「糸井重里のバス釣りNo.1 決定版!」 〜釣りに行こう〜 制作スタッフ座談会 その2 よし、今回は、他の釣りゲームソフトに 戦いを挑もうよ。 |
前回にひきつづき、制作スタッフであるダイスの皆さんと、 「釣り監修」の倉恒さんをまじえての座談会です。 このゲーム、水中でのルアーの動きがばっちり わかるんですが、これがコントローラの操作で クイックイッとじつに気持ちよく動くんですよ! そのプログラムを組んだ裏側には、いったいどんな苦労が あったのか……。そうです、こぉんな苦労があったんです。 |
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サイトウ: ルアーの動きをアニメーションからプログラミングへと 移行しよう、と決まって、プログラマーを専任で 用意したんですよ。 今度は動きをどういうふうにプログラムするか、 というところになったんだけれど、とはいっても、 全くの自然をシミュレーションするのでは、 あまりにもやることが膨大になってしまう。 そこで、倉恒さんから聞いている話をもとにして、 「これとこれのパターンは同じ方向性で」 「このルアーは形は異なるけど、動きの基本は同じ」 というように、かなり大きな分類をしましたね。 それをさらに細かくしていく、ということで、 プログラミングしていった。 アニメで、一時期、ちゃんと動いていたんですよ。 ゲームがそれでできていたんですけれども、 それをあえて解体して、プログラムでルアーの動きを つくるまでには、半年近くかかりました。 糸井: そこは、ものすごく、大きかったですね。 サイトウ: ルアーに関しては、半年近く、何も見せられないような 状態でした。 小関: 途中で見せて、また倉恒さんに怒られちゃったりしてね(笑)。 倉恒: いや、ワタシはね……(笑)途中で見せられるわけですよ。 見せられたら「違う」と言うしかなくて。 皆さんが作って「これくらいでオーケーですよね」っていう 気持ちで見せている、とは思っていなかったから。 ダメ出しばっかりしてたんですよ。 でも実は、そういうことだったんですね。 |
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サイトウ: それで大分類していくわけなんですが、 そのルアーごとの個別の処理というのを 加えていくんですが、それは「このルアーには 何が一番重要なのだろうか」ということを 見つけ出していって、アド・オン(追加)していく作業。 それは、倉恒さんがいなければできなかった。 スーパーファミコン版からのディスカッションの中で 「このルアーにおいては、この動きとこの動きは 再現しなければいけない」というのを付け足していく。 それで、実際に付け足してから、また見てもらうんですが、 「いや、まだ、この部分が足りない」 って、また、しばらくディスカッションが続いていく。 糸井: ルアーってね、ラインと、ワームなんかの場合だったら シンカーといって重りがついているから、 全部、そこに、重力と抵抗がかかっているわけですよ。 それをね、全部再現しようって言うんだから。 ──ルアーに限らないわけですよね。 サイトウ: そうです。魚の動きとかも。 倉恒: いつだったっけか、逆転したことがあったよね。 動きが。チューブワームのダウンショットだったっけ。 キャロライナ・リグ(仕掛けの名前)や。 たしかね、重たい重りの後ろに、ラインでもって、 軽いチューブワームを引っ張っているんですよ。 それが、アクションすると、追い越すんですよ。 「これ、あかんやないか」 「でも、できないんですよ」 「できない、じゃ、ない! それじゃダメなの!」 って。プログラムとして追い越してしまうんだけど、 軽いものが重いものをなぜ追い越すのか、 水中でこんなこと起こってないよね、って。 そんななかで「もうできませんよ……」というときも ありました。でも、やってもらわないと困るから。 ──ルアーって種類がものすごくありますよね。 それを1個ずつ? 小関: そうなんですよ。それぞれに苦労があってね。 アベキ: まず、さきほど話したように分類をしまして、 そのおおまかな動きをつけました。 そのあとに倉恒さんとまたお会いして、1個1個、 「重りが何オンスのものはこれくらいのスピードで 落ちるよね」とか、「これはもうちょっと速く」とか、 すべて、倉恒さんと僕で1個1個、検証しながら。 水中は、プログラムでデバッグモードというのがありまして、 「ここはこれくらいの速さだよね」 というのを、直接プログラムをいじりながら修正して。 永遠に続くかと思われるほど、しばらく、続けました。 それでようやく今のような状態になったわけです。 ルアーの方も、基本的には先程あったようにプログラムで 動かしているんですが、それだけではやりきれなかった ところもありまして、3分の1くらいはアニメーションと 併用して動かしています。すべてがプログラムという わけではないんですよ。 |
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倉恒: さっきの糸井さんの話を受けてなんですが、 ルアーの変則的な動き。あれ、いろんなルアーに、 全部に当てはまる話なんですよ。 一種類ずつ、変則リアクションの動きをビデオで、な? 小関: そうなんですよー。 倉恒: 僕が水の中にもぐってルアーになって説明できれば いいんだけど、さすがにそれもできないですからね(笑)。 そやから、水の中と想定して、ビデオ回して、 僕がルアー持って、手で、「こう動くんや!!」って。 それを一種類ずつやっていったんですよ。 たとえばクランクベイトっていうのが出てくるんですけど ふつうのクランクベイトは、障害物に当たったら、 横方向にスライドしながら、平打ちっていう、 おなかをギラッと反転させて戻るという動作をするんです。 それと、もう一つ、当たったら逆回転。ひっくりかえって、 戻る。それをウチのゲームでは、両方やれ! って 話なんですよ。 ダイス一同: 「やれっ!」って(笑)。 倉恒: ……「やってね?」っていうか……(笑)。 スピナーベイトに関してもそうだし。 アベキ: 平打ちパターンに関しては、3方向の動きがあります。 倉恒: そんなゲーム、どこにもあらへんのよ。ないもん。 糸井: (小声で)……つくろうとは、思わないもんねぇ。 倉恒: (大声で)思わない! 小関: そんなー(笑)。 |
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──ゲームをしながら思ったんですが、実際ああやって 絵を動かすのは……実際に見て再現するのはできるかも しれないけれど、水の中で起こっている動きでしょう。 いったいどうやって観察したのかが疑問だったんですよ。 小関: そのために、水槽を、買ったんですよ。 それはぼくらとしては大きな出来事だった。 ぜひ、自慢したいことのひとつだね(笑)。 ──スプリットショットリグを使っていて、引くと、 重りが先にトーンとついて、ルアーがちょっと進む、 そういうの、知らなくちゃ再現しようがないですもんね。 小関: でかーい水槽なんですよ! 長さ180センチ、 高さ60センチ、奥行き60センチ。 倉恒: 棺桶サイズやね。 小関: 棺桶って!? サイトウ: あれを買ったことは非常に大きかったですね。 アベキ: じっさいワームの種類も8つとかあるんですが、 ふだん釣りをしていると勝手なイメージがあるわけです。 このワームはこう動いているんじゃないかな、って。 ところが、水槽で実際に動かしてみると、違うんですよ。 「アレッ? こいつ、こんなに速く動くんだ!?」 「ええっ? こんなに遅いの?」 という、新たな発見がある。 ぼくらの思い込みを新たに見直すことができたんです。 小関: 実際の釣りだと、水中はイメージの中で 釣っているんだよね。 アベキ: それが修正できた。 小関: 最初、小さい水槽しかなかったんですよ。 でもそれだと限界がある。どうにか大きいのがないと だめで。でもなかなか売っていないんですよね。 なおかつ、大きくても間仕切りのある水槽ではダメ。 糸井: 水槽まではさ、お金のあるチームはけっこう買うんだよ。 小関: ウチ、お金がないのに買いました!(笑)。 |
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糸井: でもそれをどう使うか、ってところなんだよね。 「魚ってかわいいな」ていうことをわかるために買う人も いるし、ルアーの動きでも、ざっとした動きを理解するに とどまる人もいる。でも、ダイスの場合は、 水の抵抗に対するルアーの変化だとか、魚がどう食うか だとか、より実践的な部分で「見つめる」ことが多かった。 「水槽買ったんですよ」って言ったら、よそはきっと 「ウチはもっといい水槽買いましたよ」って言うんですよ。 今回、すごくライバル意識があるんだけど(笑)。 倉恒: そこ大事。大事やね。 糸井: 「ウチの水槽はもっとでかい! 継ぎ目なんかないぜ」 とかね。でも、何をしたかったか、というのが、 ぜんぜんレベルが違うんです。 どのチームでも、詳しい人がいれば、そういうことは 思ったろうけれども、諦めたと思うよ。 武蔵のラーメンだよ。「ノウハウは開示しますけど」って 言われても、よそはやらないでしょう。 サイトウ: アニメで作っているものも、決して見劣りするものでは ないんですよ。今出ているほかの釣りのゲームソフトの ルアーの再現状態よりもいいくらい、ちゃんとできていた。 でも、それでも「やっぱり違う!」って。 糸井: よし、今回は、戦いを挑もうよ。ほかの釣りソフトにさ。 一同: そうですね! |
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倉恒: そのほうがいいですよね。 しかもね、釣れるルアーと釣れへんルアーというのが あるんです。僕ね、昔、釣り具屋やってたんですけど、 商品セールスもしてるし、商品開発もしてたんですよ。 その頃、バスプロの人と一緒に、釣れるルアーと 釣れないルアーの分類をしてた。 クランクベイトでも、釣れるのと釣れへんのと、 いろいろあるんです。そこでできるだけ、釣れないやつを 排除して、釣れるものを入れよう、という経験があった。 そやから、僕としても、今回のゲーム、目標値が高かった。 小関: ヘッドコーチの高い目標。 倉恒: それがね、迷惑というか、気の毒やったかもしれんね。 アベキ: いや、それは、気の毒というのとは違います。 「僕はもうダメだ」っていう部分を、倉恒さんが 「そんなんじゃダメだ」って叱咤してくれたことが、 今につながっているんです。 もしかしたら、途中で、妥協してたかもしれない。 小関: ぼくも「なんでこれでダメなんだよアベキ!?」って、 「もういいじゃないか」って思うことが何度もあった。 倉恒: しかも、もっとばかげたことをやっているんです。 実際の動きとして「これ以上は無理だ」というところまで いったん、たどり着いたんですよ。アベキさんの言うように もうこれでNINTENDO64のゲーム機のできる 限界までやりました、という日が来たんです。 僕はそれで「わかった」と。さすがにそれ以上は言えない。 それで、「じゃあ次は?」と考えたんですよ。 まだ先がある。それはね、実際に釣り場で投げるでしょう。 その投げたときに、ルアーが沈んでいく速度と、 ゲームの速度が違うんですよ! そこにものすごい違和感を 感じるから、今回、実際のルアーの動きはサブウインドウで 見えているんだけど、実際の釣りでは、それは見えない 状態ですよね。。水深4メートルのところに、 16分の1の重さのジグヘッドリグをキャストしたときに、 何秒間くらいで底に落ちるか、ということ。 これは、実際に釣りをする人はね、その感覚を、 ちゃんとカウントしている人もいれば、全くの感覚として 覚えている人もいるわけです。 で、今回のゲームでは、カウントする時間の問題よりも、 肌で感じている「ハダカン」を大事にしようよ、 ということで、そこから全部、重量浮力調整を やり直したんです。 糸井: うーん! |
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倉恒: 巻いているときの巻き上がりも、微妙に違うんですよ。 実際にキャストして底に落ちて、スピナーベイトを 巻きだしたとき、デッドスローでゆっくりとローリング させるのと、そこそこの速さにするのと、中くらいのと。 それをコントローラの「スロー」「はやい」「ノーマル」、 全ルアー、それぞれに速度まで変えたんよ。 アベキ: 3段階でね。やりましたね。 倉恒: 同じ速度で均一化してしまうと、ルアーによっては おかしくなっていく。 それでまた、えらいことになって。 あのときは、僕とアベキさんとで、直接プログラムの 数字を修正していったんだよね。 アベキ: 僕としてもその部分は不安があったし、逆に倉恒さんに 突っ込まれたことで「やらなくちゃ」という認識ができた。 「よし、ここまでやったんだから、やりましょう」って。 倉恒: あのルアーの動きは、NINTENDO64で、 やれることは最大限、やったんですよ。 ……もっと、やりたいことは、あるけどね(笑)。 ダイス一同: ……あはははは……。 倉恒: それからさっき糸井さん言ってましたけど、根がかり。 根がかりをわざとさせて、外して釣る、ということも やろうということになって。 ハングアップというんですけど。 ──それは糸井さんのアイデアだったんですか? 糸井: いや、釣りをする人なら知っていることなんだけどね。 ゲームだからって諦めていることと、 実際の釣りには差があるわけだけど、どこを諦めるのか。 早く諦めたら、ただ糸を垂らしていれば釣れるという ゲームになってしまう。「ホントはこうなんだけどなあ」 っていうことを我慢しているところをどれだけなくすか、 というのは、僕じゃなくても、釣りをしている人だったら みんな思っているんですよ。ただ、できるかできないかと いう戦いですから、オリンピックに出ようぜ、というのと、 国体が目標だというのとは、違うじゃないですか。 これは、オリンピックを目指したい。そういう気持ちで、 倉恒さんはコーチですから「そんなんでオリンピック 出られんのかいな」って言うわけです。 本当は、釣り人は全部オリンピックに出たいわけです。 だって、釣りがしたくてこのゲームを買うわけだから。 倉恒: そこなんですよ。糸井さんから一番最初にそういう発注を された。だから妥協できなかったというのがあった。 |
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糸井: もっと釣れなきゃヤだ! という人が買わないとしたら、 諦めるというところからスタートしているわけですよ。 そのお客さんとは縁がなかったと。 そうやって、あるていど、市場の形まで小さくコンパクトに して、そこにマーケティングしているんです。 将棋ソフトに近いかもしれませんね。 コンピュータ相手にどんどん勝つゲームなら、 すぐ作れるよね。コンピュータを馬鹿にすればいいわけで。 でもね、今回、勝負だから。 他の釣りゲームにも戦いを挑んでいるし、なんか、 わけのわからないものにいっぱいケンカ売ってるね。 「諦め」にもケンカ売ってるというか(笑)。 小関: でもね、あるとき、糸井さんが、 「今回のテーマはルアーだ」と宣言したんですよ。 なにか諦めたくなっちゃったりとか、何か悩んじゃったりと いうことになったときは、必ず「ルアーだ!」というのを 思い出してやろうよ、ということをおっしゃった。 それが僕にはとても印象的で。それからルアーを本物、 もしくは本物以上に気持ちよく作ろうよという気になった。 それで鬼コーチの倉恒さんにビシビシしごいてもらった。 そういうことが、非常に大きかったですね。 |
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こんなところまで作り込んでいる釣りゲームって、 ほんとにほかにはないですよ! 「もっと!」っていう気分が、このゲームをここまでに したんですね。 次回も、この座談会の続きをお届けします。どうぞお楽しみに。 |
2000-03-10-FRI