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  第3回 東京って、ヘンだなぁ

糸井 それでは、あらためて、
中沢新一さんの語りの
「アースダイバー」編を
おねがいしたいと思います。
中沢さん、よろしくおねがいします。
  中沢 「アースダイバー」
というタイトルは、
昔から持っていました。

人類学の本を読むと
「アースダイバー」
という神話が登場してきます。
そこに出てくる
「アビ」という鳥に
ぼくは、すごく感動しました。

水の中に
何度も何度も
くるしいのにもぐっていって、
泥をつかんで、
水かきの間にはさんできて、
それで、地上を
作りあげてくるという話なのですが、
人類学者は昔から、
この神話を
精神分析学とからめて
理解してきたんです。

人間のこの深層意識というか、
心の奥で起こっていることを、
このアースダイバーという神話は
語っているんです。

たしかに、そのとおりだと思います。

私たちが、心の奥底に、
深くダイビングしていって、
自分の心の
おおもとになっている
泥のようなものをつかんであがってくる、
そうして作りあげられた
心の世界というのは、
とてもやわらかく、
そして無理がなく、
全体的で、
豊かな世界を作りだしているという……。

ところがこの
アースダイビングをしないで
心の表面だけでできた世界は
とてもかたくて、
私たちの生命活動とは
うまく調和できないわけです。

だから、生命と調和した文化というと、
どうしてもアースダイバーのような
冒険的な行為をしないと、
たどりつけないという気がいたします。

この神話と東京は
どうして結びつくのでしょう。

ぼくは大学生になって
東京に出てきました。
東京を歩くのが大好きでしたから、
新宿や渋谷や池袋や、
それから都心部へ足をはこびまして
歩いていましたけども、
とても不思議な感じがしてきたんですね。

その時の第一印象は、
東京というのはなんかへんな街だなあ、
というものでした。

高台できれいなレストランが
並んでいるかと思うと、
すぐにそれが坂道で
ぐーっとくだっていくだけで
今度は駄菓子屋なんかが
並んでいる地帯へ入って、ここは
庶民的でとってもいいムードなんです。

で、それがいつまでも続くと思えば、
すっと坂道をのぼっていったら、
またちょっと
閑静な住宅街へ入りこんでしまう。
アップダウンが、
はげしく作られてるんですね。

長じて、
世界のいろんな都市を
歩くようになったときも、
このことはいつも関心にあったんです。

東京みたいにアップダウンがはげしくて、
そしてアップすると
高級レストラン、住宅街、
ダウンすると庶民的な地帯っていう
こういうさまざまな領域が
音楽みたいに交差してる地帯って
他にどっかあるんだろうかなと思って、
意識してみてみると、
あんまりないんですね。

特にヨーロッパの都市というのは、
もともとがまわりを城壁で囲んで、
外と区切ったものなんです。
これを「シティ」と呼んでいたわけです。

何から
自分を守ろうとしていたかというと、
外側の農村とか、
動物や植物の世界とか、
野性的な世界っていうのが、
都市の中に入ってこないように、
城壁で囲んでいるわけですね。

(明日に、つづきます)
   
2005-12-22-THU