中川 |
あ、もうスイッチが入ってしまうんですね。 |
永田 |
あ、はい、もうすぐに回してしまうんですよ。 |
中川 |
うっかりできないですね(笑)。 |
僕は座り、とりあえず落ち着くことにして、
ここに来た簡単な経緯をお話しした。
中川さんはまず自己紹介から始めた。 |
中川 |
私、所属が有人宇宙活動推進室と申しまして、
宇宙飛行士の技術サポートでありますとか、
宇宙飛行士の搭乗権の獲得などを担当しています。
要するに、宇宙飛行士にいちばん近い場所で
活動しておりますので、
宇宙飛行士のことであれば、
なんでも聞いてください。 |
永田 |
はい。えへへへへ。 |
またしても耳を疑ってテープを何度も巻き戻してみたが、
そこで僕はたしかに「えへへへへ」と笑っている。
まことにもって情けない話である。 |
永田 |
まず僕、宇宙飛行士を公募しているという
事実にかなり驚いてしまいまして。
といいますのも、宇宙飛行士というと、
アスリートに近い感覚でとらえてまして、
なんかこう、募集するようなものではなく、
どこかで狭き門を通った人が
スペシャリストとして存在しているのかなと
なんとなく思ってたんです。 |
中川 |
ああ。過去の日本人宇宙飛行士は、
すべて公募した中から選ばれています。
いままでに4回、募集選抜してまして、
だいたい2〜3年に1回くらいのペースですね。
書類選抜から始まって、英語検定、
一次選抜、二次選抜、三次選抜とあるんですけど、
まずは、その応募条件からお話ししましょうか。 |
永田 |
お願いします。 |
中川 |
いちおう、英語ができることは必須ですが、
この資格がなければいけないということは、
とくにないんです。
ええと、こちらが応募条件の一覧になります。 |
永田 |
はい、ホームページで拝見しました。 |
中川 |
あ、ご覧になってますか? |
永田 |
はい。穴があくほど。 |
中川 |
(笑)。ざっと説明しますね。
まず「日本国籍を有すること」。
それから「大学卒業以上」、
しかも「自然科学系」という
理系の分野の卒業以上であること。 |
永田 |
あの、僕は文系なもので、
そこでまずダメなんですけど、
つまりこれ、文系の人は、確率ゼロ? |
中川 |
いままでは少なくともすべて理系の人ですね。
なぜかというと、
宇宙飛行士はパイロットとは違うんですが、
飛行機でいうところの機関士とか、
そういう技術的な仕事をすることが多いんです。
それで理系の素養が必要だということで
こういう規定を設けています。
ただ、今後はですね、人文科学系の人とか、
教師だとか、芸術家だとか、そういう人も
ぜひ宇宙に行ってほしいと考えていますので、
今後応募条件が変わることは十分考えられます。 |
永田 |
なるほど。 |
中川 |
それから、
「自然科学系の研究開発に
3年以上の実務経験を有すること」。
ある程度の研究歴、業務経験が必要ということです。
大学院に在籍していた人は、
その期間を業務経験に換算できます。
そうしますと、大学卒業してから
3年は必要ということになりますので、
いちばん若くて25歳くらいということになります。 |
永田 |
そうですね。 |
中川 |
日本で受かった人ですと、
いちばん若くて28歳くらいになります。 |
永田 |
いちばん年上というと、毛利さんですか? |
中川 |
ですね。受かったとき37くらいだったと思います。 |
永田 |
実際宇宙に行かれたのは、もっとあとですよね。 |
中川 |
そうですね。40代になってからですね。
2度目の飛行は50代でしたけれども。 |
永田 |
50代ってすごいですねえ。
なんか、体力的なものがすごく必要なのかと
思ってたものですから。 |
中川 |
そうですね。
まあ、業務をこなせる体力があれば、
それほど超人的なものは必要ありません(笑)。 |
永田 |
そうですね(笑)。 |
中川 |
ちなみに年齢で言いますと、
アメリカでジョン・グレンという宇宙飛行士が、
77歳で宇宙に行ってます。 |
永田 |
77歳! |
中川 |
つまり、現在の技術ですと、
肉体的には70代の人でも行けるくらいの負荷しか
体にはかからないということです。
これがアポロの時代ですと、
体にかかる重力が6Gもあったので
宇宙飛行士のほとんどは軍隊出身でした。
いまのスペースシャトルですと……。 |
永田 |
3Gくらい。 |
中川 |
ええ(笑)。要するに、
ジェットコースターぐらいのGですので、
それほど大きな負荷になるわけではありません。 |
永田 |
昔の映画のようにはならないわけですね。 |
中川 |
昔の映画といいますと……? |
永田 |
なんか、こんなんなって、
グワーーーッとなって、ガーーーッとなるような。 |
中川 |
ああ、そうですね(笑)。
それから、応募条件としては、
「国際的な宇宙飛行士チームの一員として、
円滑な意志の疎通がはかれるよう
英語が堪能であること」。
現在、国際宇宙ステーションの公用語は
英語になっておりまして、
すべての宇宙飛行士が英語で
コミュニケーションをとります。
ただ、途中からロシアが宇宙ステーション計画に
参加したんですけど、
ロシアが参加することによって、
だんだん英語とロシア語が公用語というふうに
変わりつつあります。 |
永田 |
ええと、公用語というのはどういう経緯から? |
中川 |
国際間の取り決めがありまして、
その文書に当初、盛り込まれていました。
いまもその文書は有効なんですけれど、
実務上は、ロシアのソユーズを使ったり、
ロシアのモジュールが宇宙ステーションに
くっついたりするもんですから、
ロシア語の能力が必要になっています。 |
永田 |
はー。あの、素朴な疑問なんですけれど、
たとえば、最初に宇宙に行ったのがイタリア人で
イタリアの宇宙ステーションが最初にできてたら、
宇宙の公用語はイタリア語に
なっていたかもしれないわけですか。 |
中川 |
う〜ん、どうでしょうね。
現在はやはりNASAの出資額が多く、
活動の中心になってるもんですから
英語になってるという部分はあります。
あと、まあ、世界の公用語が英語だから
ということもあるんでしょうが……。 |
永田 |
なるほど。
とりあえず、いまの宇宙飛行士の応募条件に
ロシア語は入ってないんですよね。 |
中川 |
はい。ですが、宇宙飛行士に採用されたあとに、
ロシア語の訓練を行っています。
だいたい週に2回程度、2時間のレッスンを
マンツーマンで受けてます。 |
永田 |
あ、そうなんだ。 |
中川 |
いままでの日本人宇宙飛行士は
すべてスペースシャトルで宇宙に行ってましたが、
今後ロシアのソユーズを使って
行くこともあるでしょうし
……あ! これは言ってよかったのかな? |
永田 |
あはははははは。 |
中川 |
あの、すいません(笑)、これは、
あとで私は原稿をチェックできるんでしょうか? |
永田 |
ご要望があれば、もちろん(笑)。 |
中川 |
お願いします。 |
永田 |
ひとまず自由にしゃべってください(笑)。 |
中川 |
ええ。 |
そのように、僕にとって至福の時間が始まりました。