バフンウニの嘆き。  Nageki Of Bahun-uni


和名 バフンウニ
学名 Hemicentrotus
pulcherrimus
ホンウニ目
科名 オオバフンウニ科
属名 バフンウニ属
大きさ 殻の直径3.5〜4.5cm
生息場所 海生
最終回 バフンウニ

ああ、もう、なんていうんでしょう。
私は、ことの重大さに、
うち震えています。海底で。

すいません、みなさん、
おおごとになってしまいました。
バフンウニです。
ことの発端、バフンウニです。

今日は、最後のご挨拶をさせていだたきます。
長らくお読みいただき、
どうも、ありがとうございました。

およそ1年前、なにげなく、
私が自分の名前の不憫さを
嘆いたばっかりに‥‥。

おかしな連鎖が、どんどん続いて‥‥
しかも、どんどんわけがわからなくなって‥‥
前回なんか、変な中年が出てくる始末‥‥

ほんと、すいませんでした。
しかも、登場したみなさんの
すごい名前に比べたら、
私の名前なんて、
かわいいもんかもしれませんね。

たしかに、素敵な名前とは言いかねるけど、
私、もっと、自信を持って、生きていきます。
ひどい名前かもしれませんけど、
なんていうか‥‥‥‥ひとりじゃないし。

それにしても、この1年。
まぁ、ひどい名前が、続いたものです。
私からはじまって、
ナマケモノ、ハダカデバネズミ‥‥
オオイヌノフグリ‥‥ドブネズミ‥‥
ヘクソカズラ‥‥リュウグウノツカイ‥‥
フンコロガシ‥‥コバンザメ‥‥
トゲナシトゲトゲ‥‥ケブカガニ‥‥
タスマニアデビル‥‥ホロホロ鳥‥‥
ハメゴロシ‥‥捨て印‥‥
ネジがバカになる‥‥まほうびん‥‥
キンタマーニ‥‥スケベニンゲン‥‥
なまはげ‥‥死に体‥‥五十肩‥‥
ブラッディ・マリー‥‥地獄耳‥‥
弁慶の泣き所‥‥ゴリライモ‥‥
そして、前回の中年まで、
じつに、52の名前が。

途中、明らかに逸脱していく方向性に、
ハラハラした、読者のみなさんも
いらっしゃったんじゃないでしょうか?
いったい、どこへ向かうんだ、と。
無計画にもほどがあるぞ、と。
ふふふ。くくく。

くくくく‥‥ひひひひ‥‥。

あのね‥‥読者のみなさん‥‥
この一連の、ひどい名前の羅列が‥‥
‥‥ほんとうに、
無計画だったと思いますか?

うふふ、うふっふっふっ! かはっ!

‥‥違うんですよ。
すべては‥‥計画どおりだったんです。

この、おかしな名前をめぐる、
1年がかりの、奇妙な旅は、
いま、ここに戻ってくるために、
周到に計画されたもの‥‥だったんです!

あははははは! 
そう、すべては、このときのために!
ようやく、終わったんですよ、いま!
奇妙な旅は、1年をかけて、
いままさに、完結したんです。

もうちょっと、
わかりやすくいいましょうか?

この、一見、無軌道に思える、
「52の名前の羅列」が、
すでに、どこかに、あったものだとしたら?
「52の名前の羅列」が、
すでに、どこかで、予言されてたとしたら?

あははははは! そんなバカな、って?
うふふふふ、意味がわからないって?
じゃ、カーテンコールといきましょう!

役者の出番はここで終わりです。
そう、私も、ナマケモノも、
コバンザメも、ハダカデバネズミも、
ホロホロ鳥も、なまはげも、ハメゴロシも、
ただの役者にすぎません。

「書き手」に、代わります。うふふふ。




「書き手」より、読者のみなさまへ。

このコーナーは、
「バフンウニって、ひどい名前だよね‥‥」と
ふと、つぶやいたことからはじまりました。
──それは、ほんとうです。
が、そこにいたるまえに、
少々、「風変わりな前提」がありました。
1年の連載の最後に、
そのおかしな前提を、ご説明いたします。

話は十年以上前にさかのぼります。
そう、あれは、1994年の夏。

私、永田と、山下は、
ふたりしてロンドンへ旅行しました。
もちろん、ぼくらふたりが、
ほぼ日刊イトイ新聞に入社するずっと前のことです。

ぼくらの目的は、「音楽」でした。
ともに英国の音楽を愛好していたぼくと山下は、
当時のシーンを体験しようと、
貧乏旅行をくわだてたのです。

そのころのロンドンでは、
いわゆるマンチェスターブームに端を発した
インディーロックブームが起こっていて、
ぼくらはよくわからないまま、
そこへ飛び込んでいったのです。
ぼくと山下はいくつかのライブに潜り込み、
あちこちでレコードを買いあさりました。
短い滞在でしたが、それはとても有意義でした。

日本へ帰ってから、
ぼくらは思い出話をしながら、
互いが買いあさったレコードを聴きました。
「現地でしか手に入らないものを」
という思いもあって、
ぼくらは7インチのシングルレコードを
たくさん買ってきていました。

クリエイション、ファクトリー、
ラフトレード、4AD、エル、
チェリーレッド、サラ‥‥。
さまざまなレーベルのレコードを
ぼくらは手当たり次第に求めました。
ほとんどは、無名のミュージシャンです。

そのなかに、あの1枚があったのです。

それは、「デイトメア」というバンドの、
『BUT WHO NEEDS?』という曲でした。
もちろん、まったく知らない名前です。




正直、とくにインパクトのある
曲ではありませんでしたが、
ぼくと山下は、妙にその曲が気に入って、
何度もそのレコードをかけました。

そして、あるとき、
山下がぼくにこう言ったのです。

「永田さん、この曲の、
 『BUT WHO NEEDS?』っていうフレーズ、
 なんか、『バフンウニ』って聞こえるね」

そう言って山下は、あははと笑いました。
いわゆる、「ソラミミ」というやつです。
ほら、英語のフレーズが変な日本語に聞こえる、
みなさんも、いくつかご存じでしょう?

あはは、ほんとだね、と笑ってるうちに
ぼくはある愉快な発見をしたのです。

「山下さん、そのまえのところに、
 『コバンザメ』って聞こえるところがあるよ」
「どこどこ? あっ、ほんとだ!」

そこから、ぼくらは、つぎつぎに、
最後のほうは、ちょっと意地になって、
日本語に聞こえる箇所がないか、探していきました。
その、「デイトメア」というミュージシャンが
何語で歌っているのか定かではないのですが、
ボーカルはすごくモゴモゴとしていて、
聴きようによっては、
いろんな日本語に聞き取ることができたのです。

「ここ、ナマケモノって聞こえる」
「ここは、ドブネズミって言ってない?」
「あ! ここ、フンコロガシ!」
「聞こえる、聞こえる!」

深夜に大笑いしながらつくったメモには、
おかしなフレーズが満載でした。
並んだことばの無軌道さに、
ぼくらはまた、ゲラゲラ笑いました。

そして、ぼくはこう言いました。
「でもさ‥‥
 バフンウニって、ひどい名前だよね‥‥」

──それから長い月日が経って、
あのときメモした「変なことばの羅列」が
こんな連載につながるだなんて、
いったい、誰が想像したでしょう?

そう、ぼくと山下は、
下のような動画をつくって、
みなさんに見ていただきたくて、
この連載をつづけてきたのです。

いま、ようやく、
そのくだらない計画が完遂されました。
ぼくらがくり返し聴いたあの曲、
デイトメアというミュージシャンの
『BUT WHO NEEDS?』に、
わかりやすい絵と、字幕をつけたものです。

それはそうと、1年のあいだ、
おかしな連載をお読みいただき、
ありがとうございました。

ぜひ、下の動画をご覧ください。

ほぼ日刊イトイ新聞 永田・山下


前へ 次へ


2011-01-04-TUE