永田 |
あのですね、僕、もちろん『千と千尋』を
すごく楽しみにしてるんですけど、
前情報を一切入れてなくて、
あの、宣伝担当の人にこんなこと言うのは
失礼だと思うんですけど、
コマーシャルとか一切観ないようにしてるんですよ。 |
小柳 |
あははははは。 |
永田 |
なので、あの、大変恐縮なんですけど、
今回は具体的な情報以外のことを
なるべくお聞きしたいなというか、
「前情報は要らない!」っていう人にも
読めるような読み物にしたいなって
思ってるんですよ。 |
小柳 |
なるほど(笑)。 |
映画の宣伝担当者に取材しながら
「情報は要りません」とは、
これまたどういう了見であろうか。
非常識なり、テレコマン。
失礼千万なり、テレコマン。
ともあれそういうわけですから、
ここから先には具体的な情報はほとんどありません。
僕みたいな人でも安心して読むことができますよ、
とか言ってみたりして。 |
永田 |
ええと、小柳さんが観られたのは
絵コンテとラッシュだとお聞きしたんですけど。 |
小柳 |
はい。 |
永田 |
ラッシュっていうと、
僕は漠然と“だいたい出来上がったフィルム”くらいに
思ってるんですけど、
小柳さんが観たのはどんな感じのものだったんですか? |
小柳 |
ええと、あの、これはアニメの制作の仕組み上
しょうがないことなんですけど、
全部絵が仕上がってからアフレコ(台詞を入れる作業)に
入るっていうことがすごく少ないんですよ。 |
永田 |
うんうんうん。 |
小柳 |
こう台本持って実際にアフレコしてるときでも、
絵が三分の一くらいしか出来上がってない、
なんてことはざらなんですね。
で、声優さんは出来上がってないフィルムを観て、
吹き出しが画面にポコンって出てきて
その瞬間にしゃべるとか、
赤い線がピーッって出てきてそのときだけしゃべるとか、
そういう感じなんですよ。 |
永田 |
はあはあはあ。 |
小柳 |
だからまあ、出来上がってないけれど、
少しでもアフレコしやすくするために、
完成した絵と、完成していない、
線だけの絵とか背景だけの絵とかをつなげて、
仮のフィルムを作るわけなんです。
要するに、いまあるだけの絵を
順序よくつなげてあるフィルム。
それをラッシュって呼んだりするわけなんですよ。 |
永田 |
なるほど。それをご覧になったと。 |
小柳 |
ええ。なので、観たのは出来上がりから考えると
たぶん半分程度なものなんですよ。 |
永田 |
完成度としては、っていうことですよね。 |
小柳 |
そうそうそう。
できてないところもいっぱいあるし、
声も入ってるところと入ってないところがあって。
声優さんじゃない人が仮に声を入れてあるところとか。
だから、完全に出来上がったものを
観たわけではないんです。 |
永田 |
はい。 |
小柳 |
あとですね、これはラッシュを観る前なんですけど、
宣伝という立場上、
絵コンテをわりと早くに読むことができてまして。
とくに宮崎さんの絵コンテというのは
完成度がすごく高くて、なんていうか、
ふつうにマンガとして読めるくらいなんですよ。 |
永田 |
あ、そうですよね。いくつか読んだことあります。 |
小柳 |
だから話の流れみたいなものは
ラッシュを観る前につかんでいたんです。
そのほかにも予告編とか、
短いプロモーション映像なんかも観てまして。
つまり、ありとあらゆる予備知識を
仕入れていたわけなんです。ラッシュを観るまえに。 |
永田 |
そうなりますね。
なんたって筋を知っちゃってるわけですもんね。 |
小柳 |
それは、もう。
プロデューサーが熱く語るところとかも全部聞いてますし、
ホントになんでもかんでも情報が入ってたわけです。
だからありとあらゆる予備知識を頭に入れて、
それで、50パーセントくらい出来た
ラッシュを観たわけなんですよ。
絵もできてません、声も半分くらいしか入ってません、
っていう状態のものを観たわけなんです。 |
永田 |
……で? |
小柳 |
で! |
永田 |
で!? |
小柳 |
「すっげーーー!」 |
永田 |
ああ、そうなんだあ! やっべえ。 |
小柳 |
っていう感じで。 |
永田 |
はあ〜。いや、もうそれだけ聞けたらいいや。
ええと、帰ろうかな(笑)。 |
小柳 |
(笑) |
なんだか、ここまで書いてて思ったのだけれど、
あれですね、ホントに宣伝みたいですね。
試写会のあとの客の声を集めたコマーシャルみたいですね。
こういうのを読むと、
「新手の宣伝方式か!?」とか勘ぐる人がいそうですけど、
ぜんぜんそんなことないんですよ。
念のため。
|
永田 |
それはその、すごいっすね(笑)。 |
小柳 |
うん。もう「すげっ!」っていう。 |
永田 |
すげえんだあ。
でもその……どう、すげえんですか? |
小柳 |
う〜んとですねえ。 |
永田 |
ああ、でもその、
あんまり情報を出さないように説明してください。 |
小柳 |
(笑) |
永田 |
すんません(笑)。 |
小柳 |
ええと、なんていうんでしょうねえ。
……魂、入っちゃってますねえ。 |
永田 |
ああ〜。いいっすねえ(うっとり)。 |
小柳 |
「こんなに入れちゃって大丈夫?」って
心配になるくらい(笑)。 |
永田 |
はあ〜。でも『もののけ姫』も、
割とそういう感じというか、魂でしたよね。
ああいう入り方とも違うんですか? |
小柳 |
まああれも入ってるんですけど、
あれは、宮崎さんの
体力的な部分が入ってると思うんですよ。 |
永田 |
はああ、なるほど。魂というよりは情熱というか。 |
小柳 |
そうですね。
実際『もののけ姫』のときは宮崎さん、
終わったあとに
肉体的にボロボロになってましたし。
プロモーション活動の合間に
針治療に通ったりしてましたし(笑)。
だからそれに比べると、
今回はどうも魂の部分が入っちゃってるかな、と。 |
永田 |
なるほど。 |
小柳 |
ていうか、これじゃ説明になってないですよね(笑)。
う〜ん、困ったなあ。
「すごーい」とか言ってるだけですもんねえ(笑)。 |
永田 |
いやいや!
十分伝わってますというか、いや、
伝わってはないのかもしれませんけど(笑)、
あの、なんていうか、満足です。 |
小柳 |
あははははは。
でも知ってる人に説明するのも
難しいくらいなんですよ。
たとえばアニメ雑誌の方とかは、
かなり情報を入れてらっしゃるんですけど、
その人にさえ、観たもののすごさを伝えるのが難しくて。 |
永田 |
へええ。 |
小柳 |
細かいところとか、
「ああなってこうなってこうなるのよ」っていうのを
説明してもたぶんしょうがないんですよね。 |
永田 |
うんうんうん。 |
小柳 |
だからもう……「いいから観とけ!」って
いうことになっちゃうんですよ。 |
永田 |
いや、もう、僕はそれでいいです。 |
小柳 |
でも本当はそれじゃいけないじゃないですか。 |
永田 |
ああ、はい(笑)。宣伝担当としては。 |
小柳 |
あんまり煽っちゃって、
すんごい期待させちゃって、
観て「なあんだ」ってなっちゃうのもいやだし。
かといって、
小出し小出しにしていくようなものでもないし。 |
永田 |
なるほどなるほど。 |
小柳 |
だからたとえば雑誌の方のために、
ひとことでこの映画を表したり
しなきゃいけないんですけど、
何言っても違うような気がしてきちゃうんですよね。
言えば言うほど……。 |
永田 |
離れていく。 |
小柳 |
でも言わなきゃいけない。 |
永田 |
つらいですね(笑)。 |
小柳 |
そう。雑誌の校正とかをチェックしてても、
「これ違うよな〜」っていう表現があるんですよ。
でもうまく直せないっていう。 |
永田 |
ああ、違うのはわかるんだけど、
どう直せばいいのかわからないんだ。 |
小柳 |
そうなんですよ! |
永田 |
そうかそうか。あ、じゃあこうしましょう。
最後にですね、
「この映画はこういう映画だ!」
っていうんじゃなくて、
「この映画はこうじゃないぞ!」
っていうのを教えてください。 |
小柳 |
ああ〜、なるほど。 |
永田 |
そうすると僕もいろんなこと知らなくて済むし(笑)。 |
小柳 |
そうかそうか(笑)。
「こうじゃないぞ」っていうところですね。 |
永田 |
「こうじゃないぞ」っていうところを、
3つ教えてください。 |
小柳 |
えっ、3つ!? |
永田 |
あ、いや、その、3つだと、
なんか、まとまりもいいし(笑)。 |
小柳 |
ああ、そうですね(笑)。
じゃあ、まず、う〜ん、
「この映画は和風ファンタジーではない!」。 |
永田 |
おお! 和風ファンタジーではない! |
小柳 |
ええ。
ポスターで着物とか着ちゃってますけど、
そういうのとはちょっと違います。 |
永田 |
なんだかわからないけどわかりました。
じゃあ、ふたつ目! |
小柳 |
……なんだろう? |
永田 |
あははははは。
急に言われても困りますよねえ。 |
小柳 |
すいません(笑)。 |
永田 |
あの、今日お話をうかがった中で、
僕の個人的な誤解だったなと思うところがあって。
ていうのは、僕はそれこそ、
タイトルとポスターくらいしか
見てなかったものですから、なんというか、
それほどの入魂作品だとは考えてなかったんですよ。 |
小柳 |
ああ〜。 |
永田 |
『もののけ姫』のあとに
「もう引退する」みたいな話もあったし、
最初に公開された絵も、あの、
車の後部座席に小学生の女の子が
寝そべってるやつだったし。
だからひょっとしたら『耳をすませば』みたいな、
ちょっと小さめの良質作品なのかなあとか……。 |
小柳 |
ああ、違います違います。
入魂の一作です。
原作、脚本、監督、宮崎駿です。 |
永田 |
じゃあそれがふたつ目。みっつ目は……。 |
小柳 |
みっつ目は……
あっ、『千尋』は「ちひろ」と読みます! |
永田 |
それ重要だ(笑)。 |
小柳 |
「せんじゅ」とか「せんじん」とか言う人が
たまにいるんですけど、違います。
「ちひろ」です。 |
永田 |
ありがとうございました。 |
小柳 |
いいえ(笑)。 |