(これまでの「はじめての中沢新一」連載はこちらです)




  第11回 人類の精神は止まらない

(中沢新一さんの、イベントでの
 ひとり語りをおとどけしています)
精神分析学的やり方で、
自分たちの心の奥底に
潜りこんでみると、
それが300年とか400年とか、
近代、フランス革命のあたりとか、
ヨーロッパに
キリスト教がやってきたあたりとか、
ヨーロッパの人は
そのくらいの層で止まるんですね。

ところが、
人類の精神は
そんなところでは止まらないんです。

アースダイバーである
アビという鳥は、
どんどんどんどん
深くまで
潜っていかなきゃいけない。
どんどん私たちの
心の奥深くに入っていくと、
そのところには、
新石器時代の心のあり方まで、
連続した層が続いていきます。
そこでアースダイバーは、
水かきで泥をつかんで
浮かびあがってくるんです。

現代世界にあがってくると、
数千年前の縄文時代の意識構造、
心の構造が生きてくるということが、
はっきり見えてきます。
おそらくは、
この東京の複雑な作り方は、
表面では、
資本主義が高速度で動いていて、
それがわたしたちの
東京という都市の景観を
過去との連続性が
何もないようなものとしてしまっていて、
建築家とディベロッパーの
自由な発想と自由な思想とだけで
東京という町が作られているように
思いこまされています。

ところが、東京というところは、
そうじゃないんです。

それは、
日本人の心がそうであるように、
わたしたちの心の中には、
なにか非常に深いところにまで
連続的な層がつながっている。

そんな深いところまで
連続的な層がつながっているなんて、
人類の中でも
まあ、特異現象だと思いますが、
じっさい新石器時代の
深いところまでつながっています。
わたしたちは心の中に
誰しもが、深い井戸を
かかえているんだと思いますね。

「井戸をかかえた心」
を持った日本人が、
ここの土地に集まり、
ここの土地を形成していったときに、
何が起こったか。

都市の構造っていうのは、
その都市に住んでいる人たちの心の作り方を
そのまま空間の中に投射します。

ですから、
あのパリに生きてる人たちは
ああいう心の構造をしてるんですね。
しゃれてるんですよ、やっぱり。
石畳が敷いてあるから、
下を掘っても、そんなに遺物は出てこない。
そういう構造になっています。

ニューヨークは、
ああいう心をしてるんだと思います。

ニューヨークはもともとは
インディアンのいた地帯ですが、
インディアンにとって
ニューヨークのマンハッタン島は
非常に重要な島だったようです。
そこで土地と一体になって作られていた
堆積した土地の記憶は、
白人があそこに都市を作ることによって
埋め尽くされて、
ほとんど見えなくなってしまった。

ところが、東京はそうじゃないんです。
東京の都市の生成を見てみますと、
それはわたしたち
日本人の心の作り方と同じように、
深い連続性を保ち続けています。
そしてこの連続性が、この都市を
おもしろいものにしていると思います。

(明日に、つづきます)
 
2005-12-30-FRI