怪録テレコマン! hiromixの次に、 永田ソフトの時代が来るか来ないか?! |
第25回 ザ・ロスト・テレコマン・テープ 読んでいただいているかたならご存じのとおり、 この『怪録テレコマン!』という企画は ほとんど特殊な技能を必要としない。 適当な場面で適当にテレコを回して録音し、 それを文章に起こしてまとめればいいという、 まったくもってシンプルな企画である。 いわば最初にやったもん勝ちのコンテンツである。 ではあるのだが、 1年この企画を続けてみると意外や意外 なかなか簡単には更新できず、 月に一度ほどというトホホな結果となってしまった。 別に苦労を認めてもらおうとは思っていないのですが、 21世紀を迎えるこのどさくさに乗じて、 ボツになった取材なんかを並べてみようかと思います。 要するに、僕の部屋には録音したものの 原稿にはならなかったテープがけっこうあるのです。 単独ではとても原稿にならないものの、 ボツとしてまとめればそれはそれで楽しんでもらえるかなと。 供養と思ってお付き合いくださいませ。 ●その1 満員電車 会社から終電に乗って帰ることがあり、 渋谷から高田馬場にいたる 山手線の中でテープを回しました。 酔っぱらいの独り言や、 家路に着く人々の雑然とした会話などが 断片的に集められるのではないかと思ったのです。 ところがまるでダメでした。 けっこうみんな静かです。 あと、電車の音がうるさいです。 男女の痴話喧嘩なんかの印象が強いのですが、 そういうのは特殊だからよく覚えているだけで 概ね電車の中はふつうでした。 ●その2 巨人戦 友人と東京ドームに巨人広島戦を観に行きました。 試合進行とともに白熱する会話などが録れるのではと 目論見ましたが、これまたダメでした。 再生してみると、 基本的にラッパとメガホンの音と大歓声。 僕らの発する声ときたら、 「うおおおお」だの「ああああ」だの 文字にする意義のない擬音ばかり。 そんな状態が2時間以上続き、 途中でテープ起こしをあきらめました。 ●その3 花見の焼きそば屋 春に国立でお花見があり、 大学時代の友人たちと場所を取って楽しみました。 そこに出店がいくつかあり、 適当な焼きそば屋に行って そばを焼いているおじさんに インタビューしようとしたのです。 いけそうな企画でしたが、 なんと僕は勝手にインタビューを断念してしまいました。 なぜかというと、僕は桜の花が大好きなので、 鮮やかなピンク色に囲まれてほのぼのしているうちに 「まあいいや」ということになってしまったのです。 完全なる怠慢で反省しきりです。 けっきょく焼きそばをひとつ買って席に戻りました。 ●その4 渋谷地下街の物売り 渋谷の地下街の踊り場のところで、 日替わりでいろいろなものを売っているところがあります。 売ってるものは時計だったりネクタイだったり バッグだったりいろいろですが、 それらに共通するのは 工夫の凝らされたテンションの高い呼び込みです。 要するに「よってらっしゃい」というやつです。 ある日その付近を通るとこんな売り文句を耳にしました。 「はい、ただ今さらに値引きいたしてますよ。 値段は言いませんから、見て確かめてください。 さっき値段を言いましたらね、 このまえ3割引で買ったお客さんから 怒られちゃいましたから。 だから値段は言いませんよ、見て確かめてください」 いやはやなんとも洗練された呼び込みだ。 僕は感心したけれど、その日は急いでいたので そのまま通り過ぎた。 後日、僕はその売場の脇に人待ち顔で立ち、 こっそりテレコを回しました。 ところがちっとも気の利いたことを言わない。 呼び込む人が違うのか、 数種類のありふれたフレーズを使い回すばかり。 結局30分近くそこに立っていたけれど、 あきらめてテレコを止めて立ち去りました。 ●その5 夢遊病の女性 同僚の彼女が夢遊病というか、 寝ているときに起きて 本人の自覚にあずかり知らない行動をとるというのです。 ある酒の席でその話になり、 その突飛な言動に驚いた僕は 机上にテレコをすえてスイッチを押しました。 そのエピソードはかなりおもしろいものだったのだけれど、 再生してみると「こりゃだめだ」という感じでした。 なにしろ人数が多く、 そのほとんどがけっこうな酔っぱらい状態。 話がしょっちゅう脱線するし、 オチがわからないままの話もあるし、 テンション高すぎて声は割れてるし、 酔っぱらった風景として楽しむにしては 中途半端に夢遊病の話がおもしろくて気になる。 そんなわけでこの取材は後日きちんと行おうと思い、 原稿にはしませんでした。 その後、あろうことか同僚と彼女が 冷却期間に入ってしまい、 取材する機会が訪れないままです。 がんばれよ、K。 ●その6 アンケートを取る青年 仕事を一段落させて食事へ出掛けようとすると、 会社の前になにやら紙とペンを持った若者が立っています。 僕らが行くと近づいてきて、 職場についてのアンケートに答えてくれませんかと言う。 見たところセールスやバイトの類でもなさそうだし、 アンケート用紙も素人くさい。 なんのためのアンケートですかと聞くと、 「就職活動のために役立てるのです」という。 なるほどと思いアンケートに答え、 僕は彼に逆取材しようと考えました。 しかし当然そのときは手ぶらでテレコを持っておらず、 いっしょに食事に行こうとしている同僚を つき合わせるわけにもいかなかったので 急いで食事を済ませて会社へ戻りました。 するとすでに青年はいませんでした。 うーん、残念。 ●その7 救急車 つい先日のことなのだけれど、 自宅でだらだらテレビを見ていたら 救急車のサイレンの音がした。 音はだんだん近づいてきて、 なんと近所でピタリと鳴り止んだ。 カーテンを開けてみて驚いた。 斜向かいのマンションの前に、 救急車が1台、パトカーが1台、消防車が2台。 しばらく窓から眺めていたのだけれど、 警官や救急職員が物々しく行き来している。 どうしたものかと悩んだけれど、 結局テレコをつかみ、 パジャマの上にコートを羽織って下りてみた。 同じマンションの人も集まっていて、 心配そうに眺めている。 しばらくして男が一人パトカーで連行され、 もう一人が救急車で運ばれていった。 野次馬どうしの会話は録音したけれど、 なんだかそれを読み物にするのは 不謹慎な気がして文字にしなかった。 ●番外編 仕事で取材中に 雑誌のほうの仕事で、 ある外国のクリエイターにインタビューしていた。 僕は仕事のときのインタビューには DATという、音質のよい録音機材を使っている。 そのときもそのDATを机に置いて いろいろと質問したりしていたのだけれど、 突然DATからガシャガシャいう奇妙な音がして テープが回らなくなってしまった。 焦っていろいろ試したのだが、うまくいかない。 完全に故障である。 取材相手も心配そうに眺めている。 場の雰囲気も悪くなる。 そこで僕ははたと思いついた。 「もう1台持ってるじゃん!」 僕はバッグの中からテレコを取り出し、 何食わぬ顔をして回し始めた。 きっと相手は用意周到な編集者だと思っただろう。 テレコマンでよかった、と安堵した瞬間である。 だってどこの世界に取材用の録音機材のほかに プライベートでテレコを持ち歩いてる男がいる? ええと、ざっと思いつく限りでそんな感じです。 21世紀もバリバリと録音していきたいと思います。 よろしくお願いいたします。 |
2000-12-31-SUN
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