怪録テレコマン! hiromixの次に、 永田ソフトの時代が来るか来ないか?! |
第22回 虹を見たかい
僕の仕事場は6階にある。 あんまり高くはないけどそんなに低くもない。 まわりに高いビルがないせいもあって見晴らしはいい。 オフィスは基本的に禁煙になっていて、 喫煙者はちょっとしたスペースを区切られた喫煙室で タバコを吸うことになっている。 喫煙室は文字通り煙たがられているから、 フロアーの端っこにある。 それで幸いなことに、眺めがとてもよい。 大きな窓が二方向に開けている。 夕方、何時頃だろうか。 ぼんやりとタバコを吸って外を見ていると、 違和感があった。 ちょっと非現実的な感じだ。 虹だ。 何度見直してみても見間違いに見える。 違和感と既視感が交錯する。 虹だ。 思えば外は雨上がりで、 雲は薄い層になって幾重にも連なり、 空は個々に思い思いのブルーを成している。 眼前、奥から迫り来るようなテーブル状の雲があり、 そこに根を下ろすように見事な半円の虹がある。 虹だ! タバコをもみ消して喫煙室を飛び出す。 なんだって僕はこういうとき、 必ず誰かを呼びに行っちゃうんだろうか。 席に戻って漠然と場にそれを告げたとき、 思った以上に反応はなかったのだけれど、 (これまたよくある話だ) ひとりの編集者が過剰に反応して喫煙室へ走り出した。 僕も慌てて後を追った。 瞬間、頭の中をいろんなアドリブが駆け抜けて、 僕はきびすを返した。 バッグからテレコをひっつかんで出す。 もちろん電池もテープも入っている。 テレコマンなのでふつうです。 そして廊下を駆けながら魔法のスイッチを押すのさ。 クラーク・ケントが電話ボックスに駆け込むときって こういう感じかしら。 違うな、たぶん。
そして虹は本当に透けるように薄くなっていって、 ついには雲に溶けてしまった。 空は灰色とブルーに戻ってしまったけれど、 それはそれでけっこう綺麗だった。 夕方、何時頃だろうか。 彼は「綺麗なときに見るのやめとけばよかったな」と言って ゆっくりと喫煙室のドアを開けた。 僕は「そうかもね」と言って後を追った。 歩きながら、停止ボタンをパチンと押した。 2000/09/06 若林 |
2000-09-11-MON
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