「とめきち配達日記」(12)
旅する生茶 〜岩手篇〜
旅すること11カ所、今回が最後の旅です!
ほぼ1カ月間の旅暮らし、
その間に家では猫が出産するわで、
このひと月、長かったんだか、短かったんだか……。
最後の旅は、岩手県陸前高田の
吉田向志さんに、生茶をお届けします。
リアス式海岸ですよ。三陸ですよ。
目的地は吉田さんが通う、高田高校。
ちょうど、球技大会なんだって。
ちなみに、剣道の場合は剣技大会です。
よくわからないね……。
高校の球技大会ということで、
持っていく生茶は旅する生茶史上もっとも多い6ケース。
ペットボトル144本。重さにして75キロ!
ブラッド・ピットの体重ですよ。
高校についたら、まずは職員室に1ケース配達して、
先生のハートをがっちりつかむ作戦です。
「お、なかなかいい青年じゃないか」
なんて言われちゃったりしてねぇ。
出発前に、ほぼ日スタッフに言われました。
「おいおい、ヘッドライト、壊れてるじゃん。
それで高速を夜走るのはヤバイよ。雨だし。
どっかでライト直していきなよ」
「だって、おカネないっスよ」
「なーに言ってんのアンタ。
旅の予算がまだたっぷりあるじゃない!
車ごと買い替えたほうがいいんじゃないの」
「ダメっすよ。予算の残高が僕のギャラなんスよ。
そんなことしたら、なくなっちゃうじゃないですか!」
そーなんですよ。
旅の予算の残りがギャラらしいんです。
ま、とにかくライトだけは直すことにしました。
事故ったら、最悪ですからねー。
旅の経費……痛いなぁ。
そういう意味で、もうひとつおそれているのは、
今回の行き先が高校ってこと。しかも球技大会だ。
ビーバップハイスクールに出てくるような、
ギンギンのツッパリに体育館裏に呼び出されて、
カツアゲされたらどーしよう。
ケンカを止めるのは得意だけど……。
おこづかい帳に「10万円、カツアゲ」とかって
書くのだろうか……。そんなのイヤだ。
ライトを直して絶好調の愛車マーチくんで
真夜中の東北道を北に向かうこと5時間、
一ノ関ICで降りて、朝5時に岩手につきました。
外の気温は15度……冷房ききすぎです。
しかし、これがわるくないのよ。
新鮮な空気、緑が生いしげる山々。
なにげに川が多いんですね。
畑には最近あまり目にすることがなくなった、
案山子(カカシ)がいます。
未だにカラスはだまされ続けてるんでしょうか?
道に迷いました。
お、犬の散歩してる人がいるよ。
コイワさんと愛犬のチャコです。
「あ、陸前高田? まっすぐ行って右に曲がって、
くだって行くと行けるよ」
「ワンワン!」
「ど、どうも……(わかるかな?)」
分かりませんでした。迷いました。
また散歩してる人に聞きました。
キバさんとコジマさんと愛犬のリュウです。
犬を散歩してる人が多いなあ……。
「あー、気仙沼の方に行けば着くよ」
「ワンワン!」
「ど、どうも……(ココがどこだか分からないのに)」
やっぱり分かりませんでした。
とりあえず海に向かって車を走らせます。
しばらく行くと、変なものを目にしました。
“鬼太郎へのポスト”
「なんだこりゃ?」
後で聞いてわかったんですが、
冬場は雪で路面が凍るので
すべり止め用の砂袋が入っているそうです。
また、変なものだ。
U字型をしています。
磁石? 馬のていてつ?
おじさんが現れました。犬は連れてません。
「このへんは7000日間、交通事故での死亡がないんです。
それを祝って作っている交通安全のシンボルです」
「7000日っていったら、19年くらいか……。
しかし、変ですよね? コレ」
「私が作ってるんです。未完成だけど」
「え!? す、すばらしい……」
「できるまで、ひまったれる」
(訳:できるまで、時間がかかる)
「サボらないで下さいよ!」
完成すると、どんな姿になるのでしょうか?
シンボルを作っているおじさんに名前を聞きました。
ほ〜、岩渕さんですか。
すぐ近くで農家をやっているそうで、
道路沿いに花壇を作ったり、
お正月には「交通安全」と書かれた
高さ6メートルにもなる門松も作ったそうです。
夕顔の実に「交通事故ナス」と彫って、
警察署にあげた事もあるとか……。
なぜそこまで交通安全なのだ、岩渕さん。
岩渕さんと妙に気が合って、
自慢の農園を覗かせてもらいました。
レタス、玉ねぎ、人参、大根、白菜、さつま芋、
ばれいしょ、カリフラワーと、
スーパーの野菜売り場なみの品ぞろえです。
「これはピーナッツです」
「花、咲くんですね!
ワタクシ豆屋なのに知りませんでした」
さらに、岩渕さんの家に招かれました。
おいおい、僕は朝からなにをやってるんだ……。
自然の物を無駄にしないというのが
岩渕さんの信条だそうです。
ビールに漬けたキュウリの漬物と、
フキの佃煮をおかずに、朝食を。
すっかりひと休みさせてもらいました。
「やぐだれ、どうもありがとうございました」
(訳:わざわざ、どうもありがとうございました)
陸前高田までの道を教えていただき、
岩渕さんとお別れしました。
着きました、高田高校です!
部活動の朝練をしてる生徒がいます。
ちょっと怖そうな
先生らしき人に尋ねました。
「あのう、豆屋と申しますが、
生茶を届けに参りました。職員室は?」
「はい? あ、こちらですが」
アレ……僕が来るって話、聞いてないのかなあ?
不安になってきたぞ。
「……あ、車のトランクから生茶出しますので」
振り向くと、その先生はすでにどこかに消えていました。
待っててくださいよ〜。
そうこうしているうちに、
応募してくれた吉田向志くんに会えました。
よかった〜。
「どうも、豆屋留吉です。
君、生徒? 先生だと思ってたよ!
生茶持ってきたよ!」
「……へえ」
「あの、もっと、喜んで……」
「向志は緊張してるんですよ。私は担任の西舘です」
クールな吉田君を担任の先生がフォローしました。
「“マザー”で糸井さんを知り、
ほぼ日を見たいためにパソコン買いました。
おもしろいと思う先々に糸井さんがいるんです」
「お、やっと話しかけてくれましたね!
今日は球技祭がんばって下さいよ!」
体育館に行くと、さっき僕の前から消えた先生が
騒いでる生徒に向かって吠えてました。
開会式です。選手宣誓です。
「みんな静かに!
東京から来た豆屋留吉さんです」
ワー、パチパチ!
「そこぬけ〜!」
「生茶〜!」
みんな元気イイです!
カツアゲしにこないことを祈ります。
「球技大会の優勝クラスに、
生茶を2ケースさしあげます!」
「ウォーッ!!」
すごく盛りあがってます。
「えー、留吉の独断と偏見で、
MVPの人には生茶ジャンパーをあげます!」
「キャーッ!!」
わが耳を疑いました。
留吉に黄色い声援ですよ。
毎年、クラスごとに、応援のフラッグと、
オリジナルTシャツを作るそうです。
どのクラスなのか、ひと目でわかります。
バレーボール、バスケットボール、野球、卓球、
バドミントン、テニス、ドッヂボール、
各種目で試合が始まりました。
高田高校は進学校だそうです。
でもって岩手県屈指のスポーツ校でもあるそうです。
さすがに生徒の運動能力も高いです!
って、僕に言われたくないか。
「豆屋さ〜ん、1人足りないので入って下さ〜い!」
ドッヂボールです。
3年生女子のチームに助っ人として参加しました。
ピーッ! バン!! 痛っ!
すぐにボールを当てられちゃいました。
スポーツ苦手です。
戦力になれず、すみません。
でもその後、職員チームに入り、
卓球では勝ちましたよ。
「留さ〜ん! いっしょに写真撮って下さい!」
「ダメです! 今は何の時間ですか? 球技大会ですぞ!」
「エ〜!?」
写真をせがまれ、本当はうれしくて仕方ないのですよ。
お願いされてる留吉の姿を
写真に撮って欲しいぐらいです。
上を向けば青空、ひさびさの球技大会です。
やっぱり気持ちイイですね。
生徒たちも真剣です。
クラス対抗って、最初はシラけてる人もいるけど、
なんだかんだでけっこう盛り上がるんですよね。
2日間にわたって行なわれる球技大会は、
無事1日目が終わりました。
吉田くんのクラスは惜しくも負けてしまったそうです。
別に用意しておいた生茶を、
吉田君のクラスのみなさんと飲みました。
「ぬる〜い!」
「すんません、車の中に入れっぱだったんで……」
そして、MVP賞の生茶ジャンパーは、
生徒の中から選ぶのはむずかしかったので、
職員チームでいちばん活躍していた
教育実習のナディアさんに決定しました。
吉田くんは水泳部に入っているそうです。
プールを案内してもらいました。
千葉県の東京医科歯科大の水泳部に
行ったときに見たモノが、ここにもありました。
しかも3つもです!
いや、露天風呂です。
水泳部でこれは定番なんでしょうか?
絵的にヘンですよね。
「留吉さん、生茶の旅、がんばって下さいね!」
「いや、もう終わりです、この旅で」
「寂しいですね……」
「そーいうこと言ってくれるの、
君だけだよ……ウルウル」
本当にこれで旅はおわりなんだ……。
シャイでクールな吉田くんに
やさしい言葉をかけてもらって、
僕は高田高校に別れを告げました。
そういえば、最後の旅ということで
妙に気合が入ってしまって、
前の晩から一睡しないで運転してきたんです。
東京へ向かう高速道路、
来たよー、ヘビーな眠気が。
雨も強くなってきました。
久々に、タオル投入です。降参です。
仙台で東北道をおりました。限界です。
「眠い、腹へったあ。仙台初めてでわかりませ〜ん」
いったん車を止めて、駐車場にいたお姉さんに
どこかに食堂がないかと訊きました。
仙台の中心地でしょうか、
商店街を抜けて、教わった場所に行きました。
「1人、1000円です」
何だ1000円って? 食べ放題かな?
ズンチャカ、ズンチャカ!
クラブじゃん! どうりで1人1000円って。
お腹がすきすぎて、
留吉は判断がにぶりすぎてました。
「なんか、食べるものは?」
「ポテトチップス」
「……結構です」
ふらふらと店を出ました。
通行人からは、酔っぱらいだと思われてるでしょう。
腹へってるだけです。
「すいません、このへんで
美味しいところ知ってますか?」
ふり返った女性は、金髪の外人さんでした。
「おっと! スピーク、ジャパニーズ?」
「全然大丈夫よ!」
「話せるじゃん!!」
「ごはん? 冷やし中華がうまい店があるよ」
「クラブじゃないよね?」
どういうわけか、その金髪女性といっしょに、
中華屋さんでモグモグ食べました。
いや〜餓死寸前でしたよ。救われました。
お礼にバーで、お酒をごちそうしました。
その人、なぜかウォッカを飲む飲む。
きけば、エレナという、
ロシアからの留学生でした。
経済の勉強をしてるそうです。
なるほど、ウォッカね。
「ウォッカは全然平気なの。1本空けたこともあるの」
「……ほどほどにね」
サイフとみつめあう留吉。
さようなら、エレナ!
案内してくれて、どうもありがとう!
僕はビジネスホテルでぐっすり寝ました。
いや〜、ほんとに眠かった。
次の日、仙台から東北道で東京へ。
那須高原ICのガソリンスタンドで給油しました。
「この車、けっこうキテますね」
愛車マーチ君、この旅で1000kmは走ってるでしょう。
まあ、旅の前から高齢期に入ってましたが。
「窓ふき大変ですね。車汚くてすみません」
「大丈夫です!」
スタンドの店員さんに、生茶をあげました。
お礼にガソリンを1リットルおまけしてくれました。
「生茶を1リットル分、いただいたので」
「はははは」
これで東京まで一気に走るぞ。
今までの旅を思い出しました。
東京が近くなってきます。
いつも生茶を運んでたショッピングカート、
よく頑張りました。
生茶ケースをカートに縛り付ける
ゴムバンドの擦り減り具合を見ると、
哀愁すら感じられます。
生茶を届けた11カ所の方々の顔が浮かんできます。
たった1カ月で全国11カ所の人に会って、
それぞれの生活をちょっとずつ見せてもらって、
たくさん話をしてきました。
旅ってなんなんでしょう……、
自分に頼ることで自分が見つめられたし、
新しい自分を発見した部分もありました。
旅にでかけてみませんか?
留吉を発見するかも。
豆屋留吉
留吉ネコ情報その後
生茶を配って旅をしている間に、
留吉家に子猫が4匹も誕生していました。
里親さがし中の留吉に、メールが届きましたあ!
北海道札幌市にお住まいの石山府子さん。
やったあ! 待てよ、さ、さ、札幌おー?
交通手段はどうしましょ?
飛行機? 友達に聞いたことがあります。
「動物は飛行機でも運べるよ。
貨物に乗せるんだけど、
うちの猫はそこで死んじゃったのよ!」
え!? ダメだ……生後1週間だし。
船? 西田部長案。
留吉は、船酔いの名手です。
子猫がOK出してもイヤです。考えました。
やっぱり、時間はかかるけど車で行きます。
車だったら、途中で新鮮な空気が吸えますし、
高速のICでホットドッグも食べれますよ!
しかし子猫はまだ小さいです。
目も開いてないし、乳離れもしてません。
もう少し大きくなってから、留吉が届けましょう!
札幌、行ってきますよ!
留吉もそのまま居候しちゃおうかな?
僕は犬タイプなので、言うことききます。
岩手のおみやげ
次の目的地はないので、
今回は、糸井さんへの旅みやげ一本で勝負。
「ふかひれラーメン」
一本勝負のわりには、
特に最後ってことは考えないで選びました。
5食分入ってます、留吉にも1人分食べさせてください。
ふかひれ、ペキンダッグ、ツバメの巣、
留吉3大食ったことないものなんです。
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岩手でお世話になった
吉田向志さんからのメール
球技大会前日の雨とはうってかわって
当日は朝から快晴。
こりゃー外でやる競技は暑くて大変だ。
などと言ってる場合ではないのです。
豆屋留吉様が来るのです。
留吉晴れ男伝説は本当だったようです。
豆屋さーん。
どうも、こーしです。
このたびは大変ありがとうございました。
そしてお疲れさまでした。
いやー、体育祭は盛り上がりましたね。
大成功と言っていいでしょう。
優勝賞品の生茶と生茶ジャンパーが
みんなのやる気を刺激したようです。
豆屋さんも職員チームとして参加して
楽しんでいただけたのではないかと思います。
わざと注意事項を配っていなかった成果も出たと思います。
熱気に負けず生茶ジャンパーを着続ける
生茶配達人魂を見せてもらいました。
それにしてもみんな豆屋さんのことを知ってるんですね。
僕はアクアクの司会と生茶の連載くらいしか
知らなかったのに。
すごい有名人、そしてすごい人気じゃあないですか。
僕が尊敬の目をしていたのを気づいてもらえましたか?
はずれた人がもらう生茶をもらうべく
当たらないように「旅する生茶」に応募したんだけど……。
僕はただの生徒なので
学校側に事情を説明するのは大変でした。
しかしさすが糸井さんですね。
糸井重里の名前を出すと話がすんなり進みます。
高校生なので糸井さんのことは
よく分からない世代ですけど
改めて糸井重里という人のすごさを感じました。
3年B組だけが特別に飲ませてもらった生茶は
ぬるいどころか熱くて本当にお茶でした。
もちろんおいしかったです。
ええと、ごめんなさい!
これじゃ僕はただのアホです。
変なやつと思われても仕方ありません。
僕は何もしませんでした。
応募するときに
「やる気のない人のやる気を出して欲しい。」
なんて書きました が!
豆屋さんをほったらかして
奇面組を読んでだらだらしてました。
ほんとに何も計画していなかったので
先生方や他の高高生(たかこうせい)たちが
盛り上げて(ひやかして?)くれて助かりました。
本当はお話ししたいことがたくさんあったんだけど
緊張と混乱でどうかしていたのです。
まわりはどうにかなったんだけれど、
自分がどうにもなりませんでした。
一期一会。
出会いは大切にしようと本気で思いました。
ましてこんな特別な出会いならなおさらです。
Yしゃつの下にほぼ日Tシャツを来てたんですが
分かりました?
スマブラで対決したかったです。
サインをもらい損ねちゃった。
櫂谷千花子さん、おみやげありがとう!
糸井さんによろしく!
これからも世界中の人に
愛と希望と生茶を届けつづけてください。
いつかどこかで 吉田向志
留吉からの返事
わざと注意事項を配ってなかった?
配ってくださいよ!
男子生徒たちにはちょっとビビってたんですから。
また、女子生徒の黄色い声援もらいたいです(笑)。
豆屋留吉
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おこづかい帳
くりこし ¥196.169
6月28日(水)
午後 ¥1144 目覚まし時計
眠気覚ましガム
キリン「ファイヤー」(ampm)
¥7089 ガソリン満タン
ハロゲン球
ウォッシャー液
¥700 料金所(芝公園)
6月29日(木)
午前 ¥400 料金所(浦和南)
¥3014 ガソリン満タン
¥8500 料金所(一関)
午後 ¥3278 ガソリン満タン
¥3381 ふかひれラーメン
かもめの玉子(海の市)
¥780 マルボロライト2個
キリン「ファイヤー」
ガム(セブンイレブン)
¥1300 料金所(仙台港北)
¥307 靴下(サンクス)
¥1000 CLUB「bulebule」
¥2310 冷やし中華、餃子、青島ビール、
オレンジジュース(成龍萬寿山)
¥7240 飲み代(バー7thHeaven)
6月30日(金)
午前 ¥280 マルボロライト(ローソン)
¥9555 宿泊代(三井アーバンホテル)
¥3440 駐車場代(社の都)
午後 ¥810 白河ラーメン
那須高原ソフトクリーム(那須高原SA)
¥9070 ガソリン満タン、水抜き剤
オイル交換(那須高原SA給油所)
¥7200 料金所(浦和本線)
¥700 料金所(川口)
¥600 料金所(大師)
¥700 料金所(平和島)
合計 ¥72.798
残り ¥123.371
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