金井 |
どうもお待たせしてすいませんねー。
お腹空いちゃいましたよねー。 |
ノリコ |
椅子がひとつ足りないのかな。持ってくるね。 |
さあ、着席だ。席順はなんとなく決まった。
シャンパンの栓抜きという大役を仰せつかった僕だが、
無難にそれをやり遂げた。
ちなみに、テレコには120分のテープを入れて、
2倍モードの録音状態にしたまま放置してある。
再生してみると、
料理を前にして場は明らかに盛り上がっている。
めいめいがテンション高くクロストークしていて、
ちょっとよく聞き取れないほどだ。 |
金井 |
はい、じゃあ、乾杯しましょうか。
よくいらっしゃいましたー。 |
永田 |
あれ、ノリコさんは? |
金井 |
いいのいいの、じきに来るから平気。
かんぱーい。 |
一同 |
かんぱーい。 |
金井 |
明日出掛けなきゃならないから
残さずに食べてくださいねー。
|
さて、録音された「美味しい!」という
賞賛や感嘆をいちいち記すより、
テーブルに並んでいるものを描写しておくことしよう。
はじめに並んだ料理は3種類。
まずはシュー皮にエビがたくさん入ったクリームを詰め、
オーブンで軽く焼いてから細かいネギをあしらったもの。
ひとくちサイズのかわいいシューをつまんで頬張ると、
香ばしいシューの中から
ふわりとエビの甘みが溶け出します。
いや、これは美味しい。
そしてそれがお皿にずらりと並んでいる幸せ。
前菜ですが、もうひとついただくことにします。
横の皿はなんでしょうか。
これはなんとパンのサラダです。僕も初めて食べました。
金井さんの言葉を参考に説明させていただきますと、
いわゆるバケットと呼ばれる堅目のパンをスライスします。
それに水とワインを含ませまして、
タマネギの薄切り、サラミ、ハム、ゆで卵、青じそ、ツナ、
といったものをあいだに挟みながら
ざくざくとお皿に積み上げていきます。
最後にオイル系のドレッシングをかけて、
それぞれが馴染み合うように寝かせておきます。
いや、これが、なんとも、また。
隣の皿に移りましょうか。
これはマグロのカルパッチョじゃありませんか。
青々としたルッコラを敷き詰めた上に新鮮なマグロ。
もちろんケッパーなどで風味豊かに。
そこにマヨネーズを細く格子にかけておいて、
仕上げはカリッカリのガーリックチップス!
あああ〜、これはクセになりますねえ。
二皿たっぷりありますので、
私、もうひとくちいただかせていただきます。
あれあれ?
いつの間にか僕の手元に熱々のお皿がありますよ?
おお、これは、
適度なサイズに切ったジャガイモを牛乳とワインに浸し、
たっぷりゴルゴンゾーラチーズを加えて
オーブンで焼いたものじゃないですか!
いいにおいです。香ばしいかおりです。
さっくりとフォークを刺していただきますと、
あち、あちちちちち、はふはふはふ。
そしてチーズのコクとワインのさわやかさ。
あ、ノリコさんが来た。 |
永田 |
お先にいただいてまーす。 |
ノリコ |
ようこそ、ようこそ。 |
金井 |
でも雨じゃなくてよかったですねー。 |
永田 |
来るときすごいいい天気でしたよ。 |
ヨシエ |
朝はいい天気だったね。 |
ミチヨ |
お注ぎいたしましょう。 |
金井 |
すいませんねー。 |
ミーちゃん |
食べるとあったまるね。 |
ミチヨ |
これいってみようかな。 |
金井 |
どうぞどうぞ、つまんでください。 |
ヨシエ |
手で取っちゃっていいかな。 |
ノリコ |
どうぞどうぞ手でも足でも取っちゃって。 |
ご婦人方はさっそく料理の調理法について話しています。
ちなみにうちの妻も
初対面にも関わらずはしゃいでいますが、
身内の声は照れくさいので一切カットします。
おっと、早くもつぎの皿が現れた。
鮮やかな赤い色。これはなんでしょう? |
ヨシエ |
ニンジン? |
永田 |
イチゴ? |
説明しましょう。
涼しげなガラスのボウルいっぱいに盛られているのは、
千切りにしたニンジンです。歯ごたえシャキシャキです。
彩りに添えられているグリーンはクレソンでしょうか。
その上にかけられているのは、
意外や意外、なんとイチゴのドレッシングです。
一見驚くような組み合わせですが、
食べてみると、う〜ん、フルーティー。 |
ノリコ |
これはミーちゃんは食べられないかな。 |
金井 |
でも最近けっこう食べるよね。 |
永田 |
え、ニンジンがダメなんですか? |
ミーちゃん |
う〜ん、刻んじゃえばいいんですけどね、
大きく煮たのなんかは
昔ぜんぜん食べられなかったの。 |
そう言って笑うミーちゃんはとても恥ずかしそうだ。
誤解を恐れずに言うと、ミーちゃんにはそういった、
とても女の子っぽい一面がある。
2年前のノリコさんの言葉を引用すると、
「子どものころのまんまおばあちゃんになった」
ということなのだろうか。 |
ノリコ |
だからよく言うんですよ。
「ミーちゃん、お肉ばっかり食べてないで、
ニンジンも食べなきゃダメだよ」って。 |
あははははは。
ノリコさんは本当に場のバランスを取ることに長けている。
この船のキャプテンを選ぶとしたら、
僕はためらわずノリコさんに一票投じる。
ところで料理が美味しいというのも幸せなことだが、
その料理がたっぷりあるというのもまた幸せなことだ。
みんなビールやシャンパンを片手に
じゃんじゃんつまんで口に運んでいる。
そういうのって、とてもいい。
最後の一切れを前にして「どうぞどうぞ」なんていうのは、
いくら美味しくても少し疲れてしまう。 |
金井 |
はーい、食べるときは休んじゃダメですよー。
お腹いっぱいになっちゃうから。 |
両手にお皿を抱えて金井さんが現れる。
どん、と置かれた料理はこれまた美味そうですよ。
勝手に名前をつけるとすると、
これは「イイダコの紙包み焼き」とでも呼ぶのでしょうか。
むろん説明しましょう。
いや、説明させてください。
ダイエット中の方においては誠に申し訳ありません。
ハトロン紙に包まれた中身は
イイダコとムール貝と大きめのマカロニなど。
基本、それがトマトソースで味付けされまして、
魔法のオーブンであぶられます。
バフッ、と金井さんがハトロン紙を破ると、
中からは、吸い込んだだけでも
美味いに違いないと思われる湯気がサッと立ち上ります。
イイダコさんの墨とトマトソースが混じって
内部はいわゆる「タコスミ」状態。
いただきましょう、いただきましょう。
もはや量の配分などかまっていられません。
おお、ムール貝はわざわざ
実のついていない方の貝殻を取り除くという手の懲りよう。
こりゃまたユーザーフレンドリーです。
いやー、美味いッス。これ、美味いッス。
ところで金井さん、その、両手にお持ちなのはなんですか?
なんとこれはベーコンと貝のソテー!
「ソテー」にびっくりマークをつけるのも変ですが、
ベーコンと貝のソテー!
なんでもタイラガイという貝だそうです。
その上にベーコンが乗ってまして、
積極的に感情を吐露するならば相性バッチシ。
センスよく添えてあるのはカリフラワーとブロッコリー。
全体にかかるソースは、バターと、なんかと、
ええと、その、よくわからんけれども、
非常に美味いッス。先輩、これ、非常に美味いッス。
ソテーが現れた瞬間は、ヨシエさんもミチヨさんも
「もう入らない」などと言っていたのですが、
見るとお皿は空っぽです。むろん僕の皿も同様です。
いやあ、入るもんです。
美味しい料理というのは本当に人を幸せにするようで、
おしゃべりが豊かに広がっていきます。
天気の話から桜の話。
最近の桜は白すぎる、とか。
鹿児島県だけ開花宣言が出なかった、とか。
開花宣言は3人くらいの開花宣言係の人が
街を歩いて咲いたかどうか決める、とか。
もんじゃ焼きに使うヘラをなんと呼ぶか、とか。
それを初めて作ったのは刀鍛冶である、とか。
話題は巡り巡っていつの間にか
「私はこんなふうに道を間違った」という
高速道路迷走告白大会になっていたり。 |
ヨシエ |
お腹いっぱい。 |
ミチヨ |
もう入んないよ。いっぱいだよ。 |
ノリコ |
まだデザートがあるよ。 |
永田 |
わあー。 |
ミチヨ |
それは入るかも(笑)。 |
金井 |
入りますよー。 |
ミーちゃん |
ガンジーさんもね、来るまえはね、
「なんにも出さないでくれ」なんて
メールに書いてあったんだけどね、
けっこう食べたよね。 |
ノリコ |
そうね。 |
永田 |
お会いになったんですか? |
ミーちゃん |
ここへ来たんですよ、あの人。 |
永田 |
そうなんですか。 |
ミーちゃん |
そいでみんなでお食事してね、
にぎやかにして帰ったの。
そのあとメールで何回かやり取りして。
それをほぼ日へ送ったんだけれども、
まだ出てないみたいね。
(スタッフ註:
現在「ミーちゃんの縁側」に掲載しています。)
|
ノリコ |
ほぼ日の連載で、
オートバイに乗れるようになったら
箱根に行きたいって書いてあったから、
「オートバイに乗れるようになったら
ミーちゃんに会いに来てください」って
メールしたのね。そしたら、
「オートバイには乗れないけど行きたい」
って返事が来て、来ていただくことになって。
日にちの相談をしてたら、
シゲサトも来たいっていうことになって。
・・・お会いになったことあります? |
永田 |
いいえ、僕は、読んでいただけでした。 |
ノリコ |
・・・そう。
どんな人だろうと思ってたんですけどね。
・・・話してたら私と誕生日が同じでね。
あ、歳は違いますよ? |
永田 |
はい(笑)。 |
ノリコ |
強烈、というか、おもしろい人でしたね。
もいっかい秋ごろに来てもらえるかな、
と思ってたんだけど・・・。 |
ミチヨ |
いつ亡くなったの? |
永田 |
去年の、年末、だったと思います。 |
ミーちゃん |
9月ごろまでね、メールが来てたのよ。
オートバイで飛ばすのが好きだったみたいね。
お悔やみを申し上げたかったんですけどね。
・・・とっても印象的だったから、あの人。 |
ガンジーさんは、
ちょうど一年前にここへやって来て、
みんなとこんなふうに楽しく食事したのだそうだ。
ミーちゃんはデンマークで買ってきた
布製のお財布を渡したのだという。
大きい財布と小さい財布があって、
ガンジーさんは小さい方を選んだのだという。
決して沈み込むということではないのだけれど、
少しだけみんな違う場所のことを思う。
明るい光に満ちた部屋で食卓を囲みながら、
僕は、少し、くらくらする。
会ったことのない人のことをこんなふうに、
思ってしまうのはどういうことなんだろう。
僕はミーちゃんの家で、
こんなに美味しい食事をいただいているけれど、
なんだってこういう巡り合わせになったのだろう。
明るい光に満ちた部屋で食卓を囲みながら、
僕は、少しだけ、くらくらする。
やがてみんなもとのにぎやかさへ戻っていって、
昼食のクライマックスはケーキとともに訪れる。 |
金井 |
はーい、どうぞお。 |
参りました。ケーキです。
ドーナツ型になっているパリブレストというケーキで、
香ばしいパイ生地の中にはクリームがたっぷり。
下の三分の一くらいはカスタードクリームで、
残りはモカ風味の生クリームです。
繰り返しますが、たっぷりのクリームです。
ケーキの上には溶かしたカラメルが
窓ガラスを伝う雨粒のように幾筋も流れています。
横には当然、熱いコーヒー。
いや、これは、ヤバい。 |
金井 |
これなら入るでしょ? |
ミチヨ |
入る、入る! ぜんっぜん、入る! |
永田 |
これは入りますね!
入ると思えるのはなんででしょうね! |
わけのわからないことを口走っている僕である。
しかしながら、これは入る。断じて、入る。 |
ノリコ |
いま隣で話してたの。
みんな「もう入んない」って言ってるけど、
入ると思うよ、って。 |
永田 |
入ります! |