NAGATA
怪録テレコマン!
hiromixの次に、
永田ソフトの時代が来るか来ないか?!

第44回 前橋で昼食を 〜その2〜

豆炭仕掛けのコタツに入りながら、
僕はミーちゃんのいれてくれたお茶をいただいている。

ミーちゃん 今日はね、私が初めてアメリカに
行ったときのお友だちが来るんですよ。
もう20年以上になるのかな。
そのときはまだお嬢さんで
・・・いまもお嬢さんなんだけど。
その方が叔母さんといっしょに来るんです。
よくいらっしゃるんですけどね。
なんだかいっぱいになっちゃって
ごめんなさいね。
永田 いえいえいえ。

20年前に行った旅行で知り合った友だち。
なんだかスケールとバイタリティーを感じる話である。
にぎやかな昼食になりそうだ、と思っていると、
台所の奥の扉が開き、女の人が顔を出した。
金井 こんにちは! 
あっ、いいですいいです、
もう、座ったままで。
永田さんは以前にご挨拶だけしましたね。
奥様は、はじめまして!
よくいらっしゃいました。わかりました?
永田 前に一度来た記憶を頼りに。
金井 すばらしい!
金井さんは、ミーちゃんとノリコさんの隣人で、
ドイツ菓子の店を営んでいる。
一切のお世辞を抜きにして、
金井さんの作るお菓子はとても美味しい。
金井さんの作るお菓子はとても美味しい、と、
二度書いておいて差し支えがないほど
金井さんの作るお菓子はとても美味しい。

聞くところによると、
金井さんはそこで料理教室なども開いているという。
その金井さんが、ノリコさんといっしょに
今日の昼食のために腕をふるっている。
俄然楽しみになる僕である。

もうすぐ準備できますからね、と言って、
金井さんはばたばたと隣へ帰っていく。

『80代からのインターネット入門』
たびたび紹介されていたとおり、
金井さんもまたポジティブなオーラを纏っている。
ミーちゃんが暖かさで、ノリコさんが凛々しさだとすると、
金井さんのオーラは明るさであるように思う。
その3人がそろうと、
やはり周囲の者をひとりでに元気づける。
あの家の元気さっていったらちょっと他にないね、と、
以前イトイさんがよく言っていた。

コタツのある部屋には、
ミーちゃんの旅のアルバムがたくさん置いてある。
ちなみに玄関の横の部屋にはもっとたくさん置いてある。
僕はコタツでぱらぱらとそれを眺める。
北の国の写真がある。
雪景色の中に、意外な風景を見つける。

オーロラだ。
永田 オーロラ。
オーロラですか、これ。
ミーちゃん そうそう。見られたんですよ、オーロラ。
そう言いながらコタツに近づいてくるミーちゃんは
すましているけど少し得意気だ。

ノルウェーの夜空にはためく緑色のカーテン。
本当に見事なオーロラだ。
少しばかり宇宙に興味を持っている僕にとって、
それは憧れのひとつである。
永田 綺麗だなあ。
なかなか見られないんですよね?
ミーちゃん そうなんですよ。今日来る友だちもね、
オーロラを見に行ったんですって。
でも見られなかったらしいんですよ。
私なんかホテルの前で見たんですけどね。
永田 うわあ。よく撮れてますねえ。
ミーちゃん 新聞社の人がいっしょに行動しててね。
撮った写真を送ってくれたんですよ。
永田 いやあ。すごい。見たいなあ、オーロラ。
何時間も待ったりしたんですか?
ミーちゃん そうでもないですね。
あそこはね、北緯68度くらいで、
割合に早く出るんですって。
9時ちょっと過ぎくらいから見られたかな。
永田 でも、待つ人はずっと待って
それでも見られなかったりするでしょう?
ミーちゃん そうらしいですねえ。
朝まで待つなんて話もよく聞くからね。
運がよかったですよ。
永田 強運ですねえ。
ミーちゃん そのときにね、犬ぞりにも乗ったんですよ。
ほら、これ。
永田 わっ、ホントだ。犬ぞりですか!
ミーちゃん 犬ぞりもね、気持ちがいいですよぉ。
丘をねぇ、さあああっと行くの。
そう言いながらミーちゃんは、
手のひらを下にして空中にS字を描く。
ぜひ一度乗ってごらんなさいな、とでも言うように。
オーロラに犬ぞりかあ。参った。
ミーちゃん 今度5月に、
またスペインに行くことにしたの。
永田 前にもいらしたんですか?
ミーちゃん 今度で4回目。
永田 4回目!
ミーちゃん 私、エサを鼻先にぶら下げとかないと、
がんばれないもんですから(笑)。
永田 (笑)
ミーちゃん エサ代が高いんですけどねえ。
永田 あははははは。
いろいろ行かれてるんですねえ。
僕なんかハワイにも行ったことがない。
ミーちゃん あ、私はね、ハワイに行くなら
いちばん最後にしようと思ってるんですよ。
だって、楽だから。
遊んでればいいんですもんね。
日本語も全部通じるから、
団体で行かなくても済むし。
私の姪の娘なんか、
ハワイばっかり行ってるの。
もったいないって言うの、私は。
永田 うーん、なるほどぉ。
・・・ちなみにいま何カ国くらいですか?
ミーちゃん ああ、こないだちょっと
書き出してみたんですけどね。
ちょっと観光したとこを含めたら、
50カ国くらい。
永田 あははははは、すごいなあ。
ミーちゃん でも回数から言ったらね、
30回行ってないから。
それもここ20年くらいですね。
60歳くらいから行き始めたから。
永田 はああああ。
ミーちゃん はじめのうちは
年に1回くらいだったんですけど、
もう70歳近くなったらね、
「先がないんだから」って感じで、
1回じゃ物足りなくなっちゃってね。
行くときは年に3回くらい。
そしたらこっちが足らなくなっちゃって(笑)。
こっちが、と言いながらミーちゃんは
右手の人差し指と親指を丸くつないで
「お金」のマークを作る。
でもそういう問題じゃないよなあ。
永田 飛行機とかつらくないですか?
ミーちゃん 平気なんですよ。体が小さいから、
椅子の窮屈さもみんなより少なくて。
大きい人はたいへんですよね。
私なんか、
椅子の上に平気でお座りしちゃうから。
そうするとね、けっこう平気ですよ。
たしかにミーちゃんは小柄だけれど、
でもやっぱりそういう問題じゃないよなあ。
ミーちゃん 旅行でお金遣うもんだからね、
服とか買えないんですよ。
こないだ下駄屋さんに行ってね、
「私は20年同じ服着てるんですよ」って
嘆いたの。そしたらね、
「まあすばらしいことですね」って言うの。
「なんで? 情けないのに」って言ったらね、
「同じ体格を20年間も
 維持できるのがすごい」って(笑)。
永田 そうですよ(笑)。
ミーちゃん 服はね、流行が15年くらい経つと
また戻ってくるんですよね。
丈が長くなったり短くなったり。
だから、しらばっくれて昔のを着ちゃうの。
永田 あははははは。
ミーちゃん あとね、一昨年かな?
アフリカに行ってきたんですよ。
永田 アフリカ!

本当にもう、かなわない。
こういう公共の場で年齢を明かすのは野暮の極みだけれど、
厳密に言うとミーちゃんは82歳なのだ。

喜望峰の話に聞き入っていると呼び鈴の音がして、
ミーちゃんは素早く立ち上がり玄関へ移動する。
足腰とか、どうなっちゃってるんだろうか。

やってきたのは、さっきミーちゃんが言っていた
旅仲間のおふたりだった。
20年前のアメリカ旅行で知り合ったヨシエさんと、
その叔母のミチヨさん。

もともと僕は人の年齢を推測するのが不得意なのだけれど、
ヨシエさんは予想していたよりもはるかに若々しいし、
叔母さんというわりにミチヨさんもそれほど
ヨシエさんと歳が離れていないように思える。
え〜と、20年前に、今年82歳のミーちゃんといっしょに
旅行していたということは・・・。
何しろ基準がミーちゃんだから、わけがわからなくなる。

挨拶を交わしているところへ
金井さんとノリコさんが加わってさらににぎやかになる。
正午を回り、いよいよテーブルに食器が並べられ始めた。
僕もフォークやお皿を並べたりする。

さて、夢のような昼食の話はまた明日。


2002/03/24     前橋

2002-04-03-WED

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