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隙間をつくることと、人を見ること
- 中原
- 陶芸などの人気作家のかたで、
数年先までスケジュールが埋まっている、
ということがありますよね。
でもこちらとしては、いついつ展覧会をしてほしい、
それはぜひあの人に、と思いつくことがある。
あんな人気作家に、それを受けてくださるような
時間の隙間はないだろうなっていうのは、
こっちもわかってはいるんですけど、
いやこれはあの人しかいない、
やっぱり頼んでみよう、となったとき、
こっちが言っている重要性を
ちゃんとわかってくれる作家さんって、
いいなって思うんです。
でも、依頼内容と関係なく、
「あ、もう5年埋まってます」みたいな言い方をする
作家さんもいるんですよ。
そうすると思うんです、この人って、
すごくいいチャンスが来たときに、
それを失ってるかもしれないって。
その5年間の間に、ここぞという仕事が来たときに、
スケジュールを空けることができる気持ちがあるかどうか。
自分の仕事もそうありたいなと思うんです。
5年先までの予定があるっていうのは、
すごいことだけれど、ぜんぶが決まっていて、
ずっと反復しているわけですよね。
- 伊藤
- 5年の間に、自分が変化するかもしれないのに。
- 中原
- そうなんです。
その間に、うまく自分を外に出してくれる、
あたらしい自分になるような変化を
与えるような依頼を貰ったとき、
それが受け取れないっていうのは
もったいないなと思うんです。
- 伊藤
- ほんと、そのとおりです。
- 中原
- いい作家さんって、
いざっていうときのために
少し時間を空けているんですよね。
- 伊藤
- わかります。わたしも仕事のスケジュールは
ぎゅうぎゅうにしないようにしているんですが、
その理由は、突然入ってきた縁があったとき、
力を入れてそこに行けるくらいの
自分の余裕を持っておきたいからなんです。
逆に「2時間だけなんです、なんとか」
と言われたりするのは、
仕事の質を落とす結果につながるかもしれないので
お断りすることが多いのですけれど。
気持ちの余裕って、つねに3割くらいは欲しいですよね。
中原さんはうんと先のことは
あんまり考えていないとおっしゃるけれど、
このお店のことでは、いろいろこれからやりたいこと、
おありなんじゃないですか。
- 中原
- そうですね、いろいろとありますね。
直近のことでいえば、
一昨日まで韓国で2回目の買い付けで行っていたんですが、
1回目とはまた違う見え方をしてきて、
いい出会いもあったので、
早くそれを紹介したいなって思います。
- 伊藤
- じゃあ、今まで行ってた韓国とはまた違う視点が?
- 中原
- はい、違う視点で見はじめていますね。
ひとりでもいい人と知り合うと、また次が見えてきて、
次にまたその次が見えてきてってなるので、
おもしろいなあと思って。
どんどんそうしたいなと思います。
先のことで言えば、
まだ行っていない国も開拓しなきゃいけないし。
- 伊藤
- ひとりの作家さんと知り合うと、
そのかたの仲間につながったりしますよね。
- 中原
- そう、つながってくるんですよ。どんどん。
それがまたおもしろくて。
韓国では時間が足りなかったです。もてなされすぎて。
- 伊藤
- みなさん、嬉しいんですよ。
- 中原
- 逆に言うと、自分もそういうことをしてる方ですけれど。
- 伊藤
- そうですよ、中原さんって、
惜しみなくいろんなことを教えてくれるんです。
わたしもいろいろ相談をしたことがありますが、
すぐに「こういう人がいて、あんな所もあって」と。
その惜しみなさが、次のいいことへと
連鎖していくような気がするんです。
- 中原
- そうかもしれないですね。
でも、教えたことを覚えていないんですけど(笑)。
- 伊藤
- そうなんですか!
もう(笑)。
- ──
- 海外に買い付けに行かれるとき、
案内してもらう最初の人って、
すごく大事だと思うんですが、
それも、出会いがあったんですか。
- 中原
- 買い付けのための出会いではなく、
たとえばタイの場合なら、日本で会った若い女の子がいて、
彼女が何者なのかわからなかったんだけれど、
すごく感覚がよかったんですよ。キャラクターもいい。
だから「いつか仕事してみたいな」って
ずっと思ってたんです。
それで、タイに行くってなった瞬間に、
絶対にその子がいいなと思って。
- 伊藤
- その女性は、何者だったんですか。
- 中原
- 当時は何をやってたんだろうな、
日本で働いていて、日本語も上手だったんですよ。
で、とにかくセンスがいい。
その子に連絡したら、
「やったことないけど、やります」って返事が来た。
- 伊藤
- なるほど。現地コーディネート、
ましてや家具や生活雑貨の
専門家ではなかったんですね。
- 中原
- そういう人じゃないんです。
でも、そういう人って、いいことを導き出すんです。
行った先でおもしろい出会いがあったり、
今まで口説いてだめだった所がOKをくれたり。
- ──
- 伊藤さんもネットワークというか、
お知り合いが多いですよね、
「あそこに行くならこの人と」って。
- 伊藤
- ありますね。
そしてたしかに、みんなが専門家というわけではない。
でも絶対にいいことがあるんですよ。
- 中原
- 僕もそればっかりです(笑)。
- 伊藤
- 以前、地方で陶芸家の友達と入った蕎麦屋の
店員さんの女の子が超テキパキしてて、
その友人が「あの子に仕事を手伝ってもらいたい」
って言ったんですが。
そういう気持ち、わかりますよね。
ちょっと接するだけでも、なんとなく。
- 中原
- そうですよね。
僕も、お店に行くと、人を見ますよ。
「あ、この子、こういう気持ちにさせてくれた」とか。
とくにスタッフは、よく見ちゃいます。
- 伊藤
- レストランなら、スタッフとシェフの関わりを見ちゃう。
「緊張感が漂いつつも、ちゃんと楽しそうに仕事してるな」
とか。逆に萎縮してるスタッフを見ると、
だんだん料理もまずくなってきちゃうんです。
- 中原
- そうそう。こっちが気を遣ってね。
- 伊藤
- うんうん、「人を見る」、大事ですね。
「お店上手」っていうことばが響きました。
- 中原
- 銀座の空也最中とか、
1種類の看板商品があって続いているお店も
すごいなと思いますよね。
- ──
- 原宿の瑞穂も大福だけと言えるくらいですよね。
- 伊藤
- 銀座のかりんとう屋のたちばなも、かりんとうだけ。
そんなふうに手を広げすぎず、絞ってるからこそ、
いいのかもしれないって思います。
- 中原
- ブレないってことですよね。
そういうお店は「あそこに行きたい」って思います。
逆になんでもあるようなお店って、
選択肢から外れやすくなる。
- 伊藤
- わたしたち、そうじゃないお店に行きたいんですよね。
- 中原
- 飲食店でも、いますもんね、「お店上手」だなと思う人。
料理がおいしいからという以上に、
行きたくなるお店ってあるんです。
仲間をつくる、チームで進む
- 伊藤
- 仕事で一緒に組む人を選ぶとき、
「ピンとくる」ものですか。
その人が作ったものを見たりとか、
ちょっと話したりとか、そういうことで?
- 中原
- まさしくそうです。
それが「お店上手」に近づくことかなと思います。
だからぼくは自分では手を動かさないっていうか‥‥。
デザイナーとして優れた人のなかには、
全部自分でできる人がいますよね。
それってすごいなと思うんですよ。
でも、僕は、それができない。
自分でやったものが全部だめだなと
思っちゃうタイプだから(笑)。
- 伊藤
- ええーっ。
- 中原
- こういうふうにいろいろと人に任せながら、
そのときの変化を楽しむほうがいいんです。
もちろん「違うかな?」というときもあるので、
ちゃんと注意深く見極めながら、
みんなである方向性に持っていくのが、
お店づくりのおもしろさだと思います。
当初と違う結果のときもありますけど、
それもそれで楽しいです。
- 伊藤
- 任せた以上、当初と違うということは
あるでしょうね。
でもそれが思い掛けない、
いい結果だと嬉しいですよね。
- 中原
- そうなんです。
- 伊藤
- この地下のスペースは、
ギャラリーとしても使われると聞きました。
それで、最初の展覧会が伊藤環さん。
環さんにお願いしたのは、どんな経緯があったんですか。
- 中原
- 彼の器の作り方がすごく好きだということと、
テレンス・コンランがよく言うテーマと
合っていそうだなと思ったんです。
それはプレーンでシンプルでユースフル
(PLAIN SIMPLE USEFUL)っていう言葉です。
環さんとは仕事をしたことがなかったんですけど、
対話をして、それプラス「想い」みたいなことを
テーマにしたいって言ったら、
ほんとうにお忙しい中、引き受けてくださって、
このつくばいもつくってくれました。
- 伊藤
- この、芍薬が飾ってある、つくばい。
いいですね。
ギャラリーとしても、これから、とても楽しみです。
- 中原
- ありがとうございます。
基本的にはギャラリーですが、
何にでも使えるように
オープンスペースにしてます。
- 伊藤
- それではまた1階に戻って‥‥、
小さい頃の話から、初めてイギリスに行く21歳までの
中原さんの青春期のお話も聞きたいです。
なにかきっかけがないと、
いまの「中原慎一郎さん」にならないと思うんですよ。
- 中原
- 青春期か(笑)。
大学の頃から家具屋で働いたことが
一番大きなことだと思います。
- 伊藤
- 鹿児島で?
- 中原
- はい。「GRAYS(グレイス)」
っていう家具屋があって、
イギリスのアンティークを扱っていました。
後からコーヒーショップもできて、
いまはフラワーショップもやっているのかな。
そこの女性オーナーが、
僕をロンドンに連れていってくれて、
コンランショップを教えてくれました。
いろんないいものを教えてくれた人で、
その人のおかげで、僕もインテリアに興味を持ったんです。
それがはじまりですね。
- 伊藤
- そうなんだ。鹿児島で大学を出て、
すぐ東京に?
- 中原
- はい。大学を出て上京して、
モダンデザインの家具屋で働き始めました。
アメリカに行ってモダンデザインの家具を仕入れて
東京で売るんです。
そうこうしているうちに、その次の段階は、
自分で作りたくなっちゃった。それで、
自分の会社(ランドスケーププロダクツ)を立ち上げて、
オリジナルの家具といろんなものをセレクトするという、
そういう方向に変わっていきました。
- 伊藤
- そういうことだったんですね。
- 中原
- はい。でも、結局、
僕に影響を与え続けていたもののひとつとして、
コンランショップが、ずっと、あったように思います。
僕に限らす、テレンス・コンランの影響って、
この世代、あるいはもっと上の人たちも、
みんな受けていると思うんです。
いまや、いわゆるライフスタイルショップが
世の中にいっぱいあるんですけど、
たぶん一番最初の人じゃないのかな。
- 伊藤
- うん、うん。
- 中原
- 日本にも、おそろしい数の
ライフスタイルショップができたわけですけれど、
そういうお店のオーナーに聞くと、
みんな影響を受けたって言うんです。
どのお店も、最初はざっくりとした
ライフスタイルの提案だったのが細分化していって、
たとえば民藝の方に行ったりとかして、
今の人たちのお店はすごく細かくわかれていますよね。
それくらい根付いたんだって思うと、
そのはじまりであるテレンス・コンランの動きって
すごいことだなと思います。
昔で言うと、アーツ・アンド・クラフツ運動が
イギリスで始まって、それが日本で民藝運動になる、
みたいなことと一緒ですよね。
自分のやっていることも、
その流れの中のひとつなんだと思います。
- 伊藤
- そうだったんですね。
今が一番働いてるとき、とおっしゃっていましたが、
「10年後こうなってたい」ということはありますか?
- 中原
- いや、特には。
あんまり先のことは本当に考えていないんです。
チームの仕事にずっと従事しているから、
そこは変わらないかなとは思いますけれど。
歳をとって、自分が離れたとしても、
いろんな所を見守るということに
なると思います。まさこさんは?
- 伊藤
- たとえば「weeksdays」では
全てのスタイリングをしているわけなんですが、
本気で「ほぼ日」のみんなに言うんです、
「スタイリング、みんなもできるよ」って。
でも、みんなの意見はちがうので、結局全部やっちゃう。
けれども、これからどうやって人に任せて、
かつ、みんなが伸び伸び楽しく、
しかも出来上がったものがよく見えるように
つくることができるだろう、って考えます。
- 中原
- そうですよね。人に委ねるのって、
ちょっとの変化を掴んであげないと、
なかなかむずかしいんですよ。
心情の変化とか、行動の変化も見つけて、
いい方向に行っていると気づいたら
少しずつでも褒めてあげる。
もちろん、だめなことも絶対に言う(笑)。
- 伊藤
- メモメモ。そっか。そうですね。
勉強になります。
- 中原
- 自分ができないから、わかるんですよ。
- 伊藤
- そういった「見守る」とか
「人に任せる」ことができるのは、
社長になる人の才覚なのかもしれないって思います。
やっぱり中原さんって、
ピンと来るものとそうじゃないものが、
スッスッて分けられる人だと思う。
人もモノも。
- 中原
- なるほどね。
でも、やたらめったらいろんな話が来るというよりは、
ちゃんとみんな考えてから
僕に仕事の話をしてくださるんです。
ひょっとして自分がバリヤーを
張っているのかもしれませんが、
連絡が来る人って、それなりの想いがあって来てくれる。
- 伊藤
- あ、わたしもそれはあります。
とくに最近は「ええっ? これをわたしに?」
と驚くような依頼はなくなりました。
- ──
- おふたりに共通していると思ったのは、
自分から声掛けをするときに、
この人か、それともこの人か、ではなく、
この人がいい、というふうに、
最初から迷いがないことじゃないでしょうか。
「候補が3人いるんだけど、どうしよう」はないですよね。
- 中原
- ああ、そうですね。
- 伊藤
- たしかに、そういうことはない。
- ──
- 伊藤さん、企画ミーティングで、
テーマが先にあって対談相手を選ぶというとき、
「この方がだめだったら、次の方っていうのは、なし」
とおっしゃる。
その人がだめだったら、企画そのものを考え直します。
「その人ありきの企画だったんだから、
別のことを考えよう」って。
- 伊藤
- そうですね。それは、今まで、
そういうふうにしてくれていた編集の人から学びました。
受ける立場からすると、
わたしができないから別の人にお願いするのではなく、
「企画を練り直しますね」と
その人は言ったんです。それでわたしも
「こういう仕事の仕方がいいな」と思ったんですよ。
この人は信頼できるなって。
テレンス・コンランの炯眼
- 中原
- 「人が集まる場所をつくりたい」というのは、
お店を始めた理由でもあったし、
いまの仕事に就いたのも、
やはりそういう場所をつくるのが好きだった
テレンス・コンランにならって、
自分もそうありたいと思っているからなんです。
カッコいいセレクトをすることじゃなくて、
「お店が上手でありたい」って、
単純に思ってるだけなんです、僕は。
- 伊藤
- へえーっ。
「お店が上手でありたい」。
- 中原
- こういうことが得意な人、たまにいるんですけど、
テクニックじゃないんですよ。
- 伊藤
- え、テレンス・コンランは、
どんなふうに「お店上手」だったんですか。
- 中原
- 人を喜ばせたいっていう気持ちの人だったと思うんですよ。
デザイナーの勉強をしながら、
フランスの食に感銘をうけて、
「イギリスの食をおいしくしたい」と始めたのが
コンランショップだったといいます。
「もてなしたい」とか「喜ばせたい」っていうのが
彼の原動力っていうか。
彼はレストランの本を出してるんですけど、
最初の数ページは、いかにレストラン経営に
リスクがあるかを書いているんです。
- 伊藤
- そうなんですね。
- 中原
- 「レストラン経営は大変だ。
でも、それでもやっぱり喜ばせたいっていう
気持ちがあるかどうかでこの商売は決まるんだよ」って。
本当にそうだと思うんです。
- 伊藤
- ロンドンでテレンス・コンランのつくったレストランに
行ったことがありますが、
とても居心地が良かったですよ。
- 中原
- 僕も、21歳だったかな、
生まれて初めて行った海外がロンドンだったんですけど、
そのとき連れてってもらって、最初に入ったお店が
ミシュランビルのコンランショップ(*)でした。
そうしたら中にオイスターバーがあったり、
花屋があったりして、家具屋って聞いてたのになんだろう?
みたいな感じ。それがコンランショップと僕の
最初の出会いだったんです。(*)ロンドンのチェルシー地区、アールヌーヴォー様式の
建物に入っているコンランショップの旗艦店 。
1987年に創業地のフルハムロードから現在は、移転準備中。
- 伊藤
- 今となっては、洋服屋さんにカフェが併設されていたり、
花屋さんをやったりすることが
当たり前のようになっていますけれど、
その先駆けだったんですよね。
- 中原
- テレンス・コンランって、
野菜を食べるにはレモンと塩と
オリーブオイルだけでいい、みたいなことを
初めてイギリスで実践したり、
オープンキッチンを初めてつくったり、
そういう食文化を導き出した人でもあるんです。
- 伊藤
- 店内のディスプレイもきれいでした。
アーティチョークがガラスの瓶に入っているとか。
- 中原
- そう、花じゃなく野菜を飾るって、すごいですよね。
そういうことがすごいんですよ。
- 伊藤
- 重なったお皿にフルーツがボンッ、
みたいに置いてあったりとか、新鮮でした。
- 中原
- 何が美しいかをよくわかっていたと思うんです。
そういうふうに自分もありたいなと思いました。
自分もそっち側に居続けるためには、
マネをするんじゃなくて、
どうありたいかっていうこと、
彼が持っているマインドを、僕らがどう考えて、
今の時代に則した方法でお店にするかを
一度、きちんと考えなければいけません。
実は、アジアって、彼の哲学に近しいはずだし。
そういうことがきれいにできるはずなのに、
今までやりきれてないっていうのは問題があるなと。
それがこのお店の始まりなんです。
- 伊藤
- そういうことだったんですね。
- 中原
- まだまだやりたいことはありますけれど、
その間にもちゃんと後陣を育て上げなくちゃって思います。
僕らの世代、年齢的に、これからずっとは
働けないじゃないですか。
- 伊藤
- うんうん、うんうん。
- 中原
- ずっと現場で立ちっぱなしはつらいでしょう。
腰痛ベルトを巻いて無理をするわけにもいかないし。
- 伊藤
- 年齢的な問題ってありますよね。
わたしも、イベントで接客をすると、
その接客した時間と同じ時間だけ
倒れるように眠ってしまう。
- 中原
- それでもまさこさんはやるから偉いなあ。
- 伊藤
- 仕事の仕方をこれからどうしていこうかなって、
すごく考えているんです。
- 中原
- ですよね。
- 伊藤
- そうしたら、阿川佐和子さんにお会いする機会があって、
「大丈夫よ。伊藤さん、50歳は一番私も辛かったわ。
60歳になったら元気になるから大丈夫」。
- 中原
- その10年間にうまく整理できるのかもしれないですね。
やることやらないことが取捨選択が
できるようになるんじゃないかな。
- 伊藤
- 中原さんはいま52歳、わたしと1つ違い。
でも、今、こうして、
大きいことがどんどん進んでいる。
- 中原
- いま、一番働いてますから、人生で。
- 伊藤
- ランドスケーププロダクツも
社長業だったでしょう?
- 中原
- 自分の会社の方が、ズルしてたと思います。
- 伊藤
- ズルはしてないと思うけどなぁ。ふふふ。
- 中原
- 自分の会社と今が違うのは、
僕にはとにかく経営者としての
経験が少ないということです。
だから接点づくりのためにみんなと一緒にいて、
とにかく時間を一緒に過ごしています。
前は、自分の会社でみんな一緒に育ってるから、
お互い、なんとなく、わかっていたんですよ。
- 伊藤
- なるほど。そうでしたか。
‥‥ちょっと場所をかえて、
地下のフロアを拝見してもいいですか?
- 中原
- ぜひ! 一緒に行きましょう。
- 伊藤
- (地下に降りて)
わぁ、この空間もいいですね。
聴景居(ちょうけいきょ)‥‥?
ここが、夜も営業しようという場所ですか。
- 中原
- はい、バーになる予定です。
今は、昼間だけ営業しているんですけれど。
もともとここは、和食屋さんのとき、茶室だったんですよ。
地下まで借りることになったとき、
それを生かせないかと思って、
櫻井焙茶研究所の櫻井真也さんに相談したんです。
そうしたら「すごくいいんですけど、
そのままでは使えないです」ということだったので、
作り直そう、と。それで櫻井さんと一緒に
このスペースの運営をすることになりました。
ちょうどこの店がアジアをテーマにするので、
お茶をテーマにしました。
アジアって、それぞれの国で、
お茶のもてなし方がおもしろいでしょう?
テーマは、アジアとヨーロッパを繋ぐ
シルクロード的な「お茶の伝搬」。
陸路と航路で、お茶の伝わり方が違うんですよ。
陸路が「チャ」、航路が「テ」、
それをそれぞれ櫻井さんにコース立てしてもらいました。
トルコは、砂の上で沸騰させるタイプで、
チャイを作るから、それを再現しよう、とか。
それプラスお酒っていうのが、
この茶室のようなバーの中身です。
- 伊藤
- きっと櫻井さんにとっても、
新たな試みでしょうね。
中原さんの周りの人たちは、
中原さんに巻き込まれるのを
楽しんでいるんじゃないかな。
- 中原
- そうだといいんですけど。
- 伊藤
- そうですよ、嫌だったらやらないですもの。
中原さんって、この人のために一肌脱ごうっていう
気にさせるんだと思いますよ。
- 中原
- それこそ、テレンス・コンランが、誰に何をお願いするかを
すごく大切にしてた人なんですよね。
誰にお願いしたら景色が変わるか、
誰にお願いしたら自分が思う風景を作ってくれるか。
自分もほんとうにそう思うので、
仕事で組む人選って、とても大事だなと思っています。
小さな視点が、大きな視野へ
- 伊藤
- いままでのコンランショップと、
ほかに、変えたところはありますか?
- 中原
- 自分たちでちゃんとバイイングすることが第一ですね。
そしてディスプレイの準備。
今までは店舗ごとにVMDという職種の人が
派遣されてきていたんです。
- 伊藤
- え、それは社内の人じゃなくて?
- 中原
- 社内の人なんですけど、お店の人ではなく、
本部にそういう部署があるんですね。
でも、お店にいる人もできるようにと思って。
ちょっと花を生けるのもそうだし、
模様替えするのもそうだし、
並べ方も、ただ言われた通りに並べるんじゃなく、
「このほうがいいんじゃないか」と
常に店の中で考えてほしいんです。
自分たちで美意識をもって
それぞれの店舗を運営したい。
まだぜんぜん納得していませんけれど。
「誰々が来たときのもてなし」というような
個別の対応だってちゃんとできるようになったほうがいい。
- 伊藤
- なるほど。
- 中原
- 今も、大きくは、本部の人たちが見てくれるんです。
でも、ちょっとしたところを、
おかしいなと思ったら自分で変えられる力を
みんなに持ってほしいなと思っているんです。
- 伊藤
- 奈良の「くるみの木」のオーナーの
石村由起子さんのことを思い出しました。
以前、宿泊施設をなさっていたんですが、
お話をしていると、
「ああ、そうね、そうやね」と言いながらも、
いつも手を動かして、インテリアを調えているんです。
- 中原
- たしかに、石村さん、いつも動いてますよね。
わかります。そういうことが重要なんです。
- 伊藤
- 気になるんだと思います。
「こことここのラインが合ってない」とか。
お店ではありませんが、私もいつも
自宅でなにかしら手を動かしています。
カーテンをちょっとこうしよう、とか。
- 中原
- ですよね。普段、家でも、
たとえばスリッパをどう片づけたらいいかとか、
考えるものですよね。
ところが販売してる人の視点からは、
そういうことが抜け落ちちゃうんですよ。
スリッパをどういうものに入れていたら
自分も気持ちよく出せるかな、とか、
お客さんの前で出すときに、
見ていて気持ちがいいだろうか、とか。
そういった生活上の自分の工夫、しつらい、
そういうことをもうちょっと出していこうと。
タイでこんなことがありました。
「あ、これ、もう絶対、スリッパ入れにいいな」
って思うものがあって、買い付けようかと、
そういう視点で僕が発言すると、
みんながハッとする。
そういう視点を養ってもらうアドバイスを
いま、繰り返している感じです。
- 伊藤
- そのスリッパ入れ、興味があります。
籠ですか?
- 中原
- 籠です。でも一瞬で完売しちゃいましたから、
また入荷しようと思ってます。
そして次は、「じゃあ、中に入れるスリッパは
どういうものがいいんだろう?」となるじゃないですか。
そういうことがバイイングって大事なんですよ。
- 伊藤
- それは日常生活でもそうですよね。
たとえば、この器が好きだなって思うと、
それをメインにしたら、グラスはこれ、お箸はこれ、
そういうふうに拡がっていく。
やがて、この質感が自分に合ってるんだなとか、
そういうことがわかるようになる。
ひいては、その器の先に見える景色を考えるようになる。
- 中原
- まさしく、そうですね。
- 伊藤
- テーブル、床、壁、窓、カーテン、
もう家全体に‥‥。
- 中原
- つながっていく、
膨らんでいく。
- 伊藤
- 小っちゃいところから始まって、どんどん拡がって、
やがてすごく素敵な、
自分にとって気持ちのいい場所ができていく。
- 中原
- 居心地、ってことですよね。
- 伊藤
- モノを選ぶということだけじゃなく、
片付けや掃除もプラスして、
全部が気持ちのいい空間をつくりたいって思うんです。
- 中原
- クイックに済ませたいことと、
時間をかけて楽しみたいことが、
生活には、あるじゃないですか。
たとえばコーヒーやお茶。
すぐに飲めるスタイルもあるけれど、
ゆっくり点てるための道具だってある。
ここ代官山のコンランショップで、
「ゆっくりコーヒーやお茶を楽しみたい時に、
何があったらいいのか?」とかいう話を僕はするんです。
話すっていうか、議論を吹っ掛けるっていうか(笑)。
- 伊藤
- お茶っ葉でじっくりのときもあれば、
ティーバッグで、っていうときもある。
だからカップ&ソーサーのときもあれば、
マグカップがいいときもある。
そういうことですよね。
- 中原
- そうです。あるいは「このお盆に何をのせる?」とか。
普通の若い子たちは家で
あまりお盆を使わないとは思うんだけれど、
人を招いたことがある経験があったり、
上質の仕事に参加したことがあったら、わかる。
そして自分のときでもそうするようになるんですよね。
お酒なんかにしても、
「このお盆にグラスを置いただけでスイッチが入る」
ということだってあります。
それって、気持ちがいいはずなんです。
- 伊藤
- お盆って、本当に小っちゃいものだけど、
「しつらえる」感覚があるんですよね。
- 中原
- それが一番感じられるアイテムですよね。
若い頃、それは、人からしてもらって、
初めて自分も気づいたことでもあるんです。
それで僕はそういうことがすごく好きになった。
- 伊藤
- 若い人も、知らないだけ、なのかもしれないですね。
- 中原
- オフィスで使うような工業的なトレイは知っていても、
家ではもうちょっと自分に優しいお盆を選びたい、
という気持ちを持ってもらえたら。
- 伊藤
- 「自分だけのために」でもいいですし。
お盆を選ぶと、器とお菓子とか、
コーディネートにも目が行くようになる。
- 中原
- 楽しいですよね、テーブルまわりって。
- 伊藤
- そういえば、中原さんって、
そもそもお家が、鹿児島の仕出し屋さんだったとか。
わんさか人が出入りするようなお家だったんでしょう?
- 中原
- (笑)うんうん。
宴会場もあって、仕出しもやっていて。
- 伊藤
- ご両親も大忙しだったはず。
- 中原
- そうそう、そうです。
- 伊藤
- いまの中原さんの仕事は、
そういうところから来てるのかな。
拝見していて思うのが、
チームでの動きかたのみごとさです。
もちろん個人でも動いているんですけど‥‥。
- 中原
- 基本は団体仕事に慣れてますね。
- 伊藤
- 中原さんのこれまでを
「weeksdays」の読者は知らないかもしれないので、
ちょっと解説しますと、
1971年、鹿児島生まれ。
ご実家は仕出し屋さん。
- 中原
- 厨房で仕出しをつくり、
店の入り口で肉屋と魚屋もやっていて。
奥には宴会場も。
敷地が奥に長いんですよ。
- 伊藤
- 人の出入りの多い、にぎやかなお家ですね。
- 中原
- 先日、母親の一周忌だったんですけれど、
もううちはだいぶ前に、
肉屋と魚屋をやめて、店先を空っぽにしてあったんです。
母親が亡くなったときはコロナ禍だったので、
サックリ身内だけで葬儀をすませたら、
近所の人たちからめちゃくちゃ怒られました。
「あんたは長男かもしれないけど、
私、マブダチなの!」って。
それで「すいません」みたいになっていたものだから、
妹と話して、「一周忌はみんなも来られるようにしよう」。
それで肉屋と魚屋の部分を開放して、
肉屋と魚屋時代の、母親が働いてるときのいい写真が
いっぱいあったから、その写真展をやったんですよ。
- 伊藤
- 素敵!
- 中原
- 大成功でした。
- 伊藤
- きっと、地域の皆さんが
頼りにしてるお店だったんですね。
- 中原
- そうですね。とにかくみんなが集まるお店でした。
だから、それをもう一回思い出してほしくて。
- 伊藤
- 思い出もあるし、味も覚えてるだろうし。
- 中原
- そこに小っちゃい祭壇作って、写真展やって、
「自由に入ってください」って2週間くらい
放ったらかしたんです。
- 伊藤
- そのとき、みんなで飲んだり食べたりも?
- 中原
- しました、しました。宴会場で。
「集まる場所を作る」っていうのは、
やっぱり自分も好きなんですよね。
- 伊藤
- うんうん。
人に託す、ということ
- 伊藤
- 中原さんがアジアのものだけで
あたらしいコンランショップのお店をつくろうと言った時、
周りの方々の反応はどうでしたか。
- 中原
- 周りにはあんまり相談しなかったんです。
日本の工芸に関しては、
素晴らしいお店がいっぱいあるし、
それにデザインも加えたものもできてきていましたけれど、
今、タイなどのアジア各国で
デザイン性が上がっていることもあって、
そういうものを扱うのに
いいタイミングじゃないかなって確信していたから。
- 伊藤
- タイも、そうなんですね。
- 中原
- かつて、日本の下請けとして鍛えられたメーカーが
自分たちの表現を始めているんです。
親の世代から代替わりした、
子どもたちの世代の経営者が増えました。
彼らはヨーロッパでデザイン教育を受けたり、
経済学を勉強して、自国に帰って、
親から家具メーカーを継ぐわけです。
- 伊藤
- 一回外に出て、いろんな空気を吸って。
- 中原
- 自分の家具ブランドをリブランディングしている。
そういうメーカーに、いいモノが、いっぱいあって。
日本で言うと、古い家具メーカーである
マルニ木工やカリモク家具が、デザイン性の高い、
新しい家具をつくっているのと似ていますね。
ちなみにこのテーブルはカリモク家具です。
日本のもののなかには、
飛騨産業と天童木工が共同製作する
KOYORI(こより)っていう
世界に向けてのブランドもありますよ。
- 伊藤
- ここに関わってきた皆さんは、
お店をつくるにあたって、
どういう気持ちだったんでしょう。
- 中原
- ゼロから作るお店だったので、
みんな、けっこうドキドキしてたと思います。
- 伊藤
- 設計は、中原さんのディレクションで?
- 中原
- 最初に空間を見たとき、
この構成(天井が高く、ロフトがある)から、
ストーリーは考えることができたのだけれど、
誰にデザインを頼もうかなと悩んで。
- 伊藤
- 自分では、なさらなかった?
- 中原
- うーん、かえって、やらないほうがいいかと。
それで、建築家の芦沢啓治さんに
お願いすることにしたんです。
かつてテレンス・コンラン(*)が
建築家ジョン・ポーソン(**)に
店舗設計を頼んだことを考えて、
「自分だったら芦沢さんだな」って単純に思って。(*)テレンス・コンランは、英国の家具デザイナー、
インテリアデザイナー、そしてライフスタイルショップ
「THE CONRAN SHOP」の創設者。
レストラン経営者でもあり、著述家でもある。2020年没。
(**)ジョン・ポーソンはイングランド出身の建築家。
独学で建築を学び、ミニマリズムに立脚した美学で知られる。
- 伊藤
- 芦沢さんは以前からご存知だったんですか。
- 中原
- 面識はありませんでしたが、
作品をずっと見ていて、気になる人だったんです。
それが、たまたま飲みに行ったら、
同じお店にいらしたので、頼もうと思って(笑)。
- 伊藤
- えええ!
それはよかったですねえ。
- 中原
- 「芦沢さんですか?
実は頼みたいことが」って。
- 伊藤
- 飲みの席で、びっくりされたでしょうね。
- 中原
- その場では案件は言わなかったんですけれども、
改めてお願いをしたら、
僕と仕事をしたいって以前から思っててくれたみたいで!
芦沢さんは商業施設もなさってるし、
個人のお宅もつくっているし。
ミニマルさもあるけれど、
アジアっぽさみたいな感覚もちゃんとあるんです。
- 伊藤
- そうなんですね、相思相愛だったんだ。
ましてやヒルサイドテラスなんて、
建築に携わっている人なら興味があるでしょうね。
- 中原
- そうですね。芦沢さんにとっても
代表作になったらいいなと思います。
それで、限られた予算っていうのもありながらも、
素材もできるかぎりいいものを使い、
丁寧にやってくれました。
スタッフも素晴らしかったです。
うまく雰囲気をつくってくれたと思います。
- 伊藤
- とくに「おおっ」って思った所はありますか?
- 中原
- いま壁面になっているところが、
以前は全部が内窓だったんです。
すりガラスでね、廊下に面していて、
隣のギャラリーがぼんやり見えるような。
でも、そんなふうに視線が抜けると、
気分も抜けて行っちゃうじゃないですか。
- 伊藤
- ちょっと落ち着かない気がします。
- 中原
- そう。壁があるっていうのが大事だと。
今回の仕事でいちばん芦沢さんっぽいのが、
その窓を全部閉じたことだと思います。
- 伊藤
- 逆に、明かりを取るために窓をつくるということは、
あったりしますよね。
- 中原
- そうなんですよ。そうしがちじゃないですか。
でもちゃんとここに「背景」を作ってくれた。
いいなあと思ったんですよ。
そういう空間構成、すごく上手だなと思います。
- 伊藤
- でも、だからといって、その背景に棚をつくりはしない。
そこがいいですよね。プロってすごいですね。
階段の手すりなども新しく?
- 中原
- はい。
手すりのデザインと、
階段を付ける位置までは、全部つくり直して。
大きいフレームはそのまま使ってるんですけどね。
- 伊藤
- 予算が限りなくあるっていうより、
これくらいでっていう中で知恵を絞った方が、
いいものができたりしますよね。
- 中原
- そうですね。特に僕らの場合は、
タイミングによって中のモノが相当入れ替わっていくので、
最初から空間として完成させてしまうより、
置くモノで印象が変わっていくほうがいいんです。
- 伊藤
- じゃあ、わりとシンプルなスペースに。
- 中原
- そうですね。かといって、
ホワイトキューブになったり、
部材むき出しの荒々しい感じも
ちょっと違うと思って。
いい具合にちゃんと整えてもらいました。
生活感もあり、お店らしさもあって、
その2ウェイのちょうどいいくらいの仕上がりです。
- 伊藤
- それでは今回のコンランショップの
アジア各地のモノ選びについて
もうすこし聞かせて下さい。
- 中原
- 今回は、現地で買い付けの旅を案内する人間が
3人いたんです。
彼らに共通しているのは、
モダンなものを志向しているということ、
ある程度生活の質を維持したいという気持ち。
つまり何を上質と考えるかという目安が同じ。
それは実際の自分たちの身の丈よりも、
もうちょっといいものが欲しいね、ということです。
- 伊藤
- 案内してもらって選んだものから、
中原さんが最終的な決断をなさった?
- 中原
- いや、僕が全部決めると、
自分の世界になりすぎちゃいます。
だからある程度のヒントを与える役割ですね。
みんなの生活のレベルが上がらないと、
いいものになっていかないですから、
まだ全然、発展途上なんですけれども。
- 伊藤
- 日本のコンランショップにバイヤーさんは
何人くらいいらっしゃるんですか。
- 中原
- 6人、だったかな。
- 伊藤
- そんなに、とも言えますけど、
少ない、とも言えますね、
今回、このショップのモノを選ぶうえで
現地に店舗スタッフと買い付けに行くのを決めたのは、
社長である中原さんでしょう?
- 中原
- そうですね。
コンランショップのバイヤーって、
もちろんバイイングの経験はあるんですけど、
基本的には本国の指示をあおぐわけなので、
こういう、店ならではのセレクトの経験がなかった。
だから、ここ代官山できちっと濃いものを作って、
それが他のお店でどうしていくかを
みんなに考えてもらおうと思っています。
つまり、ここは、社内に向けての
実験的な場所なんですよ。
働き方とか、そういった意味でも、すごく。
- 伊藤
- 働き方の実験というのは?
- 中原
- たとえば、時間。
11時オープンで、他の店は21時まで
やってる所もあるんですが、
ここは18時に閉める。
ほかは、無休ですが、
ここは水曜日を休みにする。
逆に、これからオープンするんですが、
地下でバーも始めるので、
夜になってから開けるスペースをつくるとか。
そういう自由さがあって、実験でもあるんです。
ニッポンに、アジアのお店を
- 伊藤
- 中原さん、そもそものお話を伺ってもいいですか。
なぜ代官山にショップを開くことになったんでしょう?
- 中原
- 僕がコンランショップの代表に就任した2022年4月、
お世話になっていたヒルサイドテラスの代表である
朝倉健吾さんのところに挨拶に来たんですよ。
僕、ここで、ヒルサイドマーケットっていうイベントの
ディレクターをやっているご縁もあって。
- 伊藤
- そうなんですね。
このショップが入っているのは、
いまおっしゃった「ヒルサイドテラス」という、
かなり大きな、住宅、店舗、オフィスの複合施設。
代官山ではほんとうに古くから(*)
愛されてきた場所ですよね。(*)ヒルサイドテラスは第一期の竣工が1969年。
設計は、槇文彦 槇総合計画事務所。
1992年までの数期に分けて、段階的に建設されました。
- 中原
- そうなんです。そうしたら朝倉さん、
僕がコンランショップの代表になったことを
とても喜んでくださって、
「ここに『ヒルサイドマーケット』のような店が
常設であったらいいって思っていたんだよ」と。
さらに、
「中原さん、タイミングよく、物件が空くんだ」。
- 伊藤
- えっ!
- 中原
- ここにはウェディング関連のお店があったんですが、
コロナ禍で結婚式の需要が減ったこともあって、
店を閉めることになっていたんです。
さらに和食屋さんだった地下も空く予定だと。
それで案内してもらったんですが、
そのときはまだ就任したばっかりだから、
「すぐには決められない」と、
いったん、お断りするかたちになったんです。
でもそのとき朝倉さんは「慌てる必要はないよ」と
おっしゃってくださっていました。
僕もコンランショップで路面店をひとつつくりたいな、
東京で一番ふさわしい場所はどこだろう? と
考えてはいたんです。
‥‥やっぱり代官山は質が落ちないですよね。
- 伊藤
- 旧山手通り沿い、わたしも、大好きです。
- 中原
- そう、品を保てている場所だし、
モダン建築としても重要な建物だから、
我々がやるならここがいいんじゃないかなと
思うようになりました。
そうして、朝倉さんへ、
あらためてもう一度わたしたちから打診をして、
決断したんです。
- 伊藤
- なるほど。
- 中原
- オープンまで、半年以上かな、準備していたんですよ。
- 伊藤
- ロンドンやパリなど、外国にあるコンランショップって、
古い建物に路面店として入っていたりしますよね。
日本では商業施設の中というイメージだったから、
ここに出店するのは、とてもいいなあと思いました。
- 中原
- 建物の形も複雑でおもしろいなと思って。
うんと天井が高くて吹き抜けになっている感じとか。
- 伊藤
- 憧れです。
これ、普通のお家じゃできないですもの。
- 中原
- 上階にいると、目線がきれいに路面を歩く人と合う、
ちょっと不思議な作りだなと思います。
ヒルサイドテラスって、
ヒルサイドパントリー(食材店)と
KUCHIBUE(坂田阿希子さんの洋食店)くらいしか
来なかったんですが‥‥。
- 伊藤
- たまに展覧会に来ますよ。
- 中原
- 僕もそうなんです。お隣の蔦屋書店(*)ほど
気軽に入れる場所ではないという印象がありますよね。
だから自分たちがそういう場所になれればなあと思います。
そしてコンランショップもちょうど節目で、
日本の一号店が出来て来年が30周年なんです。(*)代官山の蔦屋書店は、生活提案型商業施設
「代官山T-SITE」の中核となる大型書店。
- 伊藤
- もう30年!
- 中原
- そうですよね。ロゴも変わったんです。
- 伊藤
- そうなんですね。
いろいろと、よいタイミングだったんですね。
けれどもここ代官山のお店は、
わたしたちの知るコンランショップの商品構成とは、
またすこし違いますよね。
- 中原
- はい。基本は、アジアのもの中心になっているんです。
- 伊藤
- それはどうして、そういうふうに?
- 中原
- もともとコンランショップは英国の会社ですから、
英国の本社の主導で、
彼らがマーチャンダイジングしたものを
僕らが買い付けて売るというスタイルだったんです。
だからアジアのものは、ほぼ、なかったんですよ。
それはそういうビジネスとして
成立していたわけですけれど、
こんなにいいものがいっぱいあるアジアで
30年もやってきたのに、
自分たちでセレクトしてないのはもったいないなと思って、
自主編集型のお店を1つだけ作りたいということで、
本国に許可を取るっていうか、プレゼンテーションして、
この店を開いたんです。
- 伊藤
- それを言ったとき、本社のみなさんは
どんな反応だったんですか。
- 中原
- すごく喜んでくれました。
- 伊藤
- だって、そもそも中原さんに
日本の社長を任せたんですもの。
- 中原
- 逆に言うと「もっとアジアの情報が欲しい」とも。
- 伊藤
- そうですよ、いいものがいっぱいありますから。
中原さん、アジアによく行かれているな、
なぜだろう? と思っていたんですよ。
それは、この店をつくる準備だったんですね。
- 中原
- 去年の年末前くらいですね。
ただ、コロナもあって、多くの国は
回れなかったんですけど。
- 伊藤
- たしか台湾に行かれていましたね。ほかにも?
- 中原
- 台湾、タイ、韓国に行きました。
中国は知り合いにお願いしたんですが、
それ以外は僕が行きました。
自分たちの足で見つけたいというとき、
誰にアテンドしてもらうか、
すごく大事なことなんです。
僕らの要求に対して
いろんな所に連れてってもらえるよう、
ちゃんと人選をしました。
- 伊藤
- ふつうの旅でもそうですね、
誰に連れて行ってもらうかで変わります。
食べる所とかだって、自分の趣味に合わないと。
- 中原
- はい、結局「人」だなと思います。
- 伊藤
- そうです、全部「人」。
現地を案内くださるかたは、
中原さんがもともとお付き合いがあった中から
探されたんですか?
- 中原
- いや、今回のために。
探していく中で出会ったんですよ。
- 伊藤
- アジアって、いろんないいものがありますよね。
- 中原
- そうなんですけれど、
今までのコンランショップからすると、色が絞られますね。
アジアでモノを選ぶと、同じような色になります。
- 伊藤
- 色のバリエーションが限られるということ?
- 中原
- そうなんです。
アジアには、原色のものがそんなにない。
赤やインディゴ系はあるんですけど、
やっぱりクラフト色の強いものがアジアは多いです。
だから選ぶと、わりと茶系とかベージュとかグレーとか、
自然な、淡い色が多いですよね。
逆に言えば、アジアにこそ似合う色が
あるんだろうなあと思います。
- 伊藤
- なるほど。
ヨーロッパやアメリカとはまた全然違う感覚ですね。
- 中原
- そうですね。
アメリカ内で見るときれいな赤や青のお皿を
日本に持って帰ってくると、
あんまりしっくりこないことがありますね。
- 伊藤
- わかります!
- 中原
- 微妙な色合いのもののほうが、日本の風土に合います。
いわゆる青磁とか。
- 伊藤
- なぜでしょうね、空気とか光とか‥‥?
- 中原
- そうですね。湿度もあるし、
見えない空気の色みたいなのが足されるから
印象が変わるんですよね、きっと。
日本って、滋味深いなかに
いろんな色のバリエーションがあるんです。
同じ白でも、いろんな白がある、というような。
青みがかった磁器の白と、
黄色っぽさのある陶器の白があるように。
- 伊藤
- ほんとうにそうですね。
やさしく、ていねいに
- ──
- 青黒檀という素材は、
原産国のタイでは1979年に伐採が禁止されたことで
流通量が非常に少ないと聞きました。
吉岡さんのところにある青黒檀というのは
どんな経緯であったんでしょう。
- 吉岡
- 多分もう14、5年前になると思いますが、
青黒檀をたまたま手に入れた国内の材料屋さんから
分けていただいたんです。
とても貴重なものですから、
すぐにその材料屋さんからも無くなってしまいましたが、
私のところでは、当時仕入れたものを、
少しずつ製品にしていきました。
今回、少しだけ残っていたその時の青黒檀を使って
おはしをつくった、ということなんです。
- ──
- 今回のぶんは、吉岡さんのところに残っていた
在庫だったんですね。貴重なものをありがとうございます。
黒檀の種類はとても加工が大変だとお聞きしました。
これは青黒檀でも同じようなことなんでしょうか。
- 吉岡
- 青黒檀と黒檀は、
材質自体の硬さは同じぐらいですが、
青黒檀のほうは、材料自体に
ひび割れがたくさん入っているんです。
それを選木しながら加工をしますので、
10あったら4とか3とかしか取れないんですね。
- ──
- 半分以下なんですね。
しかも硬いわけですよね、その他の木に比べても。
- 吉岡
- 縞黒檀‥‥普通の黒檀のことなんですが、
それよりもさらに硬いです。
「weeksdays」で扱っていただいている黒檀は
「アフリカ黒檀」というものなんですが、
それと青黒檀は、ともに硬い材料ですね。
そして硬い木にも「目」の通ってないところがありまして、
そういうところでおはしをつくっても、
強い木であっても折れてしまうんです。
ですからそういう選別を常にやりながら加工をしています。
おはしをつくるときは、どんな種類の材木でも
同じ苦労があるのですけれど、
青黒檀はとくにそれが顕著なんですよ。
- ──
- 青黒檀の「青」は、信号機とおなじで、
じっさいは緑がかかっているそうですね。
ただ、おはしになった状態で「色がちがう」とは
なかなかわかりづらいですね。
- 吉岡
- そうですね、製作過程で
サンドペーパーで磨くときによく分かるんですが、
ペーパーに緑色の粉がつくんです。
木自体は黒なんですけれど、
緑が多く含まれているんですね。
それも、すごく深い深緑です。
- ──
- その深い緑色というのは?
- 吉岡
- 樹脂ですね。
ただ、おはしになった状態で
その「深緑」が目に見えるかというと、
そういうわけでもないんです。
ぼくらプロの目からすると、
アフリカ黒檀と青黒檀はとてもよく似ているのだけれど、
アフリカ黒檀の方が黒が強いという印象がありますが、
一般的には、見分けが難しいと思います。
- ──
- 布で磨いても緑は出ない、‥‥ですよね。
- 吉岡
- はい。本当に固い布できつく磨くと、
表面が擦れたような形で色が移るとは思いますけれど、
普段づかいで磨く分には
はっきりわかるほどの色うつりはありません。
- ──
- 逆にいうと、アフリカ黒檀と見分けづらいので、
前回ご購入いただいて、とてもいいので買い足そう、
という人が今回青黒檀を選ばれたときに、
食器棚のなかでも食卓でもちぐはぐな感じにはならず、
食卓が統一感をもって揃えられると考えてもいいですね。
- 吉岡
- そうですね。
違和感なくお使いいただけると思います。
- ──
- 吉岡さんのところでは、
今後の入荷が見込めない以上、
「weeksdays」での青黒檀のおはしは
今回限りの入荷となるとか‥‥。
- 吉岡
- そうですね、在庫は、もう、ほとんどありません。
今後、もし入手ができたらとっておきますけれど。
- ──
- 分かりました。
日々、使うときのことをお聞きしたいんですが、
以前のアフリカ黒檀と同じで、
なるべく洗剤を使わずに
やわらかいスポンジなどで洗い、
すぐに乾いた布で拭いて乾燥させる、
ということで良いんでしょうか。
- 吉岡
- そうですね、食洗機を使わず、
金属たわしでゴシゴシと磨かずに、
やさしく洗って拭いてください。
- ──
- 使っていくうちに、少し白くなってきたら、
布で磨いてあげると、
黒檀らしい黒さが戻りますね。
これも、黒檀と青黒檀の共通点でしょうか。
- 吉岡
- はい、そうです。
そうは言ってもうんと硬い布で力任せに磨く、
というのはやめてくださいね。
削れや割れの原因になりますから。
うちの工房では、塗装をしていないおはしには、
かさかさしてきたら荏胡麻油を、
と言っているのですけれど、
青黒檀もアフリカ黒檀も木の特徴として粘りがあって
油分をふくんでいるゆえのつややかさがあるんです。
だから柔らかなティッシュペーパーで磨くだけでも
木の油分でつやが出せるんですよ。
その辺が他の木とは違う個性ですね。
- ──
- わかりました。ありがとうございます、
青黒檀のことがよくわかりました。
吉岡さん、今後ともぜひよろしくおねがいします。
- 吉岡
- ありがとうございました。
こちらこそよろしくお願いします。
ほぼ日乗組員の「わたしのおはし」
すわ・まりさ
東京うまれ。旅行好き、アウトドア好きの両親に連れられ
小さな頃から日本・世界のあちこちを旅する。
大学在学中に「ほぼ日」で受付のアルバイトを経験。
卒業後は高知県のデザイン事務所に勤務。
現在は「ほぼ日」デザインチームに所属し、
weeksdays、やさしいタオル、つきのみせなどを担当。
好きなものは? と訊くと、
「家での食事はかならず写真に撮り、
自分が見る用にひとつのフォルダに入れ、
日記のように遡り、1年前のこの時期これ食べてたなと
思い出して料理をするのが好きです。
野菜や魚など食材の旬のカレンダーも好きなので、
スマホのホーム画面にいつでも見られるように
入れています」とのこと。
趣味はかわいい箱と包装紙のコレクション。
大人の階段
weeksdaysの商品撮影のときに
伊藤まさこさんのスタイリングで
その佇まいのきれいさを目の当たりにして
この黒檀のおはしがとても欲しくなりました。
じつは今までおはしにこの値段を出したことがなかったので
ちょっと大人の階段を登る気持ちでしたが
それ以来本当に毎日毎日使っていて
生活にかかせない道具となっています。
見た目の美しさもですが
なによりも料理を掴みやすいところが
一番気に入っています。
焼魚の身をほぐしたりするときや、
にゅうめんなどの麺類、お味噌汁の具材、
お豆腐のようなつるつるしたものも上手に掴めて
おはしの使い方が上達したかも? と思ってしまいます。
また、見た目が細いので
繊細で気を遣うかなと思っていたのですが
いざ手にしてみるととても印象が変わって
密度のしっかりした強さに
頼りなさを感じることはありません。
伊藤さんも商品ページに書かれている通り
キリッとした磁器や土ものなど、
あらゆる器と相性がよいことも
毎日使いやすいポイントだと思います。
商品ページのスタイリングにもありますが
東屋の磁器のお皿との相性もとても良く、
私はお昼ごはんによくやきそばなどをこの器に盛ります。
最後にこのおはしをセットすると
テーブルの上が引き締まって気分が良いです。
すこし表面が白っぽくなってきたら
布でみがくと黒檀のしっとりした黒色が戻ってきて
スルスルとした表面になります。
食べているときだけじゃなくて、
洗っているとき、片付けたとき、
お手入れしているときも
うれしい気持ちにしてくれるおはしです。
お手入れしながら長く使っていきたいです!
再入荷のおしらせ
完売しておりましたアイテムの、再入荷のおしらせです。
8月10日(木)午前11時より、以下の商品について、
「weeksdays」にて追加販売をおこないます。
わたしのおはし(黒檀)
すっとした、
見た目の佇まいにまず一目惚れしました。
しっとりした黒は、
漆器やキリッとした磁器、
おおらかな土ものなど、
あらゆる器と相性がよく、
テーブルの上を格段に美しく見せてくれます。
持つと分かるのですが、
しなやか。そしてかたい。
まるで第二の手のように、
気持ちいいくらい料理をうまく掴む。
美しいだけではない、
「道具」としても優秀なお箸なのです。
素材は、
ていねいに使い、
手入れをすれば一生ものと言われている黒檀。
半年間、毎日使ってそのよさを実感しています。
(伊藤まさこさん)
関根由美子さんの「わたしのおはし」
関根由美子さんのプロフィール
せきね・ゆみこ
ふだん使いをテーマに、リトアニア産の麻素材で。
シンプルなデザインのキッチンリネンやベッドリネン、
ウエアなど、日々の暮らしに寄り添う布製品と
雑貨を展開する、下北沢「fog linen work」のオーナー。
すべてのアイテムがオリジナル、
関根さんはそのデザインと企画を行なっている。
また、南インドの人たちの日常着「ルンギ」の生地を使って
いろいろな商品を作るべく、あたらしいブランド
「miiThaaii」(ミーターイー)を立ち上げ、
自らが現地への仕入れに赴いている。
下北沢のショップでは
fog linen workとmiiThaaiiのオリジナル製品のほか、
インドのワイヤーバスケットや雑貨類、
世界各国のアクセサリーやインテリア雑貨を販売。
■fog linen workのwebsite
■miiThaaiiのwebsite
■fog linen workのInstagram
■miiThaaiiのInstagram
●関根さんと伊藤さんの対談「さがす、えらぶ、つくる。」
ひとつ増えたら、ひとつ減らすの精神
「ずっとお箸を探していたのですが、
なかなかいいのがなくて‥‥」と関根さん。
デパートのお箸売り場に出向いたりもしたけれど、
しっくりくるものに出会えなかったのだとか。
そんな時に見つけたのが、
weeksdaysの黒檀のお箸。
「ちょっと高かったけれど、
伊藤さんのおすすめならば大丈夫。
そう思ってまとめ買いしました」
と関根さん。
責任重大‥‥だけれど、
そう、このお箸、本当にいいものなんです!
「使い心地もとてもよく、
買ってよかった! と思いました」
weeksdaysで、
いつもお世話になっている関根さんですが、
じつはweeksdaysのお客さまでもあるんです。
今日もほら、
リビングの片すみに日めくりカレンダーが。
いつもすっきり整頓されている関根さんの家。
ものが増えると、
息苦しくなるよう。
「one in, one out」
ひとつ増えたら、ひとつ減らすの精神は、
お箸も同じ。
黒檀のお箸以外は、すべて処分したのだそう!
この潔さが、気持ちのいい空間を
保つ秘訣なのかもしれません。
時々、
ごはんに誘ってくれる関根さん。
お酒片手にうかがうと、テーブルに用意されているのは、
weeksdaysのオーバルプレートと黒檀のお箸。
6人分とか、あるときはそれ以上、
ずらりと並ぶ姿は圧巻なのです。
「お客さまも多いので、
もう少し買い足したいなと思っているところです」
それはぜひ!
カトラリーは、柳宗理の
黒柄のものを使っているという関根さん。
「カトラリーとの相性がいいところも、
気に入っている理由」
黒檀のお箸に、黒い柄のカトラリー、
黒いリネンのナプキンは家用に作ったものだそう。
「それから、和に寄りすぎないところもいいんです。
塗りのお箸だと、お皿をえらぶけれど、
黒檀はこんなプレートとも合う」
黒い器に、黒いお箸。
黒って料理が映える。
柄のプレートもすてきだけれど、
このコーディネートもまたいいなぁ。
この日は、30度を超える夏日でしたが、
関根家はあいかわらず、涼やか。
吟味されたもので、すっきり暮らす。
家も、関根さんご自身も、
風通しがよいのでした。
わたしのおはし 黒檀と青黒檀
使うたびに好きになる
今日はどんな器にしようかな。
料理を作りながら、
そんなことを考えます。
いったい今まで、何回繰り返してきたんだろう?
何千、いやもしかしたら何万回?
同じ料理でも、
その時の気分や季節、
食べる時間帯なんかでも、
盛る器は変わるもの。
じっくり考えた時よりも、
案外、さっと手に取った器にラフに盛る方が、
いい時もあったりして。
器と料理って、
なかなか奥が深いなぁって思います。
だから繰り返しても飽きないのかな。
黒檀のお箸が我が家のテーブルに加わってから、
その奥深さが深まった気がしています。
置くだけで、その場がきりりと引き締まるのに、
持つと、やさしい。
飽きがこないどころか、
使うたびに好きになる。
もっと使いたくなる。
これって、なんだかすごいんじゃないかな、
そう思っています。
今回、新しく加わったのは青黒檀のお箸。
これがね、またいいんですよ。
どうぞおたのしみに。
タイパンツ、あのひとに着てもらいました 2・山室瑠衣さん
山室瑠衣さんのプロフィール
やまむろ・るい
ウエディングドレス&ハンドニットウェアデザイナー。
1981年北海道生まれ。
東京にて服飾パターンを、
パリにてオートクチュール刺繍を学ぶ。
2006年よりウエディングドレスデザイナーとして、
23年よりハンドニットデザイナーとしての活動を始める。
毎日の静かでささやかな生活そのものが趣味。
豊かな気持ちで日々を生きれるような品々や作品
(音楽や本や絵)に囲まれることを大切にしている。
「たまに海外旅行をして次の生活拠点の場所や
物件を探すのもひとつの楽しみです」
「ほぼ日」では連載「編む人。」にも登場。
「20代は毎日のようにタイパンツを穿いていたんです」
というのは、ウエディングドレス&
ハンドニットウェアデザイナーの山室瑠衣さん。
最初に買ったのは、
タイの「ど派手」な柄のものだったとか!
今の山室さんからは想像がつかないけれど‥‥
「Tシャツやタンクトップと合わせて、
ユニフォームのように着ていました。
それこそ、穿いていないと落ち着かないくらい」
その後、好きが高じてそのタイパンツからパターンを取り、
素材を変えて(中にはシルクのものもあったとか)、
ご自分で何枚も縫われたとか。
擦り切れるくらい穿き倒したタイパンツでしたが、
30代を迎え、
突如、山室さんの中でミニスカートがブームに。
「ミニスカートを穿くのは今しかない、って思ったんです。
タイツに、ぴたっとしたニットを合わせて」
だからタイパンツを穿くのは久しぶり。
「久しぶりに穿いたら、
やっぱりいいなと思いました」
最初に穿いてもらったのはホワイトのタイパンツ。
「厚手のものと違いリネン素材は落ち感があって、
シルエットがエレガント。
ジャケットとも合いそうです」
合わせたのは、ご自身作のニット。
足元はローファー。
タイパンツからちょこっとのぞく靴下や、
首元に巻いたスカーフが効いています。


トップスを黒に変えると、
またイメージが変わります。
赤いスカーフとサンダルが、これまたすてき。
スカーフはヴィンテージのものや、
ブランドものをえらぶことが多いとか。
「空港の免税店でもチェックするんですよ」と山室さん。
古着屋からブランドの免税店まで。
山室さんのお眼鏡にかなったスカーフは、
どれも彼女らしいものばかり。
すごくよくお似合いです。
「秋冬のコーディネートも考えてみました」
といって着てくださったのは、
友人のブランド「BYT (ブイト)」の赤いニット。
「ゆとりのあるタイパンツには
ぴたっとしたシルエットが合うと思って‥‥」
ウェスト部分でくるっと巻いたリボンと、
タイパンツのリボンがかぶっても、
けして野暮ったくならないそのセンス。
華奢だからこその着こなしも憧れます。
立ち姿も美しい。
エスニックなイメージのタイパンツですが、
リネンの素材と、着こなしで洗練された大人のパンツに。
続きまして、
初秋の着こなし。
合わせたのはもちろんご自身のニット。
リネンだからといって、
夏だけのものにしておくのはもったいない。
一年中穿けると思うと、
ホワイトとブラック、両方欲しくなっちゃうなぁ‥‥。
「集中するのが好き」という山室さん。
編み物は、
仕事でもあり、気分転換でもあり、
また瞑想に近い感覚でもあるのだとか。


通りがかるたびに中はどんな感じなんだろう?
と気になっていた、
都心のヴィンテージマンション。
好きな空間に好きな家具。
すっきりさせるところはさせて、
気に入りは上手に見せる。
着こなしも、住み方も、
そして山室さんが作り出すニットも、
どこか一本、筋が通っていたのでした。
タイパンツ、あのひとに着てもらいました 1・料理家 冷水希三子さん
冷水希三子さんのプロフィール
ひやみず・きみこ
料理家/フードコーディネーター。
レストランやカフェ、料理旅館などへの勤務を経て独立。
季節素材を生かした料理が評判で、料理教室は常に満席。
著書に『ONE PLATE OF SEASONSー四季の皿』
(アノニマスタジオ)
『ハーブのサラダ』(アノニマスタジオ)
『さっと煮サラダ』(グラフィック社)
『スープとパン』(グラフィック社)など多数。
「タイパンツ」と聞くと、
ついエスニックなものを想像してしまいますが、
今回作ったのは、
ふだんの私たちのワードローブにぴたっとくる、
大人っぽいタイパンツ。
素材も、以前販売したインディゴのコットンから、
白と黒のリネンに変わり、
より洗練されたイメージになりました。
ふだん、パンツをえらぶことが多いという、
料理家の冷水希三子さん。
彼女だったら、
どんな風に穿きこなしてくれるだろう?
ご自宅にうかがうと‥‥
あれ? もうすっかりご自分のものになっている!
やっぱり似合うと思ったんです。
「家着でもなく、フェミニンに寄りすぎてもいない。
すごくバランスいいですね」
と冷水さん。
少し厚手のリネンは、
リラックス感がありながらも、
合わせるものによって、
きちんとした印象にもなる。
ゆったりしていながらも、
穿くとスッとして見える。
その言葉通り「バランスいい」んです。
華奢なイメージの冷水さんですが、
「いえいえ、ふつうにウェストはしっかりあるんですよ」
(そうは見えないけれど‥‥)。
でも「しっかりある」人でも、調整が効くので大丈夫。
冷水さん、今日はTシャツをインにして
ベストを重ねました。


ベストからちらりと見えるTシャツの白。
きゅっとまとめた髪にキャスケット。
サンダルから覗く素肌の分量。
シルバーのブレスレットとゴールドのリング。
一見、シンプルなんだけれど、
じつはいろんな仕掛けがある。
一口、食べると「お!」と思う、
冷水さんの料理とおしゃれ、
なんだか共通点があるんです。
白のパンツに白いシャツを。
黒とはまた一味違って、
すっきりきれいな着こなしです。
「じつは、Tシャツだけにしようと思っていたのですが、
鏡を見て、何か足した方がよさそうだなと思って、
シャツを重ねました」
今の家のオーナーは、
ファッション関係の方。
家にはなんと4枚もの全身鏡があるのだとか。
「前の家には小さな鏡しかなかったので、
ここに住むようになって、客観視できるようになったかも」
ここ数年で着る服が変化してきたという冷水さん。
「前は、ふわっとしたシルエットのものを
えらぶことも多かったけれど、
なんだか似合わなくなってきて‥‥
襟ぐりの開いたものだと心許なくて、
襟つきのシャツをえらんだり」
ほとんど履かなかったというスニーカーも、
最近、出番が多くなってきたんですって。
さて穿き心地はどうでしょう?
「すごく穿きやすいですね。
それから動きやすくもある。
今の季節はもちろんだけれど、
冬はニットを着てもよさそう」
Tシャツやストローハットと合わせたら夏仕様。
ニットと合わせたら冬仕様。
合わせるものによって、一年中着られる。
冬のパンツ姿もきっとすてきに違いありません。
えらぶ服が変わってきたように、
料理も、えらぶ器も
少しずつ変化をしているという冷水さん。
いつか、料理や器の話も、
聞かせてもらいたいなぁ。
タイパンツ、こんなコーディネートで 伊藤まさこ
ベーシックで、
合わせるものをえらびません
quitan LINEN NAVAL THAI PANTS(BLACK)/quitan
HALF SLEEVE BOXY TEE(White)/ALWEL
サンダル 伊藤まさこ私物
着ていて楽なのに、きれいに見える。
これ、私が思う服の理想。
無理はしたくないけれど、
だらしなく見えるのはイヤなんです。
以前、コットンのデニム素材でご紹介したタイパンツ、
今年はリネン素材に変えて作りました。
何人かの方に穿いていただきましたが
(もちろん自分でも)、
リネン素材はシルエットがやわらかく、
着た人をやさしい雰囲気に見せてくれる。
ここではTシャツと合わせていますが、
じつはジャケットにも合うんです。
コーディネートによって
「きちんと」した感じになるところもうれしい。
サイズはひとつ。
このウェスト部分のひもを調整して、
ジャストで穿いても、または少しゆるめても。
トップスをインにするか、
またはアウトにするかによって調整も可能。
このタイパンツの形、
本当によくできていて、
みんなの体型にしっくり馴染む。
じっさい、quitanのお客様も
試着した方のほとんどが購入を決めるそう。
quitan LINEN NAVAL THAI PANTS(WHITE)/quitan
HALF SLEEVE BOXY TEE(Black)/ALWEL
透けが気になる、という方も多いホワイトですが、
ベージュ系の下着をつければその心配はなし。
今回も、試着したみんなが「大丈夫」。
そう太鼓判を押してくれました。
もしもそれでも、という方は
下にベージュ系のペチパンツを穿いて。
もしくは、あえて透けを楽しむよう、
トップスと合わせて黒い下着をつけても。
スニーカー 伊藤まさこ私物
ここではブラックとホワイトで統一しましたが、
デニムくらい合わせるものをえらばない、
ベーシックさ。
ワントーンで、または差し色を入れて。
夏ならではの着こなしを楽しんでください。
quitan リネンのタイパンツ
コットンからリネンへ
いつだったか、
パリでシンプルな鶏のスープが飲みたくなり、
骨つきもも肉を買って、
ことこと煮込むことにしました。
味つけは塩のみのそのスープ、
旅の疲れた胃袋にとてもやさしかったのですが、
いつもと一味違う。
なんだか洋風なのです。
隠し味に使ったネギがポロネギだったからというのが、
理由の一つ。
あとは鶏本来の味とか、
水とか、空気とか?
そんなものが、
いつものスープを「パリ味」に仕立て上げたに違いない。
ちょっとの違いのはずだけれど、
そのちょっとで、
まったく違う方向に向かう。
思わずできたスープの味に、
うーんとうなった夜なのでした。
食い意地が張っているものだから、
ついたとえが食べものになってしまうけれど、
断言します。
「素材違いは違う服」なのだということを。
同じ形でも、
素材が変わるだけで、
こうもイメージが違うのか。
そう感じたのは、
今回ご紹介する、quitanのタイパンツ。
インディゴのコットンから白と黒のリネンへ。
できあがっていくにつれて感じた、
おおっと驚くばかりの変身ぶり。
服っておもしろいなぁと思うのは、
こんな瞬間です。
鉄のお皿、わたしの使い方 伊藤まさこ
洋でもなく、和でもなく
ふだん、我が家ではこんな風にキャンドルを置いています。
立ち上がりがあるので、
木のテーブルに置いても、
熱が伝わりにくいんです。
大きい方にはキャンドルを、
小さな方にはマッチを置いて。
今回、作っているところを見せていただきましたが、
素材としての「鉄」と、
おふたりの作業によってできあがる「鉄の作品」とでは、
まるで違う雰囲気。
無骨な素材ながらも、
私たちの家の中にすんなり溶け込む作品に
しあげているのはさすがです。
この表面の美しさ!
キャンドルを置かずとも、
こんな風に2枚を並べて、
鉄の風合いを楽しむことも。
リネンのカーテンや木のテーブル、竹のかご‥‥
ふだん見慣れた暮らしのなかの様々なものを、
鉄の黒が引き締めてくれる。
これはうれしい発見でした。
ピアスや時計、サングラス‥‥
帰ってきたら、まずはここに置いて。
身の回りのこまごましたものの置き場所を、
作ってあげると、
「あれ? どこにいったっけ?」なんてことになりません。
鉄のお皿の小さい方に、
クッキーとコーヒーを。
鉄と焼き菓子、
鉄と木。
黒と茶色は好相性です。
洋でもなく、和でもない、
シンプルな鉄の皿は、
和菓子を置いてもいい。
ここではハランを一枚、間に挟みました。
お皿の底に立ち上がりをつけたのは、
「持ちあげやすい」という理由もあったけれど、
テーブルとの間に少しだけ影が生まれるところもいいなと思ってのこと。
横から見た様子も、
スッとしていてきれいでしょう?
もっと暮らしに鉄を
- 伊藤
- お皿について、
もうすこし聞かせていただけますか。
どうして鉄でお皿をつくろうと? - 神宮寺
- 鉄のお皿は絶対に割れないからなんです。
けっこう、わたしたち、陶磁器を割っちゃうので
「お皿で鉄があったらいいね」って。
あと鉄ならではの模様がカッコいいので
「これを見てもらいたい」っていう気持ちもありました。 - 伊藤
- 模様をそろえるのが大変だとか。
- 片岡
- 難しいんです。
焼き具合で全然違っちゃうんで。 - 伊藤
- そうか、この焼き具合で。
- 片岡
- そうなんです。
焼きがあまいと、
ツルツルが残っちゃったり。 - 伊藤
- 元になった原料を拝見してから、
できあがったお皿をながめると、
作品性の高さが理解できました。
▲完成品(左)と加工前の原料(右)
- 片岡
- 模様は、真っ赤になって、表面が酸化して
はがれるんですが、その具合です。
全然、模様が変わってくるんです。
火のあたり具合で変わるんですよ。 - 神宮寺
- それも石炭だからこそ、出る模様なんです。
- 片岡
- あったまり方が違うと、
はがれ方が全然また違うので。 - 伊藤
- バーナーだと?
- 片岡
- バーナーだと出ないです。あの感じは。
- 伊藤
- そっか。
どれくらいの時間で、
あの1枚ができるんですか? - 神宮寺
- うまくいけば、
小っちゃいのだったら、最初の形をつくるのは
5分くらいでしょうか。
脚をつけない状態で、ですけれど。 - 片岡
- でもそこから平らな加減を直したりで、
時間をとっちゃうんですけど。 - 伊藤
- へぇ。大きさですが、
大小がありますね。
- 神宮寺
- いろんな大きさがあったほうが、
使い勝手がいいと思って、ですね。 - 伊藤
- ふたりはどんなふうに使っていますか。
- 神宮寺
- そのまま食材をのせたり。
- 片岡
- クッキーを出したりするときにも。
- 伊藤
- キャンドルとか?
- 神宮寺
- そう、小っちゃいのは
キャンドルを想像してつくりました。
あと、ピアスを置いたりするのにも。 - 片岡
- 玄関でカギを置いたりとか。
「ちょっと置く」ぐらいが、
すごくいいんですよ。 - 伊藤
- テーブルに直接置くのではなく、
何かほしい、っていうときってありますよね。 - 片岡
- そう、そうなんです。
- 伊藤
- 置き場があるとうれしい。
そっか、そうですよね。 - 片岡
- それぐらい気軽に、
鉄を生活に取り入れてもらえたらいいな。 - 伊藤
- 鉄、使うと良さがわかりますよ。
ところで今回のお皿は
「蜜蝋仕上げ」にしていただきました。 - 神宮寺
- はい。日常生活で
雑貨としてお使いいただくことを想定して、
錆の防止に塗っています。 - 伊藤
- 蜜蝋を塗るのはたいへんなんでしょうか。
- 片岡
- いえ、蝋が溶けるのが60度ぐらいなので、
鉄がそれぐらいまで冷めてきたら蜜蝋を塗って、
ちょっと余分な分を拭きとるだけです。 - 伊藤
- 蜜蝋なので自然と薄くなったりしますよね。
もし部分的に、蜜蝋が取れて、
錆(さび)が出てきたら‥‥? - 片岡
- もし、部分的に錆びてきたら、
錆をこすって取ってください。
直火でちょっとあっためてから、
植物系のオイルを塗り込んでもらえればいいですよ。
あたためるときはガスコンロで。
直に持つと熱くなりますから、
トングで持って炙ってもらえば。 - 伊藤
- 蜜蝋仕上げだと、60度で溶けるから、
お皿といっても熱いものを置いたらだめですよね。 - 片岡
- はい。
- 伊藤
- 水っぽいものは避けるとか?
- 神宮寺
- 水というより、酸系に弱いですね。
レモンとかは、けっこう酸が強いので
錆が進行しちゃうんです。
それでも、使ったら、すぐ拭きとれば大丈夫。
できればレモンを置きっ放しにしないでくださいね、
というくらいです。 - 伊藤
- なるほど。
お手入れもさほど難しくないですね。
片岡さん、神宮寺さん、
今日はありがとうございました。
来てよかったです。 - 片岡
- こちらこそ、ありがとうございます。
- 神宮寺
- ありがとうございました!
石炭がやわらかさを出す
- 伊藤
- 今は、どんなふうにお仕事を?
- 片岡
- 基本は受注生産です。
知り合いづてで、っていう感じです。 - 伊藤
- 軽井沢の須長さんたちとは、
どんなご縁だったんですか。 - 神宮寺
- 軽井沢で工務店をなさっている大工さんに
紹介してもらったんです。
「ここで展示会をやりなよ」みたいな感じで、
須長さんのお店を教えていただきました。 - 片岡
- その大工さんは、
表札とか、金物が必要になると、
私たちに依頼をしてくださるんですよ。 - 伊藤
- そうなんですね。
ふたりが考える以外で、
「こんなものをほしい」っていう依頼で、
驚くことはありますか。 - 神宮寺
- うーん? なんだろう?
- 片岡
- 基本が受注生産なので、
お客さんと何回かやりとりをして、
デザインを最終決定するので、
すごく驚くことはあまりないかもしれません。 - 伊藤
- じゃあ、なんでも、つくれるということ?
鍛冶場の中も全部つくったとおっしゃっていたので、
とても驚いたんです。


- 神宮寺
- 排気・排熱の三角形の部分は自作です。
といっても溶鉄で板をくっつけるだけなんですよ。 - 伊藤
- 「くっつけるだけ」って!(笑)
- 片岡
- 中二階はこれからつくる予定です。
- 伊藤
- すごいです。
ここに越してきてからは、何年に? - 神宮寺
- 今、ちょうど1年ちょっとです。
- 片岡
- 前の工房に3、4年いまして、
ここに越してきて1年と少しですね。 - 伊藤
- やっぱり、ふたりで。
ふたりじゃないと、
できないこともあるんですよね、きっと。 - 神宮寺
- ありますね。
- 片岡
- ひとりでできることでも、
ふたりのほうが早くできるんです。 - 伊藤
- 鍛冶作業の「相打ち」でしたっけ、
熱いうちにふたりで交互に打つ作業は、
ふたりのほうが早いですよね。
その迫力に驚きました。
もちろん表情も真剣で。
- 片岡
- ははは。怖いですよね。
- 伊藤
- ちょっと間違うと大けがしちゃうでしょう?
大変な仕事だなと思いました。しかも素手だし。 - 神宮寺
- でも、ケガって、そんなにしないんですよ。
- 伊藤
- そうなんですか!
- 片岡
- もし目に入ったりしたら怖いですけど、
ふだんは‥‥ちょっと、やけどとか、
そのぐらいですから。 - 神宮寺
- 手を切り落としちゃうとかはないので!
- 片岡
- 木工のように、回転のこぎりのような
大きな機械を使う仕事のような怖さはないんですよ。 - 伊藤
- ええぇぇ‥‥!
- 神宮寺
- 使う道具も、手で持てるものがほとんどですし。
- 伊藤
- そうなんですね。意外だったのは、
石炭に水を使うこと。びっくりしました。
- 神宮寺
- 水を使ったほうが、
燃え方がいい感じになるんですよ。 - 伊藤
- 水を入れてから混ぜていましたよね?
あの加減で火の燃え方が? - 神宮寺
- はい。新しい石炭を、一回、蒸すんです。
- 伊藤
- あ、蒸すんだ?!
- 片岡
- そのままだとどんどん燃えていっちゃうんですが‥‥。
- 神宮寺
- 周りで燃えている石炭に水をかけて、
中心に置いた新しい石炭を蒸していくと、
だんだん余分なものがなくなって、
煙があまり出ずに、高熱になるんです。 - 伊藤
- そこは経験しないとわからないことなんでしょうね。
水の混ぜ方やら、燃えているどの場所にくべる、
みたいなことは。 - 神宮寺
- なんとなく感覚で共有していますね。
お互い、やり方も違うと思うんですけど。 - 伊藤
- 違うんですか、やり方。
- 片岡
- 感覚的なことですね。
自分がやりやすいやり方を
それぞれ、持っているということですね。 - 伊藤
- 火をつけて、バーナーを使うのかと思ったら、
空気を送るだけっていうことにも驚いて。
すごくシンプルなつくり方なんだなと思いました。 - 片岡
- たしかに石炭を使っている人って、
今、なかなか、いないかもしれません。 - 神宮寺
- あまり聞かないよね。
- 伊藤
- 普通はどういうものを?
- 神宮寺
- 普通、ガス炉とか、
コークスですね。 - 片岡
- コークスは骸炭(がいたん)とも言って、
石炭を一回乾留(蒸し焼き)して
炭素だけを燃料として残したものなんです。
純度の高いものなので、
コークスを使うとゴミがあんまり出ないんですよ。 - 伊藤
- うんうんうん。
でもおふたりは、石炭を使う? - 神宮寺
- 石炭が鉄をいちばんあっためられる感じがして、
芯まであっためられる感じというのかな。 - 伊藤
- じゃあ、鍛冶屋さんによっていろいろなんですね。
- 片岡
- やり方がそれぞれですね。
わたしたちが習ってたのが石炭だったんです。 - 伊藤
- 慣れていた素材。
- 片岡
- 慣れていたし、
やっぱりいろいろやってみたけど‥‥。 - 神宮寺
- 石炭でやるのが一番楽しいね、と。
- 片岡
- 鉄が柔らかくなるんですよ。いちばん。
- 伊藤
- 不思議! 熱源でそんなに違うんですね。
- 片岡
- 石炭であたためた鉄は、粘土みたいになりますよ。
- 伊藤
- さっき見て驚きました。
こんなに柔らかくなるものなんだって。
- 神宮寺
- ガス炉であっためると、
けっこう硬い感じになっちゃうんです。 - 片岡
- 表面はよくあったまるんですけど、
芯まで行くのに時間がかかるんですよ。
周りが先に溶けちゃって、芯が残る。
石炭は、あっためるのに時間がかかるんですけど、
ゆっくり、じっくり、
芯までちゃんと全部があったまるんです。 - 伊藤
- ちょっと違うかもしれないけど、
薪ストーブの部屋にいると、
体が芯まであったまる、
そういう感じなのかな? - 片岡
- 鉄にとっても、そんな感じなんだと思います(笑)。
- 伊藤
- ちょっとわかった気がします。
おふたりには、これから、
つくってみたいものはありますか? - 神宮寺
- いっぱいあります!
- 伊藤
- いっぱいある? ふふふ。
- 片岡
- なんでもつくりたいです!
専門家の人のアドバイスをいただければ’
薪ストーブにも挑戦してみたいですし。
熱の循環や排気の構造について
勉強不足なものですから、
すぐにつくることはできないんですけれど。 - 神宮寺
- おっきいものも、つくってみたいです。
それこそ、門扉とか。 - 片岡
- 今扱っているより、もっと太いもののとか。
- 伊藤
- わたしの知り合いに、
リノベーションで猫のための柵を
つくったかたがいるんですが、
「そうか、つくれるんだ!」と思って。
そうですよね、なんでもできますよね。 - 神宮寺
- はい、なんでもできるんです。
ふたりとも猫を飼っているので、
ネコグッズはとっても興味があります。 - 片岡
- まさにそういう柵とか、
キャットタワーみたいなものとか。 - 神宮寺
- そう、カッコいいキャットタワーを
つくってみたいな。
なんでも、という意味では、
家具とかもけっこうつくっていますよ。
テーブルとか、椅子とか。 - 片岡
- テーブルは脚を鉄でつくり、
天板を木で別注するとか、
椅子も革を張ったらかわいいだろうなとか、
妄想はふくらみます。 - 伊藤
- そっか、鉄と異素材の組み合わせもできますよね。
- 片岡
- 今度、9月に「lagom(ラーゴム)」で
また展示会をやらせてもらうんですけど、
今度はワークショップを開きたいなと思っているんです。 - 伊藤
- ワークショップ、たのしそうですね。
- 片岡
- 小っちゃい炉を持って行き、火を炊いて、
小っちゃいお皿かS字フックのようなものを
お客さんといっしょにつくれたらって思ってます。
鉄に魅かれて
- 伊藤
- わたしがおふたりのことを知ったのは、
軽井沢の須長檀さんのところで、でした。
昨年の秋、軽井沢の「lagom(ラーゴム)」という
お店でおふたりの作品を初めて見て、
鉄の平たいお皿を買ったんです。
家で使っているうちに、
「裏面に、ちょっと立ち上がりがあった方が良いかも?」
と思い、連絡をさせていただいたんですよね。
「今から、脚をつけていただくことは出来ますか?」って。 - 神宮寺
- はい、そうでしたね。
ありがとうございました。
最初はぴたっとテーブルにつく仕様だったんですが、
ほんのちょっと、浮かせたいと。 - 伊藤
- そうなんです。
ちょっと立ち上がりがあると、
なんて言ったらいいんだろう‥‥、
テーブルとこのお皿との間に
ほんの少しだけ光が入るでしょう?
その姿が、いかにも鉄の道具、というよりも、
より、うつわに見えるんじゃないかなって思ったんです。

- 神宮寺
- 脚がちょっとつくだけで雰囲気が変わって、
私たちも、「たしかに!」ってなりました(笑)。 - 伊藤
- それが今回「weeksdays」で販売をさせていただく
鉄のお皿の原型になりました。 - 片岡
- 鉄のお皿がお部屋にある感じは、
いかがでしたか? - 伊藤
- 部屋に黒くて硬いものがあると、
引き締まる気がするんです。
部屋には木のものが多いですし、
金属のものは部分的にしかありませんが、
そんな中に、ちょっとだけ異質な
「硬いもの」が入るといいなと思っているんです。

- 神宮寺
- そうなんですよ。
金属の中でも、鉄って、素材の力が強いんですよ。
空間にちょっとあるだけで、
存在感がありますよね。 - 伊藤
- だから「少し」でいいんですよね。


- 伊藤
- ところでこの建物は、
ほかの作家のみなさんとの
共同スペースなんですよね。 - 片岡
- そうなんです。
よく使っているのは私たちですけれど。 - 伊藤
- ほかには、どんな方がいらっしゃるんですか。
- 片岡
- 彫刻、絵画、陶芸のかたも。といっても、
ふだんここで制作をしているのは陶芸のかただけで、
彫刻と絵の人は、倉庫としてお使いですね。
▲工房で見せていただいた作業の様子。
- 伊藤
- 今日、おふたりの作業の様子、
見せていただいてよかったです。 - 神宮寺
- ありがとうございます。
- 片岡
- 遠いところまで、来ていただいて。
- 伊藤
- 広い場所がないとできないですものね。
- 片岡
- 音、そして煙がけっこう出るので、
作業場所を探しても、条件が厳しくて。

- 伊藤
- そうですよね。おふたりは、
そもそもなぜ鉄を扱おうと思ったんですか。 - 片岡
- 私は高校で金属加工の勉強をしたんです。
でもその学校には鉄がなくて、
基本は銅板の鍛金をずっと。
高校卒業を前に就活をするなかで、
銅と鉄を扱っている会社があって、
そこにインターンで行かせてもらった時、
初めて鉄を触らせてもらいました。そうしたら
「わたし、銅じゃなくて、鉄だ!」って。 - 伊藤
- 鉄だ! ‥‥と。
- 片岡
-
そこから、鉄が扱える就職先を探しつつ、
教えてもらえるところがあったらと考えていたら、
専門の先生を紹介していただきました。
ちょうどその先生が教室をなさっていたので、
勝手に押しかけて(笑)。
それが私たちの鉄の師匠にあたる人です。 - 伊藤
- 教室というのはどんなことを?
- 片岡
- 鍛造の教科書があって、勉強するんです。
実技では先をとがらせるところからはじめ、
鍛接といって、鉄と鉄同士を
あっためてくっつけることですとか、
そういう勉強をさせてもらいました。
先生は、その教室を、個人でなさっているんですよ。
もともとはスペインで
ずっと活動をなさっていたかたなんです。 - 神宮寺
- 私も同じ先生のところに行っていました。
そこで片岡さんと出合ったんです。

- 伊藤
- そうだったんですね。
神宮寺さんは、その先生のところに、なぜ行こうと?
どうして鉄だったんですか。 - 神宮寺
- わたしは、美大ではないんですけれど、
大学で美術を勉強していて、
教授がその先生と知り合いでした。
大学にその先生をイベントで招いたとき、
鉄に触れ、ハマってしまいました。
魅せられたんですね。 - 片岡
- 先生が「魅せる」人なんですよ。なんだか。
形に厳しい人ですが、
すごくたのしそうで、世界観もあって。
ワークショップ用のテントも
全部自分でつくってしまうような方なんです。 - 伊藤
- テントまで?!
- 片岡
- それが、またすごく雰囲気があるんですよ。
- 伊藤
-
でも、普通に考えると、
鉄を扱うというのはかなりの力仕事で、
しかも危険を伴いますよね。
ものづくりにもいろいろある中で、
「なぜ鉄だったんだろう?」と不思議で。
女性の多い現場だとも思えないですし‥‥。 - 片岡
- ところが、その先生のところには、
私たちの先輩にあたる女性の鍛冶屋さんが、
いっぱい出入りしていたんです。 - 伊藤
- え?! 女性の先輩の鍛冶屋さんがいっぱい?
- 片岡
- はい。その工房はけっこう女性が多く、
というか、先生以外はほとんど女性でした。
だから「ああ、女の人もいるし、楽しそう」って。

- 伊藤
- その先輩たちは、みんなお仕事として?
- 片岡
- はい、仕事にしてる方がほとんどでしたね。
- 伊藤
- みなさんは、どんなものをつくっているんですか。
- 片岡
- 基本は建築金物が多いですね。
柵とか門扉とか。 - 片岡
- ドアの取っ手とか。
小物では釘とかフック。
自分で作ったものをイベントに出したり、
受注生産でつくっていたり。 - 伊藤
- なるほど。
先輩のみなさんも、それぞれ、
こんなふうに鍛冶場をつくって
作業なさってるんですよね。 - 神宮寺
- はい、でも、先輩たちに比べ、
私たちの鍛冶場、けた違いに大きいんです(笑)。
ほんとはここまでの広さは要らないんですよ。 - 伊藤
- でもここはとても使いやすそうですよ。
作業を拝見して
「鉄は熱いうちに打て」
ということわざの由来がわかりました。 - 片岡
- そうなんです。
そこに魅せられちゃったんです。私たちも。 - 伊藤
- それぞれ鉄に魅せられたおふたりは、
どういうきっかけで一緒に活動することに? - 神宮寺
- その教室に、わたしが後輩で入ったんです。
そして生徒として、最後に残ったのが
私たちふたりだったんですよ。 - 片岡
- さらに先生が工房を引っ越すっていうタイミングで、
ふたりとも「卒業」を言い渡され。 - 伊藤
- (笑)
- 片岡
- 「どうする? 叩くところ、どうする?」
っていう話になって。 - 伊藤
- たまたま残ったふたり、
ということもあるでしょうけれど、
ふたりとも仕事にしようと、
教室に通いながら、思っていたんですよね。
ふたりで一緒に、ということとは別に。 - 片岡
- それぞれ、思ってました。ずっと。
自分の工房を探さなきゃなっていうタイミングが
たまたま一緒になったんです。 - 伊藤
- 「じゃあ、一緒にやる?」みたいな。
- 神宮寺
- はい。
- 片岡
- 道具から、揃えるのが大変なんです。
それで一緒に探そうと。 - 伊藤
- すごいですよね、お金もかかるし。
もともと、このあたりにはご縁が? - 片岡
- いいえ、いろんなところに探しに行って、
たまたま、ここが見つかりました。 - 伊藤
- おふたりの物件探しは、すんなりと?
- 片岡
- ここの前に、同じエリアの、
もう少し駅寄りの場所で始めたんです。
長屋みたいになっている工房を、
イベントで知り合った人に紹介いただいて、
「1部屋、空いているからどうですか?」と、
そんなご縁で、始めました。 - 伊藤
- ご近所の人とか、
「何やってるの?」って見に来たりしそう。 - 片岡
- 来ます!
- 神宮寺
- いまもそうですよ、フラッと。
- 片岡
- 鉄を叩いていると、気がつかないんですよ。
びっくりしますよ、
急におじさんが立ってるんです。
「え?!」みたいな。 - 伊藤
- 普段の生活で聞きなれない音だから、
「何してるのかな」っていうお気持ちで
覗かれたんでしょうね。 - 片岡
-
中には、私たちの仕事を理解して、
「これ、溶接してくれない?」とか、
「ちょっとここ、直してくれない?」
みたいな依頼も来ますよ。
「ゲートボールのゴールが取れちゃって、
溶接してくれないかな」って。 - 伊藤
- そっか!
- 片岡
- 隣の畑の人が、
「鍬のここが壊れちゃったから」ということも。 - 伊藤
- 壊れたらもうおしまいって考えがちだけど、
考えたら、鉄なら、直せるんですものね。
そんなとき、鍛冶屋さんがあったら。 - 神宮寺
- 溶接ができますからね。
鉄のプレートとリネンのエプロン
家のなかに好きなものを
今年の春、
「家のなかのこと」と題して、
展覧会をしました。
「パルコの展示会場で何かしてくれませんか?」と
持ちかけられた時に、
まっさきに思いついたのが、
その名の通り「家のなかのこと」だったのです。
もともと家にいること、
そしてその中のあれやこれや。
つまり、
料理をしたり、
ベッドリネンを整えたり、
家具をえらんだり‥‥
は好きだったけれど、
この3年もの間に、
その「好き」という気持ちがさらに
強まったような気がしています。
「家の中には好きなものしか置かない」
なににも振り回されない、
そんな強さが。
時に、頑固ともとらえられることもありますが、
まあいいではないか、自分の家なんだし!
年を重ねたからこその、
この心持ち、なかなかいいです。
気が楽で。
今週のweeksdaysは、
「家のなかのこと」の展示にならべた鉄のお皿と、
リネンのエプロンをご紹介。
展覧会に足を運べなかった方も、
また、あの時、見たけれど買わずにいたという方も。
どうぞこの機会に。
つくりつづける
- 伊藤
- 今回のピアスとブレスレット、
とっても軽いんですよね。
- 木村
- ブレスレットの長さは、
「weeksdays」のみなさんで
試していただいて、決めましたね。
- 伊藤
- どの部分を手前にするかで
つけたときの表情が変わるんです。
- 木村
- はい、ベルトの部分の方向を変えることで
全体のサイズが変わります。
- 伊藤
- 長いほうを折り曲げるか、
短いほうを折り曲げるかで、
一周の長さが変わるので、
タイトな感じにも、
ゆったりした感じにもなる。
- ──
- ちなみにこれ、
ビーズの輪っかに通すときのコツってありますか?
- 木村
- 丸カン(輪っか)が硬いんですよね。
ギュッとつぶして通していただいて大丈夫です。
通して、手を離すと、また開くので、
それで外れにくくなりますよ。
これはFUAが特許をとっている
丸カンのデザインなんです。
- 伊藤
- ボタンホールステッチみたいな感じですね。
- 木村
- そうですね。
金属をできるだけ使わないものにしようと
考えたものです。
あとこちらがピアスになっています。
- ──
- これが最初に伊藤さんが発想した
「グルグル」ってした感じが生かされていますね。
- 伊藤
- 嬉しいです。
淡水パールが中にチラッと見えるんです。
でもほんとにチラッとだけ。
- 木村
- 編んだビーズの隙間から見えるんです。
- 伊藤
- FUAのみなさんの評判はどうでしたか?
- 木村
- みんな「ほしい!」と。
ちょうど今パーツをつくって組み立てるところの作業を
みんなで進めているんですけれど、
糸をつかむのにちょうどいい角度になるよう、
みんなそれぞれに斜めに爪を伸ばしてるんです。
- 木村
- 糸を把持するっていうか、
ギュッて止めないと、
糸がこぼれていって編めないんですね。
なのでビーズもこの爪でたぐり寄せて、
爪を織り機のシャトルのような感じで
編んでいくんです。
ちょっと変な爪なんですけど、
これが大事な仕事の道具になっています。
- 伊藤
- スタッフのみなさん、
もともとそういう細かな手作業を
お仕事としてやってらっしゃった方が?
それともそういう資質のある方が来て勉強していった?
- 木村
- 全く何も知らない方が半分いますが、
習得に3年かかりました。
もうその間は、10個つくったら
やっと1個、採用できるという感じで‥‥。
お互いそれも切ないんですけれど。
その中に素養のある方が数人いらっしゃって、
その方々が先に進んでまだできない人に
教えてくださったり。
初めての編み物がこれ、という人もいて、
そういう人は、これしか編めないんです。
- 伊藤
- 高度な技術を最初から!
でも興味があったってことですよね。
- 木村
- いえ、興味はなかったんです。
というのも、仕事として割り切ってくださる方に
来ていただきたくて。
FUAというブランドに興味のある方はお断りしました。
とにかく仕事として同じことを
ずっと続けていただける方の中から、
人柄とかフィーリングが合うっていうことで
選ばせていただいたんです。
- 伊藤
- 同じことをずっと。なるほど。
- 木村
- はい、苦しいことを淡々とやれる方が。
- 伊藤
- ブランドの運営には、
最初からの方が1人いらっしゃるとか。
- 木村
- はい。その方はグラフィックデザイナーで、
その方がされていたお店に、
私がふらっと立ち寄ったところから
出会いが始まるんですけど。
「アクセサリーは金属しか買わないよ」
って言ったのが、その方なんです、実は。
- 伊藤
- そうなんですね!
ひょっとして、今も、厳しく?
- 木村
- そうなんです。今も
「こんなの買いません」って言います。
厳しいです。
ずいぶん気を遣いながら
言ってくださるようになりましたけど(笑)。
社内には「これじゃぁちょっと誰も買わないかな」とか
「私はつけたくないな」とかいう方が
2人ほどいるんですけれよ。
- 伊藤
- 大事ですね、でもね。
- 木村
- 「仕事がうまく行きすぎていた」というときが、
実は私にあったんですけれど、
そのときは、つくり手としては、
何も生まれなかったんです。
- 伊藤
- うまくいってるときって、
つくったものすべて売れるし、
ブランドの成長をみんな褒めてくれるしみたいな、
そういうことですよね。
- 木村
- そうです、何をつくってもきちんと売れて。
- 伊藤
- そのときにそのまま「よし、もっと同じものつくろう」
じゃなくて、「あれ? 新しいものを、つくっていない!」
って思うんですか。
- 木村
- そうなんです。絶対に、こんな時期はもうすぐに終わるって
常に思っていました。
- 伊藤
- ますます、FUAには
厳しいことを言ってくださる方の存在が大事ですね。
そういう助言というか、ダメ出しは、
木村さんは素直に受け止めるんですか。
- 木村
- はい、もう間違いないと信じているので。
- 伊藤
- 木村さんは、きっと「つくること」が好きなんですよね。
- 木村
- そうですね。
- 伊藤
- 「売る」っていう作業ももちろん大事だけれど‥‥。
- 木村
- 幸い私がこれしかできないんです。
元々看護師なんですけれど。
- 伊藤
- うん、‥‥えっ?!
看護師さんだったんですか。
- 木村
- そうです(笑)。看護師を20年続けていて、
産休をとったとき、編み物を趣味でやっていた。
産休があけて保育園を続けるためには
看護師に戻らないといけないのが嫌だったんです。
それで事業主となろうと。
- 伊藤
- おもしろいです。
- 木村
- けれど編み物以外ほんとに何もできない。
それはちょっと自分でも生きづらいというか(笑)、
けれどもそれをみなさんがカバーしてくれている感じです。
もうこれ以外はできないので、
大きく取り上げられるとちょっと困るという感じで、
今は生きております(笑)。
- 伊藤
- たしかに大量生産ができないですものね。
職人さんを育てるのに1人3年かかって、
機械化は当然できないわけですし。
根気のいる作業ですね。
- 木村
- けれど、朗らかな方ばかりなんですよ。
笑いながら編んでくれ、笑いながら納品してくれる。
すごくほんとにこの子たちが生きるっていうか、
FUAのアクセサリーにはその「機嫌のよさ」が
宿っている感じが、なんとなく、しているんです。
- 伊藤
- 料理もそうですものね。
つくり手の機嫌が、味にそのまま出ます。
みんなから、聞いておきたいことはありますか?
- ──
- ハイ! FUAのアクセサリーは、
使っている人に寄り添って
育っていくというか、
変化していく印象がありますね。
ちょっとやわらかくなっていくというか。
- 木村
- はい、衣類と同じように認識していただけたら。
やっぱり編み物ですから。
- 伊藤
- どんなふうに変わるんですか?
- 木村
- まずは柔らか~くなります。
- 伊藤
- へぇ~。
- 木村
- 編みたてはもうシャキーン! ピッチー!
ってなってるんです。それが使っていくうちに。
- 伊藤
- 肌に馴染んでいくみたいな。
- 木村
- 馴染んできます。
いわば、クタッとなってきますし、
逆に言うと柔らかな風合いが出てきます。
最初に購入いただいたちょっと硬めの状態が
ずっと続くわけではない、っていうことは、
直接販売をするときに、
認識をしていただくようにしています。
あとはどうしても皮脂がついたりとかいうことはあるので、
軽く拭いていただくとか、ケアをしていただくことと、
ほつれてきましたら弊社にお送りいただければ
リペアもしていますので、
そういう意味では、
長くお使いいただけるんじゃないかと思います。
- 伊藤
- 分かりました。
木村さん、今日はお話しできて
とっても嬉しかったです。
ありがとうござました。
- 木村
- こちらこそありがとうございます。
またぜひ福岡にもいらしてくださいね。
- 伊藤
- はい、ぜひ!
はじまりのとき
- 伊藤
- 今回、「weeksdays」で扱わせていただくもののほかに、
FUAにはいろいろなタイプのアクセサリーがありますね。
とてもかわいい三角のものもありました。
- 木村
- 「折り紙」という名前がついています。
折ってかたちを変えているんですよ。
金属との闘い、と言っていますが、
よりジュエリーとして付加価値をつけたくて。
18金やプラチナも使っています。
肌に触れるので、より安心に
お使いいただけるようにという理由もありますが、
私、「himie(ヒーミー)」の下川さんに
よくしていただいてるんですけども、
「編み物がベースだけれど、よりいいものにしていきたい」
っていうことを伝えたところ、
「絶対18金を使いなさい」と助言をいただいて。
そうしたら、今は、
ちょっと金属にも少し片想いし始めちゃって。
- 伊藤
- 最初は負けないぞと思ってたのに(笑)。
- 木村
- はい、ちょっと好きになっちゃったんです。
- 伊藤
- でも組み合わせたら、よりステキなものが。
かわいいですよ!
ビーズはどこのものなんでしょう。
- 木村
- ビーズは日本のものです。
広島でつくられています。
- 伊藤
- 古いものとかではなく。
- 木村
- そうなんです。
以前はヴィンテージのビーズですとか、
フランスのビーズも使っていたんですけれど、
肌につけるものなので、
できるだけ新しいものを
使いたかったということもあります。
ヴィンテージのビーズも美しいんですが、
「受け継いでいただきたい」
というコンセプトもありまして。
- 伊藤
- 「ここから始まる」みたいな感じですか。
- 木村
- そうです! FUAのアクセサリーの中には
「はじまりのとき」という名前をつけたものもあり、
そういう気持ちとリンクさせたくて、
新しいビーズ、現行のものを使っています。
日本のビーズはすごくいいものなんだよ、
という気持ちもありますし。
日本のガラスビーズ、海外での評価も高いんですよ。
- 伊藤
- とても繊細ですものね。
それにしても、近くで見ても、
何がどうなってるのかが分からないです。
すごく緻密。
こういうものって、職人のみなさんが
手作業で数をつくっていくと思うんですが、
木村さんは、その最初の指示を
いったいどんなふうにしているんですか。
洋服なら「パターン」がありますけれど。
- 木村
- 私はまず手を動かしていくんです。
- 伊藤
- まず、手。
- 木村
- 先ほど子供のとき母に編み物を教えてもらえなかったので、
自分で想像しながらかたちをつくっていった、
と申しましたけれど、それが今にもつながっていまして。
初めはデッサンも何もせずに、ただただ手を動かして
でき上っていくんです。
その時は、わりと無でつくっていくので、
もう意識が飛んでしまうぐらいな感じです。
「ゾーンに入る」という表現がありますけれど、
そういうものに近いかも知れません。
- 伊藤
- それが長いものになるのか、
ちっちゃいものになるのか、
ネックレスになるのかピアスになるのか、
分からないままに手を動かすんですか。
- 木村
- そうなんです。分からないです。
- 伊藤
- 何かヒントになるものとかあるんですか?
たとえば自然のものとか、街歩いてて、とか、
そこでひらめいたりするデザインはあるんですか。
- 木村
- はい。たとえば時計をこうやって見たときに、
「あ、丸だ」と思う。
そこから、丸いブローチがあったらいいなぁと思う。
そういうことはありますね。
私はそんなに海外にも行きませんし、
福岡が大好きなので、いわば福岡にこもっているんですね。
福岡は景色も豊かで、森も山もあるんですけれど、
そこを見たところでそんなイメージは湧かなくて、
それよりもたとえばこの机のこの枠の、
ここがかっこいいなって思ったら、
その枠を見ながらつくってみたりとか、
そういうふうなつくり方をしています。
もう身の回りすべてがイメージの原点です。
- 伊藤
- 特別なインプットの努力をしなくても、
すぐそこにヒントがたくさんあるってことですよね。
- 木村
- そうですね、はい。
そういう部分は、母の影響がかなり大きいと思います。
- 伊藤
- お母様は、なぜ教えてくださらなかったんでしょうね。
「教えて」って言っても駄目だったんですか。
- 木村
- 言ったんですけど、もう「めんどくさい!」と。
あと「今はお母さんの趣味の時間だから」って。
- 伊藤
- なるほど、その集中ぶりは、受けついでいますね。
- 木村
- そうですね。母は趣味でやっているので、
人様に販売するなんて! っていう
ベースがあるんです。
だから「私は販売をしたい」と言ったときに、
すごく反対を受けました。
- 伊藤
- へぇ~!
- 木村
- 「人様に購入していただくのは大変なことだよ」と。
それでも勝手にやり始めてたので、
見せて説得をして、納得をしてくれてから
母は亡くなりました。
- 伊藤
- そうだったんですね。
お母様に販売することを反対されたとき、
お友達に「編み物のアクセサリーなんて売れないよ」
と言われた時のように、
火がついたということも、やっぱりあるんですか?
- 木村
- ありました。反対されればされるほど!
でも行商に行っても、
福岡であまり取り扱いをしてもらえない時期もあって。
やっぱり「編み物のアクセサリー」っていうのが
手づくりの延長というふうに見られていたんですね。
ところがそういったときに、
ついてきてくれてたんです、母が。
- 伊藤
- なんと!
- 木村
- お腹も大きかったですし、
ちっちゃい子供もいたので。
そんな状態で行商に行って、ぜ~んぶダメで。
それでも母と父が車で送ってくれたりして、
そういうかたちで、
認めてはくれてはいないけれど、
「やっぱり心配だから、ついてってあげるよ」
だったんでしょうね。
- 伊藤
- いえ、それは認めてくれたということですよ。
そんなふうに、どこのお店にも置いてもらえない、
という時代から、
今、とても人気が高くなった、
その間には、何かきっかけがあったんでしょうか。
- 木村
- 母が亡くなったとき、最愛の母だったので、
「運命は、私からこんなに
大事なものを奪っていく。
だったら、必ずめちゃめちゃいいことがあるはずだ」と、
スパイラルが主催の
「New Jewelry TOKYO」に応募したんです。
末広町で、開催していた頃の話です。
その主催者が福岡に来られるのを知って会いに行き、
「これ私がつくったんです」と、
そんな感じでグイグイいって、
「じゃぁ応募してみたら」みたいな感じで。
FUAが知られるようになったのは、そこからですね。
- 伊藤
- へぇ!
- 木村
- その後は、伊勢丹新宿店での
イベントに呼んでいただいたり。
2012年から始めたインスタグラムに
だんだん「いいね」がつき始めて、
そんなイベントの出店にも
インスタグラムで知ったという
お客様がいらしてくださったり。
- 伊藤
- インスタってすごいですよね。
- 木村
- 周りもびっくりしてました。
集客がそこにつながるっていう意識が誰もなかったので。
最初は、おもしろそう、
犬のこととかを発信しようかなと始めたんですが、
アクセサリーをアップするようになったら、
いろんな方が見てくだるようになりました。
でもその頃は1人でやっていたので、
生産が間に合わなくなってしまって。
それが逆に、希少価値につながったようなんですが。
- 伊藤
- なるほど。
じゃぁスタッフが1人増え、2人増えみたいな感じで、
今はおおぜい、いらっしゃるんですよね。
- 木村
- はい、増えていってます。
最初に私がつくった原型をもとに、
そこから編み図を引いていくんです。
- 伊藤
- なるほど、洋服でいうと、
立体裁断して、そのあと広げて製図する、
みたいなことですね。
その編み図を職人さんに渡して、
つくっていくわけですよね。
- 木村
- そうなんです。
- 伊藤
- 木村さんみずから、
職人の1人としても働いてるわけですよね。
今何人ぐらいでつくっていらっしゃるのでしたっけ?
- 木村
- 10名ほどで編んでいます。
もう、ほんとに凄腕の方々が来てくださって。
- 伊藤
- そんなみなさんを、
どうやって探したんですか?
- 木村
- 求人は出したことがありません。友達の紹介で、
自然と集まってきてくださって、
みんないい方ばっかりでですね。
勉強熱心ですし。
- ──
- 拝見していて思うのですが、
意地悪なことを考えていたら、
これはつくれないと思います。
こんなきれいなものって。
- 伊藤
- ほんと。
- 木村
- 実際、つくるときにはみなさんに、
「嫌な気持ちのときにはつくらないでください」
「落ち込んだときとかイライラしてるときもつくらないで」
と伝えています。
空気を編んでいくので、
ほんとうに、艶がなくなってしまうんですよ。
そうも言ってられない多忙なときもあるんですけれど、
できるだけフラットな感じでいてくださいと。
編み物はほんと不思議で、生き物だなぁと思います。
私も。ほんとは模様編みにもチャレンジしてみたいし、
三國万里子さんのような大作もつくってみたいという
憧れはあるんですけど、私には不向きで。
それでも自分が気に入ったものをつくれたらいいかなと。
- 伊藤
- さきほど、さらりと、
編み図があるという話をしましたが、
かなり複雑に見えるアクセサリーにも
ちゃんと編み図があるということですよね。
それもすごいと思うんです。
- 木村
- おっきいネックレスですとかは、
6畳のお部屋が全部ビーズの糸で
もうヘビの家みたいな感じに
糸がもうとぐろを巻いている場所で編んでるんです。
職人のみなさんには
ご自宅で編んでいただくんですけど、
部屋を1つつぶして編んでくださって。
まずビーズを糸に通すところから。
なので量産ができないんですよ。
- 伊藤
- そんななか、「weeksdays」のために
かたちにしてくださって
ありがとうございました。
- 木村
- こちらこそありがとうございます。
編み物をジュエリーに
- 伊藤
- こんにちは、木村さん。
今日は福岡からお越しくださって、
ほんとうにありがとうございます。
- 木村
- とんでもない、
こちらこそありがとうございます。
- 伊藤
- 福岡のどのあたりに?
- 木村
- 糸島寄りの市内になります。
伊藤さんも福岡には
よくいらしてますよね。
- 伊藤
- 福岡にはおいしいものもたくさんありますし、
とても好きなところなんですが、
コロナ禍のあいだ、3年ほど、
そんなに行くことができなかったので、
そろそろちゃんと伺いたいなと思っています。
木村さんには、最初、じつはわたしから、
ダイレクトメッセージでご連絡をさしあげたんですよね。
「何か一緒にできませんか」と。
- 木村
- はい。突然のご連絡に驚きました。
もう天にも昇るような気持ちで、
みんなで万歳したんですよ。
それで「何が一緒にできるだろう」と思いながら、
時間が経ってしまいました。
ちょっと引っ込み思案なものでして‥‥。
時間が経ってしまったら、
時代は移り変わるから、
伊藤さんはどうお考えになるのかなと思いつつ。
- 伊藤
- そうだったんですね。
それで青山のスパイラルで
催しをなさるというので、伺って。
それがたしか2019年のことでした。
片耳のちょっとおっきめなピアスを買いました。
2色だったかな。
- 木村
- はい。そのあとでコロナ禍になり、
しばらく時間があいてしまったんです。
今回のプロジェクトを進めようと
あらためてお話をさせていただいたのは、
2022年の暮れのことでした。
最初、私が考えていたのは、
結構フサフサしたタイプだったのですけれど。
- 伊藤
- そうでしたね。とても素敵でしたよ。
でも段々、私も年を重ねて、
もうちょっと耳にピタッとした
小ぶりのものでもいいんじゃないかなぁと
思うようになっていたんです。
- 木村
- はい。「コロッとして、ピタッとしているもの」
とおっしゃっていました。
- 伊藤
- それでFUAのラリエット
(留め具のない、ひも状のアクセサリー)を、
私がくるくるっとして、
「こんな印象のものがほしいんです」と。
- 木村
- 私たちのところのラリエットを結んでくださって、
「こういう感じのものを」と。
その結んだ頭のところを
昔ながらのボタンのような雰囲気で、
という話にもなりましたね。
- ──
- 伊藤さんはどのくらい
具体的なことをおっしゃったんですか。
絵を描いたりとか‥‥。
- 伊藤
- いえ、全然具体的じゃなかったんですよ。
「ビーズ、ぐるぐる、ボタン、ピアス、
ころっと、ピタッと」というような言葉で。
あとはお任せしました。
木村さんにきっと伝わったと感じたので、
きっといいものをつくってくださるだろうと。
- 木村
- フワッとしたイメージの中でも
昔ながらのボタンっていうのがキーワードでした。
それに「コロッとして、ピタッとしている」
というのは、私にしてみると
すごく的確な指示だったんです。
「亀の甲ボタン」という、
亀の甲羅のようなかたちのボタンをイメージしました。
そこから着想を得て、こちらを制作しました。
古着のコートのカフス(袖口)のボタンなど、
勝手にいろいろなイメージから、ふくらませて。
- 伊藤
- 素敵なピアスをつくってくださって、
とても嬉しいです。
木村さん、あらためてお尋ねしますが、もともと、
ブランド「FUA」の始まりはどんなふうだったんですか?
- 木村
- 12年ほど前に長女を出産したとき、
産休中、近所にちっちゃなお店ができまして、
そこの店主と友人になり、
私がもともとしていた編み物を、
取り扱いをしてみましょうということがスタートでした。
それは私の趣味でやっているものだったんです。
そのあとに「FUA」の名前をつけて、
だんだんと、今のようなかたちになったんですよ。
- 伊藤
- 趣味の編み物からスタート。
手を動かして何かをつくるのはお好きだったんですね。
- 木村
- 母がずっと家で機械編みをしていまして、
アーガイルのセーターとか、
すごくかっこいいのをたくさんつくってくれていたんです。
私は母に編み物を教えてもらいたかったんですけど、
絶対に教えてくれなくて!
- 一同
- (笑)
- 木村
- なので横から見ながら、
あぁ、こうするんだっていう感じで覚えました。
でもきちんと習っていないので、
かたちにならないんですけど、
そのかたちにならなかったことが、
多分よかったのかなぁと思います。
自分で、想像の中でつくっていったので。
- 伊藤
- そのときは作品としては
着るものをつくってたんですか。
それともアクセサリーを?
- 木村
- 巾着袋ですとか。
レース編みでちょっと品のいい、
大事なものを入れるための袋、というイメージでした。
でも「これ、私だったら買わないな」と思ったんです。
趣味の延長のような気がしていたんですね。
それでお金をいただくのであれば、
「もっと自分が欲しいものじゃないと!」
というところで、名前もちゃんとつけて、
アクセサリーに特化したんです。
- 伊藤
- 「これなら自分でお金を出して買いたい」
と思うものが、そのときからでき始めた。
- 木村
- そうですね。1個ずつ、でき始めて。
けれどもそのお店の友人は言いました、
「編み物のアクセサリーなんて誰も買わない」。
- 伊藤
- 厳しいお友達ですね。
- 木村
- 厳しいんですけど、一理あるなあって。
「金属のものはずっと残るからほしいと思うけど、
編み物のように儚(はかな)いものを
アクセサリーにするというのは、
そんなにイメージが湧かない」と、
消費者目線でしっかりと言ってくれたんです。
そこで火がついて。
- 伊藤
- 火が?!
- 木村
- はい。
「いや! 編み物はきれいなものだ!」と。
だからジュエリーに寄る編み物をつくりたい、
というふうに思いました。
とにかく金属と闘わなきゃと思って。
- 伊藤
- それでビーズを使うことに?
- 木村
- はい。編み物として編んだとき、
金属よりもステキなものを、と。
ビーズを使い始めたんです。
最初は、手芸屋さんで手に入る糸で編んでいたんですが、
それですとやはりちょっとほっこりしたものに
なってしまうので、
もっともっと洗練されたものをつくりたいと
糸を探し始めて、京都の糸にたどり着きました。
これ、絢爛豪華な帯のための糸なんです。
- 伊藤
- たしかに金属にはない柔らかさがありますよね。
今も、ほとんどが京都の糸なんですか。
- 木村
- そうなんです。
銀糸、金糸といわれているものですね。
コーティングがされていて、
私が使っているものはシルバーを原料とした糸ですが、
酸化で黒くならないようにとか、
肌当たりがいいようにとか、
帯なので100年たっても色褪せないようにと、
そんな基準でつくられている糸なんです。
それですと、ほんとにアクセサリーとか
ジュエリーにはピッタリなんですね。
ただし、肌に直接つけるということを
想定してつくっていらっしゃらないので、
そこは実験しながらやっていってるんですけれど。
- 伊藤
- たしかに肌に馴染む感じがするし、
「金属と闘える美しさ」がありますね。
やっぱり柔らかい感じがするところが
いいのではと感じます。
- 木村
- ありがとうございます。
光が入ったときの透け感ですとか、
そういったものはやはり編み物特有です。
この透け感に魅せられたんですよ。
FUAのビーズアクセサリー
積み重ねる
昨日より今日、
今日より明日。
明日が来たら、またその先へ。
少しずつでいいから、
いい方向に進みたいと思う。
ほんのちょっとの心がけでいいんです。
たとえば、
元気よく挨拶するとか、
人のいないところでも口角を上げるとか。
毎日の小さな積み重ねで、
自分って、変われるものだと思っているから。
思えば、
仕事だって、人づきあいだって、
心がけ次第で、
いい関係が成り立つものだと思う。
目立たなくていいから、
ほんの少し努力する。
これって、ここ最近の私の心がけ。
今週のweeksdaysは、
FUAのビーズのアクセサリー。
ひとつひとつ、
小さなビーズに糸を通し、
やがてかわいらしいアクセサリーになる。
そう思うと、なんだか愛おしい。
積み重ねって大事だなぁ。
Tシャツとアクセサリー 伊藤まさこ [3]シルバーを合わせて
HALF SLEEVE BOXY TEE(White)/ALWEL
ビーズと淡水パールのピアス(シルバー)/FUA accessory
ビーズのブレスレット(シルバー)/FUA accessory
白いTシャツにシルバーのビーズのピアスとブレスレット。
Tシャツもアクセサリーも
コンテンツ2の色違いですが、
色合いが変わると、イメージはがらりと変わるもの。
白いTシャツは、清潔感があって
やわらかいイメージを出してくれるところが、
好きなんです。
Tシャツといえば、
年齢を重ねるにつれ、
もしくはある日突然、
似合わなくなったりするものですが、
不思議なことにこのALWELのTシャツは、
私にしっくり馴染む。
素材感とか、シルエットとか、
襟ぐりの開き加減とか。
そんなディテールが効いているからなのかもしれません。


ロゴの服を持っていない私ですが、
この「背中にちょこん」は大丈夫。
グレーのロゴに、シルバーのピアスとブレスレット。
ちょっと色を寄せて、
自分にしかわからないおしゃれを楽しみます。
HALF SLEEVE BOXY TEE(White)/ALWEL
シルク混タフタカーゴパンツ/t.yamai paris
ビーズと淡水パールのピアス(シルバー)/FUA accessory
ビーズのブレスレット(シルバー)/FUA accessory
原稿を書いていたら、
だんだん夏が待ち遠しくなってきた。
今年はTシャツの出番が、増えそうな予感です。
Tシャツとアクセサリー 伊藤まさこ [2]ゴールドとTシャツ
HALF SLEEVE BOXY TEE(Black)/ALWEL
シルク混タフタカーゴパンツ/t.yamai paris
ピアス 伊藤まさこ私物
1では、大振りのパールのピアスを合わせましたが、
ここではゴールドのピアスを。
リングやブレスレット、ネックレスはなし。
これくらい引き算をして、
Tシャツの素材感を引き立てます。
引き算の理由はもうひとつあって、
それが背中についたロゴ。
肌や髪の質感、ゴールドのピアス、
それからロゴがあれば、
もう他に何もいらない。
HALF SLEEVE BOXY TEE(Black)/ALWEL
シルク混タフタカーゴパンツ/t.yamai paris
ビーズと淡水パールのピアス(ゴールド)/FUA accessory
ビーズのブレスレット(ゴールド)/FUA accessory
サングラス 伊藤まさこ私物
髪をすっきりまとめて、
小ぶりのビーズのピアスにブレスレット。
仕上げにサングラスを。
このサングラス、
ニューヨークのヴィンテージショップで見つけたもの。
大げさすぎるくらいの、この大きさ、
シンプルなコーディネートに
インパクトを与えてくれるから、
好きなんです。
コーディネートは、
一番最初の写真と同じ。
‥‥なのですが、髪型、それからアクセサリーで
印象はがらりと変わる。
それを考えると、
Tシャツの着こなしって、
なんだか無限のように思えてくる。
すごいなぁ、ALWELのTシャツ!