永田 |
正月もずっとお仕事ですか? |
しばた |
いや、あたしゃ昨日からです。
29日からずっと休んでましたよ。 |
永田 |
タクシーの人ってお正月は? |
しばた |
いや、なかなか休み取らしてくんないんですよ、
正月とかお盆は。タクシー会社にしてみれば、
車が遊ぶことになりますからね。 |
永田 |
ああ、なるほど。 |
しばた |
でもねえ、正月はやっぱり、
のんびりしてるのがいちばんいいですよ(笑)。
昔とはぜんぜん違いますからね。 |
永田 |
お正月がですか? |
しばた |
うん、昔は正月っていう気分があったんですよ。
だから仕事してても楽しかったけど。
いまはそういう気分がぜんぜんないですもんね。 |
永田 |
ふ〜ん。なんすかね、その気分って。 |
しばた |
やっぱり、女性は着物着たりね。
車だって少なかったですよね。
今は正月だってなんだって車多いでしょう。 |
永田 |
ああ。それは、タクシー運転しながら眺めてる
街の風景が変わったっていうことですか。 |
しばた |
そうですね。昔は車のいない道を走ってると、
着物着た人が乗ってきてくれるわけですよ。
少しお酒かなんか飲んでね(笑)。 |
永田 |
(笑)。そういえば、昔の車って、
ほとんどお正月の飾りつけてましたよね。 |
しばた |
つけてましたつけてました。
今は景気悪いからつけないんでしょうね。 |
永田 |
景気なんですか? |
しばた |
あれは会社から支給されるもんですからね。 |
永田 |
ああ、なるほどなるほど。 |
しばた |
あと、お店やなんかでも全部やってますでしょ?
昔は寿司屋しかやってなかったんですけどねぇ。 |
永田 |
街のシャッターがほとんど下りてて。 |
しばた |
そうですよねえ。そういう雰囲気がないですねえ。
地方はどうか知りませんけど、
だんだんそういう雰囲気はなくなってますね。 |
永田 |
ずっと東京ですか? |
しばた |
東京です。もう20年近いかな。41から始めましたから。 |
永田 |
今おいくつですか? |
しばた |
61です。
|
僕は、窓の外を見るのだ。
20年間しばたさんが見てきた風景。 |
しばた |
だんだん変わっていきますね。
忘年会も少ないし、新年会も少ないし。 |
永田 |
ああ。あれですね、そういう、
季節のイベントみたいなもんが
だんだん少なくなっていくとタクシーとしては。 |
しばた |
ヒマなわけですよ。
だいたい、酔っぱらってるお客さんを乗せるって
ことがほとんどないですからね。 |
そう言って、しばたさんは笑う。
不景気な話をしながらも車内がちっとも重たくならないのは、
しばたさんの確かな視線のせいだろうか。
だって彼はずっと同じ高さで街を見てきたのだ。 |
しばた |
だけど今日、
あたしゃツイてるのかどうか知りませんけどね。
新宿から乗せた二人連れのお客さんが東府中まで
だったんですよ。それでね、そこで女のお客さん
下ろして、そのまま中野まで戻ってきたんですよ。
行き帰り高速使ってね。 |
永田 |
そういうお客さんは珍しいんですか? |
しばた |
珍しいですよお。だいたいあたし、高速乗ることが
ここんとこずーっとなかったですから。
で、戻ってきたら今度新宿の四丁目から、
日野ですよ、また高速で日野。 |
永田 |
へえ。じゃあ今年はツイてるんじゃないですか。 |
しばた |
うん。これで一年終わりかもしんないね(笑)。 |
永田 |
あはははは、ツイてますね。 |
しばた |
うん。今年はツイてんぞぉ。
不思議なもんですねえこれはねえ。 |
永田 |
あ、次の信号、左です。 |
しばた |
はい。 |