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  第44回 数学は生命の燃焼

中沢 贈与、という言い方をしましたが
芸術作品ってなんだろうと考えたら、
贈与以外の何ものでもないですね。
  タモリ そうですね。
  中沢 芸術家は
商品を作ろうと思って
やっているわけではないでしょう。
インスピレーションなんていう言葉自体が
贈与と深く関わっているわけですから。
ある意味でいうと
無から形を作りだしているわけですね。

そして、そういう意味でいうと
神が行った贈与というのと
昔の人が言ったのと同じことを
芸術というのはやっているわけで、
そうすると絵なんかでも、
絵は芸術だというよりも
そこの根底にあるものには
何か別の意味があるのではないか。

たとえば今、
贈与なんていう言葉もありましたけれども、
「交換以外のなにか別のもの」が
今は大事になっていて、
これを表にひっぱりだしてきて
いろんなところで交流させていく……
そのための合い言葉みたいに
芸術という言葉を使おうとしているんですね。
  糸井 そうですね。
  タモリ みんな、なんか絵を描いたり、
ショーをやれっていうことではなくて。
  中沢 そうですね。
  糸井 タモリさんが
急に酒場で歌いだすのも贈与ですよね。
  タモリ ストリップやるのも贈与ですね。
  中沢 贈与ですね。
  糸井 おしりにロウソクさすのも……。
  タモリ 贈与ですね。
あれは私はやりませんけれども。
試したんです。すごく痛いので……。
  糸井 (笑)あぁ、そうですか。
最近ではそれが
非常に典型的に見えているのが
セントラルパークで去年あった
クリストの「ゲート」ですよね。

対価はまず分からないんだけれども、
実は現代の資本主義の仕組みの中で、
計画と写真集みたいなものを
28億円のクリストが
ぜんぶ自前で出したものを回収して、
次のアートにまた転換できるっていうだけの
仕組みがあの中にあるらしいですね。
  中沢 すごくあたらしいですね。
  タモリ そうなんだ。
  中沢 芸術人類学っていうのも
そういうふうな
贈与のかたちにしたいんです。
研究者が集まってやる、
っていうのではなくて、
贈与のダイナモのようにして
押しだしていきたいんですね。
……というようなことを話していたら
タモリさんが、
「それは
 中洲産業大学の建学の精神と同じだ」
っておっしゃるので。
  糸井 らしいんですよね。
  タモリ 「中洲産業大学」というのは
本当にくだらないだしものに
見えるんです。

……まぁ、本人の私は
くだらないとは
思っていないんですけれども
本当は将来はそういうふうにして、
ジャンルなくいろんな人に
参加してもらうはずだったんです。

学者ももちろん、
一般の人も、学生も集まって
それまで解明しなかったこととかを
考えるという……
他異分野を入れることによって
科学的なものとは違うものが
証明されたりなんかするという、
そういうことをやりたいなと、思って、
一回やったことがあるんですよ。

本当に小規模に。大学の予備校で
夏期講座というのも
ずいぶん昔に
やったことがあるんですけれども。
  糸井 学際的な、よく言えば。
  タモリ えぇ。さほどの手応えも反響もなく。
  中沢 (笑)
  糸井 あぁ、そうですか……。
お客さんがまだ若かったんじゃないですか。
  タモリ 若かったんですね。
  中沢 今は、大丈夫です。
  糸井 例えば、今日、
ここに来てくださった方がいる、
ということがなかったら、中沢くんは
あんなに熱が入らないわけじゃないですか。
  中沢 そうなんですよ。
  糸井 つまり、
誰もいないところで
今の話をやれ、と言っても、ね?
こういう環境だからこそ、の
うねりがあるもんね。
  中沢 だってこんなにいるんだもん。
  タモリ ほぉ……。
  糸井 いただいたものを元にして
関係がはじまっているということ自体が
「ありがとうございます」なんですよ、
とか、お年寄りはよく言うじゃないですか。

あれが、実感的な、
贈与でありアートであり、なんですよね。
そもそも、人そのものが
勝手に生まれてきたわけじゃなくて
命をいただいたものじゃないですか。
  中沢 だから、岡本太郎さんは
芸術は爆発だなんていうことを
言っていましたが、
生命は爆発なんですよね。
  タモリ うんうん。
  中沢 岡潔さんは
文化勲章をもらいました。
昭和天皇に呼ばれていくでしょう。
そして昭和天皇が授賞式で
「数学というのはどういう学問ですか?」
と聞いたらしいんですよ。
そこで、岡潔が
「生命の燃焼であります」
とこたえたそうです
となりにいた吉川英治が非常に感動して
「あなたいいこと言うね」と。
  タモリ へえー……。
  中沢 数学は生命の燃焼、
もっとも美しい燃焼だと。
これってすごいですよね。
芸術もそうなんですよね。
だから燃焼であり、爆発だと言った
岡本太郎の言い方というのは
まったく正しいですよね。
  糸井 うん。

(明日に、つづきます)
   
2006-02-01-WED


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