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独自の対策、 開いている保育園、 7割の支持。

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「独自のコロナ対策」と報道されているスウェーデン。
それはいったいどういうことなんだろう? と、
首都・ストックホルムに暮らす明知直子さんに、
伊藤まさこさんがききました。
ストックホルムとの時差は7時間。
日本の午後5時は、現地では朝10時。
最低気温はまだ4度だそうですが、最高気温は13度。
北欧のひとたちが大好きな
夏がだんだん近づいてくるこの季節、
スウェーデンの人たちはいま、
どんな風に過ごしているんでしょう?


明知
まさこさん! どうぞよろしくお願いします。
伊藤
明知さん、お元気そう! 
後ろに映ってるお家がすごく素敵ですね。
明知
もともとサマーハウス(別荘)として
作られた家に住んでいるんです。
小っちゃい家なんですよ。

▲ストックホルムから車で35分の島に住んでいます。

▲古い窓ガラスで作った温室。天気のよい日はパソコンを持ち出してここで過ごすこともあります。

伊藤
どうですか、今、そちらは?
明知
結構、落ち着いている感じです。
日常はあんまり変わっていませんね。

▲市内中心部の並木道。散歩をする人は本当に多い。

▲今年は船を買う人がとても多いのだそう。中古品を売り買いするサイトでも、船の出品はすぐに売れてしまうよ、とセールボートが趣味の隣人が話してくれました。(明知さん)

▲船がたくさん停泊する海岸通り。暖かくなってきた5月。徒歩や自転車で移動する人が増えました。

伊藤
スウェーデンは、
独自のコロナ対策をしていることで
世界中から注目されていますよね。
厳しい封鎖をせずに、
集団免疫獲得を目指す、
と、日本でも報道されていました。
けれども、それがどんなことなのか、わからなくて。
明知
そうですよね。日本の友達からも
「スウェーデンはどうなの?」
って連絡を貰います。
けれど、そもそも、集団免疫を獲得することを
声高に目標に掲げているわけではないんですよ。
集団免疫は、結果的に獲得しつつある、
っていうことなんですけど、
「リスクグループを守る」っていうことや、
「医療を守る」っていうこと、
そういうシンプルなメッセージを、
政府と公衆衛生局は、最初から今までずっと、
わかりやすく言い続けていて、
私たちは、推奨されていることを、
各自の責任で守るように努力しているってことですね。
リスクグループというのは
高齢者や、心臓病などの疾患を持つ人たちです。
その人たちをどうやって守り、
医療崩壊をどう防ぐか。
具体的には、たとえば、
リスクグループに会いに行かないこと、
そしてリスクグループの人は
人に会うのを控える、
症状のある人は家にいること、
などがあります。
伊藤
なるほど。
死亡者や感染者の数がわりと多いから、
心配に思われるんでしょうね。
明知
日本のメディアでも報道されていると思いますが、
たしかに死亡者と感染者の数は
北欧の中で一番高いです。
それは、高齢者の介護施設、
そして移民の方が多く住む地域で
感染が広まってしまったことが、
高い数字につながってしまっている、
というふうに言われています。
伊藤
スウェーデンの人たちは、
そういう数字も理由も理解している。
明知
はい。そもそも、スウェーデンは分析やデータなど
科学的根拠に信頼を置く国と言われています。
そしてコロナの情報は、毎日午後2時から
政府機関が記者会見をして発表をしています。
国民の関心も高く、
ピークの時のテレビやラジオの視聴者は、
人口1000万人に対して
150万人だったそうです。
使っているデータは、
こういうパンデミックが起こったときに対応する
公衆衛生局のエキスパート集団が解析したもので、
信頼をおいている人は多いですね。
伊藤
どんなことが報告されるんですか。
明知
感染者の数の増加傾向や、死亡者数、
ICUに何人が新しく入ったとか、
今こういう状態で、どうなっているか、
この1日で起こったことがすべてわかります。
昨日も見ていたんですけど、
スウェーデンだけじゃなく、
ヨーロッパの感染者、死亡者もわかりますし、
その数字にはどういう背景があると思われるのか、
専門家の意見も聞けます。
もちろん一番基本的な「手を洗いましょう」や、
「外に出るときは、1.5メートルから
2メートル、人と距離を置きましょう」、
それをみんなが守ることによって、
感染者の急激な増加を抑えられるんですよと、
みんなにしてもらいたいことを
毎日わかりやすく説明してくれるんです。

▲街中の至る所で見かける公衆衛生局の広告。「出来るだけ2m人との距離を空けましょう。命を救う一つの方法です」

▲アラビア語でのポスター。移民の間で感染が広がった地域もあり、公衆衛生局のサイトでは、全部で25の言語でコロナの情報が発信されています。

伊藤
じゃあ、そのテレビを見てる人は、
「よし!」って思うわけですね、きっとね。
なるほど。私たちが、スウェーデンのコロナ対策として
持っていたイメージとちょっと違うかも。
それだったら、日本の対策と近い感じですよね。
集団免疫を獲得するために、
普通に暮らしてるんだと思っていたんです、勝手に。
不勉強でした。
じゃ、たとえばマスクをする、しないとかは‥‥。
明知
マスクは、スウェーデンでは
効果が大きくないと言われているんです。
ウイルスを持っている場合は、
マスクをすることによって
人にうつしてしまう可能性を減らすことは
できるかもしれないけれども、と。
それでも最近はしている人が増えてきたんですけど、
外出先で何人か見かけるくらいで、
多くはありません。

▲天気のよい日は、たくさんの人が日光浴や散歩を楽しみます。

伊藤
そうなんですね。
ふだんは通勤している
会社勤めの人たちは、
普通に働きに行ってるってことですか?
明知
いえ、家で働いていますね。
リモートワークは、
政府から推奨されていることのひとつですから。
伊藤
なるほど、なるほど。
明知
スポーツも、大会は延期や中止になっていますし、
コンサートも同じですね。
でも、スウェーデンは、
「ロックダウン」はしていないんですよ。
だから、たとえば学校も、
義務教育である小学校、中学校、
そして保育園はやっています。
高校以上は、遠隔授業が推奨されていますけれど。
伊藤
明知さんのお子さんも保育園に?
明知
はい。子どもは重症化しないという説明もありましたし、
保育園は閉めないという決断をしたことが、
すごくありがたいです。
小さいから、パパかママかどっちかは
絶対に遊んであげないとだめですから。
けれども、感染が予想以上に
拡大してしまった場合には、
保育園をどうするかということもふくめ、
いつでもロックダウンができるように、
政府は準備をしていました。
警察だったり、医療系だったり、
食品関係だったり、
そういった職業が12のカテゴリーであって。
その人たちの子どもは、万が一、
保育園、小学校、中学校が閉まっても、
どこかで預かってもらえるように、
仕組みをつくっているということでした。
伊藤
いざ、というときにも、
エッセンシャルワーカーの人たちが
ちゃんと働けるように。
明知
そうなんです。だから保育士は、
社会が回っていく上で
重要な職業のひとつなんです。
伊藤
あぁ。やっぱりすごいです。
明知
スウェーデンは、いろんな意味において、
準備が早かったんですよ。
ヨーロッパの国々がロックダウンする中、
スウェーデンは独自の対応をしましたが、
同時に非常事態に備えていました。
伊藤
それは安心できますね、本当に。
守られていることが実感できる。
だから国が言うことも守りたいっていう気になる。
明知さんの身近な方で、感染した方はいますか。
明知
感染したかどうかっていうのはわからないんです。
スウェーデンは基本的に、
症状が出て、病院に行く必要があって、
そこで重症と診断された人が
テストを受けることになっています。
つまり重症化していないと、
テストを受けられないので、
軽症だと、わからないんです。
私の周りでも、
「あの時、コロナだったんじゃないかな?」
って言ってる人が多いんですけれど‥‥。
つまり熱が出たり、咳が出るという症状の人はいる。
けれども、よくわからない。
伊藤
それは日本も同じですね。
明知
ストックホルムでは、
20パーセントから25パーセントくらいの人が
すでに罹ったんじゃないかと言われています。
伊藤
それはどうやってわかるんですか。
明知
公衆衛生局が無作為に選んだ人に検査キットを送り、
得た結果などから統計的に判断されているそうです。
伊藤
「私たち、それで大丈夫なの?」みたい焦りは?
「これでいいんだろうか」ということはないでしょうか。
あるいは、すごくふさぎこんでいるとか。
明知
もちろん、このゆるいと言われる政策に対して、
いろんな意見があり、それをメディアも報道しています。
けれども、ふさぎ込んでいる人は、
私の周りにはいないですね。
恐怖を感じている人も、
多くないというふうに見えます。
大体の人が本当に、同じように日常を過ごしている。
それは「政府が提供する情報」への信頼、
そして彼らがちゃんとリーダーシップを取ってくれている
ことへの信頼だと思います。
今週の初めの世論調査で、
政府の方針の舵取りをする疫学者を支持しているのは、
だいたい7割くらいでした。
(註:対談は5/7に行われました。)
伊藤
7割! 
すごいことですね。
政府の方針が最初からブレず、
しかも何かあったときは手を差し伸べられるよう、
ちゃんと準備してくれている。
だからこその支持率なんでしょうね。
明知
3月の初めくらいにコロナウイルスが入ってきた時、
やっぱり心配や不安が
みんなの中にあったと思うんですね。
なんだかわからないウイルスであるということとか、
他の国が厳しい対応をする中、
スウェーデンはこれで大丈夫なのかという不安があって
混乱していた3月下旬くらいまでは。
伊藤
うんうん。
明知
私もちょうど具合が悪くなって、
咳が出たり、熱が出たり、
コロナじゃないかなと思いつつ、
病院に連絡をしたりとか、
どんな状況だろうって、
家にいるからパソコンばっかり見て。
アジア系の外見の人が嫌な思いをしたり‥‥。
市内に住む日本人の友人も、
電車の中でくしゃみをしたら、
あからさまに嫌な顔をされたと言っていました。
でも印象的だったのが、ストックホルム市の、
危機災害心理学の専門家が、
国民に動画でこんなことを伝えたんです。

「みんな不安に思うのは普通のことなんですよ。
ウィルスは見ることができないし、匂いもない。
存在が不確かで、みんな不安になります。
不安になるのが当たり前です。
けれども心配をしすぎると、
こういう症状が出ます」
と、具体的な注意喚起をして、
非常時のメンタルをフォローしてくれた。(*)
それを見たとき、すごく安心したんです。
この状況では不安になるものですよ、
ということまで、インフォメーションを
与えてくれるんだということに。
伊藤
なるほど。やっぱり、心の安定っていうのが
一番大切ですもんね。


▲明知さんが撮影したトラムからの街中の様子。

(*)この動画でどんなことが話されているか、
明知さんが訳してくださいました。


●不安について。

私たちはいろいろな物事に反応し、
多かれ少なかれ不安を感じます。
それは自然で普通の反応なんです。

●どうしてウィルスは不安を呼ぶのですか?

ウィルスは見ることも、匂いを嗅ぐことも
感じることも出来ません。
そのため手に負えないと感じ
特に怖く感じてしまうのです。
まだ危険かどうかもよくわからないからです。
その存在は自分たちの中に恐怖を生み出します。
この恐怖は妥当なものなんだと思うことは大切なことです。
かつて、そして今でも
この反応は私たちを守ってくれるもので
予期せぬ事態に備える気持ちを高めてくれるものなのです。

●どんな反応が出ますか。

神経質になったり不安になります。
腹痛や頭痛など体に影響が出る場合もあります。
饒舌になったり、家の中に閉じこもって
外に出たくなくなったりもします。

●どのように助け合えばよいでしょうか。

気持ちや恐怖や不安を共有することは
大切なことです。
話すことは怖いことではありません。
共有することで、自分だけが
不安に打ちのめされているわけじゃないことがわかります。

●コロナについて、
子どもにはどんな風に話したらいいでしょうか。

子どもや若者のことを忘れてはいけませんね。
彼らは私たちと同じように
情報や安心を得る権利があります。
子どもたちの質問に耳を傾けることは大切なことです。
テレビやインターネットなどで見たもの、
または学校でお友達が話しているのを
聞いたことについてどう思うのか。
子どもたちと向き合って、
彼らの疑問に思っていることを聞いてあげてください。
子どもはみんな質問してくるのではなく、
遊びや書いて表現することもあります。
表現の仕方は様々なのです。

●どうやって自分自身の不安を和らげ、
子どもが抱く不安に
向き合うことが出来ますか。

ウィルスやバクテリアについては、
信用のおける安心な情報源があります。
簡潔に書かれ正しく事実に基づいた情報は、
恐怖を落ち着かせてくれる力があります。
保護者として子どもが抱くかもしれない
不安と恐怖に向き合うのに必要なことです。
自分たちがとても不安でも、
子どもたちも同じように
不安を感じるとは限りません。
逆に全く不安を感じていないかもれない。
あなたがもし今このことで頭がいっぱいだとしても、です。
子どもたちは次の水泳の時間に泳げないことは
不安かもしれませんが。


スティルモーダの コーディネート。 伊藤まさこ

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[3]服はシンプル、小物は同系色で。(SILVER編)

シルバーのStilmodaに、
明るめのペパーミントグリーンの靴下を合わせてみました。
春先や秋、素足ではちょっと心もとない、
なんて時にいいのです。

この薄手の靴下、
他にうすい紫も持っているのですが、
紫もペパーミントグリーンも
どちらもシルバーとの相性よし。
服と足元の間に色を持ってくると、
ちょっとかわいげのあるスタイルになります。

黒いスカートに合わせたのは
weeksdaysのシルバーのバッグ
はっと気づけば、
今回の3コーディネートは、
すべて靴とバッグが同じ色。
「服はシンプル、小物は同系色」は、
私のスタイルの定番。
色数をひかえて、すっきり見せるのが好きなのです。

スティルモーダの コーディネート。 伊藤まさこ

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[2]いつものシンプルスタイル。(BLACK編)

モスグリーンのコットンのオールインワンと、
小さなバッグで、
いつもの私のシンプルスタイルにしてみました。

やわらかい革なので、
素足に履くことができるのもうれしいポイント。
「ちょっとそこまで」のお出かけにも、
気軽に履けます。
サブバッグをかごにすれば、
初夏にぴったり。
春夏秋冬、一年を通して履けるなんて、
うれしいなぁ。

色合いがシックなので、
オレンジや赤のリップをつけたり、
アクセサリーで少し華やかさを足して。

黒のStilmodaは
一足持っていると、とても重宝しそう。
かさばらないので旅にもどうぞ。

10ページの訃報、 「フェイズ2」、 コロナと共に生きていく。

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小林
医療のボランティアの数もすごくて、
それもイタリアってすごいなと思った出来事でした。
伊藤
ボランティアが?
小林
市民保護局の呼びかけで
2万人近くの人がボランティアとして
検査現場や集中治療室の設営に携わっていると、
毎日夕方6時の記者会見で発表されていました。
また、医師や看護師が
足りなくなるとわかってきたとき、
引退したお医者さまにも声をかけたんです。
実は、医療関係者の方、お医者さまが
150人以上、亡くなっているんですね。
そのうちの、いちばん数が多いのは、
感染で戦っている現場ではなく、
ファミリードクターの方々だったんです。
イタリアはまずファミリードクターに行き、
処方箋を書いてもらったり、
大きい病院に行く相談をするんですが、
初めのころ、状況がわからず、
無防備だったファミリードクターの方々が罹り、
亡くなった方が出ました。
それと、その、引退していたけれど、
現場がたいへんだということで
復帰してくださったお医者様が、
ご高齢と過労で亡くなったり。
伊藤
うん‥‥。
小林
そんな中で、いつもの夕方6時の会見で、
タスクフォースを必要としている、と。
タスクフォースというのは、緊急医師団ですね。
300人、被害がひどい所に派遣する
お医者様が必要だと募集をしたんです。
そうしたら、なんと
7,900人の応募があったんですよ。
あっという間に。
伊藤
えぇーっ。
小林
そのころ、みんな、本当に傷ついて、
もうどこまで傷つくかわからないくらい、
メタメタにやられてる感じだったんですよ。
なのに、イタリアには、
まだこれだけの愛と力があるんだって。
私は、心細くなっていたこともあって、
初めてそこで泣きました。
テレビを見て泣きながら拍手しちゃった(笑)。
伊藤
本当ですね。すごいですね。
小林
それがすごく励みになって。
「よし、こっちだって、1人だけど頑張るぞ!」
みたいな気持ちになれました。
何かの記事にも書いてあったんですけど、
「イタリアでは不思議なことが起きている。
みんな家に閉じこもっているのに、
団結力が生まれている」って。
本当にみんなそう感じてるんじゃないかな、
って思いました。
その後、看護士さんを500人募集したときは、
10,000人を超える応募がありました。
そういうことに、すごく救われました。
イタリア人がですよ、
あの、人の言うことをきかないイタリア人が! 
自分のためだけだったら
できなかったと思うんです。
やっぱり、社会のためとか、患者さんのためとか、
おじいちゃん、おばあちゃん、
社会の弱者の命を守るためとか、
お医者さんの仕事、医療システムを守るためとか、
だからみんなが家にいられたんですよね。
「自分のためにいろ」って言われたら、できない。
伊藤
家族のためっていうのもありますよね。
小林
そうですよね。
自分自身、考えたことも、
実感したこともなかった辛い経験です。
まだ今、続いてますよね。
数週間、あるいは1か月闘病してから
亡くなる方も多いので、
まだまだ続くという覚悟をしていますが、
この辛い経験から、イタリアっていう国が
どういう国かっていうことがわかって、
強く安心感を覚えました。
リーダーの人たちの顔が見えること、
その人たちの言葉、
隠されている情報がないと感じられること。
もちろん、失敗もたくさんあると思うんですね。
こんな状況で、逆に失敗せずに
できるなんてことはもうあり得ないわけで。
でも、ふだん文句ばっかり言うイタリア人たちが、
73パーセント、政府の対応に
満足してるって出ているんです。
伊藤
すごい‥‥。

▲窓から見える高層ビルがイタリアントリコロールになって2ヶ月。

小林
犠牲者のご家族も、
「お医者様には感謝しかない」
っていうコメントが多いと聞きました。
お別れできずに、
いきなり家族が奪われてしまう状況の中で。
伊藤
そうですよね。
小林
この家族愛に満ちた国の人にとって、
それがどれだけ辛いことか。
それでも「お医者様には感謝しかない」
って言っているのを聞いたとき、
辛いけど、でも、私もその時は、
同じように思うんじゃないかなって。
伊藤
このごろ思うんです。
会わなくても、人とのつながりは途絶えないし、
逆にもっと深くなる。
小林
私はひとり暮らしなので、
みんながやたら心配して
電話してきてくれたりしますよ。
伊藤
もりみさんは、食材の生産者さんと
直接やり取りして、
食材を選ばれたりしてるじゃないですか。
そのみなさんは、
今どういうふうに過ごしているんですか。
たとえば、オリーブオイルとか。
小林
オリーブオイルはもう収穫が済んでいて、
今は畑仕事なんですね。
発注すると、真空タンクに貯蔵してあるものを
瓶詰して出してくれるんですけど、
幸いなことに、食品の分野は
生活必需品なので、動いてるんです。
でも3月は、1か月くらい
生きた心地がしなかったです。
イタリア全土が封鎖になると発表された夜は
さすがに眠れませんでした。
「カーサ・モリミは、もう売るものがなくなるのか」
と思って、次の日、電話しまくったんです。
南のほうの生産者のみんなに。
そうしたら、「普段10人でやってるけど、
ソーシャルディスタンスを取って
仕事をしないといけないので、
今は4人でやってるよ」とか、
パスタ屋さんも「夫婦2人でやってるよ」とか。
むずかしい状況の中で、一所懸命、
できることをやっているんですね。
伊藤
へぇ。じゃあ、忙しくなさっていたんですね。
小林
はい。コンテナが中国で止まり、
なかなか来なくなっていると聞いて、
もうとにかく電話しまくりました。
私の分野は、本当に幸運に、
すごくスローでしたけど、
「なんとか届けるよ」と生産者さんが言ってくれて、
泣かされました。
私の分野は何にしても時間がかかるんですけど、
やっと昨日船が出て、日本に届けられそうです。
恵まれていると思います。
モーダ(MODA)、ファッション業界ですね、
そこに勤めている友達や、音楽関係の人は、
先が見えないと言っていますから。
伊藤
そうですよね。それは、食べることの
次の次、とかになっちゃいますもんね。
小林
だからプラダもマスクを作って納めたりとか、
アルマーニも、使い捨て防護服を作って
寄付したり。
本当、イタリア中で、
できることで貢献していく姿勢がありますね。
伊藤
すばらしいですね。
じゃあ、もりみさんの心の安定は、
いまは大丈夫ですね。
小林
はい。ミラノの近郊で
お米を作っているっていうことも、
心の安定に役立ってます。
冷蔵庫にちゃんとおいしいお味噌があることとか。
イタリア人のパンやパスタは、
私にとってのお米やお味噌ですから。
伊藤
そういえば、私も、
熊本でひとり暮らしをしてる、
パティシエのお友達が
誰にも会えないし、
かといって実家のある東京に
戻ることもできないと言っていたので、
イタリアの米を送りましたよ。
「こういうときは米かな!」って。
マンガも添えてね。
すごく喜んでくれました。
小林
こういうときって、
本当にそういう気持ちがうれしいですよ。
私も、大阪の友人が、
おいしい梅干しと本と
明るい色のシャツを国際便で送ってくれたり、
お医者さんのお友達が、
すごくおいしいお煎餅を、
「We Shall Overcome.(乗り越えられるよ)」
っていう言葉と共に送ってくださったり。
今は、毎日1枚だけ、
お茶をおいしく淹れて、食べてます。
そういうことがほんとうに力になります。

▲梅干しと本と一緒に読み込んだ本を送ってくれたのが嬉しかったです。(小林さん)

伊藤
うんうん。
小林
外がすごく悲しいことになっていても、
仕事が忙しかったことと、
そういう人の気持ち、
そして生産者さんたちのあったかい気持ちが
救いになりました。
「なんとか日本には荷物を出すからね!」って。
伊藤
「イタリア、大変だよね」って、
みんなで言っていたんです。
本当によかった、お元気そうで。
みんなからも質問はありますか?
──
はい、ぜひ。
さっき、「スーパーレジの方も亡くなっている」と
おっしゃっていたのに驚いてしまって。
やはり感染者数、死者数の多さゆえか、
「死」というものを、イタリアにお住まいだと、
ずいぶん身近に感じておられるように思ったんです。
小林
そうですね。
私がいちばんそのことを思ったのは、
ベルガモという、深刻な事態に陥った
北イタリアの町があるんですが、
その地元紙の訃報欄を見たときです。
ある日の新聞に、
訃報が10ページくらい載りました。
亡くなった方を、写真と共に掲載していたんです。
伊藤
訃報が10ページ‥‥。
小林
私たちって、数字だけ見ていると、
そこに、1人1人の暮らす人生や、
そこに、たくさんのご家族がいるっていうことを
想像してもしきれないですよね。
けれども、お顔を見ると、
ほとんどが高齢者の方だったんですけど、
深く刺さるものがあって。
伊藤
今まで数として認識していたのが、
実際、亡くなった方のお顔を見ることで‥‥。
小林
そうなんです。
レジの方が亡くなったと知ったときも、
自分に何ができるんだろうと考えて。
本当すごくかわいそうだなと思うんです。
みんな怖いじゃないですか。
マスクだって完全にウィルスを防ぐことが
できるかどうかわからないわけですし、
毎日、たくさんの人と接触するわけですから
リスクは高いわけですし、
対面しても、世間話もできないし
お礼だって言いづらくなっているし。
やっぱり、できることは、
できるだけ行かないことだと思って。
伊藤
うんうんうん。
小林
だから、なるべくスーパーに行く回数を減らして、
行った時は「ありがとう」の気持ちを、
目を思いきり開いて(笑)、
表情で伝えることにしているんです。
伊藤
なるほど!
小林
あとは、友達のお兄さんが感染したり、
パリの友人が感染したりしています。
もう回復したんですが、
2週間くらい熱が下がらず、味覚がなく、
嗅覚もない状態で、すごく辛かったと、
SNSで発信なさっていたりして。
伊藤
いま発表されている、
これからのイタリアのコロナ対策は
どうなっているんでしょう。
小林
5月の4日から
(註:対談は5/1に行われました)、
「フェイズ2(ツー)」という
新たな段階に入るんです。
それは「コロナと共に生きていく」ということで、
段階的な解除になっていくんですよ。
伊藤
「コロナと共に生きていく」。
小林
コロナがなくなった、終わったのではなく、
コロナと共に生きていく、
暮らしていく時期だということです。
イタリアの集団免疫を調べると、
まだ10パーセント台しかないんですって。
私もこれからスマートフォンのアプリを
入れなきゃいけないんですけど、
州がつくった情報のアプリを活用して、
社会の情報と、
自分がどういう状況かをシェアすることで、
安全に暮らそうという動きが生まれています。
それが「フェイズ2」なんですね。
お店は18日から、だったかな。
私がルンルンなのは、
5月4日からお散歩ができること!
伊藤
おぉ。それすらも、できなかったんですものね。

▲5月4日の写真が小林さんより後日届きました。ミラノ市のポスター。「新たな始まり。一歩ずつ」

▲散歩ができるようになった公園の様子。

▲200m制限移動が解けてやっと好きなエノテカ(ワイン屋)へ。

▲本屋さんもリオープン。「みなさんにまた会えて幸せです」という看板。

小林
パリやニューヨークだとできることが、
イタリアはだめだったんですね。
「フェイズ2」で、少しずつ社会が、
「仕事に戻ろう」とか、
そういうふうになるんだけれども、
ウイルスはいなくなったわけじゃないんだから、
共生するためにしっかりルールを守って、
再発を防がなきゃいけないということですね。
だからお散歩も慎重に! 
でも「できる」と思うだけで、
ほんとうにうれしいです。
伊藤
うんうん、ありがとうございました。
今回、いろんな方と話をして、
逆に私たちが元気を貰っています。
イタリアを見直した、
っていうお話、素敵でした。
小林
そうですか! 
そういえば、うちの大家さんからも
ちょっと泣かされたんですよ。
大家さん、おばあさんなんですけれど、
親しくしているわけではなかったんです。
それが、突然電話がかかってきて、
「え、私、家賃滞納でもしてるのかな?」と思ったら(笑)、
「もりみ、なにか私にできることはある?」って。
伊藤
ええっ! それは嬉しいですね。
小林
びっくりしてしまって。
「むしろ、私があなたのために
何かできることありますか」ですよね。
その翌々日がイースターだったんですが、
管理人さんが、大家さんからですよって、
大きな卵のかたちのチョコレートを
届けてくださって。
マンションの下には、
「ご高齢の方々へ。
買い物をする必要があったり、
困っていることがあったら、
ここまで電話をどうぞ。何でもします。
何階の何々より」という張り紙があったり。
そういうことが、
すごく心をあたたかくしてくれるし、
「あぁ、きっと私たちは大丈夫、乗り越えられる!」
みたいな気持ちにしてくれる。
そういうことが、一番重要なんだなと思いました。
こういうときって。
伊藤
本当ですね。まず自分からですね。
小林
そういうことが少しずつ拡がっていくと、
大河の一滴が社会を変えていくと思います。
‥‥そうだ! 私のほうから、
まさこさんにお礼を言わなくちゃ。
伊藤
えっ? なんだろう?
小林
3月の真ん中くらいに、
ミラノでもマスクをしないと外に出ちゃいけない、
っていうルールになったとき、困ったんです。
手作りをすればいいんですが、
私「ブッキー」というあだ名が付いてたくらい、
学生時代から不器用なんですよ。
そうしたら、伊藤さんの、
ハンカチマスクの簡単な作り方が載っていて!
あれでいくつかマスクを作りましたよ!
イタリア人たちにも、リンクを送りましたし、
あのおかげで、私はマスクに困りません。
ハンカチを折って、チクチク。
あれだったら、私もできました。
伊藤
わぁ、うれしい(拍手)!
ありがとうございます。
小林
こちらこそ。
また元気にお目にかかりましょう。
伊藤
ぜひ! ありがとうございました。

スティルモーダの コーディネート。 伊藤まさこ

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[1]靴にポイントを。(GOLD編)

ワンピースを一枚さらりと、
またはブラウスとパンツ、
Tシャツとデニム‥‥。

重ね着はせず、
アクセサリーもつけるとしたら
ピアスとリングひとつくらいの、
あっさり、シンプルなコーディネートが好きです。

だから、形や質感がとても重要。
ことに足元に何を持ってくるかは、
よくよく考えなくてはいけません。

私がよくするのは、
靴にポイントを持ってくるコーディネート。
赤やグリーンなど、服だったら少々派手かな? 
と、ためらう色でも靴なら冒険できる。
自分の目から、ちょっと離れたところにあるからかな。
面積がそう大きくないから、というのも
あるのかもしれません。

ニットのワンピースに合わせたのは、
Stilmodaのゴールド。
大人っぽく、シックに見せてくれるのがうれしい。

バッグもまた靴と似た色合いのものを。
ベージュのニットワンピースを、
少し華やかに見せてくれるのはゴールドだからこそ。
黒い麦わら帽子をかぶったら、
夏のお出かけにもぴったりです。

夕方6時の記者会見、 たっぷりのいい食材、 最初からあった安心感。

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5/1、東京は夕方5時、
イタリアのミラノは朝10時。
世界の都市のなかでもかなり厳しい状況と言われるミラノで、
ひとりぐらしをしている小林もりみさんと対談をしました。
その3日後から「フェイズ2」という段階に入ることが
決まったイタリアの人々は、
いま、どんなふうに暮らしているんでしょう?


伊藤
もりみさん、
ご無沙汰しています。
小林
ずいぶんご無沙汰しています。
今回は誘ってくださって
ありがとうございます。
伊藤
今、ミラノですよね。
小林
はい。ちょうどこの4月で
10年経ちました。
伊藤
NHKの『世界はほしいモノにあふれてる』
に出られていましたね。
小林
撮影、ぎりぎりだったんですよ。
シチリアでの撮影が終わって
ミラノに帰った日に、
北イタリアで感染者第1号が
見つかったんです。
伊藤
そのときまでは、
アジアの向こうのほうのことだと
いう感じでしたか?
小林
はい。ローマでは、
武漢から来たご夫婦ともう1人が
感染しているという情報はありましたが、
まだ遠い出来事だったんですよ。
ところが、ミラノの郊外で1人見つかってからは、
これは本当に現実なんだろうか、
っていう日々が始まりました。
2月21日のニュースから1週間もしないうちに
その地域が封鎖になって、
3月の8日には、ミラノも制限がかかりました。

▲3月8日朝目覚めたらロックダウンに。最後のカフェ。この日はFesta delle donne女性の日でした。(小林さん)

▲ロックダウン前日のお肉屋さん。

伊藤
都市が封鎖されたときに、もりみさんも含めて、
周りの方はどんな反応だったんですか。
小林
事態は深刻だったんですけれども、
最初から安心感、信頼感はあったんです。
伊藤
えっ? それはなぜ?
小林
イタリアの首相はコンテさん
(ジュゼッペ・コンテ)っていう
50代の男性なんですけれど、
彼はもともと弁護士で、
大学で教えたりもしていた人なんですね。
正直、政治家としては頼りないと思っていたし、
カリスマ性も足りないという印象だった。
そのコンテさんの首相会見がTVで放送され、
そこでの説明や呼びかけが、
すごく明確だったんです。
「国民の健康がなによりも第一。
今は議論するときではなく、
とにかくみんなで協力して危機を乗り越えていく」
と熱く語っていて、
20分くらい吸い込まれて見ていました。
その国民第一の明確なメッセージを聞いたことが
安心につながったんです。
「きっと大丈夫だ」って。
もちろん「えぇっ? 封鎖?」と思ったんですけど。
伊藤
なるほど、
いちばん最初がそうだったんですね。
小林
はい。その後、イタリアの市民保護局、
プロテツィオーネ・チヴィーレ(Protezione Civile)
という機関があるんですけど、
そのリーダーであるボレッリさん
(アンジェロ・ボレッリ)という人が、
毎日18時に、保険機構のトップの人たちや、
専門家と記者会見をして、
毎日、何件陽性反応が出て、
集中治療室に何人いて、犠牲者は何人だと、
日々アップデートをして、
透明性高く発信をしたことも、
信頼につながりました。
なにもかも、明快だったんです。
その後もあたらしい措置が取られるたびに、
コンテさんの熱いメッセージがテレビで流れました。
「イタリアを救うために、僕は政治的責任を負う。
だから、国民1人1人が責任を持って
自分たちの愛する人のために行動してくれ。
それぞれが、自分の役割を果たしてくれ。
誰ひとりとして、置き去りにしない!」

▲ロックダウン中のミラノの様子。

伊藤
もりみさんだけじゃなくて、
イタリアの皆さんがみんな、
「よし、ついていこう」
と思った、という感じですか。
小林
そうですね。
イタリアって、皆さんもご想像のとおり、
1人1人の意見がすごく強いんですね。
政治も右と左を行ったり来たりですし、
与党と野党の対立も激しい。
ジャーナリズムは体制に対して
強く説いていくことが任務だと思っているから、
首相への質問も厳しいんです。
でも今回はみんな協力姿勢をみせていました。
野党も「今はとにかくイタリアのために、
自分たちの国を取り戻すために、
傷を早く癒すために、1つになって頑張るぞ」
っていうメッセージがはっきりしていたんです。
人の命の前で、こんなに団結するんだ、
そのことに、イタリアに住んで、
初めてびっくりしたんです。
伊藤
イタリアは、コロナを前に、
ひとつになって向かおう、
みたいな感じなんですね。
小林
私も、たぶん他のイタリア人も一緒だと思いますが、
毎日、夕方6時の記者会見を軸に
1日が回っていたような感じです。
そこで、今どうなっているか、
みんなが固唾を飲んで見守るみたいな。
伊藤
きっと数字を発表する以上の
メッセージがあるんでしょうね。
小林
そうですね。
でも、数字もとても重要だと思っていて。
毎日、市民保護局のホームページ
すべてのデータが載るんです。
検査数も、症状が軽い自宅待機の人の数も、
1日も欠かさず毎日アップデートされています。
私がいつも追っているのは新聞のサイトで、
それをさらにわかりやすい表にしてくれるものです。
たとえば、昨日は68,000件検査をしていますが、
3月あたりまでは
陽性反応者数が20%くらいだったのが、
4月に入ってから6パーセントくらいになり、
昨日(4/30)のデータだと、
2.7パーセントなんですよ。
伊藤
そうなんですね。
小林
68,000人に対して2.7%ですから、
1,800人以上の人が新たに感染してるんですけど、
それでも下がってきていることが把握できる。
集中治療室に入っている方も、
何月何日にピークで4,000人まで行ったけれど、
今はこうです、ということが表になって、
しかもそのデザインが美しいのが、
イタリア的だなって思います。
これがページなんです。見えますか。
伊藤
見えてます! なるほど、デザインが。
小林
昨日は345人亡くなっているわけなので、
本当にまだまだ先は長いと思います。
ほかにも「どれくらい緊急電話を受けたか」を
都市別に示していたり、
感染者数の州ごとの推移、
感染者、死亡者の年齢も。
さらに、イタリア国内だけではなく、
各国の感染者数を
ぱっとわかるグラフにしていたり。
感染が始まってからの日数で、
国ごとの推移がわかったり。
伊藤
数字をつぶさに読まずとも、
すぐにわかるようにデザインされているんですね。
小林
だいたい何が起こっているか把握できるんです。
ただ、国によっての違いはありますよね。
イタリアは、日本の政策とは全然違って、
初めのうちからものすごく検査をしているので、
その数に応じて感染者数もすごく多いんですよね。
どの国の対策が正解かは終わってみないと
わからないと思うんですけれども。
伊藤
今回のことについて、
イタリア特有だと思う現象はありますか。
小林
イタリアのライフスタイルって、
世代を超えて、家族愛が満ちているので、
ものすごく交流が多いんですよね。
会ったら、ハグしたり、
ほっぺにキスしたりっていうのが当たり前なので、
そういうライフスタイルが、
わからないうちに感染を拡げていたと、
後になってわかったんです。
老人介護施設に孫が会いに行ったら、
じつはその子が陽性で
症状が出ていなかっただけだった。
それでその施設で感染が広まってしまったとか。
伊藤
今はどうしてるんですか。
ハグは、きっと、しないですよね。

▲バルコニーに掲げられた手作りの垂れ幕。「ALL YOU NEED IS LOVE」

小林
2月の末くらいに、首相が言ったんです。
「私たちが今まで慣れてきた習慣を
手放す必要がある」って。
「再び、もっと強く抱擁できるように、
今は遠くからお互いを励まし合おう」って。
それもイタリア的だなぁと思いました。
そのときはまだ友達に会えていたので、
いつもだったらほっぺにキスするのを、
「私たち、今、できないよね」みたいな。
最近、ニュースで見たら、首相が、
どなたかに会うのに、肘と肘を合わせてました。
伊藤
肘!
小林
スーツのおじさんたちが(笑)。
やっぱり何かをしないと、
落ち着かないんだぁと。
伊藤
かわいい(笑)。
レストランに行かなくなって、
どうされてるんですか、皆さん。
食いしん坊の人たちは。
小林
本当に幸いなことに、
食べ物は全然困らないんですよ。
それも首相が言っているんです。
「一番重要なのは、パニックを起こさないことだ。
私たちの国には、食べ物がしっかりあるから、
安心しろ」と。
それでも最初の頃は、
郊外のスーパーに人が殺到して、
パスタの棚が空になったりしましたけれど、
私は列もほとんど作ったことがないですし、
食材は何でも買えています。
私の住まいは道を渡ると大型食材店があって、
おいしいものには事欠かないんです。
入場制限をしているので
とても空いていますし、
レジに並んで待っているとき、もし列ができても、
1メートルずつ空けているので安心できます。
それに、こういうことになると、
「いつもよりいいものを買って、楽しく過ごそう」
と思うんですね。
友人が言っていておもしろいなぁと思ったのは、
レストランが閉まっちゃってるから、
魚屋さんに行くと、いつもよりいいものがあると。
レストランに行く分が回ってきてるんですよ。
だから「魚を食べる機会が増えた」と言ってました。
伊藤
へぇ!

▲ひとりアペリティーボをよく楽しみます。

小林
最初、トンネルの出口が見えなくて、
どこまで悪くなっちゃうんだろう? って、
みんなが思っていたときからそうでしたが、
本当においしいものが食べられたり、
おいしいワインが飲めたりとか、
そういうことが
すごく心を安定させてくれていると思うんです。
イタリアでいい食材が手に入らなくなったら、
すごく惨めな気分になるでしょうね。
伊藤
そうですね。それはすごく重要ですね。
食べるものって。

▲パンケーキの朝ごはん。いちごをピュレにして生クリームを泡だてて。

▲野菜の旬で季節を感じています。(小林さん)

小林
オンラインで友達と同じ時間に
ディナーをすることがあるんですけれど、
みんなしっかりご飯を作っているんですよ、
おいしそうなものを。
パンや手打ちパスタを
自分でつくる人が増えているらしく、
スーパーでよく品切れになるのが
小麦粉と酵母です。
私は10日に1回くらいしか
買い物に行かないので、
食材が尽きるころに誘われると、
粗食が映っちゃうんですけれど、
友人は、ドーンと旬のアスパラガスを盛ったり、
ドーンとお魚一尾を調理したりしていて、
「あ、しまった!」って(笑)。
でも、そうだよね、みんな、
おいしいものを食べたいんだなって思います。

▲友人たちとスカイプディナー。

伊藤
なるほど~! 
10日に1回くらいなんですね、買い出し。
小林
はい。スーパーレジの方も亡くなっているので、
私たちは負担をかけないように、
「できるだけ控えましょう」みたいな感じです。
でも1回で持って帰ることのできる量には
限りがありますから、
毎日おいしく食べるためには工夫をしないと。
初めのうちは葉物、
長持ちするキャベツは最後、
これはピクルスにして、とか、
カタクチイワシのおいしそうなのが買えたら、
アンチョビ(塩漬け)にしておこう、などと考えます。
私は食材屋なんですけれど、
そうか、冷蔵庫がなかった時代には、
たとえばコラトゥーラ(魚醤)って
必然だし、重要だったんだななんて実感したり、
いろんな発見があって楽しいです。
いま外で起きている出来事を思うと
不謹慎なんですけど、
ロックダウンってなったとき
「楽しんでやる!」と思って。
毎日をどれだけ楽しく過ごすか考えてます。

▲干物やアンチョビをつくって貯蔵する工夫を。

▲1日1回は麹を取るように。魚に塩を振って長持ちするように工夫。干物作りにチャレンジも。

伊藤
「こうしなさい」って決まってることだから、
それをどう楽しく乗り切るかっていうふうに
気持ちを切り替えたほうがいいですよね。
小林
そうなんですよ。
私は、自分でやれることをやるだけだ、と。
首相もそうですけれど、
市民保護局のリーダーが、
毎日、記者からの質問に、
全然ひるむことなくパンパン答えている姿を
TVで見ると、思うんですよ。
「もうとにかく、この人たちについて行けば
大丈夫だから、あとは
自分でやれることをやるだけだ」って。
記者会見では、経済について
文句を言う人もいますが、ハッキリと、
「経済で人の命は奪われないけれど、
コロナでは奪われますから」みたいに、
毅然と反論していて。
社会が思ったよりも健全で、
当たり前に「人の命」っていうものを
経済人も大事に思っていて、
だからこんなにひどい状況なのに、
安心感があるんです。
伊藤
それは、すごいです。
だって今欲しいのって
「安心感」ですもん。
私たちも安心したい。
小林
こういうことになって、
全然知らなかったイタリアの
いい面をいろいろと知れましたよ。
わりとみんなちゃんと仕事してるんだ! 
みたいな(笑)。
伊藤
(笑)
小林
こんなにちゃんとできたの? って(笑)。
本当に感謝してます。

▲朝の1時間。コーヒーを飲みながらベランダで日光浴。

▲窓から中庭を見る。

▲夕陽が入ってくる時間が日々の楽しみに。

Stilmodaのフラットシューズ

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靴のスタンダード。

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もしも家を建てるのだったら、
絵本「ちいさいおうち」に出てくるような、
切妻屋根がいい。
子どもの頃から、それはずっと変わることのない私の夢。

そういえば、
マグカップも、ティーポットも、
テーブルや椅子も、
いつも、いいなぁと思うのは、
子どもが描くような、
シンプル極まりない形。
これ以上、足しも引きもいらない、
みんなの頭の中に、
しっかり「スタンダード」として、
刷り込まれた形が、好きなのです。

今週のweeksdaysは、
Stilmodaの靴を紹介します。

むだな装飾は一切なし。
スッと履きやすく、
どの角度から見ても美しい。
これも、みんなが思う、
靴のスタンダードな形ではないかなぁと思うのです。

色はシルバー、ゴールド、ブラックの3色。
明日のlookbookをどうぞおたのしみに。

完売しておりましたアイテムの、再入荷のおしらせです。

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5月21日(木)午前11時より、以下の商品について、
「weeksdays」にて追加販売をおこないます。


chisaki ENRIE

▶商品詳細ページへ

日本製の和紙を使用した、柔らかな被り心地の帽子です。
お届けは7月下旬頃になります。

「持つとしなやか、
かぶると額や頭に、やさしくフィットしてくれる帽子です。
つばの表情のつけ方で、
印象が変わるので、ヘアスタイルや合わせる服によって、
いろいろとたのしんでください。
色は6色。
どれもニュアンスのある色合いで、
どれにしようか迷うところ。
私は、色違いでいくつか買って、
夏のおしゃれを満喫しようと思っています
外のリボンも絶妙な色合いですが、
帽子を取ると、内側に見えるテープの色もまたすてき。
自分だけにしか分からないおしゃれって、
なんだかいいなと思うのです。」

(伊藤まさこさん)

見えない部分まで、とことん。

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伊藤
撮影に立ち合って思ったんですが、
苣木さんの帽子は、深く折り返してもいいし、
前だけ折ってもいいし、折らずに被ってもいい。
1個の帽子でいろんな表情になるんですよ。
髪形によってもいろいろ楽しめる。
すっごい面白かったです。
苣木
すっごく嬉しいです!
写真もたのしみです。
伊藤
私が苣木さんの帽子を知ったのは、
友人が被っていたのを見てでした。
「それいいね!」って。
私のまわり、結構、持っているんですよ。
苣木
えー?! なんと! 本当ですか?!
伊藤
ほんとです。編集やライターのお友達。
「知らなかったの私だけ?」みたいな。
それで、今回の帽子のことなんですが、
最初に言ったように、
麦藁帽子っていうと、割とほっこりするじゃないですか。
だからそういうタイプの帽子を敬遠していたんです。
苣木
分かります。私もそういう感じでした。
伊藤
でもこれは本当にエレガントだし、
ぺちゃんこにして持ち歩けるのもいいですよね。
麦藁帽子を旅行に持って行くのに、
スーツケースに入らないとしたら、
被って行くしかなかったから。
しかも網棚に忘れるとかして‥‥。
苣木
そうですよね。
伊藤
そして絶妙な色合い。
しかも、裏が全部かわいいです。
男性がかぶってもおかしくはないですよね。
男性は、リボンだけ、もしかしたら結ばないで、
縫っちゃってもいいのかもしれないけれど。
苣木
そうですね、縫ってあげると、
メンズの帽子ぽくなりますね。
私も「ナチュラルにかわいい麦藁帽子」が
似合う年齢ではないというか、
ちょっとくすぐったいので、
あえて、大人っぽく、
凛とした雰囲気に仕上げたいと思って
デザインをしています。
伊藤
いつから作られているものなんですか?
苣木
この形になったのは、独立して2年目ですね。
それまでも、こういう雰囲気のものを
作ってはいたんですけど、
つばが真っ直ぐで定着されてるものでした。
これは丸みがあるけれど、中折れになっていることで、
ちょっとマニッシュな感じを出しています。
最初、丸い木型を使ってクラウン
(帽子のリボンから上、頭にかぶる部分)
を成形するんですが、
そのあと、手で中折れの形にしているんですよ。
伊藤
サイズ調節紐にビーズがついているので、
ここが後ろになるんだなとわかりやすいです。
苣木
はい、よく、私の作る帽子は「どっちが後ろ?」って
聞かれることも多いのですが、
サイズ調整ができるものは
基本的にはビーズが後ろになっています。
額に当たる部分には*のマークが
ハンドステッチで入れられています。
「第3の目」って誰かが言ってました。(笑)。
伊藤
確かに! ビーズはどちらのものですか。
苣木
これはアフリカのガーナで、
リサイクルガラスで作られているビーズなんです。
伊藤
じゃあ、1点ものなんですね、全部ね。
苣木
そうですね、全部1点ものです。
どんなビーズのものが届くかは、
ぜひ「おたのしみ」とお考えいただけたら。
伊藤
かわいいです。
苣木
すごく細かいんですけど、
ゴム紐がエメラルドグリーンですが、
オリジナルで作った色なんです。
敢えて言うことではないかもしれませんが。
ありものだと、ちょっと可愛すぎたりしたので。
伊藤
内側にぐるりとついている
「すべり」というのかな、
この色の組み合わせはどうやって決めるんですか。
苣木
それはもう、感覚ですね。
伊藤
いい色ですよね。
全然見えないじゃないですか、被ってしまうと。
でも、自分には嬉しい。
着物の八掛(はっかけ)みたいな感覚ですね。
そして、熟練の職人さんにしか
できないとおっしゃっていた、
ブレードを縫うという作業。
原料が紙だとお聞きしましたけれど。
苣木
はい、ブレードは細く裁断した和紙を使って、
専用の機械で作られています。
その原料は染め分けをしていて、たとえばグレーだと、
チャコールグレーとライトグレーの濃淡2色。
それを組んで行くので、
ちょっと杢っぽい、ジラジラした色味が出ているんです。
和紙といっても、100%ではなく、素材が安定するように、
よこ糸にポリエステルを使っています。
コットンではなくポリエステルを使うのは、
コットンは経年変化していくと切れやすいから。
よこ糸をポリにして和紙を編んでいくと、
強度も増すし、しなやかさも増すので、
この独特なコシと軟らかさが出るんです。
もちろん縫製も糸調子などで風合いを調整しています。
伊藤
紐は渦巻き状にミシンで縫っていくんですか?
苣木
そうなんです、ブレードの端同士を
重ねて縫っていくんです。ミリ単位で。
伊藤
すごい!
苣木
最初の、まんなかに来る丸が、
いかにきれいにできるかが、
職人さんの熟練の技なんですよ。
逆に言うと、
丸がいかにきれいかで、
職人さんの腕がわかるから、
麦藁帽子を見るときはそこを見るといいそうです。
伊藤
1個できるのに、どれぐらいの時間を要するんですか。
苣木
19歳から始めて、今83歳の熟練の職人さんは
一人で全部の工程をされるのですが、
1時間に2〜3個作られます。
通常はなかなかできないことで、
経験がなせる技だと思います。
感覚もすごくって。
伊藤
そうですよねえ。
この微妙なカーブの調整、腕ですよね。
苣木
そうなんです。
このごろ若手の職人さんもぐんぐん腕を上げて、
頼もしく思っているんですよ。
伊藤
若い方がいらっしゃるのはいいですね。
私もやってみたい!
ミシンがけとか、好きでしたから。
苣木
ぜひぜひやっていただきたい!
気持ちのいいものですよ、
ミシンで帽子ができていくのは。
伊藤
ケアはどうしたらいいですか?
苣木
家庭でのお洗濯はできないんですが、
ドライクリーニングは可能です。
ふだんのお手入れとしては、
「すべり」の部分が汗を吸うし、
ファンデーションとかで汚れて気になりますよね。
そんなときは硬く絞ったタオルで
トントントントンって叩いて汚れを移してあげる。
何年も被って、どうしようもなくなったら、
「すべり」を交換することもできますよ。
伊藤
雨のときはどうですか?
苣木
土砂降り以外は、私は平気で被っちゃいます。
乾かしていただければ大丈夫です。
でも「雨のときに積極的に被ってください」
と言ってはいませんけれど。
あとは、埃が付くのは、
帽子用のブラシはお持ちじゃないと思うので、
お洋服のブラシで叩いてください。
そして被らないときは、風通しのいいところに。
伊藤
ありがとうございます。
たくさんお話が聞けてよかったです。
苣木
こちらこそありがとうございました!
たのしかったです!

私、帽子作りを続けていいんだ。

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伊藤
ブランドのデザイナーになり、
販路も広がっていくと、
ひとりで作っていたときのように
ぜんぶ自分で縫うわけにはいかないと思うんです。
職人さんや工場に依頼しなきゃいけないですよね。
苣木
はい。ただ、システムは変わったとはいえ、
サンプルを作って、パターンを起こすのが
自分の仕事なのは変わりませんでした。
それを職人さんに渡す、ということが変化でしたね。
すばらしいことに、職人さんが、テイストを変えずに、
ちゃんと引き継いで、作って下さった。
ただやっぱりどうしても量産となると、
効率を求められることが最初は多くて、
「そんなの手間がかかり過ぎてできない」
って言われたりもしました。
その悩みを社長に相談すると、
「本当に自分がやりたいんだったら、
職人さんなり工場の人たちを納得させるぐらい
頑張れ、粘れ」っていうふうに言われて。
伊藤
なるほど。ほんとうにスパルタ!
苣木
そうですね(笑)。
今思えば、それがよかったなと思います。
伊藤
デザインは、好きにさせてくれてたんですか。
「こういうのは駄目だ」みたいなことはなく。
苣木
そうなんです。
展示会の前に社長のチェックが
あることはあるんですけど、
「やるんだったらちゃんと結果を残せ」っていう、
ただそれだけだったと思います。
「これが君がやりたいことなんだね。
俺はちょっとこれは分かんないけど、
ちゃんとオーダーが取れるって思ってるんだろ?」
と。
伊藤
なるほど。
当時は、どういうものがお好きだったんですか。
苣木
そのときは、今よりも
ハンドクラフト的なものが好きでした。
たとえば、ニットは手編みですし、
ネーム1つ付けるのも、
普通はミシンで正確に縫い付けるのを、
ランダムにステッチを入れて付けたり。
パーツも業者に頼むわけですが、
型で抜いてもらえばいいものを、
揺らぎみたいなものを残すために、
全部手で切ってもらったり。
本当に細かいところなんですけれどね。
会社の先輩からは、
「それをやることで、売り上げが100個、
200個変わるのか?」と言われながら。
伊藤
「趣味じゃないんだからね?」
というようなニュアンスですよね、きっと。
苣木
そうですね。
もともと量産の会社なので、
効率が悪そうなものが実際売れるのか、
判断のしようがないわけですよね。
だから先輩が言われることも「その通りだな」と。
伊藤
そう言われても、へっちゃらでしたか?
苣木
いや、すっごく悔しくてですね(笑)、
「絶対結果を出してやる!」と、やり続けました。
12年。
伊藤
じゃ、その間に、
帽子作りの基本どころか、
なにもかもを習得して?
苣木
もちろん、熟練の職人さんにしか
できないこともあるんですよ。
たとえば今回のように、
1本の紐をグルグル巻いて縫っていく
「ブレードを縫う」という作業は、
特殊なので、私にはできません。
だからそこは任せて、
私は他にないもののアイディアを出すことが仕事になる。
そんなふうに職人さんとコンビを組んで、
やってきたという感じです。
伊藤
そうですよね。
その会社でブランドを担当して、12年、
そこで独立をなさったんですね。
そこで最初に作ったのは、
どういう帽子だったんですか。
苣木
独立して最初に作った帽子も、
担当していたブランドと、
大きくテイストは変わっていません。
ただ、辞めた以上、既存のお客様に私から
「新しいブランドを始めたので展示会に来て下さい」
なんていう営業はできません。
最初、とても不安で、独立したのはいいけれど、
「実際、私はご飯を食べていけるのか」と。
伊藤
どうやって広めたんですか?
苣木
すごく不思議なんですけど、
それまでのお客さんたちのあいだで
「あたらしいブランドを始めたらしいよ」と噂になり、
たくさんの方が来てくださったんです。
「私、帽子作りを続けていいんだ」って、
そのとき思いました。
頑張ろうって思った。
そうして今、5年目です。
忘れもしない、中目黒の川沿いにある展示会場でした。
お金もそんなにないし、と思ったら、
元々取引先だった社長さんが安く貸して下さって。
1人きりでは接客も満足にできないと思ったら、
友達が2人来てくれて、
展示会の設営も全部手伝ってくれて。
‥‥本当に、そうです、
そんなことがありました。
伊藤
よかった! 
じゃあ、オーダーもたくさん?
苣木
そうなんです。
伊藤
すごいですね。
苣木
本当ありがたいです。
前の会社からのお客様は、
もうかれこれ17年のお付き合いですし、
海外のお客様も、1年ほどは余裕がなかったんですけど、
自分の「chisaki」っていうブランドで、
もう1回パリに挑戦したときに、
たまたまお客さんがブースにいらして、
「え、名前が違う! どうしたの?」みたいに、
またお客さんとして戻って来て下さって。
伊藤
なるほど。不思議ですね。
苣木
不思議ですね。ありがたいです。
伊藤
最初にベレー帽の作り方を教えてくださった方が、
原点ですよね。そこからして、縁に恵まれている!
苣木
(笑)そうですよね。その方にお礼が言いたいんですが、
どこにいらっしゃるか、分からなくて。
すごく残念なんです。
中野にいらっしゃった
「ナオさん」っていう名前だけは覚えているんですけど。
伊藤
またお目にかかれるといいですよね。
海外のバイヤーの方の反応はどうですか。
「また日本と違うなあ」とか思われますか。
苣木
そうですね。反応が早いというか、ダイレクトで、
好き嫌いがすごくはっきりされている。
「これどうですか?」って営業しても、
「それはいりません。うちっぽくないから」って。
伊藤
日本は違うんですね。
苣木
そうですね、その方の判断というよりも、
気になるものはお写真を撮って行かれて検討。
伊藤
日本のお客様は、
迷う時間ごと楽しまれていると思います。
苣木
それは多いですね。
個人ではなくチームでいらっしゃることが多いので、
ワイワイと、被ってもらって。
伊藤
今回「weeksdays」で扱わせていただくのは
女性向けのものとして作られたと思いますが、
ユニセックスで使えるものも、
作られていますよね、
苣木
はい、サイズさえ合えばどうぞ、と考えています。
ブランド自体はユニセックスとは
言っていないんですけども、
木型とかパターンによっては、
性別が関係ないものもあるので。
伊藤
木型は男性、女性が別なんですね。
苣木
そうなんですよ。
すごくトラッドに言えば、の話なんですけど、
メンズは中折れのエッジがすごくきいていたり、
レディースはちょっと丸かったり。
ほんの少しの違いですけれど、
昔の木型は男女別でしたね。
伊藤
サイズの違いだけじゃないんですね。
苣木
それだけじゃないですね。ただまあ、
そこは緩やかに「サイズが合えばどうぞ」と。
伊藤
今、ビジネスマンが帽子を被らなくなりましたし、
若い男の子は、顔がちっちゃいですし、
どんどんユニセックスになっていますよね。
磯野波平さんは通勤に帽子を被っていますけれど。
苣木
(笑)波平さん、確かに!

青空市場、 お花の安売り、 きれいな空気。

未分類

伊藤
ところで、市場も閉まっているでしょうに、
食材はどう調達しているんですか。
田中
それが、市場は閉まっていて真っ暗なんだけど、
食品のところだけは営業をしているんです。
伊藤
そうなんだ! じゃ、食品は普通に売っている。

▲食材はどこも豊富で、不安がありません。

▲買い物は、社会的距離を保って列をなす。普段は早い者勝ちで、押し合いへし合いです。こんな光景はもう二度と見られなくなると思います。(田中さん)

田中
うん。青空市場もやってるし、
スーパーと薬局、花屋さんもやっています。
お花って、すごく大きい農園で、
一年中計画的に栽培をしているので、
余ってしまうんですね。
向こう3カ月ぐらいはお花も安売りで、
ちょっとかわいそう。
伊藤
でもね、家にいる時間が長いと、
花を飾るのもいいと思う!
田中
そう。いいです。

▲週に一度、枯れそうになる前に買いに行きます。部屋が明るくなって、気分が優れます。植物の力を感じます。(田中さん)

田中
あとはね、精油をいっぱい持っているので、
気分で部屋をいろんな香りに変えて。
伊藤
確かに、香りっていいですよね。
私も毎日朝掃除して、
精油を玄関に置いている小皿に垂らしてます。
田中
香りがあるとやっぱり全然違いますよね。

▲これなしには、日々過ごせません! 本をどどーんと真ん中に置いてしまいましたが、この本に助けられています。(田中さん)

伊藤
情報はどうですか。テレビや新聞、
ネット、いろんなところから入ってくる?
田中
はい。ベトナムは社会主義なので、
一時はアクセスできないこともあった
インスタやフェイスブックも
今は自由にできるようになっていますし、
情報はちゃんと入ってきます。
でも今回、こういうことになって思ったのは、
ベトナム語を勉強しておいて良かったって。
なんでかっていうと、3月の後半、
自分が登録してるアプリからも、
毎日のように政府からのお知らせが
ジャンジャン届いたんです。
それに目を通し、
本当にザーッと、ポイントだけ読んで、
こうなってるんだ、っていうのを理解して。
大事な情報は、日本領事館も訳して、
数時間後に送ってくれたりするんですが、
刻一刻状況が変化していくなかで、
いちはやく自分で読めて良かったなと。
伊藤
どういう内容のメッセージが送られてくるんですか。
田中
今日はどこそこでこういうことがあって、
どこで何人感染者が出ただとか、
飛行機の何便に乗ってきた人に出たから、
同じ便に乗ってた座席番号何番の人を探してますとか。
伊藤
たしかにそういう情報は、急ぎますよね。
田中
それから、電車もバスも減便ですとか、
配車アプリを使って呼べる、
バイクタクシーとバイク便だけはいいですよとか。
そういうことが箇条書きで来るんです。
政府からの「外に出てはいけない、
ということではないけれど、家にいてください」
というお達しも、もちろん。
伊藤
みんなそれをちゃんと守っているっていうのがすごい。
だって、歩道までバイクで乗り上げて
通行するあの人たちが!
田中
ほんとう! 
ふだん、交通ルールがあんななのに(笑)。
でもいまは、そのバイクも走ってないですよ。

▲4月21日午前、大通りに抜ける並木道を
動画で撮ってみました。
一旦、小さな集団が取り抜けると、次がやって来ない。
普段はひっきりなしなんですけどね。(田中さん)

伊藤
じゃ、空気がきれいになっていそう。
田中
そうなの! すごくきれいになってます。
伊藤
身をもって感じる?
田中
スマートフォンのアプリでもわかるんですが、
なにしろパッと見てきれいですよ、やっぱり。
伊藤
そっか! 
心配だというご高齢の大家さんご夫婦も、
いまはお元気なんですよね。
田中
元気! 朝からビール飲んでますよ、
おばあちゃん(笑)。
伊藤
それは良かった。強い。
田中
そう、やっぱり強いんだと思う。
伊藤
いいですね。
強い人を見ると、こっちもホッとする。
田中
騒ぎが起きはじめた頃、
工場に行かなくちゃいけなくて
出かける時におばあちゃんに
ガシッて手をつかまれて。
「こういうときだから」と、
目をじっと見て言うんです。
「本当にいいときではない、いまだから、
本当に気をつけなさいね」って。
伊藤
伝わりますよね。
田中
あと、私の心配は、大家さんの猫ですよ~。
伊藤
あ、猫ちゃん飼ってるんですよね。
田中
そう。私の猫じゃないんですけれど、
大家さん、まったく面倒を見ないので、
私が面倒を見ているんです。
ハッて気づいて、「あれ? 猫のカリカリの
ストックがないんじゃない?」って。
2匹いるんですけど。
猫のために朝6時20分に起きてます。
ますます生活リズムが変わらない。
猫がいなかったら、
もうちょっと寝てると思うんだけれど。
伊藤
でも、ずっとうちにいると
メリハリがなくなるから、いいのかも?(笑)
田中
そうそう。決めた方がいいですよね。
私は寝てていいって言われたら、
本当にずーっといくらでも寝られるので(笑)。
そうならないように、
大家さんの猫がいて良かったかな。
伊藤
逆にこの機会になにかしようと
思ったことってありますか?
田中
それこそベトナム語をちゃんとやろうって。
ニュースも、ポイントはわかっても、
細かいわからない単語もあるんです。
この仕事も先が見えない状況ですから、
通訳の仕事ができるくらいに
語学を鍛えておこうかなって。
いろいろ考えるんですよ、
そろそろ日本に帰った方がいいのかなとか。
いよいよ真剣に考えるときが来ましたね。
伊藤
うんうん、そっか。
田中
でも、今年は私、もう帰れないと思って
生活したほうがよさそうです。
飛行機が飛ぶのはまだまだ先でしょうし、
飛び始めても、すぐには帰らないと思います。
伊藤
じゃあ、いまそこでできることを、
毎日おうちの中でやっているということですね。
それにしても、なんだか不思議。
街が人でいっぱいで活気があるっていうのが
ホーチミンの印象だから。
そうだ、インスタに載っていた
子犬はどうなっているの?
田中
子犬! 工場の犬なので、
会えてないんですよ~。
番犬が2匹いて、
そこに6匹赤ちゃんが生まれて、
もうかわいくって。
片手にのるくらいの小ささだったの。
でも次に行けるときが来たら、
きっと、もうほとんど貰われていった後だろうな。

▲田中さんが以前撮影した工場の犬の赤ちゃん。

伊藤
そっかあ。
田中
癒しでした、あの犬は。
伊藤
これから、解除のプランは発表されているんですか。
田中
3段階に分けて解除していくっていうことで、
ハイリスクの都市である
ハノイ、ホーチミン、ダナン、
ラオカイっていう中国国境の町、
タイニンっていうカンボジア国境の町、
あといくつか指定されていてるところは、
最後になると思います。
最初に解除されるのは全く感染者がいないところ。
既に少しずつ行動制限解除の動きがでているみたいです。
2番目はそんなに感染者がいないところ。
一気に全部解除とはしないんですね。
私の住んでいるホーチミンは、
一番最後まで行動制限があると思います。
伊藤
地方の実家に帰ってはいけません、
みたいなこともあるんですか。
田中
はい。ニュースになっていたのは、
実家に帰って、ホーチミンに戻ってきた人が、
警察に怒られたって。
1人でもそういう例を出しておくと、
みんな一気にやらなくなるので、
大きな問題にはなっていないですね。
伊藤
そっか。
ベトナムの人たち、職を失わないといいなあ。
手仕事が減っていると
田中さん、以前おっしゃっていたけれど、
こういうときこそ、手仕事って強いですよね。
田中
そうなんです。このあと、きっと、
社会が変わっていくじゃないですか。
元通りにはならないだろうし、
絶対に会社に行く必要性があるかっていうと、
必ずしもそうではないっていうことになってきたし。
そうなるとなおさら、
手仕事って変わらない、強いなあと思って。
仕事さえあれば、家でできる。
明るい時間にやればいい話だもの。
太陽のサイクルで働ける。
すごいな、手仕事の人たち、って、
改めて思っています。
伊藤
田中さんも強いですよ、
あんまり変わらない。
自分のしたいことを仕事にしてるっていう
強さもあるのかもしれないし、
やっぱり外国に住んでるって、
母国語じゃない、文化も違うわけで、
私たちのように日本にいるのとは
またひと段階身構えが、心構えが違う。
だからこういう
「えっ?」っていう事態になったときでも、
強い感じがします。
田中
普段、いろんなことが降りかかってくるので、
ちょっとやそっとではびっくりしませんよ!
確かに今回はちょっと
「これは参ったな」っていう感じですけれど、
こればっかりは本当、ベトナム人が
「受け入れろ」っていうように、
「はい、わかりました」って。
社会主義も、こういうとき、すごいなって思いますよ。
政府がことを決めるのも早いですしね。
首相は今回のことで相当株が上がったんじゃないかな。
伊藤
なるほど。
社会主義ということもあるとは思うけれど、
みんな素直に家から出ないのは偉いな。
田中
この状況なら、人に会わないのが普通ですよ~。
伊藤
ですよねえ。
でも考え方の違うひとが多いと、
日本にいると感じるんです。
夫婦間でも違うし、
自分の近い人でも自分じゃないから。
田中さん、ありがとうございました。
どうかお気を付けて。
お家での仕事が進みますように。
田中
伊藤さんもどうぞお気をつけて。
ありがとうございました。
伊藤
久しぶりに話せて良かった!
田中
私も良かったです!
伊藤
早く会えますように。
ベトナムでも日本でも!

ある日突然、帽子に魅かれて。

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伊藤
とてもかわいい帽子をつくってくださって、
ありがとうございます。
かわいいだけじゃなくて、実用的で、
麦藁帽子なのに「ほっこりしていない」、ですよね。
苣木
とっても嬉しいです。
これはずっと作り続けて来た、愛着のある形で、
特に凝ったデザインではありませんし、
デコラティブなものでもなく、むしろシンプルですが、
そこを「いい」と言って頂けるのは、すごく嬉しいです。
ちょっとした工夫が、実はいっぱい入っているんですよ。
伊藤
そうですよね! 
昨日撮影でモデルさんに被ってもらったんですけど、
「サイズ調節ができる帽子は、
その調整する紐が痛いことが多いのに、
chisakiさんのは、全然大丈夫です」って。
苣木
気づいていただけて嬉しいです。
実は自分でも何回か
いろんな素材で試してみたことがあるんですが、
最終的に、ストレッチする素材がいいと考え、
ゴム紐になりました。
最初は伸びない紐にしていたんですけれど、
紐は最初はフィット感が出ていいのですが、
締めつける部分が痛くなってしまうんです。
きつく締めたときは、半日も被っていると、
頭が痛くなってくるほどで‥‥。
伊藤
ゴム紐の太さも、絶妙ですよね。
苣木
1ミリだと弱すぎるし、
1.5~2ミリだとちょっと太すぎて跡が付くので、
1.2ミリに行き着きました。
伊藤
シンプルとおっしゃるけれど、
すみずみまで工夫が行き届いているのがわかります。
苣木さんのこと、御存じないというかたも
いらっしゃると思うので、
「そもそも」からお話しいただいてもいいでしょうか。
なぜ、帽子デザイナーになったのか。
苣木
「すごく帽子が好きだったから」
‥‥というわけでもないんです。
帽子を被る習慣も、小さい頃から、多くはなかった。
なのに帽子をつくりはじめたきっかけは、
最初の結婚をして会社を辞めたときに遡るんです。
夫と2人暮らしだったので、
家にいても、そんなにすることがなく、
「誰の役にも立てていないな‥‥」みたいに、
気持ちのふさぐ時期があったんです。
そのときにたまたま当時の夫の知り合いの方に
会う機会があって、
「そんなに落ち込んでいて、しかも暇なんだったら、
帽子を教えてくれる人がいるから、習ってみれば?」と。
それがきっかけでした。
伊藤
教室に通われたんですね。
苣木
といっても、たった半日なんですよ。
「ベレー帽を作る」というテーマで教えて下さって。
ところがそのベレー帽にはまってしまったんです。
伊藤
ベレーひとつから、始まった。
苣木
そうなんです。
帽子に出会う以前に、
洋服の専門学校に通ったんですけど、
洋服はパターンを引いて、
トワルをくんで‥‥と工程が多く、
1日で完成させることも難しく、
私にとっては長い時間がかかりました。
けれども帽子はすごくちっちゃい世界で、
作ろうと思えば1日に何個も作れる。
その手早さみたいなのも魅力でした。
伊藤
私も学校でベレー帽の作り方を習いました。
蒸気を当てながら木型にはめて。
苣木
そうです! 蒸気でかたちを作ります。
結構、力のいる作業ですけれど、面白いですよね。
伊藤
はい、面白かった記憶があります。
苣木
元々全く違う形なのに、
蒸気で伸ばしてギュって木型に入れれば、
自分が思った形になるっていうことが楽しくて。
伊藤
じゃあ、まさか専業になるとは
思っていなかったんですね。
苣木
全く思っていなかったですね。
ただ何か「すごく楽しいな」っていう思いだけで。
そのベレー帽は8枚はぎだったので、
1ミリパターンが違うだけで、
その差がすごく大きいシルエットの違いになったり。
伊藤
じゃあ「被るのが楽しい」というより、
「作るのが楽しい」。
苣木
そうですね。
「作って誰かにあげる」っていうのが楽しかったです。
そこまでがワンセットでした。
伊藤
どなたかにプレゼントを?
苣木
そうなんです。
欲されてたかどうかも分かりませんが、
「どう、どう?」みたいな感じで送ったりしていました。
伊藤
ベレーと他の帽子は
随分作り方が違うように思うんですけれど、
そこからはあらためて勉強を?
苣木
そこからは独学です。
帽子を買って来て、分解して、
どういう作りになっているのかを見ました。
「あ、この硬さはこういう芯を貼ってるんだ!」とか、
分解していくと、わかることが多いんです。
伊藤
すごい!
苣木
すごくハマッちゃったんです。
もうそれまでが暗黒過ぎて(笑)。
伊藤
あら、そうなんですか?
20代ですよね。
苣木
そうですね、それが28のときかな。
元々アパレルに勤めていたんですが、
辞めて、1年間、エスモード・ジャポンに1年通って。
本来ならそこから洋服の道に進むのが筋なんですけど、
「何かちょっと違うな」と思っていたとき、
そういう出会いがあったんです。
独学‥‥学ぶっていうよりも、遊んでいる感覚でした。
つばの形だけを1日中、引いて縫って付けて、
角度の違いでどう印象が変わるか、研究したり。
伊藤
元々「ハマる」タイプなんですか。
苣木
そうみたいです、はい。
興味ないことは「んー?」で終わります(笑)。
伊藤
プレゼントしていた帽子を、
「売ろう」って決めたのはなにかきっかけが?
苣木
たまたま自分が作った帽子を被って、
知り合いが主催していた
アパレルの展示会に遊びに行ったんです。
そしたら、そこの社長さんが
「その帽子かわいいね」って言って下さった。
「自分で作ったんです」と伝えたら、
「デザイナーを探している帽子のメーカーがあるから、
面接を受けに行ってみれば?」と勧めてくださいました。
それで、サンプルを10個作って、面接に行ったんです。
そしたら、その会社の社長面接で
「ブランドをやってみる?」と。
伊藤
うん、うん。
苣木
その時の私には、
その意味がよく分からなかったんですけど、
「何もしていないという状況から抜けたい」、
「誰かの役に立ちたい」「働きたい」
という気持ちが大きかったから、
「はい、やります」って言ってしまいました。
そこでそのメーカーに就職したんです。
伊藤
帽子のメーカーに。
苣木
そうなんです、はい。
伊藤
そこで自分のブランドを。
「chisaki」はそのとき生まれたんですか?
苣木
いえ、その会社で
暫く活動していなかったブランドがあったのを、
「自分のブランドとしてやってみる?」と
社長が言って下さったんです。
伊藤
なるほど、もともとあったブランドの
デザイナーに就任したんですね。
苣木
そうなんです。
しかも、以前のコレクションは気にせず、
自由にやってよい、というお話でした。
ところがその「自由」がわからない。
そもそも帽子を何型作って、どういうお客さんに売って、
ということも全然分からなかったんですが、
「とりあえずやってみなさい。自分で考えながら」と。
それがスパルタ帽子業界のスタートでした(笑)。
伊藤
スパルタ!(笑)
苣木
さらに「出してみたい展示会はあるか」
って言われたんです。そのとき、
「プルミエール(Premiere Classe)っていう
パリの展示会にいつか出してみたいです!」
って言ってみたんですね。
そしたら、もう次のシーズンから出すことになって。
伊藤
なんていう社長さん!

バイク便が大活躍、 強いベトナムの人たち、 バックパッカーたち。

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田中さんの住むホーチミンは、
この日、午後1時の気温が
なんと37度だったそう!
(ちなみに東京は午後3時、16度でした。)
「weeksdays」のアイテムも手がけ、
ふだんは工場や工房をとびまわっている田中さんに、
ホーチミンでの今の暮らしをおききしました。


田中
こんにちは、伊藤さん。
伊藤
こんにちは! 
ホーチミン、すごく暑いんだそうですね。
田中
そうなんです。このあと午後2時くらいまで、
結構暑い時間が続きます。
伊藤
ご自宅ですよね。
元気そうでよかった! 
おうちにずっと?
田中
そうなんです。買い物以外はずっと。
こうしてオンラインでも、会えて嬉しいです!
伊藤
本当に私たちも、嬉しくて。
こうして話せるのが。
田中
手帳を見たら、この間日本でお会いしたのが
1月22日で、こんなことになるとは
思っていなかった頃でしたね。
伊藤
あっという間でした。
ホーチミンはロックダウンしてから
どれぐらい経ちますか。
田中
1カ月‥‥経たないくらいですね。
(註:対談は4/18に行われました。)

▲3月21日、中心部の交差点。夕方、こんなに空いていることはまずありません。(田中さん)

田中
3月の末に向かって、感染者数のグラフが、
今日は何人、今日は何人みたいな感じで
ギューッて急に上がっていって。
私はその頃、ちょうど
郊外の工場に検品に通っていたんです。
近くで感染者が出たら、
あたりが封鎖されちゃうので、
はやいうちにと思って。
伊藤
封鎖!
田中
そう。厳しいんですよ。
工場の向かいに大きなマンションがあって、
そこでもし1人でも感染者が出たら、
その通りごと、入れなくなるんです。
伊藤
入れなくなったとして、
そのマンションや、地区の住人の
生活はどうなるんですか?
田中
家から出られません。
すごく徹底しています。
それが2週間続くんですよ。
伊藤
買い物にも出られない?
田中
出られないんです。
全部運んでもらうしかない。
伊藤
食料を運んでくれる
政府のシステムみたいなのはある?
田中
いえ、自分で、配車アプリを使って、
頼んで持ってきてもらうんです。
友人が感染者が出たアパートに住んでいて、
出られなくなっちゃったんですね。
でも、その友人が住んでいる
マンションの管理会社がすごく良かったみたいで、
お水を1ケース、インスタントラーメン1ケース、
その他、当座必要なものを1ケース、
各家庭に配り歩いてくれたんですって。
でも毎日インスタント麺ってわけにもいかない、
とは言っていたけれど。
伊藤
ホーチミンは、市場の活気もすごいし、
路上でも、フォーが食べられたりとかしたけれど。
田中
あ、もう、屋台は一切ダメです。
伊藤
町にもちょっとお腹がすいたねって、
気軽に安く食べられるお店が多いし、
ふだんの食生活、外食する人が多いでしょう? 
だからお店の人も、市民も、
どっちも困ってるんじゃないかと思っていて。
田中
そう、みんな困っていて。
レストランは営業停止中なんだけれど、
半シャッターにしている店もあって。
中も暗いので、やっていない体なんだけれど、
厨房には最小限の人がいて、
営業をつづけているところもありましたよ。
もう諦めて閉めちゃってる店も多いと思うけれど。
伊藤
外食ができなくなって、
みんな困っていないかしら。
田中
テイクアウトの営業をしている店が多いですね。

▲本来ならば、お店の前にたくさんのバイクが並び、若者で賑わうカフェも”TAKE AWAY” のみです。必要最小限のスタッフが頑張っています。(田中さん)

田中
毎朝6時45分ぐらいに、
自転車でパンを売りに来る人はいるんですよ。
もしかしたら町でも、
路上のパン屋ぐらいはやってるかもしれない。
伊藤
そっか。パンはおうちで焼けないし。
田中
私は、サワードウのパンを売る店に
週1ぐらいで買いに行って、
薄く切って冷凍庫に入れてます。
食べるものと言えばね、
ドキッとした出来事は、
政府が「お米の輸出を禁止します」
っていう宣言をしたことがあったんです。
食料がなくなったら国民が不安だからと、
輸出するためだったものを止めた。
でも、そこまでするのって、
よほど、行く先が不安だからじゃないのかな、
このあと大丈夫かな、って思って。
でも結局解除されました。
やっぱりお米の農家は、
輸出できないと食べていけないので。
日本もそうだと思うんですけど、
ベトナム政府は経済活動をできるだけ止めないという
政策を取っていて、
輸出に関わる工場は開いているんです。
それで私も検品に行けたんです。
伊藤
輸送は?
田中
一応、貨物は全部出てるんです。
伊藤
そんななかで、動いている工場は、緊張しますね。
田中
1人でも感染者が出たら閉めなきゃいけないから、
工員さんを集めて
国からのレクチャーを受けて稼働しています。
手を洗いましょう、
間隔は2メーター空けましょう、
マスクを必ずしましょう、って。
伊藤
それも政府が派遣して?
田中
オンラインレクチャーだったそうですよ。
街にそういうポスターもあります。

▲こちらは、SNS上で出回っていました。調べてみたところ、このポスターを描いたHiệpさんは、ポスターを販売したお金で貧しい人へお米を届けたそうです。ポスターの内容は、「家にいることは、国を愛すること」。ということで、家にいて感染拡大を防ぐよう呼びかけています。(田中さん)

▲交差点に掲げられた横断幕は、「免疫力を上げる習慣をつけましょう」。ベトナムはスローガンが時節に合わせて掲げられるそうです。

▲下町のアパートの掲示板に貼られていたもの。

▲タワーマンションのロビーで配布していたもの。感染拡大を防ぐためにするべき6か条が書かれています。

伊藤
休業することになったお店などは、
国からの補償はどうなんですか。
田中
多少、あるとは思うけれど、
一律全員にとか、
そういうのはないはずです。
伊藤
そっか。じゃあやっぱり、
仕事ができない人は本当に困る。
田中
もう倒産している会社が出ているし、
倒産の手続きをしているところもたくさん。
伊藤
そうなんだ‥‥。
田中さんは、どういう感じですか? いま。
田中
忙しくしているんです。
こうなる前に、工場から
山のようにものを運びこみました。
家で検品などの仕事が出来るように
整えていたんですよ。
いまそれをこなしている感じです。
伊藤
じゃあやることがなくて、っていうよりは、
ちょっとは気が紛れますね。
田中
そうですね。ただ外に出られない。
友達にも会いに行けないですし‥‥。
この厳しさのなかにいると、
日本のニュースを見て
ちょっと心配になることもあります。
意外とみんな、動いているようだから。
伊藤
普通に会社に行っている人もいますしね。
友人に、やめなよって言っても、
それはできないって‥‥。
田中
都内に勤めている妹も、
しばらく会社に通っていました。
つい最近です、行かなくていいようになったのは。
伊藤
会社が決めてくれないと、
どうしようもないですよね。
「じゃあ辞めます」とも言えない状況だし。
田中
妹には私が怒ったんです。
「そんな会社辞めてしまいなさい」
「こんなときに会社に来させるなんて、
ちょっとどうかしてるよ」って。
妹は、毎日電車に乗って都内に行っていたから、
精神的に厳しかったみたいで、
私の言葉をうけてか、会社に言ったそうです。
「このまま続くようだったら
会社を辞めることも考えています」って。
でも、通わなくていいようになってよかったです。
伊藤
そんなふうに会社に言える人は
少ないかもしれないですね‥‥。
来月の家賃どうしよう、って思ったら、
その決断はしづらいですし。
こちらは、そこまで考えている人もいれば、
すごくのんきな人もいて、
外でマスクをせず雑談してる人もいる。
「えっ?」って思っちゃう。
私のほうががおかしいの? って。
田中
広い通りから小道に入ったところに
住んでるんですけど、
その突き当りが幼稚園だったんです。
その幼稚園を壊して小学校に建て替えて、
この旧正月の休暇が終わってから
小学校が始まる予定だったんだけど、
休みのまま、開校していないんですね。
家で検品をしてたら大家さんから連絡が入って、
そこが隔離施設になるって。
検疫隔離だから発症してる人ではなく、
濃厚接触のあった人や、
海外から帰国した人が飛行機を降りたら
有無を言わさずそこに連れて来られて
2週間いてもらうための施設です。
もし、そこで発症したら病院に搬送するための。

▲3月21日の朝刊。ベトナム入国者全員が、コロナウイルス感染拡大を防ぐため、検疫隔離が決定しました。

田中
心配なのは、
大家さんのおじいちゃんとおばあちゃんが
94歳だってことです。
伊藤
ああ、それは心配。

▲大家さんのおばあちゃん。

田中
私が検品先の工場から
ウィルスを持って帰っちゃったら大変でしょう。
だから、早いうちに商品を家に運んでもらって、
家でできるようにしていたんですけれど。
伊藤
そっか。
田中さんは、仕事先の人とのやりとりは?
田中
ふだんは製品づくりの指示書を書いて
持っていって話すんですが、
いまは家で仕様書に詳細に書き込み、
服だったら、パターンと布をセットして、
工場までバイク便に運んでもらっています。
わからないところは
Zaloというコミュニケーションツールで
連絡を取り合って確認します。

▲田中さんが刺繍製品全般を担っている@costa.japanの資料。

伊藤
いまは、写真もメモも、
すぐに撮れるし書いて送れるからいいですね。
田中
ない時代は大変でしたよね。
電話でずっとしゃべらなきゃいけなかった。
でもまあ、普段よりちょっと
やることが多いねっていうぐらいで、
そんなに基本的に変わらない生活をしてます。
ふだんの生活より、
ちょっと作り置きするものが増えたくらいで。
家中の保存容器を総動員(笑)。
伊藤
私も確かにそう!
作ったものをおすそ分けするときのための
ジップロックを、とうとう家で使い始めました。
田中
でもね、たいへんだたいへんだって言っても、
戦争のときって、
もっとすごかったんだろうなと思うんです。
それを考えたら、楽ですよ。
爆弾が降ってくるわけじゃないから。
伊藤
確かにそうかも。食べるものもあるし、
家にいれば安全なんだから。
田中
ベトナム人は強いから。
ベトナム戦争が終わったのが
1975年ですから。
伊藤
戦争が記憶に新しい人もいますものね。
田中
みんなたくましいですよ。
伊藤
どういうふうなときに、
そのたくましさを感じる?
田中
慌てずにすぐ受け入れるところですね。
言われたらマスクはみんなするし、
規律も守る。
最初の頃、私が慌てているふうに見えたのか、
「起きたことはどうにもできないから、
受け入れて、ヒロコ!」って言われましたよ。
伊藤
すごい。すごいなあ。
「受け入れて!」かぁ。
考えても仕方のないことでイライラしたり
怒ったりするんじゃなくてね。
田中
検品してる間じゅう、
毎日言われてました(笑)。
伊藤
外国から来てひとりで仕事をしているから
心配してくれたんですね、きっと。
それは年上の方がおっしゃるの? 
関係なく、みんなそういう感じ?
田中
若い子たちもそう言ってます。
伊藤
それはすごいなあ。
田中
スマートフォンをみんな持ってるから、
ニュースもちゃんとチェックして、
教えてくれるんです。
伊藤
SNSでデマが回ったりはしませんか。
田中
何回かあったけれど、
捕まった人が出て、おさまりました。
1人捕まると、次は出ないんです。
マスクを高く売ったら罰金とか、そういうのもあるし。
伊藤
なるほど。
田中
そうそう、先日、工場帰りにバスに乗ったとき、
停留所にバスが来たのに扉を開けてくれなくて。
「え?」と思ってたら、
窓からおじさんが「手を出せ!手を!」と叫んでいて、
手を出したら、
そこにポトンってアルコールジェルを乗せてくれて、
ゴシゴシしたら、バッて扉が開きました(笑)。
伊藤
へえ~!
田中
それをしないと、乗せないみたい。
伊藤
東京でもね、今日、食材を買いに出たら、
スーパーの入口にレーンができていて、
人が立って、距離を空けるように指示してました。
手のアルコール消毒はもちろん、
カートも全部消毒していて、
こんなに徹底しているスーパーもあるんだ、
って思いました。
みんなひとりで来ていましたし。
田中
こっちは検温もされますよ。
今日、銀行に行ったら、
入り口でおでこにピッとされました。
37度以上の人は帰らせるって。
そんなに感染者は多くないんですけれどね。
今日(4/18)までに、ベトナム全土で
感染者が268人です。
伊藤
えっ、すごい。
それでもロックダウンをしたんですね。
だからこそ少なく抑えられているんだと思う。
田中
そうですね。本当に厳しい。
うちの奥の検疫隔離所も、
最高で14人くらい入ってたときがあったけれど、
みんな問題ないから徐々に出て行きました。
昨日ちょっと騒がしかったから、
どうしたのかなと思ったら、
外国人が4人入ったと。
ホーチミンに、バックパッカー街があるんですよ。
そこから。
伊藤
そっか! そういう人たちって、
どうしているのかなって思っていたんです。
帰国できなかったりもしますよね。
田中
帰れなくなっちゃった人もいますよね。
結構早い段階で空港が閉鎖され、
国際線があっという間に飛ばなくなったので。
そのバックパッカー街にも隔離施設があるんですが、
そっちがいっぱいだからこっちに来たって。
「え、そっちがいっぱいって何人いるの?」
と思いましたけれど。
伊藤
確かにねえ。
外国でこの事態を迎えて、
帰国もできないと想像すると‥‥。
バックパッキングの旅は、
予算も潤沢ではないだろうし。

▲マスクをして、夕方ジョギングや散歩に出かける人々。気分転換になるでしょうけれど、見ている私の方が息苦しさを感じてしまいます。(田中さん)

FinFamiのヒント、 「ご近所さんを知っておこう」アプリ、 オンラインズンバ。

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森下
昨日、仕事で日本の精神科関係の人たちと
オンラインで話をしていたんです。
精神的にちょっと苦しい、
もともとそういうところがある人の家族が、
このコロナのなかで
どうすればいいのかという話題が出て。
伊藤
ええ。
森下
フィンランドでは、FinFamiという、
精神疾患のある家族がいる人のための組織が、
この危機に際してどんなことが必要か、
発表しているんですね。
その中に「ゲーム」ってあるんですよ。
ほかにも、ユーモアは欠かせないとか、
おいしい料理を作ってみるとか、
掃除をするとか、
伊藤さんの世界につながりそうなものが
いっぱいありました。


FinFami
経験専門家たちからのヒント。
(抜粋)
(森下圭子訳)

飛行機の緊急時もそうですが、
酸素マスク装着にサポートが必要な人といる場合、
まず最初に自分の酸素マスクを装着してから
サポートします。
まずは自分のことが守れてこそです。
どんな感情がわいてきてもいい、
それを自覚できていることの方が大切なのです。
コロナのこの状況にあっては、
様々な感情を抱くかもしれませんが、
あれこれと感じていいのです。
そしてそれらの感情を怖がらないほうがいいのです。
精神疾患のある人の家族のかた、
まずは自分を大切にしてください。

1. 近所の助け(善き隣人)
2. 食事の助け(スーパーまたはレストラン・カフェで買ったものをドアの前まで届けてもらうなど)
3. ユーモアやコロナを題材としたミーム
4. ビデオ電話やネットコミュニケーションで気持ちの共有
5. ルーティンや明確な一日の時間割を作り、時間の過ごし方を楽にする
6. 外へ。森の散歩、自然観察や写真撮影
7. 読書
8. ネット上でグループを作る
9. 自分の感情を受け入れる
10. 手芸やアート:手を動かしたり、音楽、美術、文章を書くなど
11. 他者を助けること(おつかいなど)は、他者の喜びであるだけでなく、喜んでもらえることで自分にとっても嬉しいことになる
12. 十分な睡眠
13. 食事のプラン、料理、ケーキやパンなどのベーキング、健康的な食生活
14. ゲーム
15. 掃除
16. 自分の庭の庭仕事
17. テレビ鑑賞
18. ラジオを聴く


伊藤
わぁ。
森下
ね。ほんとうにシンプルなんです。
最初のメンタルヘルス・フィンランドの
16項目もそうですが、
自分の中の苦しさや不確かな感情を受け入れることも
大事だってわかったのもよかったです。
不安は隠しとこう、で終わっちゃうけれど、
受け入れていいんだよって書いてあったら、
あ、別にいいんだなって思うし。
一回自分の中で受け入れてるっていうのは、
我慢することとは違いますしね。
我慢しないっていうのも大きいでしょうね。
伊藤
うん、我慢しない。
森下
言われたから我慢して外出をやめます、
ってなってしまうと、
どこかでバーッと突っかかりたくなる。
だけど、自発的だったら、
いろんなものに寛容になれるというか。
伊藤
そう思います。
ほんとうに気の持ちようですよ。
さっきも言ったけれど、
こんなふうに世界中で同じ時間を過ごして、
それを突破したあと、
よくなってたい、自分が。
森下
いや、ほんと、そうですよね。
自分でそう信じていくしかないです。
よくなってる未来を想像するには、
やっぱり日々、前向きに生きていかないと。
伊藤
こうしてオンラインでお話しをしていると、
毎回、私が元気を貰っているんです。
森下さんにもいっぱい元気を貰っちゃった。
森下
私もそうですよ!
このごろ、友達とオンラインで
顔を見て話す機会が増えたんですよ。
これって、すごく新しい
コミュニケーションが生まれている気がします。
伊藤
うんうんうん。
森下
直に会ったり、文字だけだったときと違って、
今まで触れてなかったことを
素直に一緒に話し合える。
たとえばちょっと心にモヤモヤがあるときに、
「なんかこう、釈然としないものがあるんだよね」
って説明抜きで話を始めることができたり。
「このモヤモヤって何なんだろうね」
みたいなことを。
明確な理由なんてないことも多いから、
答えなんて出てこないんだけれども、
そういうことってあまり話してこなかった。
伊藤
おお、なるほど。
だって、今までにない事態ですもん。
会いたい人に会えない。近くにいても会えない。
森下
会えない、そうなんです。そう、近くにいても。
伊藤
コミュニケーションの仕方が変わりますよね。
森下
ほんとう、変わりましたね。
最初、散歩のときも、
2メートルぐらい離れて歩いてくださいって言われて。
ヘルシンキも人が少ないとはいえ首都です。
どうしたって人とすれ違う。
2メートル離れようって意識すると、
なぜだか知らないけれども、
目線をそらすんですよ。
それまでなら目を合わせてたはずなのに、
わざと会わなかったふりをして、
ちょっと離れていくみたいな‥‥。
伊藤
へぇー(笑)。
森下
でも、行動制限が始まって4週目ぐらいかな、
やっとお互いがちゃんと
目を合わせられるようになって。
伊藤
距離を保ちつつも、目は合わせる。
森下
人ってやっぱりそれを欲してるんだろうなって。
この前、散歩中、
立ち止まって空をじっと見上げてたら、
1人のおばさんが4、5メートルぐらい
離れたところから言うんです。
「このあたり、サギがいるのよ、サギ!」って。
「いるのよ。サギの声、聞こえる?」
伊藤
(笑)鳥のサギですね。
森下
そう突然言われて(笑)。
で、耳を澄ませるんだけど、
鳥はいっぱい鳴いているから、
どれがサギの声なのか全然わかんなくて。
伊藤
(笑)
森下
「サギがいるせいでね、カモメが驚いて、
飛び跳ねていくのを見たりしたことがあるのよ!」
みたいなことを5メートル離れたところから
おばちゃんが話しかけてきて、
そのあいだをカップルが通っていく。
何、この状況? って(笑)。
伊藤
その距離の取り方も
だんだん慣れてきそう(笑)。
森下
そうなんです。
こんな状況でも、人って、
ちゃんとコミュニケーションを
取りたくなってくるものなんだなって。
楽しいですよね。
そうそう、大半のジムが休みになっていて、
行くのも怖くなってる人たちのあいだで、
森の中にあるジム器具を使うのが人気で。
伊藤
えっ、えっ。森の中に?
ちょっと待ってください。
ヘルシンキの街中から
歩いて行けるところに森があるんですか。
森下
そうなんですよ。
私も、中央駅へ行くのに
歩いて30分ぐらいのところに住んでるんですけど、
うちから歩いて15分ぐらいのところにもう森があって。

▲「行動制限が始まってから毎日のように歩いている近所です。これらの風景が歩いて3分~30分くらいのところにあります」(森下さん)

伊藤
そうなんだ!
まさかそこでブルーベリーとか
摘めないですよね。
森下
あ、摘めますよ!
でも、街の近くの森はライバルが多いです(笑)。

▲「ブルーベリーはまだ芽が吹きだしたばかり」(森下さん)

▲「摘み頃のブルーベリー」(森下さん)

▲「森のブルーベリー(野生種ビルベリー)」(森下さん)

森下
それで、森の中にポツンポツンと
ジムのトレーニングができるような設備があるんです。
腹筋とかできる。
そういうところでトレーニングしてる人たち同士、
やっぱり2メートルぐらい距離を取りながら
話してる人がいたりとか、
前の人が終わるまでちょっと離れて
立って待ってる人とか。
言葉を交わさなくても、
人はなんとなくコミュニケーションを取るんですね。

▲「モダンな器具の場所は人気で、ついに、ソーシャルディスタンスや衛生面での注意事項の貼り紙がありました。私が愛用しているのは誰も使ってない丸太のリフティング場。これを肩にのせてお神輿担ぎの訓練も始めました! ときどき地下足袋をはいて気分をもりあげて行っています」(森下さん)

伊藤
森の話でいうと、
大好きな法律がフィンランドにあって。
どこの森に入ってブルーベリー取ってもいい、って。
森下
そうなんですよ(笑)。
誰の所有でもいいんです。
でもね、ここもやっぱり信頼がベースにあって、
法律で禁止はされていないんだけれど、
フィンランドの人たちは、そこに家が見えたら、
そこから先のブルーベリーは摘まないんです。
家の人たちが夏の朝、
外の森でささっとブルーベリーを摘んで
朝ご飯にできたらいいじゃないですか。
だから、バカンスを過ごすサマーハウスでも、
森でブルーベリーを摘んでいて、
視界に家が入ったらもうそこから先に進まない。
それは、そこのおうちの人たちの
ブルーベリーだからね、って。
伊藤
すごく素敵!
やっぱり自立してますよね。
森下
そうかもしれない。
最初にコロナの感染者が出て、
すぐさま自宅隔離あるいは自宅待機を
言い渡された濃厚接触者たち、
それから外国から帰ってきた人たちは
なるべく外に出ないでくださいと言われた時、
もし食べ物に困って、
スーパーとかご近所さんの助けが
得られないようだったら、
市からちゃんとワーカーさんを派遣しますと。
家の玄関前に物資を置いておくので心配要りません、
みたいな発表がすぐにあったんですね。
でも、それと同時期にフィンランドでは
あるアプリが立ち上がって。
それはご近所お助けアプリみたいなものなんです。
伊藤
うんうんうん。
森下
たとえば、私はここに住んでます、
ここの地区からこの地区ぐらいのあいだだったら
おつかいとか犬の散歩ができるので、
いつでも言ってください、
ということが登録できるんです。
伊藤
へぇ!
森下
一応セキュリティはきちんと、
フェイスブックで連携して、
怪しいものじゃないですよと、
ちゃんと身元が割れるような形で登録して、
助けが必要な人がお願いをするんです。
市からも援助するという発表があったけれど、
自分たちも自発的にお手伝いするようなサイトが
同時に上がったというのは、大人ですよね。
自発的に自分たちのできることを、と。
伊藤
うんうん。やっぱり自立してるから
人にも優しいというのがあると思う。
自分がちゃんとあるから、人に優しくできる。
自分に不安があったら、ねえ、やっぱり‥‥。
森下
自分のことで精一杯ですもんね。
伊藤
そのサイトを立ち上げたのは
どういう人たちなんですか。
森下
「ご近所さんを知っておこうアプリ」
みたいなのをもともと作ってた人たちが、
その仕組みを使って即・立ち上げたみたいです。
私が住んでるところって
高齢者が多いエリアなんですけど、
チェーン展開しているスーパーのオーナーも、
すぐさま自発的に、オープン前の時間を
高齢者のために開けようと。
だからこの時間からこの時間は
70歳以上の人のみの入店にします、
みたいなのをやったりとか。
レストランとかカフェも大変なんですが、
ミシュランの星を獲ってるレストランがつくった
フィンランドの家庭料理や、お寿司なんかを、
スーパーと協力しあってスーパーに置いたりとか。
そういうことを、みんな自分たちで工夫しながら
やってますね。
伊藤
なるほど。
私たちも、やれることはまだありそう。
そのお話を聞くと。
森下
フィンランドも、もっといろいろ
アイデアを出してくるような気がします。
ここに来て想像力って言葉が
私の中で大きな価値になっています。
伊藤
想像するっていくらでもできますもんね。
森下
そうなんですよね。
いいなと思ったら、失敗を考えなくても、
こんなときなんだから「やってみようよ」、
うまくいかなかったら、
「うまくいきませんでした」でいいんだなって。
伊藤
じゃ、私は手芸に挑戦してみますよ、ひさびさに!
‥‥でもでも、最近、目が。
森下さん、私たち同い年なんですよね。
森下
そうなの!
伊藤
最近針仕事がつらくって。
森下
今までと違いますよね、作業の進み方がね(笑)。
伊藤
そう。もう夜の針仕事なんかできないし(笑)。
森下
夜の読書もつらい(笑)!
伊藤
だから、明るいうちに、ね。
これを読んでくれた人が、
自分だったら何できるかなって
考えるきっかけになってくれたら、
すごいうれしいですね。
いつもよりきれいにごはんを盛り付けるとか、
ちょっとしたことからでもいいし。
森下
使ったことのなかった調味料を使ってみるとか!
伊藤
森下さん、ありがとうございました。
あっという間に1時間!
そうだ、最後に、森下さん、
いまもズンバはやってらっしゃるのかなあ。
みんなでダンスするエクササイズの。
森下
やってますよ! オンラインズンバ。
もう何が楽しみって、
私は、1週間に何回でもズンバができるぐらい
ズンバが好きだったんですよ。
でも10人以上の集会がダメになった段階で、
ジムのグループレッスンもなくなって、
どうしようと思ってたら、
オンラインでズンバができると知って。
インストラクターとZoomでつないで、
レッスンを受けられるんです。
やってます。

▲オンラインズンバ。「いろんな国のインストラクターたちのクラスに参加できるのが楽しくて。いま一番好きなのはこちらのルーマニアのインストラクターたちのズンバです」(森下さん)

伊藤
楽しそう!
森下
フィンランドってやっぱり
ITを使い慣れてるんだと思ったのが、
けっこう高めの年齢層のみなさんが、
ほとんどトラブルなしに
オンラインズンバに参加できてるのですが、
これも各国のズンバを体験すると、まちまち。
参加してる人たちで助け合うところもあるし、
ああ、場合によっては
次々と問題発生をコメントしてくるんだけれど、
放置みたいな。
でもそんなZoom使用におけるカオス状態も含めて、
面白くって仕方ないんです。
伊藤
ハプニングが!
森下
私も散歩とジョギングだけだと吐き出せなかった
ストレスがあったんでしょうね、
オンラインズンバで
音楽を聞いてガーッと踊ることで、
ずいぶん気分が楽になりました。
伊藤
いいですね~。
よかった、元気なお顔が見られて、
ほんとうに元気になりました! 
森下さん、ありがとうございました。
またぜひお目にかかりましょう。
森下
ありがとうございました、こちらこそ。


対談のあと、送ってくださった
森下さんのメール

そうだ、忘れてました!
テレワークで、衝撃的にぶっ飛んでいながらにして、
かつ最高に人を幸せにさせる方法を
編み出した人がいました。
フィンランド国税庁のインスタアカウント!
@verohallintoです。

ここが平日毎日犬の赤ちゃんの
インスタライブをやってくれるのです。
テレワークのなせるわざ! ですね。
自分ちの犬の赤ちゃんたちを映してるという、
ただそれだけなのですが、これが大人気。
私はほぼ毎日チェックしています。

そして行動制限がはじまって5週目。
ついに犬の赤ちゃんの名前募集大会がはじまりました。
皆がコメントで犬の名前を応募して、
そこからさらに2つに絞り、
みんなの投票で名前を決めるのです。

話を戻しますが、これ、
フィンランドの国税庁のインスタです。
ただ、このインスタアカウント、
もともとから斜め上をいっていて、
Veromeditaatio(税瞑想)なる、
不思議な動画も流しています。
たとえば移動費に関する減税の案内とか、
税金に関するものを、
瞑想の「吸って~吐いて~」みたいに語るのです。
日本だと炎上案件になりかねないこの世界が、
大いにウケているという。
まだインスタライブを見ている人が
それほど多くなかった頃は、
こちらがハート目のメッセージを送ると
犬とハートのスタンプを
送り返してくれたりしていました。
国税庁ですが。(森下圭子)


chisakiの夏の帽子

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出かける日を待ちながら。

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丸襟のワンピースに、
三つ折り靴下、
ワンストラップの靴。
仕上げに、麦わら帽子をかぶったら、
したくは終了。
子どもの頃の夏のお出かけ着は、こんな風。

どこに出かけたのかは、
あんまり覚えていないのに、
家を出る前の、この時間は記憶にしっかり残ってる。

ふだんは、オーバーオールやジーンズなどの、
カジュアルなかっこうが多かったからかな、
「おしゃれをする」っていうのが、
うれしくってたまらなかったからかもしれません。

大人になってからは、
どうだろう? 
そういえば、最近あんまり帽子をかぶっていない。
どうも、自分にしっくりくるものが
見つからないでいたのです。

シックで、大人っぽくって、
きちんと日よけもしてくれて、
たためると、なおうれしい。
そんな帽子はないものか?
‥‥と探して探して出会ったのが、
chisakiの帽子です。

形、色合い、つけ心地。
どれをとっても、なんだかいい。
大人のおしゃれにぴったりな、
夏の帽子はいかがですか。

会わないことが思いやり、 楽しもうという想像力、 スウェーデン語の勉強。

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伊藤
それにしても、自分の国と、
その国の人を信じているって、
すばらしいことですね。
森下
フィンランドの社会は、
信頼をベースにしているんです。
最初のうち、行動制限が始まったばっかりのときって、
やっぱり守れない人が大勢いて。
とくに高齢者とか、
ネットで人とコミュニケーションとる術が
あまりない人はついつい、ね、
やっぱり実際に会うしかないというか。
まだ飲食店で飲食ができていた時期でもあり、
70歳以上の人がそういうところに集まっていました。
そのとき、首相が強く訴えたんです。
「私たちはあなたたちを信頼している」と。
「あなた方を信頼したい。
だから、禁止せずに済むように、
みんなで集まったりしないでください」って。
それでずいぶんと変化しました。
いまは行動制限がかなり厳しくはなっているけど、
日本で報道されている
西ヨーロッパの都市ほどではありません。
伊藤
感染者はどれくらいですか。
森下
ヘルシンキは意外と多いんですよ。
10万人あたりで感染者が何人か、
という計算があるんですけど、それだと、
首都圏で126.5人なんですね。
東京の世田谷区でも4月上旬で
10人以下じゃないかと思うんですが、
そう考えるとすごい数字です。
それでもヨーロッパの中では少ないほうです。
──
4/17のデータでは、
フィンランド全土の総感染者が3369人、
死亡72人。これはヨーロッパの中では
桁が2桁、3桁違うくらい少ないですね。
森下
そうなんですよね。
でも、人口も少なく、550万人ですから。
伊藤
みなさん、首相の言葉のあとは、
守るようになったんですね。
森下
そうですね。言われたときから、すぐに。
若い人もそうです。
ある人のフェイスブックを読んでいたら、
高齢の両親のところの食材を届ける時、
ドアの前に置いてピンポンダッシュをしたと。
2メートル離れてなきゃいけないから、
やっぱり会ってしまうとつらい。
だからピンポンダッシュして、階段のかげから、
親がドアを開けて物を取っていく音を聞く、みたいな。
最初は、そんなふうなことがみんな辛そうだったけれど、
少しずつ、そうすることが
この国でみんなで一緒にやっていくことなんだから、
っていう感じになっていきましたね。
伊藤
ほんとう、今、会わないことが思いやり。
会社勤めの人は、リモートワークですか。
森下
私の周囲は、完全リモートワークです。
ただ、できてない人もいます。
夏休み気分でいる人もけっこう多いし、
子どもが家の中にいるので
仕事がはかどらないしっていう人もいる。
あと、シビアにレイオフ、休暇を出されてしまって、
失業の手続きを取っている人もいます。
お店の人に多いかな。
また営業が再開したら戻れるんでしょうけど、
そういう意味で仕事をしていない人もいます。
伊藤
フィンランドは夏休みをとても大事にしていて、
テレビ番組すら夏休みになるんですよね。
日本の人ってほんとうに勤勉だし、
オンオフの切り替えが苦手というか、
いつも動いていなくちゃ、というところがあるけれど、
フィンランドの人って、
オフのときはすぐに切り替えられるし、
じっとしていることもできそうだし、
自分の時間を持て余すこともなさそう、
っていう印象なんです。
それもやっぱりお国柄なのかなと
思ったんですけど。
森下
確かに、もともと、
こうしなきゃいけない、
ああしなきゃいけないって中に
生きてきてない感じはしますね。
なにをするにも自発的。
働かないときは働かないときなりに、
すごく自発的に自分の時間を使います。
伊藤
自分の時間も、
休暇をあえて静かに過ごすのと、
今のように「動かないで」って言われている時で、
心の持ち方が違うじゃないですか。
それでもみんな、そんなに変わらず、
自分の時間をマイペースに?
森下
深刻にしてることはあんまりないですよ。
みんないろいろ不安だと思うんですけれども、
その中で一所懸命楽しもうという想像力はすごくて。
だから、本気で大人が遊んでたりしますね、室内で。
伊藤
どういう遊びを?
森下
たとえば、フィンランドの
有名な絵画を使ったりして、
その絵を真似するのがSNSで流行してます。
自分でメイクしたりコスチュームを考えて、
絵になり切って遊ぶんです。
伊藤
あのシャイな人たちが!
森下
そうそうそう(笑)。
それで写真を撮って載せるの。
伊藤
1人だからできちゃうのかな(笑)。


「フィンランドの人がやっている、
絵画を真似する人たちの
インスタを集めているアカウントはこちらです。
@karanteenitaidetta
アカウントをやっているのは
フィンランド全国の博物館や美術館で使える
ミュージアムカードを出しているところ。
Tussen Kunst & Quarantaineの
「世界の名画のパロディ」を見て始めたとのこと。
そうそう、この
@tussenkunstenquarantaineも爆笑です」(森下さん)


森下
私が今、友達とハマってるのは、
新しいコミュニケーションの取りかた。
メッセージでやりとりするんですけど、
小さな仮装をして自撮りをして、
自分で考えた呪文を発表しあったり(笑)。
伊藤
かわいい(笑)!
森下
そういうことをみんなで考えて遊んでいるんです。

▲「イースター用に友人たちに自撮りメッセージを送るときも手軽な仮装をしてから。イースターと言えば、魔女と黒猫。黒猫がいないので、ムーミンのご先祖さまぬいぐるみを。すっぴんの顔にこんなことばかりしてるので、この日もなんとなく鼻の先っぽが赤く染まったまま一日を過ごしました」(森下さん)

森下
最近すごく思うのは、
フィンランドの人たちの想像力って
ほんとうに素敵だなということ。
自分たちで楽しむために何ができるかなって考えて、
ちょっと面白そうだからやってみようって、
なにかしら、やるんですよ。
だから、あんまり深刻なことは聞かないです。
みんな怖さはあると思うけれども、
あまりそれを表には出さずに。
伊藤
すごく大人ですね。
みんな自立した大人だって感じます。
森下
そうかもしれない。
誰に言われたからじゃなく、自発的で。
でも、そんなフィンランドにも、
だんだん若い人たちが我慢できなくて、
直接会ったりしちゃうという話も聞きます。
だからといって、それを痛烈に批判する世論よりも、
今、自分たちがどうやってこの状況を
気持ちよく過ごすことができるかっていう
アイデアを出し合うほうが建設的だって、
多くの人が思っているんだと感じます。
伊藤
今、東京都も「お願い」なんですよね。
でも、こういうことって、
お願いされるのではなく、
自分でって思うこともあります。
日本では「お願い」としか
言えないみたいなんですけれど。
だからこそ自発的なこと、大事だなって。
フィンランドの人たち、前向きですね。
森下
そうなんですよ。
家の中を楽しむことを考えるほうが
前向きになれる気がして。
伊藤
今、自分だけ出るなって言われてるんじゃなくて、
一つの地域でもなく、全世界が同じなんだから、
ちょっと気持ちを変えればいいのにって
すごく思うんですよね。
森下
伊藤さんも、室内で遊ぶのは得意そう。
多分いろいろとなさっているでしょう?
伊藤
うん。私、もうほんとうに
一生いられるかもって思うくらい(笑)。
森下
(笑)どうやって時間を過ごしてますか。
伊藤
昨日からはNetflixでエリザベス女王の
シーズン3ぐらいまである連ドラを見始めました。
森下
『ザ・クラウン』ですね!
伊藤
もう、ヤバーい! と思うくらい面白いです。
あとは、たまっていた本を読んだり、
家の片付けをしたり。
早起きして仕事して、朝ご飯食べて、
またちょっと仕事して、
「あ、もう昼ご飯だ」と準備して、
食後ちょっと仕事すると、もう夕方。
「また1日終わったね」みたいな感じです。
森下
どうやったら見つけられるんですかね、
みんなね、自分で。
伊藤
パリのお友達と話していたときに思ったんですが、
自分の中を豊かにできることを知ってる人が
今、強いなって。
人任せではなく、受ける楽しさだけじゃなく、
自分の中でどう過ごそうかっていうことを、
ちょっと噛み砕いて、
楽しくできる方法を知ってる人が強いです。
森下
フィンランドにも私が見えてないところで
いろんな人がいると思うんですけれど、
自分が何をしたいか知ってる、
自分自身で自発的にいられるって、
やっぱり大きいのかもしれない。
最近思うのは、自分の頭の中で
どれぐらい想像力で広げられるかって大事だなって。
少なくとも私の周りで前向きでいる人たちを見ながら、
何が大きいのかなと思ったら、
やっぱり想像力かなと。
それと、自分にちゃんとビジョンがあるかどうか。
日々の暮らしの中でも、こうやってみようかな、
ああやってみようかなっていうのは、
想像力がないとできないんですよね。
伊藤
そうですね、うん。
森下
受け身で生きてると、
誰かの言葉や外からの情報がないと何もできない。
そういう状態で今、家の中に1人でいなきゃいけない、
っていうのはとても苦しいかもしれない。
けれども、想像力が一つあると、
空を見上げてるだけでもいろいろ生まれてくるんですよね。
作ったことのなかった料理をしてみよう、というときも、
いろんなものを見たあとで、
じゃあ私はどういうことができるかって考えていけば、
今は時間に余裕があるから、ものすごく時間をかけて
自分で工夫することもできるし。
レストランのシェフが契約農家の食材を売って
レシピを公開してくれているのを参考にしたり。
10分ごとにオーブンの中のものをひっくり返したり
しなきゃいけない料理なんて、
普段はやろうとも思わなかった。
そういう料理も、時間があるので
やってみようって。

▲「使ったことのなかった食材を初めて使ってみたり、いままでやったことのない調理法を試してみたり、初めての料理にトライしています。サーモンスープとシナモンロールは普段もよく作るのですが、今回は時間をかけていつもと違う作り方で作ってみました。」(森下さん)


「フィンランドでじわじわ注目され人気になっているのが『お花のフォカッチャ』。フォカッチャ生地の上にお花を描くように、いろいろトッピングするんです。季節的にもぴったり」(森下さん)

伊藤
そう思う。行動できる範囲が広いからといって、
心の中が広いわけじゃないんですよね。
この騒動が明けたときに、
どう過ごしたかによって
今後の自分が変わりそうですよね。
森下
私も最初のうちはどうしていいのかわからなくて、
むやみやたらに散歩したりとか、
ただダラダラ過ごしていたんです。
でもダラダラ過ごすって、
決して自分の気持ちにとって
いいことにならない。
メンタルヘルス・フィンランドが書いていたように、
「新しい習慣が作れないか、考えたり計画してみる」、
これはとても大きなことでした。
伊藤
森下さん、それで考えた新しいことはありますか。
森下
私はね、スウェーデン語を
もう一回やり直してます(笑)。
伊藤
へぇー!
森下
続々と仕事がなくなっていってしまって、
この夏、すごく暇そうだなと思ったんですね。
ふと、夏の季節労働者としてベリー摘みとか、
海外からやってくる労働力の代わりに
バイトしようかなとも思ったんですが。
でもフィンランド国内で、
もし自由に行き来できるようになるのだったら、
スウェーデン語しか話さない地域に行ってみようと、
トーベ・ヤンソンが大好きだった群島のエリアで、
ひと夏、ずっとスウェーデン語で
暮らしてみようかなと思って(笑)。


▲「私のスウェーデン語の教科書。通常の練習帳(行動制限が始まる前に図書館で借りてきました)と、トーベ・ヤンソンの『島暮らしの記録』、おばあちゃんたちのとっておきのお菓子のレシピを集めた本です」(森下さん)

伊藤
それ、いいですね。私、何やろうかなあ。
森下
(笑)伊藤さん、忙しそうじゃないですか。
いまはどんなふうに過ごしているんですか?
伊藤
雑誌の連載に、
よそのお家の食器棚を見に行く企画があって。
いつもだったらカメラの人と編集の人と行くんですが、
今は、取材に行けない。
だから、2号にわたって自分の食器棚を
レポートすることになったんです。
それで切り抜き用の写真をiPhoneで撮ったり、
食器棚の見取り図を娘に描いてもらったり、
超家内制手工業をしてます。
森下
わぁ、見たい!
私ね、初めてお仕事をご一緒するとき、
「伊藤まさこさんってこういう方なんですよ」
と見せてもらった資料におどろいたんです。
そこには、ちょっと刺繍を入れるだけで、
布一枚がすごく変わることだとかが載っていて。
なんてのびのびしていて、
自由で素敵なんだろうと。
センスを真似るのは至難の業だけれども、
すごく楽しさが伝わってきました。
だから、今こそ、伊藤さんの秘密を
もっと知りたいと思いますよ!
伊藤
もうないですよ~、秘密。
全部明かしたもん。
でも、そうか、私は最近手芸を
全然やってなかったから、
やってみようかな?
そういえば森下さんに初めてお会いしたときって、
『かもめ食堂』の撮影の直前でしたね。
森下
そうです、そうです。
すごくよく覚えてるのが、
当時まだ6歳くらいの娘さんと旅をなさっていて、
長旅の中で彼女がちゃんと楽しんでいられるように、
伊藤さんが手作りでいろいろ考えてきていたことです。
伊藤
えぇ? とんと記憶にないです!
森下
ないですか。私はすごくよく覚えてますよ。
ノートを横に3分割で切ってあって、
頭、胴、足が何ページも描いてあって、
めくると着替えができるんです。
ティアラをかぶったお姫様なのに、
ハラマキしてるおじさんになっちゃう、とか、
自分で組み合わせて遊ぶんです。
覚えてないですか(笑)。
伊藤
すごいじゃん、私!(笑)
もうまったく覚えてない~。
森下
ああ、この人はほんとうに
こうやってフッと思いついたことを形にできて、
それがすべてのびのびして楽しそうだなって、
そう思ったんですよ。
で、ここがポイントなんだけど、
「あれ私もやってみようかしら!」
って思うんですよ。
で、やると、玉砕(笑)。
でもその「やってみようかしら」って
思わせる感じが、今まさに必要ですよ。
これまでうまくいかなかったけど、
その中から自分らしさを見つけられたら、
きっとその人なりの物の作り方とか工夫のし方とか
発想とかもアイデアが浮かぶ。
何もないところから想像力って言ったって
どうすればいいの? かもしれない。
最初の、何かきっかけになるものを
伊藤さんは持ってらっしゃるような気がするの。
着せ替えブック、最高でしたよ(笑)。
波平さんみたいな頭の人がドレス着てたりとか(笑)。
伊藤
そうなんだ! ほんとうに覚えてない‥‥。
森下
それでずっと遊んでて、
みんなで一緒にやったりしましたよ。
伊藤
そうか。紙さえあれば、
ゲーム機を買わなくてもね!

16の対策、 ソーセージを焼くのはやめましょう、 クマのいる窓辺。

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時差は6時間、
東京が夕方4時、ヘルシンキは朝10時に
この対談は行われました。
いつも元気で活動的な森下さん、
春が来てキラキラと
陽光がふりそそいでいるはずのフィンランドで、
ずっとお家にいて退屈してないかな‥‥というのは杞憂。
フィンランドのひとびとのように、
あたらしいたのしみを、たくさん見つけたみたいですよ!


伊藤
森下さーん! お元気そう!
後ろにかわいいぬいぐるみが映ってますね。
タカモリ・トモコさんのあみぐるみかな?
森下
そうですそうです。
黄色いのは私が自分で作ったんです。
フェルトで。
コーイチも映ってますか。
これコーイチって呼んでて。
伊藤
妖精?
森下
それが、何だかわからないんですよ。
妖精なのかな(笑)。
佐藤浩市さんに似てるのでそう呼んでるんです。
伊藤
似てる、似てる(笑)! 
ああ、いきなり、可笑しい。
ほんとうに元気そうでよかった。
どうですか、そっち。
まだ寒いんでしょう?
森下
昨日も雪が積もったんですよ。
(註:対談は4/17に行われました。)
まあ、春の雪なので、
1日で溶けてしまうんですけど。
伊藤
前に森下さんにお会いしたときに、
冬が長いから、鬱になる方が多いんだけれど、
それも冬から春に変わるときが多いんですよって。
森下
そうなんです。鬱というか自殺なのですが。
春になるときに自殺が多いのは、
みんなが欝々としているときよりも、
一気に明るくなった今ぐらいのとき、
周りの人は明るいのに、
自分だけ明るくなれない人がいて。
伊藤
まさに今ですよね。
森下
そういう国なので、
今回のコロナも社会がざわつき始めた時期に、
メンタルヘルス・フィンランドという半公的機関が、
16項目、対策を発表したんです。
すごく普通のことなんですよ。
でも、意識してるかしてないかで全然違うと。


メンタルヘルス・フィンランド
コロナ危機時のこころの健康、
心がけたい16のこと。
(抜粋)(森下圭子訳)

1. 日々の規則正しい習慣を守ろう。
2. 新しい習慣が作れないか、考えたり計画してみる。
3. 外に出よう。野外で散歩したり、運動する。
4. ひとり取り残されないよう。誰か信頼できる人と話をする。
5. 子どもたちと話をしよう、子どもたちの話を聞こう。
6. 様々な方法で気持ちを落ち着けよう(運動、音楽を聴く、手芸など、自分にあったものは何か。時には何もしないことも良いこと。自分に対して肯定的であること、優しくあることも忘れずに)
7. 自分の中の苦しさや不確かな感じを受け入れる。
8. 自分にとって何が精神状態を崩しかねないのか(今のような状況は、積極的なくらいで自分を守る必要があります)、あらかじめ考えておく。
9. アルコールなど依存しがちなものを控えよう。これで気を紛らわそうとしても、結局のところ、不安を増長させることになります。
10. 信用できる情報源をチェックする(フィンランド保健福祉研究所THLや自分の自治体のサイトなど。リアルタイムの情報、予防するための方法、日常の具体的な指示があるもの)。
11. 情報に溺れないよう距離をとり、特にSNSの使用は自分で分量を決める。
12. 政府や自治体の指示に従って行動しよう。
13. 手は清潔に。
14. 感染した人たち、濃厚接触した人たちに対しての配慮(誰にでも起こりうることです。感染や濃厚接触した人たちが罪悪感を抱かなくて済むように)。
15. 自分に余力があれば、他の人たちの助けになろう。
16. 心配事をひとりで抱え込まない。


伊藤
コロナに限ったことではないと思える、
大事なことが書かれていますね。
森下
はい。
今まであんまり精神疾患とか、
心の苦しさを体験したことのない人も、
そうなる可能性があるということで、
国や諸メディアがすぐに発信したんです。
伊藤
へぇー!
森下
冬の鬱もそうですけれど、
みんな、そういう構えはありますね。
で、そのせいもあるのか、
フィンランドは、外出はOKなんです。
お店は全部閉まっちゃってるんですけど、
外に出て適度な散歩をすることや、
運動は推奨されてるんです。
伊藤
なるほど。
森下
だから、みんな森へ行ったり、
海辺のきれいなところを歩きましょう、って。
伊藤
人と人との距離は?
森下
もうみんな、2メートルぐらい
離れるのは得意だから(笑)。
伊藤
そうか、もともと人が少ないし、
1人でいるのが好きな感じですもんね。
森下
そうなんですよ。
もともとバス停でも、
1メートルぐらいずつ空けて
立ってるような人たちなので(笑)、
あんまり違和感を感じない。
伊藤
ほんとうに国民性というか、その国らしさがありますね。

▲「これがバスを待つようす。これは行動制限が始まってすぐの頃。笑っちゃったのが、前と景色が変わらない!以前からこうなんです。もともとフィンランドの人たちって1mは空けておきたい国民性で。」(森下さん)

森下
フィンランドのお国柄だと思ったのが、
いきなり、森に人がいっぱいいて(笑)!
伊藤
へぇー。
森下
フィンランドの人たちって規則正しいというか、
やっちゃダメだって言われたら
やらない人たちなんです。
フィンランドの人は
国のこともフィンランド人のことも
すごく信頼してるんです。
伊藤
素敵ですね。
森下
それがベースにあるの。
ところが、おかしかったのは、
行動制限が始まった最初の週末に、
森が大混雑してしまったんです。
散歩はむしろ推奨されてるし、じゃあと。
みんなこぞって森に行ってしまい、
行くとソーセージを焼きたくなるんですよ。
伊藤
ええっ(笑)!
森下
知らない人同士、ギュウギュウ詰めになって、
ソーセージを焼いていたらしくて、
次の日、報道で、
「ソーセージをみんなで焼くのはやめてください」。
伊藤
おかしいー(笑)。
森下
「せっかく人と離れるために森に行ってるのに、
くっつかれると困るので、
お弁当を自分で持っていき、
自分の好きな場所を見つけて、
そこで食べてください」って。
伊藤
確かソーセージの焼き場みたいなのがあるんですよね。
森下
あるんですよ、そう。
そこに集まっちゃうの!
伊藤
まさかの「森で大混雑」。

▲森のソーセージ焼き場(焚き火場)。「写真は昔のものですが、こちらが行動制限が始まってすぐの週末に人でごった返し、焚き火のところに人がぎゅうぎゅうだった場所です」(森下さん)

森下
いまは落ち着いて、
人と距離を置いて散策できるようになりました。
森があるといいなって思ったのは、
小っちゃい子どもたちが
叫びながら走ったりできる。
余ってる力を全部振り絞って
走り回れる場所があるって、
すごくいいことだと思うんです。
伊藤
そうか。フランスのような、
昼間は外でスポーツをしちゃいけません。
みたいなことはないんですね。
森下
それはまったくないですね。
ただし、外を歩いてもいいけれど、
人には会わないようにしてください、
と言われているので、友達には会えない。
やっぱり小っちゃな子どもが友達に会えないのって
すごく寂しいじゃないですか。
学校もないし。
そこでも、国民性だと思ったのが、
道路から見える窓辺に、
みんなでクマのぬいぐるみを置こう、
っていうのが流行ったんです。
子どもたちがクマ探し、できるように。
伊藤
えぇー! かわいい!
森下
フィンランドの人たちって
恥ずかしがり屋さんが多いし、
大勢でワーッとやることはないんだけれど、
こんなふうにさりげなく窓辺に置いて、
子どもが友達に会えない代わりに、
人んちのクマを探して歩くんです。
伊藤
森下さんも窓辺にクマを?
森下
はい、置いてます。
伊藤
かわいい!
森下
いろんな人がいてね、
門のところに古いボロボロのクマを
紐で縛り付けてる人もいるって(笑)。
伊藤
恐い!(笑) でも面白いですね。
誰かが言い出したことなんですか。
森下
SNSで突然出てきたんですよ。
伊藤
楽しいですね。すぐできることだし。
森下
意外とクマのぬいぐるみって
みんな持ってるんですよね。
持っていない人のなかには、
このために手作りした人もいるそうです。
伊藤
うちもやろう‥‥と思ったけれど、
外から見えない~。
森下
これってお国柄だなぁって。
とってもフィンランドらしいです。

「ありがとう」、 パン・ド・カンパーニュ、 オンライン飲み会。

未分類

伊藤
パリの市長さんとか、
フランスの大統領は、
みんなからどう思われてるんですか。
鈴木
こんな未曾有の事態になって、
大統領の声明発表のテレビの視聴率が
70パーセントくらいだったんですよ。
そのくらい、みんな注目している。
フランスの大統領って、38歳でなった人で、
言葉の節々にエリートっぽいところが出て、
庶民から反感を買ったりすることもあったんですけど、
その大統領が「1人ひとりが責任を持って
外出を最小限に抑えれば、
経済打撃や精神的な不安を
可能な限り早く解決することができる」
というビジョンをちから強く語る。
それが人を希望に導いていますよね。
しかも「大丈夫というのは、これこれこうで、
こういう数値で、国はこうやって補償して、
経済打撃もこうで、ああで」と論理的に説明した上で、
「これを乗り切りましょう、みんなで」って言う。
本当に不安だけど、
大統領の言葉に、希望の一縷を見ます。
伊藤
安心しますよね。
不安ですもん、こっち。
補償とか、どうなってるんですか、休んでるお店。
鈴木
観光産業、それから飲食、
打撃を受けている所に関しては、
ロックダウン中の、最低8割かな、
補償されるようです。
(*註:対談が行われた4/15時点での内容です。)
伊藤
おぉー!
鈴木
一番初め、「これから国を閉鎖します」っていう
発表のときにそれを言ってました。
最初は2週間のつもりだったからかもしれないけど。
でも、みんなね、プライオリティは、
生活を、人の命を守ることだとわかっている。
だから、異議を唱える人はいません。
伊藤
そうですよね。バシッと言ってくれたんだ。
食材は? マルシェとかやってるんですか。
鈴木
マルシェは閉鎖されました。
どこか田舎の地方で少しずつ
再開はされてるみたいですけど、
全体的にはまだ9割以上はマルシェはなくて。
ただ、フランスは「食」に対する意識が高くて、
地産地消の食材を買えるお店が
私の家の近所、歩いて5分くらいの所にも
何軒かあるんです。だから食材は豊かです。
さすが農業国ですよ。
オーガニックの野菜とか、ヴァン・ナチュールとか、
青果店ではパリ近郊のお花屋さんから届いた、
出荷できなくなったお花を売っていたりとか。

▲週に一度まとめて野菜を買いに行くグロッサリー。パリ近郊の小さな生産者さんが作るビオの野菜や乳製品、自然派ワイン、お花などを扱っています。お店の中は最高でも3人までしか入店できず、お店の外には1メートル間隔の印に沿って、お客さんが並ぶそうです。

伊藤
なるほど。
朝、パンを買いに行く習慣は?
鈴木
毎朝出ることはなくなりました。
だからパン・ド・カンパーニュっていう、
大きくて日もちのする田舎パンを買ってきておいて、
それを毎日切って食べてます。
どんどん硬くなっていくんですけど、
ちょっとお水を表面につけて焼けば大丈夫。

▲「お店で頼むとスライスしてくれますが、我が家では食べる時にカットして乾燥を防ぎます。パンの保存は麻のフキンに包んで乾燥予防します」(チャコさん)

伊藤
パン屋さんは、やってはいる?
鈴木
やってます、パン屋さんはやってます。
伊藤
買うときに大変ですか。並んだりする?
鈴木
時間によりますね。
今、みんな、夕方になると出てくるので、
私は夕方を避けるようにしてます。
フランスでは社会的距離は1メートルずつの間隔、
て言われていて、ちょっと短いなと思うんですけど、
みんな等間隔で並んでパンを待っています。
野菜もそうで、午前中に行くと空いています。
伊藤
パリって、マルシェとかでも、
お店の人と買い物客が
けっこう会話をするじゃないですか。
それはどうなっているのかなぁ。
ぜったいに挨拶をするでしょう?
鈴木
そうですね。今は、お店に入れる人数を、
小っちゃなお店だと1人だけとかにしてますから、
口数は少ないかもしれないけれど
コミュニケーションはあります。
ただ、欲しいものを外から言って、
お店の人がそれを出したり、
そんなふうになっているし、
後ろに人が並んでいたら、
長々とおしゃべりすることもはばかられる。
ただ、お店を出るときに、
「今日も私たちのために働いてくれてありがとう」
ということを、
絶対に、みんな、言って帰ります。
伊藤
それを言うのはいいですね!
鈴木
本当にそういうことで気持ちがあたたまる。
気持ちがささくれがちじゃないですか、
放っておいたら。誰のせいでもないけど、
寂しい気持ちになっちゃうところを、
フランスはやっぱり田舎っぽいっていうか、
コミュニケーションがすごく上手だなと思います。
「ありがとう」をちゃんと言う。
伊藤
「ありがとう」。
それはすごく大事、本当に。
ところでオンライン飲み会は、
フランスのお友達と? それとも日本?
鈴木
混ぜこぜ。この間は、インドのジャイプール、
東京、パリの3都市をつなぎましたよ(笑)。
伊藤
すごい! 今の時代ならでは。
鈴木
あとは、ノルマンディーの義理の家族とつなげたり。
伊藤
どんな会話を? 
会ったときと同じような感じ?
鈴木
そうですね、あんまり変わらないかな。
伊藤
それは気分転換になりますね。
鈴木
うん、なる。
今もそうだけれど、
こうして顔を見ながら会話するって、
メールとは違った、
場を共有してる感がありますね。
それって、すごく大事だなと思います。
伊藤
本当に。私も最近、メールかLINEだけで
友達とのやりとりをしていたから、
「そうだ、電話しよう!」と。
電話って、最近、全然してなかったなぁ。
鈴木
たしかに。
伊藤
年頃のときは、父親に、
「いつまでしゃべってるんだ!」って
怒られたりしてたのに(笑)。
だから今は電話が新鮮。
鈴木
伊藤さんはお母様とは?
伊藤
母親の家は車で30分の所なんだけど、
「来ないでいいから」って。
姪も心配してたけど、
「あなたたちが来ると、買い物が増えるから、
来ないでいいわよ。1人なら食べるものもあるし」
って(笑)、結構あっさりしてます。
鈴木
お母さん、そっか(笑)。
伊藤
旦那様は? 
スムーズにリモートワークに移行できたんですか。
鈴木
3月末が決算期だったので、
2月、3月と、例年、仕事が大変なんですね。
それでちょうどロックダウンの直前くらいから
進めていたことがあったから、
家にこもるようになっても
ビデオミーティングが長かったし、
しょっちゅうやってました。
今はちょうどイースターのバカンスでお休みですけど、
先週くらいまでずっとそんな感じでしたよ。
伊藤
バカンスはバカンスなんですね。
日本もゴールデンウィークですけれど。
鈴木
うん、バカンスはバカンス(笑)。
伊藤さんは家にいて気をつけていることはある?
伊藤
自分が汚くならないようにしてます(笑)。
鈴木
そう思う、たしかに! 
わたしもそう。

▲「3月17日の外出制限令から2週間ほどは片付けに明け暮れていたので、ジーンズばかりでした。でも、3週目に仲良しの女ともだちとのビデオ会話がきっかけで、ちょこっと着替えて、リップをつけてみたら、気分が上がりました。人生初のロックダウンという経験は知らず知らずのうちに後ろ向きな気持ちになっていたのかもしれません。以来、朝起きたら、まずヨガをして、それから何も予定がなくても、好きな服を着るようになりました。どうしても楽だからワンピースが多くなってしまうので、最近はデニム以外のきちんとしたパンツを履いてみたり。背筋が伸びるようで気持ちがいいです」(チャコさん)

鈴木
でも伊藤さんのところは、
娘さんがチェックしてくれるでしょう?
どうなさってますか。
伊藤
私は、宅配便の人が来ても大丈夫なくらいは
身なりを整えています。
娘の方は、この前、友だちとZOOMで
おしゃべりしている時があって、
その時はいそいそメイクしてましたが、
ふだんはスウェット上下。
「着替えれば?」って言っても、
いいの、このままでって。
このままが幸せなんだって。
ほっとけばずっと寝てるし!
鈴木
若いときって、そうだったかも。
ずっと寝ていられる(笑)。
伊藤
そうだ、パリは高齢のかた、多いですよね。
おじいちゃん、おばあちゃんたち。
どうなさっているんだろう。
鈴木
ボランティアの方が地域ごとにいて、
足が不自由だったり、
高齢で1人暮らしの方の
お買い物を代行したりしていますね。
アパートの隣人の方も声をかけるようにして、
必要なものを買って
ドアの外に掛けておいてあげるとか、
助け合っています。
伊藤
みんな、極力出ないように?
鈴木
はい。このラテンの呑気な人たちが、
本当に真面目に守ってます。
伊藤
今回いろんな方と話をして思ったのは、
やっぱり自分の中でどう消化できるかですよね。
外出できないのが窮屈と思わず、
家にいることを、
どれだけ楽しいほうに持っていくか。
それが分かれ道だなあって。
鈴木
そうですね、そう思います。
ちょっとしたことでも楽しめる自分でいないと、
本当に、こう、持って行かれちゃうじゃないですか。
伊藤
外にばっかり娯楽とかを求めると、辛いですよね。
だからかたづけも楽しい! とかね。
さっき、チャコさんが言っていたように、
昔買った写真集に感激するみたいなこと、
それが大事なんだなって思いました。
鈴木
美しい世界に触れてないと、
人は生きていけないんだなって、
本当に思っちゃいました。
誰かにとっては、わからないことでもいいんですよね。
たとえば小豆を煮る、
その小っちゃなお豆を見て、
きれいだなと思う人もいるでしょうし。
伊藤
豆を煮るの、面倒くさいなって思わずにね。
鈴木
そういうことですよね。
伊藤
私ね、このあいだ、
おいしいチョコレートが食べたくて仕方なくて。
パリはショコラティエやパティスリーは
開いてるんですか。ケーキ屋さん。
鈴木
パン屋は開いてるんだけど、
ケーキ屋さんは開いてないです。
伊藤
そうか。じゃあ、おいしいチョコとかお菓子は
食べられないんだ、みんな。
鈴木
うん。だからオーガニックスーパーとかに売ってる、
カカオ70パーセントとか、
そういうチョコレートを買ってきたり。
あと、おやつは、
自分でババロアを作ったり、
パンケーキを焼いたり、
それこそ小豆を煮たりしてますよ。
伊藤
そうだ、そうだ、
作ることを楽しめばいいんだ!
鈴木
うん。夫はパンも焼いてますよ。
伊藤
すごい! 気が晴れました。
チャコさん、ありがとうございました。
なんだか安心しました。
リーダーが「大丈夫」って言ってくれるのと一緒で、
周りにいる人が安定していると、
自分もすごく安心するんですね。
鈴木
うんうん、それ、絶対、あると思う。
楽しかった!
本当に会いたいよー(笑)。
伊藤
ねぇ、会いましょう、会いましょう。
それまでお元気でいてくださいね。


「ロックダウンの影響で空気が澄み、
朝から晩まで綺麗な鳥の声が聞こえてきます」(チャコさん)

SF小説のような町、 赤い口紅、 なつかしい写真集。

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東京は夕方5時、パリは朝10時。
ふたつの町をむすんで
伊藤まさこさんがオンラインで話したのは、
滞仏歴29年の鈴木ひろこさんです。
伊藤さんとは長いおつきあいで、
あだなは「チャコさん」。
右岸のアパルトマンで夫とふたり暮らし、
チャコさんはいま、
どんなふうに過ごしているんでしょう?


鈴木
わぁ、伊藤さん!
伊藤
チャコさん! こんにちは。
おはようございます、かな? 
元気そうでよかったです。
「weeksdays」では水着のコラム
書いてくださって、ありがとうございました。
鈴木
お世話になりました。
伊藤
パリの取材をした時に、
コーディネートしていただいたのが
お仕事をご一緒した最初なんですけれど
いまでもパリに行くときや、
チャコさんが日本にいらしたときなど、
仲良くしてくださって。
どうですか、今、パリでの暮らし。
鈴木
ロックダウンが5週間目に入りました。
(*註:対談は4/15に行われました。)
先週、フランス大統領が国民に向けて
「ロックダウンは5月の10日まで伸びましたよ」
というメッセージを送ったところです。
もし5月10日で首尾よく鎮静化するなら、
ちょうど今が折り返し地点ということですね。
伊藤
日本のテレビのニュースで、
ノートルダム寺院の火災から1年経ったけれど、
あたりには人が全然いないという
レポートをしてました。
鈴木
そうなんですよね。セレモニーも一切できない。
人っこ1人いない。
本当にSF小説の中にいるみたいですよ。

▲チャコさんの住んでいる建物を出ると大通り。でも、まったく車も人もいません。

▲家から5~6分のレピュブリック広場。

伊藤
ランニングすらも規制されているんですよね。
鈴木
今は、朝の10時から夕方の7時まで、
スポーツを目的にした外出は
しちゃいけないんです。
お買い物とかはできるんですけど、
お天気がよくなってきたから、
みんな浮かれて、外に出ちゃうのね。
それでジョギングする方でいっぱいになって、
そういう規制が出ました。
イースターのバカンスということもあって、
みんなが外に出て運動したくなっちゃう。
その気持ちはわかるんですけど、
せっかく今まで何週間か頑張って
乗り越えてきたのに、って。

▲家から3~4分のサンマルタン運河。セーヌ河に続いているので、普段は船の往来があるのですが、今は船が通らないので、開閉式の橋も閉じたままです。

伊藤
パリ以外のところははどんな感じなんですか。
たとえばチャコさんのご主人のご実家とか‥‥。
鈴木
彼の実家はノルマンディーですが、
フランス国中が同じルールなんですよ。
パリに限らず。
伊藤
なるほど。
3月の初めでしたね、チャコさんに
「大丈夫ですか」ってLINEしたのは。
鈴木
そう、ありがとう。すごくうれしかった。
まだね、ロックダウンしてから1週間とか、
結構早めの時期でした。
ああいうの、本当にうれしいです。
伊藤
そのとき「電気も通ってるし、水も出るし、
被災した方のことを思えば大丈夫よ!」と
チャコさんがおっしゃっていたのが印象的で。
「これを機会に、家族との絆を深めます」って。
鈴木
うんうんうん。
伊藤
あのときはまだ呑気だったんです、こっちも。
緊急事態宣言も出ていなかったし。
鈴木
私たちも一番初めは
「2週間」って言われていたんですよ。
それでその間はとにかく、徹底的にお家を
きれいにかたづけていたんです。
本とかすごく溜まっちゃっていたのを整理して、
家の中1か所1か所、場所を決めて、
今日はここ、明日はここって、
もうがむしゃらに、本当に家のかたづけ。
あとは気晴らしに運動がてらウォーキングに行ったり、
免疫アップのためと称して、
いろいろな酵素シロップを作ってみたり。
ふだんお料理はしてるんですけど、
いつもと違うアプローチで
家事をやって過ごしていました。
伊藤
2週間って言われたら、
なんていうんだろう、
ちょっと長い家の時間だって思えますよね。
だけど、ねぇ。
鈴木
そう。それが伸びて、4月15日までと言われ、
先週、5月の10日までとまた伸びて。
そうすると、気持ち的にもだんだん変わってきて。
伊藤
うんうん。
鈴木
お家をかたすこと、つまりいい環境で暮らすこと、
それからおいしいものを食べること、
それはもちろん欠かせないことなんだけれど、
自分の気分を上げることがもっと必要だなって。
たとえばずっと作業着や
運動着みたいな恰好だったから(笑)、
「嫌だわ、もうちょっと、家にいても、
自分の気持ちが上がるような服装をしよう!」と。
そりゃどこかにお出かけすることもできないし、
どこで誰に見せるわけじゃなくても、
朝起きたらまず、気持ちのいい
サラッとしたワンピースに着替えてみるとかね。
外には1日1回、1時間しか出られないし、
それも出るときはお買い物だけで、
毎日行くわけじゃなく、
1週間に1回、夫か私かどちらかが行く感じですし、
出るときはマスクだし、
だから、自分のためにちゃんとしようと。
伊藤
そうですよね!。
鈴木
赤い口紅も、全然つけてないんですよ(笑)。
伊藤
そうか(笑)! 
チャコさんのトレードマークなのに~。
鈴木
それをね、先日、オンライン飲み会で
ひさしぶりにおしゃれして、口紅をつけて。
そうしたらずいぶん気分が上がりました。
感動して、
ヘアメイクアップアーティストの草場妙子さんに
「ビューティーの力ってすごいです!」って、
LINEを送っちゃったくらい。
きれいな色を、女性がちょっと使うということ、
真っ赤じゃなくても、ちょっとだけ光るとか、
すごく大事なんだなって。

▲以前は赤い口紅をつけないと落ち着かないほど、チャコさんのトレードマークだった赤い口紅。ロックダウンに入って10日ほどはノーメイクで過ごしていたけれど、ZOOMでの女友達とのビデオ会話がきっかけで、家でも時々口紅をつけるように。イニシャル入りはパリ発の口紅専門ブランド、ラ ブーシュルージュ。左奥はシャネル。右はTHREE。

鈴木
今は手をとにかく洗うし、
アルコールで消毒するから‥‥。
伊藤
カッサカサ!
鈴木
爪もボロボロだしで、そんななか、
すこしでもきれいにしようと努力することで、
どれだけ気分が上がるか、って。
伊藤
そうですよね。
私、最近、靴を履いてないなぁと思って。
鈴木
わかる、家にいるから、靴履いてない(笑)。
伊藤
しかも季節はもうすぐサンダル。
そうだ、かかとの手入れ、しなくちゃね、とか。
それこそ草場妙子さんに、
以前、「weeksdays」で
フットケアや爪のケア、
ペディキュアの塗り方や落とし方を
教えていただいた
んですよ。
鈴木
メイクアップであったり、ファッションだったり、
なくても生きてはいけるんだけど、
その余裕っていうか、気持ちの潤いっていうものが
どれだけ大事かってことを
今すごくしみじみ感じているところです。
伊藤
自分の仕事は、人が生きていくうえで、
絶対に必要な職業、とはされていない。
でも、こういうことって
絶対必要なんだよ! って思う。
鈴木
うん、絶対、絶対に、そう思います。
パリに住んでいるから、
パリの新しいことをご紹介することが
今まで多かったんです。
ファッションのトレンドもそうですよね。
けど、これが終わった後に、
世界の人たちがどんな新しい景色を見るのかなと、
ずっと、今、思っていて。
私がパリにいて、日本の方に何ができるだろうと、
本当に考えていて。
伊藤
チャコさん、フランスに行って何年でしたっけ。
私が初めてお会いしたのが、もう15年くらい前。
鈴木
いやぁ、すごく‥‥、えぇとね(笑)、
29年‥‥ですね。
伊藤
えっ? すごい。
じゃあ、もう全然、
パリ生活のほうが長いんですね。
鈴木
うん(笑)。
伊藤
そうなんだ。
仕事への影響って、どんな感じだったんですか。
鈴木
3月に「パリコレ」と呼ばれる
パリのファッションウィークがあったんですね。
その頃、イタリアがすごいことになっていると
ニュースになっていたのだけれど、
まだ、隣の国の話で。
パリには、日本から
バイヤーさんとかエディターさんとかいらしてて、
なんとなく、どうなるんだろうと思いながらも、
ファッションウィークは開催されたんですよ。
撮影も普通にしていた。
けれども、いまは何もないですね。
雑誌『フィガロジャポン』のウェブサイト、
「madameFIGARO.jp」で連載している
「パリジェンヌファイル」以外は、延期か中止。
だから「半無職」みたいな感じですよ。
伊藤
ご主人はどんなふうに?
鈴木
彼もリモートワークですね。
かれこれ4週間、ずっと一緒です。
伊藤
仲良く?
鈴木
昼間は別々の部屋で仕事をしているんだけれど、
ランチを一緒に食べるのが今までと違うところかな。
ランチって、1人なら
「あるものでなんでもいいや」となるけど、
2人だと「どうする?」「じゃあ、作る?」って。
伊藤
うんうん。
鈴木
でもそのうち、もうお互い大人だし、
ゆるーく適当にってルールもできてきて、楽です。
ディナーはもともと一緒に食べていたんだけれど、
週に1回は、2人でアペロ大会をしてます。
シャンパン開けて、おいしいおつまみを並べて、
「これを乗り切ろう!」って。
伊藤
それいいですね!

▲平日は一人で軽く飲むというチャコさん。週末は二人でcovid-19に負けないためと称して、アペロをしているそうです。最近はZOOMで友達と一緒のことも。このときは、シャンパン、ビオワインをチーズやラディッシュ&バターで。

伊藤
パリの人のようすはどうですか。
ニュースで、夜、バルコニーを開けて、って。
鈴木
そう! 毎日夜の8時になると、
バルコニーや窓を大きく開けて、
医療関係者やスーパーで働いている人、
デリバリーの方などに、
みんなで感謝の拍手をするの。
そのとき、今まで知らなかったこと、
隣の建物の住人がどんな顔してるのかとか、
前に見える正面の部屋の方がどんな方だとか、
そういうことがわかったりして、
だんだん、自分はひとりじゃないっていう
絆が深まってきているように思います。
伊藤
ワインをどうぞ、って
窓ごしにボトルを渡している光景を見ました。
鈴木
あり得ると思います(笑)。
伊藤
その、8時にっていうのは、
どんな地域の人でも?
鈴木
そうです、やってますね。
イタリア発祥って聞いてます。
それが南フランスから入ってきて、
パリまで来て、今、イギリスでも。
伊藤
そうか。本当、大変ですもんね。
鈴木
「長いトンネルがまだまだ」って、
よく言われたりするんだけれど、
それでは不安になってしまう人もいると思うんです。
私も閉所恐怖症だし‥‥。
けれども、そう思わず、
その都度その都度、1週間ずつとか、
自分の中で節目を決めて頑張っていこう、
ささやかだけど、毎日を乗りきっていこう、
っていうふうに考えることにしてます。
あまりに長い戦いで、こんなこと初めてだから。
伊藤
そうですよね。見えないし、敵が。
自分でどう工夫するか、大事ですよね。
鈴木
思えば、私、すごくよかったのは、
本の整理をしたことで、
「あ、こんな昔の写真集、最近見てなかった!」
みたいなのが見つかったりとか、
CDも「そう、こういう曲聴いてたんだ、若い時」とか、
そういうのを思い出したこと。
「こんな世界観が好きだったんだな」って。
すごくいいですよ。
こうして家にいて自分と向き合っていると、
自分の中の引き出しを、
順番に開けていく感じがします。

▲(右)奥に隠れていたジョージア・オキーフの写真集。大好きで渡仏の時にスーツケースに入れて持ってきたほどだったのに、本棚奥で存在を忘れてしまっていたのだそう。「乾いた空気感、シンプルなアトリエ、年齢を重ねても凛とした存在感。今改めて眺めていると、本当に大切なことは何かに気付かさせてくれます」(チャコさん)(左)緑の表紙の写真集は、アメリカ人女性写真家、Terri WeifenbachのDes Oiseaux(鳥)。「彼女のワシントンDCの小さな庭に来る小鳥と花のフォトストーリーで、眺めるだけでとても気持ちが癒されます」(チャコさん)

伊藤
フランスの人たちの間でも、
これを機にかたづけ、ってあるんですか。
鈴木
実はね、フランス人って、
もともと、すっごい整理整頓好きなんですよ。
伊藤
えっ? そうなんだ。
鈴木
意外でしょう? すごいの。
仕事で、パリジェンヌやパリマダムの取材に
お宅に伺ったりすると、
すっごいきちんとしてる、みんな。
ハウスキーパーさんにお願いしてる人もいるけれど、
自分でできることは自分でやります。
クローゼットの中とか、パントリーの中とか、
すっごくきれいです。
伊藤
それは、取材したくなるような人の家だから、
に限らず(笑)?
鈴木
限らず。みんなきちんとしているの。
じつはちょっと前に引っ越しを考えて、
不動産屋さんの紹介で、
まだ住んでいるけれど退去予定というお宅を
見にいく機会があったんですね。
そうすると、結構な割合で、
整理整頓が行き届いていて。
皆さん、マニアックなくらい、好きですね。
それに、アイロンも好きですよ。
伊藤
そうなんだ!
鈴木
シーツなんて本当にホテルみたいにぱりっとかけるし。
フランスのひとって、なんだかだらしなさそうな
イメージをもたれるんだけれど、
じつは、すごくきれいにしてる。
伊藤
それは意外!
鈴木
意外ですよね(笑)。
伊藤
じゃ、フランスのお友達は、
いまどんなふうに?
鈴木
パリに残ってる友達は、わりとみんな、
楽観的にこの状況を乗り越えてるっていう感じです。
悲壮感の漂う友達は、いないかな。

恋しいお風呂、 やっぱりお菓子、 自由なペンギン。

未分類

伊藤
メルボルンでずっとお家にいて、
ストレスを感じることはある?
田中
うーん、
みんなシンプルな暮らしをしているんですね。
私は慣れてはきたとはいえ、まだ短いので、
今回のことがあるなしにかかわらず、
日常の楽しみのチョイスの少なさを、
そもそも、すこしストレスに
感じているのかもしれません。
きっと長く住んでいれば、
大丈夫だと思うんですけれど。
みんな、スポーツをしたり、
DIYでなにか手作りしたり、
そういうことをしています。
伊藤
DIY、盛んな感じがする。
田中
近所にDIYの道具がなんでも揃う、
日本のホームセンターの
もっと工事用品寄りといった
巨大なお店があるんですね。
バーベキュー道具なんて充実度がすさまじいから、
見ているだけでも楽しいんだけれど、
そこが外出自粛になってからも、
通常と変わらず、
買い物客で賑わっているんですよ。
みんな自宅で仕事だし、
空いた時間にDIYをするんじゃないかな。
この土地らしいなって思います。
伊藤
みんな自分でなんでも。
田中
家を改築したり、あらゆる工事を
自分でする人が多いので、
なんでもパーツが買えるんです。
そういうことが好きな人には
オーストラリアは最高ですよね。
友人宅も、庭の大きな木を切ったりと、
大掛かりな手入れをしてましたよ。
私たちは残念ながら得意ではないけれど。
伊藤
じゃあ、家の中でしかできない
楽しみみたいなことは‥‥。
田中
私、日本の生活だとずっとお菓子を作ってて、
ほんとに座ることもなかったくらい
体を動かしてたんだなって思うんです。
こっちに来て、ゆっくりお茶を飲むとか、
そういうことができるようになって。
伊藤
お菓子をずっと作っていたっていうのは、
お仕事も含め?
田中
仕事だけ、ですよー。
プライベートでお菓子作る余裕、
なかったです(笑)。
伊藤
そっか。そんなに作ってたんだ。

▲田中さんが作られたお菓子。ザッハトルテ。

田中
だから今、やっと「生活」が考えられる。
日本を出る前は、この生活が想像できなくて、
「お菓子を作らないで何するの? 毎日!」
って思っていたんだけれど、
今こうして改めて家のことを考えていることが
たのしみかもしれないです。
料理も、日本からたくさんの料理書を持ってきたし、
毎日それなりに、いろんな本で楽しんでるかも。
そうだ、「くつろぎ方」っていう意味だと、
日本はゆっくり浸かれるお風呂があるのが
うらやましいなぁ。
伊藤
あー。お風呂!
田中
お風呂って、すごく身近な
日本の健康法だったんだと思う。
浅いバスタブじゃなくて、
あの日本のお風呂(笑)。
肩まで浸かって、っていう。
伊藤
お風呂が恋しい、か。
旦那さんは? 中国の方ってお風呂は。
田中
シャワーですよ。
バスタブがあっても、
日本みたいに「お風呂入る」感じでは
ないと思います。
地方によって違うのかもしれないけれど、
上海の人はシャワーですね、
親戚のうちもそうでした。
中国人のお友達と話していても、
「日本はいいよね、お風呂がいいよ」って。
だからみんな健康で長寿なんじゃない? 
って言ってました。
せめて、家では、足湯をして楽しんでいます。
伊藤
ゆっくりする以外で、
もうこの際だから
今しかできないことをしようと思ったら何を?
田中
この際、乗馬に挑戦したいけど、
いろいろ考えると怖かったりもして(笑)、
なかなか踏み出せないです。
伊藤
そっか。コロナ云々の前に、
メルボルンに移り住んだ時点で
暮らしがすごく変わったっていうことだもんね。
田中
すごく変わりました。
たとえばルームシューズ、
部屋の香り、音楽。
すごく大事だなって。
生活がシンプルだし、
人間関係もまだ多くはないから、
そういうことを感じるんでしょうね。
伊藤
香りね。
田中
日本ではいつもお菓子を焼いていたから、
部屋で香りを焚いている時がなかったけれど、
今はまったくお菓子焼かない日もあるので、
生活に香りが与える影響を
すごく敏感に感じるようになりました。
それで、将来どうしようって考えても考えても、
結局行き着くのはお菓子作りなんですよ。
そこに戻っていくんです。
ほかにやりたいことを考えるよりも、
私はまたお菓子を思いっきり作って
生きていきたいなっていうところに戻りますね。
今、世界中の人が
自分の内に気持ちを向けていると思うし、
大切なものって何かなって
考えてると思うんです。
自分からどうしていくか? 
それを価値に変えていけるか? 
っていうのが前向きで大事だなって。
私にとってやっぱりそれはお菓子だな。
伊藤
そうだよね。
プライベートの時間ができて、
今、お菓子はどんなものを作っているの?
田中
こっちの材料でガッカリしないもの(笑)。
来たばっかりのときは、
何作っても、もう、ガッカリで!
伊藤
へえ~。最初に聞いたように、粉がね‥‥。
伊藤
家で仕事をすることについて、
周りの人たちはどんな感じですか。
田中
オーストラリアはそもそも
フレキシブルに働いてる人が多い印象で。
家族の誕生日だから休みます、とか。
伊藤
そうなんだ。
日本は上司や会社が言うから
休めないってあるでしょ。
そこにはお国柄の違いがあるのね。
それでもどうにかなる! 
みたいな感じなのかな。
レストランはやっていないんでしょう?
田中
開いているのはテイクアウェイ
(テイクアウト)だけですね。
高級レストランでも始めてます。
伊藤
利用してる?
田中
外でできあいのものを買うことは、今、ないですね。
というのも今の家から
わざわざ行くのはちょっと遠いんです。
都心に住んでたら利用してみたいけれど。
伊藤
へー。じゃ、100パーセント家で作ってる。
田中
そうです。だから、ちょっとくたびれてるのかも。
伊藤
自分の味ってだんだん飽きてくるもの。
私も家にいることは大丈夫でも、
だんだん味には飽きるなあと思ってる。
田中
そうそう! 飽きますよね。
伊藤
この前、娘に「今日、何食べる?」と訊いたら、
「ママ、それ訊くの、今日4回目だよ」って(笑)。
もうそのことで頭がいっぱいになっちゃって。
田中
わかります。そもそも私、
お味噌汁を作るより、スポンジケーキを焼くほうが
ずっと簡単だって言ってきたくらいですもん。
伊藤
そうそう、料理家の細川亜依さんに
ふだん何を食べてるの? と訊かれて‥‥。
田中
「キャロットラペ」って即答(笑)。
料理らしい料理をしてなかったんです。
それに、こちらにいると、
料理の勝手が違うでしょう、
食材の扱いに苦戦してます。
たとえばメルボルンで買う野菜はかなり丈夫で、
日本のようなやわらかさやジューシーさが
あんまりないんですね。
日本だったらサッサッサッて塩揉みして、
かつお節とお醤油をかけて食べるような野菜が
いっぱいあると思うんですけど、
こっちは、煮込んだりしないといけなかったり。
中華系の葉っぱは買えますけどね。
日本の乾物の良さも、改めて実感して。
昆布とか切り干し大根とか‥‥。
あと、お肉も薄切りを売っていなかったり。
伊藤
しょうが焼きが作れない。
田中
そうそう、作れないです。
お肉は基本、かたまりか、
すごーく薄いか、ミンチです。
それでも、いいところはあって、
いろんな国のものが買えるんですよ。
中華料理、インド料理、
タイ料理やベトナム料理は、
すごく作りやすいですよ。
伊藤
お米は?
田中
こちらでは、いろんな種類のお米が買えるけど、
やっぱり日本のお米っておいしいな、
すごいなって思います。
それでも日本から大切に持ってきたおひつの力で、
味もランクアップする気がして、大活躍してます。
伊藤
お酒はどう? 
ワインも有名だし、地ビールも多いでしょう。
田中
そういえば、近所に大きな
アルコール専門の大きなお店があるんですが、
ビールは1人2ケースまで、
スピリッツは2本までなど、
お酒を買う量に制限がかかっていて! 
みんな本当にすごく飲むのだなあって(笑)。
メルボルン近辺はワイナリーもたくさんあるし、
お酒は無くならないと思うんだけれど。
伊藤
そうだよね。食材はたっぷりある、
それは救いですよね。
田中
そう、すごくバラエティが豊かだし。
ベジタリアンやヴィーガンの人も多いんですよ。
お隣さんがイギリス人なんですけれど、
「ケーキでも焼いて持っていこうかな」と思ったら、
「うち、ベジタリアンです」って。
ホームパーティーでも、人が集まれば
必ずベジタリアンの方がいるから、
それを常にみんなが意識して
メニューを考えている感じです。

▲お菓子を焼いたら食べきれないの分はよくご近所さんへおすそわけするそう。今は電話で連絡したあとにポストへ。

伊藤
今、もちろんホームパーティーは
できないでしょうけれど。
田中
見つかったら警察に取り締まられます。
伊藤
そういう感じなのね。
田中
誕生日パーティーもダメだよって。
それでも、ビーチとかで
遊んじゃう人もいるから、
どんどん厳しくなってますよ。
数日家を出ていなかったので、
昨日の夕方、夕焼けがきれいだと思って、
ちょっとビーチの方に行ったら、
結構人がいたんですよ。
伊藤
やっぱりいるんだね。
田中
ビーチはクローズって書いてあるんですけど、
少し空気を吸いにっていう感じでね。
やっぱり散歩はしたいですよね。
伊藤
じゃ、行動の範囲は自分たちに任せる、
みたいな感じなのかな。
田中
そうですね。その優しさはあるかも。
伊藤
美しい場所でビーチもあるなら、
行きたくなる気持ち、すごくわかる。
ビーチのほかに、閉まっているところはある?
田中
山のハイキングコースとか、
人気があるスポットは結構前から閉まってます。
フィリップ島という
ペンギンが有名なスポットがあるんですけど、
普段は人間が観光でペンギンを見に行くんです。
でも今、誰も来ないじゃないですか。
そうしたらお店やオフィスの方に
すごい数のペンギンが来ちゃったって!
伊藤
えーっ。野生の? 
かわいい!

▲都心から一時間くらい車を走らせたところにある公園にて。

田中
かわいいですよ。
フィリップ島の野生のペンギンって、
ちっちゃくて。
野生動物は多くて、近郊でも
カンガルーやワラビーはそこかしこにいます。
残念ながらコアラには会えないですけれど。
このコロナ騒ぎで、
動物がすごく幸せに生きてるかもしれません。
伊藤
普段は人間が中心のこの世界でね。
そういえばマスクはどうですか。
田中
アジア系の人はわりとしているけれど、
そうじゃないと、していない人も多いかな。
それでも最近はしている人が増えましたけれど。
伊藤
「マスクをしましょう」とはなっていないの?
田中
マスクのことについては、あんまり。
とにかく手を洗いましょう、
人とは離れて接しましょうっていうことかな。
伊藤
そっか。
メルボルンではいつまで
おうちにいなさいって言われている?
田中
それ、私たちもよくわかってなくて。
伊藤
えっ?
田中
一応、6カ月間みましょうって
最初から言ってるんですよ。
だから、9月ぐらいまで。
伊藤
ええっ? えええっ?
田中
政府の外出自粛などは
何日までということは言われていなくて、
4週間ごとに更新する形なんですね。
でも9月までの6ヶ月間って感じで
打ち出されています。
今日は「メニーウィークス」って
首相がテレビで言っていました。
おおらかでしょう?
伊藤
ほんと!
田中
でもその首相も、最初、
まだ患者数が250人未満ぐらいのときは、
僕は今週フッティーの観戦に行くなんて
テレビで言っていたりしたんですよ。
フッティーって、オーストラリアだけの
国民的スポーツ。
ほんとはそういう、たくさん人が集まる場所は
危険じゃない? でも、首相本人が
そのくらいの意識だったんです。
伊藤
のどかだったんだ。
田中
そう。フッティーがないなんて、
オーストラリアじゃないとか言って。
ところがみるみる患者数が増えちゃったので、
もちろん今はやってないですけど。
伊藤
でもその後、ちゃんと家にみんながこもったら、
感染者数は減ってきたわけだものね。
それを目標に私たちも頑張る。
田中さん、どうもありがとうございました。
行ったことのないメルボルンだけれど、
なんだか近しい場所に思えてきた! 
久しぶりに話せてよかったです。
また連絡します。
田中
はーい、ありがとうございます。
伊藤さんも気をつけてすごしてください。
伊藤
ありがとう!

ピュアなハート、 リラックスしている人びと。 ゆたかな自然。

未分類


ながくフランスで学び、
現在はオーストラリアのメルボルンに住む
パティスリークリエイターの田中博子さん。
南半球ですから、季節は秋のはじまり。
気候がよく緑の多い
メルボルンの暮らしぶりをお聞きしました。
経度がちかいので、時差は日本プラス1時間です。


伊藤
結婚を機にメルボルンに行かれたんですよね、
田中さん。
田中
そうですよ。
そうじゃないと住む場所として
選ばなかったかもしれません(笑)。
伊藤
長くフランスにいらっしゃったものね。
どんな感じですか? 今。
田中
1カ月以上家にいますね~。
伊藤
完璧にロックダウンして1カ月以上?
田中
完璧にロックダウンしてからは
3週間ぐらいかな(*)。
(*註:対談は4/14に行われました。)
伊藤
外出はどのくらい制限されているの?
田中
エクササイズと、食料を買い出しに行くこと、
病院、仕事、この4つはいいことになってます。
でもビーチとかでくつろいでたりすると、
警察が取り締まるようになってます。
伊藤
そっちの気候は今‥‥。
田中
日本の秋ぐらい。
伊藤
オーストラリアの生活の話を聞きたいな。
そもそも、どんなところなんだろう。
田中
大陸が日本の20個ぶんととにかく広いので、
越して1年ちょっとになりますが、
まだメルボルンのあたりしか知らないんですよ。
伊藤
材料も日本で手にはいるものとは全然違うから、
あれこれ試行錯誤しながらお菓子作りしている様子を
インスタで眺めていました。
田中
そうなんです。
イタリアのものは結構入ってるんですけど、
フランスのものはとても少なくて。
バターは買えますし、
卵も違わないんですけど、
例えばヴァローナのチョコとか、
私が使っていた材料が
手に入れにくかったりします。
でもなにより違うのは粉かな。
移住してその違いに気づかされて。
だから今は研究がてら、
粉料理やパンを作ってます。

▲最近パンづくりにはまっているとか。前の晩の残り物のポークソーセージとトマトと煮込みに野菜と卵を加えて朝昼ご飯。

伊藤
粉がそんなに違うんだ!
田中
こんなに違うとは思わなかったな。
伊藤
それはずっと粉に触れてきた人だから
気づくことなんじゃない? 
私だったらあんまり気づかなさそう。
田中
お菓子を作ってきて、
正直、粉のよさに、
私もそこまで執着してなかったんですよ。
パン屋さんでもないのでね。
だけど、例えば中国のギョウザとか、
ほんとに粉と水だけで作るじゃないですか。
旦那は中国人なので、
中国料理をよく食べるから、
ウー・ウェンさんの本を見て、
中国系の粉料理をいっぱい作ってます。
オーストラリアの材料でもおいしく作れるものを、
少しずつ増やしてる感じです。
伊藤
なるほど!

▲皮をつくるのがたのしくて頻繁につくるという水餃子。

田中
だから、いっそ楽しんで、
研究って感じになってます。
パウンドケーキの本とか出させていただいて、
自分でレシピを組み立てたのに、
役に立たないんです。
日本で作っていたのと、全然同じ味にならない。
伊藤
面白いね。全然違うんだね。
一般的な食材はふつうに入手できるの?
田中
食材は大手スーパー2社が牛耳ってるんですけど、
いいものは土日に野外で開かれる
ファーマーズマーケットに行ったり。
小学校の校庭を使ったりしているんですよ。
そこで、いい生産者の方を
自分の足で歩いて見つける感じですね。
伊藤
それは今はべつに閉ざされてるわけではなく?
田中
食品を売る市場は屋内でも開いているようです。
ラッキーなことに、私の近所では
野外で開かれているタイプのマーケットなので、
そこで短時間で買いものするように心がけています。

▲野外のマーケットにて。

伊藤
ご主人のお仕事を訊いてもいいですか?
田中
うん。同時通訳です。
上海の人なので、中国語と英語の。
伊藤
じゃ、今はおうちで二人で。
田中
そうですね、フリーランスなので。
今は病院で通訳をすることとかが多いかな。
伊藤
それはどういう‥‥?
田中
いろんな国の人が住んでいるから、
英語がしゃべれなくても生活できちゃうんですね。
でも病院は困るでしょう? 
だから通訳が簡単につけられる仕組みがあるんです。
伊藤
なるほど!
田中
中国語だけではなく日本語はもちろん、
160カ国の言語に対応可能。
伊藤
通訳という仕事が特別なものではなく、
日常的に必要とされているんだ。
田中
そうですね、裁判なんかでも必要だし。
伊藤
人びとはどんな感じで過ごしていますか。
田中
オーストラリアの人ってそもそも、
すごくリラックスしているんです。
伊藤
すごくリラックス!
田中
旅行に来ていただくとわかるんですが、
店員さんもすごくニコニコしてるし、
基本すごくフレンドリーです。
高いビルが少ないし、
すぐそばにきれいな海があって、
普段から自然で癒されてるのかな。
うちの旦那は、オーストラリアには
すごくピュアなハートの人が多いんだよって言います。

▲ワイナリーエリアから眺めるビーチの景色。

伊藤
じゃ、そんなにイライラしたりしない?
田中
「この国どうなってるんだ!」
という感じは、しないですよ。
伊藤
そうなんだ。
ふだんなら観光客は多いのかな。
田中
日本人は、メルボルン、
そんなに選ばないんじゃないかな。
伊藤
あれっ、武井さん行ってなかった?
──
(編集・武井)はい、3年前の年末に。
田中
そうですか。お好きでしたか?
──
とてもよかったです。
緑も多くて、海も近いし、町もきれいで、
食材も豊かだと感じました。
コーヒーもおいしかったです。
「ロングブラック」とか
「フラットホワイト」とか、
呼び方から違うんですよね。
田中
独自のコーヒー文化があるんですよね。
伊藤
いいな。
田中さんがメルボルンツアーを企画しているから、
行きたいなってずっと思っているんです。
ヒロコプレゼンツのメルボルン。
田中
詳しくなっておきます。
伊藤
以前は、アルザスのツアーもやっていましたね。
田中
はい、2011年から旅行会社さんと
ずっと一緒にやってきた、
アルザスのジャムの妖精と言われる
クリスティーヌさんを訪ねるツアーですね。
小さい村回りと、料理とお菓子を習う、
みたいな感じで8年続けてきたんですが、
今年は私がビザの関係で外に出られないので、
じゃあ、メルボルンバージョンに
挑戦してみようっていうことで、
2月、コロナの影響が出るギリギリのときに、
無事に1回目を終えたんです。
伊藤
絶対おいしいものが食べられると思ってます。
田中
住んじゃうと目線が変わるので、
お客様を案内する中での発見も多くって、
ツアーは私にも良い機会になっています。

▲田中さんが作られたお菓子。自家製ピールのパウンドケーキ。

伊藤
今、お仕事はどうしてるの?
田中
今はツアーの仕事くらいで‥‥
フランスツアーも再開を予定しています。
ファーマーズマーケットに小さいお店を出すとか、
なにかやってはみたいな、とは思ってるんですけど。
それと、Zoomを使って、去年から
ビデオレッスンをやってみています。
伊藤
そうなんだ。
メルボルンの人たちは
その4つの理由以外では外出はせずに?
田中
みんなほんとに自粛してますね。
ほとんどの人が家で働いている。
伊藤
先日ちょっとお話ししたときに、
今の日本の状況を、
1か月前のメルボルンのようだと
おっしゃっていたけれど、
日本は、駅によっては人が大勢いたり、
通勤せざるを得ないという人も多くて。
田中
日本の友達に「会社行ってるの?」って訊いたら、
「行ってますよー」って。
伊藤
そうなの。日本は感じ方の開きがあるっていうか。
みんな、出ようと思えば出られちゃうから。
田中
ここでは、例えば隣の人はイギリス人だし、
同じ建物にはインドの人、中国の人、
みんなお国が違うんですね。
1年に何回も本国と往き来する人もいるし、
精神的にも往き来して生活をしてると思うんです。
それゆえに人の出入りが多いし、
普通の生活をしてても、たとえばスーパーでも、
いろんな国の人がいる。
そういうベースのなかで、
どこでこの病気をもらってくるかわからないわけで、
そういう意識は高いように思います。
上海の、旦那の家族や親戚も、
最初からすごく気をつけてました。
みんな旧正月も外に出ないで。
伊藤
そっか、そっか。
じゃ、普段は彼と一緒にご飯を作って、
家からあんまり出ず。
田中
そうですね。散歩ぐらいはしますよ。
伊藤
メルボルンに行ったことがないから、
街の様子が想像できなくて。
田中
都心だけに高いビルがある感じです。
でもちょっと離れちゃうと、平屋ばかりで、
高い建物は全然ないです。
ガーデンシティって呼ばれているらしく、
都心にもきれいな大きい公園がいっぱいあるんです。

▲メルボルンはガーデンシティと呼ばれていて、街の中に素晴らしい公園がいくつもあるのだとか。

伊藤
今お住まいなのは都心?
田中
40分ぐらい離れてる感じですね。
伊藤
車がないと、みたいな。
田中
そう、不便ですね。
電車も一応あるんですけど。

▲メルボルンのシンボルのようなフリンダース駅。

レモンティ、 シェイクスピアのオンライン、 ボリス・ジョンソンの手紙。

未分類

伊藤
ロンドンでは今、
コロナの検査を任意で受けられますか? 
ちょっと心配だから、というときに。
イセキ
いや、そんなに簡単ではないです。
それに、イギリスはコロナ云々の前から、
相当ひどい症状でなければ病院には来ないでください、
っていう国だから。
伊藤
風邪くらいで病院に行くと、
「ははーん?」みたいに言われるのかしら‥‥。
「お茶でも飲んでてください」みたいな。
イセキ
私は実際にそう言われた経験があります。 
昔、気管支炎で夜中も咳が止まらず、
何日も眠れなかったとき、辛くて
「GP」(General Practitioner=ジェネラル・
プラクティショナー=総合医)っていう
地域のかかりつけ医のところへ行ったら、
「紅茶にレモンを入れて飲むといいですよ」って
言われてびっくりしました。
薬ももらえずじまい。
伊藤
たしかに、風邪で病院行くのって日本人ぐらいだと、
海外在住の友達は言いますね。
それに、たとえばニューヨークだったら
医療費も高いだろうけど、
イギリスも?
イセキ
イギリスでも、私立病院の医療費は高いですよ。
でも、国営のNHS(公的保険医療制度による病院)
だったら基本的には無料。
でも、だからこそ国は病院に行く人の数を
最低限に抑えようとしています。
イギリスでは、引っ越しをしたら、
まずその地域のGPクリニックに
登録をしに行くんです。
体調が悪くなったら、登録したGPに最初に相談する。
そうするとアドバイスがもらえたり、
場合によっては薬の処方箋をだしてくれたり、
大きい病院を紹介してくれたりします。
イギリスでは、人々が緊急の症状以外で
いきなりNHSへ行く、ということはないですね。
伊藤
それで「レモンティを飲んでください」なんですね。
イセキ
本当にもう限界、という気持ちで
GPへ行ったので卒倒しそうになりましたね。
でも、私はNHSの医療技術は
日本と比べて劣っているとは思いません。
ロンドンのNHSで出産したときも、
無料なのに設備も対応も素晴らしかったです。
ただ、NHSで診てもらえるまでに、
普段はとにかく時間がかかるということ。
新型コロナウィルスの疑いがあっても、
まずはGPあるいは専門の相談窓口に電話して、
危険な状態でなければ自宅で
療養することを奨められるでしょうね。
伊藤
なるほど、そんな風なんですね。
このごろ、朝起きると、
これって夢じゃないかな? って
毎日思うんです。
嘘だよねぇ‥‥みたいな。
イセキ
そうですよね。
伊藤
先生たち、今は
学校には全然行っていらっしゃらないのかな。
イセキ
先生は家で授業の準備をされているみたいです。
伊藤
オンラインの授業っていうのはどんな感じですか。
イセキ
学校によってやり方が違うけれど、
息子の学校はMicrosoft Teamsを使った授業です。
月曜から土曜まで時間割があって、
授業時間になると画面越しの
インタラクティブレッスンというのが始まります。
先生の声は聞こえるけれど、顔を映したりはせず、
先生のデスクトップを生徒にシェアして
講義をしていく感じ。
生徒側はマイクをミュートに設定していて、
質問をしたいときは、マイクをオンにするか、
チャット機能を使います。
伊藤
そういう風に進むんですね。
それが半年も続くかもしれないなんて‥‥。
うちは娘は21歳だし、
彼女なりに1人で時間を過ごしているけれど、
ちっちゃかったら結構きつかったなぁと思います。
イセキ
だいぶ慣れてはきましたが、
やっぱりきついと思う時はありますね。
それに、4人が四六時中家の中にいると、
埃ってすぐたまるんだ、と知りました(笑)。
部屋が荒れたままだと何だか心も荒れる気がして、
掃除をなるべくこまめにしています。
伊藤
朝ご飯が終わって片づけて、
ちょっとすると昼ご飯だ、
みたいになっちゃいますよね。
イセキ
そう。そして家事をしながら
子どもの相手をしていたら、
あっ、仕事のメール返せてない! 
ってはっとして。
でも、うちは夫が家事や育児には
わりと協力的なので、
それで救われている部分はありますね。
午前中に仕事の打ち合わせが終わったら
お昼ご飯を作ってくれたり、
子どもの勉強を見てくれたりとか。
伊藤
よかった。
では、イセキさんの個人的なたのしみは?
イセキ
私個人のたのしみは、やっぱり
綺麗なジュエリーや宝石を見ることですね。
伊藤
美しいものを見ると安らぐ。
そうですよね。
イセキ
先日も、ほぼ日のコンテンツ
『イセキさんのジュエリー雑記帖』で
5月に更新するエッセイを書いていて、
調べものをしている途中で
V&Aの所蔵品の
コレクションを見ていたんですが、
ああ、目の保養だなあ、って。
伊藤
ヴィクトリア&アルバートミュージアム! 
そのサイトに行くと、美しいものが見られるの?
イセキ
大量に見られます! 
コレクションをサーチできるページがあるので。
イギリス王室の美術品を管理している
ロイヤルコレクショントラストの
ウェブサイトもおすすめです。

▲英国王室の宝物を管理しアーカイヴを公開しているRoyal Collection Trustのウェブサイトより。
ヴィクトリア女王がまだプリンセスだった頃のファーストリング。
「子どものためのリングなのでとても可愛らしいデザインですが、花びらにエメラルド、花芯にルビーを使った金製の指輪でさすがに豪華です。(イセキさん)」

▲英国王室の宝物を管理しアーカイヴを公開しているRoyal Collection Trustのウェブサイトより。
ダイヤモンドとパールがまばゆいクラウン。
「使われているダイヤモンドのカラット数を想像しただけでめまいがします。(イセキさん)」

伊藤
そっか。それはいいね。
Netflixとかは観ますか。
イセキ
うちは観ないですね。
伊藤
テレビがないのでしたっけ。
イセキ
夫婦ともにTVスクリーンが部屋にあるのが
あまり好きではないので、持っていないです。
どうしても観たい番組があるときは
プロジェクターで壁映しで観ています。
そうだ! 
ロンドンにグローブ座ってあるでしょう、
シェイクスピアの。
そこがシェイクスピアの演目を6作、
2週間ごとにローテーションで
無料公開するって発表したんです。
それは日本からでも観れるんですよ。YouTubeだから
伊藤
それは素敵!
イセキ
グローブ座のシェイクスピア作品を
世界のどこからでも観れるって、
ものすごく貴重な機会だと思います。
私は、シェイクスピア作品は
古語をあまり聴き取れる自信がなくて
劇場に行くのはちょっと敬遠していたんですが
まず今回『ハムレット』を家族で観てみました。
リビングで、晩ご飯のあと
パソコンとプロジェクターをつなげて。
映像が鮮明で迫力があって、
しかもYouTubeだから英語字幕が出るんです。
伊藤
なるほど!
イセキ
分からない箇所もあったけれど楽しかったし、
こういうことがなかったら、
改めて『ハムレット』をちゃんと鑑賞するなんて、
できなかったなぁと思って。
伊藤
「トムとジェリー」たちも観てましたか? 
夢中になって観てくれた?
イセキ
いえ、夢中にはなっていなかった。(笑)
ジェリーの方はまだ5歳だから、早々に脱落して。
伊藤
そっか、そうですよね。
イセキ
夜の7時ぐらいから観始めたから、10分くらいで
「お母さん、もう寝たい」って言い始めて。
そのときは、息子と夫だけが最後まで観てました。
伊藤
へえー。
イセキ
私は娘を寝かしつけていたので、
翌日の昼間に、改めて1人で観ました。
伊藤
それはいいことを聞きました。
そうだ、日本だとオンラインで歌舞伎をやってますよ。
時間もたっぷりあるから、いいかもしれない。
私、ふだんは家の外にいることが多かったから、
どうなるんだろうと最初思っていたのだけれど、
結構家にいられるものだなぁ、みたいな感じです。
イセキ
慣れてはきますよね。
でも私、昨日はすごく綺麗な青空だったのに、
家にいるというのがどうにもしんどくて、
家族で家の前に停めてる車に飛び乗って、
近くの無人の野原に行って、
日なたぼっこだけして帰って来ました。
いちおう、1日1回、健康を維持するための外出は
イギリス政府も(常識の範囲内であれば)
OKとしているので。
この先、もしロシアみたいに厳しくなってしまったら
どんなに辛いだろう、と思います。

▲イセキさんのInstagram @tinycrown_ltdより

伊藤
出てもいいけれどあえて家にいるのと、
出ちゃいけないで家にいるのと、
きっと全然違ますもんね。
今、私たちは、買物に出られるし。
イセキ
そうだ、ボリス・ジョンソン首相から
手紙が届いたんですよ。数日前。
伊藤
えっ、どういうこと? 
郵便で?
イセキ
郵便なのかな、これ。
こういう封筒でポストに入ってました。
切手も貼られてないし、
宛名も別に印刷されてないけれど、
Prime Ministerから、とあって、
ボリス・ジョンソン首相のサインが入ってて。
ちょうど首相が入院された日の朝に
届いたんですが。
伊藤
そこには、どんなことが書いてあるの?
イセキ
今、医療現場の人たちをはじめ
大勢の人がどれだけ奮闘しているかということ、
国がきちんと国民をサポートするから、
とにかく家にいてください、って。
伊藤
ええっ。泣けますね‥‥。
それが、テレビやネットの映像を通じて一斉に、じゃなくて、
手紙ってところがすばらしい。
イセキ
テレビでも呼びかけているけれど、
お年寄りや貧困層のなかには
携帯電話もパソコンない人もたくさんいるから。
伊藤
なるほど。あまねく、伝えたかったんですね。
イセキ
こうやって、繰り返し国民の隅々にまで
アナウンスをするということが、
イギリス政府は大事だと考えているんでしょうね。
封筒にはこういう冊子も一緒に入っていて。
「STAY AT HOME PROTECT THE NHS」
内容は、家にいないといけない理由、
新型コロナウィルスにかかると
どういう症状が出ると言われているか、
70歳以上の高齢者に対するアドバイス、
ビジネスを運営している人と
働いている人たちへのサポートについて、
あと、感染を拡げないために
どういうふうに自己隔離をしたらいいか。
最後に、手の洗い方、困ったときの連絡先。
伊藤
すごい。
お話、聞けてよかったです。
知らなかったことばかりです。
イセキさんと話せて楽しかった。久しぶりに。
イセキ
私もです。ありがとうございました。
伊藤
ありがとうございました!

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