「糸井重里のバス釣りNo.1 決定版!」 〜釣りに行こう〜 糸井重里インタビュー その2 釣りがわかればわかるほど びっくりしちゃうようなゲームにしたかった。 |
2000年3月31日に発売が決定した NINTENDO64ソフト 『糸井重里のバス釣りNo.1 決定版!』。 先日、東京・幕張で行われた 「次世代ワールドホビーフェア」で その全貌が紹介されました。 専用コントローラの「つりコン64」を使っての デモプレイには、長い行列が。40センチ以上の 大物バスを釣り上げると、ステージで行われる トーナメントに参加する権利がもらえるとあって、 任天堂のスタッフにコツを教わりながら、 みんな、上手につりコン64を操っていました。 さて今回の「樹の上の秘密基地」は、前回に続き、 このゲームのプロデューサーである、darlingこと 糸井重里インタビューの2回目をお届けします。 |
「俺はいったいどんな釣りがしたいんだ?」 っていうところから考えた。 |
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釣りがほんとに上手になるとか、 釣りの奥義を極めるのって、 将棋だとか麻雀とかと一緒だと思うんだ。 つまり、「徹底的に戦うこと」が重要なんです。 トーナメントっていう形で「戦争ごっこ」にするほうが どんどん上手になる。 A君とB君がいたとしようか。 彼らには同じ場所を見つける力があるとする。 でも釣る能力が違ったらそこで差がつくよね。 今度は、釣る能力が同じだとする。 でも、速いボートを持ってたとしたら、 そいつのほうが早くそこに行けるよね。 じゃあ、ふたりとも、同じ小っちゃいポイントに 確実にルアーを入れられたとする。 その時、おんなじ魚がA君じゃなくてB君に釣れた。 それがなぜなのかというと、 B君は、天候の変化ひとつから時間の動きから、 ほかのプロの動きから、そういうことをぜんぶ徹底的に 研究しつくした上で自分の力を最大限に発揮したんだ。 そういう人が優勝するっていう釣りの現場で戦うことが、 釣りをいちばん上手にさせるわけです。 もっと言ってしまうと、賭博場みたいなところで 金をかけて麻雀の練習をする……って例えが悪いかな、 いわばタイガーマスクの「虎の穴」みたいなところが 釣りの奥義を極めるためには必要だったりするわけだ。 「おまえ釣るか死ぬか」っていう状況に置かれたら、 上手になるわけだけど、ただ「待てよ」と思うわけですよ。 |
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俺らは、釣りをそんなふうに したかったつもりはないんだよ(笑)、 プロになりたい人と一般の人の釣りは、 そんなに同じじゃないんだよ、ということに、 自分がやってるうちに気づくわけです。 つまり、プロと同じ道具を買ったり、 プロと同じような日程で動いたりしてるうちに、 ついていけなくなるんだよ。 プロっていうのは文字通り それでメシを食ってる人間なんです。 その人と俺は、違うところでメシ食ってるわけだから、 更に言うと「ほぼ日」始めちゃったから 釣りに行く時間さえなくなってくるんですよ。 でも釣りはものすごく好きなの。 釣りに行くと本当に楽しいんだけど、 だんだんと、こう、プロ志向では ついていけなくなる。だけど釣りは好き。そのうちね、 「プロの言ってることは最高によく理解できる下手な人」 っていう状態が、すっごく楽しくなってきた。 プロ野球選手がすっごく高度なことを言ったときに、 うなずける観客っているんですよ。 それが歌舞伎でいう「見巧者」(みごうしゃ)なんですよ。 芝居を上手に見る人がいるおかげで、芝居が育つ。 それとおんなじで、釣りがものすごく好きで、 プロになるわけじゃないけれども プロのすごさはわかっていながら、 ボート出さずに陸(おか)で釣りながら、 時々友達と喋ったり、のんびりやってみたり、 ものすごく一生懸命やってみたりっていうのを、 自分のわがままでその都度やるっていう立場が 俺はすごく楽しくなったわけなんです。 |
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「おいおい、こんなゲーム誰が作ったんだよ?」 って言われるようなものにするために。 |
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いちどは自分もトーナメントに出てみたことがあるし、 勝ち負けのある試合を1年間続けて、 これはこれで泣きたいくらいおもしろかった。 だけど、「これみんなやれよ」っていうの変だと思ったの。 自分の車持ってなくても、 「だからF1のレーシングゲームやるんだよ」 っていう考え方もあるし、 自分の乗ってる車であそこんとこ攻めてみたいんだよ、 思いっきり走ってみたいんだよ、っていう、 「できることとつながる」遊び方って もっとないかなって思って、スーパーファミコン版の 『糸井重里のバス釣りNo.1』をつくった。 そこではトーナメントが中心だったんだけど、 今回は思い切って、戦争ごっこじゃなくて 「楽しく釣りをやる」っていうところに戻した。 技術やプログラムとかいうものが 圧倒的に前に進んじゃったんだけど、 そのとんでもなく進んじゃったスーパーリアリティを、 逆に引き戻すような、のほほんとした場所を作ってみた。 そこでいざ釣りをやってみたら、 「おいおい、こんなゲーム誰が作ったんだよ?」 って言われるようなものにしたかったんですよ。 原点としては、テレビなんです。 テレビって開けてみたらものすごい機械が入ってるのに、 お笑いとか歌番組が、見れるじゃない。 じゃあ「テレビお前作れるか」っていったら作れない。 そういうものが作りたかったの。 メディアになりうる……っていう言い方はなんだけど、 最高のおもちゃって、本当に作り手側だけが 苦労するんだよ、ってレベルのものを作って、 で、やりこめばやりこむほど 「これってこんなとこまでやってあったわけ?」 「こんなことまで作ってたの?」 っていう、釣りを知らない人でも、 釣りがわかればわかるほどびっくりさせちゃうような ゲームにしたかった。 |
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「おちゃかなー!」と言ってる子にも釣れる。 釣りをする人だったらもっと釣れる。 |
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『糸井重里のバス釣りNo.1 決定版!』はね、 「ぼくは釣りゲームがやりたいでちゅぅ」 って言う子でも遊べるようになっているんですよ。 だけど、釣りやってる人が遊びに来て、 「じゃ、おじさんに貸してごらん」っつったら、 「ええっ! 何でそんなに釣れるんでちゅか?」 って言われるようにも、なっているんですよ。 それは、そのおじさんが「釣り」を知っているから。 そういう風に作ってるんですよ。だけど、 「おちゃかなー」って言ってる子でもいちおう、 ほんとの釣りがそうであるように、釣れるんですよ。 そこのところが今回の、 「あたし脱いでもすごいんです」 っていうところです(笑)。 釣りってそんなに深いんですか? っていうのは ゲームのなかにもう入れてある。 それが今回の一番おっきい部分。 一番残念なのは、真冬に完成してほしかったんです。 冬は、実際にバス釣りをしないから、 そうしたら、ぼくがもっとできる。 他のゲームしなくっても、ちょっとだけ釣りやろっかな? っていう気分って、あるんですよ。 朝の5時まで仕事してても、 「30分だけ釣りして寝ようかな?」 っていう気分ってあると思うんですよ。 今の時期に完成版をつくって、 みんなに配りたかったんですよ。 |
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ほんとの釣りっていう現物があるから、 ゲームの構造が将棋のゲーム作るのと同じなんですよ。 「こう来たら、こう返す」というような、 どれくらい利口なルーティンを作れるのかっていうのが 将棋のゲームを作るときの肝なんです。 釣りも同じで、プロのやってることを ほんとはここまで再現できるんだよね、っていう アルゴリズムはすでにあるわけ、現実に。 それを再現するだけだから、 そこの手間ってあんまり要らないんですよ。 その意味ではもっと早くできてもよかったんだけど、 でもそれに対応するだけのシステムを 組んでくっていうのは、 やっぱり、でっかいビルディングひとつ作るのと おんなじくらい大変なんですよ。 やっぱりそこんとこ時間かかったね。 ていうかね、今はもう、何十億円かかったとか 何年かかったとかそういうの自慢するようじゃあ、 ゲームっていうのはだめだと思うんだ。 その意味ではこのゲームっていうのは 苦労したって言いたい気持ちもあるんだけど、 「だけどそんなことじゃないよね」 って自分では結論つけたい。 で、ゲームがおもしろくなかったらだめだよね。 そこで釣りってすごいなって言わせてみたいよね。 |
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次回は、darlingインタビューの最終回です。 どうぞお楽しみに! |
2000-02-03-THU