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糸井 |
現実世界の中に
数学というものはあり得ないわけで
頭の中で「ないもの」を
組みたてていくわけですよね。
それは、もうアートですよね。
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中沢 |
あんなことができるのは、
現実の世界と対応しない領域というのを
心の中に作らなければならないからなんです。
しかもその中に
ものすごい精密な論理を持ちこんで、
それで操作できるわけでしょ。
ところがその世界というのは、
現実世界とは、何の対応もないんですよ。
ある程度の対応はしますけれど。
ということは、
論理で動いている部分と
そうじゃない部分があって、
この部分が数学というのを
興味深いものにしているし、
美しいものにしていると。
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タモリ |
燃焼ですよね。
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糸井 |
燃焼ですよね。
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タモリ |
岡本太郎は縄文的なところもあるし。
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糸井 |
岡本太郎という人について、
いろんな言い方はあるんですけれど、
ぼくら、タモリさんも
お会いになってますよね。
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タモリ |
なんども会いましたけども。
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糸井 |
一般的には、ほとんど
アニマル浜口のような扱いで……。
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タモリ |
そうですね。
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糸井 |
晩年ね。
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タモリ |
そうなんです。
日本の文化についてを読むと、
すごく論理的で
すごいよく見ているし、
正当な評価で、
こんなに論理的な人かと思うんですが
実際会ったら、岡本太郎という人は
むちゃくちゃな人で。
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糸井 |
えぇ。
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タモリ |
『今夜は最高』
の時に出てくださいと
いったんですけれども、
何人かで
いろいろ話していたんです。
何をやってもらいたいかを。
「時代劇をやってくれませんか」
といったんですけれども、
岡本太郎は、
一時間くらいなんの答えもないんですよ。
それで、あ、これはイヤなんだなと。
それで俺たちは反省して、
「また打ちあわせにきますから」
と玄関でならんで靴の紐を結びながら
帰ろうかなと思ったら、
後ろから新聞紙を丸めて
「イェイ」って斬るんですよ。
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糸井 |
斬られちゃった!
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中沢 |
(笑)
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タモリ |
あぁっと思って……。
岡本太郎はよろこんでいたんですよ。
「イェイ」とか言って。乗ってたんですね。
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糸井 |
(笑)爆発ですね。
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タモリ |
日常では非論理的な行動をとって、
自分の中では
すごい論理的なことがあって、
本も冷徹なものの見方で、
審美眼もあるし、
かえってすごいなこの人は、と……。
ふつうは人前で
えらい論理的なことでしょ?
逆をいくのはすごいなと。
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中沢 |
あの人ちゃんと勉強してるんですよ。
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糸井 |
もともと、
贈与論の親方の
モースっていう人の弟子ですからね。
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中沢 |
そうなんですよ。
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タモリ |
ほぉ、そうなんですか。
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糸井 |
モースは、
レヴィ=ストロースの先生ですね。
岡本太郎はモースの直の弟子ですからね。
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中沢 |
直の弟子で。
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糸井 |
だからレヴィとは兄弟?
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中沢 |
兄弟弟子です。
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タモリ |
ほぉ。レヴィちゃんと。
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糸井 |
(笑)「レヴィちゃん」とは。
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中沢 |
岡潔が
フランスに行っていた時のことで、
パリには彼の親友がいたんだけれども、
モースの講義を聞きに行ってるんですね。
だからモースのところには
いっぱい日本人が聞きに行ってるんです。
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タモリ |
モースっていう人もすごいですね。
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中沢 |
すごい人ですよ、あれは。
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糸井 |
どんどん取り入れちゃうんだね。
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中沢 |
考えている発想法が常に豊かなのね。
弟子をつれて町を歩いていても、
フランスパンの形にふと目をとめて、
「お、これはケルト模様だ」
とか言って
そこで講義をはじめちゃったりとかね。
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タモリ |
へぇ〜。
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中沢 |
変わった人だったみたいですね。
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糸井 |
そんなに昔の人じゃないわけですよね。
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中沢 |
1930年代です。
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糸井 |
アルカポネの時代ですね。
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中沢 |
フランスに
ナチが入ってくる前の
すごくいい時期。
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タモリ |
はぁ。
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中沢 |
岡本太郎さんもその時期に
フランスに行っているんです。
かなり若い頃からフランスに行って、
合理的な思考方法というのを
イヤっていうほど
叩きこまれているんですね。
しかし、救いを求めるように
マルセル・モース先生のところに行って、
民族学の勉強をしているんですね。
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糸井 |
つまり、フランス語文化圏ていうのは
すごく合理的で、つまりパスカルですよね。
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中沢 |
はい。
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糸井 |
そこで足りないものを
モースという人が
持っていったわけですよね。
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中沢 |
そうなんです。
モースという人は、
不思議な能力を持っていた人で、
一度もフィールドワークなんて
しないんですよ。
アフリカ行ったり、
インドネシアに行ったわけでもない。
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糸井 |
アームチェアー文化人類学だ。
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中沢 |
ところが彼が書いた本を見ると、
彼はいろんな報告を読んで
書いているわけですが
その社会の人々のもの考え方そのものが
いきいきと生きているわけですね。
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タモリ |
これはある意味、
吉本隆明さんと同じじゃないですか。
「わたしは、修行しないぞ」という。
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糸井 |
吉本さんは修行しないどころか、
まだ飛行機に乗って
外国に行ったことがないはずですよ。
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中沢 |
そうなんですよお。
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糸井 |
絶対に行かないですね。
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中沢 |
すごいな。
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タモリ |
すごいですね。
「水戸黄門は
鎌倉しか行ったことない」
と同じじゃないですか。
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糸井 |
モースも、詩人だ、ようするに。
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中沢 |
詩人なんです。
(明日に、つづきます)
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2006-02-02-THU
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