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ほぼ日 |
それでは先生、サメの一般的イメージとして
「怖い」のほかに
大きいというのが、あると思うんです。
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仲谷 |
ええ。
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ほぼ日 |
そこでこんどは「大きいサメ・ベスト3」を
教えてください。
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仲谷 |
まずはジンベエザメですね。
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ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より
※クリックすると大きくなります。
和名:ジンベエザメ
目 :テンジクザメ目
科 :ジンベエザメ科
英名:Whale shark
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ほぼ日 |
いまやホホジロザメとならぶ、スターなサメですね。
英名だと「ホエール・シャーク」ですか。鯨ザメ。
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仲谷 |
なにせ「世界一、大きな魚」ですから。
こいつは、デカイです。
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ほぼ日 |
先日、沖縄の美ら海水族館に
行ってきたんですけど‥‥。
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仲谷 |
ええ。
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ほぼ日 |
いちばんの見どころの「大水槽」の前で、
巨大なジンベエザメがゆっくり通りすぎるたび、
みんな、ざわめいたり、
ケイタイでパシャパシャ撮ったりしてました。 |
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仲谷 |
あの子たちはまだ、小さいほうだけどね。
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ほぼ日 |
えっ、そうなんですか?
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仲谷 |
だって、大きくても8メートルくらいでしょ?
一説によると、ジンベエザメって
最大で15メートルとかって言われてるから。
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ほぼ日 |
15メートルですか!
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仲谷 |
まぁ、ほかのサメとおなじく
信頼に足る実測値がないから、推測なんですけどね。
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ほぼ日 |
なるほど。
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仲谷 |
結局、いつ捕獲できるかもわからないサメだし、
捕れたとしても
その現場にサメの専門家が居合わすことなんて
ほとんどないんでね。
そうすると、写真から大きさを類推するとか、
「15メートルくらいあった思う」
「いや、18メートルはあったよ」みたいな、
そういう印象の話になっちゃう。
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ほぼ日 |
何を食べたら、あんなに大きく育つんですか?
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仲谷 |
オキアミなどの動物性プランクトンが主です。
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こちら、オキアミ。ヒゲクジラやペンギンなどのエサでもあります。
ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より
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ほぼ日 |
あの、クジラとかもそうだと思うんですけど、
からだが大きくなればなるほど、
そういう、ちっちゃいエサを、食べますよね。
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仲谷 |
そうですね。
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ほぼ日 |
なんであんなちっちゃいエサを食べてるのに
大きくなれるのか、ふしぎなんですが。
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仲谷 |
効率がいいんでしょう、そのほうが。
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ほぼ日 |
素人考えですと「小さいし、効率悪いじゃん」と
思っちゃうんですが、いいんですか、逆に。
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仲谷 |
ようするに、あの巨体を維持するためには
たくさん食べなきゃいかんわけでしょう。
そうすると、
魚を一匹づつ追いかけまわして捕まえたり、
でっかい獲物と格闘するよりは、
あの大きな口を「ガバー!」っと開けて
オキアミの群れのほうへ
泳いでいくだけでいいわけだから、
費用対効果の面で、合理的なんでしょうね。 |
ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より
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ほぼ日 |
ははぁ、そういうことですか。
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仲谷 |
1日で、25キロくらいのエサを食べます。
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ほぼ日 |
あんなちっちゃいのを、25キロも。
相当な量ですよね、それは。
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仲谷 |
それと最近、
1996年くらいにわかったんだけど、
ジンベエザメは、子どもを産むのもすごくて、
いっぺんに300くらい‥‥。
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ほぼ日 |
300?
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仲谷 |
うん、パソコンのなかになかったかな‥‥。
ああ、これこれ、これです。
この写真、台湾の知り合いが撮ったんだけど、
これぜーんぶ、
1匹のジンベエザメから出てきた子ども。 |
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ほぼ日 |
わー!
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仲谷 |
ぜんぶで307個体。
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ほぼ日 |
すごい‥‥。
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仲谷 |
こんなにたくさんの子どもを産むサメは
聞いたことないですね、ぼくも。
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ほぼ日 |
さすがは「世界一、大きな魚」ですね。
それでは先生、第2位をお願いします。
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仲谷 |
ウバザメです。 |
ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より
※クリックすると大きくなります。
和名:ウバザメ
目 :ネズミザメ目
科 :ウバザメ科
英名:Basking shark
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ほぼ日 |
あ、この姿、見たことあります!
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仲谷 |
ウバザメは、ジンベエザメに次いで
「世界で2番目に大きな魚」。
このように、
幅1メートルもある大きな口をガバっと開けて、
プランクトンを食べるんです。
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ほぼ日 |
しかし、でっかい口ですねぇ。 |
ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より
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仲谷 |
エレファントシャーク(ゾウザメ)などと
言われることもありますが、
英語名の「バスキング・シャーク」って、
和訳すると「ひなたぼっこザメ」。 |
ほぼ日 |
あはははは、いいなぁ‥‥。
一気に親近感が湧いてきました(笑)。
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仲谷 |
のんびりひなたぼっこするように
泳いでいるので、簡単に捕まっちゃう。
だから失礼にも
バカザメなんて言う人もいたりね。
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ほぼ日 |
バカザメ‥‥。
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仲谷 |
でも、そういうところもふくめて、
愛嬌のあるやつなんです。
大きさは、通常で8〜10メートルくらい、
最大で12メートルくらいありますけどね。
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ほぼ日 |
おお、ジンベエザメには及ばないものの、
さすが魚類2位! デカいですねー!
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仲谷 |
ただ、どんな生活をしているのかについては、
こいつも、ほとんどわかってない。
たとえば子どもをどんなふうに育ててるとか‥‥
冬眠するという話もあるしね。
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ほぼ日 |
え、サメが冬眠?
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仲谷 |
そう、それも深海で冬眠してるんだって。
誰も見たことがないし、
証明されてるわけでもないんだけど。
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ほぼ日 |
ふしぎなサメなんですね。
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仲谷 |
深い海の底で、こんな巨大ザメが
ゴロゴロ寝ているかも知れないなんて、
おもしろいじゃない? |
ほぼ日 |
ああー、それは見てみたいですねー!
では、続いて第3位をお願いします。
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仲谷 |
んー‥‥ニシオンデンザメかな。 |
ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より
※クリックすると大きくなります。
和名:ニシオンデンザメ
目 :ツノザメ目
科 :オンデンザメ科
英名:Greenland Shark
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ほぼ日 |
このサメの大きさは、どのくらいなんですか?
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仲谷 |
ま、1位・2位とくらべると
どうしても、ちょっと見劣りしちゃいますが、
それでも7メートルくらいには。
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ほぼ日 |
じゅうぶん大きいですよね。
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仲谷 |
このサメは、北極圏の海域でよく見かけます。
極寒の海に住んでいるサメですね。
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ほぼ日 |
ええ、ええ。
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仲谷 |
ふだんは、サケやタラなんかを
エサにしてるみたいですけど、
アザラシやオットセイなどの哺乳類も、
食べちゃうみたいです、たまーに。
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ほぼ日 |
ははー‥‥。
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仲谷 |
だいたいこの3種類かな、大きいといえば。
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ほぼ日 |
なるほど、なるほど。ありがとうございます。
「大きいサメ」の順位をおさらいすると、
上から
ジンベエザメ、ウバザメ、ニシオンデンザメ。
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仲谷 |
そうですね、現代ではね。
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ほぼ日 |
「現代ではね」?
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仲谷 |
いや、200万年前に絶滅しちゃったんだけど、
メガロドンというね、
とんでもない巨大ザメが、いたらしいんですよ。
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ほぼ日 |
メガロドン。
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仲谷 |
サメって「軟骨魚類」なので、
その「骨」が化石として、残らないんですよね。
だから、残された「歯」からの類推なんだけど
全長12〜18メートルで
重さも20トンだとか45トンだとか‥‥。
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ほぼ日 |
18メートルっていったら
ジンベエザメよりも、デカいじゃないですか!
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仲谷 |
和名ではムカシオオホホジロザメだから
「怖いサメ」ナンバーワンである
ホホジロザメの祖先だったと、言われてるんです。
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ほぼ日 |
待ってください先生、
「デカいサメ」ナンバーワンである
ジンベエザメよりもデカく、
「怖いサメ」ナンバーワンのホホジロザメの祖先て‥‥
最凶じゃないですか!
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仲谷 |
恐竜やクジラなんかを、食べてたみたい。
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ほぼ日 |
恐竜がエサですか!
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仲谷 |
うん。
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ほぼ日 |
はぁー‥‥。
しかし、現代に残されてるのが「骨」じゃなくて
「歯」というのも、ミステリアスですね。
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仲谷 |
昔の日本では、あまりに大きい「歯」だったため
それを何かの「歯」だと思えず、
「天狗の爪」だと思ってたって、記録もあります。 |
復元されたメガロドンのアゴと記念撮影する仲谷先生。デカい! |
ほぼ日 |
へぇー‥‥そんなに大きかったんだ。
見てみたいなぁ。
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仲谷 |
ありますよ。
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ほぼ日 |
えっ!
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仲谷 |
持ってますよ。
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ほぼ日 |
ほんとですか!
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仲谷 |
持ってきますから、ちょっと待ってて。
(トントントン‥‥)※二階の自室へ。
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ほぼ日 |
先生、すごいな‥‥。
(トントントン‥‥)※二階から降りてくる。
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仲谷 |
はい、これ。
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ほぼ日 |
うわー‥‥デカい! |
これがメガロドンが残した歯‥‥というよりなんか「キバ」。 |
仲谷 |
以前、アメリカで買ってきたんですよ、
150ドルくらいで。
世界中で、けっこう見つかってますよ。
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ほぼ日 |
こんな歯が生えてる生きものを想像すると、
それはもう「怪獣」ですね。
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仲谷 |
こっちの白いのが、全長6メートル弱くらいの
かなり大きなホホジロザメの歯。
くらべてみると、ぜんぜん違うでしょう? |
現代最強のホホジロザメの歯が、とてもかわいらしく見えます。
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ほぼ日 |
大人と子ども以上ですね。 |
絶滅したメガロドンの歯の化石と現代のホホジロザメの歯。
ネコ・パブリッシング『世界サメ図鑑』より
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仲谷 |
海の底に、けっこう落ちてるみたいだよ。
メガロドンの歯は。
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ほぼ日 |
へぇー‥‥。
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仲谷 |
ちなみに、サメの歯って、
いくら抜けても、どんどん生えてくるんですよ。
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ほぼ日 |
あ、先生の本にも、書いてありましたね。
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仲谷 |
一生のうちに、それこそ、何万本とか‥‥。
ああ、アゴ持ってくりゃいいんだな。
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ほぼ日 |
アゴ?
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仲谷 |
サメのアゴがあるんで、持ってきます。
説明するのに、都合がいいんで。
(トントントン‥‥)※二階の自室へ。
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ほぼ日 |
先生、何でも持ってるんだなぁ‥‥。
(トントントン‥‥)※二階から降りてくる。
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仲谷 |
はい、これ。 |
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ほぼ日 |
おお、アゴだ!
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仲谷 |
これはね、ヨシキリザメっていうね、
はんぺんなんかの練り製品はじめ、
フカヒレスープの材料やハンドバッグなど、
とっても人間の役に立つサメのアゴ。
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ほぼ日 |
ええ、ええ。
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仲谷 |
ちょっと、ここ見てみて。 |
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ほぼ日 |
えー‥‥あ、歯みたいなものが。
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仲谷 |
アゴの内側に、歯が何本も倒れてますでしょ?
これが「補充歯」なんだけどね。
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ほぼ日 |
つまり‥‥。
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仲谷 |
サメの歯って、1週間とか10日間くらいすると
切れ味が悪くなって抜けるんだけど、
抜けると同時に、いま、アゴの内側に倒れている歯が
ムックリ起き上がってくるってわけ。
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ほぼ日 |
なるほど、つまり
次の歯が「スタンバってる」んだ‥‥。
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仲谷 |
そうそう。
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ほぼ日 |
すごーい!
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仲谷 |
サメにとって、歯は「使い捨て」なんです。
バリバリ噛んでボロボロになっちゃったら、
ポイポイ捨てちゃうんですよ。
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ほぼ日 |
そしてどんどん生えてくる? おもしろーい!
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仲谷 |
ちょっと計算をしてみたんですが、
サメの歯って10年間で3万本くらい、
生え替わるんです。
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ほぼ日 |
10年で3万本!
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仲谷 |
そんなサメが10万匹いたとしたら?
10年間に捨てられる歯の総数は‥‥30億本。
100年間では、その10倍の300億本で、
サメの種類は400くらいあるから‥‥。
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ほぼ日 |
先生、計算が追いつきません。
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仲谷 |
海の底はサメの歯だらけと言われるのも
けっして大げさな話じゃないんですよ。
<つづきます> |