「糸井重里のバス釣りNo.1 決定版!」 〜釣りに行こう〜 制作スタッフ座談会 その3 魚を口説く、そのテクニックが勝負。 ルアーが大事なのは、そういうわけなんだ。 |
『糸井重里のバス釣りNo.1 決定版!』 制作スタッフであるダイスの皆さんと、 「釣り監修」の倉恒さんをまじえての座談会、 いよいよゲームの核心の「ルアー問題」について。 なぜ、釣りゲームには「ルアー」が大事なのか、 この座談会を読めばバッチリわかりますよ! |
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倉恒: このゲームの開発をスタートするときに、糸井さんが 言ったことがふたつあるんです。 「釣りに行けない時にこのゲームで釣りをして、 満足できるものにしよう」 ということと、もうひとつは、 「現実の釣りというのは、プロがしのぎを削っている 世界もあり、いっぽうでのんびり釣りをしている サンデー・アングラーズまでいる。 プロを満足させることは根本的に釣りの世界が違うから 難しいけど、個人のレベル差を超えてバス釣りに興味のある 人達を凌駕して、気持ちいいものにしよう」 ということ。 要は、釣りをする人が満足すること、ってことですから、 釣りの心得がある人でも、これからやる人でも、 それがなにかの助けになるゲーム。 つまり「ほんもの」ってことですね。 そのふたつを現実にするためには、 僕は鬼コーチにならざるをえなかった。 ──ルアーや魚が水中でどう動いているかということは、 釣りをやっている人でも見ることは出来ません。 それを知ることが出来る、というのはすごいことですよね。 倉恒: ラバージグの話が出ましたけれど、 よく釣り雑誌で「ボトムバンピング」って、ラバージグが どう動いているのかを解説するイラストがあるでしょう。 でも、そのイラストだけではわからへん、ポンっと落ちた あと、フレアが浮力でフワっと広がってきたときに、 イラストみたいに水中にとどまっていないわけで。 水中っていうのは水の動きがある。 ──そうですね。 |
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倉恒: 釣りっていうのはみんなルアーにアクションを つけたがるんですよ。一所懸命、動かそうとする。 動かそうとすることがルアーフィッシングだ、 と思っている人も多い。 けど、じつは、止めることが重要なんです。 それを忘れているんですよ。 現実にいまの琵琶湖がそうやけど、人為的プレッシャー などのいろんな要素で釣りにくくなっている湖って、 かえってなんにもせえへんほうが、釣れたりするんですよ。 投げたあとね、ワームが沈みますやん。 水中に藻があるとします。そこに乗る。 すると、みんなすぐに動かそうとする。 でも、なんもせんと、……難しいんですよ、 なんもしないって。ボートで釣ってると、 ボート、動くじゃないですか。それを一定の場所に いるように操船しながら、ずっと同じ意図のハリ方で 待っていることってすごく難しいんですけれど、 そこでジッと我慢して、なにもせえへんかったら、 周りの人は釣れてないのに、 バンバン釣れてたりするんです。 そんときルアーがどうか、といったら、動いてるんです。 でも、みんな、頭の中では止まってると思う。 その感覚も、ソフトの中で再現したかったので、 現にうちのゲームは、ストレートワームなんかでも、 止まっていても水流を感じて動いてます。 魚に対して、アピールしてる。 そこまでやろうよ、と。 僕もそれは何度もボートから落っこちて、ドボーンって 湖にはまって、はまったときに水中を観察してるんです。 一同: (笑) 糸井: それホント!? |
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倉恒: ホントですって。あったんですよ、しょっちゅう。 はまったら、下から上見るんですよ。 ボートってこんなふうに見えてるのか、とか、 観察してるんや。 はまってることを、同乗者がわからんこともあるんですね。 スポン、とはまったときはね、音があんまりしない。 そうしたら後ろのやつが釣りしてるラインが見えてね。 そういうバカなことを経験しているんです(笑)。 でね、水中の様子って、人間のイメージ通りではない、 ってことがわかるわけですよ。 そういうことも入れておきたかった。 そこまでやる、ってことが重要だと思った。 だから最後までもめている部分があるんですけど、 リールを巻くときの目安になるカエルがね、 ワームがうまくアピールできてます、ってときに イイ顔してるんですよ。笑ってる。 アピールしてないときは笑ってないんですけど、 「この状況ならアピールしてるやん?」というときに 笑ってなかったりするんです。そこ、ぼくはものすごく イライラするんだけれども、もうこれ以上できない、 というところまで来ているので、まあいいか、と……。 アベキ: 内部的にはかなりアピールは出てるんですけれど、 (魚が食いつくような動きになっている、ということ) カエルが笑ってもいいのかどうか、というところで。 糸井: みんな笑う、というようなことになっちゃうからね、 下手すると。 アベキ: そうなんですよね。一歩間違えるといつでも笑っちゃう。 小関: 「ほほえみ」くらいもあってよかったかもね。 倉恒: でもルアーが水に入ったら、最初から最後まで アピールしてるんだもんね。 |
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サイトウ: そうなんです。ルアーって、釣る人のアクションに対して 基本的にはいつもアピールしているんですよ。 で、このゲームでは、そのアピールの数値が一定以上に なるとバスが来る、という構造なんです。 それをわかりやすく伝える手段として、カエルの顔があって うまくアピールできていれば笑うようになっている。 でも、倉恒さんが言ったように「止めていてもアピールだ」 ということに関しては、カエルは笑っていないけれども、 ギリギリのアピール値が入っているんです。 本当は「笑っている」に近いんですよ。 釣りを知っている人なら、そのとき、 「笑ってないけどこのときはアピール出てるよな」 っていう判断ができる。 釣りを知っている人と知らない人で、明らかに釣果に 差が出てくるというのは、そういうことなんです。 アベキ: たとえば「ポッパー」というルアーがあって、 トゥイッチングさせてポコッ、ポコッと音をさせると カエルが笑うんです。このルアーはステイさせる(止める) ことがすごく重要なんですよ。 釣りをする人は、ポッパーを動かして、ステイさせて 食わそう、食うタイミングを与えようとする。 そうすると釣れるんですね。 トゥイッチングだけでも釣れるんですが、ステイを する人の方が釣れる。ニ投(にとう:2回投げること)で 釣れるところが一投で釣れてしまう。 そういう部分をこのゲームにもかなり入れているんです。 考えて釣れば、釣果が上がるようになっている。 でも、「ルアーを止める」と「カエルが笑う」というふうに 設定してしまうと、ずっと笑っている状態になってしまう。 ですから止めているときのアピールは「笑う」ギリギリの 手前でとどめているんですよ。 サイトウ: この「アピール」というのがまたたいへんなんですよ。 ルアーが本物の動きを再現しましたよ、と 今までお話しましたけれども、今度はその動きに それぞれアピール値をつけていく、という作業が 発生するんですね。同じ動きをさせても、このリグと このルアーの組み合わせだとアピール値は高いけど、 このリグと違うルアーだとアピール値が低い、とか。 同じ動きをさせたとしても変わってくるんです。 釣りのアクションってすごく細分化されているんですね。 止めている、浮いている、沈んでいる、などの動きに、 すべてアピール値をつけていくという作業が必要になる。 それがまたものすごく膨大な組み合わせがあるんですよ。 だから、アベキは、パラメータをいじるというのと、 ルアーにアピール値をつけるというので、 1年くらいみっちりかかっているんです。 |
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──うわあ……。 小関: 一回ね、こんなにたくさんルアーがあって、作りきれない、 というので、糸井さんに提案したんですよ。 『糸井重里のバス釣りNo.1 決定版! ワーム篇』 というのを作りましょう! って(笑)。 アベキ: おそるおそる言いましたよー(笑)。 どういう反応するかわからなかったから、 すっとぼけながら、半分本気で。 糸井: 俺、覚えてないけど、「わはははは」って 笑いながら聞いてたんだろうな、きっと。 で、答えなかったでしょ。 アベキ: 明らかに「NO」でしたよね(笑)。 糸井: 「ああ、いいかもしんないねー」なんて言って でも全然聞いてないの。 サイトウ: いやぁ、今だから笑って話せるんですけれど、 そういうことをやるんだ、って出発点に立ったときの あまりの果ての遠さに、ぼう然としちゃったときがあって。 じゃあ、「これだけはやめましょう。これもやめましょう」 って、たとえば10個くらい、やめたいルアーの案を 持ってきたんですけれど、許されたのは1個だけでしたね。 倉恒: わはははは。そらあかん。 サイトウ: それは「メタルジグ」っていうルアーで、 ただそれも、最終的には作っちゃったんですね。 倉恒: 入りましたね。 アベキ: あれがですね、最終的に納得いかなくて……。 途中まで、かなり。他がなんとか落ち着いた時点でも、 あのルアーだけ、いい動きをしない。 でも糸井さんからは、あれは大丈夫、それでいいって 言われていたんですけれど、ちょっと時間が空いたんで プログラマさんにお願いして、こういうふうにしたい、と。 そうすればかなりフィックスされるって。 |
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糸井: あのルアーは「変則的な動き」だけだからね。 アベキ: これができればもうオーケーなんですよ、って話で 無理やりやってもらったんです。 ──このゲームで、なぜルアーがポイントになって いるんでしょう? 糸井: 小学生も読むかもしれないから言いにくいんだけど。 倉恒: おお? 糸井: つまりね、男と女の関係そのものなんだよ。 一同: うわぁ(笑)。 糸井: ルアー(LURE)っていうのは、 「誘惑する」「魅せる」って意味ですよね。 つまり、魚に、媚びるんです。口説くんです。 口説いて、魚をキャッチするというのが ルアーフィッシングなんです。 そうすると、媚びることそのものを「素晴らしい テクニックだな」って思わせなくちゃいけない。 「あいつが媚びたからうまくいった」ではダメ。 たとえば木村拓哉くんとほぼ日スタッフのセイヒローが 2人でナンパに行ってさ、木村くんが成功したとするよね。 「そりゃあ、キムタクだからモテるに決まってるじゃん」 って言われたら、面白くないじゃない。 でもセイヒローがものすごく口説き方が上手くて、 ナンパできたら、みんな「なんで!?」って言うでしょ。 釣りってね、その「なんで!?」なんだよ。 だから、口説き方にみんなの目が向かないゲームは ダメなんだ。っていうことでね、「なぜ口説けたか」 ということを納得させるためには、ルアーっていう 口説き文句を、どれだけ納得させられるかというふうに しなくちゃいけないんです。 ルアーがいいんじゃなくて、それがどう動くからいい、 ってことだね。 「この人だからモテたんだよ」って言ったら もうそれで考える必要なくなっちゃうわけ。 でも、「そうか、こうやったからモテたのか!」っていう ことだよ。たとえばプイっと横を向く、その角度が、 「待って!」って言わせたくなるんだよ、ってこと。 |
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──「待って!」って、魚も。 糸井: 魚のほうも、慣れてるから、なかなか「待って!」って 言ってくれないわけだよ。さっきの話に戻すとさ、 「モテるには、黙ってタバコ吸ってればよかったんだよ」 ってこともあるでしょ。 そういうことが、釣りのいちばんの面白さだということは みんなわかってるわけ。でも、それを言葉にしないんだよ。 「釣りは面白いね」って言っても、何が面白いのか わからないまま釣りゲーム作ると、いい女のカタログ みたいなものつくるんです。 魚がこんなにいっぱいいるでしょ、とか、 こんなきれいな魚見たことないでしょ、って。 それはセイヒローが女性誌を見て グッときてるようなもんだよ。 でも、俺らが見たいのは女性誌じゃなくて、 もっと直接的なものなんだよ(笑)。 もっと直接的な関係になりたいから、 沈む速度がどうだとか、 相手が好きになることを徹底的に研究する。 ね、男と女の関係と同じでしょ。 コミュニケーションが軸なんですよ。 そうじゃないと、僕も、ゲームのタイトルに 名前入れてほしくない。 「釣りはたのしい」ってゲームにすればいいんだから。 ゲームセンターの海釣りのやつみたいにさ、 「おお、引く引く!」なんてやってるのも、 あれはあれで楽しいわけだから、今回ぼくらも、 振動パックだとか、そういう助けは借りているんだけど。 前作(スーパーファミコン版)でいちばん欲求不満 だったのは、口説き文句がパターンにはまらざるを えなかったことなんですよ。二次元だから。 もっと、ちょっとした風の影響が関係あるんだよ みたいなことが、最終的にしたかった。 いわば、自分の釣りの教科書にしたかったんですよ。 ──ワームを入れているゲームって、ほかにあるんですか? アベキ: あることは、ありますけど……。 倉恒: 印象が、薄いねんな。 |
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武久: 他の釣りゲームでも、ルアーの種類が多いゲームは ありますよ。でも、それぞれに独立した個性が薄くて、 「ワーム」というひとくくりの中で扱われてしまっている。 糸井: ゴムにヒモつけて引っ張ってる、みたいな。 武久: 結局はそういうことですね。 糸井: タネあかししちゃいながら、ウソつかない、って、 恐ろしいよね。初期の麻雀ゲームがコンピュータの手を 見せないようにしてたじゃないですか。 プログラム的にウソついて「上がり!」なんてやってた。 今は、見ようと思えばコンピュータの手が見られますよね。 プログラムにごまかしがきかないから、 あれとおんなじように苦しいですよね。 だから僕は、自分で遊ぶとき、いずれ、ウインドウの中を 見ないでやってみようかな、って、昨日やりこんでて 思ったんです。 だって、あんなふうにサブウインドウに見えているけど、 本当はあれ、頭の中なんだもの。 それを見せちゃったわけだから、頭の中とは違うよ、って ところまでわかっちゃったわけだよね。 ものすごいタネあかしをしてますよね。 |
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アベキ: サブウインドウを表示しないモードもありますよ。 糸井: あ、そっか! 倉恒: ありますよ。作っときましたからね。 糸井: うわぁ、怖い! ……でも、俺、そんなこと言ってても、 きっと見るんだよね、サブウインドウ。 一同: (笑) 糸井: 見ずにはいられないと思うよー。見ちゃったら。 そっか。モノポリーのゲーム作ったときも 同じ発想だったんだけれど、お金を隠すというのがあって 誰がいくら持ってるかという表示を隠すことができる。 さんざん言うわけだよ、それが本当のゲームに近いから。 でも、見る(笑)。見る見る。 深い……。釣りをしたことのないほぼ日スタッフは、 釣りと、釣りゲームの深さに、圧倒されてます。 次回も、よりディープな(でも面白い)お話、 たっぷりお届けしますよ! |
2000-03-17-FRI