050824
今日の「ほぼ日」ニュースまとめ
「明日の神話」は愛媛の、
のどかできれいな場所にある工場で
ていねいに修復され、
再生の道を力強く歩んでいます。
修復には1年以上かかり、最終的な絵の設置場所は、
まだ決まっていません。
「明日の神話」は、レリーフのように
厚塗りされた部分があります。
「太陽の塔」を思わせる、すごい迫力です。
news!
みなさん、ほぼにちわ。「ほぼ日」菅野です。
これまで「なんだ、これは!」のページで
お伝えしてきた
岡本太郎さんの壁画「明日の神話」を
「ほぼ日」で公開できる日が
とうとうやってまいりました!

メキシコで行方不明になっていた35年のあいだに
そうとうなダメージを受けた「明日の神話」は、
現在、愛媛県は松山で修復作業が行なわれています。
その修復現場で記者会見が開かれることになり、
思い切って、行ってきました。
個人的には、四国初上陸です。

8月某日、7:25発羽田ANA583便に、
カメラを抱えて乗り込みました。
飛行時間は1時間20分。
いつもより朝が早く、眠いのですが、
機内では一睡もできません。
壁画の存在を知って2年間、ずっと見てみたかった、
岡本敏子さんが心待ちにしていた「明日の神話」に、
近づこうとしているのですから!!
本気でドキドキです。


8:45、松山空港に到着しました。

空港からはリムジンバスに乗って
松山市駅に向かいます。
松山駅とまちがえないでくださいね、と、
空港のバス係のお兄さんが声をかけてくださいます。


このバスに乗って、駅まで25分かかります。

ここは四国。
東京とくらべて、心なしか
日ざしがギラギラしたかんじです。


松山は、路面電車が走っていたり
お城の跡があったりする、情緒ある町です。


松山市駅に到着しました。
2両編成の電車に乗り、
「明日の神話」修復工場、サカワのある
横河原駅という終着駅まで、30分あまりです。


伊予鉄横河原線という路線です。


線路は途中から単線に。

地元のみなさんでにぎわっていた車内は、
時間の半端さも手伝って、
3駅目あたりから、早くも
自分を含めて乗客がふたりに。


たいへんのどかです。

頼みの綱の、もうひとりの乗客が、
終着駅のふたつ手前で下車。
まったく意味なく不安になりつつ、
横河原駅に到着です。


ひじょうに趣のある駅舎です。

「明日の神話」は株式会社サカワの工場の一角で
修復が行なわれています。
横河原駅改札を一歩出れば、
ここからは地図がたよりです。
●と線がグラフのようになっているこの地図の、
いったいどこに、どの方角を向いて立っているのか
はっきり言って、さっぱりわかりません。


この地図一枚しか、持っていませんでした。

ここで、経理の長坂さんが
「困ったときはタクシーに乗ってください」
と、仮払金を渡してくれていたことを思い出しました。
いまこそ、その力を発揮するときです。
ヘーイ、タクシー!


ヘーイ、タクシー!


ヘーイ、タクシー!!

しかたない、歩きましょう。
どっちに?
どっちでしょう。
自転車で通りかかったおじいさんを大声で呼び止めます。

「おう!」

サカワという工場に行きたいのですけれども。

「あの角を曲がっての!」

はい!

「信号があるけぇ、その道じゃ!!!」

はい!!
とても男らしい愛媛の言葉に、
一部始終の写真を撮ること等々を忘れてしまい、
取り憑かれたように教わった道を歩きます。
暑いです。
めっちゃ暑いです。


雲ひとつない午前11時。気温は何度?

さきほどから、オレンジ色のチョウチョが飛んでいます。
暑さによる幻覚かもしれません。
ああ、岡本敏子さんかな。
敏子さんが、案内してくれているのかな。
チョウチョについて歩くと、川の向こうに、
「サカワ」と書かれた建物を発見!!
やった。着きました。


あそこに、「明日の神話」があるのです。

修復現場では、敏子さんの跡を継いで
岡本太郎記念館館長になられた
平野暁臣さんが待ってくださっていました。


よく来たねー!

縦5.5メートル、横30メートル、
プールのような大きさの「明日の神話」は
修復のため、
透明なガラス板の上に裏返しに設置されています。
これが、いま現在の「明日の神話」です。
ジャジャーーーン。


巨大なパズルのようです。

壁画は、もともと入っていた割れに沿って解体され、
メキシコから日本に運ばれてきました。
現在は、バラバラになった壁画の
大きなピース、小さなかけらを
ひとつひとつ検証しながら接合しているそうです。


慎重にていねいに、修復が行なわれています。


小さなかけらまで、きちんと番号が振られています。
まるで考古学の現場のようです。



ガラスの下からは、絵のおもて側が見えます。

「ガラスの上に乗って、どんどん撮影してください」
と、平野さん。
「ガラスはツルツル滑るから、
 落ちないように気をつけてね」
はい。
靴を脱いではしごをのぼり、
透明ガラス板に乗って
注意深く「明日の神話」を激写です。
余談ですが、ここで告白いたしますと、
わたくし、膝丈のスカートを着用しています。
下にいらっしゃるみなさまに、
何と申し上げていいのかわかりませんが、
もはやそんなことは気にしません。
きっと、敏子さんも気にしないはずです。

一心不乱にシャッターを切っていると、
「今日は一部分だけですが、
 絵のおもて側を撮影していただけますよ」
と、平野さんが声をかけてくださいました。


「明日の神話」中心部分を公開です。

カメラを構えながら、心が震えます。
みなさん、ガイコツの、
白い部分に注目してください。
レリーフのように、盛り上がっているのがわかりますか?


骨の部分が、5センチほど盛り上がって塗られているんです。

これは、実際に壁画を観るまで、知らなかった事実です。
まるで、ほんものの骨が焼けたように見えます。
すごい迫力です。
「太陽の塔」もそうなのですが、
太郎さんは、時代を超えて、いつもいつも
みんなを驚かせてくれます。

平野さんは、こう教えてくださいました。
「このレリーフのように盛り上がってる部分に、
 光があたれば、影ができるんです。
 時間の経過によって、いろんな表情が生まれる。
 どうです、この絵は、パッと見ただけで、
 目の前にせまってくる迫力でしょう。
 きっと、描かれた37年前よりも
 いま、まさに、この絵が
 みんなに見られなくてはならない状況に
 なったということかもしれません。
 この作品のメッセージが
 いまになって、必要になったのでしょうね」

よし、そろそろ見せてやる!と
太郎さんが言っているのかもしれませんね。
修復後の設置場所は、
まだ決まっていないそうですが。

「未来永劫この絵をたいせつにしてくれる場所、
 そして、そこにあることをみんなが
 一瞬で了解してくれる場所であればいいな、と
 思っています」

修復家の吉村絵美留さん率いる
5名のチームが中心となって、
この壁画の修復にあたっておられます。


絵画修復家の吉村さん。
岡本太郎作品の修復に豊富な実績をもっておられます。


「修復は、絵を描いた太郎さんの気持ちを
 なぞるような作業です。
 この絵は、暑く乾燥したメキシコで描かれましたから、
 塗ってすぐに絵の具が乾いたのでしょう、
 筆のタッチが、ほかの太郎さんの作品よりも
 強く残っているんですよ。
 それから、太郎さんは
 この壁画をかなり強い思い入れで描いた
 ということも、修復をしていると、
 とてもよくわかります。
 何度も描き直し、調整した跡が
 ほぼ全面に見られますから」

この「明日の神話」が描かれたのは
「太陽の塔」と同時期でした。
この絵は、岡本太郎という芸術家の、
それまでの絵画作品のモチーフや手法、要素が
結晶のようにつめこまれている作品なのだそうです。


平野さん、修復チームのみなさんといっしょに
昼食にうどんを食べました。
四国のうどんはおいしいです。


壁画のあちこちに、
メキシコで保存されていたときに開けられてしまった
ボルトの穴の跡がいくつもありました。
「早くなんとかしてあげなきゃ、
 かわいそう、かわいそう」
と言っていた岡本敏子さんを思い出します。
でも、もう大丈夫です。


メキシコでは、ボルトで留められて
かろうじて崩れずにすんでいたそうです。


修復が完成するまでは、
少なくとも1年を要します。
また近いうちに、修復のようすを、
みなさんにお伝えしたいと思っています。

それでは、また!
2005-08-24-WED
 
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