中川 |
医学的な特性ですけれど、まず身長が
「149センチ以上、193センチ以下」。
この数字にはいちおう根拠がありまして、
上限はアメリカ人男性の90パーセントが
193センチ以下であるというデータからです。
下の数字は、日本人女性の90パーセントが
149センチ以上というところからきています。
まあ、各国のほとんどの人が、
この中には入るだろうということです。
そもそもなぜ身長制限があるかというと、
宇宙服の規格がありまして、
そのサイズに収まる人、ということです。
著しく逸脱したサイズのものを作るのは、
ちょっとたいへんなものですから。
いちおうサイズがS・M・Lとあるんですが…。 |
永田 |
S・M・L(笑)! 宇宙服に!
特注であつらえたりするわけじゃないんですね。 |
中川 |
ええ(笑)。まあ、それぞれの体に合わせて
フィッティングはいたしますけれども……。 |
永田 |
基本はS・M・L。 |
中川 |
そうですね(笑)。 |
永田 |
すいません、続けてください。 |
中川 |
ええと、視力ですが、裸眼でそれぞれ0.1以上。
矯正でそれぞれ1.0以上が求められます。 |
永田 |
意外にふつうですね。
もっと厳しいのかと思ってました。 |
中川 |
はい。スペースシャトルを操縦するような
パイロットになりますと
もっと高い視力が求められますが、
現在我々が採用しております宇宙飛行士は
操縦する人ほどの視力は求められません。 |
永田 |
矯正してても平気なんですね。 |
中川 |
ええ。メガネもコンタクトも宇宙で使用できます。
現に使っている人もいますし。
それから正常な聴力も求められますが、
なぜかというと宇宙船の中って
意外とうるさいんですよ。 |
永田 |
あ、そうなんですか。 |
中川 |
ええ。換気口の音であるとか、
実験装置の音であるとか。
そんな中で、非常用のアラームを
聞かなければならないので
正常な聴力が求められています。 |
永田 |
なるほど。ざっと見たところ、
医学的な特性というのは
総じて思ったほど厳しくないですね。 |
中川 |
そうですね。
心身ともに健康であり、
宇宙飛行士としての業務に支障がないこと、
というのが基本的な条件になります。
あとは、訓練などに数年を要しますから、
「10年以上宇宙開発事業団に勤務可能なこと」。
「海外での勤務が長期間可能であること」。 |
永田 |
なるほど。 |
中川 |
それから、最後になりますが、
「所属機関の推薦が得られること」。
これは選抜の最後の段階になりますが、
三次選抜まで残った人は、自分の所属機関の長、
つまり社長ですとか、そういう人に、
推薦書を書いてもらう必要があります。 |
永田 |
これ、よくわからないんですけど。
なんか条件の中で
これだけ浮いてるような気がするんですが。 |
中川 |
まず、三次選抜で2週間ほど拘束されるので、
やはり、所属長の許可がないと
選抜に参加できないという現状があります。
あとですね、
最終的に宇宙飛行士に選抜されると、
宇宙開発事業団の職員に
なっていただくことになります。
そうすると要は……。 |
永田 |
あっ、転職になっちゃうんですね。 |
中川 |
ええ。いまの職場を辞めていただくことになる。
なので、その段階になって、
「上に通ってなかった」ということになると
…いろいろ(笑)。 |
永田 |
なるほど。わりと人間くさい条件なんですね(笑)。 |
中川 |
そうですね(笑)。第1回目の公募のときは、
この推薦書が応募の最初に必須だったんですよ。
そうすると、応募できない人が大勢いたようで。 |
永田 |
ああ、ああ、そうかそうか。
ちょっとチャレンジしてみようかというときに、
上司に向かって、
「宇宙飛行士になりたいので辞めます!
推薦してください!」
とはなかなか……。 |
中川 |
そうなんですよ(笑)。
最初は黙っていたいという人がほとんどでして。 |
永田 |
それで、最後の条件にあるんだ。納得しました。
なるほどなあ。
宇宙飛行士になるのも転職には違いないですよね。 |
中川 |
ええ。宇宙飛行士の中には、
医者から転身したものがいるんですが、
たぶん給料はかなり下がったんじゃないかな(笑)。 |
永田 |
あ、そうか、給料もらうわけですもんね。 |
中川 |
基本的には宇宙開発事業団の職員の給料ですね。
まあ、極端に悪くはないかもしれませんけど、
そんなに飛び抜けてよくもない(笑)。 |
永田 |
それはあの、宇宙飛行士として、
宇宙にいるあいだも同じ給料ですか。
宇宙に行った瞬間、ガーッと昇給したりとかは。 |
中川 |
ええっと、宇宙飛行士になるとですね、
手当がつきます。 |
永田 |
手当! …手当かぁ。 |
中川 |
搭乗員手当というんですけど。もらったとしても
驚くような額にはならないですね。
ですから、「金持ちになりたい」という理由では
ちょっと宇宙飛行士はおすすめできませんね(笑)。 |
永田 |
はー。 |
中川 |
あとは、宇宙から帰って来てから
毛利も向井もいろんなところで
講演などをしてますけれど、
あれもすべて無料です。 |
永田 |
え、そうなんですか。 |
中川 |
事業団の業務としてやっていますので、
出張費が出るだけです。 |
永田 |
出張費かあ……。 |
中川 |
ですからやはり、
経済的におすすめできる仕事ではないですね。 |
永田 |
でも、そういう問題じゃないですよね! |
つまり、宇宙飛行士は、職業だった。