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轟木節子さんの コーデュロイワンピース、 7つのコーディネート。
轟木節子さんのプロフィール
とどろき・せつこ
スタイリスト。
1972年、熊本生まれ。
ファッション誌、カルチャー誌、広告などで幅広く活躍。
シンプルな中にスパイスの効いた、
独自の空気感が漂うスタイリングが人気。
ナチュラル志向なライフスタイルも注目されている。
ほぼ日では「轟木節子がつくる、気持ちのいい服。」
のコンテンツも。
著作に日々のスタイリングのヒントがつまった
『毎日のナチュラルおしゃれ 着こなし手帖』
『毎日のナチュラルおしゃれ 着こなし手帖 2』
などがある。
後編 ピンクベージュとグレーのコーディネート
ピンクベージュのワンピース、その1
シンプルに着る。
「シンプルに着る時は、靴や靴下の色を
ていねいにえらぶようにしています」
と轟木さん。
靴は茶色、タイツは紫。
そしてワンピースはベージュピンク。
微妙な色合い同士がきれいな、
グラデーションのコーディネートです。
「靴はコーデュロイに合わせて、
あたたかそうなスウェードを」
ちなみにバッグを持つとしたらどんなものがいい?
「青みがかった白にすると、
差し色になるかな」
もしくは靴と同じ、茶色にすると
全体がまとまっていいかんじになるそうです。
ピンクベージュのワンピース、その2
ワイドパンツを合わせて。
「ロング丈のワンピースに
ワイドパンツを合わせるのが好き」
スタイリングにとどまらず、
轟木さんご自身もよくするスタイルなんですって。
ワンピースにワイドパンツなんて上級者! と言うと、
「フルレングスのドレスを
着ているようなイメージだと思うと、
取り入れやすいと思いますよ!」
そんな答えが返ってきました。
轟木さん自身は同系色でまとめることが多いとか。
とにかくかわいらしい色合いのピンクベージュ。
「赤を合わせたらいちごみたいでかわいいかな」
と轟木さん。
ベージュピンクに赤に茶色。
「いちごのチョコがけみたいでしょ」
ボタンをいくつか外して襟を抜くと、
雰囲気が変わってまた新鮮。
「下に来たネイビーは万能色。
ピンクとの相性もいいし、
肌色がきれいに見えるんですよ」
いちごコーディネートがぴりっとしまって見えるのは、
このネイビーのおかげなんですね。
グレーのワンピース、その1
色合わせを楽しむ。
カーマンラインのマスタード色のタイツが効いた、
はっと目を引く着こなし。
「全部同じトーンでそろえてもかっこいいのだけれど、
色合わせを楽しもう! って日は、
こんな思い切ったコーディネートもおすすめ」
「タイツは、チャレンジカラーではあるのですが、
グレーと合わせると案外しっくり。
黄色って派手かなと思うけれど、
グレーと合わせると
ちょっと落ち着いてモダンになるし、
一瞬、地味かなと思うグレーは、
マスタード色と合わせると冴えてくる」
両方の色が、お互いを引き立てあっているのです。
「派手な色のタイツを履く時は
ボトム(今回はワンピースの色)と
靴の色みを合わせるといい」
と轟木さん。
発色のいい色を合わせると視覚的にたのしいし、
見た目に新鮮。
コーディネートってたのしいね。
グレーのワンピース、その2
はずしのアイテム。
太めのパンツに厚底のスニーカー、
それとブラウス。
グレー以外は白でまとめたすっきりコーディネートです。
「はずしのアイテムとして、
やわらかめのレースのブラウスを合わせてみました」
ワンピースの襟元や袖口からレースをのぞかせるなんて、
考えたこともなかったな。
コーデュロイとレースの質感、
両方が引き合てあって、すごくいいかんじ。
「ちょっと甘いヴィンテージ風の服が好きな人でも
モードっぽいのが好きな人でも
いろいろに着られる色ですね」
と轟木さん。
グレージュか、ピンクベージュか。
それともグレー?
轟木さんのコーディネートを参考に、
ご自身にぴったりな一枚を見つけてくださいね。
轟木節子さんの コーデュロイワンピース、 7つのコーディネート。
轟木節子さんのプロフィール
とどろき・せつこ
スタイリスト。
1972年、熊本生まれ。
ファッション誌、カルチャー誌、広告などで幅広く活躍。
シンプルな中にスパイスの効いた、
独自の空気感が漂うスタイリングが人気。
ナチュラル志向なライフスタイルも注目されている。
ほぼ日では「轟木節子がつくる、気持ちのいい服。」
のコンテンツも。
著作に日々のスタイリングのヒントがつまった
『毎日のナチュラルおしゃれ 着こなし手帖』
『毎日のナチュラルおしゃれ 着こなし手帖 2』
などがある。
前編 グレージュのコーディネート
グレージュのワンピース、その1
タイツとマフラーで。
轟木さんが最初に見せてくれたのは、
グレージュのワンピース。
うすい水色のマフラーをくるりと巻いて、
髪をきゅっとまとめて。
冬の街に映えそうなスタイルです。
かわいいなぁ。
足元は同系色の靴とあずき色のタイツで。
すぐにでも私たちにも
取り入れやすそうなところがうれしい。
「グレージュは寒色系も暖色系にも合う、
コーディネートしやすい色ですね」
買うとしたら、これかなぁと轟木さん。
どの色を買おうかと迷っていたけれど、
轟木さんの言葉はかなりの説得力。
グレージュのワンピース、その2
さっとコートを。
上にさっと羽織ったのは、
ベージュのコート。
グレージュにベージュ!
私には思いつかない色合わせが新鮮、
そしておたがいの色がすんなり馴染んでいる。
「さすが「グレージュ」というだけあって、
グレーの要素もベージュの要素も持っている。
だからベージュとの相性もいいんですよ」
グレージュのワンピース、その3
羽織って着る。
「コートっぽく着るぞという気分の日には、
こんな風にボタンをすべて開けてみて」。
合わせるのは、
トラッドっぽいものを。
なるほど、
これがトレンチだとはまりすぎるけれど、
コーデュロイのやさしい質感が、
全体の雰囲気をやわらかく見せてくれます。
「ワンピースなんだけれど、
ワークコートとか、ショップコート風と思うと、
コーディネートの幅が広がります」
「ブリティッシュチェックのパンツには、
白のカットソーと靴下を。
ちょっとシュッとしたイメージにしたくて」
合わせた白は生成り色ではなく、
「まっ白」というのが、ポイントなんですって。
ヨーロッパから いいものを探して。 グラストンベリー 内田起久世さんinterview
「すぐれた技術は、それ自体に価値がある」
グラストンベリーは、創業以来20年、
それまで世の中に知られていなかった
世界の「ファクトリーブランド」を発掘してきました。
「Honneteは、もともと、
上質なテキスタイルをつくる工場でした。
そのうち、縫製も手がけるようになり、
生地づくりから一貫して服づくりができるように
なっていったんですね。
そこでつくられていた服がすばらしいと、
日本に紹介をしたいと考えたわけなんですけれど、
じつは、最初は、メンズだけ、だったんですよ」
えっ、もともとメンズウェアの会社だったんですか!
「そうなんです。だから得意としていたのは、
たとえば、肉(生地)の厚い、フランスのミリタリー。
フレンチネイビー(海軍)用のメルトンのウェアが、
ほんとうにすばらしくて、
それを輸入するところから始めたんです」
現在、Honneteはレディスウェアのみですから、
ちょっと想像がつきにくいのですけれど、
メンズウェア、しかもフレンチネイビーのものを
つくってきたということは、
そうとうな高い縫製技術を持っている、
ということですよね。
だからフランス国内外のメゾンからも
たくさんの仕事を受けられていたんですね。
グラストンベリーにおいてHonneteは、
メンズからスタートして、
やがてレディスに移っていった、ということですか?
「はい、メルトンのコートのサイズ展開を拡げ、
パターンは同じで、サイズが異なるものを出し、
ユニセックスで着られますよという
提案をするようになりました。
やがてレディスウェアをつくるようになり、
いまでは100%、レディスになっています」
Honneteのウェアは、
今回のコーデュロイもそうですが、
まず素材のよさに目がいきます。
やはり「テキスタイルの会社」ということが
大きいのでしょうか。
「そうです、さすがテキスタイルの
会社だっただけのことはありますよね」
ん? 「だった」?
「そうなんです。じつは、いろいろあって、
Honneteはいま、テキスタイル部門を閉じ、
縫製部門だけになってしまったんです。
それでもテキスタイル会社時代からのスタッフが多く、
経験も技術もきちんと残されていますよ。
彼らは、自分たちがつちかってきたコミュニティ、
関係してきた会社や人をとても大事にしていますから、
そういうなかから選んだ、
由来のたしかな、いい素材を使います。
私たちが、すこしコストを落としたいなと
すこし安い生地を希望しても、
絶対出てこないですから(笑)」
デザインは、グラストンベリーさんも関わって?
「基本的には、彼らのアーカイブをもとにしています。
彼らのつくるものって、基本的には
『ずっと変わらない』んですよ。
今回のワンピースにしても、そうです。
ただ、もともとはもうすこしボリュームが小さかったり、
長袖だったりしたところを、
例えばちょっと袖を短くしてもらおうとか、
身幅をドンと出してもらおうとか、
着丈を出してもらおうとか、
プルオーバーだったものを、
フルオープンにしてもらおうとか、
そういったリクエストをしています。
Honneteをはじめ、
グラストンベリーが扱っている
ファクトリーブランド全体に言えることなんですけど、
毎シーズン、ブラッシュアップされた新しいコレクションを
求められているわけではないですし、
自分たちもデザイナーではないので、
変わらぬ定番をという姿勢でいるんです。
そんななかに、少し旬なイメージとか、
ちょっとトレンドを意識した素材を導入しています」
なるほど、つまり、デザイナー不在なんですね。
「そうですね。いつも工場との
コミュニケーションのなかでものが生まれます。
工場の中には、パターンを担当してくれる子がいたり、
縫製の技術者が『こうすればもっときれいに見えるよ』
とかっていう子たちがいて、
それの相談の元でいつも成り立ってます。
今回の素材は、どちらのものですか?
「イタリアのRedaelli(ラダエリ)社のものです。
ふるくからのベルベットの生地屋さんで、
そこがつくっているコーデュロイなんです。
ちょっと毛布のようで、おもしろいでしょう?
こういったコーデュロイは、ヘビーデューティの
イメージがあって、じっさいドイツなどでは
コットン100%、
厚くしっかりしているものが多いのですが、
イタリアのRedaelli社のものは、
気遣いがすごく良くて、
5%だけ、カシミアを入れているんです。
その5%と、フィニッシングの違いで、
コーデュロイのあのカジュアルなイメージを覆す、
艶も色も、ちょっと品のある質感になるんです。
しかも、うんと軽いんですよ」
そうなのです。このコーデュロイのワンピース、
一見「重いんじゃないかな」と思うと、
ほんとうに意外なくらい軽い!
「あったかくて、軽くて、衝撃的な着心地」だと
伊藤まさこさんも言っています。
「このワンピースは、
この生地があって、できたことですね。
これだけ用尺がたっぷりしていたら、
ふつうのコーデュロイでは重くなり、
ギャザーを寄せることすらできないと思います」
今回のタグには、
MADE IN POLANDと入ります。
フランスの会社ですけれど、
縫製工場はポーランドにあるんですね。
「はい、いま、フランスのブランドは、
ポーランドに縫製工場を持つことが増えました。
ここ10年ほどで、
ポーランドの縫製技術が飛躍的に高まったんですよ」
ところで、そういう遠い場所から、
日本にいながらどうやって
「いい工場」を見つけてくるんでしょう?
それが不思議で‥‥。
「創業者がそういうものが大好き、
ということもありますし、
そのボスのふるくからの友人で
ビジネスパートナーでもある英国人がいて、
現在、ロンドンを拠点にヨーロッパ各地の工場と
やりとりを担当しているんです。
彼らが、マニュファクチュアリングが、大好きで。
展示会にすら出てこないようないい工場を探し、
私たちに紹介をしてくれるんですね。
若いころから、旅をして、
得体の知れないところから
いいものを探してくるのが好きな人たちなんです」
なるほど、そんな強い味方が!
「彼らとおなじように、結局、私たちは
『好きじゃないとできない仕事をしている』
んだと思いますよ」
内田さん、どうもありがとうございました。
そんな背景を知ることができて、
Honneteというファクトリーブランドのこと、
そしてグラストンベリーのことが、
よくわかったように思います。
次回は、Honneteのファンだという
スタイリストの轟木節子さんによる
コーディネート解説をお届けする予定です。
どうぞ、おたのしみに!
▲“Redaelli Velluti – Journey of the Production Cycle”
今回weeksdaysで販売するワンピースの生地をつくっている
イタリアのRedaelli(ラダエリ)社のイメージ動画です。
Honneteのコーデュロイワンピース
再入荷のおしらせ
完売しておりましたアイテムの、再入荷のおしらせです。
10月25日(金)午前11時より、以下の商品について、
「weeksdays」にて追加販売をおこないます。
MOJITO AL’S COAT
▶︎商品詳細ページへ
入荷のたびに人気のアイテム
MOJITOのAL’S COAT。
ベージュが再入荷いたします。
あわせて、モスグリーン、ネイビーも揃います。
「リモンタのナイロンを使った
メンズのMOJITOのコートを試着した時、
「これは女の人でもうれしいアイテム!」
そう思いました。
いえいえ、
「これは男の人だけのものにしてはもったいない!」
とまで思うほど、よいものだったのです。
まずは着心地のよさ。
軽やかさ。
シルエットのうつくしさ。
形はとてもスタンダードなのですが、
その「ふつう」の中にデザイナーの山下さんの
工夫が込められています。」
(伊藤まさこさん)
懐かしくってあたらしい。
オーバーオールに、つりスカート。
たしかお稽古ごとに持っていくバッグにも
使われていたっけ‥‥。
コーデュロイは、
私にとって懐かしさあふれる素材のひとつ。
子どもの頃に好きだった
『CORDUROY(くまのコールテンくん)』
という絵本の存在もあって、
ひびきを聞くだけで、
なんだかちょっとうれしくなる、
とくべつな素材でもあります。
(そうそう、昔はコールテン、
なんて呼ばれていましたね。)
この秋、見つけたのは、
あたたかでかろやかな、
最高に肌ざわりのいいHonneteの
コーデュロイワンピース。
「ちょっと懐かしい」と思っていたコーデュロイが、
洗練された大人の服になっているのは、
さすがフランス生まれのブランドといったところ。
素材えらびはもちろん、
色やフォルムなど、
こまかなところに目が行き届いていて、
思わずうなりたくなる、
とてもすてきなワンピースなのです。
色は3色。
どれも秋から冬にかけての
街の色にとけこむやさしい色合い。
この色合いもまた、
思わず「さすがフランス!」と
うなりたくなるのです。
相談しながら。
- 伊藤
- 洋服のブランドって、年に2回、
シーズンごとのコンセプトを打ち出したりとか、
テーマを語ったりするものだと思っていたんですが、
nooyは、そういう表現はしていないですね。
ラインナップは、どういうふうに決めているんですか。
- 平山
- よく言われるんですけど、
特にシーズンテーマがないんですよ。
- 伊藤
- なさそうだなぁと思ってました(笑)。
- 若山
- 訴えたいものがないからかも?
コンセプトを立てられる人が羨ましい。
- 伊藤
- もちろん、心の内に秘めたものはあると思うんだけど、
コンセプトはこれですって打ち出すことはない。
でもふたりでやっているわけだから、
それぞれにつくりたいものがあるはずで、
そのへんをどうやって進めてるのかなって。
- 若山
- シーズンの立ち上げは、
「こういうのをやりたい」っていうのを
ふたりでバァーっと落書きしますね。
じゃあ、ここをこうしたら? とか、
ここをこうしてもいいよねとか、
そしてトワル(toile=サンプル布で仮縫いをすること)で
形をだして、さらに詰めていきます。
そこに時間をかけますね。
- 伊藤
- このアトリエで、ふたりで?
- 若山
- そうです。
「ねぇ、これどう思う?」って話しながら。
- 伊藤
- 分担は、ないっていうこと?
- 平山
- そうなんです。分担がないんですよ。
- 若山
- ふたりで一人前。
- 平山
- ひとりでしかできないことはありますが、
ものによって違います。
例えば、これは若山がデザイン、私がパターン。
これは私が絵を描いて、若山が形にして、って。
- 伊藤
- そうなんだ!
おもしろい。
- ──
- バンドっぽいですね。
- 若山・平山
- ああ!
- 平山
- ふたりのバンドね(笑)。
- 若山
- ツーピース(笑)。
- ──
- そう、バンドって、誰かが引っ張って、
ほかのメンバーがサポートに回るタイプと、
全員が曲を作って前に出るタイプがあるんです。
後者は、曲を持ち寄って、いいんじゃない、
これで1枚作ろうか、みたいな感じになります。
- 伊藤
- 曲の完成に向けて、
つくった人じゃない人のアイデアが
入ったりするんだ。
ちょっとこんなアレンジしよう? みたいな。
- 若山・平山
- はははは!
- 若山
- そんな感じですよ。
- 平山
- バンド。いいですね。
- 伊藤
- ふたりがそれぞれの真っすぐな道じゃなくて、
いろんな意見を出しながらひとつの服ができる。
結局、ちゃんとnooyだってわかるものができる。
お客様のリクエストは聞くんですか?
- 若山
- あ、けっこう聞きますよ。
体形がこうだから、もっとこうしてねとか、
ベージュがいろいろあるけど、
こっち系のベージュはちょっと顔がくすむわとか。
そのたび「なるほど!」って思います。
- 平山
- 展示会にいらしてくださる方、
それぞれに個性があって、
試着をなさっている様子から
発見することもありますね。
- 若山
- 年配の方も、こんな鮮やかな緑が好きなんだとか。
- 伊藤
- ある程度おとなになると、
ひと通りベーシックなものを持っているから、
色のあるものが欲しくなったりするのかな。
今回、「weeksdays」でつくっていただいたのは、
まず、同じ形で、3つの色のコート。
これはクラシックなイメージですよね。
- 若山
- そうです。首のところ、
襟がちょっとだけ「抜けて」いるので、
首元がすごくすっきりして見えます。
あと、この襟の形だと、通常はテーラードで、
切り替えがあるものなんですが、
これはショールコートの丸い襟に、
ちょっと刻みを入れているんですよ。
それで柔らかいイメージになっているんです。
- 伊藤
- そういうことなんですね。
確かに切り替えがあると、
もっとカチっとした印象になりますね。
でも、ふんわり丸い。
すっごく、かわいい。
この形、nooyの定番的なデザインですが、
ふしぎなくらい、
生地で印象が変わるんですよね。
私が持っているのが‥‥。
- 伊藤
- そう、これ。
全然印象が変わるでしょう?
- 若山
- おもしろいですよね。
- 伊藤
- だから今回の3色も、
どれを選ぼうか、いまから悩んでいます。
- 若山
- だからけっこう皆さん、
色違い、柄違いでお持ちです。
- 伊藤
- もう10年以上になるアイテムですよね。
全然形を変えず?
- 若山
- ちょっと袖丈が長くしたりとかはしてますけど、
シルエットはあまり変えてないです。
- 伊藤
- 着やすいですしね。
黒いパンツにTシャツだけでも、
これを羽織ると洒落て見える。
コートなのだけれど、
ジャケットとの中間ぐらいのイメージなんですよ。
- 若山
- そうなんです。
意外と長い季節、着られます。
- 伊藤
- このパンツもすごく良かった。
裾のリブが、スポーティーにならず、
かわいくまとまってる。
- 若山
- この生地感がちょうど合うんだと思います。
かなりの細番手で、スーツなどの
メンズウェアで使われる糸なんです。
- 平山
- 「スーパー120」っていう糸で織った生地を
加工してあって、
ウール100%なのにストレッチ性があるんですよ。
- 伊藤
- そっか、メンズ!
- 若山
- ダンディ生地が好きです。
女性らしいのも好きですし、ハンサムなのも好きです。
- 平山
- カッティングにメンズのパターンを取り入れることも
多いんですよ。
- 伊藤
- nooyの服は、どれもそうなんだけれど、
着ると「より、いい」んですよね。
そういう秘密もあるんですね。
- 平山
- 腰はゴムですし、
裏地も、ほら、メンズの袖裏に使うものですよ。
- 伊藤
- ほんとだ!
カッコいい。
- 若山
- それもポイントです。
- 伊藤
- このままメンズサイズもあったら‥‥。
メンズはやろうと思わない?
- 若山
- そういうお声はいただきます。
たしかにもっと大きいサイズがあっても
いいかもしれないですね。
このパンツ、いまちょうど店頭でも
別カラーで展開していますが、
男性の方が買ってくださいますよ。
- 伊藤
- そして、スカート。nooyはニューヨークでつくった
スカートから始まったと聞きましたが、
このスカートに通じるものでしたか?
- 若山
- はい、かたちは似ていますね。
いわばこれがnooyの定番スカートです。
- 伊藤
- ちょっとストンとしたかたちで。
- 平山
- あまり広がり過ぎず、ストレートな感じ。
- 伊藤
- ウエストはゴムなのに、すごくすっきり。
「2秒で履ける」みたいな!
そこも最高なんですよ。
- 若山
- タイトめのスカートって、
探してもなかなかいいのがなくて。
- 伊藤
- そう、そう、ないんですよ。
私は丸首のカシミアのニットを合わせて、
ちょっと美智子さまふうに着たいな。
下はタイツかなぁ。
- 若山
- そうですね。
- 平山
- タートルも似合いますよ。
- 伊藤
- ヒールの靴もかわいいですね。
- 若山
- 石畳を歩きたくなる(笑)!
- ──
- nooyの服って、
こんなふうに盛り上がるんですね。
横で見ていて、楽しいです。
- 伊藤
- いろんな方に着て欲しい!
今日は、ありがとうございました。
お客様の反応がとても楽しみです。
またぜひご一緒させてください。
- 平山
- こちらこそありがとうございました。
- 若山
- ありがとうございました!
クラシックであること。
- 伊藤
- では、いまのように
生地をオリジナルで作るようになったのは、
あとからなんですね。
- 平山
- そうですね。ニューヨークのときの知り合いで、
ネクタイ屋さんをやっていた方が
日本で生地の工場をやっていて。
その方の伝手で、初めてオリジナルの
生地をつくったんです。
- 伊藤
- それってやっぱり、
「こういうのが欲しい」っていうときに、
頭に描いたものがなかったから?
- 若山
- そうですね。
- 伊藤
- 今は、オリジナルの生地は
どれくらいの割合に?
- 平山
- もう半分以上‥‥いや、もっとだね。
- 若山
- 8割ぐらいはオリジナルかも?
- 伊藤
- おぉ、すごい。そうなんだ!
- 平山
- デザインは同じでも色は変えている、
というものを入れたら、ほとんどすべてが
オリジナルかもしれません。
- 伊藤
- 生地をつくるのって時間がかかるでしょうね。
- 平山
- すごくかかります。
展示会が終わったら、次のシーズンに向けて
生地を決めるのが最初の仕事ですね。
それでも間に合わないときは
1年、繰り越すこともあります。
- 若山
- 最初のサンプルは予想もしていなかった、
ほんとうに倒れそうなものが来たり(笑)。
- 伊藤
- どっちが先ですか。服のイメージと、
生地のイメージ。
- 平山
- デザインが先のものもあるし、
この生地を使いたいねというところから
デザイン化するものもあります。
- 若山
- 「この生地、絶対使いたい!」って、
「何作ろう?」ってなるときもあります。
逆にこういうのを作りたい、
あ、ちょうどこんな感じの生地があった、
ということもありますね。
もともとつくりたいなぁってぼんやり思っていたのが、
生地を見て、「あ! これだ!」って形になることも。
もちろんそのために生地を探すこともありますし、
たとえばこの立体感のある鳥の羽根柄の服は、
もともと、生地屋さんに、同じ手法で、
まったく違う柄のものがあったのがヒントでした。
- 平山
- こういう方式でこういう仕組みでできてます、
っていうことを説明してもらって、
じゃあこんな柄もできますよね? って、
絵を描いて、糸の色を指定して
つくってもらいました。
- 伊藤
- テキスタイルデザインは勉強したんですか。
- 若山
- 学校の授業‥‥、それだけです。
仕事しながら、日々勉強な感じです。
「教えてくださーい!」ってしつこく電話して(笑)。
- 伊藤
- nooyの服って、
一見かわいらしいんだけど、
おとなも似合いますよね。
- 若山
- お客様、年配の方も多いですよ。
体形も幅広くって、
すごく痩せた方も、
ふくよかな方もいらっしゃいます。
身長も、150㎝ぐらいの方もいれば、
170㎝ぐらいの方も。
- 伊藤
- それは、そう工夫して
パターンを引いているんですか。
- 平山
- 工夫はあると思います。
たとえば肩。
このコートも、肩が落ちている形なんですけど、
痩せた方でも肩幅が大きく見えないし、
肩が張っている方もしっかり入るように。
- 伊藤
- へぇ!
そして、ちょっとクラシックなイメージがある。
- 若山
- はい、好きです! すごく。
- 伊藤
- この前、美智子さまスタイルが素敵だって、
盛り上がったんですよね。
クラシックなのに、古くならない。
- 若山
- そう、だから好きなんだと思うんです。
- 伊藤
- ほんとにかわいいですよね。
じゃあ、クラシックなものは、
洋服づくりのヒントのひとつ。
- 若山
- はい、それが基本かもしれないです。
- 伊藤
- 古着を着ていた時代とかも?
- 若山
- 中学生のときとかに、一通り。
祖父の三つ揃えを着たりとか!(笑)
- 伊藤
- 分かる(笑)!
ほかにはどういう要素があるんでしょう?
- 若山
- ユニフォームですね。
昔のユニフォーム的なもの。
昔のパン屋さんとか、薬屋さんとか、
ヨーロッパっぽいもの。
- 伊藤
- そういえばnooyでは、
パン屋さんのユニフォームを作っていますよね。
- 若山
- はい。パン屋さんだと、丸の内の新丸ビルの
ポワンエリーニュ(POINT ET LIGNE)などですね。
- 伊藤
- それは、独立してわりと間もないとき?
- 平山
- はい、わりとすぐの頃でした。
叔母の知り合いが、
あたらしいお店のプロデュースをするのに、
ふつうの白衣ではないものがほしいと。
それで、打ち合わせして、つくりました。
- 若山
- そこから意外といいエプロンがないぞ、
っていう話になって、
nooy KITCHENという
別ラインが生まれたんです。
「家事しなきゃ!」じゃなくて、
着て「これなら楽しく家事ができる」
っていうものを作りたいねって。
しかも、外にそのまま着て出かけられるような。
- 伊藤
- キッチンのための服って、
作業しやすいことが前提だから、
いろんな工夫がありそうですね。
- 若山
- はい。まず、素材ですね。
バサバサ洗っても、
どんどんいい味になっていくように。
お洗濯も簡単で。
これは1枚の布でできているんですよ。
- 伊藤
- 畳むのも楽そう。
- 若山
- それから、アンティークも好きなんです。
今回のこのコートの裏の花柄も、
アンティークのお皿の絵付けが
ヒントだったんですよ。
- 伊藤
- そうなんだ!
- 伊藤
- なるほど、
これをパターンに起こしたんですね。
- 若山
- そうです。
この裏地に使った模様は、
もともと違う生地で洋服をつくったことがあって。
もとは1色で、ペタッとした感じだったんですけど、
これは同系色の濃淡で陰影をつけて、
ぺったんこな印象にならないようにしています。
- 伊藤
- かわいい!
色もいいし。それはいつのですか?
- 若山
- 2017年の春夏です。
- 平山
- スカートとか、シャツもありました。
- 伊藤
- それを今回の裏地に応用なさったんですね。
着物で、八掛(はっかけ)が
チラッと見えるおしゃれみたいな感じ。
そういうの、すごく嬉しいんです。
コートをちょっと手に持ったりするときに、
ちらっと見えるとすごくいいですよ。
- 若山
- 色っぽさもありますよね。
- 伊藤
- nooyの服は、おとなをかわいくするし、
年配のかたを元気にするし、
若い人をすてきにする。
私、娘に着てほしくて。
最近、興味を持ってくれるようになったんです。
- 若山
- ありがとうございます。
- 伊藤
- 先日、一緒に服を整理していたら、
「すぐ着なくなる安い服」がたくさんあって。
たしかにかわいいなって思うんだけれど、
1回洗濯すると、かたちが崩れてしまったりするんですね。
いっぽう、素材や仕立てのよい服は、長持ちするし、
娘も私のそういう服を借りて出かけたら、
褒められたことがあったようで、
「ほらっ! いいでしょ?」って(笑)。
- 若山
- そういう道を通りますよね。
最初は自分の好きな服をちょっと安く買って、
それがすぐだめになっちゃうことを知って、
「1回勉強して」って言ったら、あれですけど‥‥。
- 伊藤
- 気に入って買ったはずが、
すぐ着なくなるんですよね。
買うのが楽しい、いちど着てみたい、
そういう気持ちもわかるし、
ファストファッションを
全部否定するわけではないけれど。
娘は、小学校高学年から、
スニーカーで、リュックしょって、
細いデニムを穿いて、っていうファッションでしたが、
最近デニムでも選ぶ形がちょっと変わってきた。
それにnooyのジャケットを合わせたりとかして。
それを見て、nooyって、
こういうハタチの子から、おばあちゃんまで、
ほんとうに幅広いなって思ったんです。
- 若山
- 有難いです。
- 平山
- 伊藤さんのように、
親子で着てくださる方もいますよ。
- 若山
- 以前から来てくださるお客様に、
初めて会ったときはお嬢さんが小学校低学年だったのが、
今年大学生になって、入学式に、
お母さんのnooyのコートを着ていったんですって。
「なめられちゃいけない」って。
- 伊藤
- なめられるって(笑)!
- 若山
- 「お母さんのコート貸して」って、
私たちが昔つくったコートを着たんだそうです。
- 平山
- Aラインのコートがあったんです。
- 若山
- 赤いチェックの。それを着て行ったら、
ファッション部っていうのがあったらしくて、
「ちょっとそこの赤いあなた!」って、
入部しないかって勧誘されて
追いかけられたそうです(笑)。
- 伊藤
- えー、かわいい!
- 若山
- 「違います! 母のです! 私、違います!」
って逃げて帰ってきたんだそうです(笑)。
- 平山
- 「私、そんなんじゃないですから! 違いますから!」
って。
- 伊藤
- ファッション部、気になる!
何するんだろう。
- 平山
- 私も気になって調べたけれど、
分からなかったんですよ。
- 伊藤
- でもそれ、嬉しいお話ですね。
- 若山
- すっごい嬉しかったです!
- 伊藤
- ファストファッションを着る時期があってもいいけど、
やっぱり私たち、そういう年代じゃなくて、
ずっと着れるものが欲しいから、
nooyの服がグッと来るんでしょうね。
はじまりはニューヨーク。
- 伊藤
- nooyを紹介してくださったのは、
若山さんの叔母さまで、
エディトリアルデザイナーの
若山嘉代子さんでした。
若山さんは私の憧れの女性で、
本をデザインしていただいたことがあるんです。
その若山さんから
「姪が服づくりを始めたの」ってお聞きして。
あれは何年前のことだったのかな。
- 若山
- 日本に帰ってきたのが2003年ですから、
その頃じゃないかなって思います。
- 伊藤
- その前は、ニューヨークに
いらっしゃったんですよね。
- 若山
- はい、3年ほどいました。
- 伊藤
- そもそもふたりはどういうきっかけで
nooyを立ち上げることになったんですか。
- 平山
- 知りあったのは、吉祥寺のデパートの
物産展の販売員のアルバイトだったんです。
- 伊藤
- うんうん、‥‥んっ?
- 平山
- 「京都展」でしたね。
- 伊藤
- 吉祥寺の? 京都展?
- 平山
- 私は数珠を売っていて。
- 若山
- 私は和紙を売っていました。
- 伊藤
- えっ! なぁに、それ?!
- 若山・平山
- (笑)
- 平山
- ほんとに1週間だけのアルバイトで、
偶然、休憩時間に話をしたんです。
「私、ニューヨークに行くんだ」って言ったら、
「あ! 私も行くんです」っていう話になって。
渡米に半年くらいの違いはあったんですけれど。
- 伊藤
- なぜニューヨークに?
- 平山
- 留学です。
- 伊藤
- 洋服の?
- 平山
- はい。日本で大学を出てから、
エスモード・ジャポンにちょっと居たんですが、
もっと本格的に勉強をしたくなって、
Fashion Institute of Technology(ニューヨーク州立
ファッション工科大学。略称FIT)に
行くことにしたんです。
- 伊藤
- 若山さんも?
- 若山
- はい、私もファッションの勉強に。
文化服装学院を卒業して、
日本でフリーで仕事をしてたんですけれど、
海外で勉強したいという気持ちが高まっていたんです。
- 伊藤
- 数ある都市のなかで
なぜニューヨークを選んだんですか。
パリや、ロンドンではなく。
- 平山
- バックパッカーで旅をしていた頃、
ニューヨークって楽しそうだなあって
思っていたんです。
- 若山
- わたしもそうです。
ニューヨークに1回、遊びに行って、
「ああ、すごい! なんか合ってるかも!」と。
それに、パリに行くならフランス語ができないと。
ロンドンはそのとき物価がすごく高かったですし。
それから、叔母の強い勧めもありました。
- 伊藤
- そうですよね。
若山嘉代子さんは
ニューヨークにいたことがあるとお聞きしました。
- 若山
- それで、私も大学に行くつもりで渡米したんですね。
パーソンズ美術大学(Parsons School of Design)
っていうところに入りたかったんですが、
日本の卒業記録と成績表を持って相談に行ったら、
「これだけ勉強したのなら、うちに来る必要ないわよ」
って断られてしまった。
はて、どうしたものかと途方に暮れ、
ビザの関係もあったので、
学校には絶対行かなきゃいけない。
それでとりあえず語学学校に行きました。
- 伊藤
- それで、おふたりは、ニューヨークで再会を?
- 平山
- それが、行ってすぐは交流がなかったんです。
たまたま夏休みに帰ってきたとき、
渋谷のスクランブル交差点でバッタリ。
- 若山
- 「あ! 見たことある子がいる!」って、
服をつかんで。
- 平山
- 「あの子だー!」
- 若山
- 「連絡先教えて!」
- 平山
- それでニューヨークに戻ると、
わたしが住んでいた大学の寮に
若山が電話をくれて、
遊ぶようになりました。
そしてわたしは卒業後、
現地でデザイナー・パタンナーとして
働くようになって。
- 若山
- 私も韓国系のデザイナーの方のところで、
就労ビザを貰って、
パタンナーとして働きながら、
しばらくいることになったんです。
- 平山
- そのうち「ふたりで洋服をつくる?」ということになり、
できあがった服を、お店に持っていくようになりました。
- 伊藤
- それが「nooy」のはじまり?
- 若山
- そうなんです。
- 伊藤
- 一緒にやろうって決めたのは、
デザインというか、
つくりたい方向が似ていたんですか?
- 平山
- そうですね。
そうじゃないとやり始めなかったかもしれないです。
- 伊藤
- 名前の由来は何ですか。
とてもかわいい。
- 若山
- ふたりのイニシアルです。
夏子のNと良佳のYに、
OO(オーオー)を入れたら、
ちょっとどこかの国の女の子の名前みたいだねって。
それで「nooy」(ヌーイ)に決めました。
- 伊藤
- そうだったんですね。
「縫う」「衣」かなって思ってました。
- 平山
- そう! よく言われます。
- 伊藤
- ふたりで最初につくったのは何ですか。
- 若山
- スカートです。
ニューヨークって、ほんとに生地屋さんが多く、
デッドストックを扱うような生地屋さんも
いっぱいあるので、そんな生地を使って。
そしてセレクトショップに飛び込み営業をしたんですよ。
「買ってください」って。そうしているうちに、
「じゃあコレとコレとコレ」と、
注文をいただけるようになって。
スティーブン・アラン(Steven Alan)っていう
ショップが扱ってくださったり。
- 伊藤
- すごい!
- 若山
- わたしたち、何も知らなかったので、
展示会を開くなんて考えつかなかった。
ほんとにスカートを担いで、
「こういうのお好きですか?」って(笑)。
- 伊藤
- サヤカ・ディヴィス(SAYAKA DAVIS)さんと
話をしたときも、
服をトランクに入れてゴロゴロ持って、
「見て欲しい」って営業をしたということでした。
ニューヨークは、そんなふうに知らない子が来ても、
有名じゃなくても、いいものだったら受け入れてくれる、
そういう街だっておっしゃってました。
- 若山
- ほんと、アポなしでしたよ。
「バイヤー」という職業すら知らなかったです。
- 伊藤
- 日本に戻ってきたのはどうして?
そのままニューヨークにいる選択肢もあったでしょうに。
- 若山
- 2001年の「9.11」(アメリカ同時多発テロ事件)が
きっかけでした。
- 伊藤
- そうでしたか。
- 若山
- 私たちも、拠点を日本に移すことにしたんです。
あのときは、長くいた人のほうが
帰国を選んだように思います。
それで日本に戻って、
またゼロから出発しました。
- 平山
- 日本で、またふたりで
服をつくりはじめました。
- 伊藤
- 日本では、誰もnooyのことを知らない状況ですよね。
どんなふうに販路を開拓していったんですか。
- 平山
- ニューヨークと同じで、お店に直接、
でも今度はちゃんとアポイントメントを取って、
服を担いで、見てもらいに行っていました。
- 若山
- そう、行きましたね!
楽しかったね。
- 平山
- それで置いてくださるお店もあったし、
扱ってはもらえなかったけれど、
親身になってアドバイスをくださった
お店もありました。
- 若山
- おもしろかったですよ、自分たちが素人すぎて。
- 平山
- 本当、すごくおもしろかったんです。
何も分からなかったから。
たとえば最初の頃は、
余り生地ばかり使っていたので、
それじゃ多くの注文を受けられないよと。
「生地の仕入れはこうするといいですよ」
なんて教えてもらったりもしました。
- 若山
- そのうち、展示会を開くことを思いついたんですが、
そういう貸し会場があることすら知らなかったので、
ギャラリーで展示会を開いたんです。
そしたら、そのギャラリーのオーナーが、
イラストレーターの方をおおぜい知っていたので、
DMを出すことができて。
- 平山
- そのDMを受け取った人が、
たくさん来てくださったんです。
- 若山
- しかも「かわいい!」ってお求めくださって、
それがきっかけで広がっていきました。
それがなかったら、いまがないかも?
nooyの秋の服
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くわしくは、特設ページをごらんください。
気になるふたり。
スタイリストをしていると、
ものづくりをしている人との出会いがたくさんあります。
いいな、と思うものを生み出す人は、
やっぱりその人自体もとてもすてき。
今はどんなことに目が向いているんだろう?
とか、
次は何を作るのかな、
とか、
いつだって気になる存在です。
今回、ご紹介するnooyの
若山夏子さんと平山良佳さんのおふたりも、
私にとってそんな存在。
春と夏、秋と冬、
1年に2度発表される服が、
毎回たのしみでしょうがないのです。
ちょっと懐かしくて、
でも新しくて。
着ているとうれしくなっちゃうnooyの服。
今週のweeksdaysでは、
全部で3型の服をご紹介。
コンテンツでは、
おふたりの出会いのきっかけや、
服作りに向かうおもいなどをうかがいました。
合わせてどうぞおたのしみください。
わたしとカシミア。 その3 毛玉さえも愛おしい。 料理研究家 中川たまさん
中川たまさんのプロフィール
なかがわ・たま
料理研究家。
神奈川県・逗子で、夫と大学生の娘と暮らす。
自然食品店勤務後、ケータリングユニット
「にぎにぎ」を経て、2008年に独立。
季節の野菜や果実を使ったシンプルな料理や、
洗練されたスタイリングが書籍や雑誌などで人気。
著書に『煮込みの本』(エイ出版社)、
『少ない材料で、簡単に作れる
たまさんちおおらかなおやつ』(家の光協会)、
『デイリーストック』(グラフィック社刊)、
『季節を慈しむ保存食と暮らし方 暦の手仕事』
『季節の果実をめぐる114の愛で方、食べ方』
(ともに日本文芸社)などがある。
カシミアニットが大好き!という中川たまさん。
肌が弱いこともあって、コットンやリネンなどの
天然素材の服が多く、
冬のニットは絶対にカシミア派だと言います。
「シンプルなデザインのカシミアニットは
20枚くらい持っているかな。
若い頃に、セレクトショップで働いていたときに
買ったものも、いまだに着ています」
そこまでカシミアニットが好きな理由って、
どんなことでしょう?
「いいカシミアは、毛玉さえも愛おしい。
毛玉がある様子も可愛いから、あまり取りたくないくらい。
柔らかな素材だから、長く着ていくうちに、
自分の体に馴染んでくる感じも好き」
肩が凝る服は苦手で、タートルネックもNG。
だからweeksdaysの軽いカシミアは理想的。
「これは楽ちん。特にVネックがいちばん
肩まわりに圧力がかからなくて着やすいんです」
Vネックワンピースには、白いコットンパンツを合わせて。
「お尻が出るのが嫌なので、
このワンピースの丈はいいですね。
パンツにも合うけれど、
ロングスカートを合わせても可愛い。
Vネックのアキも、深すぎず浅すぎずでいい感じ。
今日は中に見えないタンクトップを合わせていますが、
襟アキからインナーの色を見せても楽しいだろうな」
ワンピースを脱いだところで、長女がご帰宅。
そして当然のごとく、試着へ。
「わー、これ超気持ちいい!」
とはしゃぐ19歳の姿に、着心地の良さがうかがえます。
普段から、ちょっと大人っぽくしたいときや、
シンプルなブラウスなどをお母さんから借りることは
よくあるのだとか。
「私のニットはチクチクして大変だから、
ママは着ないけど(笑)」
一方で中川さんは、
丸首セーターにロングスカートを合わせて。
料理研究家という仕事柄、
家で仕事をする時間が長い中川さん。
洋服は着ていてラクなことを重視しています。
「丸首セーターはメンズライクなシンプルさが好みです。
コンパクトなシルエットで重心が上がるから、
パンツでもいいけれど、
フェミニンなロングスカートが合わせやすい。
ウエストがゴムの自作スカートにこのニットだと
ストレスフリーでとことんリラックスできます」
気持ちのいいカシミアニットに包まれて
ゆったりとティータイム。
冬の長い夜も楽しみになるような、至福のひとときです。
わたしとカシミア。 その2 さらりと1枚で。 主婦 金本ソニアさん
金本ソニアさんのプロフィール
石川県金沢で生まれ育った28歳。
日本人の父とドイツ人の母を持ち、
高校卒業後、ドイツに留学。
現在は、3歳と0歳の息子の母として、日々奮闘中。
おいしいものとおしゃれが大好きで、
来年でき上がるマイホームへの夢が膨らんでいるところ。
いつも洋服をおしゃれに着こなしている姿が
とっても印象的な金本ソニアさん。
小さな子どもと一緒に過ごす毎日でも、
好きなファッションを積極的に楽しんでいる様子が
伝わってきます。
「次男は授乳中ですが、専用の服は持っていません。
今はデパートや公共施設に授乳室があるから、
あまり気にせず、好きな服を着ています」
普段は毎日、息子たちと公園で遊ぶので、
汚れても気にならないようにと、
ワンピースを手作りすることも。
「ベビー服を手作りするようになってから、
自分の服を作るのも楽しくなりました。
好きな生地を買ってきて、息子の服と
お揃いのワンピースを仕立てたり」
パンツもスカートもワンピースも着るけれど、
ハイウエストが好きで、
スカートは膝丈が好き、という金本さん。
weeksdaysのVネックワンピースはちょうど膝丈。
パンツなどを重ねず、さらりと1枚で着るのが
金本さん流です。
「靴下を合わせてもいいし、
タイツを重ねても可愛いですね。
これに黒のスエードのサンダルとか履きたいな」
寒い季節も公園通いは日課だから、
あたたかなニットは必需品。
メンズの大きめサイズを着ることが多いそう。
「旦那さんと共有することが多いんです。
大きめのセーターにパンツとかミニスカートを
合わせています。
旦那さんも買うときに、私が着ることを想定して
選んでくれているみたい(笑)」
なので、weeksdaysの丸首セーターや
Vネックワンピースのような薄手のカシミアニットは
あまり持っていないとか。
「薄手だからコートを重ねても、
着膨れせずに動きやすそう。
丸首セーターは、パンツやスカートに
インすることもできますね。
ハイウエストが好きなのでうれしい!」
いざ着てみたら、その着心地の良さに感動している様子。
「肌が弱いので、セーターはいつも下になにか重ねないと
チクチク痒くなってしまっていたんです。
でもこれなら大丈夫!」
丸首セーターに花柄のテロテロパンツを合わせた
大人っぽい着こなしもとってもお似合いです。
「丸首セーターは、カーディガンのように
肩からかけてもいいですね。
肌触りがよいので、インナー代わりに
白いレースのワンピースの下に重ねてもいいな」
と、どんどん、着こなしのアイデアが湧いてくる様子。
「このベージュの色合いも、着まわしが効きそう。
ネイビーのミニスカートに合わせて白タイツ
という着こなしもやってみたいし、
紫のニットのロングカーディガンの下に着るのもいいな。
イメージはモデルの
アレクサ・チャンのファッションです(笑)」
わたしとカシミア。 その1 10年先もずっと。 MOON mica takahashi COFFEE SALON 高橋美賀さん
高橋美賀さんのプロフィール
たかはし・みか
カフェオーナー。
「女性ひとりが、仕事帰りに
ゆっくりひと息つけるようなお店を」と
四谷四丁目に
MOON mica takahashi COFFEE SALONをオープン。
大好きな月が見える場所を選び、
夕方から夜にかけてひっそりと営業している。
主にていねいにハンドドリップで淹れた
コーヒーを始めとしたドリンクと、
手作りの焼き菓子を提供。
◆MOON COFFEE SALON
東京都新宿区四谷4丁目28-16 吉岡ビル
火~金曜日の16時から22時(21時30分L.O.)。
定休日は、毎週土・日・月曜日。
不定休が多いので、営業日はインスタグラムで確認を。
◆インスタグラム
@micatakahashi
東京・四谷四丁目で、
コーヒーのおいしいカフェを経営している高橋美賀さん。
着る服は動きやすいことが基本。
そんななか、この数年で、自身のファッションに
方向性が見えてきたと言います。
「今までいろいろな服を着てきましたが、
40代になってから、洋服はたくさんはいらない、
上質なお気に入りを大事に長く着続けたい、
と思うようになりました」
改めて高橋さんの服装を観察してみると、
上質な生地で作られたブラウスやパンツに
フランスのデザイナーの
繊細なゴールドのアクセサリーという
高橋さんのスタイルがあることがわかります。
「そういう服はやっぱり少し高価だから、
若い頃は買えなかった。
でも今は、自分で働いて、
少しずつ集めていく楽しみがあります。
服選びのいちばんの条件は、素材がいいこと。
デザインも色も、
結局ベーシックな定番が長持ちするんですよね」
聞けば、お気に入りの洋服は10年選手もざらにあるとか。
「このカフェを開くために、2~3年、倹約していました。
贅沢をせずにひたすらコツコツ貯めて。
そんなときも、新しい服を買わなくて済んだのは
上質な素材の服を揃えていたから。
長年着ている服が好きなものばかりで、
くたびれない上質な素材だったおかげなんです」
高橋さんの普段の服装は、ほぼパンツスタイル。
ワンピースにもパンツを重ねます。
なにか参考にしている雑誌などはありますか?
と聞いてみたところ、照れながら出してきてくれたのが
10年ほど前のとある雑誌。
「伊藤まさこさんのおしゃれが大好きなんです。
この雑誌もずっととっていて。
今見ても、可愛いなあと思う。
すべてを真似するわけではないけれど、
バレエシューズの使い方とか、
ふわっと女の子らしくて、でもどこか凛々しい。
永遠の憧れですね」
というわけで、伊藤まさこさんがセレクトした
weeksdaysのカシミアニットを知ったとき、
とても気になったのだそう。
「着た瞬間に、軽い! 気持ちいい!って。
コンパクトに見えるから、私のからだには
小さかったらどうしようって心配でしたが、
サイズ感もちょうどいい。安心しました」
寒い時期も、カフェで働いていると暑いから、
厚手のセーターは持っていないそう。
「暑がりなのかな、薄手のニットが好きです。
素材命なので、カシミアは大好き!
直接、肌に触れても気持ちがいいし、
毛玉ができても、手入れして着続けようと思えます」
グレーのVネックワンピースには、
いつものデニムを合わせて。
「ずっと前から持っていたみたいにしっくりくる。
着心地もよく、気持ちが落ち着きます」
ネイビーの丸首セーターには、同じ色のパンツを。
「わ、大人っぽい! 少しツヤがあるから、
同系色でセットアップみたいに着ると、
ちょっとかしこまりたいときもいいですね。
デートにもいいなあ。デートしたいなあ(笑)」
実は、”MOON”のカフェ・オ・レとプリンには、
恋が叶うというジンクスがあるらしく、
高橋さんが知らないうちに、話題になっていたのだとか。
気持ちのいいカシミアニットに身を包んだ店主が
笑顔で迎えてくれるなんて、
それはもう、恋も叶うような気がしてきます。
カシミアのセーターとワンピース
毎日、袖を通したくなる。
毎日カシミヤが着たいなんて
ちょっとぜいたく?
いえいえそんなことはありません。
大人なんだし、
がんばっているんだし。
自分を甘やかしたっていいのでは、
なんて思うのです。
去年の冬、
「着慣れたTシャツや、
履きなれたデニムのような
自分になじんでくれるカシミヤのニットを」
そう思って作ったのが、
weeksdaysオリジナルのこの丸首ニット。
今年はサイズ感を少し変えての登場です。
「しょっちゅう着てる」
とか
「気がつくと手に取ってる」
なんて、私の友人たちからもとても好評だった
(もちろん私も)、
Vネックのワンピースも一緒にご紹介。
毎日、袖を通したくなる
カシミヤニット。
あなたの冬のおともに、
いかがですか?
タイツと靴のコーディネート。
カーディナルレッドのタイツには
スエードの赤いヒール靴を。
同系色でまとめると、
ハッと人目をひく足元になります。
ブーツとはひと味違って、
新鮮な表情になるのもうれしい。
合わせるのはグレーのダッフルコートにしようか、
それとも生成りのボアのコート?
なんてコーディネートを考えるのが楽しくなるのが
カラータイツのたのしいところです。
黒いワンピースに黒のスニーカー。
これで黒のタイツだと
全体的にちょっと重たい印象になってしまうことも。
そんな時には、このカーディナルレッドの
タイツの出番です。
メリハリのある色使いで、
全身を軽やかに見せて。
マスタードと相性のよい茶色の
ショートブーツを合わせてみました。
スニーカーやフラットシューズなど、
タイツの色の出る分量を考えながら、
靴をえらぶのもまたたのしいもの。
少しのちがいで、
ずいぶんと印象が変わるので、
全身のバランスを鏡で確認しながらコーディネートして。
時にはレオパード柄のサボなど、
個性的な靴を合わせても。
デニムやダンガリーのワンピースやジージャンなど、
シンプルな服と合わせて、
思い切り足元を目立たせます。
冬の足元を軽やかに見せてくれる、
大好きなネイビーと白の組み合わせ。
汚れるからと敬遠されがちな白い靴ですが、
専用のシューズクリームを使えば汚れはすぐに落ちるし、
「まっ白」を履く、
という緊張感は、なかなかいいものだと思っています。
もちろん万能なネイビーカラーは、
白だけでなく、
同系色や茶の靴との相性もよし。
一足持っていたい色です。
黒いブーツにネイビーのタイツ。
「全身黒」もいいけれど、
タイツだけネイビーで
ニュアンスをつけるのもまたいいものです。
一見、似た色合いですが
黒とネイビーの微妙な差がいい。
その場合、靴は個性的なタイプをえらんで、
ちょっとだけ足元を主張して。
ネイビー同様、黒いタイツも万能選手。
こんな派手なゴールドの靴も
すんなり受け止めてくれるのは、
黒のおかげ。
本当に助かる存在です。
タイツのおしゃれで気をつけたいのは、
野暮ったくならないこと。
「おしゃれは足元から」の言葉を胸に、
かっこいい足元を目指します。
黒い靴に黒いタイツを合わせるときは、
質感に気を使います。
今回は、ペタンコのエナメルのワンストラップシューズ。
ちょっとテカリのある素材を持ってきて、
黒だけの足元がたいくつにならないようにします。
白いコットンのワンピースに、ニットを重ね着、
なんていうコーディネートがきっとお似合い。
(伊藤まさこ)
定番になるようなアイテムを。
- 伊藤
- 玉井さんは、板井さんから
「一緒にやろう」と声をかけられたとき、
どう思ったんですか。
会社の中で働くというのと、
独立して自分たちだけの責任で仕事をしていくのって
全然違いますよね。
- 玉井
- はい。それまでは彼女に素材提案をして、
職人さんの紹介をして、彼女が形にして、
という関係で、会社員同士で、
5年ぐらい一緒に仕事をしてきましたが、
環境が変わるわけです。
でも、よかったなと思っています。
私も大きな会社に属していたので、
必ずしも売りたいものが売れるわけじゃないんですね。
当時、スポーツ用とか、機能性の高いものが
流行していたこともあって、
私はどっちかと言ったら、
天然繊維よりも化学繊維を売る
仕事がすごく多かった。
営業の知識は蓄積されていきましたが、
それは売りたいものとはギャップがあったので、
とても疲れていたんですね。
そんななか、天然繊維でやりたいという
板井の提案が、楽しかったんですよ。
そして、彼女が辞めて独立を考えていると聞いて、
しかも、一緒にやらないかと誘ってくれて、
私も、すごく悩んだんです。
6年間勤めて、自分なりにも頑張ってきたし、
楽しかったから。
ただやっぱりギャップを感じたまま
仕事を続けていくのは嫌だったんですよね。
そこで、私もステップアップしたいなと考えて、
板井と一緒にやろうと、会社を辞めました。
- 板井
- たぶんふたりは同じような気持ちだったと思うんですが、
「この会社ではやり切ったな」と。
良い悪いではなく、会社でできることと
個人でできることって全然違う。
やっぱり次は個人でやるべきことを
自分は目標にしてるんだなというのが、
明確にあったんです。
- 伊藤
- でも最初から順調というわけでもないですよね。
きっと。
- 玉井
- はい。でも嫌だなとか、苦しいなというのは‥‥。
- 板井
- なかった。
- 玉井
- まあ、でも1年間は
ほんとに手売りみたいなことばっかりしましたよ。
- 板井
- 道端でね。
- 伊藤
- 道端で?!
- 玉井
- はい(笑)。道端はちょっと言い方が悪いですが、
各地で開かれる販売イベントですね。
まさしくテントを張って路上で、という感じなんですよ。
5、6年前は、そういうイベントがほんとうに多くて。
- 板井
- 定期的に行なわれているものもあれば、
町おこしみたいなイベントもあって、
とにかくいろいろ参加していました。
- 玉井
- 客層もいろいろで。
段ボールを2人で持って、テントもかついで。
雨に打たれる日もありましたよ。
- 板井
- ビチャビチャになって!
- 玉井
- それを1年間、毎週のように続け、
カーマンラインを知ってもらうという活動をしました。
- 伊藤
- 反響はどうでしたか。
- 玉井
- リピーターの方がたくさんうまれて。
- 伊藤
- よかった! そういえば、
最初に2人がつくった靴下って、
どんなものだったんですか。
- 板井
- 自分たちの星座の、
おうし座とふたご座をデザインした靴下でした。
- 伊藤
- 素材は、最初からこれでいこうみたいに決めたんですか?
天然素材だけで行こう、とか。
- 板井
- 靴下って、デザイン重視になりすぎても、
素材重視になりすぎても、バランスを欠くんです。
やはり使う機械に合う糸であること、
はき心地とデザインの均衡が保てること。
どれも極端に飛び出ることがないようにしています。
あんまりデザインや素材に特化し過ぎると、
機械をだいぶ無理させてしまうと、
昔から感じていたので、
なるべくそういうことはせずに、
「ずっと穿きたいもの」というので、
納得いかなかったものは出さないようにして。
そんな考えを基本にしつつ、
混率は天然素材を高くしていますが、
例えば3割ナイロンが入っているものは、
強度のために入れるなど、理由があります。
でも表糸にはなるべく天然素材100%の糸を使い、
裏糸で調整をしているんですよ。
- 伊藤
- 機械にも色々あるんですね。
古い機械だからこそできることも?
- 板井
- そうですね。古い機械だと、
手編みっぽい何とも言えない味わいが出たりします。
靴下のできること、できないことって、
かなり限られているんです。
洋服ほど自由じゃない。
さらに職人さんの気持ちもあります。
職人さんが手間をかけて一緒に取り組んでくれるかどうか。
現実的に難しいことも、微妙にあったりするので。
- 伊藤
- むずかしいものですね。
- 玉井
- この靴下、初めてコットンとカシミアっていう
ちょっと変わった組み合わせでつくったものです。
去年のものですけれど。
- 伊藤
- わぁ、かわいい!
- 玉井
- こういうものをつくるのは、
機械も大事なんですが、
やっぱり職人さんの微調整がいちばんなんです。
特に今回「weeksdays」でつくったタイツは、
カーマンラインを立ち上げてから知りあった
職人さんなんですが、
靴下よりも長いものを作るという難しさは、
ほんとうに勉強になりました。
タイツ屋さんの機械調整って、また、すごいんです。
靴下よりもかなり厳しい環境の中でつくっている。
- 伊藤
- そうですよね。
ウエストの部分とかお尻とか立体的なものを、
苦しくならないように形成するんですもんね。
- 玉井
- そうなんですよ。縫製と裁断という、
靴下にはないものが2つもプラスされてるので。
これは、最初に伊藤さんに気に入っていただいたタイツと、
同じ工場でつくっているんですよ。
前はウールでしたが、今回は95%コットンです。
- 伊藤
- 無地のコットンにして頂いたんですよね。
- 玉井
- ウールはやっぱりシーズンが限られるので、
シーズン的にずっと穿けるものをということで、
コットンを選ばれましたね。
でもコットンがタイツになるって、
あんまり見ないんですよ。
- 伊藤
- そうですよね。
私は靴下をあんまりはかないんですが、
冬は、タイツの需要がすごくあって。
それでタイツを探すと、
世の中には、あんまり綺麗な色がない。
黒やネイビーももちろん必要だから、
今回つくって頂いたけれど、
もうちょっと冬の足元を軽く、
明るくしてもいいんじゃないかなと思ったんですよ。
それでコットンの無地。
- 伊藤
- 今、ウェブサイトに掲載されている販売店も
かなり増えてきていますよね。
手売りというのは今もやっていらっしゃる?
- 板井
- 今はほとんどやっていないんですが、
2017年からは自分たちが主催して、
ご愛用いただいているお客様や
お世話になっている方々をお迎えするイベントをして
年末に1回だけテーマを決めて、
ものづくりされてる方や仲良くしてくださってる方にも
ご協力頂いて。
- 伊藤
- いいですね!
カーマンラインは今も2人だけで運営を?
- 玉井
- はい、2人だけなんです。
- 板井
- 細かい作業などを友達に
手伝ってもらったりはしていますけれど。
- 伊藤
- 会社員の時代は新作のタイミングは
年に4回ということでしたが、
今はどうなさっているんですか。
- 玉井
- あんまり決まりをつくっていないんですよ。
- 伊藤
- ああ、いいですね。
できたときが、出すべきとき。
- 板井
- はい。絶対このシーズンに出す、
とかはないですね。
もちろん「このシーズンに」とは思うんですけど、
このままじゃまだダメだなと感じたら、
次のシーズンまで見送ります。
- 玉井
- でもタイツは早かったですよ。
デザインがシンプルだということと、
職人さんが間違いなかったので。
- 伊藤
- よかった。
逆にゆっくりつくったものはありますか。
- 玉井
- 子供の靴下は、時間がかかりましたね。
- 板井
- 慣れていないものを職人さんに
つくってもらうのは時間がかかるんです。
ほんとに会話で生んでいく仕事なので、
最初のサンプルの前のすり合わせから時間がかかる。
そしてサンプルがあがってきてはじめて、
改良点が見つかる。
その繰り返しです。
- 玉井
- これが子供用の靴下です。
1歳から2歳用ですね。
しかもお母さんとおそろいなんです。
- 伊藤
- すごくかわいい!
- 玉井
- 見てわかるように小さいじゃないですか。
そもそも、その機械を持ってる職人さんが、
本当に少ないんですよ。
- 伊藤
- ただちっちゃくすれば
それでいいという問題じゃないんでしょうね。
- 玉井
- それでつくられているところもありますが、
やっぱり、ちっちゃいときこそ大事だと
カーマンラインでは考えています。
- 伊藤
- 特に子供は敏感ですもんね。
今回のタイツづくりは、いかがでしたか?
- 玉井
- すごくドキドキしながらつくりました。
こういう形でものをつくるのも初めてですし、
最初はすべてが緊張でしかなくて。
素材は使ったことがありましたが、
こんなふうに別注で作るのは初めてだったんです。
梱包の袋も、伊藤まさこさんと組む、
ということも含め、いろんなイメージから、
2人で生地を探して、
前の帆布よりかこっちがいいねと選びました。
「weeksdays」限定ではないのですが、
このタイミングで変えたので、
皆さんに初めて見て頂く形です。
- 伊藤
- 嬉しいです。
これがあると、旅行など、
ちょっとしたものと持っていくのに軽くて。
- 玉井
- ほんとですね。
皆さんに広がれば嬉しいです。
私たちが想像できなかった色を
新しくつくらせてもらったというのも
新しい発見になりましたし、
それがまた広がれば嬉しいなって。
- 伊藤
- タイツって「洋服と合わせやすい」という基準で
色を選びがちですが、今回選んだ色は、
二ットを選ぶみたいな感覚でいいと思ったんです。
主役かと言われるとちがうだろうし、
でもこんな色があったら楽しいでしょう? って。
ああ、この冬が、楽しみになりました。
これから毎年、
新しい色ができるといいですね。
- 板井
- はい、ぜひ!
- 伊藤
- きょうは、ありがとうございました。
これからもどうぞよろしくお願いします。
- 玉井
- こちらこそ、よろしくお願いします。
-
KARMAN LINE(カーマンライン)の
展示会のおしらせ
靴下がつくりたい。
- 伊藤
- カーマンラインを知るきっかけは、
梅田阪急の『生活のたのしみ展』に
おふたりが来てくださったことでした。
製品サンプルをお預かりして、
さっそく使ってみたんです。
それはウールのタイツとソックスだったんですが、
すごく「しっくりくる!」と思って。
- 玉井
- ありがとうございます。
伊藤さんが似合いそうなものを
いくつか選んでお届けしたんです。
- 伊藤
- 袋に入っていて、
「かわいいな」ということも含めて、
「しっくり」来たんですよ。
製品はいいのに、包装が残念とか、
そういうものが世の中には多いなか、
こまやかな部分までブランドの筋が通っていて、
いいなぁ、と思ったんです。
それでおふたりが大阪から東京にいらっしゃるときに、
あらためてお目にかかって。
それで「こんなものがつくれたらうれしい」
ということをお話ししましたね。
それから1年、こうしてコラボレーションした
製品ができあがりました。
ありがとうございます。
- 板井
- 私たちも、とても嬉しいです。
- 伊藤
- そもそも、なぜ、靴下を、
この2人でつくろうと思ったんですか?
きょうは、そんなことをお聞きしたくて。
- 板井
- 私は、小さい頃からデザイナーになりたいという
夢があったんですけど、
そういうふうに夢に描くのは「洋服」ですよね。
それでそういう学校に入学して、
在学時も含めて、洋服の販売員を5年ほどしました。
販売を卒業する気持ちが整い、退職後に企画の仕事を探し、
大阪のメーカーに就職をしたんですが、
デザインというのは経験がないと難しいということで、
営業に配属になったんです。
ところが、その担当した洋服のブランドが休むことになり、
デザイナーも辞めるという話になって。
そのとき、社長から一回考えてと言われ、
自分を見つめ直したんです。
そこで思ったのは、自分自身、背が高くないこともあって、
小物でファッションを楽しんできたということに
気がついたんです。
- 伊藤
- 身長、お幾つですか。
- 板井
- 150センチぐらいなんですよ。
だからどうも合う洋服がなくて。
- 玉井
- しかも、華奢ですしね。
- 板井
- だから帽子だったり、靴下だったり、
アクセサリーに魅かれるんだと思います。
ちょうどそこのメーカーのお客さんたちからも
靴下を作って欲しいという声を聞いていたので、
自由な気風の会社だったこともあり、
靴下のブランドを立ち上げさせてくださいと、
社長に直談判したんです。
- 伊藤
- ん!!! すごい。
- 板井
- それでOKが出て、
「やりたいんだったら一緒に頑張ろう!」と。
社内でも初めてのことだったので、
社長が一緒に工場を探してくれたりして。
- 伊藤
- ほんとうに、いちからのスタートだったんですね。
- 板井
- そうなんです。会社のある大阪から、
靴下の産地である奈良に足を運んで
工場を探す、というところから始めました。
私も経験がなかったので、
靴下の世界は知らないことばかり。
年配のベテランの男性の職人さんたちに
素材のことやつくりかたを聞く、
ということからでした。
- 伊藤
- 飛び込みで行っても、
皆さん快く話を聞いてくださったんですか。
- 板井
- はい。まずは電話をして、
「お願いします。こういうことをしたいんです」と。
工場によっては、ちょうど世代が変わり、
息子さんが継ぐっていうタイミングでもあったりして、
職人さんについて頑張ってる息子さんがいたりとか。
そんななか、引き受けてくれる方があらわれて。
- 伊藤
- 先方もあたらしいことを始める時期で、
面白そうだな、と思われたんですね。
- 板井
- そうかもしれないですね。
そんなふうに少しずつ取組先を増やしていって、
型数も増えていきました。
やっぱりそれぞれの工場でこれが強いとか、
これが特徴ということもあるので、
そういうのでまた違うものをつくることができて。
そうするうちに、素材に興味があった私に、
糸の会社の詳しい人を、と、
紹介してくださった職人さんがいたんです。
その糸の会社の人というのが、
のちにいっしょに「カーマンライン」を
立ち上げることになる、玉井だったんです。
- 伊藤
- そんなご縁が!
- 板井
- はい。まず、この業界に
女性がいるということが私は新鮮でした。
- 玉井
- なかなか、いないんですよ。
- 伊藤
- ええっ? 女性が穿くものをつくるのに。
- 玉井
- そうなんですけど、
素材メーカーや工場って男性ばっかりなんです。
そこで私は珍しい女性の営業で、
靴下の職人さんに糸を売る仕事をしていたんですね。
- 板井
- いっぽうで、靴下工場のおじさんたちは、
私に言うんです、
素材のプロから直接話を訊いた方がいいよと。
新しい糸とかも全部教えてもらえるよ、と。
- 玉井
- 素材メーカーの営業は、
職人さんと話すことが多くても、
デザイナーやアパレルの方とつながることは
あんまり多くないんですよ。
それで板井と知りあって。
- 伊藤
- 職人さんをはさんで、
伝言ゲームみたいになってたんですね。
- 玉井
- そうなんです。
- 伊藤
- 板井さんは、つくりたい靴下があって、
それを実現できる工場や素材を探す、
という感じでしたか?
- 板井
- そうですね。
そのメーカーの洋服を着る人が穿くテイストの靴下、
ということでもありましたし、
私自身、コンセプトを考えることも好きで、
ちょっと言葉を添えたものづくりをしていました。
春夏秋冬、年に4回の展示会があり、
毎回がほとんど新作でしたが、
たとえばシーズン毎に「世界の国」をテーマにして
観光地や建物をイメージした柄をつくったり。
- 伊藤
- アパレルでの靴下づくりは、
何年のことですか。
- 板井
- 2008年頃のことです。
そちらで6年ほどお世話になって
2014年に独立をしました。
- 伊藤
- 独立したきっかけは何だったんですか。
- 板井
- その会社の仕事も、とても楽しかったんですね。
がむしゃらにつくっていて、
知識を得ることもたくさんあって。
ただ、新しいものばっかりつくっているので、
お客様のところに届いたあとのことが、
わからなくなってきたんです。
その後どう変化していくんだろうとか、
どう洗ってあげたらいいとか。
私が接するのは卸先のかたがたなので、
ものづくりの想いは伝えられるんですけど、
どういう方が穿いているのか、
リアルなお客様はどんな気持ちなのか、
わからなかった。
それで、ちょうど玉井と会って、
彼女の知り合いのカフェで
直接の販売をさせて頂くことになったんですよ。
それで週末、自分が接客して
売るということをしてみました。
そこでお客様に直接ふれたことで、
「もっと直接伝えたい」という気持ちが
すごく大きくなっていきました。
自分の中では「ものづくり」をしていたつもりでしたが、
ここで一回立ち止まって、振り返りたいなと。
- 伊藤
- うん、うん。
- 板井
- 私も30歳になり、気持ちの変化もあって、
洋服もちょっとテイストが変わってきた。
仕事でも、どんどんあたらしいデザインを
つくるというよりも、
定番をつくり、それをアップデートしていく、
そういう愛されるものづくりをしたいなと思ったんです。
それで会社に「新しいことをしたい」と
退職の意向を伝えました。
ちょうどそのタイミングで
社内でやりたいという人が現れ、
3人が引き継いでくれことになったので、
これまでの仕事を引き継いで、独立をしたんです。
- 伊藤
- その会社にいて培った人脈や
工場のつながりなどを
「置いていくように」ってならなかった?
- 板井
- はい。何も言われなかったです。
若い頃、販売員を辞めたときみたいに、
私には前に進みたいという気持ちがあって、
それを理解していただきました。
- 伊藤
- じゃあ、つながりをそのまま持って、
知り合った皆さんとも引き続き仕事ができる体制で。
- 板井
- そうですね。
引き続きお付き合いいただいている工場もあります。
もちろん新しい試みもあったので、
自分たちで新しい工場を開拓したり、
思いもしないタイミングでご縁をいただいて、
お仕事に繋がることもありました。
そして、独立にあたって、玉井を誘ったんです。
一緒にやりませんかって。
それが「カーマンライン」のスタートでした。
-
KARMAN LINE(カーマンライン)の
展示会のおしらせ
KARMAN LINEのカラータイツ
冬の必需品。
素足にサンダルの季節があっという間に過ぎ、
そろそろタイツが恋しくなってきました。
これから春がやってくるまで、
足とおしりをあたたかくまもってくれるタイツは
私の冬の必需品です。
今回、カーマンラインと作ったのは、
冬の街に映えるカーディナルレッドと
マスタード色のタイツ。
ともすると全身が暗くなりがちな、
この季節のコーディネートに、
一役買ってくれそうな、
なんともかわいらしい存在。
足元が明るいと、
足取りも軽くなるから不思議です。
weeksdaysでは、
この2色にくわえて、
カーマンラインのオリジナルの
ブラックとネイビーもご紹介します。
定番カラーと明るいカラー。
冬が待ち遠しくなる、あったかタイツ。
足元のおしゃれをどうぞたのしんでください。
根本は「食」。
- 安藤
- 高知の子どもたちって、
どこに行っても人に話しかけるのが
当たり前に生きているから、
娘は公園でバーッと知らない人のところに行って、
「お姉ちゃん、あっそぼう」って、
勝手に遊びだすわけです。
それで東京で公園に連れて行った時、
「あっそぼう」って
知らない子供たちのなかに入っていった瞬間に、
みんながサーッて、散り散りになり、
お母さんたちの顔を伺いに行くんです、子どもたちが。
そうか、そんなかんじか‥‥がーん。
と、切なくなってしまって。
うちの子もショックを受けながら、
頑張って何回も行くわけですよ。
それで、だんだん自信をなくして、私の所に来て、
「ママも一緒に言って‥‥」って。
- 伊藤
- そうですねぇ。
子どもが親の顔を伺うのと同じように、
大人もまた、そういうところがありますよね。
たとえば娘が目の前にいるのに、
私に向かって「娘さんはこれは好き?」みたいに
聞く人がいます。
親を介して子どもに接する。
そういう時は「彼女に直接聞いてくれますか」
って言うんですけれど。
- 安藤
- うんうんうん。
- 伊藤
- なんだかこう、人と人との間に
冷たい川が流れてるみたい。
- 安藤
- 映画もそうなんですよ。
多くの人が、映画を感性で受け取れなくなってきている。
だから先に「これは泣ける映画です」
「こんな物語です」「ラストシーンは感動です」
みたいに教えないと、
不安で見に行けないみたいな時代になっている。
わからない映画は見に行きたくないって思う流れもある。
映画文化、映画というメディアは、
これから先もずっと残っていくとは思うんですけど、
見る人がどうそれを支えていってくれるか、
っていうところに、今、来てると思うんです。
でね、今日会話したこと、全ての根本にあることは、
やっぱり「食」ですよ。
- 伊藤
- つくり手側と受け取る側をつなぐのに、
「食」は、わかりやすいですよね。
- 安藤
- つくり手側で、意識が高い人は、
どこの分野にも多いわけで、それは「食」も同じ。
提供する側は、これは無農薬、これは有機栽培、
こうでこうでってわかっていて、
さらに、それをみんなに届けたいっていう
スーパーの人がいたりとか、取り組みはちゃんとある。
でも、そこと消費者の距離が、まだまだ大きくある。
やっぱり相互のアプローチをもって、
いかに、より自然な感覚で生きていけるか。
- 伊藤
- その「食」のことで言うと、
娘が小さい時に、ある料理家の方と仕事をしたのですが、
その方が、
「あのね、子どもはね、ちゃんとご飯をつくってれば、
いい子に育つのよ」っておっしゃっていて。
そうか、たしかにそうだなって。
- 安藤
- ですよね。
- 伊藤
- 「別に豪華じゃなくていいから、
炊き立てのご飯とか、
ちゃんと出汁をとったお味噌汁があれば」って。
たのしそうに、美しく料理をしてるなかで、
そんなふうにサラッと言ってくださって、感激しました。
「まさしくそうですよね!」って。
忘れがちですけれど、
お母さんがご飯をつくってくれるって、
すごくうれしいし、基本だなぁ。
- 安藤
- 本当に共感しまくります。
私、さらに、その答えが、
「菌」にあると思っているんです。
- 伊藤
- 菌?
- 安藤
- 今、そのことを追究していて。
そんなふうに考えていくのが好きなんですね。
お母さんのおむすび、なんでいいんだろうっていったら、
お母さんの手の菌がいっぱい入っているから。
味噌はその最たるもので、
発酵していく中で、麹と手の菌が、
その家にとってベストな菌をつくるためのミーティング、
たぶん長期ミーティングを繰り返してくれている。
「あぁ、こんな感じの家なんだ」
「そうしたら、こうしたほうがいいんじゃないか」って。
味噌がね。
- 伊藤
- おもしろい(笑)!
マンガの『もやしもん』みたい。
- 安藤
- えぇ、知らない!
- 伊藤
- 主人公は農大の学生で、菌が見えちゃう人なんです。
そして菌が語り始めるの。まさに。
- 安藤
- やっぱり、語ってるんだ!
今、除菌、除菌、除菌じゃないですか。
たしかに除菌も大事だと思うけど、
やっぱり、お母ちゃんの菌で
自分は育ったなぁと思ったら、「食」。
- 伊藤
- うちの娘が小さい時にパリに行って、
きれいなものがすごくたくさんあるなかに、
汚いものもいっぱいあるのを見たんですね。
そして東京に戻ってきて、地下鉄に乗った時、
「なんか無菌室みたいだね」って。
「本当だね、なんてきれいなんだろう、東京って」って。
じゃあパリの居心地が悪いかというと、
居心地はよかったんです。
そんな東京も、住んでいると、麻痺するんですけれど。
ああ、今回、高知に来て、ほんとうによかった。
- 安藤
- すごくうれしいです。
- 伊藤
- そうそう、昨晩、居酒屋に行ったら
「桃ちゃんに会った?」って言われましたよ。
結構ね、行く先々で、
「桃ちゃん」「桃ちゃん」と言われてて、
桃子さんって、すっごく馴染んでるんだなぁ。
すごいことですよ。
愛されてる。
- 安藤
- うれしい。私も愛してるから、心から。
- 伊藤
- たくさん取材をして、高知を肌で感じた最後に、
こうして桃子さんに会えた。
よい時間の過ごし方をしました。
ほんとうにありがとうございました。
- 安藤
- 次にいらっしゃったら、山に行きましょう。
野いちご、イタドリ、ハナミョウガ、
食用のものがどんどん自生で広がっていますよ。
私も子どもも夢中になって、
案内の人からは「もうちょっと早く進まない?」って
言われちゃうくらいなんです。
野草の効能を知っている人と一緒に行くと、
「これは何々に効く」って教えてくれて。
それを食べると、本当に効くんです。
びっくり仰天の連続!
そしてね、その野草だらけの山の湧水を飲むと、
本当に、その水は、ちょっと薬草っぽいんですよ。
これ、高知にちょっと住んで、
だいぶ感じられるようになったことなんです。
感覚的には、高知は、
見えない微生物に至るまでが幸せです。
- 伊藤
- 次回は、それを体感しに来ますね。
- 安藤
- ぜひ! ありがとうございました。
- 伊藤
- ありがとうございました。
トゲトゲの町。
- 伊藤
- ある程度大人になるまで
東京にいたからこその驚きもありますか?
私は訪れた先で、「なんでそんな喜ぶの?」
って、土地の人に言われるんですけれど。
- 安藤
- 言われますよ、「なんもないのに」って。
「なんもない高知に来てくれて、ありがとう」って。
でも私からしたら「全部あるから、高知に。
こちらこそありがとう」です。
- 伊藤
- 高知市内にあるセブンデイズホテルのオーナーの
川上絹子さんもおっしゃってました。
「なんでこんな高知のこと好きになってくれるのかしら」。
私は「いやいや、好きになるよね」って。
- 安藤
- うんうんうん。地元の人は、そう思っちゃうんですよ。
いま企画している「カーニバル00 in 高知」も、
目的は「リマインド」、再発見なんです。
高知の人たちに、気付いてほしい。
自分たちが当たり前だと思っていることが、
「えぇ、そんなすごいことだったの?」って。
これは高知に限らず、日本全体がそうだと思うんです。
日本人って、外国から見たら、
とんでもないオリジナルな多様性の国です。
『逝きし世の面影』っていう本があって、
黒船時代のことが書いてあるんですが、
それを読むとすごくおもしろい。
海外の人が、江戸時代に日本に来て
びっくりしたことを書いたエッセイ集のようなもので、
読むと、私たちが思っている日本人のイメージは、
一回、なんか西洋に出されて、ちょっと変えられて、
また私たちにインプットされた結果、
勘違いしたままのものなんだなって。
これを読むと、いかにいろんなことが
混ざりに混ざっていて、
でも、ベースは、とっても土着的というか、
縄文的で、みんなハッピーっていう、
全然閉鎖的じゃなかったんだってわかるんです。
エロティシズムとかもね、もう、バクハツ(笑)。
- 伊藤
- おおらかですよね、江戸までは。
たしかに高知は、今もおおらかかも。
飲み屋さん行くと、案外、お年を召した
おじちゃんとおばちゃんが、
イチャイチャしてたりするんですよ。
- 安藤
- うんうんうん!
- 伊藤
- それ、私、結構、「いいなぁ」と思って。
年甲斐もないとか、そうじゃなくて、自由。
- 安藤
- ラテン気質ですよね。
- 伊藤
- すごいよかった。
しかも、なぜか、
見知らぬ私たちにおごってくれたりして。
- 安藤
- そうなの、すぐおごってくれる。
- 伊藤
- さっきおっしゃった、
「愛してるから、愛されてる」じゃないけど、
そういう気持ちにさせてくれる何かが
この土地にあるような気がします。
- 安藤
- そうですね。それは利害関係じゃなくて、
なにかしてもらったからこう返さなきゃっていう感覚は
高知にはない。むしろ「なんかいいこと」を
みんなでぐるっと回している感じなんです。
- 伊藤
- みんながそうなればいいのにね。
- 安藤
- うん。
- 伊藤
- 都会にいると、私、モタモタしてるから、
ちょっとした人混みで
「チッ」とか舌打ちされたりします。
厳しいって思う。
もっとね、おおらかになればいいのにな。
- 安藤
- 絶望感をいっぱい感じることがあります。
私、移住してきた当初、
都会に行って仕事をしていたら、
やっぱりぶつかりそうになって、
それこそ舌打ちをされちゃって、
「あ、すいません」ばかりで。
それで高知に帰ってきて、
スーパーの前で、自転車が私にぶつかりそうになり、
キーって止まった時に、
東京のまんまの感覚だったから、
きっと向こうが文句を言うと思ったんですよ。
だから私は先制して険しい顔で振り返っちゃった。
そしたら、ここは高知だから、
「ごめんねぇ~、大丈夫やったぁ?」みたいな、
そこから会話が始まるような、
ゆったりしたテンションなわけです。
私、ものすごく反省して。
「あぁ、申し訳ないです、私、本当に忘れてた。
もうすでに忘れてた、高知はこうだったよ!」って。
そのあと、子どもの手を引いて高知の町を歩いていた時、
たむろってる不良っぽい若者たちの前を通ったんです。
私はうっかり東京の態度で、トラブルが起きないように
「やる気?」みたいに、ちょっと防御する感じでいたら、
その子たち、「えぇ、メッチャかわいい!」
「何歳っすか?」って。
あぁ、本当にごめん。ここは高知だった〜って。
見た目はそうでも、みんな、そうなの。
- 伊藤
- へぇ!
- 安藤
- 携帯ゲームに夢中になって歩く子も見かけることがないし。
ゲームが悪いとは思わないけど、
五感で楽しいことがたくさんある。
『Pokémon GO』は時々、大人がやってるけど(笑)。
- 伊藤
- 5年くらい前、矢野顕子さんとお会いした時に、
「愛されるためには、まず自分が愛すること」って
おっしゃっていて。
すごく深いなあ、そうだよなあって。
いろんなことが、そうですよね。
自分がされたいんなら、まず、自分がするべきだなと。
高知の人は、そう気づいたからやってるんじゃなくて、
最初から、それができてるんですね。
- 安藤
- 高知に限らず、もともとは、そうなはずですよね。
誰しもが。
困っている人がいたら、助けたい、それがうれしい、
それをできる自分もすごくうれしいみたいなこと。
みんなそうだと思うけど、それなのに、
やっぱりどこかで、欠乏感があると、
足りないから奪わなきゃと思ってしまう。
ものも、これに価値があるって決めた瞬間から、
価値がないものが生まれてしまう。
芸術もそうですが、
生きること自体がクリエイティブなはずだから、
経済的な考え方では絶対に答えが出てこないはずなのに、
「これはクリスタルじゃないから、価値がない」とか、
「これはプラスチックだから」とか、思ってしまう。
- 伊藤
- みんな、1個だけある正解を信じていて、
それに向かっている気がします。
でも、その正解って、じつはどうでもいい。
たとえばお店で運んできてくれた人に、
「ありがとう」って言う。
でも「『ありがとう』とか要らないから」
って言う人がいる。
- 安藤
- 「『ありがとう』とか言わなくていいの!
お金払ってるんだから」みたいな。
- 伊藤
- 東京は大好きな街でもあるんだけれど、
時としてトゲトゲする。
でも世界には挨拶が当たり前で、
そのことで循環してる社会がたくさんありますよね。
そっちのほうがラクだと思うんだけれど。
そういえば、知らない大人から挨拶をされたら、
無視するように都会の子どもたちは
言われるようになったって聞きました。
マンションでも張り紙がされて、
「子どもに挨拶をする人がいるけど、やめてください」。
- 安藤
- なんてこった!さみしくなっちゃう。
残高3000円でも。
- 安藤
- 高知に移住してきて、思うことがあるんです。
「これから、私たち、どうなっていくの?」って。
私、東京で仕事をすることも多いから、
経済の動きに基づいた所で暮らす感覚も知っているし、
同世代の話を聞くことも多い。すると周りの人は
「将来、社会保障は期待してません」とか、
「年金は貰えないと思う」、
そんな声が聞こえてくる。
私の世代だけじゃなく、
私の両親(奥田瑛二さん・安藤和津さん)も
ずっと上の世代だけど、全然期待していない。
で、期待してなかったら、どうするかっていったら、
「自分たちでなんとかするしかないよね」、
そうみんな思うわけじゃないですか。
特に、クリエイティブ系の仕事をしてる人は、
自分がやりたいことをやり続けて、
老後も生きていきたいっていう人が多いわけで、
しかも社会保障が期待できないのだったら、
老後までに、どれだけ資産を増やせばいいかのかって
考えるじゃないですか。
- 伊藤
- うん、うん。
- 安藤
- その資産というのは何だろう?
その人にとっての資産は何か? って考えたんです。
私の場合は、お金ではなくて、
子どもが「お腹すいた」って言った時に、
何億円、何兆円、口座にあっても、
米一粒与えられなかったら、まったく意味がない。
だから私の資産というのは、
やっぱり食べることだと思うんですね。
自分も食いしん坊だからなんですけれど(笑)。
- 伊藤
- 私もそうですよ(笑)。
- 安藤
- そこで高知なんですけれど、
ここには目の前に山・川・海があって、
ちょっと釣り竿を出したら、魚が獲れる。
そこら辺で、食べられるものが
季節ごとになっている。
街路樹でも食べれるもの、
ヤマモモとかビワが、なってるし。
高知のこの環境って、
自然、イコール、安心感なんです。
市内の中心に暮らしていても、
それを感じられるんですね。
- 伊藤
- 東京で震災に遭ったらどうするんだろうと思います。
店以外何もない! みたいな。
- 安藤
- そう、3・11の時、私は東京にいて、
それを最初に感じました。
オイルショックは体験してないけれど、
お金を積んでも買えないっていうか、
必要なものがあってもお店の人から
「売らない」って言われたらどうなるか、
っていうことだし。
- 伊藤
- 私はちょうどその時、松本に住んでいたんですが、
松本は湧水もあって、水道が出なかったとしても汲める。
それこそ、実もなるし、近所づきあいもあるし、
「きっとなんとかなる」という、
気持ちの上での救いがありました。
でも、これ、東京だったら、どうしてたんだろうと思って、
気持ちがザワザワしたんです。
東京に住んでいるみんな、
大丈夫かなっていうのもあったし。
- 安藤
- どうにもならなかったです、東京は、本当に。
- 伊藤
- 無力なんだなって思いました。
- 安藤
- でも、我々は、本来は自然そのものじゃないですか。
- 伊藤
- そう。動物の一部なのに。
桃子さんって、東京生まれで東京育ち、
しかもロンドンやNYにいた人なんだけれど、
すごく自然児な感じがしますよ。
- 安藤
- 自然児です。それは、奥田さんです。
うちの父、超自然の中で生まれ育って、
ボーイスカウトの隊長をずっとやってたりして。
- 伊藤
- へぇ!
- 安藤
- 小ちゃい時に、私もそんなふうに育てられて。
学習院に通っていたんですが、
あの学校は、意外なことに、
そういう教育をするんですよ。
根性と、自然の中で
いかに生き延びられるかみたいな(笑)。
- 伊藤
- へぇ、意外!
- 安藤
- 私、4月に口座残高が3,000円になって。
- 伊藤
- えっ?!
- 安藤
- それで‥‥、
- 伊藤
- えっ、えっ(笑)?!
- 安藤
- よくそういうことがあるんですよ。
いろいろやりたいことにつぎこんでしまって、
気がついたらお金がないっていうこと。
でも、こういう仕事だから、
受け取るはずのお金の支払が遅れたりもして、
その時は、そういうしわ寄せが一気に来てしまい、
予想していなかった事態になってしまったんです。
それでいちど「どうしよう?!」と、
心臓がドクってなったけど、
その時、知り合いと山に行って、
そこに生えている野草を
いっぱい食べながら歩いたんですよ。
- 伊藤
- へえ!
- 安藤
- 高知には「すごい山」がいっぱいあって、
食べられるものが自生しているんです。
野草に詳しい人もたくさんいて、
今、それを防災にっていう動きもあったりして。
私たち、もし南海トラフが来たときに、
何がまず必要かっていったら、食料。
だから「食べられるものを知っておこう」。
すぐそこが山だ、川だ、海だってなるから、
避難生活にそれは役立つよねと。
それで、山を歩いていたら、だいぶ冷静になって。
「これは幸せじゃないか?」と。
残高3,000円でも。
- 伊藤
- うん。
- 安藤
- さらに「桃子、金がないらしい」っていう噂になって、
自転車を運転していたら、
「桃子ーっ!」って呼ぶ人がいるんです。
向かいの居酒屋のおばちゃんから、
商店街のみんなが通りがかりに、
かごに野菜とか突っ込んでくれる。
さらに、家に帰ると、惣菜が届いていたりして。
- 伊藤
- すごい(笑)!
- 安藤
- 何度もそんなことを体験しています。
それは、高知の県民性である
「どうぞどうぞ気質」とともに、
「今の世の中、大問題がある。不安だ。
それをどう解決したらいいか」の手前に、
どこまで行っても自然ベースの
安心感というものがあるんです。
その中で私はどう生きていきたいかっていうことで、
ひとりひとりが生活をしているんですね。
時には苦しい思いをしたりしながらも、
「人生いろいろあるよね」って、
高知ではそういう「人のあり方」を感じられる。
ギュッとする時間。
- 安藤
- 先日、参議院選挙戦がありましたけど、
形をつくっていく、仕組みをつくっていく、
システムを生み出すという意味で、
行政というものがあって、そこにはルールがあり、
資本主義の「社会ベース」で成り立っている。
けれども高知は、
「自然ベース」の社会なんですね。
逆なんです。
- 伊藤
- うん、うん。
- 安藤
- そして、それが昔もいまも、うまくいっている。
というか、高知って、取り残されて、
変わらずに来たゆえに、
大事なものが残っているんです。
- 伊藤
- ほんとうにそう感じます。
現代なのに。
- 安藤
- そう、ここには文明というものもあって、進化もしてる。
私がなぜ高知に来てしまったかというと、それです。
ここが最先端だと思ったんです。
たぶん、高知が、私にもともとあった
感覚と価値観を開眼してくれた。
そのポイントは「社会ベース」ではなく
「自然ベース」だということです。
- 伊藤
- たしかに高知って、
社会と自然のバランスがすごくいいですよね。
- 安藤
- はい。きっと食のことをなさってる伊藤さんは、
それを感じていると思うんです。
社会と自然のクロスポイントが高知では見出せる。
- 伊藤
- だから「長く滞在したい」って思うのかも。
そういえば料理家には、
トラネコボンボンの中西なちおさんのように
高知を拠点になさっている方や、
高知に移住なさった有元くるみさんのような方が
いますものね。
- 安藤
- クロスポイントって、縦軸と横軸が必要ですよね。
でもみんな、縦軸にばっかりに集中してきた。
だから経済成長‥‥どころか、
疲弊しまくっちゃってる。
横軸が、全然伸びてきてなかったんです。
でもその横軸が高知には最初からあって、
伸びるどころか、地場、土の中でずっと張り続けている。
- 伊藤
- そっか、だから、食に関心のある人は、
高知にくると、すぐにピンと来るんですね。
- 安藤
- はい。きっと高知には、
次のものごとを生み出すひな型がたくさんあるんです。
- 伊藤
- そういうことに気付いたのは、
海外にいたことが影響しているのかな?
自由にものを考え、
客観的に日本を見るようなこと。
- 安藤
- はい。イギリスにいた影響も大きいですね。
みんな政治のことを考えるし、
というか、無意識ではいられない。
そして、政治ができないことを芸術がやるということも、
強く実感できるんです。
私は、映画監督を目指した時からずっとそうですけど、
日々ニュースを見たり、新聞を読んだりして、
そういうことを思ってきました。
その答えが、高知にはあったんです。
これからも政治が仕組みをつくっていくのだけれど、
そこに気持ちが入らなかったら、きっと破綻します。
でもその「気持ち」の部分を、
高知の人は、最初に持ってくる。
- 伊藤
- 高知に住むって3秒で決めたというのも、
そういうことを薄々感づいていたからでしょうね。
- 安藤
- そうですね。それで
「革命を起こすならここだ!
お父さん、私は移住します!」
みたいな感じで父に言ったんです。
- 伊藤
- お父様(奥田瑛二さん)は
どんな反応だったんですか。
- 安藤
- 私がやろうとしてることを、
うちの家族はみんな知っていたから、
「おぉ、そうだな。
でも東京にいたまま、高知がいいと言っていても、
何も動かない。高知に腰を据えなさい。
早急に移住したほうがいい」
という感じでした。
- 伊藤
- 高知にピンと来る人なら、
東京との距離は気にならないんじゃないかな。
むしろ、すごく近くにあるような気がするくらい。
だから家族のみなさんも、
離れても、寂しいとか、
そういう感じじゃなかったんじゃないかな。
- 安藤
- そうですね、それはそうかも。
それに、家族にとって、
ずっと私はイギリスにいて、
「いつもお姉ちゃんはいない」
みたいな感じだったから、
高知に移住すると言っても、
「この人は、やっと帰ってきたと思ったら、
やっぱり、また出ていくのか」
っていうくらいだったと思います。
- 伊藤
- (笑)
- 安藤
- 高知で子育てをしていて、
すごく実感することがあるんです。
母がそのように私を育ててくれたんですが、
子どもへの愛は、時間じゃなくて、濃さだと。
ずっと一緒にいても、
イライラしちゃったりしたりすることだってあるわけで、
お母さんが幸せに、自分のことを一所懸命やっていて、
その中で切り替えて、家に帰ったらもう今日は
ここから娘の時間だっていうのを、ギューッと。
1日に1回必ず、そんな凝縮した愛の塊の、
ラブラブな濃い時間を、絶対に、娘と過ごします。
- 伊藤
- 2人住まい?
- 安藤
- そうです、離婚したから、2人きり。
だから2人きりのラブラブタイム(笑)。
- 伊藤
- うちも娘と2人暮らしで、
今20歳なんだけれど、
ラブラブにしようとすると。
もう、嫌がられるんですよ。
16歳くらいからだったかな。
- 安藤
- えぇーっ?!
- 伊藤
- だから、寝てる間に、
そっと近づいて。
- 安藤
- それじゃ、まるでお父さん(笑)。
でも、すっごいわかります。
- 伊藤
- そのうち「キモい!」とか言われちゃうから、
ラブラブできる今を十分堪能してください。
- 安藤
- そうします。
やっぱりそうか、15、6まで。
- 伊藤
- ‥‥12くらいからだったかも?
「ママ、気持ちわるいなぁ」って言ってた(笑)!
- 安藤
- そのくらいかもしれないですね、たしかに。
- 伊藤
- 私は気づかないふりしてたけど、
- 安藤
- (笑)
- 伊藤
- だって、すごく好きだもの!
うちも、私がしたいことがあって、
仕事をしていたから、一緒にいる時間は少なかった。
だからこそギューってする時間をつくってました。
そんなふうに仕事をしてきたことについては、
18歳くらいの時に、
「ママがママとして生きてるから、すごく楽」
って言ってくれました。
「ずっと見られてても辛いし」って。
- 安藤
- うんうんうん。
- 伊藤
- 「私もしたいことが自由にできるのは、
ママがしたいことをしてるからだね、ありがとう」って。
- 安藤
- 私も、母に対してすごくそのことを思います。
- 伊藤
- きっと、そうですよね、働いていても、
濃密な、ギュッとした愛情の時間を持つこと。
- 安藤
- 娘って、お母さんがしんどそうっていう姿とか、
辛そうなのに何かやってるっていうことが、
ものすごく気がかりじゃないですか。
とくに、小っちゃい時とか。
- 伊藤
- 敏感に感じ取るんですよね。
- 安藤
- だから、不機嫌でいたり、疲れを見せるのは、
「どうなんだろう?」って。
仕事を一所懸命やったあとは、
体は疲れてるかもしれないけれど、
子どもとギューっていう時間は持とうと。
今、そのいいバランスが少しだけわかってきました。
- 伊藤
- どんなふうに育つのか、楽しみですね。
- 安藤
- ほんとに!
あれ? 私、なんでこの話に今飛んだんだろう?
すぐ話があっち行ったりこっち行ったりするんです(笑)。
振り返ってる場合じゃない。
- 伊藤
- 頭に思い描いたものを映画にする。
そのためにキャスティングする時は、
この人はこれだっていう枠組みの想像を超える
キャスティングをするわけですよね。
- 安藤
- はい。
- 伊藤
- 『カケラ』で、志茂田景樹さんが
ちょっと出てくるじゃないですか。
あのシーン!(笑)
- 安藤
- (笑)
- 伊藤
- 一瞬でしたよね、出てきたの。
あの後に、きっと家族で食卓を囲むシーンが
あると想像してたんだけど、ない。
あれ、すごいなぁと思って。
- 安藤
- うんうん、あれだけでしたね(笑)。
- 伊藤
- そう。それが、すごいインパクトで、
かなりのショックで。
- 安藤
- あれは映像だからこそできることですよね。
魂の奥に最速で届くのは、まず音。
音楽は、ポーンって1音鳴らしただけで、
涙が出ることもあるわけですから、
さらに魔法に近い表現です。
映画はその音があり、
映像という、ある種の衝撃があり、
観る人は次に何が来るか予想できないという仕掛けがある。
スッと終わっても、そこから引き込まれ、
「あっ」って、何かが開いたところに、
感情とか、いろんな栄養が奥深く入ってくる。
映画はそういう仕組みを持っているんです。
文学は、読む人が、自分の想像力で広げてくれる。
それはそれで本当に素晴らしいもの。
そういう意味では、
小説と映画はまったく違うと思います。
- 伊藤
- 『カケラ』は桜沢エリカさんのマンガ
『LOVE VIBES』が原作でしたよね。
ご自身が原作を書かなかったのは、
「これだ」みたいな、交わりを感じたからですか。
- 安藤
- 処女作を撮る時に、考えたんです。
長編と短編って、やっぱり全然違うので、
長編を監督したことのない自分が、
監督としてどんなものかがわからない。
初めてのことだからこそ、
大きな、柵も見えない牧場の中で
撮ったほうがいいと思ったんですよ。
- 伊藤
- その「大きな、柵も見えない牧場」が、
原作がある、ということなんですね。
- 安藤
- はい。いくら助監督をやっていたとはいえ、
何も知らない子どもと同じで、
自分自身に対して未知数だから、
オリジナルを選んだら、
子どもが料理した時みたいに、
無茶苦茶なことをやりかねないと感じました。
一作目からオリジナルが撮りたかったからこそ、
「このお皿の中だよ」って、
その中で大いに描くっていうことをすれば、
たぶん、処女作は、どこまでも自分の感性を
表現できるのかなと思ったんですね。
- 伊藤
- あの時は、20代?
- 安藤
- はい、20代です。
- 伊藤
- 私、この前『カケラ』を見返した時に、
自分の中で、若い頃、置いてきたものが
これだったのかもみたいな、
キュンとした感覚をおぼえました。
ご自分では、その時の気持ちそのままなのか、
私みたいに、
「そうそう、こういう若い頃って、
こういうところがあるよね」って、
思い出しつつ表現したのか、どっちなのかなと。
- 安藤
- その時のままです。
エピソードとして、
若い頃、こんなことあったな、っていうのは
盛り込みましたけれど、
あとは、主役の2人
(満島ひかりさん、中村映里子さん)の
ど真ん中の若さに任せたいというのもあったし。
‥‥って、実は、こんな話をしていていながら、
『カケラ』のこと、ほとんど忘れてるんです(笑)。
- 伊藤
- えっ?!(笑)
- 安藤
- どんな映画だったっけ? って。
というのも、私、自分が撮った作品って
全然見ないんですよ。
もちろん編集中はずっと見ているし、
ゼロ号、初号は見ます。
公開初日や、映画祭でお客さんの反応が見たいとか、
最初の数分と、途中の気になる所、
このシーンの反応を見たい、というときには
そっと館内に入りますが、
それ以外は見ないんです。
- 伊藤
- だとしたら、今ご覧になられたら、
「こんなことを思ってたんだ!」って
思うかもしれませんね。
でも私も、自分の書いたものや、仕事は、
ほとんど見返しませんね。
単行本を資料として見返すことはときどきあるけれど。
- 安藤
- うんうんうん。
- 伊藤
- 昔のことを振り返ってる場合じゃない! というか。
- 安藤
- ですよね(笑)!
それがひどすぎて、撮って、公開に向けて
その作品のインタビューを受けている時に、
「どんな作品ですか」とか訊かれても、
もうすでに忘れてて、
「えぇと、どんな作品だっけ?
ちょっと待ってください」なんてことも。
なので、テレビに出るときは、
「主人公が何々で、この人がこうで、
こういう役だったよね。
こうでこうで、こう。はい、覚えた!」
って、全部言えるようにして(笑)。
- 伊藤
- じゃあ、今は、次に向けて、蓄え中?
だって、始まったら、
湖に飛び込んじゃうんですよね、
息が続く限り。
- 安藤
- そうなんです。
今──、人生で見たことがない、
最高におもしろい映画を見ている途中なんです。
こんな映画は私以外見たことないんじゃないか?!
とすら思っています。
というのも今、「カーニバル00 in 高知」という
大掛かりなイベントを企画していて。
- 伊藤
- 今年、開催されると聞きました。
- 安藤
- はい。土佐の知恵と、
日本中から集まった知恵を混ぜ合わせるお祭りなんです。
食の力があふれて、人間らしく生きる力が輝いていて、
自然との循環がずっとあるこの場所を舞台に、
農業はもちろん、
映画、音楽、いろんな分野の専門家を招いて、
未来を考えようっていうイベントを、
若者巻き込み型、同時多発の、
街フェスとして開催しようと。
それが終わったとき、その後の自分は、
いったい何を撮るのかなぁって、
逆に、楽しみになっているんですよ。
「こういうのを撮ろう」と思っていたことや、
やりたいと思っている企画は常にあったけれど、
このイベントに関わったら、
どれも違う、今じゃない、それじゃない、
っていう気しかしなくなって。
- 伊藤
- その後の桃子さんがどんな映画を撮られるのか、
すごく楽しみ。
- 安藤
- はい。このイベントを立ち上げる過程で
筋力がついていると実感していて、
映画監督としての超スーパー強化合宿を、
今、受けている感じがするんですよ。
それがそのまま映画という形に
なるわけじゃないですけれど。
- 伊藤
- イベントの日程はいつですか。
- 安藤
- 11月の2、3、4日(土・日・月/祝)の開催です。
- 伊藤
- きっと新しい何かなんでしょうね。
- 安藤
- そうなんです。
新しい地球を描こうとしてるんです。
海の底に降りてゆく。
- 安藤
- 私、日本にいた頃から、
クラスで浮いてた子だったんです。
うちの母も、何回も呼び出しを食らったし。
- 伊藤
- 小・中の頃?
- 安藤
- もうずっと!幼稚園から、高校1年まで(笑)。
- 伊藤
- 気が強いっていうことじゃなくて?
- 安藤
- むしろ、自分だけのファンタジーの世界にいました。
先生の話も聞いてないし。
いつも鼻の下のばして、口あけて、
「ボーッ」でした。
- 伊藤
- へぇ!
- 安藤
- 今の私には、結構はっきりものを言う
印象があるかもしれないですけど、
実は真逆で、数字のカウントで行くと、
1、2、3、4じゃなくて、
にぃ、しぃ、ろぉ、やぁ、とぉ‥‥、
というタイプです。今でもそうです。
- 伊藤
- ええっ?! 妹のサクラさんとふたりで
インタビューを受けているのを
テレビで拝見したんですが、
桃子さんは自分の言いたいことが
全部言葉にできていて、
サクラさんは、ポヤーンとしていて‥‥。
だから桃子さんは「長女です!」みたいな
役割をしっかり自覚してるのかなって。
今日も、発してくださった言葉には力があり、
もともとそういう人なのかなぁと、
そんな気がしていました。
無駄がないですよね、言葉に。
- 安藤
- えぇ? 本当ですか。
今日は、いっぱい褒められて、どうしましょう(笑)。
たしかに、姉妹としては、
そのパターン、あるかもしれないです。
でも、あの子のほうが、
意志も強く、軸がぶれないですよ。
私のことをサクラが表現していて、
すごい、この人、私を理解してるなぁ、と思ったのが、
「お姉ちゃんは、湖でなのか、
海なのかわからないけど、
バーンっていきなり飛び込んで、
探求しようと思うのか、
なんとかしようと思うのか、
どんどんどんどん潜っていって、
きっとそのまんま死んじゃって、
浮き上がってこれなくなる。
だから私はいつも水面に浮いて、
『お姉ちゃーん』って、
万が一の時、糸を垂らす役割をしてる感じ」
と。
私はたしかにそうなんです。
「あれだ! 何か光った。
たぶんあそこに何かある!」って、
みんなに「行ってきます」も言わずに、
自分が帰る距離の間に呼吸が続かないことも忘れて、
危険なくらいまで潜って行っちゃうんです。
本当にそういう関係性なので、
私はサクラをものすごく信頼しているんです。
- 伊藤
- サクラさんのその言葉は、
「お姉ちゃんってさ‥‥」みたいな感じで、
直接、言ってくれたんですか。
- 安藤
- いいえ、何かでインタビューに答えてました。
- 伊藤
- そういう話って、姉妹間ではしませんか。
ちょっと照れくさいかな?
- 安藤
- それが、意外と、言うんですよ。
「お姉ちゃんはこうだから、こうじゃん?」とか。
- 伊藤
- 今、お仕事は「映画監督」ですが、
何をしてるのがいちばん楽しいと感じますか。
- 安藤
- 全部、映画です。
- 伊藤
- 全部、映画?
- 安藤
- これは私の構造なんだと思うんですけど、
いつも常に、自分の中で見ている映画があるんです。
それは、いくら説明しても、
みんなには映画として見せられないから、
実際の映画にして見せている。
- 伊藤
- 頭の中に、映像が?
- 安藤
- そうです。今日も映画ですし、
自分の体験の全て、
いつもすっごいおもしろい映画を
見てるっていう感じなんですよ。
- 伊藤
- へぇ。昔からですか。
ファンタジーの世界で生きていたという
小っちゃい時から、映画だった?
- 安藤
- そうですね。
みんな、夢を見ますよね?
夢って、ちゃんとカット割りが
できてるはずなんですよ。
- 伊藤
- (笑)! あぁ‥‥。
- 安藤
- 基本は自分の見た目で人が動いている、
でも、自分を客観的に見ることもある。
自分が動いてる姿とかを。
- 伊藤
- なるほど。
- 安藤
- もしくは、自分が一切出てこなくて、
他の周りの人たちしか登場しない
パターンの人もいるかもしれない。
いずれにせよ、状況も、環境も、
登場人物の言っていることから、
関係性全てがわかって夢を見ているってことは、
カット割りができてるってことなんですね。
- 伊藤
- それを、「あ、そうなんだ」って
意識し始めたのはいつから?
- 安藤
- 10代じゃないかな。
夢日記っていうのをずっとつけていて。
- 伊藤
- へぇ。
- 安藤
- 夢って、思い出そうとすると、
人に話し始めると忘れちゃう。
「あぁ、わーっ、消えちゃった」って、
霧がパッと消えるみたいに掴めない。
でも夢日記をつけていくと、
そのトレーニングで、
つなげられるようになってくるんです。
夢日記は、見た夢は記憶していられるということを
証明したくて始めたトレーニングなんです。
- 伊藤
- 夢日記っていうのは、絵で?
それとも、文章で?
- 安藤
- 文章ですね。夜中に起きて、書いていました。
- 伊藤
- もしかして、小説を書かれることとは、
また違う?
- 安藤
- 夢日記から書いた短編の連載は、昔、したことがあります。
『0.5ミリ』には、ほとんど夢は入っていないんですけど。
- 伊藤
- 言葉で表現できることと、
映像で表現できることっていうのは、
また、違うんですよね。
- 安藤
- 小説は、詳細までちゃんと説明しないと
伝わらないじゃないですか。
戸を開ける手つきも、
「髪をかき上げた」も言わなきゃいけないし、
その時の気持ちも全部書く。
それを表現することが大切だったりします。
しかも、1人の作業でコンプリートできるから、
完全なる主観です。
映画はそうじゃなくて、
そこに自分が見ていたものはあっても、
新たな軸が生まれるんですよね。
そして、時間の魔法使いになれる。
次のシーンでいきなり今日から1年後に飛べるし、
過去にも戻れるしっていう、
マジックの使い方が違う。
そして、演者も含めて、
自分以外に一緒に参加している人がいるから、
1+1が、自分の予想や想像したことを乗り越えて、
つくっている私すら見たことのない世界に
連れて行ってくれる。
無限の可能性が在る。
そんな生み出し方ができるんです。
- 伊藤
- !!!
- 安藤
- そこが、小説より、ある意味で、
リアリティに近いと思っているんです。
気持ちが先、理屈はあと。
- 伊藤
- 今日はありがとうございます。
スタイリストの伊藤です。
ただ桃子さんに会いたいっていう気持ちで
対談をお願いしました。
- 安藤
- 存じ上げております。
すごくうれしいです。
- 伊藤
- 本当にかわいい‥‥!
- 安藤
- 本当ですか。
恥ずかしい(笑)。
- 伊藤
- 私は桃子さんの顔が好きなんだと、
いま、お会いしてあらためて思いました。
かわいいだけじゃなくて、
地に足がついているというか、
スクッと立っている、
そんな意志を感じるお顔だと思っています。
- 安藤
- 本当に?! うれしい! そんな。
- 伊藤
- 高知に来たら、こちらの友人が、
桃子さんと子どもの幼稚園が一緒、
さらに「孫が同じ幼稚園」というかたにも
お目にかかって。
素敵な幼稚園だそうですね。
- 安藤
- 食育にチカラを入れている幼稚園で、
生きる根幹である食事が、
とにかくしっかりしているんです。
地元の野菜、無農薬や無化学肥料の食材を使って、
園のイベントでは田んぼもやるし、
お味噌づくりもする。
働く高知のお母さんたちがおおぜい、
子どもを預けているんですよ。
- 伊藤
- へぇ! 選んだポイントは、
「食育」ですか。
- 安藤
- はい。その取り組みを長年やってきた
先生方がいることは、理由のひとつでした。
初めて子どもができて、幼稚園を探すとき、
自分の理想100%の幼稚園なんてのは、
自分の脳内以外にどこにもないと気づいて。
みんな、そう思っていると思うんですけど、
予算や近さなど、何かしらが合わず、
100%はなかなかないと思うんです。
- 伊藤
- うんうん。
- 安藤
- その時に、1個だけ、
自分がどうしてもこれは、
っていうのは何かなと思ったら、
食事だったんです。
娘にとって初めて、私がつくったり、
わかっている以外のものを、
3年間、毎日食べるわけですから。
- 伊藤
- そうですよね。
- 安藤
- だったら、食育に意識が集中している所が
いいと考えて、そこを選びました。
- 伊藤
- そんないい所があるんですね。
さすが高知。
食材がいいですものね。
日曜市に行って、料理したい欲がずんずん。
- 安藤
- 料理ができる宿があったらいいですよね。
コンドミニアムみたいな。
- 伊藤
- そうなんですよ! それで、さっき、
セブンデイズホテルのオーナーの
川上さんに詰め寄ってきたんです。
もちろん高知では居酒屋さんに行くのもいいけれど、
今日は野菜蒸しただけでごはんにしたい、
という日だって、旅行中、あるから。
それができたら、2日間だった滞在が、
1週間になるだろうなぁと思って。
- 安藤
- うんうんうん。
そういう動きが出るといいですよね。
私もメモしておきます!
そういうのがあったら、
移住者も増えると思います。
半々で生活する人とか。
- 伊藤
- 桃子さんも移住したんですよね。
『0.5ミリ』(安藤さん監督の映画)の
撮影がきっかけで、
高知っていいなぁと思ったと、読みました。
- 安藤
- まさに自分の気質が
高知にピッタリ合っていたということと、
知れば知るほど、
みんなが思っている日本人の性質の
本質が色濃く残ってる場所だなと思ったんです。
このことは、やっと言葉にできるように
なってきたんですよ。
そんなふうに、感性でキャッチしたもので行動に移して、
後でそれを理解していくっていうパターンは、
小っちゃい時から変わらなくて。
高知に来たのも、そうなんですよ。
- 伊藤
- 先に「移住しよう!」っていう気持ちがあったんですね。
理屈じゃなく。
- 安藤
- 「わぁぁ!」と思った次の瞬間、
「引っ越す!」って、
ものの3秒で決めました。
- 伊藤
- ピンと来た?
- 安藤
- 「この場所、この土地。私、ここで刀を抜く!」
って。
- 伊藤
- 刀!
- 安藤
- ‥‥って、変かもしれないけれど、
ほんとうにそんな感じでした。
今でこそ、地方移住というのは、
最先端なイメージを持たれているけれど、
私が「高知に移住する」って言った時、
世代によっては「都落ち」と言った人もいました。
「30代の前半で『0.5ミリ』で賞を獲って、
そんな時に、なぜ、高知に?」って。
- 伊藤
- そんなの、まったく関係ないですよねえ。
- 安藤
- そう、関係ない。
今は、東京が全ての中心だと思う時代から、
どこにいても、私は私である時代に
転換したんじゃないでしょうか。
- 伊藤
- 桃子さんはたしかに、どこにいても変わらなそう。
- 安藤
- どこにいても変わらないでいるっていうのは、
変わらずにいないと苦しくなる、
ということでもあるんです。
自分のままでいられなくなる環境が、
すごく苦手っていうことを、
自分自身が知っていて。
- 伊藤
- それは、小っちゃい時から?
- 安藤
- 海外に行ってからかな?
- 伊藤
- 高校くらいでしたっけ?
- 安藤
- そうそう、15歳でロンドンに行って。
- 伊藤
- その後、ニューヨークでも学ばれて。
- 安藤
- はい。そして日本に帰ってきたら、
ここでは本音を言ってはいけないのかもしれない、
って思いはじめて。社会人になった時に。
- 伊藤
- 本音を言うと、角が立つみたいな‥‥。
- 安藤
- 留学してた人によくあることだとも思うんですけど。
いいものを、三世代で。
- 伊藤
- そしてシルクで、
いちばん最初に作ってほしいなと思ったのは、
Tシャツだったんですよ。
カジュアルにも着れそうだし、
きちんとした印象にもなるし。
- 深澤
- そうですよね。ジャケットを羽織ってもいいですし。
- 伊藤
- おばあちゃんとか、いろんな年代の人に合いますし。
わたしは、母にプレゼントしようかと思っているんです。
- 深澤
- ぜひ!
今日、私も着て感じましたけど、
きれいにデコルテが出るように
デザインされていますよね。
- 伊藤
- 「こういうのって何でないんだろう?」
ってずっと思っていたんです。
コットンのTシャツだとカジュアルになりすぎる、
だからTシャツ型でも、
ちょっと光沢のあるものがあったらなと。
- 深澤
- 下をカジュアルにしたら
カジュアルにもなりますしね。
- 伊藤
- あと、年中、着られますよね。
- 深澤
- 着られます、着られます。
- 伊藤
- 夏も、冬も。
- 深澤
- シルクとカシミアの組み合わせが最強だっていうふうに、
ドレスハーセルフで推奨しているので、
冬場は特にシルクのインナーに
カシミアのアウターを重ねていただければって思います。
保温性という意味では、風を通さない上着を着れば
ものすごく温かいですし。
また、このシルクの下に
さらにシルクのインナーを着ると、
夏などは、本当に快適だなって思いますよ。
- 伊藤
- 首周りのかたち、裾の始末など、
何度もやりとりをして。
もうちょっとフラットなのがいいなとか、
いろいろと意見を交換しながら、
このかたちに仕上がりました。
- 伊藤
- Tシャツの素材は、
もともとドレスハーセルフにあったものなんですか。
- 深澤
- ドレスハーセルフでは
ナイトウェアに使っている生地ですね。
これを使っていただいたことは、
私もとても嬉しくて。というのも、
ずっと、夜寝る用だけにするのはもったいない、
贅沢だなと思っていたんです。
ですから私は飛行機に乗るときや、
旅行先のホテルでの部屋着として着ていたんですよ。
でももうちょっと展開があったらな、
と思っていたんです。
- 伊藤
- 飛行機に乗るときって、
とくにロングフライトの場合、
着るものにすごく気をつかいますよね。
- 深澤
- はい、気をつかいます。
- 伊藤
- 人目にさらされるから‥‥でも、
リラックスしたいし。
たしかに、そういうとき、いいかもしれない!
- 深澤
- そうなんですよ。ぜひそんなふうにも
着ていただきたいなって思っていたんです。
だからこのデザインができたことは
個人的にも嬉しくて(笑)。
- 伊藤
- ドレスハーセルフのデザインや
アートディレクションは、
東京のチームがなさっているんですか?
- 深澤
- プロジェクトメンバーでいうと、
新潟では、山忠サイドの専務をトップに、
マーケティングのチームで
全ての生地やパターン、MD、
セールスマネジメントを担当しています。
そこに対して東京には
デザインと企画を手伝ってくださる
アパレルのデザイナーの方がいます。
アートディレクションを担当しているのも、
東京のデザイン事務所です。
そしてそのチームを編成した、
プロデューサーであるカッコイイ女性が中心にいます。
その方がコンセプトなど、旗振りをされながら、
さらに、セールスプロモーションとか
PRまわりを私がお手伝いさせていただいています。
つまり新潟には生産の拠点があり、
東京にはプランニングチームがいて、
2か所に分かれたチームのタッグで
進んできたブランドですね。
山忠さんとは商品企画のこととか、
これをどう今後育てていくかを含めて、
今でもかなり綿密にやりとりしながら進めています。
- 伊藤
- ドレスハーセルフは、これから、
どんなふうに育てていこうと思われていますか?
- 深澤
- やっぱりリアルなファンづくりっていうことで、
直接手に触れていただけるきっかけを
どうつくっていくか、ということですね。
基本的に山忠としては、
昔ながらのやりかたである
「直接、お客様に商品を届けたい」
という方針がありますので、
それを叶えるための施策というと、
いくら広告や露出を増やしても違うだろうと。
直販ゆえの適正価格で作り続けるという意味でも、
誠実さというのがいちばんだと考えていますから、
いたずらに費用をかけて知名度を高めるのではなく、
本質的なインディーズでやっていきたいと考えています。
- 伊藤
- いちど良さを知ってもらうと、
次にまた着たいって思うわけですから、
まず知ってもらうことが、すごく大事ですよね。
- 深澤
- そうなんです。
今もよく百貨店さんでイベントを
させてもらっているんですけれど、
それは百貨店というのは本当にいいものを探しに、
少しコンサバティブなお客様がいらっしゃるから。
まだ立ち上げて早々のブランドですが、
ものの良さという自信を持って堂々と構えたいと思い、
はじめから、百貨店さんに協力をいただいています。
そして、いま、百貨店のお客様は、
年齢層が少し高くなってきているので、
そこの部分も私たちは大切にしたいところなんです。
逆に、お母さま、おばあちゃまが家で
「これいいでしょう」って言って、
お嬢様が「いいじゃん」、
そんなふうに三世代に受け入れられたらうれしいですね。
「母から子に」っていうストーリーも
とても合うブランドだと思うので。
- 伊藤
- 三世代、素敵ですね。
わたしは冬にカシミアの毛布を使ってるんですけど、
娘がちっちゃい頃、ワアーって、頬ずりをしてたんですよ。
ああ、分かるんだと思って、買ってあげたんですね。
それを使ってたら、母が「いいわね」と言うので、
また買ってあげて。
年齢が高くなればなるほどデリケートになっていくから、
いいものが欲しくなるんでしょうね。
まさしくうちは「いいものを、三世代で」です。
だからドレスハーセルフは母にもプレゼントしたいな。
- 深澤
- とってもうれしいです。
- 伊藤
- 深澤さん、きょうはありがとうございました。
ドレスハーセルフのことが、よくわかりましたし、
ますます好きになりました。
- 深澤
- こちらこそありがとうございました。
長く着ていただけたらと思います。(おわります)
-
株式会社山忠 マーケティング本部
入倉光子さんのはなし新潟と東京、ふたつのチームで製作をはじめた
ドレスハーセルフですが、
中国からあがってきたサンプルを検討するために
山忠に集合し、
それぞれのチームで検討し、
至らない点は修正をして‥‥、
というふうに、入念につくっていきました。
素材についてはもう何十年も
「山忠」が培った経験が生きますし、
自信をもっておすすめできるものですけれど、
デザインがまったく新しいわけですから、
着用してみないとわからないことが多いんですね。
私たちももちろん着ましたが、
社内で、40代のごくごく一般的な
女性社員をモデルにして、
サイズ感や着心地を詰めていきました。
サンプルの修正はほんとうに
何度も何度もしたんですよ。
必然的に時間がかかりましたが、
初年度の冬に、靴下7アイテムと、
Tシャツっぽいカットソー2アイテムで
スタートを切ることができました。ターゲットとする年代にあわせて、
デザインだけでなく、靴下の色も、
これまでの「山忠」の商品とはガラッと変えました。
ビビッドなオレンジなど、これまでやってこなかった、
ファッションの差し色になるような色を展開したんです。
私たちははじめてのブランド立ち上げという不安もあって、
「この色、ほんとに売れるのかな?」
みたいな感じでしたけれど、
東京・新宿の伊勢丹を借りてお披露目をしたとき、
ほんとうによい評判をいただいて。
会期中、何度も足を運んでくださるかたがいたほどでした。シルクのTシャツがウォッシャブルである理由は、
特殊な加工をしているわけではなく、
洗いに対する耐久性の高い、
いいシルクを使っているからです。
いちばん高級なシルクは、
着物に使うような生糸ですが、
その次に高級とされる絹紡糸、そのなかでも
上のランクのものを使うことで、
ご家庭で洗濯をしていただけるものができました。
布帛なのに伸縮性があり、脱ぎ着しやすい理由は、
ポリウレタンを10%混紡しているからです。ドレスハーセルフの服は、
これまでの「山忠」の経験と知恵をベースにした、
あたらしいもの。
ぜひ多くのかたに着ていただけたらなと思っています。