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おばあちゃんになっても
- 伊藤
- 今後、Satomiさんが使いたいと思われている石は
ありますか?
- Satomi
- オパールで、色がはっきりしていて、
形もユニークなものとか。
一点もののオパールは、それぞれ個性があって、
プチっとしたかわいい石もあれば、
力強い石もあるんです。
- 伊藤
- そうなんですね。
- Satomi
- まさこさんは、今後、欲しいものはありますか?
- 伊藤
- 大きめのオパールの指輪で、
おばあちゃんっぽくないけど、
おばあちゃんになっても
似合いそうなものが欲しいなぁ。
- Satomi
- それ、最近つくりましたよ(笑)!
すごくかっこいい一点もののオパールリング。
お店には置いてないんですけど、
サイトに出てるので、のぞいてみてください。
- 伊藤
- えっ、それは見なくちゃ!
お店といえば、表参道に出店されたお店、
いかがですか?
- Satomi
- 予約制のニューヨークのショールームとは違って、
オープンな路面店って
いつどんな方が来るかわからないから、
そこが、おもしろいです。
この前なんて、高校の同級生がふらっと
来てくれたんですよ。
Facebookで知ったみたいで。
- 伊藤
- それはうれしいですね!
タイミングがよければ、会えますものね。
- Satomi
- 路面店ならではのサプライズですよね。
それと、お店を出してよかったなと思ったのは、
お客さんと会話ができたこと。
ニューヨークでは基本的に
お客さんと直接やり取りをしないので、
なかなか生の声が聞けなかったんです。
私はいいと思ってつくっているものを、
実際お客さんはどう感じているのかわからなかった。
でも、東京のお店で接客してみて、
「これ、めっちゃいいんですよ」ってお伝えすると、
本気で気に入ってくださる方が多かった。
そのことがほんとうに嬉しくて。
- 伊藤
- なるほど。
お見立て受注会でも、それは感じました。
- Satomi
- ちゃんと好きになってくれる方がいると分かったから、
私がいいと思うものづくりを、
自信を持って突き進めていかなあかんなと感じましたね。
- 伊藤
- コロナ禍のとき、
ニューヨークのお店は大変だったと聞きました。
- Satomi
- それはそれは大変でした!
世の中もそうだったと思いますけど、
まさか、ということがたくさん起こって‥‥。
3ヶ月出社出来なかったので
自宅に機材を持ち帰って制作から出荷作業まで
ひとりで行いました。
そしてやっと会社に戻れる状態になったと思ったら
人が戻りたがらない‥‥。
アメリカは当時「失業保険+手当」を
ものすごく出していたので、
会社に戻らずにそれをもらい続ける方がいい
という人たちがアメリカ中にいて、
うちの会社に限らずこの問題は深刻でした。そしてやっといろんなことが落ち着いたと思ったら、
制作スタッフが全員辞めてしまう、という‥‥。
コロナ禍で今後の人生を考え、
それまでやりたいと思っていたことを
このタイミングでやりたい、など
理由はさまざまでしたが
あの時は本当に大変で、
もう会社を畳んで日本に帰ろうかと思いましたね。でも、そもそもひとりでスタートしたことなので、
またあの時に戻ったと思えばいい、
「ピンチはチャンス」と無理矢理自分で自分の背中を押して
なんとか乗り切りました(笑)。
- 伊藤
- 今目の前にある仕事が全てというか、
全力を出してこそ、
次に繋がるというのはありますよね。
「これでいいや」って一度気を抜くと、
もう続かない。
- Satomi
- ええ。
「もう無理!」って思ったときは占いでも見て、
「今はそういう時期なんや」と思って耐える。ふふふ。
- 伊藤
- そうだ、Satomiさんは占いがお好きなんでしたね!
そういえば石も、そういうときに力をもらえる、
という人も多いような。
私はそんなに気にしないタイプなんですけど、
気づかないうちにもらってるのかも?
- Satomi
- 「面接の日にSatomiさんの
ネックレスをつけて行ったら、すごい力が湧いた」
と友達から言われたことがありますよ。
- 伊藤
- おおー! わかる気がします。
Satomiさんのつくるジュエリーだけでなく、
Satomiさん自身からもパワーをもらってるんですよ。
誰がつくっているのかは、すごく大事ですから。
「この人だから」、ね。
- Satomi
- ハイ、私がつくっています(笑)。
- 伊藤
- 力強いです。
Satomiさん、どうもありがとうございました。
- Satomi
- こちらこそ。
また日本でお会いしましょう!
ふたつ目のパールピアス、そしてミステリアスな光
- 伊藤
- 今回のお見立て受注会で、
Satomiさんがお客様に選ばれるものが、
どれもこれも、新鮮でした。
お客様も、「えっ、私に、これを?」って、
ちょっとびっくりしながらも、目を輝かせて。
- Satomi
- たくさんある中から自分に似合うものを選ぶのって、
すごく難しいことだと思うんです。
ですから、こちらが直感的に
「似合わはるやろな」と思うものをつけていただくと、
ご自身では選ばないようなものであっても、
「すごくいい!」って気に入ってくださる。
- 伊藤
- たとえばあこやパールのフープピアスは、
Satomiさんご自身でもつけられますか?
- Satomi
- これはフォーマルなテイストもあるデザインだから、
私なら片方だけつけるかなぁ。
片方だけとか、他のものと混ぜてつけると、
パール特有の“優等生感”がなくなるんです。
- 伊藤
- へぇー! 片方だけを?
確かに両方つけると、
きちんとした印象になるかもしれない。
いいこと聞いちゃいました。
私、いつも同じピアスを両耳に1つずつ
つけていたから、ハッとしました。
もっと自由でいいんだ、って。
- Satomi
- 1粒パールや石が1つだけのピアスって
わりとよくある形だから、
今回は2mmっていう小さいサイズの
あこやパールを連ねたデザインにしました。
- 伊藤
- パールってピアスの入門編というか、
基本みたいな素材だから、
こういう目を惹くデザインはうれしいです。
一番端っこの留め方もかわいい。
- Satomi
- 基本の1粒パールを持っている方にも、
ふたつ目のパールピアスとして使っていただけるかなと。
- 伊藤
- ふたつ目、いいですね!
片耳に1粒パール、
もう片方にこのフープピアスをつけてもいいし、
私はピアスホールが左に3つあるから、
ふたつ並べてつけてもいいな。
- Satomi
- うん、片耳にふたつしてもおもしろいと思いますよ。
私もピアスホールが多いから、
いつもどうやって遊ぼうかなって考えてます。
- 伊藤
- Satomiさんはピアスも指輪も
たくさん身につけていらっしゃるけど、
全体的にまとまって、バランスが取れているのが
素敵だなぁと思って。
- Satomi
- ひとつひとつのデザインが、
そこまで主張が強くないからでしょうね。
重ねづけしてもわりとなじむので、
いろいろ遊んで、楽しんでいただけたらうれしいです。
- 伊藤
- レインボームーンストーンのピアスは、
遠くからでもわかるほど、存在感がありますよね。
いわゆるムーンストーンとは別の石なんでしょうか?
- Satomi
- ええ。同じ鉱物ですが発色が違います。
一般的に知られているムーンストーンは、
もうちょっと乳白色をしていて、
こんなふうに青みがないんです。
私はレインボームーンストーンが放つ、
このなんとも言えないミステリアスな光が好きなんです。
- 伊藤
- ほんとうだ。
ぱっと見た感じは白い石だけど、
角度によって色が違って見えて、
「こういう面もあるんだ」
ということが発見できますね。
- Satomi
- そうなんです。
それからムーンストーンの場合は、
「カボションカット」という面のない球形のカットを
することが一般的なんですけど、
今回のレインボームーンストーンには、
「ローズカット」(三角形を組み合わせた24面)という、
面が大きめのカットを施しています。
それによって氷のような表情も生まれて、
ちょっとクールな味が出せたと思います。
- 伊藤
- すごくよくわかります。
こんな小さな世界の中に、
ほんとうにいろんな工夫をされているんですね。
- Satomi
- 石自体は小さいんですけど、
カットの仕方や、石を留める爪の種類といった
ちょっとしたことで、
見え方や光り方、印象が全然違ってくるんですよ。
再入荷のおしらせ
完売しておりましたアイテムの、再入荷のおしらせです。
12月14日(木)午前11時より、以下の商品について、
「weeksdays」にて追加販売をおこないます。
weeksdays
weeksdaysの日めくりカレンダー2024
weeksdaysチームから、
「日めくりカレンダーが欲しい」という声が出た時、
できるのかしら?(つまり365枚も
写真が撮れるのかということ)と思ったけれど、
撮ってみると、意外なほどにおもしろかったんです。
作る過程で気がついたこと、
それは、日常の中に、
「いい!」と思う瞬間があふれていたこと!
8ヶ月ほど使ってみると、
カレンダーとしてだけでなく、
メモにしたり、
メッセージを書き込んで贈りものに添えたり、
壁に貼ったり‥‥
いろんな使い方ができることも発見。
このカレンダー、なかなかの働き者ですよ。
皆さんの「こんな風に使ってる」コンテンツも必見。
目から鱗の使い方をどうぞ。
(伊藤まさこさん)
LIVRER YOKOHAMA
洗濯用洗剤 シルク&ウール 600ml
洗濯ブラザーズの
「シルク&ウール」を初めて試した時は、
本当にびっくりしました。
エッセイにも書いたように、
私の「洗濯革命」と断言できる、
洗い上がりの美しさ、そしてしなやかさ。
家でこの仕上がりになるなんてとうれしくて、
去年の衣替えの衣類はほぼすべてを
自分で洗濯をしたほどです。
思わず、友人知人に「使ってみて!」
と連絡をしたところ、
みんなが「すごい‥‥」と絶賛。
洗濯って、どことなく
家事の片手間という感じでしたが、
洗濯する時間が楽しい時間へと変化したのは、
なによりの収穫でした。
weeksdaysオリジナルは、
沈丁花とすずらんの2つの香り。
さりげなく、そしてほのかに漂ってくる春の香りは、
洗濯している人へのご褒美。
洗い上がった服は、前より一層愛着が湧く。
服が好き、おしゃれが大好きという方に、
ぜひ使っていただきたいなぁと思います。
(伊藤まさこさん)
Le pivot
リサイクル裏毛起毛ZIPパーカー
「袖を通した瞬間、
思わず『わぁ、軽い!』という言葉が口に出ました。
私にとって10年(いやもしかしたらそれ以上)ぶりの
パーカーです」
3月の発売で、こんな風に書きましたが、
そう思ったのは私だけではなかったみたい。
「パーカー、久しぶりです!」
そんな声をたくさんいただき、
ああ、紹介してよかったな、そう思いました。
欲しくなったのは、軽さだけではありません。
生地の触り心地のよさや、
袖(とくに二の腕部分)がすっきり見えること。
身頃のサイズ感も絶妙で、
これなら着たい!
そう思わせてくれた
大人のパーカーだったのです。
今回はダブルジップになり、
サイズ感も少し変わりました。
くわしくはコンテンツをご覧くださいね。
そうそう、
フードですが、
じつはかぶれません。
デザインの要素のひとつとなっていて、
これがあるのとないのとではシルエットがぜんぜん違う。
この「ちょっとした違い」が、
Le pivotの服の特徴。
パールの似合うパーカーなんて、
他のどこにもないのです。
色は、杢グレーとオートミールの2色。
お好きな色をどうぞ。
(伊藤まさこさん)
エイジレスなホワイトオパール
- 伊藤
- Satomiさん、9月のお見立て受注会では、
ありがとうございました。
いっしょにお店に立ってくださって、
とっても楽しい時間でした。
- Satomi
- こちらこそありがとうございました。
日本のお客様と直接お会いできた、
貴重な機会でした。
- 伊藤
- weeksdaysはふだんはオンラインでの販売ですから、
買ってくださる方のお顔が見られたのは、
とても嬉しい経験でした。
今回は、weeksdays限定のコラボとして
「白」ということをテーマに
3つのジュエリーをつくっていただいたんですよね。
そしてSatomiさんが選んだのは、
ホワイトオパール、
レインボームーンストーン、
そして、あこやパール。
- Satomi
- はい。
この3つの中でも、ホワイトオパールって、
ちょっとめずらしいでしょう?
最近よくジュエリーデザイナーが使うオパールは、
もっと青みが強いものが多くて、
主に若い方たちに好まれているイメージがあります。
そんな中、ホワイトオパールって、
いわゆるトレンドのアイテムではありませんが、
それだけに新鮮に映りますし、幅広い年代の方に
つけていただけるかなと思ったんです。
- 伊藤
- ジュエリー業界には「来年はこの石がくる」
というような、トレンドの予測があるんですか?
- Satomi
- わりとありますよ。
トレンドでも、オパールはここ数年、
すごく人気の石なんです。
私も気にはなっていたんですけど、
あまりキャッチーなものをつくりたくない、
という思いもあって、
「私らしいオパールってどんなものだろう」
って考えながら、ずっと使えずにいました。
それでやっと最近、
私のデザインにも使えると思えたのが
このホワイトオパールでした。
- 伊藤
- なぜ「これなら使える」と思われたんでしょう?
- Satomi
- 私、ダイヤモンドを用いたデザインが一番得意で、
10年くらい色がついた石をほとんど使ってこなかったし、
それほど魅力も感じなかったんです。
それがふと、純粋に、
「色のある石ってきれいだなぁ」と感じて、
レインドロップコレクションという、
色とりどりの石を使ったシリーズをつくりました。
その中にホワイトオパールも入れたんです。
- 伊藤
- その「すとんと落ちた感じ」、
言葉にするのは難しいけれど、わかります。
- Satomi
- 急に訪れますよね。
私の場合、それまでにつくってきた
ベースとなるコレクションがあったから、
色つきの石をスパイスとして加えるという形で
チャレンジできたということもあると思います。
たとえば指輪を重ねづけしていただいても、
地味な色のダイヤモンドの中に
きれいな色の石が1つだけあるようなデザインなら、
私らしくていいかなって。
- 伊藤
- 実際に仕上げてみて、
そして、つけている人を見てどう思いましたか?
- Satomi
- やっぱり石の持つ魅力ってすごいなぁ
と感じましたね。
- 伊藤
- ほんとうに。
オパールって儚げな印象だし、この小ささ。
でも、つけるとちゃんと存在感があるんですもの。
すごく新しい出会いでした。
- Satomi
- 真っ白ではないところがいいですよね。
この大きさでこの色なら、
つける方の年齢も選ばないと思いますよ。
- 伊藤
- なるほど。
若い方はもちろん、
年齢を重ねた方にもつけられるピアスですね。
Satomi Kawakita Jewelry 白い石のピアス
耳からこぼれる
はじめてのピアスは18歳の時。
パールのピアスが、
耳からこぼれ落ちるような感じで‥‥
と、耳の下の方にホールの位置を定め、
開けてもらったのでした。
両耳に、ゴールドのシンプルな
ファーストピアスがちょこん。
小さなものだけれど、
つけているのといないのとでは大違いで、
鏡をのぞいては、
うれしい気持ちになったものでした。
ホールが落ち着いて、
パールのピアスをはじめてつけた時は、
感慨深かったなぁ。
ずっと憧れていた、
「耳からこぼれる」が実現したのですから。
今週のweeksdaysは、
久しぶりにSatomi Kawakitaの
ジュエリーをご紹介します。
テーマは「白」。
Satomiさんがイメージする、白いピアス。
耳にちょこんとつけると、
あのうれしかった時を思い出すのでした。
コンテンツは、
Satomiさんへのインタビューですよ。
どうぞおたのしみに。
日常使いのすすめ
- ──
- 伊藤さんの漆の話も聞かせてください。
「まさこさんが、漆器を好きなの、知ってますよ」
という方も、多いと思うんですが。
- 伊藤
- 「ふつうに家にあるもの」という印象。
ずっと身近な存在でした。
みなさんもそうではないかなと思っているのですが‥‥。
- 田代
- 真室川に漆器をつくる土壌がなかったように、
ふだんから漆器を使う習慣のない地域もありますよね。
- ──
- 使うのはお正月だけとか。
いまは樹脂の汁椀で漆器風のものもありますし、
木製でウレタン塗装で仕上げているものもありますし、
とくに若い人には、漆器はハードルが高いって
思われているかもしれません。
おじいちゃん、おばあちゃんがいない生活だと、
漆器のない家、案外あるんじゃないかと思います。
- 伊藤
- そっか。漆器の使い勝手のよさを、
もっと知ってほしいな。
お味噌汁だけではなく、
たとえばうどんや煮麺などの麺類を食べるときも、
漆器を使うといいんですよ。
うちの娘も、そういうとき、
漆器を選ぶことがほとんど。
- 田代
- 持ったとき、熱くないんですよね。
- 伊藤
- そうなんですよね。
たぶん娘は、そういうことを考えず、
感じがいいから選んでると思うんだけれど。
- 田代
- 味噌汁を作らないから、
お椀はいらないっていう人たちも結構いるんです。
- ──
- カジュアルに、マグカップを
汁物に使う人も多いですし、
インスタントなら、
使い捨てのカップがついてきますからね‥‥。
- 伊藤
- 料理家のウー・ウェンさんが、
中国のお父様に、
漆器を贈ったことがあるんですって。
そしたらすっごく喜ばれたそうですよ。
万が一落としても割れにくいし、
手にも優しいし軽いし。
- 田代
- 中国の漆器の歴史は古いんですが、
いまも使われているかどうかは、
私もよくわからないんです。
- ──
- 日常に使うという意味では、
現代の私たちのほうが
漆器に親和性が高いかもしれませんね。
漆器の日常使いの注意点は‥‥。
- 伊藤
- 電子レンジやオーブンには入れないこと、
あつあつの油など熱すぎるものは入れないこと、
ナイフやフォークを当てないこと、
使った後は食洗機は使わず、漬け置きせず,
やさしく洗ってすぐに水気を拭くこと。
ちょっとおそるおそる、という人は、
漆器を「手」だと思うといいんですって。
- 田代
- そうそう! 漆器の扱いは、手と一緒です。
それね、漆屋さんはみんな言うんです。
その通りです。
研修生の頃にそれを聞いて
「なるほど!」って思いました。
- 伊藤
- 手が嫌なことはしなければいい。
だからフォークで強くさすこともしないし、
洗って濡れたらすぐに拭くんです。
- ──
- 洗うのもやさしく、
金タワシは使わない。
- 田代
- ちなみに、洗ってそのままにしておくと、
水滴の跡がついて取れにくくなるんです。
自分の手を洗ったら
ハンカチで拭くのと同じだと思って、
拭いてあげてください。
- 伊藤
- 直射日光が苦手というのも同じですね。
- 田代
- そう、紫外線を受けると、
ちょっとダメージがあるんです。
- ──
- 伊藤さんは、漆器は、旅に行った先で
いいなと思ったものを買う、という感じですか。
- 伊藤
- そうですね,
骨董屋さんで買う場合もありますし、
作家さんと知り合いということも。
たとえばこれは、金沢の町を歩いてたら、
骨董屋さんにこれともう一個、
すごく大きい菜盆というのもあったんです。
とても惹かれたんですが、
その日はお店が休みだったので、
後日友達に見に行ってもらって、
あらためて、購入しました。
- ──
- 漆器は、ふだん使いをなさるんですか。
- 伊藤
- 使いますよ。たとえば飯椀。
「マイ茶碗」というのは我が家にはなくて、
その日の気分で変えるのですが、
漆のお椀にすることも。
白いごはんも合うし、
炊き込みごはんもいいんです。
- 田代
- そう。漆の器でご飯を食べると
おいしいんですよね。
- 伊藤
- おかずがこれしかないなぁ、
っていうときでも、
漆器に盛ると、ちょっと、
いい感じになるんですよね。
- 田代
- そうそう。ご飯の上に
残りもののおかずをのせても、
全部おさまるというか。
- 伊藤
- 寂しい感じがしない。
- 田代
- そう。私は忙しくて
面倒なときはそうしています。
漆器だから特別なものをのせる、
と考えなくて大丈夫ですよ。
- 伊藤
- そうですね、なんとなく、漆器は特別なもの、
お正月のものっていうイメージがある人も
いらっしゃるかもしれないけれど、
ふだん使いができるんです。
- ──
- ところで、盛岡で
「うるしぬりたしろ」を構えたのが
2010年だということですが、
それから13年、盛岡にいらして、
なにか変化はありましたか。
- 田代
- 金継ぎを始めたことかな。
2010年当時、漆の仕事をしてるんですって、
はじめましての人に言うと、
「じゃあ、金継ぎ、できますか?」って
よく訊かれたんですよ。
- 伊藤
- 金継ぎも、漆を使うから。
- 田代
- そうなんですよ。
でも私は金継ぎはやっていなかった。
ところが大家さんが焼き物がすごく好きな方で、
「これ、直せるかしら」って持って来られて、
がんばって直してみたら、意外と楽しくて。
それでちょっとずつ
知り合いの器を直すようになり、
教えて欲しいと言われるようになり。
- 伊藤
- そして、わたしが今、
田代さんに金継ぎを習っているんです。
教室を始められたのはいつごろだったんですか。
- 田代
- 2011年からです。
うれしい誤算は、
金継ぎってパッと1日じゃできないから、
何回か教室に通ってもらって、
そのときに雑談で漆の話をしたりすると、
陶磁器を直したくて来ているのに、
最終的にみんなが漆に興味を持ってくれることです。
半年間、月に1回会って、漆の話をすると、
最終的に「漆のお椀欲しくなっちゃったから、
どうせだから先生の器買おうかな?」なんて。
だから金継ぎ教室を開いて
すごくよかったなぁと思っています。
じつは漆業界の中で、金継ぎの位置が、
かなり変わって来たんですね。
私の恩師の世代だと
金継ぎをする人は多くなかったです。
みんなお椀を作ることで忙しかった。
大家さんから修理を頼まれたとき、
金継ぎはぼんやりと知ってはいたけど
やったことはなくて、
金継ぎの本を見てみたけど
ボンドを使った簡易金継ぎのことばかりで困りました。
手探りで、漆器の修理の応用で
何とか自分なりの金継ぎが出来るようになり、
今は同業の仲間も出来たので答え合わせをしたり
相談をしたりしています。
簡易金継ぎも気になって一度やってみたら工作っぽかった。
でも私は、それは違うな、
漆のことは漆でやるべきだなって思って、
やってきました。
伊藤さんはどうして金継ぎを習おうと?
- 伊藤
- 大きく割ってしまったものは
プロの手を借りるにしても、
ちょっと欠けたようなものは
自分で直せたらいいなと思ったんです。
でも、わたしも田代さんの教室で雑談をするのが
とても楽しみなんですよ。
- 田代
- ありがとうございます。
- ──
- 金継ぎって、人によって、
ずいぶんセンスが出るものなんですね。
- 田代
- 直す人によって全然違うんですよ。
私は壊れた場所を
膨らませたりはしないで、
欠けたところは欠けたところだけを直す。
たとえば割れた器の継ぎ目も、
すごく太くすることはなく、
最低限の手間で印象が変わらないようにして
直すのが当たり前だと思っていたんですね。
なのに「田代さんがよくて頼みに来ました」
って言ってくださる方がいて、
なんでだろうと思っていたら、
人によってずいぶん違う、
個性が出るんだなとわかったんです。
- 伊藤
- 田代さん、あらためて、ありがとうございました。
金継ぎの腕もみがきます。
このそば椀も、たくさんの人のところに
届くといいなと思います。
- 田代
- ありがとうございました。
地域の食とのつながり
- 伊藤
- 研修所のお仕事と、
ご自身の作品づくりの配分って
どんなふうになさっていたんですか。
- 田代
- 勤務時間内はそこの研修所のための仕事をし、
勤務時間外は自分のものをつくっていました。
だから夕方5時以降は自分の時間ですし、
土日も全部自分の制作の時間にあてられました。
最初の5年くらいは、地元の方との交流もなく、
とにかく家と研修所の往復をずっとしてました。
そしたらあるとき役所の農作物担当の職員の方が
「うるしセンターのねえちゃんって、
すごい食いしんぼうらしいぞ」
っていう情報をどっかから聞いてきたのか。
- 伊藤
- 食いしん坊! 田代さんのことなんですね。
- 田代
- そうなんですよ。それで
「農業関係のイベントがあるから、
漆の絵付け体験のワークショップを
やってくれ」というんです。
それで参加したら、
すぐそばで町のおかあさんたちが、
季節の自慢の料理を並べていた。
そこではじめて、私、
地域の食べ物を食べたんです。
- 伊藤
- 何年目で?
- 田代
- 6年目で。
- 伊藤
- ええーーっ、すごい。
そんなに、漆ひとすじ‥‥。
どうでしたか、地域の食は、
- 田代
- 「え、みんな家でこんなおいしいもの食べてるの?」
ってすごいびっくりして!
- 伊藤
- おいしかったんだ。よかった。
- 田代
- ちょうど秋だったから、おこわとか、
きのこのものとか、お餅もあって。
そのとき農業関係の仕事の人は、
新しいものを作るんじゃなくて、
地元にあるものを再評価しようと、
郷土料理の掘り起こしを始めていたんです。
それで、地元のおかあさんたちが
ふだん家で作っていて、
家族は当たり前過ぎて、
誰も褒めてくれないけれど、
おいしいものを持ちよっていたんですね。
おかあさんたち、研究熱心だから、
「これ、どうやって作ったの?」とか話しながら。
そこに私も行って、試食させてもらって、
「おいしい、おいしい。
またこういうのがあったら呼んでください!」
って、私も、急に、職員の方に声をかけたりして。
今思えばその人は色々今後のことも含めて、
私を誘ったんですよ。
- 伊藤
- 実は。
- 田代
- ゆくゆく、郷土料理の掘り起こしプラス
地元のものをいかすっていうことで
漆器作りとも結びつけたかったんです。
- 伊藤
- いいプロデューサーですね。
- 田代
- そうして私も郷土料理の会に
呼んでもらうようになりました。
そのとき、せっかくだから
漆器に盛ったらどうかなって、
自分のとこの漆器を持っていったんですよ。
もともと山形は漆器がある土地じゃなかったから、
地元の人も使うことがなかったんですよね、
「なんか、やってるなあ」程度で。
だからおかあさんたちも、
最初はおそるおそる盛りつける、
みたいな感じでしたが、
2回目とかになると結構大胆になってきて。
ところが地元の人が料理を盛りつけるサイズ感が、
私が作ってる器と合わなかったんです。
- 伊藤
- ちょっとちっちゃかったってこと?
- 田代
- そうなんです。「たくさん食べてね」
という食文化なんですよ。
山形では「いっぺけぇ」と言うんです。
「いっぺ」っていうのは「いっぱい」、
「けぇ」は「食べなさい」。
「いっぺけぇな」っていって盛りつけてくれる。
そうすると、私が作ってるお椀から、
たけのことかがはみ出してたりして(笑)。
- 伊藤
- その三寸八分だと、小さかったんですね。
- 田代
- 「あ、これ、地元のサイズじゃない」。
私は“漆器の当たり前のサイズ”で
つくっていたんですよね。
それは東京の人の暮らしには合うかもしれないけど、
地元のおいしいご飯を食べるのに、
地元の人に使ってもらいたいなと思うと、
「このサイズじゃない」って。
それで地元の人用にサイズを考えるようになりました。
山形の私が住んでるところだと、
春はたけのこ汁、
初夏は山菜の「みず」を使った
「みず汁」っていうのがあって、
みずをポキポキ折ったものと、
くじらの肉を入れるんです。
- 伊藤
- へえ!
- 田代
- 夏は「だし」。
きゅうりやなす、しょうが、みょうが、大葉など
夏野菜を生のまま刻んで味をつけたものを、
冷ご飯にぶっかけて食べる。
そして秋は「芋煮」。
そういえば山形の真室川で
「ほぼ日」さんとつながるのは
「甚五右ヱ門芋」(じんごえもんいも)ですね。
- 伊藤
- 糸井さんがお好きな!
あれ、おいしいですよね。
真室川のものだったんですね。
- 田代
- そして冬は「納豆汁」。
- 伊藤
- へえ、山形の「納豆汁」ってどんな?
- 田代
- 納豆のポタージュみたいな料理なんですよ。
納豆をすり鉢で一所懸命擂って、
10種類くらい具材が入ってて。
山形は雪が深いから、
冬は何も採れないじゃないですか。
だから、春のうちからいろんなものを
塩蔵しておいたり、干しておくんです。
冬に「納豆汁」を食べるために、
春から準備してるようなものなんですね。
- 伊藤
- すごくおいしそう。
- 田代
- もうすっごいご馳走なんです。
私も、そういうのに合うような、
ちょっとおおぶりのお椀を企画して作ったりとかして。
後半の5年間というのは、
そういう地元のための仕事をしました。
- 伊藤
- それで、11年いて、いよいよ独立を?
- 田代
- はい、独立するんだったら、
体力があるうちにと思って、
決めたのは38歳で、
実際に独立したのは2010年、39歳のときです。
50歳になって山形で働いてる自分が
全然イメージできなくって‥‥。
だったら、ちょっと別の場所で
独立をしようと思って、
幾つか場所を考えていたんですけれど、
その中で盛岡は好きな喫茶店とかもあって、
住んでみたい場所だったから、
一生に一回ぐらい、縁がなくても
自分が住んでみたい場所に住んでみるのも
いいかなと思ったんです。
そして、たまたま住む家が見つかった。
- 伊藤
- 工房をつくったんですか。
- 田代
- そうですね、一軒家を借りて、
家に作業場があるみたいな感じですね。
そして今日(こんにち)にいたる、という感じです。
このそば椀も、しばらくは
真室川の製品だったんだけれども、
元から私が作っていたものだから、
これだけは私が持って行きたいということで、
私のものとしてつくりはじめました。
- 伊藤
- 「うるしぬりたしろ」という屋号は、
盛岡に移ったときに?
- 田代
- はい。独立するときに、
やっぱり屋号があった方がいいよって
周りの人に言われて。
でもかっこいい名前をつけちゃうと、
「それってどういう意味?」
って訊かれるじゃないですか。
自分では馴染みのないような
外国風の名前をつけるのもガラじゃないので、
パッと聞いて、
なんの仕事かわかるものにしようと思ったんです。
あるとき友人であるデザイナーの方と
ご飯を食べながら、相談していて
「うるしぬり」の「たしろ」だから
「うるしぬりたしろ」。
これをデザイナーさんが提案してくれて決めました。
- 伊藤
- なるほど、そういう経緯だったんですね。
このそば椀をつくられたときのこと、
もうすこし教えていただけたら。
研修生の2年目でしたっけ、
- 田代
- そうです、研修所で2年目の夏に、
自分のオリジナルを1個つくってみよう、
という授業がありました。
ちょうど盛岡に手づくり村っていう施設があって、
そこの主催で工芸のコンペがあったんですね。
私の一つ上の先輩たちのときは、
審査員が柳宗理さん、
私の年は喜多俊之さんでした。
それに間に合うように自分で考えた漆器を作って、
もちろん上塗りまでやるっていうのが
研修の中に入っていました。
なぜそば椀をつくったのかというと、
当時、ふだん用に、
お椀は研修所からもらった漆器を使ってて、
でも、おそばを食べるぐらいの器がなかったから、
ちょっと大きめのお椀を作ろうということです。
つまり、私が最初に自分でデザインした器が
これなんですよ。このそば椀で
「伝統技能賞」っていう賞をいただきました。
とても嬉しかったです。
- 伊藤
- それを今でもずっと作られているんですね。
- 田代
- 作っていても、使っていても、
全然飽きないんですよ。
- 伊藤
- ずっと好きなものって、
あんまり入れ替わらないんですよね。
そういえばフリマに出品して、って依頼されても、
出すものがないんだそうですね。
- 田代
- そうなんです。ふだん使いの器も、
最初にバイヤーをやっていた時代に
自分が買ったものを、ずっと使っていて、
手放したいものがないんです。
20代のときのものをまだ使ってるし、
つくってもいる。
- 伊藤
- 今にいたるまで作り飽きないし、
使ってても飽きないって、すごい説得力!
- 田代
- なぜでしょうね‥‥。
とにかく、自分でおそばとかラーメンを
食べるときの器を持ってなかったから、
欲しいものをつくった、という理由なんですよ。
- 伊藤
- この独特なかたちは、どういう発想で?
- 田代
- 昔からの伝統的なお椀が
いっぱい載っている資料が研修所にあって、
そういうのを見て考えました。
ツルッとしてたら普通だから、
段がついたらかっこよくない?
みたいな感じでつくりました。
- 伊藤
- この形、実用的でもあるんです。
手がちょうどここで留まるの。
- 田代
- この形が完成したのには、
木地をひいてもらった職人さんが
すごくセンスのいい方だった、
ということもあります。
私のつたない図面でも
「この人、こういうことじゃないのかな」
っていうのを汲んでくれたんですよ。
- 伊藤
- お父さんのお友達といい、
背中を押してくださった先生といい、
屋号を推してくれたデザイナーさんといい、
田代さんは、いつもいい人に導かれていますね。
- 田代
- ふふふ、わりと流されてきた
だけなんですけどね。
再入荷のおしらせ
完売しておりましたアイテムの、再入荷のおしらせです。
12月7日(木)午前11時より、以下の商品について、
「weeksdays」にて追加販売をおこないます。
weeksdays
タオル さっぱり バスタオル
(グレー/ホワイト)
外国のホテルに行くと、
何度も水を通った、
そして乾燥機でからりと乾いた厚手のタオルが
バスルームに用意されていることが多いのですが、
あのなんともいえない、
ちょっとかための質感が好きです。
「拭いてるぞ。水分吸収してるぞ」というような。
でも、家だと厚手のタオルは、
かさばるし、乾きづらいしと
なかなか使うには手強い存在でもある。
(とくに日本は湿気が多いですしね。)
ホテルのタオルのような使用感を生かしつつ、
でもちょっと薄手にならないものか?
‥‥でできたのがこのタオルです。
さっぱりした使い心地は、
気分までさわやかにしてくれる。
このタオルが洗いあがって、
きれいにたたまれ、
バスルームの棚に並んでいる姿を見ると、
なんだか元気になる。
ちょっとはりきった気持ちにさせてくれます。
(伊藤まさこさん)
売り手からつくり手へ
- 伊藤
- 田代さんとは、かれこれ、
30年のおつきあいになりますね。
- 田代
- そうなんですよ。古い仲です。
- 伊藤
- 田代さんが青山の大きな雑貨店で
正社員として働いていたとき、
わたしが3か月だけ、
アルバイトで入ったのがご縁でした。
22歳だったかな、わたしは学校を卒業して、
これからどうしようかなと
思っていたときでした。
- 田代
- 人の出入りが多いお店でしたが、
まさこさんとは、辞めたあとも、
こうしてずっとお付き合いがあって。
世代が近かったし、
上下関係もなく仲良くしていましたね。
- 伊藤
- わたしは、スタイリストのアシスタントになる
伝手ができたことで、
お店を辞めたんです。
- 田代
- そう、辞めてすぐぐらいに、
撮影用のモノを借りに来ていた。
- 伊藤
- 田代さん、和食器担当のバイヤーでしたね。
- 田代
- そう。入ってすぐの私でも、
仕入れを任せてもらえるような、
おおらかな時代だったんです。
和食器を担当したのも、
割り振られたからなんですよ。
- 伊藤
- でも、すごく詳しかった。
- 田代
- 詳しくならなきゃいけなかったんですよ。
- 伊藤
- 勉強をなさったんですか。
- 田代
- 勉強というか、和食器のことが知りたくて、
休みの日に原宿のZakkaや
六本木のサボアヴィーブルなど、
作家ものを扱うような
有名店に見に行っていました。
- 伊藤
- 田代さんが揃えた棚、ほんとうに素敵でしたよ。
わたしは3か月で辞めてしまったんですが、
田代さんは3年くらい? いらっしゃいましたね。
- 田代
- そうです、3年です。
そのうち、自分が扱っている漆器について
考えるようになって。
「もっといいものを」ということですね。
お店では産地で作っている量産のもので、
手ごろな価格帯のものがメイン。
いくら好きに仕入れていいとはいえ、
価格帯が高めのものは扱うことができなくて。
でも、他のお店には、作家ものを含め、
そういうのもあって、
ちゃんと求めてくださるかたがいるのにって。
- 伊藤
- そんなモヤモヤが?
- 田代
- そうなんです。そしてたまたま
旅行で盛岡に行った時、
器を売る仕事をしているのならば、
ここのお店は行った方がいいよと、
仕入れ先の方に勧められたのが、
光原社っていう盛岡の民芸品店でした。
そこは漆器に力を入れていて、
お椀がたくさんありました。
その塗り物がすごく素敵で‥‥。
無地で、ピカピカもしていないんですよ。
蒔絵とかもない、岩手県北の塗りもの、
浄法寺塗や安比塗りだったんです。
すごくそれがよくて。
こういう本物を売る店で働きたい! と思って、
「求人はありますか」って問い合わせたんです。
- 伊藤
- そうだったんですね。
- 田代
- そうしたら「今、採っていません」。
がっかりしていたら、
そのお店を紹介してくれた知り合いが、
私が見ていいなと思った器は
ある漆の研修所で作られていると教えてくれたんです。
- 伊藤
- その方は、いったい、どなただったんですか。
いろいろ教えてくださった方は。
- 田代
- 父の友人です。
デザイナーで、
地場産業とつながった工芸の仕事を
なさっていたんですよ。
それで、岩手の安代(あしろ)っていう、
安比高原スキー場があるあたりにある
研修所に行ったんです。
そこは昔、荒沢漆器というのがあった地域なんですが、
昭和30年代に産地として一回途絶えてしまった。
それを町おこしみたいなことで、
昭和50年代に復活させたんですね。
その時つくった研修所でした。
当時、私は漆のことを何も知らなかったんですが、
2年通ったらお椀が作れるようになるよと聞いて。
過疎の町だから若者の定住化、
またゆくゆくは小さな漆器産地になることを目指して
全国の誰でも受け付けます、というときでした。
その年の1月の末に研修所を知り、
見に行ったのが2月のあたま、
そうしたら「4月から来たら?」と言われて。
「じゃあ、来たいです!」と、すぐ東京に帰って、
「3月いっぱいで辞めたいんですけど」と、
お店を辞めて、行くことにしたんです。
- 伊藤
- すごい行動力。
ご両親はなんと?
横浜生まれの横浜育ちの子が、
いきなり岩手の漆の研修所に行きますだなんて、
驚かれたんじゃないですか。
- 田代
- 「いいんじゃない」って言ってました。
両親が岩手出身なんですよ。
とはいえ宮古で沿岸地域で、
安代とはずいぶん離れているものだから、
岩手の祖母は「なんで、淳はあんな雪が
いっぱいあるところに行くのか」と
驚いていましたけれど。
- 伊藤
- それで丸2年?
- 田代
- はい、2年でひと通りの工程を習いました。
でもやっぱり2年で自立できるほどは
覚えられなかったんですよ。
ですから、その後3年半ぐらい、
同じ場所で修業をさせてもらいました。
今はわりと人気なんですけど、
その頃はそんなに研修生が次から次へと来なかったので、
研修所にも少し場所の余裕があって、
「急にひとりじゃできないから、
少しいさせてください」ってお願いして。
仕事は、研修所が下請けの作業を
用意してくれたので、
それをやっていましたね。
- 伊藤
- そういう収入もあったんですね。
しかも研修所を自分の工房として使えた?
- 田代
- といっても、塗師の仕事で一番高価な機械である
「研磨ろくろ」は、自分で買うようにと。
研修所にも研磨ろくろはあるけれども、
まず自分で買うのが独立の第一歩だったんです。
それでローンを組んで、研修所の木工場の2階に
私のスペースを確保してもらって、
そこにろくろを置いて、作業をさせてもらいました。
- 伊藤
- それは幸運。
- 田代
- 研磨ろくろは結構音が大きいので、
当時住んでたアパートでは
使えなかったんですよ。
だから間借りしての作業でした。
- 伊藤
- 下請けってことはパーツ的な仕事、
ここの作業をお願いね、
みたいな感じだったんですか。
- 田代
- そもそも、
ベースとなる形は木地屋さんがつくるんです。
だから私は漆を塗るのが仕事でした。
それも仕上げの手前の段階まで、
「中塗り」と呼ばれる工程までを
担当するんです。
その研修所では、さらにそれを先生が上塗りして、
仕上げて、製品として出すんです。
- 伊藤
- 研修所に行く前、田代さんが
「いいな」と思っていた、
まさにその器をつくっていたんですね。
そして3年半がたち、独立を?
- 田代
- そうなんです。
そろそろ、自分でもできるようになってきて、
漆が面白くなってきたところで、
独立を決めました。
どこにいてもできる仕事ではあるので、
東京のほうに引っ越そうかと。
いちど岩手から離れてみるのもいいのかな、
という思いもあったんです。
‥‥という話を先生にしたら、
「お前は怠け者だから、漆で食べていけない分、
アルバイトでカバーするだろう、
そうすると楽な方、楽な方に流れて、
漆じゃなくてバイトで食べていくようになる。
だから漆を続けられる環境に身を置け」
と、強く言われました。
- 伊藤
- 先生も、きっと、
いろんな人を見てきたんでしょうね。
- 田代
- そうかもしれません。
そしてたまたまそのタイミングで、
山形の真室川(まむろがわ)というところに、
私が行っていた安代の研修所を
モデルにしてつくった漆の研修所に
勤めている人が辞めてしまうというので、
役所の人が困っていると相談に来たんですよ。
そうしたら先生が、
「ちょうどいいのがいます」(笑)。
- 伊藤
- すごーい。
真室川って、どんなところなんですか。
- 田代
- 山形のいちばん北の方なんですけれども、
『真室川音頭』ってご存知ですか。
ある程度の年齢の方だと知っている、
民謡なんだけれど、三橋美智也が歌って
流行歌にもなった歌があるんですが、
それで有名なところなんです。
林業が盛んで、
もともと漆器がない土地だったんですけれど、
昭和50年代あたりに漆の木を植えようと
林野庁の呼びかけがあったんですね。
漆の木を植えるなら助成金を出す、って。
それで日本全国いろんな土地で
漆の木が植えられたんですが、
真室川でも、植えたんですって。
というのも杉を植えても
お金になるのは孫の代だけど、
漆の木だったら15年ぐらいで
漆が採れるようになるから、早く儲かる。
それでいっぱい植えたんです。
漆が採れるようになるならば、
漆器を作る場所も町で作ろうというので、
私の研修した八幡平市漆工技術研修センターをモデルとして
「真室川町うるしセンター」ができました。
けれども職人さんがいないから、
私のいた安代から人を派遣していたんですが、
その人が辞めてしまう、と。それで先生は、
「あそこに行くと、月に幾らもらえるらしいぞ」と、
私に勧めたんです。
すごく立派な施設だし、そこで3年働いたら、
貯金が出来るぞという話をされて。
それで「そういうのもいいかな」って、
3年の約束で山形に行き、
研修生に教えながら、
商品を作る仕事を始めたんです。
それで、3年のつもりが、
11年いることになりました。
- 伊藤
- その研修所をベースに11年!
生徒に教えつつ、
ご自分のこともなさりながら?
- 田代
- そうなんですよ。
私が入った時に、
すでに商品はあったんですけれど、
前の人が作ったものじゃなくて、
自分で真室川用のものをと、
企画して作りました。
それを仕事にしていました。
- 伊藤
- どんなものをつくられたんですか。
- 田代
- 四寸のお椀と、
それより一回り小さい三寸八分ぐらいのお椀、
ほかにも菓子皿とか、
そういうのをひと通り作って、
「真室川漆器」という名前で、
山形県内で売ったんです。
その中に、当時私の定番としてつくっていた
このそば椀を、ラインナップに入れました。
これ、安代の研修所の2年生のときに、
私が自分のものとして
いちばん最初につくったものだったんです。
- 伊藤
- その当時から、
このそば椀はあったんですね。
- 田代
- そうなんです。
田代淳さんの漆のお椀
使うたびに
友人の多くは、
子育てでてんやわんやだったり、
遠くに住んでいたり。
最近は親の心配も増えてきたから、
そうしょっちゅうは会えない。
でも、
「会えない」っていうのも、
まんざら悪くないものだと思っています。
久しぶりに会った時間を、
いいものにしようと思い合うから。
「会えない時間が愛を育てるのさ」
じゃないけれどね。
会えない時間がさみしくないのは、
毎日の食事で使う器が、
友人たちの作ったものだから、
というのもあるかもしれない。
使うたびに会っているような、
そんな気分にさせてくれるから。
今週のweeksdaysは、
新しい年にぴったりな田代淳さんの漆の器。
30年間、つかず離れず。
彼女とはそんな中。
今は私の漆継ぎの先生でもあるんですよ。
年をとるのもたのしみです
- 伊藤
- バッグもかわいいですね。
ちびバッグがあります。
- 岡本
- ちびバックは、
バッグインバッグにしたり、
大きさによっては提(さ)げたりします。
- 石澤
- いっぱいお持ちですよね。
- 岡本
- いやいや、石澤さんこそお持ちでしょ(笑)。
- 石澤
- いやいや、私はなんかもう!
- 岡本
- 数というより、
タイプがいろいろあるといいですよね。
- 伊藤
- そう、たしかにいろんなタイプがある。
逆に、このタイプには
手をつけてないなっていうのはありますか?
- 岡本
- う~ん、華奢なものは手をつけないかな。
でも小物って、総合的に全部好きですよ。
- 伊藤
- 若い頃から好きなものが
全然変わってないっていうのも、すごいですね。
- 岡本
- うん。たしかにそれはね、ほんとにそう。
- 伊藤
- お仕事とプライベートで、
外出の服装は替えますか。
- 岡本
- いや、あんまり替えることはないですね。
外出は外出です。
- 伊藤
- ドレスアップしなくちゃ、みたいな時は?
- 岡本
- ドレスアップ‥‥最近、ないなぁ。
でも、ちょっといいホテルで食事、みたいな時は、
スマートカジュアルじゃないけれども、
おかしくない程度のものを着ます。
でも、そんなに、そこまで
きちんとしたドレスアップっていうのは、
ないかもしれないですね。
- 伊藤
- 石澤さんも?
- 石澤
- 冠婚葬祭のものは持っていますけれど、
それ以外は普段、変わらないんです。
- 伊藤
- なるほど。
わたしはご飯を食べに行く時は、
ガラッと服を替えるんです。靴も。
そういう時だけ、ヒールの靴を履いたりします。
- 岡本
- ほんと?! それはすごいなぁ。
- 伊藤
- わたしはそれで自分の中でのメリハリを
つけているのかもしれないですね。
それでは、石澤さんにお持ちいただいたものも、
ぜひ拝見させてください。
- 石澤
- 岡本さんに比べたら、
私のは、バリエーションが少なくて、
なんだか恥ずかしいくらい。
- 岡本
- そんなことないですよ。
- 伊藤
- コサージュがいっぱい。
いまは頭に、スカーフの上からつけていますけれど、
胸につけたり、いろいろと?
- 石澤
- それが、コサージュを胸につけることはないんです。
全部、頭用です。
- 岡本
- 頭用のコサージュ!
- 石澤
- 正面だったり、横だったり、
つける位置は考えますけれど。
最近は、複数つけることもあるんですよ、
たとえば前にお花のコサージュをつけたから、
後ろには蝶々にしよう、とか。
- 岡本
- かわいい~。
ストーリーがあるんですね。
- 伊藤
- ピアスはいかがですか。
- 石澤
- ピアスは、「tamas」(タマス)のものが好きです。
ビンテージのパーツを使って、
イヤリングやピアスにしているブランドです。
コサージュやスカーフと、相性がいいかなと思って。
- 伊藤
- たしかにそうですね。
いろいろな組み合わせで楽しめそう。
ビンテージのものもお好きなんですか。
- 石澤
- そうですね。昔だったら、
ヨーロッパに旅行に行った時に買ったり、
日本でも古着屋さんで見つけたり。
今、こうして並べてみると、
私の好きなモチーフは、
植物のものが多いですね。
- 伊藤
- ほんとうだ。
スカーフを首に巻くことはありますか。
- 石澤
- 首には巻かず、ほぼ全部、頭につけます。
首に巻こうという気持ちが、
なぜか浮かばない。
- 伊藤
- バッグはどういうタイプを持ちますか?
- 石澤
- バッグは最近、好きなのがあって。
こういう、マルシェバッグみたいなタイプです。
- 伊藤
- かわいい!
メイクアップは変えますか、
その日の服装に合わせて。
- 石澤
- そうですね、色を替えることがありますね。
- 岡本
- リップの色を変えたりとか、
カラーものは、少し考えますよね。
私はネイルはやらないんだけれど。
- 石澤
- 私はネイルは自分で。
- 伊藤
- そんなふうに「決まっていること」が
おふたりそれぞれあるんですよね。
たとえば岡本さんはいつも髪を
キュっとおだんごにしている、とか。
- 岡本
- そうなの。これがもうトレードマークで、
25年くらいおんなじ。
- 伊藤
- ええー(笑)! その前は?
- 岡本
- それまでは、毎月髪形が違うというくらい、
いろいろやったんです。
キャロル・キングみたいなカーリー・ボブから。
- 伊藤
- 似合いそう!
- 岡本
- ドレッドにしたら髪が傷んだので、
ベリーショートにするしかないと、
タンタンぐらいにしちゃったり。
- 伊藤
- きっと似合う!
そのいろいろやり尽くしたのが、25年前?
- 岡本
- そう、それで終わってしまった。
それで今は、おだんごです。
そのバランスで、服も選んでいるんです、
もし髪にシャギーを入れて、今風にしたら、
手持ちの服が似合わなくなっちゃう。
あとはもう、プラチナにするしかないかな。
早く真っ白になるのを待っているんですよ。
- 伊藤
- 今、何%ぐらいですか?
- 岡本
- そうだな、50%いってるかいってないか。
なかなかきれいな白髪にはならなくて。
寝て起きたら真っ白になりたいぐらいなんですけど。
- 石澤
- 途中が一番、面倒なのよね。
- 岡本
- そうなの、そうなの。
- 伊藤
- え、石澤さんも白くしたいの?
- 石澤
- どっちでもいいんですよ。
今は染めてますけれど。
- 伊藤
- それも、いいと思う。
- 石澤
- 私のこの数年の変化は、
マスクをするようになって、
カラーマスカラをつけるようになったこと。
それを洋服によって、茶系にしようか、
ピンクにしようか、オレンジとか、
それぐらいかな、替えるのは。
- 伊藤
- 香りはどうですか?
- 岡本
- 香りはね、‥‥大好きです!
無香料だと、もう全然、気分が上がらない。
香料の苦手な人には申し訳ないんだけれども、
私は香りに包まれたい。
- 伊藤
- 「今日はこれ」とかあるんですか。
- 岡本
- 「今日はこれ」っていうこともありますね。
基本、気に入っているものがあるけれど。
- 石澤
- 私も年を重ねるようになって、
香りをつけるようになったんですけど、
仕事の時、香りの苦手な人から
気になると指摘されたことがあって。
- 岡本
- その人、香りが好きじゃないのね。
“香害”じゃないけれど‥‥。
- 伊藤
- 難しいところですね。
もちろんお寿司屋さんに行くときはつけないとか、
そういうことは大事だと思うけれど、
逆に、香りでその人のことを思い出すくらい、
印象深いものでもあるし。
- 石澤
- そう、そういうふうに
“自分の香り”を持ちたいなと思っているんですけれど、
仕事の時はつけず、休みの日に楽しむ感じです。
- 岡本
- お仕事の時につけると、
すごく気持ちが上がるのにね。
- 石澤
- 香りでファッションの最後の一押しをして、
「今日もがんばろう!」みたいなことですよね。
好きなんですけどね。
- 伊藤
- わたしも、香りはたまにつけるんですが、
食事の直前は控えるかな。
- 石澤
- 夜、食事に行く直前は控えますよね。
そういう日は、外出まですこし時間をおいて、
夕方ぐらいに、つけたりします。
食事の時になるとちょっとやわらいで、
迷惑はかけない。
- 伊藤
- その方法もありますね。
おふたりは、朝の支度は時間をかけますか?
‥‥かからなそうだけれど(笑)。
- 岡本
- でも、朝、お風呂に入るから。
結構早く起きて、ウォーキングをするのが日課です。
- 伊藤
- なるほど。
- 石澤
- ウォーキングの時は、
ウォーキング用のスタイル?
- 岡本
- そう、ウォーキング用。
ピタっとしたレギンスにTシャツ、
そしてキャップみたいな感じです。
- 石澤
- 私も最近、ピラティスを始めて。
でもヨガウエアを持っていないから、
ダボッとしたスウェットとカットソーを着て行ったら、
「着替えはあちらです」って言われて。
「え? これでやろうと思ってたんだけど」
みたいな。ふふふ。
- 伊藤
- ピタッとしたものを着てくださいって
言われるんですよね、
先生が、筋肉の動きを見るのにいいんですって。
- 石澤
- そっか、そういうことだったんですね。
でも何度かそのままでいたら、
ようやく諦めてくれたみたい。
- 伊藤
- おもしろいです、おふたりとも。
今日、お話が聞けてよかった!
- 岡本
- ふふふ、こんなに小物を買わずにいたら、
いいところにマンションが買えたのかしら、
っていう感じも、しないでもないけど(笑)。
だいぶ授業料を払いましたよ。
- 石澤
- ふふふ。
- 伊藤
- でも、それでいいんですよね。
すごく楽しかったです、
ありがとうございました。
- 石澤
- ありがとうございました。
- 岡本
- ありがとうございました!
大事なものが増えてゆく
- 伊藤
- 岡本さんが愛している
キラキラしたもののお話を
うかがってもいいですか。
‥‥これはもう、舞踏会ですよー。
- 岡本
- このキラキラを普段使いにするのよ。
こういうものはね、
Tシャツとかカットソーなど
シンプルな服に重ねるといいんです。
私、キラキラものが大好きで。
本物だったら、またうれしいけど、
本物ではないんですよ。
本物のファインジュエリーに対して、
コスチュームジュエリーと呼ばれてるんだけど、
気軽につけられるのがいいの。
ケイト・スペード ニューヨークのブランドの
PR担当をしていた時にセレクトで入れていたもので
ケネス・ジェイ・レーンというアメリカ人デザイナーで
コスチュームジュエリーを代表する
ニューヨークブランドのものなのです。
ジャクリーン・ケネディ・オナシスや
ダイアナ妃などファーストレディーから
オードリー・ヘップバーン、エリザベス・テイラーなど
大女優から愛されていたブランドで
現在も世界中のファッショニスタや
著名人たちが愛用しているようですよ。
- 伊藤
- こちらは?
- 岡本
- こちらは、スワロフスキーで、
ジョバンナ・エンゲルバートっていう
ファッションディレクターがやっている
「Collection Ⅰ」というラインがあって。
- 伊藤
- ちょっとおっきめのリングとかつくっている人かな。
- 岡本
- そうかもしれない。
イヤーカフとかもつくってる。
- 伊藤
- これは欲しいな。メモメモ。これは?
- 岡本
- これは私が大昔のアパレル時代に、
東京コレクションでつくったサンプルです。
これも、ほんとに普通にTシャツとかに。
- 石澤
- そういうほうが映えるっていう感じがしますね。
- 伊藤
- これは付け襟? かわいい!
触ってもいいですか?
- 岡本
- どうぞ、どうぞ。
これも付け襟。
セーラーカラーなんです。
- 伊藤
- こういう小物の収納はどうしていますか。
- 岡本
- もう普通にカゴや箱の中にポンポンポン、って。
- 伊藤
- 石澤さんは?
- 石澤
- 私も同じ。
いつでも出せるように、
スカーフもカゴにボンって入れてます。
- 伊藤
- そっか、じゃあそんなに
小物で場所はとってないっていうことですね。
- 岡本
- そうなんです。だから旅にも持って行ける。
- 伊藤
- 実際に旅にも?
- 岡本
- 持って行きますね。
まさこさんは?
- 伊藤
- わたしはもう旅は、リングひとつ、ピアスひと組、
それもシャワーを浴びても大丈夫なものだけで、
替えは持って行かないんですよ。
ちなみに旅には小物を
どうやって持って行くんですか。
- 岡本
- 巾着とかに入れて。
- 石澤
- コサージュなどつぶしたくないものは、
お菓子の箱に入れるといいですよ。
- 伊藤
- 持って行くものは、
旅先での服と一緒に考える?
- 岡本
- うん、そう。
- 伊藤
- なるほど。こういうタイプを付けるって、
考えたことがなかったなぁ。
気合かな? やっぱり。
「似合え!」みたいな。
- 岡本
- そうよ、付けてみて、この襟。
うん、そうそうそう。
いいですよ、まさこさん。
- 伊藤
- ほんとだ。
柄だと思えばいいんだ!
- 岡本
- そうなの、そうなの。
こういうものって、旅に便利です。
- 伊藤
- たしかに。
これもかわいいですね。
ちょっと民族っぽいアイテムって、
おふたりともお好きですよね。
- 岡本
- そうですね。
- 石澤
- 結構、好きです。
- 岡本
- これはアレキサンダー・ジラード
(ミッドセンチュリーを代表する
テキスタイルデザイナー)のお孫さんである
アレイシャル・ジラード・マクソンっていう
アーティストがつくっていたものなんです。
彼女は今はもう絵しか描いてないんですけれど、
一時期、こういうものを手がけていた。
- 石澤
- それは貴重ですね。
- 岡本
- そうなの。貴重なの。
アーティストの作品っていう感じです。
- 伊藤
- どういうものに合わせるんですか?
- 岡本
- ニットとか、
普通のものに合わせることが多いですよ。
- 伊藤
- 合わせると、普通じゃなくなりそう(笑)!
- 一同
- (笑)
- 岡本
- ちょっと味付けを足す、みたいなこと。
- 伊藤
- お料理みたい。
- 岡本
- そうかもしれないですね。
- 伊藤
- これは? とってもかわいい。
- 岡本
- これね、スヌードなの。
ちょっと寒い時にも、いいですよ。
夕方とか寒くなったら、
パッと、アクセント代わりに、
隙間を埋めるみたいな感じで。
- 伊藤
- こういうアイテムって、
「こういう着方で」が決まっていて、
ちょっとイレギュラーなことを提案すると、
驚かれちゃいますよね。
でも岡本さんの自由さを見ると、
「これでいいんだ!」って。
- 岡本
- 法則なんかないから、
「ご自由にどうぞ」なんですよ。
私、思うのよ、あの制服文化が、
私たちを自由にさせていないんだと。
だから学生時代、制服の時は、
学校指定のシャツを着なかった。
- 石澤
- そういうのはアリだったの?
- 岡本
- アリじゃないんですけど、
そういうのが嫌なのに、
制服は着なきゃいけないから、
どうにかアレンジしようって、
もう毎日頭をいろいろ使って。
- 伊藤
- え? 制服までもアレンジ?
- 岡本
- ボタンダウンシャツや丸襟シャツを着たり、
見かけは不良っぽい子たちと一緒かもしれないんだけれど、
スカートの丈もちょっと長くしてね。
とにかくなにか味付けしないと、
そのまんまのものが嫌だったんです。
- 伊藤
- そうなんだ。
石澤さんは制服でしたか?
- 石澤
- 制服、着てましたよ。
そんなにアレンジはしていませんでしたが、
これを持ちなさいっていうカバンが嫌でした。
エスカレーター式の学校で、
中学と高校ではカバンが違うんですね。
私は中学生なのに
「高校生のが欲しい」と、
先輩からバッグを譲ってもらって使ってました。
- 伊藤
- そう言えば、うちも高校がすごく厳しかったんですが、
学校の行き帰りだけ、スカート丈を短くして、
友だちとおそろいのウィンドブレーカーをつくって、
それを羽織ってました。懐かしいな。
- 岡本
- 私の制服嫌いはその後も影響して、
制服のあるバイトもできなかったんです。
ファストフードのハンバーガーチェーン店なんて、
靴まで制服で決まっているものだから、
アルバイトしようと入ったのに、
とにかく「それを着なさい」って言われるのが嫌で、
「すみません、辞めます」って。
- 伊藤
- うちの娘は、ずっと学校が私服だったから、
制服に憧れるところがありましたよ。
- 石澤
- そうなの、ないものねだりなのよね。
- 岡本
- そうかも。
- 伊藤
- 岡本さんは、スカーフはどんなふうに?
- 岡本
- スカーフもいろいろ活用します。
石澤さんのように、頭に巻くこともありますよ。
- 伊藤
- スカーフを頭に巻くの、
すごく憧れているんですけど、
「よし、今日はこれで出よう」と思っても、
玄関で「やっぱりやめよう」ってなるんです。
- 石澤
- でも帽子は被るでしょ? 帽子感覚よ。
- 伊藤
- 帽子ね、そっか、そっか。
じゃあ、スカーフは
いろいろお持ちなんですね。
- 岡本
- いっぱい持ってます。
- 伊藤
- そうですよね。
少しずつ買っていかれたんですか?
- 岡本
- ギフトです。
なにか機会があるたびに、夫が買ってくれるんです。
もちろん自分が好きっていうのもあるので、
「エルメスでお願いします」みたいに、
一緒に買いに行ったりして。
- 伊藤
- それは羨ましい。
そして、これですよ。メガネ!
- 岡本
- まさこさんはかけますか?
サングラスとか。
- 伊藤
- サングラスは以前は運転の時だけだったんですが、
最近は普通にかけるようになりました。
慣れなんだなと思います。
- 岡本
- そうなんですよ。
- 石澤
- そうか、私、サングラスは
まだなんだか馴染めないんです。
持っているんだけど、そんなにかけない。
なんか頭の先からやりすぎ? みたいに思えて。
- 岡本
- そっか(笑)。
でも、印象が引き締まるんじゃないかな、
サングラスをかけたら。
- 石澤
- そうかもしれないんだけれど、
きりがなくアクセサリーが増える感じがして、
だからほんとにまぶしい時だけですね。
- 伊藤
- ということは、岡本さんのサングラスは、
実用というより、おしゃれなんですね。
ちょっと色が足りないな、みたいな感じですか。
- 岡本
- そう、まさしく「色が足りない」時とか、
真っ白い、ホワイトコーディネートの時に
ポイントとしてかけるとか。
メガネのフレームの形や色も同じ考え方で、
派手な色など、あんまりみなさんが
選ばない色かもしれないけど、
結構いいんですよ。
ちなみにこの丸メガネは、黒いタートルとか、
ほんとにシンプルな時にかけると、
なかなか良いんです。
ノーアクセサリーでも、メガネだけっていう感じで。
- 伊藤
- えっ、ノーアクセサリー?
岡本さんにそんな日もあるんですか。
- 岡本
- もちろん、このへん(バングルやリングなど)は、
カウントしてないけど。
- 伊藤
- そのへんは当たり前? あっても、
もうノーアクセサリーなんですね、ふふふ。
- 石澤
- それは肌の一部?
- 岡本
- そう、これはもう肌。
- 一同
- (笑)
変化することとしないこと
- 岡本
- ある程度、自分のスタイルが決まったというのに、
そんな中で、突然やってくるんですよね、
ブームが。自分の中で。
- 石澤
- そう、ブームがね。
- 伊藤
- え、何のブームがあったんですか?
- 岡本
- 例えば大きい襟のブラウス。
でも大きい襟のものは持っていないから、
付け襟をつけたり。
- 伊藤
- 突然のブームによって、
スタイルが変わるんですね。
- 岡本
- そう、なぜかわからないんだけれど、
突然なの。
- 伊藤
- 世の中の流行とは関係なく?
- 岡本
- 関係なく。
- 石澤
- そうなんですよね。
私も、芸術家としてのフリーダ・カーロは
前から知っていたけれど、
1年すこし前かな、突然、
「スカーフの上から、
フリーダ・カーロのように
お花をつけたい」と思ったんです。
- 岡本
- そう、突然、来るんですよね。
もちろん何かに感化されることもあるんですよ。
たとえばニューメキシコに旅をして、
ジョージア・オキーフの家に行き、
オキーフのワードローブを見た時に、
「これぐらいシンプルなのがいいよね」なんて言って、
帰ってきて突然シンプルになって、
毎日モノトーンで暮らす、
みたいな感じになったこともあるんです。
でもなんかね、モノトーンもちょっと飽きちゃって。
- 石澤
- 物足りなくなっちゃったんでしょ?
- 岡本
- そうそうそう(笑)。
- 伊藤
- そういう、気になる人の存在って、
大きいですよね。
- 岡本
- その前は、キャサリン・ヘプバーンだったんです。
彼女のスタイルは今も私のベースにあるんですよ。
あの方は赤を部分に取り入れるのがお上手なの。
私も、それにインスパイアされました。
キャサリン・ヘップバーンと
ジョージア・オキーフは、
今も私のなかで大きな存在ですね。
- 伊藤
- 石澤さんは、フリーダ・カーロの前に、
気になる方はいらしたんですか。
- 石澤
- イーディス・ブーヴィエ・ビールという、
ジャクリーン・ケネディ・オナシスの従姉で、
上流階級出身の破天荒な女性がいるんです。
彼女の装いが、まあとにかくなんていうんでしょうね、
たとえばストッキングを頭に被って巻き付けたり。
それがすごくすてきな感じなんです。
そのまんまマネすることはないんですが、
影響を受けたと思います。
- 伊藤
- すごい。頭にストッキングって、
ちょっとポカンとしちゃいました。
- 石澤
- ははは。
- 伊藤
- わたしがあんまりそういうふうにならないのは、
職業がスタイリストだからかもしれません。
- 岡本
- それはあるかも。
- 石澤
- 見過ぎてきたんじゃないかな。
- 岡本
- うん。ある。
- 伊藤
- わたし、服は専門じゃないんですが、
お洋服のスタイリストさんって、
ご自身がロールモデルになって
メディアに出るという方と、
裏方に徹して、ものすごくシンプル、
という方がいますよね。
もちろんそのなかに、
自分のお好きなものがあると思うんだけれど。
それを考えると、わたしは後者かもって。
- ──
- 伊藤さん、以前は花柄だとか、
マリメッコの大きい柄を着ている時期も
ありましたよね。
- 伊藤
- そうですね。ありましたよね。
今は、年齢とも相まって、
迷い期なのかもしれないです。
それで、スタイリングの時に邪魔だからとか、
なんとなく理由をつけて、あっさりした方向に
進んでいるのかもしれません。
ちなみに石澤さん、今日は、
ミナ・ペルホネンの服ですか。
- 石澤
- はい、上がミナなんですよ。
無地のコートをワンピースみたいに着ています。
中は元ミナのスタッフが独立をして
始めたブランドです。
古着を再構築してつくっていて。
そして、軍パンです。
- 伊藤
- え? 軍パン?
- 伊藤
- ほんとだ。古着の?
- 石澤
- 古着です。
伊藤さんは、やっぱりシンプルですね。
- 伊藤
- 今日もパンツ、カットソー、靴、
以上! みたいな。
- 岡本
- 私もシンプルです。
- 石澤
- ‥‥シンプルって意味が(笑)。
- 一同
- (笑)
- 伊藤
- シンプルじゃないですよー。
- 岡本
- いえ、私の中では、かなりシンプルです。
まあ、この襟元が、
ドリーミーな感じですけど。
- 石澤
- 主張があるもの。
- 伊藤
- おふたりともご自身の存在感が強いから。
全部取り去っても、光があるのかも。
そんな気がしてきました。
- 岡本
- これ、ほんとうにだいぶシンプルなのよ。
今日はメガネもシンプルだもの。
- 伊藤
- そうかも? いつもと比べたら‥‥。
その、ふたりの敬子さんそれぞれの、
小物使いのたのしみを知りたいんです。
服の新陳代謝はそんなにないって
おっしゃっていたけれど、
小物も、好きなものはずっとお好きですか?
- 岡本
- うん。小物は、嫌いになるものが
あんまりないかな。
- 伊藤
- 年上の女性で、
「華奢なリングが似合わなくなった」と、
そういうアクセサリーを断捨離した方がいました。
わたしも最近、Satomi Kawakitaで
ボリュームのあるリングを買ったんですけど、
以前はそういうものには目がいかなかったし、
つけなかったんですよ。
- 岡本
- 私は、もともと、華奢なものを
選んでこなかったんですが、
好きなものの根底が変わらないから、
断捨離をしたことがないんですよ。
- 伊藤
- そういえば、石澤さんはリングをしていませんね。
- 石澤
- たまたま、いまはリングをお休みしているんです。
最近、ちょっと指に合わなくなったので。
- 伊藤
- 以前はされてたんですか。
- 石澤
- はい、華奢な感じのものを
重ねてつけるのが好きですよ。
- 伊藤
- なるほど。おもしろい。
わたしは、好きなものと似合うものは
違うと思っているんですけれど、
おふたりは、好きなものを
自分に寄せることができるんですよ。
好きなものが似合うもの、みたいな感じで、
着こなしている感じがします。
- 石澤
- 着こなすというより、
着倒しちゃう感じ。ふふふ。
- 岡本
- なんとかしてやろうという感じよね。
「こっちに来なさい!」みたいな。
- 石澤
- そうそうそう。
- 岡本
- たとえば普通に袖があるものも、
普通に着たらつまんないって言って、
逆さに着てみたり、しますよ。
このボレロも天地逆にして着ることがあります。
カーディガンでもすることがある。
- 伊藤
- ええっ?!
- 石澤
- ちょっと見え方が変わるのよね。
- 岡本
- そう。デザイナーの意図とは
違うことをしたくなっちゃうんです。
- 伊藤
- おもしろいと思う!
- 石澤
- 伊藤さんの似合うものと、好きなものは、
ちょっとずれることもあるっていうこと?
- 伊藤
- もう全然、ずれてますよ。
かわいいな、すてきだなって思っても、
いや、これ、わたしの着るものじゃないなって。
まあ自分のこのスタイルも、
年季が入っているから‥‥。
- 一同
- (笑)
- 伊藤
- おふたりも年季が入ってますよね。
岡本さんのメガネもしかり。
- 岡本
- これはシンプルなんですけどね。
- 石澤
- だ・か・ら~(笑)。
- 岡本
- これもサングラスだったんだけど、
私はサングラスとして
かけるイメ―ジはなかったから、
レンズを変えて、メガネとして使っているんです。
- 伊藤
- ちなみに伊達メガネですよね。
- 岡本
- そう、アクセサリーとして大好きなんです。
アイテムが一つ増えることがうれしい。
将来、年を重ねて、杖を使う時が来たら、
ハリー・ポッターのダンブルドアみたいな杖を
選ぶのかもって、想像しちゃいます。
おばあちゃんになることって、
以前はネガティブなイメージだったんだけれど、
そう考えると怖くないかもって。
- 伊藤
- パリやロンドンにあるような
素敵な杖屋で買ったらいいかも?
- 岡本
- そうそう、専門店で素敵な杖を買って、
若いもんのお尻をペンペンするのよ。
- 石澤
- 似合う、きっとね。
- 岡本
- 老眼鏡もそうですね。
私はまだ老眼が来てないんですよ、
早くつくりたいんだけれど。
- 伊藤
- 石澤さんは老眼鏡は?
- 石澤
- 私は縫物をするので、
夜にステッチをかけるときに、
老眼鏡があったらいいなと思うんですが、
鼻の上に乗っている感じがどうしてもダメで、
ルーペが付いているアクセサリーを使っています。
もうちょっとすてきなものが
ないものかしらって思いつつ。
- 伊藤
- チェーンつきのルーペ、
ふたりとも似合いそうです。
- 岡本
- 舞台を見る持ち手のついたタイプで、
老眼鏡があったらいいなって思います。
それがさっと仕舞えるつくりだと、いいなあ。
身につけると、スイッチが入る
- 伊藤
- 岡本さん、石澤さん、
きょうはありがとうございます。
- 石澤
- よろしくお願いします。
石澤敬子です。
- 岡本
- 岡本敬子です。
どうぞよろしくおねがいします。
- 伊藤
- ふだんはおふたりそれぞれに
「敬子さん」とお呼びしているんですが、
今日は、わかりにくいので「岡本さん」
「石澤さん」と呼ばせていただきますね。
今日は、おふたりに、ふだんお使いになっている
小物をたくさん持ってきていただきました。
- 石澤
- 私は、スカーフとコサージュがほとんどです。
- 岡本
- 私もスカーフ、コサージュ、
メガネにバッグ、
ほかにもアクセサリーをいろいろ。
- 伊藤
- すごいです。どれも、かわいい!
- 岡本
- ゴージャスなものもありますよ。
- 伊藤
- 舞踏会ですか、っていうくらい、
ゴージャスですね。
- 岡本
- これを、普通に、
Tシャツに合わせるのよ。
- 伊藤
- Tシャツに?!
- 岡本
- 邪気払いでもつけるといいのよ。
キラキラしたものやシルバーは、
そういうものを払ってくれるの。
- 石澤
- 邪気払い、なるほど。
- 岡本
- 大きなバングルとかもそうです。
整体の先生と占いの先生、
ふたりに言われて「そうか」って。
おふたりとも仕事柄、
人から受けるエネルギーがたまっちゃうんですって。
ネイティブアメリカンの人たちが
シルバーとかターコイズをつけるのも
そういう意味があるのだとか。
- 伊藤
- “寄ってこない”感じがしますね。
岡本さんは、アクセサリーを
つけ忘れて外出するのは、
まるでパンツを‥‥。
- 岡本
- そう、パンツを穿き忘れちゃった、
みたいな気分になるんです。
- 伊藤
- そこまで?
- 岡本
- そういう気分になるぐらい、
もう欠かせないものになっています。
- 伊藤
- そして、石澤さんは、
いつもスカーフを頭に巻いているので、
地元の商店街を歩いていると
二度見をされるっておっしゃっていて。
- 石澤
- 二度見されます。
最近は頭にお花をつけているので、
「あれ?」みたいに、
視線が頭頂部に集まるんですよ。
冬になると上から帽子を被せます。
- 岡本
- そう、私もそういう使い方、します。
- 石澤
- そしてある時、お花をつけたいと思って、
いまはこのスタイル。
イメージはフリーダ・カーロです。
- 伊藤
- たしかにフリーダ・カーロの自画像って、
頭に花を飾っているものが多いですよね。
石澤さんはスカーフを巻かない日はない?
- 石澤
- そうなんですよね。ほぼ毎日、巻いています。
岡本さんがアクセサリーがない時と同じように、
スカーフを巻かないと裸にされている感じがして、
ちょっと恥ずかしいんですよ。
だから私の髪形をみんな知らないの。
「どういう髪型をしてるかは、
大事な人しか知りません」みたいな。ふふふ。
- 伊藤
- わぁ! そうなんだ。なるほど~。
わたしが、見てのとおり、
いっつもなんにもつけないタイプなので、
とても新鮮です。
- 岡本
- まさこさんはシンプルなのよね。
- 伊藤
- そうなんですよ。
- 岡本
- あまり柄物を着ているイメージもないけれど、
色はパキっとしたものが多いですよね。
ブルーとか、ピンクとか、グリーンとか。
- 石澤
- 鮮やかなものをお召しですよね。
- 伊藤
- 人前に出たり、取材を受けたりするときは、そうですね。
でもスタイリストとして参加する撮影は、
写真に映り込んではいけないということもあり、
いつも黒で統一していて、リングもつけないんです。
おふたりは、それぞれ小物使いがお上手で、
共通点は「つけていないと心もとない」こと。
でも、そもそも「つけるの忘れちゃった」状態で
外出をなさることなんて、あるんですか。
- 石澤
- ‥‥ないですね。
- 岡本
- ほとんどないんですけど、
たまに急いでいて、
バングルひとつつけ忘れた! とか、
そういうことはあります。
- 伊藤
- ご自宅に戻られたら、外すんですか。
- 岡本
- 家に帰ったらすぐ外します。
- 伊藤
- 石澤さんも?
- 石澤
- 家に帰ったら、そうですね。
またすぐ出かける予定があれば、
つけっぱなしですけれど。
- 岡本
- 出掛ける時は“武装”なんです。
- 石澤
- そうですね。まさに戦闘服っていう感じ。
- 伊藤
- そうなんだ!
- 岡本
- そう、パチンと、スイッチを入れる感じ。
- 石澤
- オンとオフを切り替えるの。
- 伊藤
- 小さな頃からそうなんですか?
- 岡本
- 母親が洋裁をやっていたので
出来上がった洋服に合わせて
色々な素材で帽子をつくっていて、
バッグとセットでのフル装備を
子どもの時からしていたんです。
- 石澤
- 私がスカーフを巻き始めたのは
10代の学生時代でした。
服飾の専門学校に行っていたので、
そこに通う時に、巻き始めたんです。
マッチ売りの少女みたいだから、
「マッチください!」って同級生に
からかわれたりしてたんですけど、
わが道を行き、今日に至るって感じです。
- 伊藤
- 戦闘服ってことは、
外に行く時に「よし!」っていう
気合みたいなものが出るんですね。
- 岡本
- 私はわりとそうかも。
- 伊藤
- おうちでの感じは?
- 岡本
- わりとダラっとした、
リラックスウェアみたいなのを着て、
髪の毛もギュっと。
‥‥今もおだんごなんだけれど、
もうちょっと崩したような、ラフな感じです。
- 伊藤
- 石澤さんもリラックス系ですか?
- 石澤
- 家でリラックスするときは、
カットソーのワンピースだったり、
シャツワンピースみたいな感じです。
でも、朝、起きて、
その日着る服を決めるのって大事なんですよ。
気分がちょっと落ちてたりとかする時は、
戦闘服というほどじゃなくても、
自分の好きな服を着ることが、
気持ちを押し上げていってくれる。
アクセサリーもそういう効果がありますね。
- 岡本
- そう! それと、
私は、その日の天気を見て服装を決めるんです。
今日は日中が暑くなるって聞いたから、
肌が出てないと暑くて汗だくになっちゃうかなって。
- 伊藤
- 小物か服か、どっちが先ですか?
- 岡本
- う~ん、どちらとも言えないかな。
同時かな。
- 伊藤
- お二人とも、重ね着が上手ですよね。
- 岡本
- まさこさんは重ね着、しないですよね。
- 伊藤
- 暑いっていうのがまずあるんですけど、
面倒くさいっていうのもあって。
- 岡本
- たしかに、考えるのが面倒だというのはわかる。
- 伊藤
- 防寒のためにコートを、という重ねかたはしても、
レイヤードを楽しむとか、
重ねることでコーディネートを完成させるような、
流行の重ね着は苦手かもしれません。
- 石澤
- 私は、寒くなると、薄いものを重ねるんです。
衣替えをしないんですよ。
- 伊藤
- あ、そうなんですね!
- 岡本
- 私も一時期はそうでした。
薄いものを重ねて、一年中同じっていう感じでした。
それはね、更年期を迎えて、
「暑い~」っていう感じで、
とにかく薄いものじゃないとダメになってしまって。
冬でも暑くて、ニットなどの厚いものが
着られなくなっちゃったんです。
タートルネックなんてとんでもない、みたいな。
今は、もう大人になって(笑)、
第二のステージに行ったので、
ニットも着るんですけれど。
- 石澤
- そうなんだ(笑)。
- 伊藤
- 石澤さんは、本格的な冬になったら、
今の感じにコートを重ねるということですか。
- 石澤
- そうですね。あとは足元がブーツになるとか。
- 伊藤
- 考えてみると、わたしもそんなに
ハッキリと衣替えをするほうじゃないなぁ。
冬の間はコートを出しておくくらいで。
- ──
- 伊藤さん、ワードローブの全体量、
実は少ないっておっしゃいますよね。
- 伊藤
- うん。少ないと思う。
- 石澤
- 私も少ないと思いますよ。
- 伊藤
- え?! 意外です。
- 石澤
- ずっと好きなのを着続けます。
何十年と着ている服もあります。
洋服を扱う仕事をしているから、
普通の人よりは多いかもしれないですけれど、
新しい服も、仕事の仲間が買うのに比べたら、
そんなに買ってないなと思う。
- 岡本
- うんうん。
私もそこまで多くないと思うんですけど‥‥。
- 伊藤
- でも、岡本さんは、気に入った服は
色違いでお求めになるとか。
- 岡本
- そう、形の好きなものがあると、
色違いで揃えるのが好きなんです。
- 石澤
- 大人買いですね。
- 伊藤
- じゃあ、ご自分にとっての
ベーシックなものが決まっていて、
そんなに増えもせず、減りもせず、
小物で差をつけるみたいなこと?
- 岡本
- それもあるかもしれない。
VINCENT PRADIERのグローブとCI-VAの新色バッグ
料理のように
料理をしながら、
何を考えているかというと‥‥
どんな器に、
どんな風に盛りつけようかな? ってこと。
器ひとつ、盛りつけひとつで、
同じ料理がよくなったり、
時には、あれ? なんてことになったりする。
だから、おろそかにはできないんです。
盛りつけた後、
ちょっと何か足したいな、
なんてこともあって、
そんな時は、ひと工夫。
白いスープに、
粗びき黒こしょうを全体にがりがり。
ローストした肉の横にハーブを添えて。
きくらげのあえものには、
枸杞の実を足して。
ちょっと何かをプラスすると、
とたんにその一皿が生き生きしだす。
食感や味わいも変わって、
新たなおいしさを発見することもあるから、
この「ひと工夫」、
なかなかいいんです。
今週のweeksdaysは、
VINCENT PRADIERのグローブと、
CI-VAのバッグの新色をご紹介。
コーディネートの「ひと工夫」に欠かせない、
アイテムです。
大人のための、“きちんと”パーカー
- 伊藤
- パーカーのほうは、
前回とサイズ感を
すこし変えていただいたんですよね。
- 小林
- そうなんです。
以前はすっきり見えるコンパクトなシルエットでしたが、
ひとまわり大きいのが欲しいというお声をいただいて、
つくりなおしました。
袖幅をすこし広げているんです。
ボディーの着丈を長くしたので、
ダブルジップにして。
裾のリブ部分をちょっと上げても
着られるようになっています。
- 伊藤
- ダブルジップだと、
車を運転する時に下を開けられるから、
締め付けがなくて楽かもしれない。
- 小林
- たしかにそうですね。
下から開けられるだけで、着方も広がりますよね。
- 伊藤
- 軽いし、裏起毛だからほんとうにあたたかいですね。
着た時に、ゴワッとしないのもいい。
- 小林
- ちょっと肌寒い時に羽織ると、
じんわり温まってくる感じがする。
それが天然の綿の良さなんですよね。
「あらびき杢」という、
凹凸や濃淡のある糸を編み上げることで、
すごくいい風合いが出ているんです。
- 伊藤
- それに、オートミールの、
なんともいえない色。
- 小林
- このソフトな色味が、
エレガントなアクセサリーにもよく合いますよ。
肩まわりが開きすぎない形なので、
パーカーでも “きちんと感” が出るんです。
- 伊藤
- うれしいです。
ボトムを合わせるなら、
どんなものがおすすめですか?
- 岡本
- 今回のタックパンツとも相性がいいですよね。
私だったら、グレーのワントーンで着て、
パールやスカーフみたいな小物を加えるかな。
- 小林
- いいですね。
ロングスカートとか合わせるのも、
すごくかわいい。
- 岡本
- 光沢感のあるスカートとか、
テンションの違う素材と合わせるのもいいかも。
- 小林
- そうそう、スウェット素材をおしゃれに着るのは
すごくかっこいい。
大人にこそ似合う着こなしですね。
- 伊藤
- ちらっと見える、
ポケットの内側のサテンもポイント。
- 小林
- 昔はピンク色にしたり、
内側がもっと見えるように
つくったりしていたんですけど、
カーブを5ミリずつ削ったりしながら、
今の形にたどりつきました。
- 伊藤
- パンツと一緒で、
同じアイテムでも、そんなふうに、
少しずつ変えていかれているんですね。
これからのLe pivotも
ますますたのしみになります。
- 小林
- はい、ものづくりは続きますから!
- 伊藤
- 小林さん、岡本さん、
どうもありがとうございました。
たくさんのかたに届きますように。
何本でも欲しくなる
- 伊藤
- このパンツには、
オーバーサイズのジャケットも合いますよね。
なにかと合わせやすいから、
色違いで買われる方も多いのでは?
- 小林
- ええ。
リピーターの方もだんだん増えてきたし、
季節ごとに素材違いでもつくっているので、
全色を持ってらっしゃるという方もいますよ。
私みたいに身長が低くても、
バランスがとりやすい形なんです。
- 伊藤
- 身長が高い方は、
ウエストから少し落として穿いていると聞きました。
- 小林
- そうそう。腰で穿いてもかっこいいですよ。
前身頃を重ねて止めるようにつくってあるので、
トップスをインしても、
お腹まわりがすっきり見えます。
- 伊藤
- いろんな体型の方に合いますよね。
- 小林
- はい、そのために何度も調整しながらつくったので、
今の形はベストだと思います。
ポリウレタンを入れて
ストレッチ性を出している素材って、
身体のラインが出ることが多いんですけど、
このパンツはウエストからサラッと落ちてくれて、
体型を拾いすぎないですから。
- 伊藤
- もしかして、真夏以外は穿けますか?
秋冬用につくっていただいたんですけど、
できあがって触ってみたら、
これはもしや、と思って。
- 小林
- そうなんですよ。
サマーウールのようなさらりとしたタッチなので、
真夏以外は着ていただけると思います。
毛羽立ちにくくて、ほんとうにいい生地なんです。
- 伊藤
- それがひと目でわかるのか、先日穿いていたら
「それ、どこのですか?」って聞かれました。
褒められパンツです。
- 小林
- わぁ、うれしい。
- 伊藤
- 今回の3色には、どんな色が合いそうですか?
ライトグレーには黄色いニットもいいなって。
- 小林
- そうですね。
ライトグレーは明るい色を合わせるとさわやかになるかな。
ブラックはちょっとトラッドっぽく着たり、
ボーダーのTシャツと合わせてカジュアルに着るのも
かわいいと思いますよ。
- 岡本
- グレーには赤いトップスも合う。
- 伊藤
- 赤、いいですね!
- 小林
- ざっくりした形のニットでもいいし、
素材も、綿でもウールでも。
- 伊藤
- トップスを選ばないパンツなんですね。
- 小林
- いろんなものに合わせて楽しめるので、
「他の色も欲しい」とリクエストをいただいたりして、
とてもうれしいです。
- 伊藤
- 試着されたら、この良さに
ハッと気づかれるんじゃないでしょうか。
- 小林
- そうそう、最初はみなさん、
「スタイルがよくないから似合わない」って
言われるのだけど、
試着されると、わかっていただける。
- 伊藤
- やっぱり。
敬子さんは、何色、持ってらっしゃいます?
わたし、敬子さんのクローゼットが気になって
しょうがないんですよ。
いったい、服を何着お持ちなんだろうって。
- 岡本
- みんなが思うほど持ってないんですよ。
小物は多いけれど‥‥。
- 小林
- でもこのパンツは、色違いで
10本ぐらいはお持ちなんじゃないですか?
- 岡本
- ふふ、たしかにこのパンツは何本もある!
ウールストレッチのものは黒とネイビー。
素材違いだとピンク、ブルー、パープル、アイボリー。
サテンのモスグリーンも持ってます。
- 伊藤
- すごい!
それだけ持っていても、
また欲しくなるって。
- 岡本
- ほんとにね、
魔法のパンツですよ。
10年ものの形の秘密
- 伊藤
- 今回は秋・冬に活躍しそうなパンツとパーカーを
つくっていただきました。
パンツのほうはLe pivotの定番アイテムだそうですが、
どのくらい前からつくられているのでしょうか?
- 小林
- かれこれ10年近くなりますね。
当時は、こういう太めのパンツって、
全く流行っていなかったんですよ。
でも、一度つくってみたら気に入って、
いまでも毎シーズンつくっています。
- 伊藤
- 当時流行っていたのって‥‥。
- 小林
- ぴたっと細いスキニーデニムとか、
美脚に見えるフレアの(膝から裾にかけて広がる)
パンツでしたね。
- 伊藤
- そっか! ふふふ、時代を感じますね。
そんなときに、なぜあえてこの形を?
- 小林
- 古い映画を観て、思いついたんです。
もう作品のタイトルも忘れてしまったけれど、
水兵さんが身につけていた
斜めの巻きエプロンの形が妙にかわいくて、
こんな感じかしらと生地を探して、
ラップパンツをつくってみたんです。
それがこのパンツの原型になりました。
敬子さん、それも持ってらっしゃいましたよね?
- 岡本
- 持っていましたよ。
すごく好きでした。
- 小林
- 私も気に入って穿いていたんですが、
紐で巻くタイプだったから、
お手洗いの時とか面倒で(笑)。
それから紐をやめてホックに改良して、
シルエットもストレートにととのえて、
かっこいい感じに仕上げて、
このパンツができあがったんです。
- 伊藤
- 古い映画の水兵さんということは、男性ですよね。
そういえば小林さんがつくられるものって、
ちょっとメンズっぽいテイストが入っています。
この前つくっていただいたノースリーブロングシャツも、
メンズシャツの袖を切った形がヒントだったり。
- 小林
- そうですね。
メンズのものづくりの要素は、
Le pivotの中には多いかもしれません。
昔、古着やミリタリー調のものを
好んで集めていた時の影響かな。
- 伊藤
- このパンツは、かっこよさも感じるけれど、
足を閉じるとロングスカートにも見えますよね。
- 岡本
- シルエットが、すごくきれい。
- 小林
- そうなんです。
パンツだけど、裾幅をワイドにしてあるから、
ロングスカートの表情もあって、いいでしょう?
時代によって、気になるところを
ほんの少し変えるだけで旬の顔になるので、
微調整しながらつくり続けてきました。
この形になってからは、もう5~6年変えていません。
Le pivotのタックパンツとダブルジップパーカー
これからしたいこと
- 伊藤
- 正子さんが岡山に越して、
コロナを経ての今、
人とのつきあいかたが変わったなと思うことって
ほかにはありますか。
- 中川
- やっている仕事の規模の大小や知名度で
今の私を判断しようという空気の会話になると、
すごく面食らっちゃうようになりました。
おそらく私は今、すごい勢いで
価値観が変わっているんだと思うんです。
特にコロナを経て、
しかも、かつていた場所とは離れてしまった。
仕事も変化して、
昔やっていた雑誌から連絡をいただいても、
撮影の仕事ではなく、
取材される側として出ることが多くなった。
撮影の仕事も撮るだけじゃなく
ディレクションからやったり。
文章を書いたり、イベントをしたり、
もう何屋さんだかわからない。
でも、全部自分なんです。
全部、今、個人的に全力でやりたいことをやっている。
過去の仕事の枠組みにはもう、入りきらないことまで。
そういうときに東京で、
昔の価値観のままの人と話すと、
「あれれっ?」ってなるんです。
「最近どういう仕事してるの?」って聞かれて、
そっか、どんな仕事を受けてやっているかが
価値なのかって。
- 伊藤
- そうなんだ‥‥。
- 中川
- もちろんそこで闘ってる方は、
そこが主戦場なのですから
そういう物言いになるのは当然なんでしょうけれど、
私からすると、もう、どこから
どう話したらいいかわからなくて。
だから「こんな感じかな~?
でもそんなに仕事してないんですよ~」
なんて、さっと逃げちゃう。
もちろん、私が遠くに泳いじゃった
だけなのかもしれない。
気づくとすーごい遠くにいた、みたいな。
こんなこと大人になって言ってるのも、
どんだけ浮世離れしてるかって話なんですけど。
- 伊藤
- いやいや、いいと思います。
こういう大人がもっと増えないと。
- 中川
- そうなんですよね。
たまに、大きなお仕事をさせていただくときも、
感じることがあるんですよ、
みんなで一丸になってプロジェクトをやるとき、
最初に決めた通りに動かなくてはいけないと
思っている人がほんとうに多いことに。
その決まったことをなんとか達成するために、
ちがう、と思っても
ほんとうの声を潜めて、
体も硬くして、なんとか頑張ってる人が、
たくさんいるんだなって。
どんな仕事からも、
そんなふうに無理やり押さえる空気が
なくなっていくといいのにって
思うんですけれど‥‥。
すみません、こんな話で。
- 伊藤
- いえいえ。
これからどういう仕事を
していきたいとか、ありますか?
お仕事じゃなくてもいいんだけれど。
- 中川
- より個人的に、
ささやかでいいから役に立ちたいと思っています。
最初の肩書きの話もありますけど、
写真家という単語からイメージされるところから、
もう、すでに、大きく外れていますよね。
広がってるというか。
でも全然それでよくて、
ほかの人よりも得意なこと、
私が何かの役に立てることが
おそらくいくつかあるんだろうと思うんです。
場づくりもそうかもしれないし。
- 伊藤
- 写真を撮るっていうだけではなくてね。
- 中川
- そうなんです。もちろん写真はだいすきで続けますし、
「写真を撮ります」が真ん中にあった方が
目印としてみんな来やすいだろうから、
写真家を名乗っていこうと思いますけれど。
‥‥っていうと、語弊があったらいやですけど。
写真はだいすきなので。
でも実はそれぐらいの気持ちで、
なんでもいいから少しだけ役に立てたらいいなって。
そういう意味だと、
来年2月にエッセイの本を出すんです。
2011年に震災で引っ越してから、
ドッタンバッタンやってきた
12年の日々を書いています。
それの切れっ端みたいなのを
インスタで書いたりもしてるんですけど、
そうすると今30代で子育て真っ最中の方が
すごく共感してくださって。
私のこのスーパー個人的なドタバタ期が
誰かの役に立つんだなっていうのを
それで知ることになって。
私がエッセイなんか出して
なんの役に立つのかなって
3日にいっぺんぐらい立ち止まってるんですけど、
ささやかでも役に立つんだったら
やる意味があるかななんて思っていて。
でも写真もそうかな。
ちょっと光ってるものを見つけるのが
たぶん得意な方なので、それを見せることで、
みなさんがこういう光があるんだなとか
感じてくれたらいいと思っています。
そっち側をやるのが小さな役割かなと思ってて。
世の中にみんなそれぞれ
小さな役割があるじゃないですか。
まさこさんは大きめの役割があるんだけど、
私はもうちょっとコンパクトに、
それをやっていきたいなと思ってます。
こんなふうに「役に立ちたい」なんていう
感情が芽生えたのは、ここ数年です。
- 伊藤
- たまにお客様や読者の方に接すると、
わたしが出した本のことで、
「この本を読んだとき、こうでした」という
そのかたならではのストーリーがあるんですよ。
「この本で娘の服を作りました」とか。
- 中川
- 『こはるのふく』(伊藤さんの著書。2003年刊)ですね!
私、持ってました。
女の子もいないのに、かわいいなと思って。
一着も作らなかったけど、
ただかわいいなと思って見てました。
- 伊藤
- そういう人、いらっしゃいます。
男の子のお母さんで、
この本を持ってるっていう人。
そういう話を聞くと、
あっ、少なからず役に立っていたんだ、
よかった! って思ったりします。
- 中川
- 飽きちゃうまさこさんは、
これからどういうまさこさんになるんでしょう。
そういうセンスだったら、
きっと、定期的に、
小さく飽きるんですよね、
- 伊藤
- そう、定期的に飽きますね。
飽きるから引っ越したり‥‥。
森に家をつくっているけれど、
‥‥でも、できたら飽きちゃうのかな、
と思ってヒヤヒヤしてます。
- 中川
- ふふふ、次のターゲットが
必要になるかもしれないですね。
- 伊藤
- 今、してみたいことは
「仕事をしない」っていうことなんです。
ずっと、してきたから、
しない時期があってもいいのかなって。
- 中川
- 期間を決めて?
- 伊藤
- そうですね。
- ──
- 来年から夏は2カ月休むとおっしゃってますね。
- 伊藤
- ほんとにできるかなあ?
やらないことはマイナスではない、
とわかったから、できるかも?
- 中川
- まさこさん、そんなにガンッて
目標を置かない方ですよね。
目の前のことを直感的にやってるうちに、
あら、これだったのねって
振り返って思うみたいなところがありそうです。
- 伊藤
- そうですね。
ただ大きい仕事、まさしくこのweeksdaysは、
「こういう店をつくりたい」と思ってから、
形になるまで10年ぐらいかかってます。
- 中川
- そうなんですか!
そっか、じゃ、ちゃんと目標が。
- 伊藤
- 目標っていうか、
長く仕事をしてきて
一人の力での限界を知ったことで、
みんなとやりたいなと思ったことが
きっかけのひとつでした。
それで糸井さんに相談して、
形になるまでにけっこう時間をかけました。
- ──
- そうですね。いくつか連載をして書籍にしたり、
「weeksdays」の前身となるブランド
「&(アンド)」をつくったりしながら、
まさこさんがこれならできるかもってなったとき、
1年以上かけて連載などの仕事を整理なさって、
ここに集中して。
たしかに10年がかりだったかもしれないですね。
- 中川
- なるほど、そうだったんですね。
もうひとつ、いいですか、
私がこれからしたいこと。
- 伊藤
- もちろんです。
- 中川
- 「役に立ちたい」もあるんですけれど、
それよりも上がありました。
それは「怖いことがしたい」っていうことです。
- 伊藤
- へえ! 怖いこと、を?
- 中川
- エレノア・ルーズベルトさんという、
フランクリン・ルーズベルト大統領の
ファーストレディがいらして、
多くの名言を残しているんですが、その中に
「毎日、あなたが恐れていることを
ひとつ行ないなさい」
(Do one thing every day that scares you.)
というものがあるんです。
わかりにくいかもしれないんですけれど、
「安全圏にいるな」みたいな言葉だと思うんですよね。
それを読んだときガツーンと思って。
たしかに、私は20代のとき、毎日挑戦してたのに、
だんだんと落ち着く自分の場所、
言葉が通じるみんな、みたいなところで
楽しくやっているなあと。
それは基本的にいいことなんだけれど、
ちょっと冒険が足りないなって。
これ、ほんとにうまくできるかなとか、
これでいいのかなとか、
そういう「怖い」がものすごく減ってるぞと、
数年前に思ったんですよ。
それこそ写真の仕事もちょっと慣れてきて、
もう、ちゃんと撮れるし、
みんなが欲しいものもだいたいわかる。
それはプロってことだと思うのですけど、
でも、やっぱり怖くないとワクワクしないというか、
穏やかに楽しいみたいな感じではなく、
怖いことがしたいなと思って。
- 伊藤
- うん、うん。
- 中川
- それで今、エッセイを書いているわけなんですが、
ほんとうに長くプロフェッショナルで
仕事を続けられてきた方の文章を読むと、
打ちのめされてしまうんですよ。
まさしく「怖い」。
自分は超ド新人で、引き出しも少ないし、
頭も整理できていない。
そんなときに一流の作家の文章にふれると、
打ちのめされるんです。
でも「打ちのめされたのって、久しぶり」
とも思って。
それって写真を始めた頃、
すごく有名な方の写真を見たときの
衝撃と似ているんですね。
覚悟だったり、深く潜るエネルギーが、
こんなにも自分には足りてないって
実感し続けるという経験が久しぶりで、
しんどいけど楽しい、みたいな感じです。
- ──
- それがルーズベルト夫人の教え
「毎日、あなたが恐れていることを
ひとつ行ないなさい」ということなんですね。
- 中川
- そうです。怖がりながら。
- 伊藤
- 大丈夫、できますよ。
‥‥なんと、
2時間もおしゃべりしてましたね、
わたしたち。
- 中川
- こんなおしゃべりで大丈夫ですか。
- ──
- 大丈夫です、
バッグの話もしていただきました。
- 中川
- 男性が読んでも面白いかしら?
- ──
- すっごく。
みなさんわかってくださると思います。
- 中川
- そうだといいな。
- 伊藤
- 正子さん、ほんとうに、面白かったです。
もっと動いて喋っている姿を
見せた方がいいと思うな。
- 中川
- いや、いや、そんな。
でもうれしいです。
ありがとうございました!
いつのまにか
先日、久しぶりに会った友人に、
「まさこさん、服の方向性が変わりましたね!」
と言われました。
パンツにジャケット姿で誌面に出ていた私を見て、
そう思ったみたい。
友人いわく、
私といえば、
「ふんわりスカートにヒールのある靴」
という印象だったよう。
そういえば‥‥と過去を振り返ると、
そのシルエット、たしかに好きだった。
ふんわりスカートは、
いつの頃からか、
私のワードローブからひとつふたつと消えていき、
いまやすっかりパンツ派に。
「おしゃれはがまん」と思って履いていた、
ヒールの靴の出番もずいぶん減りました。
好きなものって変わらない。
そんな風に思っているつもりでも、
少しずつ変わってきているのだなぁ。
あらためて、気づかせてくれた友人に感謝、なのでした。
「すっかりパンツ派」の私、
最近のヒットはLe pivotのタックパンツです。
これがなんていうか、
今の気分にぴったり。
まずは一枚買って、
その後、色違いで3枚も揃えてしまったほど。
Le pivotの定番アイテムとも言える、
パーカーと合わせてどうぞ。
わたしたちの「する、しない」
- 中川
- ‥‥あの、超関係ない話を早口でしていいですか。
Netflixの『LIGHT HOUSE』っていう番組、
ごらんになりました?
- 伊藤
- いえ、見ていないです。
どんな番組なんだろう。
- 中川
- 星野源さんと、オードリーの若林さんが
おしゃべりする番組なんです。
佐久間宣行さんって有名なプロデューサーが
ふたりを引き合わせて、
思ってることを語り合ってもらう。
そこに「飽きる」ことについての話が出てくるんです。
それは‥‥(ネタバレになるので、省略します)
‥‥っていうことなんです。
- 伊藤
- なるほど! 興味深いです。
見てみます。
- 中川
- きっと共感なさると思います。
私も、規模は小さいけれど、同じだなって思いました。
- 伊藤
- わたしもテレビで共感した話なんですが、
ある番組を見ていたら、女優さんが、
芸能界で生き残っていくためには
何を大切にすればいいんでしょうね、
みたいなトークを、共演者に投げかけた。
そうしたら、
「売れるためには『何をやるか』ですけど、
生き残るためには、
逆に『何をやらないか』なのかも」って。
それを答えたのは脚本を書き、俳優もされている、
お笑いの方だったんですが、
さすがだなぁ、って思ったんです。
お風呂あがりで肌の手入れをしてるときに
たまたまつけたらその言葉が入ってきて、
ああ、よかったわ、今日、って思いました。
- 中川
- 乳液といっしょに染み込んだんですね。
- 伊藤
- はい、心のメモに書きました。
もちろん「何をやるか」も大事なんだけど、
「何をやらないか」っていう選択、
すごく大事だなと思って。
わたしだったら5時以降は仕事しないというのも、そう。
- 中川
- まさしくまさこさんのご本のとおり
『する、しない。』ですね。
- 伊藤
- することとしないことって、
ほんと表裏一体っていうか、
5時以降仕事は「しない」だけれど
5時からお酒を飲むのは「する」なんですよ。
- 中川
- まさこさんは無自覚も含めて、
「しない」をいっぱい
決めているんじゃないかと思います。
最近人との会話で、ちょっと気になるのが、
「普通、こうじゃないですか」っていう言葉で。
「普通、写真家ってこうじゃないですか」から、
「普通、仕事ってこうじゃないですか」、
「普通、50歳ってこうじゃないですか」
「普通、日本だとこうじゃないですか」というふうに、
ついて回りそうで‥‥。
でも、ほんとにそれが普通なのかなということと、
もし普通がそうだったとしても、
「それ、やらなくてもよくない?」って
自分で決めることが大事だなって。
まさこさんのように立ち止まれる人が
今後もっともっと増えていったら、
みんなが楽になりますよね。
- 伊藤
- だいたい「普通」ってないですもん。
- 中川
- そう、普通はない。ないんです。
- 伊藤
- たぶん標準的なことと自分を比べることで
気分が楽になったりとかするんだと思う。
- 中川
- 和を重んじる文化とか、
とびぬけることをよしとしない価値観の
せいかもしれないんですけどね。
まさこさんは目立とうとしてるわけではなく、
ただ自分の気持ちに正直なだけだと思います。
そこに自分が心地いい決まり事がある、
っていう感じがします。
それがステキだなと。
- 伊藤
- それは褒めすぎ(笑)!
でもありがとうございます。
- 中川
- モノの選択も結局その延長線上にありますものね。
私も「50だから」とさっき言ったけれど、
「50でこのブーツ、あり? なし?」
ということってそもそもなくって、
好きに履いてればいいわけです。
でも世間で良しとされてる中年女性の枠から外れると、
「オバ見え」とか「イタ見え」って言われる。
そこにものすごい息苦しさを感じます。
そんなのあんまり読まないけれど、
チラッと触れてしまうと
「ああ、うるさいなあ」って思います。
だからまさこさんのような
「好き」とか「飽きたからやらない」とか、
「このちっちゃなバッグ、モノが入らないけど
かわいくない?」とか、
そういう純粋さが人を救うと思います。
- 伊藤
- そうなんだ! そっかぁ。
ありがとうございます。
「する、しない。」の正子版はありますか。
- 中川
- 「する」で言うと、もともと、
直感を完全に信頼する、ということがあります。
対人関係も、最初のコンタクトで
ザラッとした質感があったら、避ける。
それはお仕事でもそうで、
「これは引き受けないほうがいい」って。
結果「ザラッと感じることは、しない」。
- 伊藤
- わかります!
メールひとつとっても違うんですよね。
- 中川
- 逆に、まわりが、「大丈夫? やめた方がいいよ」
って言うようなお仕事があったとします。
労力もかかるのに低予算、どころか、
持ち出し覚悟、みたいなプロジェクトですね。
けれども、すごく光って思えるものってあるんです。
ピカッと、後光が差してる感じがすることって。
そのジャッジは絶対ですね。
それは「やったらいいことがある」わけじゃなく、
ただ、絶対、この船に乗った方がいい、
っていう直感なんですよね。
そのジャッジが、若いときはできなかった。
ザラッと感じたものはいくら頑張っても
最後までそうだったですし。
- 伊藤
- その直感って、
鍛えられたのかもしれないですよ。
失敗をした経験も、
分かれ道に来たときに
いい方向を選ぶ直感を養うのに
役に立ったと考えれば。
- 中川
- そう思います。
「やっぱり信頼すべきだったのは最初の感覚だ」
という経験を積んだんですね。
- 伊藤
- なぜザラッとしてるって思うんだろう。
- 中川
- 科学的に分析したら
もしかすると単なるデータかもしれないですね。
自分のこれまでの経験値みたいなものから
導き出されることなのかも?
あるいはシックスセンス的な話かもしれない。
「なんか黒っぽい感じがする」みたいな。
- 伊藤
- そういうこと、
場所でも人でもありますもんね。
- 中川
- コロナ禍で、2020年の4月から6月、
一件も仕事がなくなったんです。
出稼ぎを中心にしてたので、
県外に行けないっていうので全部アウトになって、
すべての撮影を断るしかなかった。
そのとき岡山に場所が欲しいなって
ぼんやり思っていたところ、いい物件に出合って。
すっごく広いのに、
岡山だから家賃が安かったんです。
でもそのときはなにせ無職だから、
払ってる場合かな、みたいな悩みもあったんですが、
もう、その場を見たら、
光って光ってしょうがなくて。
絶対ここがあったらいいことがあると、
その場所を借りました。
それが最初にお話しした、
モップをかけたアトリエです。
スタジオにして岡山で撮影をしていこうとか、
そういう目的があったわけでもないんですが。
- 伊藤
- とにかく借りちゃえ! みたいな。
- 中川
- そうなんです。
夫は、私のそういう感じをわかっているので、
「そう思うんならやってみたら?」
って感じだったんですけど、
周りには「え、どうするの?」と言われて。
イベントを、なんて考えても、
時期的に人は集められなかったので、
借りてから数カ月、本を読んだり、
インスタの更新をしたり、
めちゃめちゃぜいたく使いをしました。
そこで、ものすごく切り替わった感じがしたんですよ。
- 伊藤
- 今もそこは続けて借りられているんですか?
- 中川
- はい。やがていろんな人から
「展示会を開きたい」などのお声がけをいただいて、
いまはいっぱいオファーをいただいています。
そんなつもりはなかったんですけれど、
中川正子はギャラリーをひとつ持っている、
みたいな見え方になっているようです。
- 伊藤
- 家以外の場所が必要だったのかもしれませんね。
- 中川
- そうかも。それまでは東京に来たらオン、
岡山に帰ったらオフ、っていうので、
大きくオンオフができていたんですよ。
でもアトリエを借りる決断も
「光ってるから」‥‥なんて言うと、
もう超スピリチュアルな人みたいですね。
もちろん日差しもよかったけど、
そういう光じゃないんですよ。
「なんだか明るい」みたいな感じ。
- 伊藤
- わかりますよ、物件ってそうかもしれないです。
わたしも、いつもそうですよ。
今、森の中に、古い小さな一軒家を買って
改築しているんですが、
それもパッと決めました。
「買います!」って。
- 中川
- ふふふ、それは見に行ったんですか。
- 伊藤
- 今日みたいな秋晴れの日に行ったんです。
庭に朴(ほお)の木があって、落ち葉が拡がっていて、
とてもいい気配がしました。
建物はボロボロだったけれど、薄目で見て、
中を改装したら絶対よくなると思って、
「買います」。
それで東京に戻って娘に言ったんですよ、
買っちゃった、価格はこう、
でも改築にけっこうかかるかも、って。
そうしたら「最初に借金しないで買えたんでしょ?
じゃ、いいんじゃない?」って。
- 中川
- おぉ、さすがプロデューサー。
彼女は、まさこさんが直感で決めたんだったら
だいたいうまくいくっていうのを、
見てるんですよ、これまでも。
- 伊藤
- たしかに、娘も直感の人。
今、住んでるところは、
前の部屋が建て替えになって
引っ越さなければいけなかった時、
娘が通りかかって「ここに住みたい」
と思った建物なんです。
そうしたらほとんど同時に知人が、
伊藤さんの好きそうな部屋に空きが出ましたよ、
って紹介してくれたのが、
まさしくそこだったんです。
あれはほんとうによかったです。
- 中川
- すごい!
今って、先回りをすることが
すごく簡単な時代じゃないですか。
いっぱい調べられるし、
理屈で固めようと思えば、
いくらでも固められると思うんだけれど、
もうそういうんじゃなく、
直感に従うっていう決断の仕方が
あるんだということですよね。
直感という言葉も手垢がついちゃったから、
あまのじゃくなのであんまりたくさん
言いたくはないんですけどね。
消えよ、黒正子
- 伊藤
- がむしゃらに働いていた20代は、
疲れが翌日来たりしても、
なんとか乗り越えられたんだけれど、
「これじゃいけないな」と思って。
ずっと働いて土日がっつり寝るより、
一日の間で仕事して睡眠もとって
おいしいものも食べて、
しかも、あんまり疲れすぎないような
サイクルにしていかないと、
60歳とか過ぎたときに
病気になるんじゃないかなと思って。
それで夕方5時に仕事を終えるようにしたんです。
- 中川
- たしかに、長持ちしない感じがしますよね。
- ──
- 時間内に終えるための段取りはすごいですよ。
中川さんは写真家でいらっしゃるから
よくあると思うんですけど、
「これも押さえで撮っといてください」はNG。
- 中川
- なるほど。いいですねえ!
- 伊藤
- 「そんな余計な仕事をさせないでください」って
編集者や担当ディレクターに言います。
- ──
- 編集者は、念の為に別の角度からも
撮っておいたら、とか思っちゃうんですけど。
- 伊藤
- それもわかるんですよ。でもね。
- ──
- 「ほんとに要るんですか?」っていうことですね。
それはあなたが最初に
組み立てられてないでしょってことにもなる。
そして、そういう
「使うかどうかわからないもの」まで
ぜんぶ撮影をしていたら、
一日では終わらない分量なのも確かです。
- 中川
- そうか、そうですよねえ。
- 伊藤
- それじゃ、怖いじゃない、わたし?
- ──
- それが不思議と怖くないんですよ。
ハッキリしているのと怖いは別ですよね。
怖いっていうのは理不尽なことですから。
ハッキリ言うのが苦手な人が、
うっかり「怖い」表現になることはありますけれど。
- 伊藤
- 正子さんは怒ることはあるんですか。
「ええっ?」っていう依頼を断るとき、
どうやって伝えるのかなあ。
お会いするまでは、
すごいキリッとしてる印象だったけれど、
お話しているうちに、
全然、イメージが変わりました。
もっと動画的なものに出た方がいいですよ、
チャーミングで、みんな好きになっちゃう。
- 中川
- そんなことないです(笑)、けど、
やっぱりキリッとした人だと
思われることが多いですね。
怒るかどうかっていうと、
やっぱり怒らないです。
- 伊藤
- でも理不尽なことはイエスって言わないだろうし、
あと、そもそも、変な人が寄ってこなさそう。
- 中川
- それはあるかもしれないです。
あと、違うなと思っても、
そう言った人にはなにか理由が
あるんだろうからと思って、そこから聞きます。
そして言うことは言うけれど、
押さえつけるように言うわけじゃないですよ。
ただ、自分のバイオリズムなのか、
“ものすごくムカつく日”っていうのがたまにあって、
その日はもう“理不尽正子”になっちゃう。
そういうときは、家族に対してですけれど、
「今日、黒正子なんで、be careful!」
みたいに言っておきます(笑)。
- 伊藤
- そうなんだ。でも言ってくれたら、家族も安心。
どういうふうにムカついちゃうんですか。
- 中川
- 例えば夫のシャツとパンツの組み合わせが
少しだけ合ってないと
「なんでそんなので出かけられるの?」みたいな。
夫は建築をやってるんですけど、
「そういう美しさをちゃんとしとかないと、
みんな心配するよ」って言いたくなっちゃう。
でもふと、このコーデで前も出かけたときがあったけど、
変だと思っても「いいんじゃない?」だったよなぁ、
って思い出すんです。
あぶないあぶない、今日は黒正子だ、
もう誰ともしゃべるのやめよう、と思います。
- 伊藤
- じゃ、言わずに自分でbe careful。
- 中川
- はい。何度か失敗して、
最近やっとそれができるようになりました。
服のコーデだけじゃなくて、
夫は普段から要らんことを言わない人なんですけど、
その日は何気ない会話が
要らんことに思えてカッチーン! みたいな。
「だったらさ、前から言いたかったんだけど?」
みたいな黒正子が出てきてしまう。
- 伊藤
- もう絶対落とし前つけたい! って。ふふふ。
- 中川
- 気づくと、私がいけないな、
ほんとすみません、みたいになります。
- 伊藤
- そっか、そっか。
- 中川
- 今後は加齢にともなう身体的な変化もあるだろうし、
黒正子がレギュラーになると困るので、
ちゃんと気をつけようと思ってます。
あの人、結構ダメなんで‥‥。
そういうときに限ってものすっごく悪い言葉が
出てくるんですよ。立て板に水で、
その人の痛いところをブワーッと突くような。
- ──
- 黒いクリエイティブが‥‥。
- 中川
- そうなの。滑舌もいつもよりよくて。
「あなたのために言ってるんだから」
みたいなもう一番嫌なやつが出てくる。
ほんとにあの人を撲滅したい(笑)。
- 伊藤
- そういうの、あとで反省したりするんですよね。
- 中川
- そう、何度かやってしまって、そのたびに猛省。
いまはほんとうに疲れてるときにだけ、
穏やかめに出てくるくらいになりました。
- 伊藤
- すごい! 面白いです。
- 中川
- 夫のコーデどころか、他人まで気になったりして。
道歩いてるおじさんのネクタイに、
「いや、そのセンスは古い」とか(笑)。
- 伊藤
- ふふふ。わかりますよ、
「あのおじさん、もうちょっと
サイズの合ったスーツを着たらいいのに」とかね。
- 中川
- 見知らぬおじさんの服装なんて、
世界で一番関係ない話なのにね。
ひいては「だからニッポンは!」みたいな(笑)、
考え始めると、もうね。
- 伊藤
- わたしもありますよ、
50代前後ゆえの身体と気持ちの揺れのせいか、
車の運転で自分がいつもより怒りっぽい。
それは、自分で気づいた、自分の変化だったかも。
- 中川
- でも声に出してとか、なさそうですよね。
- ──
- 仕事をご一緒しているぶんには、ありません。
- 伊藤
- だったらいいんですけれど(笑)。
でも最近、「ちょっと飽きてきちゃった」
とか言ったりしますよ。
ひとつのことを続けていると、
そうなるんです。
- 中川
- 自分の感情に正直なんですね。
- 伊藤
- 正直でいる方が、うまくいくんじゃないかな、
と思っているところがあるんです。
言い方を変えれば「わがまま」な部分かもしれませんが、
そこも自分の仕事になっている気がするんですよ。
- 中川
- weeksdaysはまさこさんの目や感覚を
みんなが信じて来るお店だから、
まさこさんにウソがあったらいけないんですよね。
- ──
- 最近お話ししたのは、
スケジュールがルーティーン化しないように、
ということでした。
春はこれ、夏はこれ、秋はこれ、冬はこれって、
先々のことが、決まりかけちゃうんですよ。
そうするとそれに従っていくことになる。
あたらしいものをもっと見つけましょう、って。
- 中川
- そっか、たしかにそうですよね。
- ──
- それを「いったんやめようか?」と。
来年の「weeksdays」は
またあたらしい発信のしかたをすることに
なると思いますよ。
- 中川
- わぁ。そこで止まれるの、素晴らしいですね。
- 伊藤
- 正子さんもそういう場面、
経験があると思うけれど、
対談をしましょうとなったとき、
「こういうことから入って、
ここに落としどころをつけましょう」
と先に言われてしまうと困ってしまう。
そういうときは、
「いや、全然そんなこと思ってないです」とか、
「そういうときもありますけど、
いつもそうだとは限りません」
って言ったりしちゃうかもしれない。ふふ。
- 中川
- (場を)揺らす感じですね!
来年は大きいバッグが好きになるかもしれませんし。
- ──
- メディアは、特集が
「小さいバッグが正解!」だったら、
編集者、ライター、一丸となって
その方向に突き進むんですけれど。
- 伊藤
- そりゃそうですよね。
雑誌だったら特集の方向性も、
文字数の制限もありますしね。
ほぼ日のいいところは、対談でもミーティングでも、
最初に結論や着地点を決めないし、
話が行ったり来たりして全然別のとこに行っても、
いろんな寄り道からまた新たに
いろんなコンテンツが発生することを
よしとしていることですよね。
それはすごく面白いし、
webならではで、とても楽しいなと思うんです。
- 中川
- 小さい嘘がどんどん見透かされる時代に
なってると思うんですよ、見る側も読む側もね。
だから「なーんだ、モノを売りたいから、
嫌々でも話しているのね」みたいな感じになったら、
私たち、すぐその匂いをかぎ分けますよね。
消費者としてすごく敏感になっています。
- 伊藤
- そうなんです。
「weeksdays」は
「売りたい」より先に
「自分が欲しい」っていうのが、
チームのなかに、強くあるんです。
- 中川
- そうなると、まさこさんの「飽きちゃった」は
やっぱりすごく大事だと思います。
個人のわがままのようでいて、
炭鉱のカナリアじゃないですけれど、
私たちは最初にピヨって言う声に耳を澄ませる感じ。
そのピヨピヨはちゃんと聞いといた方がいいよ、って。
- 伊藤
- そっか!
- 中川
- まさこさんのピヨピヨは大事なピヨピヨ。
岡山で気づいたこと
- 中川
- 私、もうやめちゃったんですけど、
ヒップホップダンスを習ったんですよ。
- 伊藤
- えーっ。
- 中川
- もうそれこそ超無駄ですよ。
いまだに全然踊れないし(笑)。
- 伊藤
- なぜヒップホップに?
- 中川
- もともとダンスを見るのが好きだし、
音楽のヒップホップも好きなので、
私も踊りたい、と思ったとき、
目の前にダンススクールがあったから
入ってみようって。
ところが先生も若いし、
生徒もそれこそ10代や20代で、
超・踊れる人ばかり。
「あの人誰だろ? なんでいるんだろう」
ってみんなが思っている中、
ちょっと遠巻きにされながら、やってました。
- 伊藤
- それは無駄というより、余裕?
- 中川
- たしかに無駄といっても
ネガティブな意味じゃなく、
ポジティブな意味での無駄なんです。
うまくはならなかったんだけれど、
もしうまくなったとしても、
みんなの前で踊りたいとかでもないし、
コンテストに出たいわけでもない。
もうただ踊れる自分をこっそり鏡の前で見て、
ニヤニヤしたい、ただそれだけなんです。
- 伊藤
- そっかぁ。
- 中川
- やっぱり、映画を見ても
本を読んでも、ステキなものを見ても、
仕事のためなんて思ってないのに、
やっぱり結構役に立っちゃうでしょう、
なんでも。
- 伊藤
- わかります。
- 中川
- そうじゃないことがしたいと思ったとき、
ヒップホップが一番象徴的だったんですよ、
この役に立たなさが、と思って(笑)。
- 伊藤
- それってわたしが帯を一反織ったのと似てるかも。
わたしは無駄というか、
無心になる時間が必要だった気がしたんです。
それこそほんとになんでも仕事になっちゃうというか、
すぐ仕事に結びつけて考えてしまう。
帯を織るのは、とにかく縦糸と横糸をずっと見て、
自分が手を動かしたぶんだけ成果が見える。
それがすごく楽しくて。
- 中川
- 結構トランスっぽく集中しそうですね。
- 伊藤
- そう、食べもせず飲みもせず、
気がついたらすっごいお腹を空かせてました。
- 中川
- いつのまにか布がすごく伸びてる。
- 伊藤
- 先生に「こんな人いないわよ」って言われました。
織り上げるのが速かったそうです。
- 中川
- ふふ、さすがです。
- 伊藤
- 糸を染めるのも、5秒ぐらいで、
きっぱり「全部赤にします!」みたいな。
- 中川
- 私、コロナ禍で編み物にはまったんですが、
ちょっと似たところがありました。
小学生以来の編み物だったんだけれども、
やるならちゃんとしたい、と、
編み物のエキスパートの知人に
オンラインで教えてもらいながら
いきなりセーターを編んだんです。
ほんとうに集中してずっと編んで、
4時間とか5時間とか連チャンでやってると、
肩も首もバキバキで。
気づいたら目の前にこんなに伸びた編地があり、
とうとう襟をつけたらセーターになったんですが、
その1カ月は取り憑かれてました。
歩きながら編んだりもして。
- 伊藤
- すごい。その「いい意味の無駄」は、
以前から思っていたことだったんですか。
それともコロナだったり、
お子さんがちょっと大きくなったとか、
そういうきっかけがあって?
- 中川
- たしかに20代後半から30代終わりぐらいまでは、
あまりにも多くの仕事をしていたし、
そこにフォーカスして成長したかった。
だから、いっぱい遊んでいたけれど、
役に立つ遊びをしていた気がします。
それがいったん落ち着いたということでしょうね。
- 伊藤
- 岡山に移り住んだことが影響をしていますか。
- 中川
- それは大きいかもしれません。
岡山に行って初めて、
専業主婦そして一般企業勤務の友達が
たくさんできたんです。
東京で写真家の仕事をしている中では
出会えなかった人がおおぜいいて、
そういう人たちが初めてのママ友、
パパ友になっていきました。
彼ら、土日の使い方がすごく上手で。
- 伊藤
- え、どんな?
- 中川
- 土日への熱量がすごいんです。
キャンプするとか、イベントに行くとか、
ちゃんと遊ぶの。
月~金、きっちり働いて。
- 伊藤
- メリハリがあるんですね。
- 中川
- そう、メリハリですね。
私、働いてるんだか遊んでるんだか
わからない感じだから、
土日ものんびり何もせず過ごししちゃったり。
でもみんなは無駄なく週末を使うんですよ。
たとえばキャンプギアをそろえて、
その2日間はキャンプに全集中、
みたいな友達が何人かできて、
その様子がカッコいいんです。
それから肩書では専業主婦でも、
アメリカの大学に行って美術を学んで、
世界一周自転車で回ったりした経験があって、
やたらクリエイティブに主婦をやってる友達とか。
東京にいると、
そういう人はつい仕事になってしまうけど、
彼女はそうじゃないんです。
編み物しても縫い物しても料理もなんでも上手だし、
DIYもしちゃうんだけど。
そういう人たちに会ったことで、
「私マジで仕事しかしてこなかったかも?」
って気づかされることになりました。
まるでみんなが北欧の人に見えるんですよ。
ライフをすごく楽しんでる。
私はワークの中にライフがいっぱい入ってるから
ちゃんと充実してるって思っていましたし、
実際そうなんですけど、
みんながライフに重きを置く感じに、
「ここは概念としての北欧だ、
すごくカッコいい!」って思えたんです。
- 伊藤
- 土地が東京から岡山に移って環境が変わった、
っていうだけでなく、
付き合う人に「おおーっ」て。
- 中川
- そうですね。
気づいてなかったけれど、
そこからやっぱり影響を受けていますね。
私ももっとちゃんと暮らしたいって思った。
ちゃんと洗濯物を干したいし、
収納もちゃんとしたいし、
“映え”なくていいから
普通のごはんをちゃんと作りたい。
そして、なんの役にも立たないことがしたいなって。
それは趣味とも違うんですよね。
“役に立たない楽しいことがしたい”、
そう言語化してたわけじゃないですけど、
気持ちとしてあったかな。
- 伊藤
- へえー。
- 中川
- それで山も登るようになったし、
サイクリングもめっちゃ行くし、
編み物もするし、ヒップホップも習うしと、
どれも、なんの役にも立たないんですけど、
超、楽しくて。
- 伊藤
- 写真というお仕事には
直接結びついていないかもしれないけれども、
正子さんの役には立ってますよね。
- 中川
- そうなんです。
- 伊藤
- わたしは、どうだろう?
そういえば。
- 中川
- まさこさんはライフをちゃんと楽しんでますよ。
仕事としてじゃなくて。
- 伊藤
- そうかなあ、楽しんでるかなあ。
- 中川
- まさこさんは
5時できっちり仕事を終わらせるでしょう?
私から見ると北欧の人びとと
同じようなライフスタイルに思えますよ。
- 伊藤
- すっごく集中して仕事をすると、
9時から5時までしか、
気持ちが、続かないんですよ。
- 中川
- そうですよね。
- ──
- 伊藤さんは、朝、
9時どころじゃない早さでは。
- 伊藤
- そういえばそうですね、
みんなに連絡をするのは9時から5時ぐらいまでって、
一応、なんとなく決めていて。
朝、日の出とともに起きるので、
9時前に原稿を書いたり校正をしたり、
メールを送ったりしています。
- ──
- 以前の「ほぼ日」は24時間態勢みたいに
いつでも連絡を取り合う文化で、
朝起きて読むだろうからと
夜中でも平気でLINEを送ったりしていたんですが、
でも伊藤さんにはしないようにしていますね。
- 中川
- 素晴らしいですね。
- 伊藤
- いまは、5年前の
「weeksdays」立ち上げの頃とはちがい、
そんなに緊急なことってないですし、
どこかで腹が据わった感じがしますね。
‥‥いつ腹が据わったんだろう?
- ──
- 伊藤さんは、ひょっとして若い頃から
そういうところがおありだったのでは。
- 伊藤
- そうかも。30代くらいからそうだったのかも。
- 中川
- 昔のスタイリストさんっていうと
結構無理して時間外まで働く
イメージがありますよね。
- 伊藤
- わたしの場合は、自然光での撮影が多いので、
夕方には終りになるんですよ。
そういうこともあって、
5時には仕事を終えるというスタイルが
生まれたのかもしれません。
- 中川
- 日が暮れたらおしまいみたいな。
- 伊藤
- もうできないんです。
朝から、あれして、これもして‥‥って段取って。
そして、夕方に電池が切れる。
- ──
- ロケで地方に行ってもそうですよ。
ちゃんと夕方に撮影を終えて、
いったん解散して、宿に戻って、
シャワーを浴びて、
小さなバッグだけで再集合して、
さあ飲みに行こう! みたいな。
- 中川
- へえー、ステキ。
いいですねえ。
再入荷のおしらせ
完売しておりましたアイテムの、再入荷のおしらせです。
11月16日(木)午前11時より、以下の商品について、
「weeksdays」にて追加販売をおこないます。
MOJITO キャップ
朝、散歩に出かける時に、
さっとかぶれるキャップがあったらいいのにな。
整える前の髪や、
メイクする前の顔が隠せるばかりか、
かぶるだけでちょっと洒落た感じにさせてくれる、
そんなキャップがあったら。
‥‥という不精な考えから思いついたにも関わらず、
街でも堂々とかぶれる、すてきなものができました。
形にしてくれたのはMOJITOの山下さん。
キャップを作るのならば、この人!
そう思ってお願いしたのでした。
素材やステッチの幅、サイズを調整するための金具‥‥
小さなものなのに、
いえ、小さなものだからこそ
こういったディテールが大事なのです。
一見ものすごくシンプルですが、
じつはツバがふつうより少し長め。
これ、小顔効果もあるし、日よけもできる。
男女問わず、いろいろな人にかぶってもらいましたが、
不思議とみんな似合うんです。
初夏から真夏はもちろん、
秋も冬も大活躍すること間違いなし。
ワンピースに合わせてもいいなぁなんて思っています。
(伊藤まさこ)
頼りになる娘たち
- 伊藤
- ちなみにこれから先、
髪の毛をどうしたいか、ってありますか。
グレーヘアにするとか?
すっごく似合いそうですよ、20年後とか。
- 中川
- まさに私、50になったところなんですけど。
- 伊藤
- わぁ(拍手)、おめでとうございます!
- 中川
- ありがとうございます。
それを機にだいぶ明るくしたんです。
ハイライトをバンバン入れました。
以前はダークブラウンで、
その前は真っ黒にしてたんですよ。
- 伊藤
- 50歳で気持ちが変わりましたか?
- 中川
- そうですね、50をきっかけに。
普通に白髪がめっちゃあるので、
2週間ごとに美容院にカラーに行っていたんです。
それが忙しいなって思ったのと、
隠すっていうのが
自分の性格にあんまり合ってないなって。
- 伊藤
- おぉ!
- 中川
- やっぱり10の位(くらい)が5、
という数字だということが、
自分の中でもインパクトがあって、
必死に白髪を隠すのはもういいっかって思って。
でも、いきなりグレーヘアはさすがにちょっと、
みんなもビックリしちゃうから。
- 伊藤
- 絶対カッコいいですよ。
似合うタイプですよ。
- 中川
- ありがとうございます。
徐々に行こうかなと。
まずは黒と白と、ハイライトに金を入れて、
黒・金・白のシマシマの髪形に
しようかなって思ってます。
- 伊藤
- 着実にいろいろと考えていてすごいなぁ。
わたし、50歳になったときのこと、覚えてないです。
- 中川
- えっ、ほんとですか(笑)。
- 伊藤
- 区切りをぼんやり過ごすタイプなんです。
- 中川
- それもステキですよ。
私も自分の中で、って話なんです。
20代から結構白髪があったから、
さすがに早いよなあと思ってずっと染めていたんです。
でも50歳ということで、
「もう、いいっしょ」みたいな感じになって、
フェーズを変えようかなあみたいな。
これから真っキンキンになっていくと思います。
- 伊藤
- それはまさにカッコいいタイプ、
まっしぐらじゃないですか。
- 中川
- そっか、ほんとですよね。
だからこそかわいいものを持ったり、
態度をかわいくしたりして、ちょっと。
- 伊藤
- でも髪の毛の色が変わったら、
小物とかも明るくなったりするかもしれないですよ。
- 中川
- そうかもしれないですね。
これから実験していこうかな。
- 伊藤
- 息子さんが中1っておっしゃったけど、
お母さんの装いや髪の色のことは、
チェックしてくれるんですか。
男子って、どうなんだろ?
- 中川
- 小さな頃から常にそういう話をしてきたんです。
「このピアスどう?」とか、あえて。
だから今では夫より先に変化に気づきますよ。
「その髪色、いいじゃん」とか。
- 伊藤
- すごい。それは育て方がよかったんですよ。
母と息子の関係がいいような気がします。
- 中川
- ウフフ。
インスタのリール(短い動画)で、
最近の若い子の細い前髪について、
どういうふうにスタイリングするかっていうものがあって。
どうやってあれをキープするのかなって
前から気になってたから、何度も見ていたんですよ。
そしたら息子が横から見て、
「ママ、それは20歳ぐらいの女の人の前髪だから、
やめた方がいいよ」って言ったの。
「べつにやらないよ!」って言い返しましたけど。
- 伊藤
- 正子さんは気になってただけなのにね。
- 中川
- そう、研究してただけ。
いろんなスタイリング剤を使ってつくるんだなぁって。
それを本気で心配してて。ありがたいです。
- 伊藤
- でも家族のそういう意見ってほんとに大切ですよ。
「似合わない」とかいうのも、
ほんとなんだなあと思うし、
わたしも娘の意見は参考にしてます。
- 中川
- 娘さんは頼りになるでしょ?
- 伊藤
- メイクとかね、してくれたり。
- 中川
- 「それ、ないわ」とかおっしゃいます?
- 伊藤
- すっごい厳しいです。
- 中川
- 厳しいの?(笑)
- 伊藤
- 厳しいんです。
プロデューサーぽいので
「P」(ピー)と呼んでます。
例えば、以前、TVの情報番組の出演依頼があって、
どうしようかなーとって言ってたら、
「見ない番組には出ない方がいいんじゃない」。
「そ、そうですよね‥‥」って。
- 中川
- 鋭い、P! 的確。
- 伊藤
- 家族ゆえの厳しさが。
- 中川
- ほんと、そうですよね。いいですよね。
- 伊藤
- こんなに脱線しまくってていいのかな。
話、ちょっと戻しましょうか。
- 中川
- そうですね。ふふふ。
このバッグについて
お話ししたいこと、たくさんあるんです。
- 伊藤
- 嬉しい! 話してみてください。
- 中川
- これ、素材はなんですか。
- 伊藤
- ムートンです。
これ、クラッチみたいに持っても
いいことに気づいたんです。
- 中川
- たしかに。モフモフなものって、
持ってるだけでかわいいですよね。
- 伊藤
- そうなんです、安心感があるというか。
- 中川
- 大きさとしては“ちびバッグ”ではなく‥‥。
- 伊藤
- これ、わたしにとっては入る方ですね。
例えばお財布とスマホも入ります。
正子さん、ちなみにお財布は
どんなものをお持ちですか。
- 中川
- キャッシュレス時代なので
お財布も私なりに小さくしたんです。
そんなお見せできるようなものじゃないですけど。
- 伊藤
- 小っちゃい、かわいい。
- 中川
- 小っちゃいですよ。
Aeta(アエタ)っていうブランドです。
日本の大阪のブランドかな。
旅先でのいろんな人との出会いを
コンセプトに「逢えた」という日本語から
名付けられたんですって。
- 伊藤
- これだったら、ピッタリじゃないですか。
- 中川
- それにリップとか入れて。
スマホと。
- 伊藤
- さすが、撮影慣れしていますね。
バランスが最高です。
- 中川
- 食事に行くなら、これでじゅうぶんですよね。
- 伊藤
- お財布につけているのは‥‥。
- 中川
- これ、めっちゃシュッとしたお財布なんですが、
大昔ですけど、私、元がギャルなので(笑)、
ちょっとこういうフサフサしたものを
つけたくなっちゃうんです。
- 伊藤
- ギャル?! ギャルだったんですね?
- 中川
- はい、25年前ぐらいの話ですけど。
ギャルは好きですよ、このテクスチャー(笑)。
- 伊藤
- なるほど。
- 中川
- 今もマインドだけがギャルなので、
こういうものを見ると
「かわいいー!」ってなっちゃう。
- 伊藤
- そっか、かわいげ、かぁ。
あんまり考えたことなかったかも。
ちなみにこのフサフサは、
どちらのものなんですか?
- 中川
- これは、“3”(sun)という、
東京から岡山に移住した友人のブランドの
フリンジキーホルダーなんです。
彼ら、BAILER(ベイラー)という、
船で使う、船底の水を汲み出す用の道具を
リモデルしたバッグが人気なんですが、
生産の過程で出た余材や、
デニムを織るときの経糸を使って、
こんなフリンジキーホルダーをつくっていて、
私はそれをお守り代わりにつけているんです。
かわいげとともに、
このバッグもそうですけど、
私の中で最近やっぱり
“無駄”が大事だなと思って。
- 伊藤
- 無駄?
- 中川
- とにかく実用的に、
飾りもそんなにいらないしってやってきたんですが、
あまりにも無駄がないなと思う、
「ちょっと余分なものっていうのがいいな」
っていうフェーズに来ているんです。
- 伊藤
- それはおうちの中とかも? 器とか。
- 中川
- はい、うちの中もそんな感じです。
- 伊藤
- おうちの中も「もう何もいらない」みたいな、
モノが多くて嫌だ、整理整頓!
みたいな時期もあったんですか?
- 中川
- 基本はモノが多いんですけど、
定期的にそれが嫌になって、
ミニマリストのマネをしてガッと減らすんです。
けど、なんか居心地悪くて、
使えない、面白いものをちょっと増やすんですよ。
そうするとなんかホッとする。
モノだけじゃなくて行為とか時間とかも
「この時間なに?」みたいな、
無駄が結構大事だなって。
これまで無駄がなかったから
そう思うのかもしれません。
- 伊藤
- 子育てのいちばん忙しい時期が
ひと段落したから、とか。
- 中川
- それもあるかも。
ちびバッグコレクション
- 伊藤
- 正子さんは、
ふだんの荷物はどんな感じなのかな。
荷物、多い方ですか?
- 中川
- そうですね、少なくはないです。
場合によるんですけど、
今日の荷物は「ありのまま」で、
小型のスーツケースに、
大きめのバッグをのっけてます。
- 伊藤
- お仕事もありますしね。
- 中川
- そう。カメラとその機材を持ち歩くと、
大きなサイズになっちゃうんです。
このバッグは春夏用と秋冬用があるんですが、
これは秋冬バージョンです。
マイフェイバリットバッグ、なんですけれど、
‥‥超絶、ボロすぎて、
今度リメイクしようと思ってるんです。
- 伊藤
- ふむ、ふむ。
- 中川
- それからこのエコバッグは、父からのプレゼントです。
父が今年82歳なんですけれど、
コロナ前に久しぶりに家族で海外旅行をした時、
お土産屋さんで5ユーロで買ってくれたんです。
「一緒に買ってあげる」って。
それが25年ぶりに父にものを買ってもらった思い出で、
「久しぶりにパパに買ってもらった!」と。
学生のときは、父の脛をゴリゴリにかじっていたので、
大人になってからは、ほんとに1円ももらわない
暮らしをしてきましたし、
旅行中も、若い頃のお詫びを兼ねて
私が払うっていうことを徹底してたから、
突然のことで、嬉しくって。
- 伊藤
- すごーい。それはいつの話ですか?
- 中川
- 2019年でした。コロナ禍の直前ですね。
それから嬉しくて使い続けているものだから、
「古着屋で買ったの?」って
聞かれるほどになってしまって。
新品だったんですけれど。
- 伊藤
- ステキさに安定感があります。さすが!
そっか、荷物の多さは、カメラ機材ゆえ。
- 中川
- もっとちゃんとした撮影のときは
もう1個カメラバッグを重ねるんですけど、
これは簡易バージョンって感じです。
バッグは汚れたら洗える素材です。
ザッツ(zattu)ってご存知ですか。
マイクロファイバーでできていて、
スエードっぽいけど洗えるんですよ。
- 伊藤
- 自立するかたちも、いいですね。
- 中川
- コロナ禍での生活でしたから、
ステキなバッグというよりは、
もう実用で。
- 伊藤
- お仕事を離れて、
お食事に行くときとかはどんな感じの?
- 中川
- かわいいものとか、小っちゃいものを持ちます。
クラッチも多いですよ。
それこそ「weeksdays」のゴールドのクラッチも。
- 伊藤
- ほんとに?
ありがとうございます。
- 中川
- ちびバッグって重宝しますよね。
ボストンの中に入れておくんですよ。
旅先でも便利なんですよ。
まさこさんの小さなバッグも見てみたいです。
- 伊藤
- わたしはね‥‥(準備する)、
こんな感じです。
なにも入らないんですよ。
- 中川
- ほんとだ、なにも入らないくらい小さい!
- 伊藤
- そうなんです。
カードと、リップしか入らない。
- 中川
- でも、かわいい。
超かわいいです。
- 伊藤
- このいちばん小さいバッグを持つのは、
さっき正子さんがおっしゃったように、
旅先で宿からレストランに行くとか、
そういうときですね。
東京でも、仕事を終えてあらためて出かけるとか。
そういうときは、お財布も持たず、
このちいさなバッグにカードだけを入れて、
スマホは服のポケットに入れて出かけるんです。
- 中川
- 今は、それでいいですよね。
カードとスマホがあれば。
- 伊藤
- (いくつかバッグをならべて)
こっちも、やっぱり何も入らない。
‥‥これも、何も入らない。
- 中川
- こういう小さくてかわいいバッグは、
無理に詰めて膨らませたくないですし。
- 伊藤
- たぶんわたしがこういう小さなバッグが好きなのは、
スタイリングが仕事で、撮影のときの荷物が多いので、
反動のような気がするんです。
- 中川
- “スタイリストバッグ”と呼ばれる、
巨大なものがありますよね。
- 伊藤
- そう、大きさでいうと、
IKEAのショッピングバッグの、
いちばん大きいタイプくらいあるんです。
スタイリストはとにかく荷物が多いですから‥‥。
反動で、ちっちゃいバッグが好きなのかも。
いくつ持っているんだろう‥‥、
1、2、‥‥10個もある。
- 中川
- すごーく、たくさん!
ちびバッグコレクション。
私も、テンションが上がります。
こういう、役に立たないかもしれないけれど、
うんと、かわいいものって‥‥。
- 伊藤
- そうなんです。
そして、ちびバッグに派手目のものが多いのは、
普段の格好がシンプルだからなんですよ。
だから小っちゃいバッグで質感とか色を足している。
- 中川
- それで、はっきりしたピンクのバッグも
お持ちなんですね。
かわいい!
- 伊藤
- かわいいですよね。
服でピンクはちょっと、という人も
いるかもしれないけれど、
もしかしたらバッグでピンクなら、
アリじゃないかな。
- 中川
- かわいげが出ますよね。
- 伊藤
- お似合いですよ!
- 中川
- 私は、この“かわいげのさじ加減”が
今後の課題だなと思っているんです。
すぐ“カッコいい系”になっちゃうから。
- 伊藤
- いいじゃないですか、カッコよくても。
- 中川
- うーん、悪くはないんですけど、
“カッコいい”と“コワイ”は背中合わせだから。
ふふふ。
- 伊藤
- なるほど! メモ、メモ。
- 中川
- まさこさんみたいな小柄なかわいい方はいいんです。
私、やっぱり背が高いし、疲れるとすぐ痩せちゃうし、
そうするとどんどん“コワイ”寄りになっていく。
だから、かわいげが大事だと思ってるんです。
- 伊藤
- そっか、疲れると痩せちゃうんですね。
- 中川
- そう、かわいい系の人たちって、
私から見ると、やっぱり得をしてるんだと思うんです。
- 伊藤
- でも、思われないですよ。
物腰がとても柔らかいですし。
- 中川
- 背が高いことと、
肌質とかもあるんですよ。
- 伊藤
- さすが、そこを見ている!
- ──
- 今日、パッて入ってこられた瞬間、
笑顔がとてもステキで、
一瞬で場がなごみましたよ。
- 中川
- あ、ほんとですか? うれしいな。
よかったぁ。
- 伊藤
- 正子さんは、口角が上がっているんですよね。
- 中川
- 真顔だとキリッとしちゃいますし、
ファッションでも、
リボン、フリル、細かい花柄とか
かわいいものが全部ダメなんです。
パフスリーブとかも。
- 伊藤
- そうかなあ?
- 中川
- 自分の苦手意識ゆえ、かもしれないですけどね。
だからすこしでもかわいげを出そうと、
小物でちょこっと、と、
ハート形のピアスとかを
最近取り入れているんです。
- 伊藤
- さきほど「肌質」とおっしゃったとき、
いつもお仕事でも普段でも
写真を撮ってらっしゃるからだろうなって感じました。
そういうのってプロの目ですよね、
- 中川
- それはあるかもしれないですね。
自分のことも、常にそう見ているんです。
- 伊藤
- 客観視できている?
- 中川
- そうかもしれない。
そんな大したものじゃないですけど、
絵になるものにピントが合う目になっているというか。
例えばレストランのイメージ撮影で、
実際にお客様を入れて撮るとき、
絵になる方に自然とピントを合わせているんです。
絵になるというのは、“その場が上がる存在”ですね。
すごくいいですよね。
自分がそんなふうに場を上げる人に
ならなくてもいいんですけれど、
下げる人間にはなりたくないなとは思っています。
ふさわしい、とか、明るくなる、とか、
自分のためというよりは、
みなさんのために“コワくない”ようにしたくって。
- 伊藤
- たしかに、口角が下がってる人と会うと、
なにかこちらがしてしまったかしら‥‥と、
不安に思ったりすることもありますよね。
やっぱりこの人に会って、せめて、
嫌だったなとは思われたくない気持ち、よくわかります。
「今日は楽しかった!」って思ってほしいですもの。
- 中川
- 装いもそうですよね。
「アタシ、ステキじゃない?」
っていうので服を着たいわけじゃなくて、
会った人がよかったなとか、
楽しかったなってなるといいなと思うんですよ。
いちいち話を戻しますけど、
そこにはかわいげが必要だなって思っているんです。
- 伊藤
- なるほど。
- 中川
- カッコいいはもういいわ、と思って。