NAGATA
怪録テレコマン!
hiromixの次に、
永田ソフトの時代が来るか来ないか?!

第3回 友人と彼の娘のいる彼の奥さんの実家にて。

学生時代からの友人に子供が生まれた。
これが、思いのほかうれしかった。
意外なほどうれしかった。
なんだろう、これは?

まわりに子供が生まれたことが
初めてだったわけではない。
親戚や、姉や、上司や、後輩や、
その誕生に心から「おめでとう」と言ったことは
何度もある。

しかし、
同じように同じときを同じ場所で過ごした友人が、
好きな音楽や好きなマンガや口癖やなんやかやを
お互いに知っている「さいとう」が
父親になったと聞いたとき、
ひゃあとうれしくなったこの感じは
驚くほど予想外のものだった。
予想外のものなので驚いた。

彼と彼の娘のいる彼の奥さんの実家を訪ねた。
彼女はまだ生後9日目だ。

初めて会うさいとうの娘は、
とても小さかった。
眠り、泣き、ミルクを飲む。
なんとも不思議だ。
出産のどたばたエピソードを聞く。
明らかに奥さんのそれは武勇伝。
「映画館でお腹を蹴りまくるし」とか、
「つわりってちゃんと10分間隔なのよ」とか、
「痛くてそれどころじゃなくて」とか。
噂には聞いてたけど、やっぱ強いぜ、母は。

お茶をもらって一段落したあと、
僕は、さいとうを別室に呼んでテレコを回した。
どちらかというと、
僕の方が舞い上がっていたような気がする。
永田 どう? 実感は?
種の保存みたいなの感じる?
さいとう う〜ん(笑)、なんか、すごい遠いところでさ、
「・・・父親になったんだなあ」って感じかなあ。
永田 ふ〜ん。
さいとう 母親は自分のお腹を痛めて生んだわけだから
「自分の子供だ!」ってのがあるだろうけどさ。
永田 うんうん。彼女の話聞いてるとそうだったね。
ああいう、つわりとか出産の話聞いてるとさ、
・・・男子は不利だよね。
さいとう (笑)
永田 でもすごく不思議な感じだよね。
さいとう 不思議だよね。
「これが命かあ」ってのもあるし。
永田 ミルク一心不乱に飲んでんじゃん。
すごいなあと思ってちょっと感動しながら見てた。
さいとう 赤ん坊はただ生きるだけだからね。
そういうパワーは。
永田 すごいよね。
さいとう ただ生きるっていう。
永田 めっちゃピュアだよね。
さいとう 純粋な生き物だよね。
永田 うんうん。
さいとう そういうの見てると幸せになるっていうのはあるな。
永田 うん。なんだろね、あれ。あの幸せ感って。
さいとう やっぱ、美しいものを見るような。
花を見るようなもんなんだろうね。
永田 そうねぇ。そんな感じしたなあ。
さいとう ああいう原型っていうのは誰もみんな・・・。
永田 持ってるんだよねえ。
スタート地点は誰しもあそこなんだよね。
さいとう あの状態に戻れって言われても不可能だけどね。
でも誰もがああだったんだよね。
一番、子供生まれて思うのは、
そういう純粋なものを、
どうやったら残しておけるのかな
っていうことかな。
永田 失わずにあれをとっておくっていうこと?
さいとう 少しでもあれを残していければいいなあ。
それは過保護にどうこうするんじゃなくて。
純粋なものは残してあげたいなあ。
・・・それを考えるのが親なのかなあとか。
永田 そうだねえ。
でもそれってある意味相反することだよね。
あのままにして残すっていうことと、
一人の人として立派に育てるっていうのは。
たとえば名前をつけることだって。
さいとう うん。ある意味親のエゴだし。
赤ん坊にとって望むことはなんだかわかんないしね。
考えてみると、生後9日という赤ん坊を
僕はあんなに間近で見たことはないのだ。
過去、もっともピュアな人間を
見たということかもしれない。
言葉もない。歯もない。でもきっと何か考えている。
永田 いろんな選択を迫られるね、これからはね。
最初に与えるなんとかは、とか。
さいとう ものを教えなきゃいけないっていうのは
すごく大変だと思うけどね。
永田 ああ、そうだね。
さいとう 自分に自信があればいいけど、
自信がないとこまで教えなきゃいけない
っていうのはすごく難しいんじゃない?
とっても純粋なもののそばにいると、
なんだか祈るような気持ちになってしまう。
そして、さいとうは、
やはり父親としてすでに怒り初めてもいるのだった。
さいとう 間違いなくいまの世の中は
ろくでもなくなってきてるからね。
どうしてやったらいいのかなあ。
永田 だからっつって、田舎に引っ込んだら
OKってわけじゃないからね。
さいとう ニュースとか見てるとさ、
サイコ野郎がすっげえ増えてるからね。
将来はもっと増えるんだろうし。
それでも自分の道を行けるように、
・・・っちゅうのをなんか考えるよね(笑)。
永田 そうだろうね。

頼りないが、頼もしい。
根拠はないのだけれど。
永田 話しかけるとき、赤ちゃん言葉とか使える?
照れたりしない?
さいとう 赤ん坊とかを目の前にすると、
ためらわずに行けちゃうんだよねえ。
永田 ピュアなもんに弱いよね、昔から。
さいとう 弱い。本物が好きだからね。
永田 赤ん坊は本物だからね。
さいとう あんな本物ないね。
永田 ないね!
なんとも青臭い会話を、
僕らはゆっくり交わしていたのだ。
永田 正直、思いのほかうれしかったよ。
さいとう 永田は、いろんなこと喜んでくれっからねえ。
永田 バカみてえだな(笑)。
さいとう いや(笑)

彼女の名前は、「はるの」という。
宇多田ヒカルの700分の1しか生きていない
彼女の名前は、「はるの」という。

どうか、はるのちゃんが健やかでありますように。
この世界がまるごと健やかであるようにという、
大っきな願い事もついでにそこに添付しながら。

2000/01/14 石川町

2000-01-25-TUE

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