?
- 中田
- そうなんです。だから彼女、
「たたき上げ感」がすごくて、
いわゆる服やデザインの学校を
出たわけではないですけれど、
すぐになにかできる知識と経験をたくわえていました。
- 伊藤
- そういえば、デザイナーには少ない、
異色の経歴ですよとおっしゃっていましたね。
大学で、難しい勉強をなさっていたとか。
- 宮田
- いえ、難しくはないんですけれど、
バイリンガルをどうやって育てるか、
という勉強をしていました。
- 中田
- 彼女自身、バイリンガル‥‥トリリンガルかな?
日本語、英語、フランス語を話します。
お父さんが数学者で、
海外も日本もいろいろ転々としているんです。
彼女の生まれは、アメリカのシアトル。
- 宮田
- シアトルに4歳ぐらいまでいて、
その後、日本に戻り、岐阜、静岡を何ヶ所か、
最終漂流地点は神戸でしたね。
高校生のときはカナダに留学をして、
大学生のときにはフランスに行きました。
- 中田
- 「英語とフランス語ができて、
中学3年生までサンタクロースの存在を信じてた」
って聞かされて、
僕は、すごい人を見つけたと思ったんです。
だからもう純粋に彼女のやりたいことを、と、
ブランドを立ち上げたんですよ。
最初は「研究所」でも
いいんじゃないかと思っていました。
- 伊藤
- なるほど。でも、中田さんがよくても、
会社が「よし!」みたいになったというのが、
すごいことだなって思います。
- 中田
- アングローバルの伝統で、
そういう部門もウェルカムだったんです。
でも、当時だからできたことかもしれませんね。
タイミングってありますから‥‥。
- 伊藤
- 中田さんは、アングローバルの「新規事業部」のトップ。
つまり、きちんと「数字」を出さないといけない、
という部分も、おありだと思うんです。
けれども、宮田さんには、
なるべくそういう側面を出さないでいたということ?
- 中田
- はい、簡単に言えば、
彼女が面白いと思って、
心動かされたことが「全て」です。
でも、数字のことを言うと、
彼女とブランドを立ち上げる場合、
彼女はひとりでデザインも営業もプレスも企画も生産も、
全部、できるんですよ。
つまり、コストがかからない。
しかも、店を構えず、服の在庫を持たず、
展示会で発表をして、必要な数だけをつくる、
そこにかかる費用はサンプル製作費と会場代だけです。
パターンくらいでしょうか、
外注の方にお願いをするのは。
彼女のつくりたい服は、難しいものなので、
僕がイッセイミヤケのときにお世話になってた
優秀なパタンナーさんを紹介したりと、
どうしても困ってるようなことだけはお手伝いしました。
- 伊藤
- 縫製工場を紹介したりとかも。
- 中田
- そうです。そこは、アングローバルの
大きなバックグラウンドが活用できますから。
でもそれ以外のことは、ある程度ひとりで、
完結できちゃう人なんです。だから僕は、
ものすごい事業計画をつくるっていうよりは、
やりたいことを引きだすことを考えました。
- 宮田
- そうやって中田さんにお声掛けいただいて、
アングローバルに入社したものの、
コロナ禍のパンデミックがはじまって、
すぐに出社することができなくなり、
2、3か月、自粛の日々が続いたんです。
ほとんど机上で自分と向き合っていたんですが、
それが「quitan」をつくる大事な時間になりました。
そして、パンデミック1年目(2020年)の8月に、
「quitan」のデビューの展示会を開きました。
2021年に販売する春夏にむけての作品です。
- 伊藤
- その自粛の間、中田さんとはどんなやりとりを?
- 中田
- 「本当にやりたかったことを考えてごらん」とか、
「ブランドネームどれがいいか考えてごらん」
ということを問い続けていましたね。
ブランドネームが決まったら、
ロゴをつくるグラフィックデザイナーについて、
「誰か仕事がしたい人がいるんだったら、
いくつか候補を挙げてごらん」っていうふうに、
自由課題のようにして、
ビジネス上、やらなきゃいけない項目をあげて、
考えてもらうことにしたんです。
それが多分、よかったんだろうなぁと思います。
僕は、やらなきゃいけないことだけを進めて、
ほかのことにはタッチしなかったです。
- 伊藤
- なるほど! すごくいい環境だったんですね。
宮田さんは、そんなふうに
コロナでじっくり自分に向き合う時間がもてたのは、
よかったと思いますか?
- 宮田
- はい、あのときは
どうしていいか分からなかったですけど、
今となっては、よかったです。
長く瞑想をした気持ちになりました。
- 伊藤
- 瞑想。
- 宮田
- はい。実際に写経をしたり、
瞑想に近いトレーニングもしていました。
その、家からあんまり出ない時間が、
私には、よかったんですね。
このブランド立ち上げる前から知ってる方たちから、
今、すっごく言われるのが、
「宮田さんって『quitan』を始めて、
扉が開きましたよね」ということなんです。
ビジュアルを撮ってくれている川村恵理さんや、
以前からの知人の何人かから同じふうに言われます。
たとえば、私が古楽器を好きだと知ると、
「あなたに、そんな扉があったの? 全く知らなかった!」
って言われます。
‥‥勝手に開いちゃったんですよ、扉が(笑)。
- 伊藤
- 瞑想期間中に!(笑)
- 宮田
- ウェスタンのドア(スイングドア)みたいに、
ブランブランになっちゃいました(笑)。
- 伊藤
- 元々そんなガッチリ閉まってる人では
ないような気もしますよ?
- 宮田
- そう。閉めてるつもりは全くなかったんです。
ただ、いろんなブランドで仕事をして、
別のデザイナーのフィルターをいつも通してきたので、
いきなりそのフィルターがなくなっちゃったってことを、
どうしていいか分からない時期は当然ありましたけれど。
- 伊藤
- でもものをつくりたい気持ちはあった?
- 宮田
- ずっとそうなんですよ。糸を触りたかった。
- 伊藤
- そっか。まず布を好きっていう手前に
糸が好きなんですね。
- 宮田
- そうなんですよ。
quitanの服
すてきな布を見ると
時々、ふと
「今何しているんだろ?」
と思い出す人がいます。
思い出すきっかけはいろいろあって、
寒い朝だったり、
においだったり、
何かをさわった時だったり。
おたがいまめに連絡を取るタイプではないから、
気がつくともう一年、会ってない!
なんてことにもなるんだけれど、
その人の居場所が私の頭のすみっこにあるから、
会うとすぐにいつも通りになる。
つかず離れずとは
こういうことだなぁなんて思うのだけれど、
この距離感、
私はなかなか好きなんです。
quitanの宮田さんも、そんなひとり。
出会ってからはまだ2年ほどと日は浅いけれど、
すてきな布を見ると、宮田さんを思い出す。
これきっと好きだろうな。
きらきらと目を輝かせて、
今、どんなものを作っているんだろう?
なーんてね。
今週のweeksdaysは、
quitanの服。
コンテンツは宮田さんとアングローバルの中田さんに、
ブランドができたいきさつや、
ブランド名の由来、
宮田さんってどんな人?
などなど、3回にわたってうかがいました。
「上司と部下」を飛び越えたおふたりの信頼関係。
会社勤めをしたことがない私は、
なんだかいいなぁとちょっと羨ましくなりました。
あのひとのStilmoda 3・𝑛𝑎𝑡𝑠𝑢𝑚𝑖さん シューズの上品さにあわせて
𝑛𝑎𝑡𝑠𝑢𝑚𝑖さんのプロフィール
夫とショッピングをしたり
カフェに行ったりするのが好き。
最近はパンにはまっていて
都内の美味しいパン屋に行ってパンを買うのが楽しみ。
Instagramのアカウントはこちら。
Instagramで活躍なさっているようすを
「weeksdays」のスタッフがみて、
ぜひ、新作を履いて感想をおきかせください、
とリクエストをしたのがnatsumiさん。
「デザインはシンプルで
素材のいいものをえらびます」
というnatsumiさん。
インスタグラムの中のnatsumiさんを拝見すると、
着心地のよさそうなワンピースや、
Tシャツにパンツスタイルが多いよう。
どのアイテムもとてもシンプルなのですが、
サイズ感や、素材のえらび方が絶妙。
合わせるバッグや、帽子、アクセサリーはもちろんのこと、
すっきりした髪型やキュッとひいた赤いリップなど、
全体のバランスがとてもいいんです。
Stilmodaのコーディネートもごらんの通り。
ボリュームのある黒のロングスカートを、
フレンチスリーブのTシャツや、
ストローハットですっきり。
首元や腕、スカートと靴の間からちらりとのぞく、
素肌の分量のほどのよさ。
「夏の黒」もいいなぁと思わせてくれる着こなしです。
じつはこの時、natsumiさんは第一子を妊娠中。
「妊娠後期に入り、お腹が目立つようになってきたため、
ワンピースやスカートが多いんです」
とおっしゃいますが、
時には夫のパンツを借りたりして(!)、
マタニティのおしゃれを楽しんでいるよう。
「Stilmodaが上品なデザインなので
なるべくシンプルに、
靴が目立つようなスタイリングをと
こころがけました」
クロワッサン型の
Lemaireの黒皮のショルダーバッグを斜め掛け。
アクセサリーは、
「市松」の細いゴールドのバングルに、
Shiharaの2つのリング、とこちらもシンプルにまとめて。
履いてみた感想はいかがでしょうか?
「スリッポンタイプなので、妊婦でも履きやすいです。
また、長時間履いていても疲れないので、
夫と都内をデートする時もいいな」。
そうなんです。
今回のStilmodaのフラットシューズは、
革が柔らかくてしなやか。
ことに今年の形は、
甲が深いので歩きやすいけれど、
脱ぎにくいというメリットも。
足をあまり冷やさないように、とか
安定したものを、とか。
とかく履く靴に困るマタニティ時期の味方でもあるんです。
「本革なのに、お値段もリーズナブル。
“高見え”するというのも、うれしいです。
子供が産まれても気にせず履けそう」
わぁ、それはぜひぜひ!
じつはこの取材のあと、
予定よりはやく、
げんきなお子さんがうまれたそう。
「授乳しやすいかとか、
よだれまみれになっても大丈夫な生地かで服をえらんだり。
それでもおしゃれはし続けたい」
というnatsumiさん。
Stilmodaの靴が、その後押しになりますように。
今度は赤ちゃんと一緒に、
ぜひまたweeksdaysに登場してくださいね。
あのひとのStilmoda 2・行待尚果さん 3つのコーディネート
行待尚果さんのプロフィール
ゆきまち・なおか
京都出身、平安女学院短期大学生活学科
衣生活専攻テキスタイルコース卒業後、
株式会社「金万」に入社。
販売職、店長を経て、店舗バイヤーに。
現在はHarrissを担当。
最近のトピックは、
今年になって金継ぎを習い始めたこと。
目下、うつわの修復作業が楽しみ。
Stilmoda ファンでありながら、
「売る」立場でもある、金万・店舗課の行待尚果さん。
日々、お客様と接する中で、
きっといろいろな発見があるんだろうなと思い、
取材の日を楽しみにしていました。
行待さんに履いていただいたのは、ホワイト。
なんと3コーディネート分を用意してくださっていたので、
すべて披露していただきました。
まずはまだ暑さの残る、初秋の素足コーデイネート。
「かかとをつぶして、
スリッポンのように履きました。
脱ぎ着が楽なので、
飛行機の移動などにも重宝します」
と行待さん。
なるほど!
合わせたのは、ブルーのようなグリーンのような、
なんとも言えないニュアンスカラーの
カーディガンとパンツ。
靴が白でも、
こんなカラーを合わせれば、
秋の気分を味わえるのですねぇ。
ニットカーディガン ¥28,600/HARRISS De Relax(株式会社 金万)
パンツ ¥18,700/Harriss(株式会社 金万)
靴とカーディガンのボタンの色もぴったり。
こういうちょっとした気遣いが、
全体を「いい感じ」にするのです。
ロングニットカーディガン ¥20,900/Harriss(株式会社 金万)
その他 私物
2つ目は、黒と白の2トーンコーディネート。
太めのボーダーカーディガンのインナーには黒を。
ボトムスも黒。
縦のラインが黒で強調されるので、
全身がすっきりした印象に。
「このコーディネートの場合、
黒い靴にするとおさまりすぎてしまうので、
あえて白を」
かかとは覆うように履くと、また違った印象に。
「革が柔らかく、肌あたりがいいので素足に履いても、
靴擦れしにくいんです」ですって。なるほど!
「白ってじつは、年中使いまわせるから
お客様にも人気なんです。
シックな服にもカラフルな服にも合いますし」
なんと、一年のうちで
「白い靴が欲しい」というリクエストが一番多いのが、
冬なのだとか。
たしかに、ダークによりがちな冬の服に、
白は好相性ですものね。
いいですね、「冬の白」!
3コーディネート目は、
ネイビーのワンピースと、チェックのタイツを。
ワンピース ¥20,900/Harriss(株式会社 金万)
その他 私物
「甲の部分と底が柔らかいので、
キックバッグがいいんです。
スニーカーを履いているような気分で
履いていただけるのではないでしょうか」
ホールド感があるので、
タイツを履いても、スルッと脱げることがないんですって。
なんと行待さん、
「よく履く1足と、
きれいなものもキープしておきたいから、
2、3足欲しいくらい」
なんですって!
この日の取材は、行待さん、
プレスの三好さん含め金万チームと、
weeksdaysチーム合わせて女性が6名。
「会社履きにしてもいいですね」
とか、
「白ホリ(まっ白な床)のスタジオ撮影の時に
スリッパ代わりにしたい」
とか、
「ドライビングシューズにもいいですね!」
とか、
「色違いで何足か欲しい!」
なんて、みんなでワイワイ。
Stilmodaファンの集いのようになったのでした。
[お問い合わせ先]
株式会社 金万 TEL:03-5477-8031
あのひとのStilmoda 1・武田景さん グレーヘアーとバブーシュ
武田景さんのプロフィール
たけだ・けい
ライター/編集者。
横浜生まれの横浜育ち、横浜在住のハマっ子。
おいしいものと猫が好き。
歴史小説家の父と華道家の母をもつ。
獨協大学フランス語学科卒業後、
80年代から、多数の実用書、
海外旅行のガイドブックなどの
取材・執筆を中心に活動。
「ほぼ日」では「堀内さん。」や、
アパレル関連のコンテンツを中心に執筆を担当。
「Stilmoda を知ったのは、
一昨年のweeksdaysで。
まさこさんが紹介しているのなら大丈夫だろう
と思ったんです」
のっけからありがたいお言葉。
取材を通して、
様々なものを見ている武田さんに、
そんな風に言われるとなんだかすごくうれしい。
ふだんから、
気になるものがあると、
素材や値段、
作っている国や人などを、
まずは調べるという武田さん。
それは編集者魂でしょうか? と尋ねると、
少し考えて
「職業柄というのもあるのでしょうけれど、
ものが好きなんでしょうね」。
Stilmodaのグレーに合わせたのは、
着心地がよさそうな黒のワンピースにリネンのパンツ。
なんとどちらも、お買い物はほぼ日で。
しかも武田さんご自身が、
関わられたコンテンツのものなんですって!
「自分だったら、この商品の
どんなところを知りたいかな?
と思って原稿を書くのですが、
本当にいいなと思うと、
おすすめをたくさん書いちゃって、
原稿が膨大に」
よって削るのが大変になるのだとか。
原稿を書く
↓
その商品の背景をより知ることになる
↓
ますます好きになる
↓
自分で買う
この図式は、私も当てはまるのですが、
こんな風に、すっかりご自身のものになっているのって、
なんだかいいなぁ。すてきだなぁ。
じつはグレーの靴は何足かお持ちという武田さん。
「黒も白もはっきりし過ぎかな?
と思う時があるんです。
茶色だとまた別の雰囲気になってしまって。
その点、グレーはいろんなタイプの服に合う」
今日のコーディネートも、
パンツと靴の色合いがぴったり。
たしかに黒や白だとちょっと強いのかもしれません。
「目立ちすぎず、馴染む感じって言ったらいいのかな。
これからの季節、
靴下を履くときは、薄いブルーも合いそうです」
なるほど。
靴がシンプルな分、きれいな色の靴下やタイツとの
組み合わせを考えるのも楽しそう。
この日は、バッグと足元を同系色で。
アクセサリーはなし。
シンプルな着こなしに、
カチッとした時計が効いています。
さて武田さん、履き心地はいかがでしょうか?
「ホールド感があるカチッとした靴は、
ちょっと窮屈に感じることがある。
その点、Stilmodaは革が柔らかいので、
履いていてとても楽ですね」
足に合わない靴を履くと、
1日過ごすのが苦痛になってしまいますが、
Stilmodaはその点、あまり心配は無し。
weeksdaysチーム内からも、
まず一足買って、履きやすいので全色買いました!
なんて声を聞きました。
「履きやすい」とか「楽ちん」って、
靴をえらぶ時の重要ポイントなのですねぇ。
さて、
今回、いいなぁと思ったのが、
武田さんのグレーヘア。
黒いワンピースを着ても、
全体が重たくならず、
足元の色合いとも相まって、
軽やかですごくバランスがいい。
いつか私も‥‥と思っているのですが、
その時はまた相談に乗ってくださいね。
Stilmodaのバブーシュ
秋も冬も、来年の春も
娘が友だちにもらったという、
金木犀の香りのヘアワックスが、
とても自然でいい香り。
彼女がそれをつけるたびに、
「あれ、秋がきた?」
なんて錯覚してしまうのですが、
それはまだ少し先かな。
あんなに暑い毎日を憂鬱に思っていたのに、
夕方、街に出てひんやりした風に当たると、
ちょっと寂しい気持ちになる。
夏の名残惜しさと、
秋がやってくるうれしさとがない交ぜになる
今日この頃。
そう言えばこれって毎年のような気がするなぁ。
とはいえ、
おしゃれが楽しい秋。
あれ着たい、これもいいなと
ちょっとウキウキするのも
毎年のこと。
小ひきだしに、スツール、器、ウッドバスケット、
それからパジャマに日めくりカレンダーと、
家の時間を充実させるためのアイテムを紹介していた、
最近のweeksdaysですが、
秋のおしゃれの第一弾は、
Stilmoda のフラットシューズ。
夏の名残が残る日に、
素足で履いてもよし、
もう少し気温が下がったら靴下、
秋が深まる頃にはタイツ‥‥
今、買って、
冬、そして来年の春‥‥と
ずっと活躍すること間違いなしの一足です。
コンテンツは3人の方のコーディネートを紹介します。
そうか! なるほどねぇ。
なんて思わずうなる、
この靴の魅力を存分に味わってください。
バッグのこと、素材のこと、そしていろんなこと
- 伊藤
- あと、バッグのこともお聞きしたいな。
ひょっとして、下着とは、
つくってるところが別なんですか?
- 鈴木
- いえ、おんなじ会社でやっていますよ。
なぜ下着のブランドなのに
バッグもやろうかと思ったかというと、
私、過剰梱包がほんとに嫌で、
そのためのかんたんなバッグをつくりたいというのが
最初にあったんです。
- 伊藤
- ええ。
- 鈴木
- 日本では下着を買ったらシルクペーパーに包んで、
その後ボックスに入れて、最後紙袋に入れて、
「ありがとうございました」って、
してくださるでしょう?
直接肌に⾝につけるものだし、
おもてなしも大事なことなんだけれど、
でもお家に帰ったら紙は取って捨てちゃうし、
箱だってちょっと取っておくかもしれないけれど、
あんまりちゃんと再活用はできていない。
そういう無駄なことがすごく嫌だったんです。
それで最初、シーチングで、
あの形の袋をつくったんですね。
伊藤さんが選んで下さった「ヌー」、
フランス語で「リボン」を意味しているバッグです。
でも結局、メーカーとの話し合いの中で、
これは商品にすべきという判断になって、
ベロアの生地でつくり、
いっしょに販売をすることになりました。
このバッグに関しては、ベロアで始めたけれど、
残布プロジェクトというか、
お洋服のブランドさんの残布は、
ストックする場所もたいへんで、
最後には破棄してしまうと聞くので、
それをなくすために、いろんなブランドとのコラボが、
エコロジカルな視点でできたらいいなと思っています。
ヨーロッパにいると、
そういうことを考える機会が多いですね。
もちろん、先々、ツイードだったり、
インテリアのファブリックだったり、
デニムだったり、
そういうふうにどんな生地を使っても
きっと合いそうだなということは、
頭の中にあるんですけど。
- 伊藤
- なるほど! 今後もますます
たのしみになりますね。
チャコさん、ほかに、これだけは
伝えておきたいな、っていうことはありますか?
- 鈴木
- やっぱり素材のことかな。
シレーヌのシリーズは、素材の95%が
セルロースを使っているんです。
これは、木材パルプとか、バンブーとか、
そういう樹木の皮をこそいで、
天然溶液を混ぜて繊維にするものです。
植物由来の素材で、シルクと似た特性があるから、
夏場はサラッと速乾性がある。
そして乾燥の激しい冬場は、
肌を保湿してくれる働きがあるっていわれています。
ごみとして処理するときは、自然分解で
土に還すことができるので、
再生素材とも言われています。
それが、すごくいいなぁと思って。
- 伊藤
- なるほど。それは知りませんでした。
みんなからも、質問はありますか?
- ──
- はい! 今回の下着が「シレーヌ・ブラ」と
「シレーヌ・スリップ」っていう名前なんですが、
どういう感じのフランス語なんでしょうか。
- 鈴木
- 「シレーヌ」はフランス語で
「人魚」のことです。マーメイド。
ブラの胸元が、きれいなマーメイドラインに
見えるようにつくっているところからつけました。
デコルテってね、自分がそうなんですけれど、
年齢とともに落ちてきちゃうんです。
でも寄せて上げてグッて胸の谷間をつくるのではなく、
落ちたデコルテでもきれいに見えることを、
すごく大事に思ってのデザインです。
そしてショーツのほうは
人魚とは関係ないんですけど(笑)、
シレーヌのブラと同じ素材ということですね。
- ──
- ありがとうございます。
全然‥‥商品と関係ないんですけど、
「チャコさん」っていう呼び名は
どこから来てるか聞いてもいいですか(笑)?
- 伊藤
- たしかに!
- 鈴木
- そうですよね。
私の名前は「HIROKO」なんですが、
フランス人って「H」を発音しないんです。
さらに「R」も変な音になって、
「イーホーコ」みたいに、最初、呼ばれたんですね。
そんなふうに呼ばれるのもちょっと、と思っていて、
そんななかで、子供の頃からのニックネームが
「チャコ」だったのを思い出したんです。
妹のあだ名も「チャコ」で、
双子のようにおんなじような髪型で、
同じような服を着ていたものだから、
「どっちがチャコちゃん?」みたいになり、
そのうちご近所のおばさんとかから、
私も妹も、2人とも「チャコ」になったんですよ。
それで、「チャコ」だったら、
フランス人にも発音がしやすいし、
覚えてもらえそうかなと、
自分から名乗るようになりました。
- ──
- 伊藤さんとチャコさん、
2人の最初の出会いって、
どんな経緯だったんですか?
- 伊藤
- わたしが『Lee』の取材でパリに行ったんです。
それをチャコさんがコーディネートをしてくださって、
チャコさんのこと、一気にファンになったんです。
心を掴まれました。
誰に対しても同じなの、チャコさんって。
- 鈴木
- (笑)
- 伊藤
- すっごくチャーミングで、お洋服もかわいいし。
全然変わらないですよね、
髪型とかも変わってない気がします(笑)。
- 鈴木
- そうですね、『Lee』のお仕事で伊藤さんと、
パリでお会いしたのが最初で、
その後『ボンジュール! パリのまち』でしたね。
- 伊藤
- はい、単行本をつくるのに、
コーディネートをしていただきました。
- 鈴木
- そのときは撮影期間も結構長かったですよね。
1冊まるごとだったから、
すごく楽しかったです。
- 伊藤
- 楽しかったですね~!
今は、あんなことができないなぁ。
それで、わたしのなかで、
パリといえば、という存在になり、
共通の友人も増えて‥‥、
という感じですよね。
saquiの岸山さんとか。
- 鈴木
- そうです、そうです。
お仕事のリサーチで
パリのあちこちを回りたい、
というお友達をご紹介いただいたり。
- ──
- ご本業がコーディネーター、
ということなんですか。
- 伊藤
- 元々はスタイリストですよね。
- 鈴木
- はい、東京時代はスタイリストでした。
ミュージシャンの衣装とか。
TM NETWORKの衣装も、私の担当(笑)。
- 伊藤
- えぇ?!
すごい衝撃が!
- 鈴木
- 最初の頃ですよ。
音楽関係が多かったんです。レコードジャケットとか。
音楽系のカルチャー誌だった時代の
『宝島』の表紙とファッションページも
レギュラーで担当していたり。
- 伊藤
- レディースばかりじゃなかったんですね。
なぜパリに行くことになったんでしたっけ?
- 鈴木
- スタイリストが天職だと思っていたし、
楽しくお仕事もさせていただいていたんですが、
3年後、5年後、10年後の自分が
ちょっとだけ見えたっていうか、
1回、ニュートラルにしてみたいなぁって
思っちゃって。それが30ちょっと前でした。
で、3ヶ月かもしれないし、1年かもしれないけど、
少し外に行くのいいなぁと思って。
でもアメリカには全くご縁がなかったので、
ヨーロッパで、イギリスかイタリアかフランスかな? と。
イギリスは英語圏だし、いいかなと思ったけれど、
お天気がちょっと不安定なのと、
当時はお食事が美味しくなかった。
イタリアだと美味しいし、明るいしと思ったけど、
イタリア人は逆にすごく閉鎖的だと感じて。
- 伊藤
- へぇー! そうなんですか。
- 鈴木
- うん。本当に保守的な国民性なんです。
今は変わってきているかもしれないですが、
30年前はそうだった。
で、消去法でフランス。
ちょうどパリは村っぽいし、
ヨーロッパの中でもそこそこハブ的な位置でもあるし。
- 伊藤
- それで、語学を習って?
- 鈴木
- そう、なんにもできないで来ちゃったから、
まずスイスのローザンヌで、
若い子たちに混ざってフランス語を勉強しました。
- ──
- 語学留学で行かれて、そのまま住まれた。
- 鈴木
- そのまま、そうです。
それはね、こちらで何か一旗あげたいっていう気合いが
なかったのがよかった気がします(笑)。
日本、大好きだし、ダメだったら日本にまた戻って、
スタイリストなのか、また別のことなのか、
なにかしよう、というくらいに思っていました。
そんなふうに肩に力が入りすぎてなかったのが
よかったかもしれないですね。
- 伊藤
- 何かを身につけなきゃっていうんじゃなくって。
そのときお仕事はどうしてたんですか?
- 鈴木
- 一応スタイリストのブックとかつくって
持って来てたんですけど、
最初は言葉ができないから何にもできなくて。
電話でアポも入れられないし(笑)。
そしたら日本時代のディレクターや知り合いが、
「パリにロケ行くから、暇だったら手伝ってよ」
と、コーディネーター的なことを
依頼されることが多くなっていった。
それで、段々、そっちにいった感じです。
- 伊藤
- じゃ、わたしからも、全然関係ない質問を!
この夏、Instagramで拝見していたら、
「この夏から解禁した」って、
ミニスカートを穿いていたじゃないですか、
チャコさん。
- 鈴木
- そう(笑)!
- 伊藤
- かわいい! と思って。
- 鈴木
- え、ほんとに?!(笑)
- 伊藤
- 膝小僧とか出てましたよね?
- 鈴木
- 出てました? 出てたね(笑)。
もともと、バカンス先の、
山の中やら、海の街やらだと、
開放的にしてたんですけど、
街の中では出さないようにしてたんですよ。
- 伊藤
- そう、パリでは、わりと、パンツ派だった気が。
どういう心境の変化なのかなぁと思って。
- 鈴木
- すご~く、暑かったからなの(笑)。
ほんとに暑かった。40度を超えたりして。
それでそのひと月ぐらい前かな、
南仏に撮影があって行ったんですけど、
とてもじゃないけど、南仏でなんて、
もうジーンズは間違いなく無理で!
そっか、ジーンズって、こういう気候の中では
適してないんだっていうことが身にしみたんです。
で、南仏から帰ってきて、パリも暑くて、
でもドレスに素敵なのがあんまりない。
サラッと気持ちのいいワンピースみたいものは、
前年の引っ越し前の断捨離で、
皆に差し上げたりして持ってなくって、
それでミニスカートを穿いてみたら、
快適すぎて(笑)!
‥‥っていうことだったんですよ。
- 伊藤
- なるほど~。それが理由だったんですね。
黄色いミニスカートがとても素敵でしたよ。
- 鈴木
- そう、黄色のサマーツイードのような素材のね。
あれは「rokh」(ロク)っていう、
韓国の男の子が立ち上げたブランドなんです。
数年前に、デザイナーにインタヴューする機会があって、
彼のデザインや考え方、
ファッションのあり方が素敵で、
いいなと思ったんです。
ちゃんと自分の中に軸がある人だった。
- 伊藤
- ふむふむ。これからもチャコさんのインスタで
ファッションチェックをしていかなくちゃ。
- 鈴木
- やだぁ(笑)!
- 伊藤
- 楽しみにしてます!
ふふふ、いろんなお話が聞けて、
とっても楽しかったです。
ありがとうございました。
- 鈴木
- こちらこそありがとうございました。
ものづくりの不安とよろこび
- 伊藤
- そうして「LERET.H」を発表なさったわけですが、
お客様の手応えはいかがでしたか。
まだ徐々に、っていう感じだと思いますが。
- 鈴木
- ほんとにゆっくりゆっくりなんですけど、
都心でポップアップショップを開いたとき、
私が熱い思いを語りながら
前のめりに勧めて購入くださったお客さまが、
「すごく気持ちがよくって」とリピートしてくださった、
そういう声が直に入ってくると、
すっごく励みになります。
自分の独りよがりでこんなものつくって、とか、
世の中的にこんなものは、
今、イケてないのかもしれない、とか、
すごい不安になっていたんです。
つくってるときには、
「いいんじゃない?」
「素敵!」
「悪くないんじゃない」
って言ってくれる人がいたけれど、
いざ世の中に出すと、
ほんとにこれが売れるのかとか、
在庫を抱えてどうなんだろうとか、
明け方の4時ぐらいにフッと目が覚めて、
怖い! って思ったりしたこともありました。
- 伊藤
- やっぱり「売れた」っていうときに、
ものづくりをしてよかったという
実感が一番湧くっていうか、
あぁやっぱり認められたんだっていうか。
- 鈴木
- はい。独りよがりの
間違った方向ではなかったのかもって。
つくってるときは無我夢中だから、
とにかく妥協しないで、
すっごいわがままを言ってつくっていただいたのに、
でき上がりました、皆様にお披露目です、
っていうときは、ほんとに怖かったです。
商品数も少ないですしね。
というのは、ほんとはカラーバリエーションで
バーッて見せられたらいいに決まってるんですけど、
そんな余力がなくて、
じゃぁ2色に絞りましょうとか、
1型にしましょうとか、
ほんっとにソリッドにしたんです。
これで、皆様はいいと思うのかなぁと、
すっごく不安でした。
- 伊藤
- リピートする人が多いのであれば、
次のシーズンは何色増やしてみよう、
みたいな感じでいくのもいいかもしれませんね。
- 鈴木
- はい。ベーシックなかたちは変えずに、
シーズンごとにキャッチーな色が入れられたら、
一番ベストなんですけど。
ただキャッチーな色が
ベーシックな色と同等に売れるかっていうと、
なかなか難しいと思うんですよ。
ほんとは数量ももうちょっと少なめで展開したほうが
いいんでしょうけれど、
素材を反で買うから、
最少ロットが決まってしまうんですよね。
- 伊藤
- そうですよね、
ものづくりの苦労、とっても共感します。
でもね、チャコさん、
ほんっとに気持ちがいいですよ!
- 鈴木
- あぁ、よかったぁー!
- 伊藤
- わたしもあんまりパッドは要らない派ですし、
つけ心地がいいからって、
だらしなく見えるわけじゃないですし。
- 鈴木
- すっごく嬉しい!
センスのいい方にそうやって言ってもらえるのが、
ほんっとに‥‥、ホッとしました。
- 伊藤
- わたしのまわりでも、
ファッションのスタイリストさんとか、
女性誌の編集者の方とか、
ちょっと感度の高い人たちがつけていますよ。
- 鈴木
- あぁ、嬉しい。
- 伊藤
- あのチャコさんがつくるんだったら大丈夫、
っていう安心感もあるでしょうし。
- 鈴木
- 「こんなことやります」って
最初の展示会のご案内を出したときも、
もう何十年ぶりみたいな方も来て下さって。
ご縁ってありがたい、ほんっとに人に感謝だと、
改めて思いました。
- 伊藤
- じゃぁ、チャコさん、
もうちょっと具体的なお話を
聞かせてくださいますか。
まず、ブランド名の由来から‥‥。
- 鈴木
- 「LERET(ルレ)」は、
私の結婚した名前(姓)です。
ひろこ・ルレなんですよ。
ブランド名をいろいろ考えていたとき、
何語か分からないよう、
ラテン語にしたかったんですけど、
でも案外、そんなアイデアは世界のどこかにあって。
いっそ「ルレ」だけにしようと思ったら、
イタリアの高級カシミヤブランドに
「ルレルレ」っていうのがあった。
そのとき知財事務所の方のアドバイスで、
「そこにひろこのHをつけたらどうですか?」。
- 伊藤
- じゃぁほんとにお名前のまま!
- 鈴木
- うん、そうなんです。
- 伊藤
- やっぱりそういう登録って難しいみたいですね。
- 鈴木
- 大企業が、将来に向けて、
いろんな名前を登録済みだったりするんですよね。
- 伊藤
- 今は、次のシーズンに向けて、
あたらしいアイテムを計画してるときなんですか?
- 鈴木
- そういうプランも自分の中にはあるんですが、
下着に関しては、まず膨大な数でつくった
最初のコレクションの在庫を、
ちゃんと販売していくのが先です。
新しいデザインもできていて、
たとえばキャミソールに合う下のショーツも、
もうデザインが決まっているし、
いろいろアイディアはあるんですけど、
今まだちょっとそこまでできていない。
- 伊藤
- 展示会は日本だけだったんですか? フランスでも?
- 鈴木
- 今パリでは、サロン的に、
お家に、お飲み物とかを用意して。
試着をしていただきました。
- 伊藤
- パリの人たちの感想はどうですか?
- 鈴木
- やっぱクオリティの良さ、
触ったときの肌触りとか、
そういうことに、皆さんびっくりしますね。
そんなの、ないから。
- 伊藤
- フランスにはああいう質感のものってなさそうですものね。
日本でつくってよかったですね。
日本の技術的なこと、クオリティも含めて。
- 鈴木
- そうですね。
日本のものを伝えられたのも、よかったと思います。
私、今日まで30年、パリに住んで、
日本が嫌いって人に会ったことがないんです。
日本のものだと言うと、
素晴らしいに違いないって
色眼鏡なしにおっしゃってくださる。
そして実際に触ってもらうと、
また「やっぱりいいですね」という感想が出てきます。
- 伊藤
- それは嬉しいですね。
今は、卸し先も、徐々に?
- 鈴木
- はい、大人向けのセレクトショップなどが、
買い付けてくださっています。
だんだん、ごらんいただけるお店も
増えていくと思います。
- 伊藤
- 「weeksdays」の立ち上げの頃のことを思い出します。
最初、てんやわんやすぎて、
ほんとうに時間がかかりました。
今5年目で、やっと心に余裕ができてきたかも。
今回、ブランドのルックは
チャコさんがスタイリングされたんですよね。
- 鈴木
- はい、そうです、そうです。ビジュアル全部です。
- 伊藤
- 素敵でした!
- 鈴木
- あぁ、よかったー!! それほんとに嬉しいです。
仲良しのフランス人の女性カメラマンに依頼して。
彼女は、その昔、ニューヨークにずっといて、
『BRUTUS』など日本のお仕事もしていた人なんです。
今はパリベースでお仕事されていますが、
ロードムービー的な、
旅っぽい、風を感じる写真を撮るのが上手な人で。
とはいっても、「LERET.H」の写真は
全然ロードムービーっぽくないんですけど、
いつかこのブランドにもうちょっとゆとりが出たら、
彼女と一緒に旅をしながら、
風を感じる写真を撮りたいな。
サラッと乾いた土地で、
シャツの下にブラをつけてる、とかね、
そんなのができたらいいなっていうところから始まって、
最初はでも全然お金もないし、2人ですすめました。
モデルになってくれた子は15歳なんですよ。
- 伊藤
- え?! なんと、そうだったんですか?!
- 鈴木
- 15歳でクラシックバレエの勉強してるお嬢さん。
でもこっちのお嬢さんだから、
ショートヘアで、目のところにキュッて、
黒い、わりと強いメイクをご自分でしてて、
こういうのもいいなって。
女おんなしちゃうと、ちょっとね。
- 伊藤
- チャコさんのスタイリング、すご〜い!
と思って見ていました。
weeksdaysは、いくつものブランドを紹介するので、
全体のトーンを統一しているんです。
基本、白いスタジオで、
光のトーンも強弱をなるべく抑えて。
- 鈴木
- うんうん。いつも素敵なヴィジュアルで、
毎回拝⾒するのが楽しみです。
- 伊藤
- 商品そのものを見て欲しいというのもあるので、
なるべくスタイリングは引き算を心がけているのですが、
だからこそ逆に、
各ブランドが毎シーズン打ち出す、
LOOKを見るのがとても楽しみ。
同じものでも「こうきたか!」という驚きがあるので。
なので「LERET.H」の雰囲気、
とってもすてきでした!パリの空気を感じました。
- 鈴木
- ありがとうございます。
- 伊藤
- こんな感じですよ。
わかりますか。
- 鈴木
- あ、素敵!
ありがとうございます、かわいい!
さすがです。
サラッと清潔感があって、センスがよくて。
- 伊藤
- そう言っていただけてホッとしました。
- 鈴木
- 最初、大人のための、ということを、
ブランドの説明の枕詞につけていたんです。
自分が大人だから、大人的にね。
でも、でき上がったものについて、
意見を聞きたかったから、
いろんな世代の人に着てもらったんですよ。
すると、20代でも30代でも、60代でも、
それぞれ皆きれいにおさまるものが
できたなって実感して。
伊藤さんの娘さんくらいの年代のお嬢さんや、
夫の姪、つまり私の義理の姪ですが、
彼⼥たちとか、友⼈のお嬢さんとか、
若い世代にも似合うことがわかった。
だから大人という言葉にしばられず、
ほんとに世代を超えて。
- 伊藤
- お手入れもかんたんですよね。
- 鈴木
- はい。下着って、押し洗いして、陰干しして、みたいな、
お手入れの大変さがついてまわりますが、
そうじゃない、Tシャツみたいにパッて脱いだら、
パッと洗濯機へっていう、タフな感じなものです。
- 伊藤
- だから素材選びも気になさったとおっしゃってましたよね。
すぐクタッとしないようなものをと。
気持ちよくても、すぐに残念なことになる下着も、
ありますからね。
- 鈴木
- そうなんですよ! 悲しくなっちゃう(笑)。
どんなにデザインが素敵でも、
ハイブランドの高級品でも、
2、3度お洗濯すると、肩紐や、
プチレースのところがのびてしまったり、
こんなはずじゃないのに! って。
私たち、いっぱい、
そういうものを見てきましたよね。
- 伊藤
- そうなんですよね。
だから、ほんとに、助かります。
- 鈴木
- ありがとうございます。
下着はわたしをご機嫌にする
- 伊藤
- チャコさん、
この「LERET.H」(ルレ・アッシュ)という
下着ブランドの立ち上げのために、
ずいぶん長い間、準備をしてらっしゃいましたよね。
- 鈴木
- そうですね。
ほんとに大変な世界に
足を踏み入れちゃったなっていう感じですよ(笑)!
- 伊藤
- 準備期間は3年くらいでしたっけ。
- 鈴木
- もっとですよ。元々のきっかけは。
2015年の11月にパリで起きた同時多発テロでした。
当時住んでいた11区のアパートのすぐ近所の
カンボジア料理屋さんやカフェで銃声が響き、
コンサート会場でも、結構な方が亡くなって。
それを機に、普通の日常がどれだけ大切か、
明日はそうじゃなくなっちゃうかもしれないんだ、
っていうことをすごく考えたんです。
そして、そのテロの影響で、
2016年と17年のほぼ2年間、
ゼロではなかったけれど、
日本からのお仕事がガクンと減ってしまって、
それまで依頼を受けてやってきた仕事を
見つめ直すきっかけになったんです。
受け身で、今までコンスタントに続いてきたのは、
決して当たり前じゃなくて奇跡だったんだなって、
改めて思いました。
ヨーロッパにいたらテロや人災が起こるかもしれないし、
日本の場合は大雨とかいろんな天災があるかもしれない。
それで何かできないかな?
私から発信できるものはないかなあ? と。
その2年間、つまり暇だった時期に考えたのが
「下着」だったんですよ。
- 伊藤
- なるほど~!
- 鈴木
- じゃあなぜ下着だったのかというと、
その当時、ちょうど、ヨガをやり始めたんです。
そしてね、私、体がほんっとにカチカチで、
みんなが簡単にできるポーズもつらいほどでした。
でもそのとき、自分のTシャツの下から
チラッと見える下着の色に、
ちょっと励まされたんです。
今日はこんな色のブラだったんだ、ということが、
ちょっと嬉しかったりして、
つらいけど、このポーズをもう5秒頑張ろうとか。
下着からもらえるパワーってあるんですよね。
- 伊藤
- 「自分だけの楽しみ」
っていう感じが、すごくします。
- 鈴木
- そうなんです、そうなんです。
誰にも分かってもらえないかもしれないけれど、
目には見えない、自分の中のご機嫌をよくするのに、
下着が大事だなと、私はすごく思いました。
それで「下着をつくろう!」と思ったんだけれど、
なんのコネクションもなかったので、
下着会社さんを50社選んで、
その50社にお手紙を書いて、会いに行きました。
たしかにこの話、
伊藤さんにしていなかったね(笑)。
- 伊藤
- 初めてうかがいました!
50社にお手紙を書くって‥‥日本のですか?
- 鈴木
- 日本のです。
フランスにいたから、
フランスのメーカーも調べたんですが、
生産の問題とか、納期の問題とか、
いろいろ不安があって。
ヨーロッパでつくるものって、
モロッコかポルトガルでの生産が多くなるんですけど、
ちっちゃい無名の個人で始めることだし、
さらにそれを日本で展開することを考えたら、
とても無理だなと思いました。
だから、メイドインジャパンにしようと。
クオリティがいいですしね。
それで、ネットで調べた50社に、
こんなことを考えてます、と手紙を送りました。
私は下着に関してはド素人だけど、
今ヨーロッパにいて、こうでこうで、
もうちょっと詳しい企画を
お話させていただけるんだったら、
帰国の際に会いに行きます、
という内容の手紙です。
そうしたら、38社からお返事をいただきました。
- 伊藤
- え?! すご~い!
- 鈴木
- 38社の方が「会いたいです」って言ってくださった。
なので、帰国をして、
1人で、順番に、企画書を持って会いに行きました。
- 伊藤
- 38社に?!
- 鈴木
- うん。38社に(笑)。
- 伊藤
- すごいですね~。
‥‥そもそも、最初の50社を、
どうやって選んだんですか。
- 鈴木
- 今はほんとにネットでいろいろなことがわかりますよ。
下着だからというわけじゃないかもしれませんが、
ちょっと怪しい会社とかもあるんです。
全国にはもっとたくさんの下着メーカーがあるんですが、
私の日本での拠点は東京なので、
関東近郊に絞っての50社でした。
もし関東近郊でダメなら、
北海道や四国、九州のメーカーなど、
範囲を広げようと思ったんですけど。
- 伊藤
- じっさい、お目にかかって、どうだったんでしょう、
その38社は‥‥。
- 鈴木
- いろいろな反応がありましたよ。
「どんな人がこんな図々しいことを、
フランスから手紙をくれたか、
あなたの顔が見てみたかった」
って言われただけのところもありましたし(笑)、
「そんなに甘いものじゃない、
そんな素人が簡単にできるようなことじゃない、
まぁとにかく頑張ってくださいね」って、
ちょっと皮肉みたいなことを言われた会社もあったし、
「自分のところの商品をパリで売って欲しい。
そうしたらあなたのやりたいことにも
ちょっと協力しましょうか」
みたいなところもありました。
- 伊藤
- そんな‥‥。
- 鈴木
- ほんとにいろんな方がいらっしゃったんですけど、
でも皆さんに会ってお話を聞くのが、
私にとっていい経験だなと思って!
- 伊藤
- すごいです。それで、1社を選ばれた?
- 鈴木
- はい、そんななかから、2社まで絞り込みました。
そのうちの1社が、武漢の近所に自社工場を持っていて、
コロナでどうなるか分からないからと
立ち消えになりました。
そして今一緒につくって下さってる
「BLOOMLuXE」(ブルームリュクス)という会社と
組ませていただくことになったんです。
ここは補正下着をつくってる会社で、
体のラインを補正することに特化していました。
つまり私がやりたいことと真逆なんです。
けれども、そこの社長さんと、女性の営業の方が、
私の話をちゃんと、真摯に聞いて下さった。
コロナがあって、「BLOOMLuXE」もたいへんななかで、
「やりましょう。ここまで来たのだから」と
おっしゃってくださったんです。
結果、最初のその50社にお手紙書いたところから、
6年ぐらいかかっての立ち上げでしたね。
その間は、私も幾度か帰国して、
サンプルをチェックしつつの進行でした。
オンライン会議だけだと、
なかなか商品をつくるのが難しいですから。
- 伊藤
- はい、その様子は、すこしうかがってました。
「補正下着と真逆」っておっしゃってましたけど、
チャコさんが最初につくりたい下着っていうのは、
どういうものだったんですか?
- 鈴木
- 私は、ほんとにもう、
寄せてとか上げてのような、
補正はしなくていいと思ってました。
- 伊藤
- フランスの方の下着って、
補整系じゃないですものね。
- 鈴木
- そうです。パッドもなくって、
ちょっと見えても気にしないみたいな。
私、雑誌などの撮影で、
ヨーロッパの普通のマダムや
パリジェンヌの取材をする機会が
いっぱいあったんですね。
皆すごいんですよ、
人前でバーンと脱いで、
「次、じゃぁ私何を着ればいいのかしら?」って。
ほんと皆さん、平気で脱ぐの(笑)!
- 伊藤
- パリのブティックに行くと、試着室でも、
1人ずつ区切られてなかったりしますよね。
- 鈴木
- そうなんですよね。皆さんおおっぴら。
だから、皆さんがどんな下着をお召しなのか、
知ることができるじゃないですか。
それで、妙齢のマダムでも、
こんなに素敵なのを着けてるんだ! というのは、
ずっと思っていたんです。
日本のマダムは年齢をどんどん重ねていくにつれ、
どんどん諦めて、自分を控えめにしちゃうけど、
ヨーロッパの女性たちのように、
表面はただのTシャツやシャツだけど、
脱いだらすごく素敵なものを身につけている、
っていうのが衝撃だったんです。
だから、大人が心地よく、身につけていて、
なんだか楽しい気分になるものをつくりたいと。
そのためにワイヤーとか、厚いパッドは不要、
というところから始めました。
- 伊藤
- 製品化までにはかなりの試作を繰り返して?
- 鈴木
- はい。なにしろ補正下着の会社にお願いをしたわけなので、
あちらの標準でいくと、
ホックの金具ひとつにしても、
絶対取れないように、しっかりしているわけです。
それでは、私のつくりたいものにしてみたら、
色気がなさすぎる。
- 伊藤
- そうなんです、チャコさんの「LERET.H」は、
ホックひとつが、かわいいんです。
- 鈴木
- 難しかったですよ。
表面にデザインは要らないけれど、
さりげなくゴールドでとか、
そういうふうにしたかった。
でも金具って、ミニマムロットが何千個とか、
そんな世界なんですね。
でも、ロボコップみたいな金具はいやだし、
かといって、何もつけないで脱ぎ着できるものは、
スポーツブラっぽくて、それもいやで。
見た目はシンプルなんだけれど、
ちょっと艶感が出したかったんですよ。
そういうところでずいぶん試行錯誤をしましたね。
- 伊藤
- 話をしていく中で、段々通じ合えてきたんですか?
「チャコさんは、そういうことがしたいんだ」みたいに。
- 鈴木
- はい。よかったのが、担当の方が女性で、
彼女はもう、商談っていうと
⿊いスーツをパリッと切るようなタイプの⽅なんですね。
つまり私たちの周りにはいない
タイプの方なんだけど、
その彼女がすごく賛同してくれたんです。
彼女は商品として、体を締め付けることだけを
営業してきたけれども、
こういう真逆のものがあることも、
女性にとってすごく大事だって、
彼女がまず賛同してくれた。
そしてパターンをつくってくれる企画の部長さんも女性で、
私を含めてこの3人が、
全くタイプは違うんですけど、すごく気が合ったんです。
- 伊藤
- 気持ちよかったり、
つけてて嬉しいっていうのが、
3人の共通の目標に?
- 鈴木
- そうです。まずやりたいっていうことを
受け止めて下さったのが、一番大きいと思います。
最初は「これってナイトブラですか?」と
おっしゃるんだけれど、
私は「ナイトブラって何ですか?」。
そういうものの存在を知らないの(笑)。
「じゃ、家に帰って着るものですか?」
「いや、外でも着ていただけるし、
家に帰って着ていただいてもいいし、
夜寝るとき着ていただいてもいいけど、
私は外にそのまま出て行きます」って、
それが、なかなか理解されなかったんです。
「パッドがなければ、胸のポチを、
日本の方は気にします」とか。
- 伊藤
- なるほど。
逆に補正下着の会社だからこそ、
チャコさんが今回よかったなって
思えたことはありました?
- 鈴木
- まず、下着をつくる技術がきちんとしていました。
自社工場が九州と千葉にあって、
ほんとに100パーセントジャパンメイドでつくられている。
しっかりとした土台がある会社ですね。
それと、親会社が素材を持っているところで、
「こんな素材があるといいな」って言ったとき、
すぐに「こういうのがあります」と
出てくるんですよね。それがすごくよかったです。
- 伊藤
- チーム以外の、先方の会社のみなさんは
どういうふうに思っていたのかしら。
営業のおじさんとか‥‥。
- 鈴木
- おじさんたちは、一切前に出てこなくて、
話してないんですけど、
そういえば年に1回の会議の席で、
親会社の社長さんから、営業の方が、
こんな風に言われたそうですよ。
「ルレアッシュみたいな新しい試みも、
やってみる価値があるんだね。
ちょっとずつ、ゆっくりだけど出せたらいいね」。
- 伊藤
- わぁ! すごくいい会社ですね!
- 鈴木
- ほんとに恵まれました、
「BLOOMLuXE」との出会いは。
LERET.Hの下着とバッグ
秋に向けて
下着が好きなものだから、
よさそうだな、と思うものを見つけると、
すぐに買って試してみる。
自分の体型との相性もあるけれど、
かわいい見かけでも、
どこかよそよそしいつけ心地だったり、
かといえば反対に、
つけ心地はいいけれど、
見た目にちょっと、というものだったり。
下着の道は長く、
果てしない。
でもその試行錯誤もまたたのしいのですけれどね。
この週末、
下着専用のチェストを整理しました。
いるものといらないものに分けて、
きちんとたたんできれいに見えるようにしまっていきます。
これから秋に向けて、
つける下着の気分も変わるはずだからというのが、
チェストの整理をした理由。
もうひとつの理由は、
新しい下着を迎え入れる準備なのでした。
今週のweeksdaysは、
LERET.H の下着を紹介します。
楽なのに、シック。
パリの香りをまとった大人のための下着。
秋のはじまりにいかがですか?
昨日、何撮った?
- 長野
- この日めくりカレンダーの写真、365枚の並びは
どうやって決めたんですか。
- 伊藤
- 実物大に出力したものを、
おっきいカレンダーをつくって、
月ごとに貼っていったんです。
たとえば7月は夏っぽい感じに、とか、
大きな流れをつくることができるので。
- 長野
- えぇ~! デジタルの作業じゃないんですね。
- 伊藤
- その作業、すごく面白かった!
本でもそうですよ、
自分でそうやって確かめながら、
台割を決めるんです。
- 長野
- 楽しいですよね、あの作業。
- 伊藤
- 楽しいし、心の整理になる。
- ──
- これだけの枚数の写真が手元にあるというのは、
iPhoneをはじめとする
スマートフォンの時代になったから、
っていうことですよね。
- 長野
- そうですね。
撮りたいと思ったものをすぐ撮れるって、
なんて素晴らしいんだろうって思いますね。
昔だったら、フィルムの枚数は決まってるから、
残りの枚数を気にして撮るか撮らないか考えた。
そういうことはないですからね、今。
それってでかいなって思うんです。
スマホじゃなかったら撮られなかった写真って
たくさんあるなぁと思ってて。
フィルムの時代にはあった
「わざわざ写真に撮るまでもない」っていう感覚が、
今は、もうない。
- ──
- 伊藤さんの写真は、まさしくそうですね。
タワシが並んでいる様子を、
かわいいと思っても、
一般の人だったら
カメラを出してフィルムで撮る、
ということはなかったと思います。
- 長野
- ね。
- 伊藤
- お米を3合ずつビニール袋に入れて分けて、
並べたところがかわいいな、とか、
わざわざ撮らなかったですよね。
- 伊藤
- 見過ごしちゃうようなことでも、
素敵な瞬間っていうのが、暮らしにはある。
写真を見返すと、
「このときほんとにかわいいと思ったんだなぁ」
って思い出すんです。
でもね、「それを本にしませんか? 文章を添えて」
って言われても、絶対「嫌です」と言うと思う。
「日めくりカレンダー」っていう、
その日いち日で終わっていくことが、
この写真と、自分の性に合っていた。
ところで長野さんが
いちばん最近、iPhoneで撮ったものって何ですか?
- 長野
- えーっと、ほんとに‥‥台所ですね(笑)。
これですね。(カメラに向かって)見えます?
- 伊藤
- 見える!
また改装したのかな?
- 長野
- 改装というほどでもなく、
レンジフードの調子がいまいちで、
交換してもらったんです。
これはその工事が終わってすぐ撮ったもの。
こんなのしかないなぁ。
まさこさんの直近のiPhoneの写真は?
- 伊藤
- これです。
- 長野
- 何ですか、それ?
- 伊藤
- カスタードクリームパイ。
- 長野
- あぁ~! なるほど。
上手!
- 伊藤
- 食べるものばっかりなんです。
あと、昨日お店で撮った、ドイツの染み取り。
中華屋さんで服に染みをつくったら、
お店の人がサッと持ってきてくれたんです。
それが気に入ったので「撮らせて!」。
- ──
- 伊藤さんは、メモ代わりかもしれないけれど、
写真としてきれいに撮りたいって気持ちも、
きっと、あるんですよね?
- 伊藤
- ううん、これはもう、全くのメモですよ。
仕事のメモもそうですけれど、
メモは、用事が済んだらすぐ削除するんです。
- 長野
- ロールに残さないんだ。
厳しい! それ言われたら、
消したほうがいい写真ばっかりですよ、俺。
- 伊藤
- でも楽しいかも、急に
「昨日何撮った?」みたいに聞くのって。
- 長野
- でもね、ちゃんと食べ物とか撮ってるんですよ。
これわりと最近です。先週かな。
チャーハンです。
- 伊藤
- Instagramに載せたりしているのかな?
- 長野
- いや、これは上げてない。
最近Instagram全然やってなくて。
- 伊藤
- やって下さい。見たいもの。
- 長野
- 大変じゃないですか、文章を書くのが。
- 伊藤
- そう?
- 長野
- 情報として見ている人がいるなと思うと、
ちゃんと書かなきゃなと。
お店の情報とかね。
- 伊藤
- いいですよ、気にしなくても。
「うまかった!」でいいじゃない。
- 長野
- そうですか。じゃ、やろうかな?
- ──
- 今回「日めくりカレンダー」をつくって、
紙になるっていいなあって感じたんです。
わたしたちも、デジタルで撮ったものを、
たまにはプリントするといいかもしれないですね。
- 長野
- そうですね。僕も、気に入ってる写真は、
仕事場にあるプリンターで出力しますよ。
- ──
- インクジェットのカラープリンターですね。
- 長野
- ちょっとプロっぽいところ見せると、
A3のノビ(ひとまわり大きいサイズ)まで出せるんです。
気に入った写真があったらプリントアウトします。
額には入れずに貼ったりして。
ベタベタ貼る癖があるんですよ。
仕事部屋にもバーッて貼ったこともあるんですけど、
散らかっちゃうので、今は剥がしてます。
- ──
- 長野さん、ほぼ日の連載(*)も
紙焼きで入稿して下さってました。
- 長野
- あの時は、フィルムで撮ってた写真だったんです。
いつか写真展とか、写真集にしようと思うものは、
フィルムで撮っているんですよ。
今、印画紙とか現像液とかすごく高いんですけど、
なくなるまでやろうと、ずっと捨てないでいます。
- 長野
-
フィルムスキャンでデジタルデータにする手もありますが、
印画紙でプリントした写真と、
ネガスキャンしてプリンターで出力した写真とで、
全然、印象が違うんです。
- ──
- そうなんですね!
- 長野
- この仕事場は、暗室にもなる仕様で、
窓にも内側に木窓をつけて、
閉めると真っ暗になるようにしてます。
現像の機材も、絶対に捨てられません。
- 伊藤
- すご~い!!
- 長野
- だから好きな写真はプリントにして、
貼ったり、あげたり。
この前も、会社を辞めた友達に、
昔一緒に取材に行ったときの写真を
プリントアウトして渡しました。
- 伊藤
- それは嬉しいでしょうね!
- 長野
- やっぱりプリントは特別ですよね。
だから毎回毎回そうするわけじゃないけれど、
なにか特別なときに敢えてやってみるのは
いいと思うんです。
- ──
- 今、大手カメラ量販店に、
デジタルデータから簡単にプリントしてくれる
機械がおいてありますよね。
- 長野
- コンビニのカラーコピーもいいですよ。
普通紙だから、色がちょっと派手に出たりとかして。
あんまりきれいに出ないタイプのプリンターで
プリントしてみるのも、面白いんです。
そういうほうがかっこよかったりする。
- 伊藤
- そっか、そういうのも面白いですよね!
やってみようかな?
ああ、面白かったです、長野さん、
ありがとうございました。
- 長野
- こんな話で大丈夫でしたか?
- 伊藤
- 全然、大丈夫。
直接会えなかったのが残念ですけれど、
また近いうちにぜひ。
- 長野
- はい! それじゃ、また。失礼します。
ものに対する愛
- 伊藤
- わたしのInstagramは、
食べたものとかの自分の記録なので、
それを皆さんに見せて申し訳ないと思ってるんだけど、
そういう意味でも、情報は少なくしてるんです。
- 長野
- そうですよね(笑)。
- ──
- 伊藤さんのInstagramは、
情報がひとつなんだけれど、
それをよりかわいく撮りたいなっていう気持ちが
ちゃんとあると思います。
- 長野
- うん、かわいい。
まさこさん、それはやっぱり愛ですよ。
目の前のものに対する愛があるから、
その丁寧さが伝わってくる。
‥‥「丁寧」っていう言い方は
あんまり合ってないかもしれないですけど、
ものに対しての愛情が1個1個にある。
- 伊藤
- そのものが一番よく見える
角度があると思っているんです。
「ちょっと写真が下手で」
って悩んでる人って、
そういうことを考えずに、
とりあえず撮っているんじゃないかなあって思う。
わたしが上手というわけじゃなくって。
- 長野
- そうですね。
急いでる人はそういう感じになっちゃいますね。
- 伊藤
- うちの娘が言うんです、
「字はとにかく丁寧に書くことじゃない?」と。
彼女、なんでも丁寧なんですよ。
それと同じかなって。
- 長野
- ゆっくりでいいと思うんですよ。
そりゃ、ラーメンの写真とか、
のびちゃうから急がないといけないですけどね、
ふだんは別にそんなんじゃないし。
- 長野
- はい。
- 伊藤
- あるとき、被写体が全くガラリと変わったような。
- 長野
- あれは、仕事の写真ですよ。
依頼された写真です。
自分でつくった料理とか、ないですから。
- 伊藤
- 依頼されたとき、
「なぜ俺に?」っていうのはありましたか?
- 長野
- どうだろう。
『クウネル』で岡戸絹枝編集長に
依頼をいただいたのが全てのきっかけでした。
でも自分では
料理写真だとは思ってなかったです。
その人の取材に行って、
その人の暮らしとか、部屋とか、
持ち物とかの中に料理があって、
それを撮っただけなんですよ。
もちろん料理の特集の号もありましたけど、
料理だけを撮って終わるページは1回もなかったと思う。
絶対に人とか、料理じゃないものが入ってると思います。
今はもう『クウネル』じゃないところで
料理が主役の写真を撮ってますけれど、
『クウネル』では
料理が主役だったことはあんまりなかったと思う。
料理特集でも、たとえば、ウー・ウェンさんを
2013年の「料理の風景」っていう特集で
撮っているんですけれど。これがトップなんです。
- 伊藤
- 素敵!
- 長野
- 料理じゃないでしょう?
お茶と、人です。
- 伊藤
- ちゃんと風景になっていますね。
- 長野
- そうなんです。
タイトルは「ウー・ウェンの家庭料理の風景」。
先をめくって、やっと初めて、
料理の写真が出てきます。
- 長野
-
ふつうは逆ですよね。
‥‥と、そういう感じで撮ってきたから、
自分が料理を撮ってるっていう感覚は、
あんまりなかったんです。
「料理カメラマン」だと思ってなかった。
なのにあるとき、別の出版社から、
僕が『クウネル』で撮ってる料理写真を
掲載させて下さいって話が来たんです。
で、「え?」ってなって、
「料理そんな撮ってないと思いますよ」って、
その場で断ろうとしたんですけど、
「いや、そんなことないです。
ものすごく、毎号毎号撮ってますから、見て下さい」。
改めて見返したら、当然撮ってるわけですよ。
で、料理写真だけを抜粋して、
初めて、料理だけを並べてみたんです。
それがその本(*)です。
- 長野
- まさこさんの家の冷蔵庫もクウネルで撮りましたね。
- 伊藤
- おぉ、懐かしい~!
- 長野
- これで初めて、
あぁそうか、俺ってこんなに
料理をたくさん撮ってたんだっていうふうに自覚して。
そのタイミングでちょうど、
僕が『シマノホホエミ』が出るきっかけになった、
ガーディアン・ガーデンっていう
リクルートがやってるギャラリーから、
展覧会(*)のオファーがあったんですよ。(*)長野陽一 料理写真展
「大根は4センチくらいの厚さの輪切りにし、」
- 伊藤
- 行きました。
- 長野
- 来ていただきました、ありがとうございました。
それで『美味しいポートレイト』っていう本ができて。
これを出してから、僕は今、もうすっかり
料理カメラマンみたいになっちゃってます。
それまでは『dancyu』などの料理専門誌では
仕事をしたことなかったですし。
でもプロ向けの料理書をつくっている
柴田書店とは仕事をしたことないんです、未だに。
- ──
- 長野さんの料理写真は、
いわゆる料理写真じゃないところが、
いいんですね。
専門誌は、また別の技術の世界で、
それこそ大御所の料理写真家からの流れがあって。
- 伊藤
- 多分その、わたしが20代後半ぐらいから、
料理写真の流れが変わったんですよね。
「普通でいいじゃない?」みたいな。
- 長野
- そう。まさこさんたちのお陰だと思いますよ。
まさこさん、堀井和子さんの料理の本が
お好きだっておっしゃってましたね。
- 伊藤
- 堀井さんの本は、中学生のときに憧れて、
かわいい! と思って見てました。
たしか堀井さん、
写真も自分で撮られてたんですよね?
- 長野
- うんうん。
- 伊藤
- わたし、それに憧れて、
一眼レフを買ったんですよ。
でも、全然そういうふうに撮れなくて、
「できないことはやめよう」。
そういうことなんだって思いました。
- 長野
- (笑)そこからiPhoneで撮るようになるまで、
長い時間がありましたね。
- 伊藤
- そうですよね!
それは、仕事で撮ってくれる人が
いっぱいいたからです。
- 長野
- そっかそっか。
- 伊藤
- あの頃、自分で一眼レフで料理を撮る料理家なんて、
堀井さんくらいしかいなかったんじゃないかなぁ。
でもそれを思うと、今、SNSで
いろんな人が撮った料理の写真が見られるのって、
すごく面白いですよね。
たとえばInstagramだと、
職業柄かな、あの四角の写真、
一枚一枚のバランスと、
ポストした写真がずらりと並ぶ、
そのバランスも考えたりして。
- 長野
- そうですね。