赤坂英一さんの新刊、 『2番打者論』が出ました! そして、発売を記念して特別にコラムを 書き下ろしていただきましたよー。

こんにちは。永田です。

「こういうやつがいたんだよ」
「川相二軍監督激動史」
などのコンテンツで
「ほぼ日」に何度もご登場いただいている
スポーツライターの赤坂英一さんが
また、おもしろそうな本を出されました。

タイトルは『2番打者論』
また、シブいところをつくなぁ、という、
赤坂さんの「目のつけどころのよさ」が光る本です。
ぱらぱらと読んでみたところ、
これが、やっぱりおもしろい。
とりわけ、プロ野球ファンにとっては、
たまらない話が目白押し。
しかも、発売早々、増刷が決まったとか。

せっかくだから紹介したいなと思い、
先日、赤坂さんにお会いしたとき(球場でしたが)、
何気なく、こんなお願いをしちゃったんです。

「ぜひ本を紹介したいので、ほぼ日の読者に、
 いまの『2番打者』について、
 簡単にでいいですから書いてくださいよ」と。

いやはや、プロのライターの方に
ある意味、失礼なお願いをしたものです。
しかし赤坂さんは例の笑顔で
いいですよ、と承諾してくださり、
「簡単なコラム」どころか、
じつに、どっしりとした、読み応えのある、
「さすが!」なコラムを書いてくださったのです。

うわぁ、これ、完全な書き下ろしじゃん、と
申し訳ないやら、うれしいやら‥‥。

ああ、ぼくがここで四の五の言うよりも
読んでいただいたほうがいいです。
ぜひ、読んでくださいー。

みなさん、こんにちは。赤坂英一です。
主にプロ野球を中心として、スポーツのことを書いている
フリーのライターです。

4月20日、PHP研究所というところから
私の新作『2番打者論』という単行本が出版されました。
内容はと言いますとタイトルそのまんま、
プロ野球における2番打者の役割はいかなるものか、
様々な人たちに取材を重ね、検証と論考を試みた一冊です。

インタビューした主な2番打者(及び2番経験者)は
まず中日・井端弘和、ヤクルト・田中浩康、
ソフトバンク・本多雄一、
西武・栗山巧といった現役選手の方々。
次に、犠牲バントの世界記録を持つ川相・現巨人二軍監督
2番でありながらも2000本安打を記録した
新井・現オリックス二軍監督といった、
往年のいぶし銀的名選手たち。
さらに、日本とメジャーの両方で
2番打者を経験した貴重な存在、
ほぼ日愛読者のみなさんにはお馴染みの田口壮、などなど。
古くは1950年代後半、名将・三原脩率いる西鉄ライオンズで
流線型打線の2番を務めた豊田泰光も登場する。
あ、この原稿、基本的に敬称略です。すみません。

みなさん、プレーヤーとしての個性、
所属する(していた)チームカラー、
そして活躍する(していた)時代背景と、
それぞれ微妙に重なっているところもあるんですが、
まったく異なっているところも少なくない。
それでも、時代に関係なく、個性の違いを超越して、
常に揺るがない2番打者像というものがあるのです。
1番ほど俊敏に見えないし、
4番ほどのパワーもちろん持ち合わせてもいないけれど、
2番が野球というゲームに欠かせない
重要な役割を担っている。

その2番に注目して野球を見ると、これが非常に面白い。
ふだん、しょせん2番なんて思っているファンほど、
野球の見方が変わるぐらいの発見があるかもしれません。

論より証拠です。プロローグに書いた一例を挙げましょう。
昨季、2011年セ・リーグの
クライマックスシリーズ・ファイナルステージ
第5戦の中日対ヤクルトです。
中日が勝てば日本シリーズ進出が決まる試合。
先発は中日が吉見、ヤクルトが館山というエース対決でした。
両エースが力投し、どちらの打線も1点も取れず、
0−0で迎えた六回ワンアウトから
中日の1番・荒木が四球で一塁へ歩いた。

さて、ここで打席に入った2番・井端は、
いったい何をしたでしょう?
(1)何もせずに荒木の盗塁を待った。
(2)送りバントをした。
(3)ヒットエンドランを成功させた。
誰もが、以上のいずれかだろうと予想しました。
テレビやラジオの中継で解説していた
著名なプロ野球OBの方々はもちろん、
ヤクルトの館山・相川のバッテリーも、
ベンチの小川監督や荒木投手コーチも。

正解はホームランです。
レフトスタンドへライナーで突き刺さった先制2ラン。
これが中日の日本シリーズ進出を決める
決勝の一発となりました。

テレビはこれを「まさかの一発」と伝え、
新聞は「館山の失投」と書いています。
両方の内容を突き合わせますと、
館山がたまたま甘い球を投げてしまい、
井端がダメ元で振り回したら運良くホームランになっただけ、
ということになる。

本当にそれだけのことだったのだろうか。
疑問に思った私は昨年暮れ、
熊本の温泉宿で自主トレ中の井端を訪ねて聞いてみました。
「あのホームランを打った打席、
 井端さんは何を考えていたんですか」
「半分くらい、狙って打ちました。
 思い切り引っ張って、
 あわよくばホームランになればいいな、と。
 結果、すべてぼくの読みどおりになりました」
「ちょっと待ってください。
 この打席、5球目をホームランにするまで、
 1球もバットを振ってないじゃないですか」
「それはですね‥‥」
この続きに興味を持たれたら、
どうか本書を手に取ってみてください。
肩透かしや拍子抜けをすることはありませんから。

プロ野球ファンの方々なら、テレビや新聞などで最近、
「攻撃的2番」という言葉を
耳にする機会があるかと思います。
本来の、一般的イメージとして地味な2番なら、
走者のいる場面で送りバントか
ヒットエンドランをするべきところを、
3番か4番のように果敢に打って出て勝負を決める、
という2番のことです。

こうした考え方をする監督が増えた最大の原因は、
昨季から導入された反発力の少ない統一球、
いわゆる「飛ばないボール」にあります。
このボールが使われるようになって、
各チームは軒並み低打率に喘いでいる。

今季4月終了時点で、
チーム打率が2割5分に達していたのは、
セ・リーグがゼロ。
広島は2割台を維持するのがやっと。
DeNAに至っては1割台にまで落ち込みました。
パ・リーグでも、2割5分台は
日本ハムとソフトバンクの2球団のみ。

ちなみに、統一球が導入される以前、
2010年のチーム打率は
セ・リーグ6球団すべてが2割5分以上、
パ・リーグ6球団すべてが2割6分以上でした。
12球団最高は阪神の2割9分ちょうどです。

統一球のおかげで
ホームランが減ったことばかり取り沙汰されていますが、
実はグラウンダー(ゴロ)のヒットも
凡打になるケースが増えました。
ボールが勢いよく転がらなくなったぶん、
守備範囲の狭い内野手にも
易々と捕られるようになったからです。

こうなったら、送りバントやエンドランで
チマチマと1点を取りにいっている場合ではない。
3番や4番にタイムリーやホームランが
出にくくなっているのだから、
1番が塁に出たら2番に積極的に打たせていこう。
そう考えた監督の筆頭が、ほかならぬ巨人の原さんでしょう。
実際、昨季は2番に高橋由伸や亀井ら
クリーンアップ級のバッターをを起用し、
今季も開幕してからしばらくは
新外国人のボウカーを2番で使っていた。

しかし、結局は昨季も今季も、
相手先発が左投手のときは右打者の寺内、
右投手のときは左打者の藤村に落ち着いています。
今季と同じように巨人が貧打に喘いだ昨季の終盤、
やっとこさ安定した得点パターンをつくり、
辛うじて3位に滑り込めたのは、
原監督が2番を藤村と寺内に
任せられるようになってからだった。

クライマックスシリーズ・ファーストステージの
ヤクルト戦では、
その寺内が実に大事なところで送りバントを失敗。
これが敗因の1つとなってしまった。
たかがバント、と思われるかもしれませんが、
短期決戦の大舞台で成功させるとなると
大変なプレッシャーがかかるのですよ。
これは拙著『2番打者論』に登場した
ほぼ全員が証言している。

井端や川相はもちろんのこと、
メジャーのワールドシリーズで
バントの代打要員に出された田口まで。
その点、ヤクルトには、拙著の重要な登場人物でもある
田中浩康という盤石の2番打者がいた。
大舞台における田中と寺内との経験の差が、
クライマックスシリーズの勝負所で
明暗を分けた、と言ってもいい。
ところが、です。
そのヤクルトが日本シリーズ進出をかけて激突した中日には、
2番を担った経験にかけて
田中をはるかに凌駕する井端がいた。
なにしろ、1400試合以上も
2番を打っている選手なのですから。

ここで冒頭のホームランを思い出してください。
周囲の誰もがてっきり送りバントかと予想していた中、
狙ってホームランを打てるだけの技量が井端にはあるのです。

真の「攻撃的2番」とは、
この井端のような2番打者のことを言う。
井端を右の「攻撃的2番」の代表格とするなら、
左の代表格は西武・栗山でしょう。
1シーズン通して2番を打ち、
優勝と日本一に貢献した2008年、
栗山はリーグ最多安打の167安打を打つ一方、
22個の犠牲バントを100%に近い確率で成功させている。

その栗山はこう言っています。
「2番栗山ならバントはないな、
 と相手バッテリーに思われたら損でしょう。
 栗山なら何をやってくるかわからん、と思わせないと。
 だから、バントは絶対に成功させないといけないんです」
 その栗山や井端は今季、
1番や6番を打つことが増えています。
2番で身につけた知恵と経験が、そこに生きている。
それは何なのか。
この拙文を読んで興味を抱かれた方はぜひ御一読ください。
統一球のおかげで
つまらなくなったと言われる最近のプロ野球ですが、
また新たにいろいろな興味を抱く一助になれば幸いです。
なお、お値段は、1冊税込み1470円です。

うーーーん、なるほど‥‥!
と、うなっている、ぼくのようなあなたは
たぶん、たいへんおもしろく読めると思います。

赤坂英一さんの最新刊、
『2番打者論』は、好評発売中です。

よろしければ、どうぞー。
それでは!

2012-05-11 FRI